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Azrail_If_74_第10話

Last-modified: 2007-11-09 (金) 22:00:25

ブルーコスモスにおける最高幹部定例会は何時に無く緊迫の色が濃いものであった。
上席に座するアズラエルとその最大派閥である保守穏健派と、ジブリールが代表する極左過激派の間で目に見えない緊張感が漂う。
その間に存在する、多くの中間派はその両派閥の出方を覗っていた。

定例会が始まると、即座にジブリールが挙手し、余裕を湛えた表情を浮かべ、立ち上がる。
「早速ですが…盟主の更迭を求めます」
アズラエルはほぼ確実に予想されていた事であり、外面は平静を装っていた。
そうして、ゆっくりと室内に浸透させるように言葉を発する。
「決を採る前に…一言宜しいですか?」
誰も異は唱えず、アズラエルは一動を見渡す。
「皆さんもご承知の通り、今回の末端構成員の暴走は僕の責任であり、その責を取り、現在の職を退く用意があります」
その言葉に、軽いどよめきが起き、ジブリールはほくそえんだ。
どよめきが収まるのを見計らい、言葉を続ける。
「…しかし、現在はまだ盟主の地位に居るものの責任として…後任に対し、一つの条件があります」
少し、小首を傾げ、考え考えながら、アズラエルは言葉を紡ぐ。

「僕は現在のブルーコスモスの発展的解散及び新組織の創出を提案します」

その言葉は爆弾のように、出席者に衝撃を与え、沈黙が広がった。
「馬鹿な…ッ! アズラエル…貴様、自分の言っている事が分っているのか!」
ジブリールは逸早く立ち直り、アズラエルを睨みつけながら怒号する。
「──僕はまだリコールされていませんよ。ま、リコールされる寸前ですけど。
それは関係無く、地球圏全体に対する責任を取る為にも、ブルーコスモスも組織として新生しなくてはこの先立ち行きませんから。
それは今回の暴動を鑑みても協賛頂けることかと思います。まあ、貴方はどうかは分りませんが、ジブリール」
怒髪天を突く勢いで、ジブリールは音を立てて立ち上がる。
「何を言っている…!? 貴様は解任されるんだぞ…! そんな権限があるものか…っ!!」
困ったように、肩を竦めアズラエルは答える。
「ええ、ありません。しかし、組織とは結局の所、スポンサーが一番強いわけです。僕は僕の提案が通らない場合、組織を割る事も厭いません」
「……ッ!!」
ジブリールは振り上げた拳の持って行き場に戸惑い、周囲を見渡す。
他の構成員も、周囲を不安げに見渡しながら、他の人間の出方を探っていた。
「まあまあ、僕も暴君じゃありません。リコールされたらそれに従いますし。
ただ、その前に前述のように組織の要綱から始め、少しずつ穏健な方向へのシフトを提案しているだけです。
その方が上層部にも浸透しやすいですし、大衆受けも良いですよ」

【蒼い血或いはノブレスオブリュージュ10】

「やれやれ、疲れましたよ」
執務室に入るなり、開口一番、アズラエルは愚痴を言った。
「御疲れ様です」
そんな彼の所作にも慣れたもので、セレーネは丁寧に頭を下げる。
実際、彼女は彼に対し頭が下がる想いであった。
あの夜以降、特に差し出がましい話は強いてしなようにし、お互いにそのような事は無かったかのようにすら振舞っていた。
だから…アズラエルがブルーコスモス、その組織自体を穏健な方向に回帰させ、支持母体に対する安定した票田とする、それを聞いた時は驚いたものだ。
そもそものブルーコスモスは過激派とは縁遠い、穏健な保守組織であった。
だから、その構想を口にした時、アズラエルは寧ろ困ったように眉を顰めた。
「原点回帰するだけですよ。そしてこれは…」
続ける言葉を、セレーネは正確に理解した。
表情を改め、アズラエルは自らを鼓舞するかのように。
「新たなる敵の創出でもあります。即ち過激派残党、これはまあテロリストですね。そして…テロを利用する敵性国家群の炙り出し」

アズラエルとしても大きな賭けである。
ロゴスの出資母体は主に大西洋連合の出身者で占められており、これは多くの新興財団からCEのフリーメーソンと揶揄される所以でもあった。

