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CCA-Seed_◆ygwcelWgUJa8氏_05

Last-modified: 2012-09-19 (水) 02:12:49

 宇宙空間に浮かぶ、白銀の砂時計。
 もっとも細まった中央を支点に、ゆっくりと回る巨大な構造物――天秤棒型と呼ばれる、新世代の宇宙植民衛星である。対になった二つの円錐と、太陽光を採取する三枚のミラーから構成される。ほぼ百基に及ぶそれが、漆黒の闇に並んださまは壮大だ。
 これが爛廛薀鵐鉢瓠宗愁魁璽妊ネイターたちの本国である。
爛凜Д汽螢Ε広瓩ら降り立ったアスランとラウは、軍事ステーションを離れるシャトルに乗り込んだ。機内には、先客が一人いた。年齢は四十代半ば、鋭い顔立ちの男は、軍事ステーションには珍しいスーツ姿だ。
 男の顔を見たとたん、アスランが微かに息を呑んだ。一方ラウは驚きも見せずに微笑む。

 

「ご同道させていただきます、ザラ国防委員長閣下」
「挨拶は無用だ。私はこのシャトルには乗っていない」

 

 男はにこりともせずに言い、念を押すようにラウに言った。それを見ていたアスランは、ぎこちなく頭を下げた。

 

 「はい……。お久しぶりです、父上……」

 

 アスランは、彼に会うたびに寂しさのようなものを感じていた。母が死んでから、いつもこうなのだ。父子とは思えないような、よそよそしいやりとり。
自分が軍に入ると決めた時も、クルーゼ隊に配属された時も、一番の成績でアカデミーを卒業した時も、その時から何も変わらない冷たい目……。
 男の名はパトリック・ザラ。最高評議会のメンバーにして国防委員長――そして、アスランの父だった。
 だが、ふいにアスランの肩に優しく手がおかれた。

 

 「――良く無事で戻ってきてくれた、アスラン」

 

 アスランは驚いて顔を上げ、父の姿を見やる。そこには、まだ母が生きていた頃のような、優しくも厳しい父の静かな笑みがあった。すぐにいつもの表情に戻ってしまったが、アスランはそれだけでも驚きが隠せずにいた。

 

 「――レポートに添付された君の意見には、無論私も賛成だ」

 

 シャトルが動き出すと、パトリックはラウに見せ付けるように、プリントアウトしたレポートを手のひらで叩いた。

 

 「問題は山積みだ。我々を越えるナチュラル、か……」

 

 父の言葉にアスランはうつむいた。その彼を、父は優しくなぐさめる。

 

 「――お前も死に掛けたと聞いたぞ。……ジュール議員のせがれは負傷もしたそうだな。それを聞いたとき、私は――体の震えが止まらなかった」

 

 そう言ってから、パトリックは苦しそうに顔をしかめた。

 

 「父上……」

 

 アスランはうなずいた。同時に、自分はこんなにも大切に想われていたことを見抜くことができなかったことが、少し恥ずかしくなった。

 

 「クルーゼ、よく彼らを守ってくれたな。礼を言う」
 「いえ、勿体無いお言葉で……」

 

 パトリックとラウの会話を聞きながら、アスランは昔の事を思い出していた。――あの頃は、戦争なんて嫌だと思っていた。
それなのに、今は自ら銃を取る身だ。キラが責めるのも無理はない。キラは、友達を守りたいから戦うと言った。
 ――そういえば、父上も……確かキラのことを……。
 アスランがキラと友達になったきっかけは、彼の母、レノア・ザラがキラの両親と親しかった事から始まった。
ならば、その夫であるパトリックも、知っていると考えるのが当然だろう。アスランは、恐る恐るキラのことを報告することにした。

 

 「父上、ご報告が遅れましたが……爛好肇薀ぅ瓩離僖ぅ蹈奪箸蓮▲魁璽妊ネイターなんです」
 「なんだとっ!? 何故それを黙っていた、そんな大事な事を――」

 

 驚いて聞き返すパトリックの言葉を遮るように、アスランはうつむいて言った。

 

