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Azrail_If_443_第03話

Last-modified: 2017-07-24 (月) 21:02:49

アズラエル達を乗せた飛行機は大西洋連邦デトロイトへたどり着こうとしていた。
窓から眼下の街を眺めるアズラエルの視界には、僅かな光たちが心細そうにまたたいていた。
かつては闇をねじ伏せるかのように強烈に自己を主張していた幾万の明かりたちも、
今では数えるほどになっている。
プラントによるNJ投下による災厄、通称『エイプリル・クライシス』の影響で
都市全体で電力の制限令がだされて以来、街の者たちにとってはお馴染みとなった光景である。
もっともこれはデトロイトに限ったことではなく、大西洋連邦、
さらに言えば一部の国を除く世界の各国にみられる光景であった。
脳裏に写し出されるかつての光景と目の前の現実を比較させ、
アズラエルはため息をついた。

「NJが投下されて以来、電力の供給は制限され、通信インフラにも支障がでる始末……
 それに便乗して、犯罪件数は右肩上がりに増えるし、医療施設も電力不足で満足な処方がとれない……
 知ってますか、オルガ? 今回の件で世界の10%が死んだんだそうですよ」
「ああ。その影響で俺らみたいな孤児が世界中にあふれかえってるらしいな」
「穏健派の人道支援政策でその幾らかは保護してるんですけどね……」
「穏健派からの支援要求の催促が毎日とどいてるしな。やっぱ早く今回の戦争を終わらせねーと」
「ええ。ビジネスとして見ても今回の戦争は旨みが少なすぎます。
 そこそこ稼いでちゃっちゃと終わらせたいものです」
「大丈夫だって! そのために親父も頑張ってんだし、兄貴たちもいる。
 シャニやクロトも頑張ってんだからさ」
 オルガの言葉に頷きながら、アズラエルは近づく滑走路の誘導灯に目をやった。
世界は今なお闇の中だ。闇の中浮かび上がる誘導灯のように世界を動かすことができるのは自分しかいない。
「無理をやり遂げるのが、優秀な人物ってね……ま、やるしかないか」
 着陸の振動に身を委ねながら、アズラエルはそう呟くのだった。

 邸内は喧騒に包まれていた。
久々に帰宅したアズラエルに誰も目をやることなく、数人の少年少女が厨房の前に集まっている。
何事かと不審に思いながら眺めるアズラエルを一人の女性が出迎える。
 黄金の稲穂のような鮮やかな長い金髪を律動的に揺らしながら、その女性はパタパタと彼の元に向かってくる。
青く澄んだ目を大きく開き、頬に零れ落ちんばかりの笑みを乗せ、女性は口を開いた。
「おかえりなさい、あなた、オルガ」
「ああ、ただいま」
「おう、ただいま!」
「予定では明け方つくと思ってたんですけど、早かったのね?」
「ええ、オルガがサラのご飯を食べたいってうるさくてね」
「あらあら」
 嬉しそうにその女性、サラ・アズラエルは笑みを浮かべる。
アズラエルと同歳で三十路を目前にしながらも、その表情はまだまだ少女と呼んでも通用しそうなほどのみずみずしさに溢れている。
もっとも年齢のことを話題にすると、どんな事態が起こるか予測がつかないので、アズラエルがそのことに触れることはないのだが。
「けど、残念なことに今日はシャニとクロトが料理してるのよ」
「で、この騒ぎですか……」
 サラに言われて耳を傾けると、確かにアズラエルの養子であるシャニ・アンドラスやクロト・ブエルの
『うざい……全部入れちゃえ』だの『精・肉!』といった訳の分からない声が聞こえてくる。
「あの子たちったら、下の子たちに料理を作ってあげるんですって」
「へぇ、なんというか……成長したものですねぇ」
 アズラエルの脳裏にはここ数年の出来事が、まるで昨日のことのように思い出されていた。

 アズラエルとサラが結ばれたのは、飛び級で大学を卒業したアズラエルとサラの互いが18を迎えた春のことである。
ロゴスメンバーの家に生まれたサラとの結婚は祝福と嫉妬、様々な障害に包まれたものだった。
過大な期待と羨望はアズラエルの仕事にも及んだだが、アズラエルはそのプレッシャーに押しつぶされることなく成功を収め、
その地位を高めていくことに成功していた。
 順風満帆な人生に見える二人だったが、彼らには大きな悩みがあった。
結婚して数年が経とうとしても、二人の間に子供が授かることがなかったのだ。
サラに知らせることなく検査を受けたアズラエルは絶望の診断書受け取ることとなった。
アズラエルは悩んだ。人は生を司ることすらできるようになったはずなのに、何故自分たちには子供ができないのだ? 
世界の理不尽さへの憎悪はアズラエルの身を焦がし、苦しませた。
そんなアズラエルにサラは言ったのだ。
「養子をとりましょう。私たちの間に生まれた子じゃなくても、愛を注げば、
 きっと幸せな家庭を築くことができるわ」
 半ば強引にサラは事態を進行させ、ブルーコスモス穏健派の人道支援政策で運営されている孤児院からやって来たのがオルガたちだった。
突然家族が倍以上に増えたことに驚いたアズラエルに、サラはこう言ったものだ。
「あら、兄弟がいた方が淋しくないでしょ? 私も楽しいし。ね?」

 それからは毎日が戦場だった。初めての親という職業の難しさに加え、
息子や娘たちは歳だけでなく、髪の色や皮膚の色も多種多様だった。
それらの違いに囚われる余裕もないほど慌しく過ぎた日々を記した心のアルバムは、
アズラエルとサラ、そして子供たちとの大切な絆となっている。
そして今、そのアルバムに新しい1ページが刻まれようとしていた。
「問題児のシャニとクロトが料理をするとは……今日はお祝いですね。
 久々に飲みましょうか」
「お、いいね親父」
「よろこんで」
 アズラエルの言葉を聞くやいなやサラとオルガは居間へと向かいだす。
嬉しそうな二人の後姿を眺めながら、アズラエルは思う。
世界は小さな幸せの上に成り立っているのだと。
死の商人である自分には分不相応かもしれないが、この幸せのために頑張るというのも悪くないかもしれない。
「もっともちゃんと儲けさせてもらいますけどね……」
 その言葉を受け取る者が誰もいないことに気づいたアズラエルは、慌てて居間へと足を向けるのだった。
                                            〜つづく〜