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C.E.78 ◆RcLmeSEfeg氏_第01話

Last-modified: 2007-12-12 (水) 18:52:37





「一緒に戦おう」
 あぁそうか。俺は甘えたかったんだ。殺し合った人達が、俺を受け入れてくれた。


 それに、縋りたかった。


 戦おうじゃないか、一緒に。俺がするべきことは今も変わらないはずだから。場所なんて関係ない。これからも俺は、戦っていけるのなら……。




でも……世界は何時だって、俺に冷たい風を運んでくる。




 C.E78。彼はまだ、深い眠りの中にいる。






機動戦士 GUNDAM SEED ―C.E78―


『何時か還る紅花』




〜第一話 接触〜




 オーブ連合首長国。大小様々な島からなる、技術立国である。もっとも、その繁栄を支えるのは技術と言っても軍需。
最新のMS開発技術によるものではあるが。
 C.E78において、オーブは“地球でもっとも強い”軍隊を保有することでその名を馳せていた。




 鼓膜を病的なまでに苛む騒音が、今日も港に響く。本土防衛用MS、『ヤマト』の誇るオーブ最新技術の塊、エクスドライブの“安定しない”駆動音だった。元々、エクスドライブの『エクス』は『X』。すなわち『未知』を示す意味で使われていた。
何が未知なのかは分からないが、内部でもその『未知』を知るものはごく僅かだったそうだ。なんでも、ある組織からの贈り物、だったらしい。実しやかに囁かれているが、真偽の程は定かではない。
核分裂炉に匹敵する出力をたたき出すモンスター。しかし、その代償なのかなんなのか、この怪物の唸り声は猛獣のそれであった。要するに、
「……うるさいんだよ。相変わらずだな、あの新型さんのぎゃあぎゃあ声は」

 
 その男は埠頭にぽつりと立って、釣りを楽しんでいた。先程まで、入れ食いと言っていい盛況ぶりだったというのに、あの迷惑MSの群れが飛び去っていってからぴくりとも竿は動いてくれなくなった。
 最悪だ。小市民の束の間の休息を奪って、何がそんなに楽しいんだ。
「今日はもう駄目か、な」
男は名残惜しそうに、リールを回し始めた。僅かに残った餌を、海に放ってやる。オキアミだが、まあご馳走だろう。この海の魚は、基本餌に飢えていた。
「明日もよろしくな」
 魚は友達。あ、でも明日は雨だったな。男、シン・アスカは薄ら笑いを浮かべて大海原と向き合う戦場を去った。




 帰りに雑貨屋に寄って、生活必需品を幾らか補給しておく。同居人が切り詰めてくれているお陰で、生活に苦はないが、これくらいのことは手伝ってやりたかった。まったく。人も変われば変わるものだとシンは思った。
「今日は一段と暑いな」
空いている右腕で、額の汗を拭う。柄のない白いシャツと、紺のジャージという、飾り気も何もない格好。もっとも、暑さをやり過ごせるはずもない。暑いものは暑かった。こんがり焼けた肌に熱がこもっていけない。
 ふと、歩道の遥か先を見やった。
「逃げ水、か」
蜃気楼の一種。追えばそれだけ向こう岸へと逃げていく湖。渇きに喘ぐ人々は、そうと知っても追いかけるのか。
「……馬鹿らしい」
柄にも無く感傷的になっていたらしい。似合わないその装飾を、頭を振って捨てた。
「さっさと帰るか」
今は冷房が恋しかった。シンは買い込んでいたはずのビールが切れていないことを祈った。




国外追放、と言うのか。C.E73戦後、シンは復隊を許されたものの冷遇され、なし崩し的にプラントを追われた。
元から風当たりは強かった。向けられる眼差しもまた。何せ、自分は『デュランダルの私兵』だったのだから。
当時最新鋭にして、ザフトの象徴となるはずだったMS、デスティニーを与えられ、デュランダルとの接触も多かったシンを、新しいザフトはそう評価した。
彼の力と人柄を汲み取った上で、供に戦う同志として迎え入れたラクス・クラインにも、シンに対する迫害を止めることは出来なかった。
むしろ、ラクスというカリスマを取り巻く熱狂的支持者が、シンを危険分子として排除しようとしていたのだから、彼女が何をしようと無駄だったのだ。
シンは一人、恋人だった少女、ルナマリア・ホークともその縁を切って、地球に落ち延びた。