 「――ヤマト夫妻を覚えておいでですか? 母上が仲良くしていた、あのヤマト夫妻を」
 「……ああ覚えている。何度か会ったこともある。お前と同じくらいの年の子供がいたな……キラ君と言ったか」

 

 ――キラ。アスランは友の姿を思い出し、胸に痛みを感じながら言った。

 

 「キラが……乗っていたのです。爛好肇薀ぅ瓩砲蓮

 

 ラウの瞳が、仮面の奥で見開かれた。それに気づかず、パトリックが深く息をつく。

 

 「……そう、か。仲が良かったのだな」

 

 何かを思い出すように言うパトリックに、アスランは「……はい」とだけ答えた。

 

 「……すまんな、アスラン」

 

 そう言って頭を下げるパトリックに、アスランは自責の念に支配された。報告が遅れたこともそうだが、友人と戦うことになってしまったアスランの気持ちを汲んでくれたこと、
しかし、議員として、戦場に送り出さねばならなく、何もしてやれない事を悔しく思っている父の姿を見てしまったこと、そしてその父の優しさに気づく事ができなかったことに……。

 

 「ですが、こちらのモビルアーマーのパイロットはナチュラルだと断言できます。そうだな、アスラン」

 

 ラウが水を刺すように言うが、パトリックは天を仰ぎ遠い目をして弱々しく息を吐いた。

 

 「……ああ。本当に、ナチュラルなのだな」
 「はい……。あれに乗っていたのはナチュラルです。ナチュラルだったからこそ、私たちはこうして――」

 

 アスランはあの時の戦闘の内容を、簡単に説明した。相手の技量、動きの特徴、そして自分達が藁にもすがる思いで実行した土壇場の作戦、実際に戦ったからこそわかる、あの絶望感……。
そしてそれからくる説得力には、なんとも言いがたいものがあり、パトリックも納得するしかなかった。
 彼らの乗ったシャトルは、ゆっくりとプラントの一つに近づきつつあった。爛▲廛螢螢Ε后Ε錺鶚瓠∈廼評議会の首座が置かれる都市だった。

 
 

PHASE-05 宇宙の傷跡

 
 

 「――再度確認しました。半径五○○○に敵艦の反応ありません。完全にロストしたもよう」

 

 トノムラの報告に、クルー達はほっと息をついた

 

 「爛▲襯謄潺広瓩、いい目くらましなってくれたってことかな? だったらそれだけは感謝しないとな」
 「あの禿、役に立ったってことですね」

 

 ムウとフレイがガルシアの容姿を思い出して、苦笑しながら皮肉を言った。それを見てサイとトールは、顔を合わせて楽しそうに笑みをこぼす。皆、あの嫌味な司令官の事を嫌っていたのだ。

 

 「しかし……こちらの問題は何一つ解決してないわ……」

 

 マリューが憂鬱な表情になる。結局爛▲襯謄潺広瓩琶箋襪鮗けることはできなかった。地球を挟んで対極の位置にある月までは、まだ遠い。
爛悒螢ポリス瓩農僂濆めた物資、弾薬はモビルスーツの予備パーツ、武器などがほとんどだったために、それだけではとうてい持たないことは目に見えている。
 ムウがマリューの側に寄り、声を低めてたずねた。

 

 「実際のとこ、どうなんだ。やばいのか?」
 「食料は非常糧食もありますが……問題なのは、水ですね」
 「水、ですか……。爛▲襯謄潺広瓩ら少しばかり持ち込めましたが――」

 

 苦い顔をするマリューに、爛▲襯謄潺広瓩ら同行してきたメリオルが声をかけた。

 

 「――避難民の数が多すぎて、それこそ焼け石に水といった様子です……」

 

 申し訳無さそうに言うメリオルを見てマリューは「それは仕方が無いことよ」と声をかけた。 
 結構ちゃっかりしてるんだな、と思いながら、ムウは今後の事を考える。

 

 「……水、か」

 

 「ともかく方策を考えましょう。水はできるかぎり節約して……避難民のみんなにも協力してもらってね」

 

