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Azrail_If_74_第07話

Last-modified: 2007-11-09 (金) 22:00:03

東アジア共和国ニホン自治区。
CE以前東アジアの一大先進工業地帯であったこの地域は、再構築戦争の際、朝鮮半島と共に北京政府の傘に置かれた。
当然、当所は散発的に独立運動が勃発したが、武力により統制され約1世紀。
ニホン自治区においては雌伏の時が流れ、先日この地域出身の国家主席が誕生した。
当所、ニホン自治区においては、これを機と捉え、独立運動の芽が芽生え始めたその時、ナオコ主席はその独立運動は徹底的に圧殺した。
民族や出自を問わない、その政治姿勢は中央政界において賞賛を浴び、その抑圧された民意は反プラント、反コーディネーターとして奇妙な形で結実する。

「ジブリール氏…反応は如何かしら?」
強化硝子越しに熱狂する民衆を何処か粘りつくような視線で見下ろし、彼、ロード・ジブリールはこの東アジア地区での反コーディネーター感情の強さに満足を覚えていた。
隣に立つ東アジア共和国国家主席に顔を向け、会心の笑みを浮かべる。
「理想的…と言えましょうな。ただ、向かうべきベクトルを故意に曲げている感は致しますが」
ナオコ主席は苦笑いを浮かべる。
「貴方の活動と同じですわ。御さないと…その勢いに飲まれてしまう。大西洋連邦も同じでは?」
「その通りです。私の活動を理解しない愚者どもも大勢いますがね」
吐き捨てるようにそう言いながら、ジブリールはアズラエルの顔を思い浮かべる。
「所で主席。例の件…軍は良く納得したものですな」
妖艶に微笑み、ナオコ主席は続ける。
「猪ばかりですの…この国の軍人は。政治局の方々は分っておりますわ。我が国の現状…を」
「そう…戦争は続けなければならない。徹底的に。その為には生贄も必要でしょう。新星という名の生贄が」

『蒼い血或いはノブレス・オブリュージュ7』

「敵も粘ったが…いよいよ反応が鈍くなってきたな」
ユウキ隊長はローレシア級MS搭載旗艦「ガリヴァルディ」のブリッジで対新星の指揮を執りながら不機嫌そうに呟く。
彼の視線の先で新星の周りを火花が踊っている。
この新星攻略戦は一進一退を繰り返し、こう着状態に陥っていた所を、現場指揮官の左遷に伴い彼、ユウキ隊長にその任が回ってきた。
不機嫌にもなろうものであった。
艦長であるアデスも同意を示す。
「グリマルディでは必死でしたからな奴等も」
その言葉に頷きつつ「敵の思惑がどうであれ確実に頂かなくては…な。予備のMSジンも逐次発進させろ。クルーゼ隊長に通信開け」
はっ、という敬礼と共にアデスはドックにて待機中のクルーゼとブリッジを回線で繋ぐ。
「クルーゼ隊長。敵の動きが鈍い…一気にケリを付けよう。発進中のジン各隊を指揮し、新星の防衛網を完全に破壊してくれ」
その言葉を聞き、クルーゼは口元を皮肉げに歪める。
「その後は…退去勧告を出すわけですな……ユウキ隊長はお優しい事で」
「…皮肉は言わないでくれクルーゼ隊長。…私はこの戦争を殲滅戦で終らせたくない、そう思ってるだけだ」
そして姿勢を正し続ける。
「これはフェイスとしての命令だ。頼んだぞ…クルーゼ隊長」

約1月ほど続いた新星はクルーゼ隊の働きにより、陥落した。
現場指揮官であったユウキ隊長は、連合に退去の時間を与え、追撃する事もなく整然と見送った。
この行動にプラント最高評議会の強硬派であるパトリック・ザラは彼のフェイス特権の剥奪を提案したが、シーゲル・クライン議長はそれを拒否した。
こうして東アジアの資源衛星新星は、ザフトの宇宙要塞ボアズと改名され、プラント本国の守備に就く事となる。

