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Azrail_If_74_第08話

Last-modified: 2007-11-09 (金) 22:00:10

「ほう」
と、地球連合事務総長オルバーニは驚きと共に吐息を漏らした。
オーブ首都バンチであるアプリリウス1に入港し、シャトルから下船すると、ザフト儀杖隊が演奏を奏でる。
その儀杖隊はMSジンであり、その巨大さと繊細さにオルバーニは思わず、それを見上げた。
「ようこそ来られました。プラントを代表し歓迎致します」
すぅと、手が差し出される。
その手を握りながら、オルバーニは満面の笑みを浮かべた。
「議長自らのお迎え…感謝致します」
10月会談と呼ばれる、地球連合とプラントの和平会談はこうして始まった。
しかし双方自身の意見を譲らず、結局は平行線で終わり、会談は決裂する。
丁重な警護の中、シャトルに乗り込み、オルバーニは溜息を付いた。
彼がシャトル内に待機していた記者団にこう語ったと言われている。

──まだ血を飲み足りないのだと──

蒼い血或いはノブレス・オブリュージュ8』

「ジブリール氏の最近の言行を纏めたものです」
サザーランドは久しぶりに訪れた、アズラエルの執務室に居心地の悪さを感じていた。
その原因は分ってる。
横目で端末を操作しているセレーネを見やる。
コーディネーターの小娘めが。
アズラエルはサザーランドの内心に気付かぬように、彼が提出した書類に目を通している。
「中佐…これは確かですか」
サザーランドはセレーネから視線を逸らし、アズラエルに向ける。
「確かです。東アジアでジブリールは策動しているようですな」
椅子に深々と身を預け、アズラエルは首を振る。
「やれやれ…今度は対コーディネーター専属部隊への資金提供ですか…。ジブリールは毎度毎度好き勝手してくれますね…」
ジブリールらブルーコスモス過激派は大西洋連邦内においては比較的沈静化しているが、東アジアやユーラシアにおいてその勢力を燎原の火の如く伸ばしている。
資金の提供を手始めに、技術スタッフの提供、そして兵員の提供を通じて彼…ジブリールの私設部隊が作られるのは時間の問題であった。
少なくとも、ジブリールは現在の所、東アジアのナオコ主席の支持を得ている。
アズラエルとしても、手が打ちようがないぶんだけ頭の痛い問題であった。
「一層…我等も何らかの実務的な行動機関を持つときが来たのかもしれませんな」
ぽつりと、サザーランドは呟く。
「流石にまだ時期尚早でしょうねえ。ただ…プランだけは策定しておいて下さい」
「分りました。軍内部でもそれといった人材には目をつけております」
「頼みましたよ」
ひらりと、手を扉に指し示す。
それに気付いたサザーランドは手にした軍帽を被りなおし、敬礼する。
「それでは」
部屋を出る際も、セレーネを横目でじとりと睨みつけて行った。