 かくなる上は出来るだけ早く、月へ辿りつかなければいけない。航行予定コースのシミュレーションが、モニターの上に呼び出された。

 

 「これで精一杯か? もっとマシな航路は取れないのか」

 

 ナタルがいらいらと言う。

 

 「無理ですよ。これ以上地球に起動を寄せると、デブリベルトに入ってしまいます」
 「デブリの中を突っ切れれば、早いのにね」

 

 と、マリューが苦笑気味に言うと、ノイマンも苦笑で応じた。

 

 「この速度で突っ込んだら、この艦もデブリの仲間入りですよ?」

 

 デブリ帯とは、地球を取り巻く宇宙ゴミのたどり着く宙域だ。人類が宇宙に進出して以来、廃棄された人工衛星や宇宙開発において発生する様々な廃棄物が、宇宙空間に捨てられてきた。いわばゴミの墓場と言ってもいい。
 ふいに、モニターを見ていたムウがつぶやいた。

 

 「待てよ。デブリか……」

 

 なにか思いついたらしい。彼は端整な顔に不敵な笑みを浮かべ、マリューを見た。

 

 「――不可能を可能にする男かな、俺は?」

 
 

 エレベーターが効果するにしたがって、雲の切れ目からアプリリウス市の全景が見えてくる。ミラーからの反射光を受けてきらめく海、そこから浮かぶいくつかの碧い島々。
それらが奇跡のように美しいと感じるのは、無機質な軍艦で何週間も生活したあとだからというだけではない。白銀に煙る自己修復ガラスの外は、生命の存在を許さない非常な宇宙空間だ。
その中にぽっかり浮かんだ浮島のような、はかない人間のいとなみは、だからこそ偉大に、そして美しく映る。
 アスランとラウは、プラントの支点に設けられた宇宙船ドッキングベイから、底部へ伸びる全長六○キロに及ぶ長大なシャフトを、エレベータで降下していた。
 ラウはシートに座ってコンピュータ上の資料を読み、アスランは立って美しい下界を見下ろしていた。エレベータ壁面のモニターでは、ニュース映像が流れている。
 〈――では次に、爛罐縫Ε后セブン當錨蕁一周年式典をひかえ、昨夜クライン最高評議会議長が声明を発表しました……〉
 アナウンサーの声に、アスランとラウの目がそちらを向いた。画面には四十代後半の、品の良い面長の男と、その脇に控えるように立つ、一人の少女が映っていた。
アスランの目は自分でも意識しないまま、その少女に引き寄せられた。
 その姿は、どこにも尖ったところや硬いところがない。ふわふわと波打つ長い髪は柔らかなピンクに染められ、透き通るような白い肌によく映えている。
大きな瞳はどこか夢見るような色をたたえ、ふっくらとした頬をつつけば、今にも笑みをこぼしそうだ――彼女の名はラクス・クライン。クライン議長の愛娘にして、爛廛薀鵐鉢甍譴硫良院△修靴董宗宗

 

 「――そう言えば、彼女が君の婚約者だったな」

 

 ラウの声で、アスランは自分が彼女をまじまじと見つめていたのに気づき、焦って視線をそらした。爛廛薀鵐鉢瓩犬紊Δ巴里辰討い觧実だ。隊長が知っていても当然なのに、妙に動揺してしまう。
 周囲はもう彼女との仲が決まったもののように言う。アスランとて、ラクスのことを嫌ってはいない――いや、むしろ好ましいと思い、大切にしたいとは思える。だがいずれ自分達が結婚する仲だとは、実感を持って考えられないのだ。

 

 「彼女は今回の追悼慰霊団の代表もつとめるそうじゃないか。素晴らしい」

 

 ラウは彼の動揺に気づかないのか、それとも気づいてわざと言っているのか、にこやかに話を続ける。

 

 「――ザラ長官とクライン議長の血をつぐ君らの結びつき――次世代にはまたとない光となるだろう。期待しているよ」
 「……ありがとうございます」

 

 空々しくさえ感じられるラウの賛美に、アスランはぎこちなく頭を下げた。

 
 

