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BRAVE-SEED_660氏_子連れダイノガイスト_第15話

Last-modified: 2010-02-21 (日) 16:08:59
 

子連れダイノガイスト
第十五話  ヌーベルトキオシティに闘いの鐘が鳴る

 
 

 生命の源流たる海の上に、人の手によって作り出された大地が浮かんでいる。土と木と花と生命のなれの果ての死骸によって作られた、天然自然の大地ではない。
 数多の金属とコンクリートとケーブルをはじめ、人の英知と技術が生み出した人造物によってその基礎から構築された鋼の大地である。
 地面の質感をわずかほども望めぬアスファルトの地面には、瑞々しい緑の葉の重みで枝をしならせる木々の代わりに、数十階をゆうに越える高層建築物が無数に聳えている。
 この数年で無慈悲で容赦ない荒廃の轟風に晒された地球圏では、数えるほどしかない文明の香りを残す一大人造都市ヌーベルトキオシティ。
 全てが人の手を経て生み出された都市の上で、いま、二体の巨大な人型ロボットが対峙していた。いや、対峙の段階はすでに過ぎ去り、決着がつく寸前というべきであろうか。
 雷神が背に負う太鼓状のビームランチャーと朱槍を携えた歌舞伎武者風の巨大なロボットは、巨体のあちこちから黒煙を噴き、明らかに機動力を損なってもはや碌に動く事も叶わぬと見える。
 歌舞伎ロボットを前に、黄金の車輪を赤い鍔の中で回転させる黄剣を振りかざす機影が一つ。
 新幹線の類らしい旧世紀の車両を両肩に持ち、胸には巨大なスチームブルーのSLの先頭車両が威風堂々とその巨大な質感を誇っている。
 それぞれの手足は太い四角形で構成され、列車の車両がそのまま手足に変わったようである。
 巨体を支える四肢の末端に至るまで途方もないパワーが秘められているのは、一目瞭然であった。手足のみならず機体全体が目にも鮮やかな色彩に彩られ、見る者に頼もしさと安堵感を与える。
 その巨大な影の名はマイトガイン。このヌーベルトキオシティにおいて絶対的な希望の光、頼もしき正義の守護神として万呼の歓声を持って迎えられる勇者だ。
 胴体と両足を構成する超巨大SLロコモライザーと両腕を構成するマイトウィング、ガインの三機が合体する事で完成する旋風寺コンツェルンの資金力とロボット工学の粋を合わせた希代のマシンである。
 マイトガインの頭部のフェイスガードと、透過性カバーによって保護されているコックピットの中で、パイロットスーツというにはいささか軽装姿の少年が、両手に握るストッロルレバーを一気に押し込みながら、相棒とタイミングを合わせる。

 

「ここで勝負をつける。行くぞ、ガイン!」
『ああ、この一撃で決着だ』

 

 まだ十五歳という若輩の身ながら、国際怪物企業旋風寺コンツェルン総帥にして、ヌーベルトキオの守護を担う勇者特急隊の隊長も務める智勇兼ね備えた麒麟児、旋風寺舞人だ。
 紺碧色の瞳に強い正義感と不屈の闘志、恐怖を踏破する勇気の光を輝かせながら、相棒である人格を有する超AIマイトと気迫を重ね合わせ、二人の心と三つの機体が一つとなったマイトガインが空を飛ぶ。
 膝を曲げ跳躍の為の力を貯め込み、一瞬の爆発に開放する。マイトガインの規格外のパワーの開放は、踏みしめていた大地に巨大な蜘蛛の巣状の罅を広げ、局所的な自信が起きたのかと見間違うほど。
 急激なGが全身に掛かるのを感じながら、マイトガインは剛体の質量をもった物質と変わる寸前の咆哮を放つ。

 

『ハアアアアーーッ!!』

 

 振り上げられた動輪剣の刃に切り裂かれた風が、ぐおう、と断末魔の叫びをあげる。
 太陽の黄金光を背に空の青へと飛び上がるマイトガインの勇ましさよ。両手で振りかぶった動輪剣の一振りに晒されれば、無事でいられるものはこの世にあるまい。
 マイトガインは足裏と背のバーニアから白炎を噴きあげて、斬撃の威力が最大限となる位置で一気に降下へと移る。
 圧倒的な機体の大質量と人機の二心が一体となって放たれる無色の、しかし押し寄せる津波の如き怒涛の気迫は、打たれた者の心を芯から竦ませる強さ。
 これまでの戦闘の損傷によって満足に動けなくなった歌舞伎ロボに、気力充溢したマイトガインを迎撃する武装も運動性もなく、なんとか立ち上がろうともがく素振りを見せるきりだ。

 

「動輪剣――真っ向唐竹割!!」

 

 舞人の喉から迸る裂帛の気合。振り下ろされる刃が雷光と化したかの様に速い迅雷の一刀が、縦一文字に黄金色の輝線が天から大地へと描かれる。ぎん、と聞いた者の背筋を凍らせる鋭い斬断の音色が響き渡る。
 アスファルトに足首までめり込ませながら剣を振り下ろした姿勢で着地したマイトガインが、ゆっくりと立ち上がり、背後で真っ二つにされた歌舞伎ロボが天まで焦がす様な盛大な爆発を起こした。
 赤黒く燃え上がる爆炎を背に、右手に動輪剣をさげたマイトガインの勇壮な立ち姿に、周囲で遠巻きに見守っていた市民達が一斉に歓呼の叫びを挙げ――そこで世界が停止した。
 まるでマイトガインがいる世界がブラウン管の向こうの世界の出来事で、それを眺める傍観者が停止のスイッチを押した様な。
 それほどまでに完全にマイトガインとそれを取り巻く世界は時の流れから忘れ去られて、動くことを止めてしまっている。

 

「――これが本日、ヌーベルトキオシティでショーグン・ミフネの歌舞伎ロボットとマイトガインとの間で行われた戦闘の模様です、ボス」

 