「それが今じゃ、あれだけ憎んでいたオーブに、か」
 監視が付いていることには最初から気付いていた。今、同居している女性がそれだ。娼婦だった。喰ってやった。それからも関係は続いている。
演じている恋人は甘く心地良く、毒だった。見られていても関係ない。自分はもう、何もすることができないのだから。
二年前に起こった反乱を知った時、眠っていた何かが、ほんの少しだけ動いた。だが、その後のプラント市民達の動きを知るや、それはそれまでよりもさらに深く沈んでしまった。


 彼らは受け入れた。反乱を起こした、アスラン・ザラ達を。戦うことが怖かった。というよりも、一般市民にとってはどうでもいいことだったらしい。
彼らの生活は、変わることもなく続いている。人々がこれまでどおりなのに、何をカッコつけて立ち上がろうとしている?シンはその日、久方ぶりに享楽に酔った。
もう、いくら怪しんだところで、何も出てきはしない。いい加減、気付けというものだ。もっとも、それまでこの与えられた関係が続くのなら、それはそれで構わない。
飢えだけは、あの吸血鬼の吸血欲のように絶え間なく続いているのだから。




 ふと、シンは振り向いた。
「ん?」
何となく、何か違和感のようなものを感じたから。特に意味は無かった。誰か、知っている人の気配を感じた気がした。
 自分が歩いてきた道に、一人の少女が立っていた。
「……」
ぽつんと。そんな表現がしっくりくる。彼女は“一人”だった。そこだけ切り離されて、周りの景色とは決して溶け込まない。
いや、溶け込めない。日差しにやられ、誰も彼もが肌を焦がしているというのに、その少女だけが、白かった。
 麦藁帽になびく白い髪。新雪のように白い肌。赤いワンピースだけが際立って、シンの眼に焼きついた。
 きっと、ここからでは陰に隠れて見えない瞳も、赤いのだろう。シンは何故だかそう思った。それは半ば確信だったけれども。
「あっ……」
口が独りでに開いて、何かを紡ごうとする。
 それより先。黄金の輝きが街の中心を貫いた。




街は一瞬で災厄の真っ只中に。ビームに貫かれたビルが次々と倒壊していく。街を襲う突風と粉塵。着陸した一機のMSの噴射が、熱と風を巻き上げ、下界を削る。




 巨大なスクリーンを中心に、オーブ軍服に身を包んだ男達がそれぞれに割り振られた座席に腰を下ろしていた。胸の階級証を見ると、全員が佐官以上だということが分かる。
『敵MS、市街地に侵入』
感情を感じさせない、機械的な音声がスピーカーを通して響く。分かりきっていた報告に、それでも一人の佐官がいきり立った。
「我が方の軍は、一体何をしていたのだ!」
「落ち着け。敵の狙いは明らかにモルゲンレーテだ。予期せぬ事態ではあるが、最悪の事態は回避された」
「さよう。これは幸いだよ。所詮、今のプラントと反乱軍は、海賊の成り上がりに過ぎぬさ。抗議に意味は無。こちらで勝手に処理させて頂こう」
「……多少の犠牲は付き物、か」
それぞれの打算で、現在の状況を噛み砕こうとする上層部。市民の生命を軽視した、国民を護る立場にあるべき本来の姿勢とは大きく違うが、これも彼らの常套手段。
オーブの国防は、民を護る為のものではなく、『国』を護るためのものなのだから。保持するべきは、厚き志なのだという。
「あの、なんと言ったか……ゲルググか。あの一機や二機、我が方のヤマトで十分に対応できるよ。核など、近いうちに過去の産物に成り果てる。もうエクス・ドライブの時代は近い」
自軍の優位を疑わない彼らはしかし、自分達の保有する兵器が如何なる問題を抱えているかも知らなかった。