 爛好肇薀ぅ瓩寮鞍を終えて、キラとアムロは食堂へ向かった。一時的だとはいえパイロットとして戦うのならば、自分の機体の事は熟知しておいたほうが良い、とアムロに整備の仕方を教えてもらっていたのだ。

 

 「おっつかれ」

 

 先に食事をしていたトール達がキラに笑いかけ、アムロに軽く会釈をした。食卓に並んでいるのは、艦の苦しい状況を反映して、やや味気ないメニューだ。

 

 「アムロさーん、こっちでーす」

 

 フレイがにこやかに手を振っているのを見て、アムロは苦笑して答える。キラはその様子を羨ましく思いながら席についた。
そのとたん、テーブルががたんと揺れた。

 

 「え、な、なに?」
 「よう、キラ・ヤマト」

 

 突然、あざけるような口調で名前を呼ばれ、キラはそちらを見た。そこには、苛立ったような顔をした長髪の少年が……。

 

 「カ、カナード……パルス……。そっか、無事だったんだっ」

 

 彼は一応コーディネイターの同胞だ。あの時のことが気がかりで、彼の無事にキラは嬉しくなって声をあげた。カナードは舌打ちをした。

 

 「オレに何をされたか忘れたか?」

 

 更にあの時のことを思い出して、キラの顔が一瞬こわばる。だが、意を決してカナードに聞いた。

 

 「あの……君はどうして……?」
 「……はあ?」
 「……君は、コーディネイターなのに、どうしてあんなところに……」
 「……ハッ、無知とは罪だとよく言ったものだ。連合のコーディネイターなど、どこでもこんなものさ。奴らは首輪をつけて上位種を飼いならしているつもりなのだろうが、そうではない」
 「連合のコーディネイター?」
 「その国の重犯罪者、死刑囚、捕虜、もっと言えば知人家族を保護という形で人質に取れば、同族意識の高いらしいコーディネイターは飼い主のナチュラルに尻尾を振らねばならなくなるのさ」
 「じゃあ、君は……?」
 「オレは違う。オレの同属はヤツらではないし、同属などいはしないさ。オレが上だ」
 「上……?」
 「お前の、上だ。ククク」

 

 ――この男……。楽しそうに高笑いをするカナードを見て、キラはわずかに目を細めた。すると――。

 

 「――最っ低」

 

 声がした方向を、カナードはジロリと見た。そのとたん、フレイがアムロの影にさっと隠れるようにしてカナードを睨み返す。

 

 「な、なによ……本当のことを言っただけじゃない」
 「……いやなに。戦う力も持たない小娘が、よく吠えると思ってな」

 

 不機嫌そうに鼻を鳴らしてから、いやらしい笑みを浮かべて答えるカナードを、フレイは更に睨みつけた。

 

 「あんただって同じようなもんじゃない。民間人のキラを苛めて、楽しんで。よっぽど弱いもの苛めが好きなのね」

 

 カナードは勢い良く立ち上がり、フレイに殺気を込めた視線を送る。

 

 「弱いもの……苛めだと……?」

 

 ビクっと身を震わせるフレイを庇うように、やれやれとアムロが前へ出た。

 

 「……子供同士のケンカに口を挟むつもりは無いが、民間人に手をあげたのならば、しっかりと報告はさせてもらうことになる」

 

 と言ってから、アムロは呆れたようにフレイを見た。

 

 「フレイ、あまり人を挑発するような発言は慎んだほうが良い」

 

 フレイは、「だってあの子が……!」と反論するが、すぐに黙りこんだ。
 カナードは尚も苛立った顔をしていたが、舌打ちをしてから、荒々しく席についた。

 

 「坊主たち、やっぱりここか。お、アムロの旦那も一緒か」

 

 その声に目を向けると、整備士のマードックが入り口から覗き込んでいた。

 

 「艦長たちがお呼びだとさ」

 
 

 彼らは艦橋に呼び出された。用件は、補給についてということだった。それを聞いて皆、声を弾ませる。

 

 「補給を受けられるんですか? どこで!」

 

 それに対するムウの返答は、どうにも歯切れが悪かった。

 

 「受けられるって言うか、まあ、セルフサービスって言うか……」

 