 リモコン片手に背後を振り返った女性は、宇宙海賊ガイスターの母艦である継ぎ接ぎ戦艦サンダルフォンの艦長を務めるナタル・バジルール地球連合軍元少佐である。
 地球連合の軍服を改造したくるぶしまである真っ白いコート姿で、背に鉄の杭でも刺さっている様なきりりとした立ち姿に、凛とした光を称える瞳の美しさは、首元から左目の目元を覆う凄惨な火傷の痕を考慮しても美女と呼ぶに値する。
 日本の時節は夏の頃間であるが、生まれ持った体は約半分ほどしか残っていない身の上である為、寒さや暑さに対しての耐性は一般的な人間をはるかに上回る。
 まっとうな肉体の持ち主であるマユやシンに比べると、極寒の地や灼熱の大地をはじめとした生命にとって劣悪な環境に身を置いても、長時間耐えられるものだ。
 二、三発くらいなら軍用ライフルの弾丸を掴み止められる程度の身体能力に過ぎない。肉体的には変貌を迎えても、ガイスターに拾われる以前と変わらぬ凛々しさを秘めた瞳で、はるか頭上にあるダイノガイストの瞳を見上げて反応を待つ。
 ヌーベルトキオシティ沖合の海底に身を潜めるサンダルフォンに帰艦したダイノガイストに、マユとシンが遭遇したマイトガインの戦闘の記録を紹介していた所である。
 行動を起こすまでシティの超一流ホテルでのんびり贅沢宿泊をするはずだったマユとシンのアスカ兄妹も、急遽予定を変更してサンダルフォンへと戻って来ていて、この場に同席している。
 世界中の遺跡の定期調査を終えてサンダルフォンへと帰還したダイノガイストは、いつも通り恐竜形態に姿を変え、その二足歩行の巨大爬虫類ボディ用の歪な形状の玉座に座している。
 振るえば駆逐艦程度一撃でジャンクに変える尾は興味無さげにだらりと零れ落ち、鋼鉄の肘掛けを叩く爪のリズムも一定のままで、目的としたはずのマイトガインへの興味が失われたかのようにさえ見える。
 二年近い付き合いの中でもこのような様子は珍しく、シンと艦長の二人はときおりちらっとダイノガイストの暗黒の顔色を伺っている。ま、装甲の色なので機嫌がどうであろうと変わるものではないが。
 付き合いの長さでいえばさほどシンと艦長の二人と変わらない筈なのだが、マユばかりは一見不機嫌そうに見えるダイノガイストの態度の奥に隠れている真意に気付いている。
 何気ない所作の違いと、ダイノガイストが無意識の内に発している雰囲気の変化を敏感に悟っているのだが、どうしてわかる? と聞かれてもマユ自身明確には答えられないだろう。
 時にダイノガイスト自身も気付いていないダイノガイストの感情にも気付けるマユが、この時のダイノガイストの反応をどう捉えていたかというと――

 

(ダイノガイスト様、嬉しそう)

 

 剣を交える前からマイトガインとの戦いを心から楽しみにしていると、マユには分かっていたようだ。
 ダイノガイストの気持ちを察しているマユの様子を、シンと艦長がじっと観察していた。自分達のボスの機嫌の良し悪しを把握するのに長けていないと自覚している二人は、そのような時にはマユの様子を見れば判断が着く、という結論に至っている。
 ダイノガイストの機嫌がいいとマユは笑顔になる。
 ダイノガイストの虫の居所が悪いとマユは心配そうな顔をしたり、不安げな顔になる。
 つまりはマユを介する事でダイノガイストの機嫌が推し量れるというわけだ。そしてこの方法は十中八九外れの無い方法であり、シンと艦長の着眼点はなかなか的を射ている。
 無論、いかにマユとてそもそも生命として根本的にかけ離れているエネルギー生命体であるダイノガイストの思考を完全に把握しているわけではない。
 マユが感じた通りに、ダイノガイストがマイトガインとの戦いを楽しみにしているのは事実だが、より正確に言えばその戦いの後の方に期待を寄せているというべきだろう。
 そもそもダイノガイストはこの時点でマイトガインが自分に勝てる見込みはまず無い、と彼我の戦闘能力の差から冷酷に、しかし至極客観的に結論を出していた。
 ダイノガイストが永遠の宿敵グレートエクスカイザーに敗れ、傷ついた体のままこのコズミック・イラの世界で目覚めてから、一日として宿敵との再戦を意識しなかった日はなく、その日に向けて常に仮想戦闘を重ねてきた。
 鋼の肉体が万全の調子を取り戻してからは、データとしてインストールしていた地球に存在する各種の剣術や戦闘技術を、自己の肉体で扱えるモノを選抜して徹底的に学習し改良を施して自らの血肉に変えている。
 これまで手に入れて来た肉体の中でも最高の戦闘能力を備える現在のボディに、人類が数千年をかけて培った技術を取り込み、折れぬ矜持と絶望や諦めなど欠片ほども有していない強靭な精神が組み合わさったのが今のダイノガイストだ。
 かつて月面で演じた最後の戦いを今再現する事が叶うならば、あのグレートエクスカイザーを相手にしても確実に勝利を得て見せよう。
 故に、ダイノガイストはマイトガインを己と対等に戦う事の出来る力量を持った好敵手である事よりも、エクスカイザーとの前哨戦と見做せる程度の力量と、宿敵と似通った精神を持った強敵であればよし、としている。
 その認識は、たしかに両者の戦闘能力の差を鑑みれば無理もないものではあったが、同時にダイノガイストは、マイトガインが敗北の泥濘に塗れた後の姿にこそ、真に期待を寄せているとは、前述したとおりだ。
 エクスカイザーとて、ダイノガイストが自ら戦いの場に姿を現すようになってからは、幾度となく苦汁をなめさせられ、地に這いつくばらされた事もあった。
 それでもかの宿敵は圧倒的な力の差を目の当たりにしても、何度でも立ち上がろうとし、最後の最後まで抗う事を止めようとはしなかった。
 もがき、苦しみ、敗北の影がひたひたと近寄ってきても、エクスカイザーとその仲間達は諦めるという言葉とは縁遠かった。
 弱者の悪足掻き、と当時は蔑みながらも、ダイノガイストは立場も生き方も全く異なる彼らのその姿を心のどこかで認めていたのである。
 宇宙最強と畏怖されたその圧倒的な暴力で肉体を打ちのめす事は出来ても、その気高い不屈の心を砕く事はついぞ出来なかったのだから。
 だから、マイトガインがダイノガイストとの戦いに敗れた後、その心を折らずに再び立ち上がった時、そこにはエクスカイザー達と同じ輝きを持った誇り高く強靭な精神を見る事が出来るに違いない。
 そして必ずや、ダイノガイストに準ずるか、ひょっとすれば比肩するほどの新たな力を得て再び目の前に姿を現すことだろう。そう、その時こそ真にマイトガインはダイノガイストの敵となり得るのだ。
 自らの手で強大な敵を育てるにも等しいというのに、ダイノガイストはマイトガインがより強く、より巨大な敵となって自分の前に立つ未来をはっきりと待ち望んでいる。