「だぁっ!どうなってんだよこれは!」
灰色の繋を着た老年の整備士が、握り締めたスパナを思いっきり投げ捨てた。
投擲されたスパナは、隣で作業に勤しんでいた整備士の頭上を掠めて飛んでいき、廊下をバウンドした。
「わぁっ!何すんですかお頭!」
「うるせぇ!動かないんだよ!この新型MSさんがよ!」
 同じことが、同格納庫に置かれた全てのヤマト―エクス・ドライブ搭載型MSで起こっていた。




オーブ国防省本部では、刻一刻と変わっていく状況、というのは建前で、実際は何も変わっていない状況の処理に追われていた。MSゲルググ一機が、街を蹂躙している。
そこに作戦行動の意図など無く、ただ無差別な殺戮を繰り返すだけ。
「現在のザフト系列の機体だが、残党のネオザフトも保有している。果たしてネオ・ザフトの手のものか」
「もしザフトならば……幾ら海賊風情と言っても、一応は一国家の抱える軍。さすがにこれは……」
「自軍以外が、エクス・ドライブを保有することをそこまで嫌うか。警戒するのも分かるがこれは……」
宣戦布告も無しに突然の侵略行為とも取れる。しかし、今のネオ・ザフト、ひいてはプラントにはオーブを攻撃する理由が無い。今は友好国では無いにしろ、オーブは中立国。
戦中でない今、攻め込む理由も無いはずだった。それならば、今起こっていることをどう説明する?
「……他国の侵略にしろテロにしろ、今はあの一機のMSをどうにかせねばならん」
「MSゲルググ。核動力搭載、ですか。まったく厄介なものを持ち出してくれますな」
溜息を吐く。二人の後ろでは次々と入ってくる情報の対応に追われる兵達が、目まぐるしく動いていた。
 状況は変わらない。ただMSが無差別破壊を行っているだけ。しかしそれはやけに執拗だった。
「……ヤマトが使えぬというのなら、他で対応させればよい。例の機体を核に、ムラサメ三式二個小隊を付けてやれ」
 白髭を生やした老兵が、しわがれた声でようやく出撃の指示を出した。
「しかし、たった一機のMS相手に二個中隊。しかもあの機体を付けてとは。お言葉ですが、些か無駄が――」
「あの機体を侮るな。侮れば、命取りとなる。あれに対抗できるのは、本来我が軍ではヤマトだけだ」




 逃げ惑う市民の流れに逆らうように、シンは人の波を掻き分けて走った。特に理由があったわけではない。
ただ、突然の混乱に見失ってしまったあの少女のことが気になっていた。
「っ、何処に……」
シンは人の壁の間を抜けて、手を伸ばす。焦燥?自分は焦燥しているのか?
「くっ、うぁ」
 何かの意志に引っ張られるように、シンは駆ける。
 その頭上を、六機のMSが軌跡を残して飛び去っていった。


『命令は撃退だ。しかし、核搭載機を市内で破壊するわけにはいかん。四肢の破壊。なんにしろ、動力は避けろ』
「自爆の危険性は?」
『……海上に誘い出して対応する』
「……了解」


 シンの目の前で、一機のムラサメ三式が戦闘機を模したMA形態からMSへとその姿を変えた。
着地と同時、腰のウエポンラックに収納されたビームサーベルを抜き、すぐさま刃を展開。車道を滑るようにゲルググへ肉薄する。
ムラサメ三式が黄金に輝く刃を振り下ろす僅か前、ゲルググは腰を沈めると前面に配置された推進器を吹かして一気に後退。
その一太刀を危なげなくかわしてみせた。今度はゲルググが攻撃に転ずる。
右手に構えたライフルを腰にマウントすると、左腕に固定したラグビーボールを平面にカットしたような大型シールドからサーベルを取り出して摺り足の姿勢でムラサメ三式との距離を縮めて斬りかかった。
振り下ろしの体勢に入った瞬間に、ビーム刃が形成された。