 と言葉を濁す。それを聞いて、アムロが「なるほど……」と頷いた。その横でカナードはにやりと口元を歪める。

 

 「――デブリベルト、か」
 「デブリベルト……?」

 

 少年達は一斉にカナードの方を見た。 

 

 「って、ちょっと待ってくださいよ! まさか!?」

 

 サイが声を荒げる。そこへ、マリューが意を決したように、口を開いた。

 

 「――デブリベルトには、宇宙空間を漂うさまざまなものが集まっています。そこには無論、戦闘で破壊された戦艦などもあるわけで……」

 

 彼女の言葉を聞き、少し遅れて『補給』の意味を悟ったキラたちが、顔を引きつらせる。

 

 「え……まさかそこから『補給』しようって……?」
 「しかたないだろ? そうでもしなきゃ、こっちがもたないんだから」

 

 開き直ったように、あっけらかんとムウが言い、少年達の顔に、当惑と嫌悪がよぎった。思ったとおりの反応に、マリューはため息をつく。その様子を見て、カナードが楽しそうに声をかける。

 

 「オレは構わん。死んだ連中は負けた連中、敗者は勝者に食われるのが自然の摂理だ」
 「――ほんと、あんたって……」

 

 嫌な顔をしたフレイが軽蔑したように言う。マリューは胃に重たいものを感じながら、話を続けた。

 

 「あなたたちにはその際、ポッドでの船外活動を手伝ってもらいたいの」

 

 彼女自身、ムウの案に、心の奥で根強いためらいを感じている。そんなマリューを見かねたように、アムロが口を開いた。

 

 「……そうだな。パルス特務兵の意見に賛成するつもりは無いが、僕たちはまだ生きているんだ。死んだ者の魂に引かれて、悲惨な結末を迎えるような真似はしたくない」

 

 いつになく冷たい言い方をするアムロに、キラたちははっと息を呑む。

 

 「――それに……死んだ人間は何も言ってはくれない。自分を殺した者への恨みの言葉も、愛した人への励ましの言葉も、ね」

 

 何も言ってはくれない――。彼は表情を落としたまま、彼は続ける。

 

 「死者を想う気持ちはあるが、僕はそれ以上に君達のような子供に生きて欲しい。わかってくれとは言わないが、今は納得できなくても手を貸して欲しいんだ。……頼む」

 

 マリューは、キラ達に軽く頭を下げるアムロの顔を見て不思議なものを感じていた。その顔は、とても優しく、それでいて悲しいような……なんともいえない表情だ。
ふとムウを見ると、彼もアムロと同じように、何かに思いを馳せるような表情をしている。これが、歴戦の勇者というものなのだろうか……。
マリューは華々しい活躍をする彼らに、報道される戦果以外の、もっと奥底にある大切な何かを見れた気がした。
自分達は生き延びねばならないのだ。たとえゴミを漁る盗掘者の汚名を得ようとも。

 
 

 十二人の評議会議員たちが、湾曲したテーブルについていた。彼らと向き合う形で、アスランとラウは席につかされる。
中央に座っているのが、さっきニュースで見たシーゲル・クライン。 ラクスの父にして、この議会の議長、全爛廛薀鵐鉢瓩鯊緝修垢觜餡噺擬鵑澄
 爛廛薀鵐鉢瓩倭管瑤能銃鵑了圓砲茲辰胴柔されている。各市はそれぞれ特化された研究分野を持ち、それぞれ一人ずつ最高評議会の議員を選出する。
この十二人の協議によって、爛廛薀鵐鉢瓩琉媚廚決定されるのだ。
 そしてアスランの父が議員の一人であるように、十二人の中には、イザーク、ニコル、ディアッカ、ラスティの父母も含まれていた。
だが、なにも彼らは親の七光りに頼っているわけではない。しいて言うなら、有能なものの遺伝子を受け継いだ彼らだからこそ、エースパイロットとして一線で活躍する事ができるということだろう。
 彼らの前ではラウが、経過を報告している。

 