「──これは第二の世界構築戦争です。この戦争の後、大規模な戦争は起きないでしょう。
この戦争で全ての片を付けます。前世紀からの負債も含めて」

アズラエルのそれは言葉の爆弾であった。
ロゴス最高幹部会議の招集を決議し、矢継ぎ早に世界構築戦争論をぶちあげた時、ロゴスの面々はアズラエルが【狂った】と認識した。
そもそも、その気があるのだと、衆目の一致するところではあった。
だが、話を進めていくアズラエルの論理に破綻は無く、寧ろこのザフトによる通商破壊それによる世界の荒廃に心を痛めているものは多かった。
当然、その心を痛めるとは荒廃による自分自身の財産の目減りではあったわけであるが、世界に新たなる秩序を構築し、市民生活の建て直しを図るという基本的な線はロゴスと政府上層部、そして市民によって共有される意識でもあった。
だからこそ、戦争とは狂った博打であり、まともな商売人としては足を踏み入れる場では無い、そういう認識がロゴスを席巻している。
恒久平和は夢物語だが、せめて100年の平和は誰もが望むものではあった。

「即ち大西洋連合によるヘゲモニーの確立。パクスの実現です。その為にはまずは自身の身中を掃除しなくてはなりません。
その後、敵性国家との駆け引き、場合によっては交戦です」

ある一人の古参のロゴス構成員はこう疑問を口にした。
「だが、しかし…大西洋連合に世界を向こうに回して勝てる目論見いはあるのかね?」と。

「当然、あります。現在、進行中のG計画も既に最終段階に入ります。
それにより、連合によるMS開発も近日中に予定されており、当然、NJをキャンセルする研究や現在主力兵器においても我が大西洋連合は他を圧倒しています。
これに皆さんの財力が加われば、大丈夫です」

まるで詐術めいた話ではあったのだが、アズラエルは賢者ファウストを堕落させたメフィストフェレスのように少しづつ、議論を自身の望む方向へと誘導する。
部が悪い賭けでは無い。
少なくとも、現況のまま、ザフトだけを敵と認識し、終わり無き殲滅戦を続けるよりも、大局的な意味での戦争の終わりを呈示した点でも画期的であった。
当然、アズラエルは全ては口にしていないが、東アジアやユーラシアとは全面戦争にはならないと確信していた。
これは彼の持つパイプの太さから導き出された答えであり、早晩、ブルーコスモスからの過激派の脱落と、東アジア及びユーラシアの反大西洋連合派は孤立し、お互いに手を組むだろう。
そうして、敵を纏めて叩く構想も既に出来上がっている。
彼なりに考えた、これがセレーネへの返礼でもあり、結論でもあった。

ロゴスよりの親書を手にし、その書類を持つ手にじんわりと嫌な汗が浮かぶ。
アッシュは戸惑いながら、その書類に目を通していた。
「これは…どう思う、スミス」
スミス副大統領も同じものを手にし、既に目を通し終えていた。
内心、大きく溜息を付く。
それは感嘆であった。
反ブルーコスモス派であるスミスとしても、ブルーコスモスの毒が抜け、善良な票田に回帰するならそれを止める必要は無い。
それに、これは大西洋連合に取っての千載一遇のチャンスですらあった。
既に動き出したと報告があるG計画は成功し、ザフト特殊強襲隊すらも撃退する戦果を既に上げている。
後は、この試作5機を地上に下ろす事が出来れば、完全に大西洋連合と他の国々との格差は広がる。
これは…アズラエルの側に立つべきかもしれないな、そうスミスは考えていた。
そんな内心の葛藤を完全に覆い隠し、スミスは静かに提言する。
「大統領、まずは議会に諮らなくてはなりませんな。当然、この方策を大統領、貴方がどう扱うかにより、そのするべき事も異なって来ますから」
絹のハンケチで額を拭いながら、アッシュは薄っすらとした白髪に手をやる。
「…正直、困惑しているよ…スミス君。これは私の一存では決めかねる…」
冷ややかに、スミスは冷笑を口元に浮かばせた。
「では誰が判断するのですかな、大統領。この国の国家元首である貴方以外に。貴方が選択するという事は市民の選択でもありますからな」
老アッシュは、更に10年は老け込んだように、書類に視線を落とし、背を曲げていた。
一人のただ善良な基督者である大統領にはこのような世界を包括する戦争の概念や意義、そして責任は荷が重すぎた。
だが、選択は全ての人間に迫られる。
それは人間の人間たる運命ですらあった。

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