 

『ふん、ユニウスセブンの時よりも動きが良くなっているようだな』

 

 と、ぶっきらぼうに言いつつも、ダイノガイストの青い瞳の奥では期待の光のわずかに明滅しつつあった。
 なんとなくニタリ、といかにも悪役らしい笑みを浮かべていそうだな、と心の中で思いながら、ダイノガイストに声をかけたのはシンであった。

 

「アンタがマイトガインと戦っている間、おれ達は何をしていればいい?」

 

 ガイスター四将のみならずダイノガイストの気性を知る者がいたら、こいつは死にたいのか、と言いたくなるような、あまりにぶっきらぼうで突っかかるようなシンの物言いである。
 当のシンは、自分のダイノガイストに対する言葉遣いがかなり危険なものであるとは露とも知らず、頭の後ろで手を組んだ姿勢のままダイノガイストを見上げて答えを待っている。
 戦火に晒された後のオーブの避難所生活の時に、ようやくマユの下へと帰ってきたダイノガイストを相手に、最初からこういう口の利き方をしてきたから、シン自身は自分の言葉づかいを改めるつもりはまったくない。
 ダイノガイストの方もシンの態度に関しては特に思う所が無いのか、マユの残る唯一の肉親という事で特別に許しているのか、シンに叱責の言葉ひとつ投げかけた事もない。
 まあ、密林に放り込んだシンを恐竜形態で追い掛けて、二十四時間不眠不休で逃げ回らせた事はあるけれども。
 シンにしてもダイノガイストに対する態度に関しては、本人からすればいろいろと言いたい事があるのだろう。
 可愛い妹が心寄せる相手が異星人で、おまけにどういうわけなのか恐竜・戦闘機・ロボットと三形態に変形する機械だわ、おれ様な性格の宇宙海賊という超弩級の犯罪者だわ、と複雑どころではない事情がある。
 さらにシン自身多感な時期に目の前で両親を殺害され、この世で二人きりになってしまった家族のマユを自分が守らなければならない、という使命感と義務感と脅迫概念を抱き、また逆にマユに依存している所が少なからずある。
 ゆえに、ダイノガイストが自分たち兄妹にとって命の恩人であり頭の上がらない相手である、と分かってはいても素直に感謝の言葉を吐く事も出来ず、態度を改めるでもなく今に至っている。
 肘かけを叩く爪を止めて、暗黒色の暴君竜が比較すればあまりにもちっぽけな少年を見下ろす。同じ目線に立つ事はないが、相手の目を見て話をするあたり、ダイノガイストなりに身内と認識している相手に対しては、きちんと対応するようである。
 旧ガイスターでも失敗ばかりの部下達に対して、怒鳴りつけたり火を吐いて怒って見せたりした事はあったが、直接的に暴力を振るった事は無かったし、そう言ったあたりが四将達に慕われていた要因なのだろう。

 

『今回はお前達に出番は特にない。おれが姿を見せるだけで奴をおびき寄せるには十分だ』

 

 暖かくもなければ冷たくもない、事実を確認するだけの淡々としたダイノガイストの言葉である。シンの方は出番なしと知って、楽チンだ、と思うのと、詰まらないなという気持ちが半分ずつまざった表情をしている。
 生来の血の気が多い性格と、自分に出番がないという事は、マユはさらに出番がないという事で安心する気持ちの妥協の結果といった所か。
 シンの年齢相応の子供っぽい態度に、艦長は微笑ましいものを覚えて柔らかな笑みを浮かべる。
 宇宙海賊家業(活動の九割は地球上だが)という裏稼業街道を突っ走る生活を送っているというのに、普通の少年らしい性格を維持できているのが、保護者を自認している艦長としては嬉しかったのである。
 ここはボスの言う事に一理ある事を告げておくか、と艦長は薄い色合いのルージュをひいた唇を開いた。

 

「シン、ボスの言う通りだ。このヌーベルトキオシティは東アジア共和国の中で治外法権に近い権限を持つ特異な街だが、その為に共和国の軍が介入する事態に至るまでにひどく時間がかかる。
 その分、警察の保有するレベルとしてはかなりの装備が宛がわれているし、旋風寺コンツェルンの差配で警備態勢も万全だがな」
「その割になんか巨大ロボットを使った犯罪が多発していますよね。毎回えらい額の被害になっているだろうし、治安がいいんだか悪いんだか分からない街だなあ」

 