 シンは展開される狂乱の様を見つめて、
「負ける」
と、一言だけ残して走り去った。 
 あれだけ続いていた人の川も、もう抜けている。




 シンの呟きは予言だったのか。数回かわされた攻防を制したのは、ゲルググだった。コクピットを一突きされたムラサメ三式は、力無く倒壊したビルに沈んでいた。
 ゲルググは、ゆっくりとその巨体を動かす。隆起に富んだグラマラスなボディを包む光沢の青に、飛来する後続の敵機を映しながら。
「ちぃっ!化け物が!」
ムラサメ三式のパイロットは、ゲルググを前にして驚愕に震えていた。操縦桿を握る手が震える。パイロットとしての矜持が、自信が、脆くも崩れていく。
 白兵戦を得意とする一機が先行して勢いを殺し、空中からの牽制で、海上へと案内する。そのはずだった。実際はどうだ。
先制攻撃を仕掛けたムラサメ三式は容易く倒され、あっさりと一個小隊が片付けられてしまった。
「こんなことが……」
失意の声を溢した時、彼は真下から飛び込んできたゲルググの一刀に、真っ二つに断ち切られた。


その後ろで、戦闘に参加すらせず、ただ浮いているだけだった一機のMSが戦闘から逃れるように降下を始めた。そのMSのパイロットは、オーブ軍の中でも精鋭と呼べる逸材であった。
あのメサイア戦をも戦い抜いた彼は、自分のパイロットとしての実力に、確かな自信があった。
 そんな彼が、たった一機のMSすら制することが出来ていなかった。
「一体、なにが!?」
彼の悲鳴に、答える者はいなかった。街の一角に新たに備えられたかのような空き地。先程までの戦闘で作られたそこに、MSは着陸した。
機体の自由は利かないが、外の光景だけは入ってくる。
そこで彼が見たものは、白の少女と、一人の青年の姿だった。


 燻る炎の中を行くシンは、引き寄せられるようにそこへたどり着いた。
原型を留めていないMSの残骸―ゲルググに一蹴されたムラサメ三式の、許しを請う様に天に突き出された掌。
 白い少女は、そこに腰掛けていた。
「君か」
「……」
シンの問いに、少女は答えない。麦藁帽が作る陰で、表情も読めない。
 感情を感じさせない少女に、シンは薄ら寒いものを感じた。
 一分ほど、シンが少女を一方的に見つめていただろうか。ふと、シンが気を逸らすと、
「あなたは」
少女が口を開いた。
「!?」
驚き、少女を凝視するシン。戸惑いと、期待。期待?自分は、この少女に何を期待するというのだろうか。
「あなたはまだ、生きている?」
その問いに、どのような意味が込められていたというのだろう。少女の背後。彼女を守護するかのように、一機のMSが降り立った。
シンはそのMSを、静かに見上げた。
 灰色の、MS。直線で構成された、連合のダガータイプMSを髣髴とさせるフォルム。シンはしかし、このMSにかつての愛機達に感じた愛着のようなものを感じた。
それは暖かな感触。苦難を供にした彼らに抱いた想いとは、同じようで違うその感覚を、シンは持て余した。
「(いや、まったく違うはずだ。ならこいつは……)」
戸惑うシンに、少女は言う。
「生きているのなら、戦って」




『オーブ、オノゴロ島市内にて、所属不明機とオーブ軍MS隊の交戦を確認』
「やってくれるぜ。にしても地球最強さんは、新型MSの一機も持て余すのかい!?」
『おおかた、エクス・ドライブの不備でしょう。“粗悪品”しか保有していないオーブじゃあ、あの奇跡も、ただの物言わぬ動力扱いなのよ。
こちらとしては、予想通り、と言ったところかしらね』
「……まったくもって、救えんね」
『エド。私達は任務を果たすだけよ。これからあの国がどんな運命を辿ろうと、関係ないわ』






 機体が、鳴く。そんな表現が自然か。シンは今まで感じたことの無い感覚を乗り込んだMSから感じた。 
搭乗したパイロットは締め出した。後は動かすだけ。
「この感覚は、何なんだ?」
このMSは生きている。シンはそう思った。この唸りは、生物の鼓動に近い。
 ドクン。機体の中心に火が付いた。
 ドクン。ゴーグルの中に光が奔る。
 ドクン。何かのギアが、一気にかち合っていく。MSの中で。シンの中で。
 そして立ち上がるは灰色の翼。




 その名はジム。




「上手く……いってくれよ」
 陽光と爆煙を等しく受けて、そのゴーグルに崩壊する街並みを映した巨人は、躊躇い無くゲルググへと踊りかかっていった。








 不思議と、あの少女への違和感は消えていた。












次回 第二話 『染まる日々』



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