ふうと、ネクタイを少しだけ緩め、アズラエルは目を閉じる。
「それでモルゲンレーテの進捗率はどうですか?」
「動力部分は問題無いようです。マニュピュレータ部門とOS部門が若干、進捗率が落ちていますが」
セレーネの端末を開きながら、淡々と告げる。
「そうですか。オーブの尻を少し叩きますか。所で例のアクタイオン社の強化人間生産施設ですが…打ち切りにします」
ふと、気付くとセレーネがアズラエルを見つめている。
「どうしました…? アクタイオン社のプロジェクトは打ち切りです。もうお終いですよ」
じり、とアズラエルの目を見つめながら、セレーネは続ける。
「…お言葉ですがMrアズラエル……アクタイオン社のプロジェクトは継続すべきかと」
「ふん。訓練と洗脳では限界があります。セレーネさんもご存知でしょう…ロドニアのラボ」
露骨にセレーネは眉を顰める。
「…セレーネさん。それは偽善ですよ」
セレーネは首を振る。
「戦争は勝たなくてはならない…それは承知しています。ただ…勝てば良いと言うものでも無いと私は思います」
アズラエルは段々と苛々が募らせる。
「そうは言いますけどね…! では、何故アクタイオンの強化人間開発施設は残せと言うんですか?」
セレーネは自己嫌悪を交えた、複雑な表情を浮かべ答える。
「…Mr…アズラエル……。それが有用だから、です」
疑わしげな視線を向けながら、アズラエルは問う。
「どう…有用なんです…?」
「これをご覧下さい」
セレーネの端末からアズラエルの端末へ、データを加工した簡単な書類が転送される。
それはアクタイオン社の施設における被験者の対MAシミュレーション結果と、連合の通常の兵士の対MA
シミュレーション結果を照合したものであった。
「え…!? こんなに差が出ましたか…! やれやれ僕の見ていたデータは古いものだったようですね。
いや、セレーネさん良く見つけてくれました」
控えめな笑みと共に、セレーネは自らの端末に視線を落す。
自らのエゴの為に働く以上、私情は捨てなくてはならない…そう思っていたはずなのに…。
そう、セレーネは自嘲した。

「始めまして…ユスーポフ大統領」
自信を全身から発散させながら、ジブリールはユスーポフ大統領と握手を交わす。
ユスープフは連日のように続くザフトからの都市部への攻撃の対処に終れ、ろくに眠りすら取っていない状態であった。
それにより益々、国民の反コーディネーター感情は募って行き、一部では都市暴動すらおきている有様である。
軍部は強硬派で占められており、シビリアンコントロールの原則すら侵そうと、ユスーポフへの突き上げを繰り返している。
そんな状況の折、ブルーコスモス副盟主であり、ジブリールが半ば強行的なスケジュールで彼のもとに現れた。
そんな彼へシンパシィを持つ軍部や、その背後の多くの国民の視線を無視するわけには行かない。
ユスーポフは満面の笑みを浮かべ、がっちりと握手を交わす手に力を込めた。

「苦労しておられるようですな…? 大統領閣下」
つぅと、厭な汗がユスーポフの脇を不快に湿らす。
彼は長年の政治的生活により、その直感は動物並に優れていると自負している。
「率直に言い、我が国は現在様々な問題を抱えています。…が、全て国内問題ですから」
暗に、国内の問題には口を出すなと牽制した訳だが、ジブリールはそんな彼の暗喩を無視し、続ける。
「良いお話を持ってきたんですよ。東アジアでは成功している方法です」
ふん、と鼻をならし、ユスーポフは首を振った。
「民衆を官僚とマスコミ及び政党のトリニティで煽る…あれ、ですな」
ジブリールが口を開くまもなく、ユスーポフは続ける。
「その方法は民主主義の伝統のある我が国には合わない。だから…今回はご足労でしたな、ジブリール氏」
にこりと微笑み、ジブリールは厭な笑みを浮かべた。
「東アジアとて無闇にコーディネーターを排斥しているわけではありませんよ、大統領。使いようによっては……」
言葉の効果を確かめるように、ジブリールは一拍置く。
「大統領、即ち貴方に反するものもコーディネーター主義者という事によりその地位を追う事も可能でして」
そんなジブリールの言葉を遮り、ユスープフは腕を上げる。
「馬鹿な…。先も仰った通り、我が国は民主主義の伝統を保守する国々の共同体であり、そのような強権、いやマキャベリズムは到底受け付けない、これが国是です」
取っておきのカードは最後まで見せないものだが、ジブリールは仕方なく、もう一枚のカードを手にした。
「そうですか。大統領がそう仰るのなら結構。ブルーコスモスとしては大統領、貴方では無く、軍部を支持させて頂きますよ。物心共に…ね」
その言葉に、ユスーポフの選択肢は奪われた。
後に、ジブリールの火祭りと呼ばれる各国首脳への恫喝と懐柔はこうして一応の幕を閉じたのであった。