 「――以上の経過から、ご理解いただけると存じますが、我々の行動は決して爛悒螢ポリス畆体を攻撃したものではなく、あの崩壊の最大原因は、むしろ地球連合にあったものだとご報告します」

 

 堂々と論じると、ラウは自らの席に引き下がる。彼は本当にそう信じているのだろうか、という疑問が、アスラン頭をかすめる。あのとき、ラウは部隊にD装備を命じたと聞いた。
本当に爛悒螢ポリス瓩慷燭┐詒鏗欧鰺汁曚靴討い覆ったのか……?
 だが、議員達は彼の並べた言葉に飛びついた。

 

 「やはりオーブは連合軍に組していたのだ! 条約を無視したのはあちらの方ですぞ」
 「しかしアスハ代表は……」
 「地球に住む者の言葉など、当てになるものか!」

 

 紛糾しはじめた議場に、重々しい声が、他の議員達の論争を圧して響いた。

 

 「――しかし、クルーゼ隊長」

 

 パトリック・ザラだった。

 

 「その地球軍のモビルスーツ、果たしてそこまでの犠牲を払ってでも、手に入れる価値のあったものなのかね?」

 

 ラウはあらかじめ質問を予測していたかのように、なめらかにそれに応じた。

 

 「その驚異的な性能については、実際にその一機に乗り、また取り逃した最後の機体と交戦経験のある、アスラン・ザラより報告させたいと思いますが」

 

 まるで台本のある舞台のようだ――そう思いつつ、アスランは立ち上がった。背後にあるスクリーンに、爛ぁ璽献広瓩留覗が浮かび上がる。
次に戦闘の様子を捉えた映像に切り替わると、議員達の間からどよめきが上がった。

 

 「まず、爛ぁ璽献広瓩箸いΩ鴇里里弔い燭海竜‖里任垢……」

 

 望まないまま舞台に上がった素人のような気分で、アスランは報告をはじめた。
 クライン議長が、じっとパトリックを見つめている。彼はこの台本に、薄々気づいているのかもしれない。

 

 「――以上、データが示すとおり、ハードウェアとしての性能は、我らザフトの次期主力として、現在配備が進んでいる爛轡亜辞瓩鮠絏鵑襪發里噺世┐泙靴腓Α
……クルーゼ隊長のご判断は正しかったものと、私は信じます」

 

 報告を終え、アスランは引き下がった。
 議員達は彼の報告を聞き、みな苦々しい表情になる。

 

 「……こんなものを作り上げるとは……ナチュラルどもめ……!」
 「でもまだ試作機の段階でしょう? たった五機のモビルスーツなど……」
 「そうだとも、いくら優れたものを作ろうと、それを扱う者がいなければただの玩具に過ぎんさ」
 「――それに関して、もう一つ報告があります」

 

 ラウが堂々と立ち上がり、資料を提示していく。

 

 「先の報告にあったものとは別の――新型のモビルアーマーです」

 

 背後にあるスクリーンに、ぱっと爛瓮咼Ε后Ε┘姚瓩留覗が浮かびあがる。それを見た何人かの議員からは、鼻で笑うような声が聞こえたが、
タッド・エルスマンや、ユーリ・アマルフィは苦々しい顔をして見つめていた。特にイザークの母――エザリア・ジュールなどは、全身を震わして、怒りを露にしている。

 

 「こちらは、連合のモビルスーツに登録されていたデータにより、詳しい性能などが既に判明しています。爛瓮咼Ε后Ε┘姚瓩箸いΩ鴇里ついており――」
 「そんなものはどうだっていいだろう。今更モビルアーマーなど、笑わせてくれる」

 

 そう言って苦笑する議員達に、ラウは気にした素振りも無く、慣れた手つきで説明していく

 

 「――まずは、戦闘の様子をごらんください」

 

 背後に映されたのは、映像を、一部の議員達は半ば呆れ気味に、そして一部の議員達は注意深く、もしくは忌々しげに見つめていた。やがて、映像が進むにつれて、彼らの表情は次第に青ざめていく。
その様子を見ながら、ラウはなめらかに話を続ける。

 