 都市とそこに住む人々の放つ光が強いほど、その光が落とす影は暗く深いものになるのか、ヌーベルトキオシティは世界有数の巨大ロボット犯罪の発生率を誇る、という汚点を有している。
 発生したロボット犯罪に対する抑止力という立場にマイトガインを筆頭とする勇者特急隊が存在しているのだが、彼らは軍隊や警察に消防、医師と同じく活躍の機会が少ない事こそを誇るべき存在である。
 その彼らの活躍が、テレビ、ニュース、インターネット、新聞と多くの情報媒体を賑やわかしている事実は、決して歓迎の声だけで迎えられているわけではない。
 彼らの活躍の数だけ犯罪が起こり、少なくない被害が発生して生活を奪われ涙する人々が必ず存在しているのだから。
 機動兵器――MS同士の戦闘に巻き込まれて両親を失ったシンとしては、同じような巨大ロボットが犯罪を起こし、またそれに対するカウンターである勇者特急隊との戦いには、必ずしも良い感情ばかりは抱けぬようだ。
 せっかく妹と水入らずの休日を過ごしていたのに、それを邪魔された事に対する怒りがまだ燻っていたのもあるだろう。
 むすっと顔を膨らませてシンが子供っぽく不機嫌さを露わすのを、マユは困った様に見つめていたが、不意に何かを思い出した顔をする。いつもの作戦会議にしては顔ぶれが足りていない事に今更ながら気付いた様である。

 

「……そういえばアルダさんは、いまどこにいるんだっけ?」
「……んん? 言われてみれば定時連絡がこないな」

 

 ああ、そういえば、と世間話でもしていたみたいな調子で艦長も、マユに言われてようやく冷笑癖のある金髪サングラスの顔を思い出したらしい。
 アルダ・ジャ・ネーヨはMSの操縦技術、戦術・戦略を見据えた広い視野、高い判断力と先見性、裏社会に通じるコネクションと新旧ガイスターの中でも極めて有能な人物なのだが、メンバーからは割と微妙な扱いをされているようだ。
 艦長の場合はまだナタル・バジルールと名乗っていた自分から因縁のある相手なので、含みがあっても当然なのだが、マユからさえかような扱いを受ける辺り、アルダの普段の行動に問題があるに違いない。

 

『ヤツならば殺しても死ぬまい』

 

 ましてやダイノガイストなど路傍の石を見た時の反応に等しい冷たい一言で済ませてしまう。当人がこの場にいたら、まるで心配しないのは私の事を信頼しているかだろう、と皮肉気に笑いながら言ったに違いない。

 

 * * *

 

 そして話題に挙げられていたアルダはというと、ヤキン・ドゥーエ戦役で半壊したプロヴィデンスをガイスターロボ化した超絶高性能MS・プロヴィデンスガイストのコックピットの中に居た。
 ユニウスセブン落下阻止の際に、ジャンク屋ギルドの根拠地となっていたジェネシスαをユニウスセブンに向けて発射させるために、別行動を取って以来の登場である。
 すでに一週間以上ダイノガイスト達と離れ離れになっているが、ニュートロン・ジャマーの電波妨害作用など問答無用で無視するエイリアン・テクノロジー応用の通信機があるから、連絡をとるのに問題は無い。
 無いにも関わらずなぜかアルダはマユや艦長達と連絡をとることをしなかった。これにはアルダなりの事情がある。アルダはMSを操縦している時も外さないサングラスで目元を完全に隠した顔に、笑顔を張り付けていた。
 星明かりの無い暗黒の夜空に浮かぶ三日月のように、その口元が裂けて笑みを浮かべる。
 目にしたもの全てに背筋が凍る思いをさせる狂気的な笑みであった。

 

「く、くくく、ふふふはははっははははっはあはあはっはは!!!!! あーっはっはっはっは」

 

 それは聞く者全ての鼓膜を貫き認識した脳髄を腐敗させる狂気的な音色を含んだ大哄笑であった。
 アルダが笑う。嗤う。哂う。嘲笑う。
 知性、理性、道徳、倫理、論理、合理、正気、狂気、凶気、どれもが欠け落ちて人間の心を構成する感情や情緒が壊れているのだと、はっきりとわかる声の何と言うおぞましさよ。
 その声に打たれて震えた耳を引き千切り、音の波を言語に変えて伝えた鼓膜を突き破り、認識した脳を頭蓋骨から引きずり出して叩き潰す衝動に駆られるであろう。

 

「くはははあはあああっはっははは、見える。見えるぞ!! レイ、ムウ、私には見える、私にも見える!! あははは、くふくふくふふふははははははははははっはははははははっは!!!!」

 

 見える?
 一体何が見えるというのだ。
 聞く者の心を後悔という名の底なし沼に引きずり込み、不安と恐怖と焦燥が渦巻く嵐の中に放り込む声を上げながら、アルダよ、人の手で作られた人よ、お前には何が見えるというのか。
 かつて加速的に年老いて醜く皺の刻まれた顔と世界の破滅を願う真意を、白い仮面の奥に隠した男の目には、一体何が像を結び、映し出されているのか。
 それはアルダの策略に嵌り、四肢は崩れ落ちて地に這いつくばり生命の光を失ったダイノガイストの屍か。もの言わぬ躯と変わり果て互いを庇いあう様にして重なるシンとマユの死骸か。それとも二度目の終焉も艦と共にしようとする艦長の死微笑か。
 一度死を迎え、ダイノガイストに拾われて生を得て、その心は変わったはずではなかったのか、アルダよ。自分という存在を生み出した人類の業を、果てのない欲望を憎み、人類という種の滅亡を望む心を捨てたのではなかったのか。
 ガイスターで過ごした日々は、お前の心に何の変化ももたらさなかったのか、その心の中にごく普通の、人間らしい感情を蘇らせたのではなかったか。
 アルダよ、お前は、何を見ているのだ?