アズラエルはその報告を聞き、バンとデスクを叩き、苛立ちをぶつけた。
「やられました!」
執務室の隅でDSSDのデータベースを開いていたセレーネは一瞬、肩をびくっと竦ませる。
慌ててそのデータベースを閉じ、アズラエルの方に顔を向ける。
自分を見つめている視線に気付き、アズラエルは苦笑いを浮かべた。
「いや、何でもありませんよ…」
アズラエルに入る情報は機密度の度合いにより、そのアクセス権限は異なっていたが、通常業務においての通信は彼の私設秘書であるセレーネも把握していた。
「新星の陥落…それによる東アジアの暴動の件ですね」
「ジブリールの糞野郎…あ、いや…彼にも困ったものですよ…。散々油を撒いておいて、後は全てこちら任せですからね」
秘書の業務を行う際、セレーネは一枚のディスクをアズラエルから渡された。
それには極秘度の高い、そして彼の秘書を勤める上で欠かせない情報が詰まっており、その情報は既にセレーネの頭の中に全て写されている。
「東アジアの新しい主席は国内の不満を宥める手段として反コーディネーター感情を煽っていると聞きます。ただ…主席自身はさほど思想を持っていないと聞きました」
アズラエルは肩を竦め、溜息を付く。
「何が言いたいのですか、セレーネさん」
「Mrアズラエルご存知の事をです。連合がこの戦争を有利に進めて行ければ、東アジアは必ず、その尻馬に乗って来ます」
「ようは…勝てば良い、そう…そういう事ですよ…それが難しいんですがね」
セレーネは微笑んだ。
「それをこなすのが、Mrアズラエル…貴方のお仕事では」
もう一度大きく、アズラエルは溜息をついた。
「分っています…分っていますよ。その為の…MS開発計画ですから」
反ブルーコスモス派の二重スパイから齎された情報に当所アズラエルは拒否感を示していた。
だが、その計画の成否を決めるのは彼では無く、別の誰かであった。

大西洋連合国防総省。
そこには副大統領であるジョージ・スミスを議長に、反ブルーコスモス派の軍部及び政府関係者が極秘で会議を行っていた。
客賓としてオーブ首長国とスカンジナビアの外交官も出席している。
戦況がやや連合に不利な形で推移する中、戦後のイニシアチブの獲得も含め、議論は難航していた。
ハルバートン准将より提案された連合によるMS開発プロジェクト「G」はその予算の莫大さと、その費用対効果が予想し難い事から、紛糾を極めている。
議長であるジョージ自身、あまりの予算の膨大さにMS開発計画には後ろ向きであった。
「資金、技術、時間…あまりに難しすぎるのでは…ハルバートン准将? これではアズラエル財団も一口噛ませなくては資金とて捻出出来んよ…」
アズラエル財団と聞き、ハルバートンは眉間に皺を寄せる。
彼とアズラエル財団の確執を知るものには当然の態度であった。
「副大統領…これは国家存亡を賭けた計画です。既に計画案は議長のお手元にあるようにお膳立てしており、後は認証を待つばかりです」
手元の書類を手にとり、副大統領はその書類に再度目を通す。
「モルゲンレーテが協力してくれるなら技術面では問題無いが…。これだけの施設…アズラエル財団すら所有していないが…」
勢いづけるように、ハルバートンは立ち上がる。
「その点もご心配無き様。全権大使殿…お話下さい」
続けて、オーブ首長国の全権大使が立ち上がり、話を繋ぐ。

会議が終わり、スミス副大統領はアッシュ大統領に「G」計画の開始を進言する。
連日の折衝で疲れきった表情のアッシュ大統領はつまらなさそうに、提出された書類に視線を向けた。
「だが私の一存では決められんよ。まずは国防総省に図った上で…」
スミスはあからさまに侮蔑の表情を浮かべる。
「大統領…貴方がこの国の、いや地球連合の指導者ですぞ」
「だがスミス君…分るだろう、私の立場も」
「ええ、理解出来ますよ。軍需産業連合の利権はそんなに美味しいですかな」
突然の言葉に、アッシュは目を見開く。
「し、失礼では無いかね…!」
「失言でしたな。失礼。だが大統領…ここで政府の主導権を発揮しない事には…足元を見られますぞ、彼らに」
興奮し、顔を赤らめながら、アッシュは首を振った。
「駄目だ…。私の一存では決めかねる…」
だが、その言葉には当所の強さが失速していた。
それを感じ取ったスミス副大統領は、内心笑みを浮かべる。
この老人には任せておけないな。
そう思いながら。

軍需産業連合とモルゲンレーテ社が開発を担当し、開発施設はオーブ首長国のスペースコロニーである、ヘリオポリスがあてられる。
その資金の多くは地球連合諸国家の篤志家…通称ロゴスが提供するする紐付きの資金であった。

各陣営の思惑が踊る中、「G」計画はその始まりを告げた。