 「この機体、爛瓮咼Ε后Ε┘姚瓩蓮↓爛瓮咼Ε后Ε璽蹲瓩箸いΦ‖里砲弔い討い覘爛ンバレル瓩魏良した、爛侫.鵐肇爿瓩箸い新装備を身につけています――」

 

 クルーゼは、それがどういった兵器なのかを説明していったが、それをまともに聞いているものなどは殆どいなかった。 誰もが、爛┘姚瓩寮鐺に、驚愕の表情を浮かべていたのだから。

 

 「――以上が、爛侫.鵐肇爿瓩寮能です。我々も量子通信技術の開発を進めていますが、連合に先を越された、という形になってしまいました。
ですがこの映像で問題なのは、これのパイロットがナチュラルであること、そして本体の性能は、従来の爛瓮咼Ε広瓩伐燭虔僂錣蠅無いということです」

 

 「そんな馬鹿な話があるか! このパイロットこそコーディネイターなのではないかね!?」

 

 ラウは、まるでその反応を楽しむかのように、今度は別の議員に話を振った。

 

 「ふむ、その事に関しては、我々よりも、アマルフィ議員の方がより詳細に答えてくださるでしょう」

 

 その場にいた全員が、一斉にユーリ・アマルフィの顔を見つめる。彼こそが、MS開発の責任者でもあり、技術者でもあるからだ。

 

 「……私は、今まで様々な兵器を見てきた。それと同様に、様々なパイロットも見てきた、そして――」

 

 重い口調で語りだしたユーリの声に、誰もが耳を傾けた。

 

 「――そして、その度にコーディネイターとナチュラルの違いを常に認識してきたつもりだ。
コーディネイターにしかできない動き、コーディネイターだからこそできる加速、そういったものを、機体のテスト中に幾度も見ることができた」

 

 ユーリは一度言葉を切り、モニターに映る爛┘姚瓩了僂鬚犬辰噺つめた。彼が続ける。

 

 「……私にはこのモビルアーマーのパイロットがナチュラルかどうかはわからない。
しかし――この映像の中には、コーディネイターでなければできない機動や動きは何一つされていない……。それだけははっきりと確認できた」

 

 議員達は、まだ何かを言おうとするが、エザリアが発した短い悲鳴により、声を止める。
何事かと思いスクリーンの映像を見ると、そこには爛┘姚瓩離螢縫▲ンを連続で撃ち込まれ、舞うように四散していく爛妊絅┘覘瓩了僂あった。
そして手足を失った爛妊絅┘覘瓩鯣澆Δ茲Δ妨修譴伸爛屮螢奪牒瓩鉢爛献鶚瓠△修譴蕕爛丱好拭辞瓩留膰酲し發涼罅撤退していく様子を見て、ようやく一呼吸の静寂が戻った。
そこへ、ラウのなめらかな声が響いた。

 

 「――これは、侮辱です」

 

 その言葉に、みなが口を閉ざして彼を見やった。

 

 「平和に、おだやかに――幸せに暮らしたい……そうした我らコーディネイターの願いを、再びナチュラルが打ち砕こうとしているのです」

 

 みな、静かに頷く。突然ラウは歌い上げるかのように高らかに言った。

 

 「私もこの戦いで多くの部下を失いました。ただ平和でありたい、そんな我らの言葉を無下にし、ナチュラルは平和のために戦う私の部下を、我らの同胞を殺したのです!
私にもう一度チャンスをください! 私の部下イザークは負傷しました、このナチュラルの手によって!
アスラン・ザラも、ニコル・アマルフィも、ディアッカ・エルスマン、ラスティ・マッケンジー……あなた方のご子息らの命を危機に陥れたのです、これは私の失態です。
言い訳はいたしません。しかし、ここで引いては、ナチュラルどもを付け上がらせるだけなのです! 雪辱を晴らす機会を、私に――!」

 

 議員達の間に、活気が戻ってくる。

 

 「そうだ、我々は負けてはならない! 例え、ナチュラルが強大な力を手にしようともっ!」

 

 この男は――と、アスランは思う。――これでは、まるで……。

 