 

「ああ――見える、見えるのだ、私には。そう………………ネロとパトラッシュの昇天する姿が!!!!!!」

 

 サングラスの奥に隠されたアルダの瞳は虚ろに揺れ惑い、白一色に染まっている正面モニターをあてもなく彷徨っている。
 その双眸には、栄養不足から頬は削げて血の気の抜けた少年と寄り添う様に横たわる犬が、天から差し込む光に吸い込まれる様子が映し出されているのだろう。
 この時、アルダの吐く息はダイヤモンドダストに変わったかのように白く凍り、その口元にはうっすらと氷の被膜が被せられているかのようだ。そう、アルダはいまや凍死寸前であった。
 彼の見た幻や狂気に凌辱された精神の上げた笑声はすべて、生命を維持できるぎりぎりまで追い込まれつつあるアルダの精神が別世界にトリップしていたせいだ。
 では、なぜアルダが凍死寸前にまで追い込まれて、思考がかなりアレな感じなってしまっているかといえば答えは以下のとおりとなる。
 ジェネシスαでザラ派残党とジャンク屋の戦闘に介入した後、プロヴィデンスガイストが大気圏に突入した際に誤って、デブリと衝突してしまって進入角がずれてしまい、ブリザートが吹き荒れる北極に落下してしまった。
 それでも合流しなければと南下を始めたのは良かったのだが、その途中でプロヴィデンスガイストのエアコンが壊れてしまい、コックピットの中がマイナス数十℃という状態になってしまっている。
 下手なパワードスーツや旧型の戦車位なら素手で解体できるガイスター・サイボーグとなったアルダにも、この極寒地獄は耐えかねる環境らしい。
 アルダがまるで予測もしていなかった過酷な状況に追い込まれてしまったことのはじまりは、やはりプロヴィデンスガイストが大気圏突入時にデブリと衝突してしまい、合流予定が完全に狂ってしまった事だろう。
 ジェネシスα戦後すぐにダイノガイスト達と合流する腹積もりであったアルダにしてみれば、落下予定地点が狂ってしまった事は舌打ちの一つもしたくなるミスだったが、どうせだから観光でもするかと気分を変えた。
 予定通りならば遠くてもオーブか、近ければ日本にいるマユ達の下へと、ミスの事は忘れてのんびり穏やかに南下を始めたのである。
 道中、プロヴィデンスガイストで空を飛びながら、シロクマの親子やセイウチなどを遠目に眺め、ピロシキやボルシチやらキャビアやらに舌鼓を打ったのは良かった。
 気分を変えて機体を降りて、シベリア横断鉄道に乗り込み乗り合わせた乗客らと飲み交わすアルコール度数のバカ高い酒は実にうまかった。
 だが、その後に問題が起きた。機体を降りて自分だけ楽しんだのが良くなかったのだろうか、プロヴィデンスガイストの暖房が煙を噴いてぶっ壊れてしまったのである。
 折悪しく氷混じりの吹雪が吹き荒れてモニターが完璧に雪に埋もれて視界の利かない状態で、である。
 肉体の大半をガイスターロボ化したアルダであるが、さっきから歯はがちがちと砕けそうな勢いで音をたて、操縦桿を握る指はとっくに凍りついていそうだ。
 パイロットスーツを着ていれば問題は無かっただろうが、ダイノガイストに拾われる以前の癖を発揮してしまって、私服姿で機体に搭乗していた為に防寒対策が欠片もない格好なのである。
 鉄道に乗った時に毛皮のコートと帽子や手袋、マフラーを購入していたが、シートの後ろの方にしまってあるそれを着こむ事を思いつくだけの判断力は、すでにアルダから失われつつあった。
 マユ達に忘れられていたアルダは、誰にも知られぬところで地味に、密かに静かに、人生最大級のピンチを迎えていた。
 がんばれアルダ。負けるなアルダ。諦めたら死が待っているのだから。

 

 * * *

 

 さて、アルダがシベリアの極寒地獄にどはまりして生死の境を彷徨っているとは露知らず、ダイノガイストは予定通りにマイトガインとの戦いのお膳立てを進めていた。
 とかく巨大ロボットを悪用した犯罪の多いヌーベルトキオシティである。マイトガインとの戦闘を予定していたというのに、先に暴れられでもしたらこちらの勢いが削げるというもの。
 ガイスター以外のロボットが暴れてマイトガインが出現しても大きな問題があるわけではないが、下手に消耗したマイトガインと戦っても面白くない。
 そのためガイスターロボを使ってマイトガインをおびき寄せる予定なのだが、それより先にどこぞの犯罪者が作った巨大ロボットが出現した際には、ダイノガイストがこれを瞬殺しそのままマイトガインの出現を待つ手筈となっている。
 最初からダイノガイストが姿をさらせばそれで済む話であるのだが、そこはそれ、真打ち登場の前には前振りというものが必要なのである。
 都市上空でダイノガイストが待機している頃、母艦サンダルフォンは海底に潜伏し、マユ・シン・艦長、そしてテレビロボの三人と一体は、艦橋の正面モニターに映し出されるヌーベルトキオシティの光景をじっと見つめていた。
 光学迷彩と重力制御による無音浮遊能力を備えたヘリのラジコンをベースにした小型ガイスターロボを飛ばし、画像を受信して映し出しているのだ。
 巨大ロボが暴れてさえいなければ、ヌーベルトキオシティはエイプリルフールクライシスや、防がれたとはいえユニウスセブン落下という史上空前規模の災害に見舞われた地上の上とは到底信じられない繁栄ぶりだ。
 地球連合と深いつながりのあるセイラン家主導のもと見事に復興したオーブと比べてみても、見劣りしないどころか上回ると言っていいほどの超近代都市が形を成している。
 しかしこの繁栄こそがこの都市に他に例を見ない大犯罪をもたらす原因であり温床ともなっていると考えると、なんとも皮肉ではないか。
 そびえたつ巨大ビル群の落とす影よりさらに奥深い闇の中に息を潜める犯罪者達を、この街の豊さが引きつけ、育てているのは確かな事実なのだ。
 そしてこの光輝くが故に深い影を落とす街を舞台に、新旧ガイスターを束ねる首領ダイノガイストが降り立ち、ヌーベルトキオシティの守護者マイトガインを討ち果たす為に戦おうとしていると、シティの誰も知らないのだ。
 我知らず汗を握る自分の手に気づき、シンはそれを服の裾に押し付けて拭い、ごくりと音を立てて生唾を飲み込む。わずかに体を強張らせている緊張がほぐれる。
 シンはダイノガイストに対しては思うところ様々あれども、その戦闘能力に対しては絶大な信頼を寄せている。
 ユニウスセブンで目撃したマイトガインの戦闘能力は確かに目を見張るものがあったが、それでもダイノガイストの勝利はまず揺るがない――それがシンの考えだ。
 だが、テロリストたちと戦っていた時のマイトガインの勇姿を脳裏に思い起こす度、シンはかすかな不安のとげで心を突き刺される思いに駆られる。
 マイトガインの力とは異なる何かが、シンのダイノガイストに対する信頼を揺るがせる。シンは自分の左隣りでモニターを見つめている妹の様子を伺う。
 信頼の度合いははるかに自分を上回るこの妹が、はたして今回の決闘をどう思っているのか、気にならないと言えば嘘になる。
 避難所生活の時のように幼い聖女の如く祈っているのか、それとも揺るがぬ信頼の光を宝石のように輝く瞳で見つめているのか。
 どちらも正解といえ、どちらも外れといえた。
 マユはただ、無垢な瞳でモニターに映る光景を一瞬たりとも見逃すまいと見つめている。それは絶対の信頼を寄せている様にも、必死に不安に揺れる心を押し隠し通そうとしている様にも見えた。
 だから、シンはただ心の中でダイノガイストに告げるだけであった。二年前の、あの時のように。

 

(格好悪い所見せて、マユを泣かせるような真似はするなよ、ダイノガイスト!)

 

 ヌーベルトキオシティのあちこちに存在するあらゆる類の時計の針が午後十二時を指示した時、シティのある一角で都市全域に轟き渡る爆音が生じ、黒煙が噴き上がった。
 対マイトガイン戦の前段階。ガイスターロボを使った勇者特急隊をおびき寄せる作戦の始まりである。

 

 * * *

 

 ヌーベルトキオシティは最先端科学の凝縮した一大都市であるが、それ故に一日の内に排出される廃棄物の量も多大なものになる。
 巨大な人工島内部に設けると景観を損なう事や発生する異臭、立ち上る黒煙が問題視されて、大概のゴミ処理場はシティの外縁部に設けられた小島の上に設けられている。
 その大量の廃棄物、いってしまえばゴミを処分する大規模ゴミ処理場の一つに投下されたエネルギーボックスが、ダイノガイストの合図によって起動し、周囲のジャンクを取り込みながら巨大なガイスターロボへと姿を変える。
 午後十二時を合図に出現したガイスターロボは、廃車や運用期間を越えたワークローダー、ジャンクとなった旧式のMSから、電子レンジ、冷蔵庫、テレビ、エアコンといった家電を取り込んで、その姿を露わにする。
 巨大な一匹の蛇のように無数の廃棄物を組みこんだジャンクガイスターロボは、頭頂部に巨大な蛇の頭と無数のMSの腕を脇にはやして武器を持った外見だ。
 溶接用のレーザーバーナーを備えた尾先から、ゴミを成型した弾丸を射出するリニアキャノンを内蔵した頭部まで、百メートルに及ぶ巨躯である。
 巨大な山をなす無数のジャンクの一角が丸々と消え去ったあとに姿を見せたJGロボに気付いて、ジャンクを管理する会社が設けていた管理事務所に居た所員達が慌てて窓に張り付く。
 取り込んだ家電の様々な色に輝く鱗の体をくねらせながら、JGロボはゆっくりと層をなしているジャンクを踏みつぶしながらシティ本土へと向けて進み始めた。
 時折リニアキャノンやレーザーバーナー、ジャンクミサイルを撃って威嚇行為を行っている。シティにまで鳴り響いた爆音は、この時放たれたミサイルが巻き起こしたものである。
 シャアアアア、と本物の蛇さながらの鳴き声を震わせて、ゴミとエネルギーボックスから生まれたガイスターロボは、創造主に与えられた意図どおりにいかにもシティへ向かって進む様に動きながら、周囲に破壊活動を行う。
 もっとも辺りにはプレス待ち、焼却炉待ちのゴミばかりだし、在沖している人間の方も逃げだし始めているから、変な方向に流れ弾が行かない限りは、人的被害はゼロになるはずだ。
 街だけでなく人間の方にも被害が出れば、マイトガイン(正確には舞人とガイン)が怒りを露わにして戦う気力を充溢させるだろうが、ダイノガイストはそれを由とはしなかった。
 死傷者が出ればマユを筆頭にシン、艦長と新生ガイスターメンバーの半数が悲しみや憤りを露わにするだろうし、そうなればガイスターの中の不協和音はかつてないほど巨大なものとなる。
 さしものダイノガイストもその空気は流石に遠慮したいところ。それにエクスカイザーの残した命は宝、という言葉がいまもなおダイノガイストの行動を拘束している。
 JGロボが予定通りの行動を取っている事を、そのはるか上空で戦闘機形態のまま観察していたダイノガイストは、マイトガインの出現を沈黙して待ち続けた。
 必ず来ると分かっている相手を待ちつづける忍耐は、さほど長くは続かなかった。事業拡大に関する会議を急遽切り上げた舞人が、巨大ロボット出現の報を聞いてすぐさまマイトウィングで出撃した為だ。
 重要ではあるが退屈さは否めない会議を切り上げられた事に、すくなからず舞人に安堵する気持ちがあったのは事実である。
 旋風寺コンツェルンが事実上の支配者・統治者であるヌーベルトキオシティには、後に完成する勇者特急隊があらゆる場所に赴けるように地上に地下にと場所を問わず専用の路線が敷かれている。
 それはシティ本土から離れたゴミ処理場にも言える。非常時に備えて用意されていたルートでゴミ処理場の職員達が右往左往しながら退避するのを横目に、地を走ってガインとロコモライザーが姿を見せる。
 専用の路線とあってスピードを気にしない両者の速度は、豆粒ほどに見えたその影があっという間に巨大なものに変わるほどだった。
 マイトウィングとガイン、ロコモライザーの姿を確認したJGロボはおびき寄せる役目を終えたわけだが、そのまま陽動から戦闘へと目的を移行する。今度はマイトガインにとってのウォーミングアップの役割を果たす番であった。
 一方、ガイスターの思惑など知らぬ舞人は、マイトウィングのコックピットの中でJGロボに厳しい視線を向けている。
 これまでヌーベルトキオシティで戦ってきた犯罪者達は、全員が自分の美学ないしは信念を反映させたロボットを使ってきたが、ゴミ処理場に姿を見せたこのロボットはこれまでのどのタイプの機体とも異なる外見だ。
 それにロボットの搭乗者がスピーカーから大声で自分達の目的やらなんやらをわざわざがなり立てるものなのだが、今回の蛇ロボットからはまるで犯行声明らしい言葉は出て来ず、ただ威嚇の鳴き声を上げるばかり。

 

「こいつ、ジャンクでできているのか? それに生命反応が感知されない。全自動の機体か」
『舞人、気づいたか? このロボットこれまでのモノとは何かが違うぞ』
「ガインもそう思うか。だが、だからといって放置する事も出来ないな」

 

 到底ヌーベルトキオシティの警察の装備で対処できる敵でない事は、短時間の観察でも推察できた。東アジア共和国の軍隊が横須賀基地や伊豆基地から駆けつける前に、シティはこの蛇ロボットによって蹂躙されてしまう事だろう。
 あるいはマイトガインをおびき寄せる為の囮かもしれない、と舞人は思考するが、眼下の蛇ロボットはこちらを認識して戦う姿勢を露わにしている。
 蛇体の尾を激しく揺らしながら、ガインとマイトウィングを敵と認識して機体各所に仕込まれたジャンクミサイル(材料:家電)や口内のリニアキャノン、MSの装甲を使った牙を剥き出しにしている。
 得体のしれない相手に慎重策を取るべきかとも思うが、ここはこちらの最大の力をぶつけて彼我の戦力差を正確に測る、と舞人は判断を下した。この時点における勇者特急隊の最大戦力とは、すなわちマイトガインに他ならない。
 ガインとロコモライザーが蛇ロボットを目前に控えた距離で、舞人は勢いよくガインに呼びかけた。

 

「ガイン、一気に畳みかけるぞ。レッツ、マイトガイン!!」
『了解だ!』

 

 飛翔するとは到底信じられない大質量のロコモライザーに続き、車両形態のままだったガインが、マイトウィングと高度を合わせて逆三角形の形に並んで飛翔する。
 後方に位置したロコモライザーの車体後部が盾に折れ曲がり、真ん中から二つに分かれてそのまま青い巨大な足へと変わる。
 ガインとマイトウィングがそれぞれの先頭車両を左右外側に向け、車両後部は巨大な腕へと変わり、ロコモライザーの両側部へガイドビーコンに沿って着実に連結される。
 ロコモライザーの上部から現われたのは、マイトガインへと合体した時の頭部である。いまだマイトガインとしての意思が宿っていない為、カメラアイは暗黒に沈んでいる。
 そのマイトガインの頭部の口の部分には、球状の透過装甲に守られたコックピットがあり、マイトウィングから内部を通じてシートごと移動してきた舞人がそこに座していた。
 そのコックピット部分をカバーするフェイスマスクが左右から展開され、舞人を保護する。舞人はコックピットシートの左右のアームレストにある専用のスロットルレバーを握りしめてそれを押し込んだ。

 

「マイトガイン、起動!」

 

 ガインとマイトウィングの折れた車両最高部からは蒸気と共に五指を備えた巨大な手が回転しながら現れた。
 ガインの意思が移った巨体は、白い蒸気を纏う拳を頭上で打ち合わせてから、力強く腕を引きこんでその勇姿を世界に誇るかの様に降り立つ。
 かつてユニウスセブンを地球に落とさんと画策したテロリストたちに告げたように、マイトガインは高らかに口上を述べる。

 

『銀の翼に希望を乗せて、灯せ平和の青信号! 勇者特急マイトガイン、定刻通りにただいま到着!!』

 

 この地球に置いてダイノガイスト最大最高の好敵手となる勇者マイトガイン。ユニウスセブンでの戦いからさほど時を置かずして、再び直に目にする事になったその姿を、はるか上空でダイノガイストは静かに闘志を燃やしながら見つめていた。
 ゆっくりと足裏のバーニアから青白い炎を放出して大気を震わせながら着地したマイトガインへと、JGロボは間を置かずに攻撃を仕掛けた。
 プテラガイスト製のエネルギーボックスをデチューンしたもので作り出されているために、本家ガイスターロボに比べると若干性能は落ちるが、武装に関しては十分な火力を誇る。
 砲戦用MS数機分に匹敵するものがあるとだろう。これだけの火力に晒されれば、さしものマイトガインも軽視できないダメージを負うのは間違いない。
 IGロボは大きく開かれた口からリニアキャノンをマイトガインめがけて連続して発射する。超高速で放たれたジャンク弾は、MS程度の装甲なら数発で撃ち抜く威力でもって空中を飛ぶ。
 着地の瞬間を狙った回避の難しい射撃に、マイトガインはよく反応し、右に大きく跳躍して鮮やかにかわして見せる。
 マイトガインの残像を追ってJGロボは首を巡らしてリニアキャノンを連射し、音の壁を越え、風を撃ち抜く音と共に弾丸は次々とジャンクの山を崩し、鉄の地面に穴をあけて行く。
 鎌首をもたげたJGロボはマイトガインの頭上から攻撃する位置にあるから、命中させるのは容易な筈だが、軌道を読ませぬ舞踏の様に軽やかな動きでマイトガインは攻撃を無意味なものにしている。
 それまで不規則に動いていたマイトガインが、リニアキャノンの弾丸補充にかすかにJGロボが動きを止めた瞬間を見抜き、一機にその懐へと飛び込んだ。
 迎撃にJGロボが小型のジャンクミサイルを蜘蛛の巣のように放つが、その中をマイトガインはマイティキャノンやマイティバルカン、シグナルビームを使ってミサイルを撃ち落としながら、巨体に漲る45万馬力のパワーを叩きつける。

 

『くらえ!』

 

 大きく振りかぶった右の拳がJGロボの胴体に大きくめり込む。蛇体そのものをジャンクで構成するJGロボの防御面はひどく頼りないようだ。
 苦悶の声を上げて体を震わせるJGロボの体から右の拳を引き抜き、さらに腰の回転をたっぷりと利かせ、体重を思い切り乗せた左の拳を再びJGロボへと叩きこむ!
 勢いよく肘までJGロボに左の拳がめり込み、金属を叩き潰し貫く甲高い音が周囲に響き渡り、鋼の蛇の上げる苦悶の声が数オクターブ高くなる。
 そのまま拳を引き抜くのではなく、左側に腕を動かして内部からJGロボの機体を破壊する。大小無数のJGロボ内部の部品が、マイトガインの左腕にまとわりつきながら周囲にばら撒かれた。

 

「こいつ、妙に脆いな」
『やはり我々をおびき寄せる罠か?』

 

 先日戦った歌舞伎ロボやこれまでの敵と比較すると見上げるほどの巨体を誇りながら、装甲が妙に脆弱で、容易くこちらの攻撃が通る事実に舞人とガインは感じた訝しさを隠さない。
 とはいえ目の前の敵を斃さない事には次の行動に移れないのは確かだ。再び拳を撃ちこもうとしたマイトガインを、JGロボが大顎を開いて飲み込もうと襲いかかる。
 生え揃った牙は到底マイトガインの装甲を貫く事などできないナマクラであったが、それを知らぬマイトガインは素早い反応でその場から後方へと飛び退り、着地と同時に今度は地面に頭をめり込ませたJGロボへと飛びかかる。
 最大で700mを優に超す跳躍力を誇るマイトガインは、低い軌道で弾丸のように跳躍し、その途中で動輪剣を引き抜き両手で握りしめていた。
 自ら地面に頭をめり込ませ、行動の自由と視覚を封じられたJGロボは、尾を振り上げてレーザーバーナーを四方八方へと照射して、マイトガインを迎撃しようと足掻く。
 不規則に振り回されるJGロボの尻尾の動きは予測をつけにくいものであったが、機体に直撃するものを動輪剣の腹で受けとめて、マイトガインは後方へと流していた動輪剣を閃光の速さで振るう。
 ひょう、と巨大な金属の塊を切断したとは信じられぬ風が吹いたような音が一つ。
 ずる、と滅多やたらと振り上げられていたJGロボの尾が音をたてながら斜めにすべりおち、鮮やかな切断面を晒しつつ落ちる。直径数メートルに達する尾を水のように切り裂いたマイトガインの一刀のなんたる斬撃力。
 残心を取り切っ先を青眼に構え直してマイトガインはJGロボを振り返る。JGロボはようやく頭を引き抜き、尾を割かれてバランスの崩れた体の姿勢を保ちつつ、マイトガインに威嚇の咆哮を叩きつける。
 だが、それに怯む様であるのなら、舞人とガインに勇者の二文字が冠せられる事は無かっただろう。

 

『舞人、ここで決めるぞ』
「ああ、動輪剣!」

 

 固く握る動輪剣をJGロボへ見せつける様にして突き出し、赤い柄の部分にある二輪の黄金動輪が勢いよく回転を始めるや、動輪剣の刃を眩く輝く光が覆ってさらに巨大な刀身と化して天を突く。
 JGロボさえはるかに上回る巨大な光の刃とかわった動輪剣を両手で握り直して、マイトガインはその跳躍力を最大に生かしたジャンプを行い、降下の勢いを乗せて一挙にその規格外の光刃を振り下ろす!

 

「――縦一文字斬り!!」

 

 使いどころを間違えたら守るべき市街にも甚大な被害を及ぼしそうな一撃は、お世辞にも頑丈とはいえないJGロボを、一切の抵抗なく両断して見せる。
 先ほど尾を切断した時よりもはるかに鮮やかな、いや、すさまじい切断面からは紫電が生じ、機体内部にあるミサイルなどに誘爆してさらに大きな爆発をもたらす。
 マイトガインはゴミ処理場を大きく震わせる爆発に背を向けて、血振りの動作で動輪剣に残るエネルギーの残滓を振り払う。
 呆気ないほど簡単に決着がついた事に多少拍子抜けする様な気持ちで、舞人は息を吐く。容易に倒せたが、ならばやはりこのロボットは自分達をおびき寄せる罠か?
 そのように危惧する考えがちらりと舞人の思考をかすめた時、ガインの警告がその耳を打つ。

 

『舞人、上空から急速に接近する熱源がある。これは』
「まさかっ!?」

 

 人型へと姿を変えたダイノガイストが、滾る陽光を漆黒の装甲に煌めかせながら、ゆっくりと両腕を組んだ立ち姿で、マイトガインの下へと降下してきたのだ。
 ユニウスセブンでほぼ敗北したに等しい苦い記憶が呼び起こされ、舞人の口元からぎり、と歯軋りの音が零れる。マイトガインを上回る巨躯から戦意を迸らせながら、ダイノガイストは音をたてて地に降り立った。
 納めかけていた動輪剣を右下方に切っ先を流した構えに持ち直し、マイトガインは両肩よりもやや幅を取って両足を開く。何かあれば前後左右上と五つの方向に、すぐさま跳躍できる。

 

「このタイミングで姿を見せるとは、先程のロボットはお前の手先か!」

 

 舞人の詰問に、両腕を組んだ姿勢のまま、マイトガインを見下ろしていたダイノガイストが答える。

 

『その通りだ。貴様をおびき寄せるためのな。ちょうど良いウォーミングアップになったか?』
『なに? では、私達と戦う為にこんな騒ぎを起こしたのか』
『その通りだ、マイトガイン。先日の戦いでおれが残した言葉、よもや忘れてはいまいな。今一度貴様の前に立ち、貴様を容赦なく叩き潰すとな。今日は目障りな貴様を斃しに来たのよ』

 

 ダイノガイストは挑発の言葉を織り交ぜながら口を開き、あくまで悠然と腕をほどき、軽く五指を開いた。戦闘態勢をとるマイトガインに呼応するようにダイノガイストもまた、徐々に戦闘モードへと意識を切り替えつつある。

 

『さあ、このダイノガイストと戦ってもらうぞ、マイトガイン!!』

 
 

 (つづく)