 「――これは、はっきりとしたナチュラルどもの意思の現れですよ! やつらはまだまだ戦火を拡大するつもりなんです!」
 「だからといって、戦いを続けてどうなるというのです? 長期戦になれば、我らの方が……」

 

 ――ラウは今、アスランの見たことも無いような口調としぐさで、戦火という名の炎に薪をくべたのだ。命という名の薪を。

 

 「今はそんなことを言っている場合では……」
 「静粛に! 委員がた、静粛に!」

 

 今彼らは恐怖を感じている。再び迫るナチュラルの脅威に、怯えているのだ。なぜ、隊長はあのように?
ちらと視線で流し見ると、先ほどの熱弁などとうに忘れて――まるで最初から何も無かったかとように涼しい顔をしたラウが、わずかに口元を歪めて議会の様子を見据えているだけだった。

 
 

 「あ、駆逐艦よっ。エンジンをやられちゃったのかしら……」

 

 デブリ帯に浮かんだ残骸は、まだ比較的原型をとどめている。

 

 「うーん、あまり損傷は無いな。弾薬とか、ありそうだけど……」

 

 フレイは操縦席にいるサイに話しかけた。
『墓荒らし』に対する当初の心理的抵抗は、作業用ポットで船外に出るという初めての体験への興奮と、宝探しめいた感覚とに、ともすれば忘れ去られている。だから、サイはこうつぶやくと、はっとしてしまった。

 

 「乗ってた人たちが、全員無事脱出したんだといいよな……」

 

 〈――まず無理だろうな。仮に脱出できたとしても、ザフトの捕虜になるか、そのまま凍え死ぬかのどちらかしかない〉

 

 すぐ側にいるグレーとレッドに塗り分けられた爛献鵐▲汽襯鉢瓩ら声が聞こえてくる。嘲るように言ったのは、カナードだった。
 サイとフレイは苦い顔をして、駆逐艦の残骸を見つめている。機関部にぽっかり空いた穴が、まるで墓穴のように見えた。
 爛好肇薀ぅ瓩蓮▲函璽襪肇潺螢▲螢△両茲辰織櫂奪匹防佞添うように、デブリの海を進んでいた。そこから少し離れた距離を、とっさの事態に備えて出撃した爛┘姚瓩眸瑤鵑任い襦
宇宙船の外壁らしい残骸をかわすと、目の前に異質な光景が広がっていた。

 

 「あ……」
 「ああっ……」
 「……これ……って……?」

 

 キラとトールたちは同時に声を上げ、それに釣られるように、アムロも声を上げた。

 

 〈……これが……〉

 

 目の前に、凍りついた大地が広がっていた。
 かつてはのどかな農村風景に似たものだったろう。枯れて凍りついた麦が一面に白くそそり立ち、ぽつぽつと散る農園らしき建物だけが、真空中にほぼ完全な保存状態で残っている。
その大地の周辺を取り巻くのは、減圧で沸騰した形のまま凍りつき、まるでこのプラントの運命に憤っているかのような海だ。
中央シャフトは無残に折れ、中途で引きちぎられたように漂うハイテンションストリングスの周囲に、わずかに残った外壁の自己修復ガラスが、ぼろぼろに砕けて張り付き、その海を取り囲んでいる。
 それは、かつてプラントの一基だったもの――その残骸だった。
 船外作業服に身を包んだキラたちは、アムロや合流したサイたちと共に、真空にさらされた大地に降り立った。みんな、自然と言葉少なになる。
がらんとしたこの風景は、何故か漆黒の宇宙空間よりも寂しく、まるで家族のいない家に帰ったような心細さを感じた。
そうっと足音を忍ばせるように路地をたどり、納屋だったらしい建物に近づく。ドアを開けたとたん、ミリアリアとフレイが悲鳴を上げた。
 キラは凍りついたように、目の前の浮遊物を見つめた。崩壊の直前、なんとかこの納屋駆け込んだのだろう。
子供を庇うように胸に抱き、背を丸めた母親の無残な亡骸だった。きつく回された母親の腕に隠されて、子供の性別まではわからない。
だが傍らには、この子のものらしい、目玉のとれかけたぬいぐるみのクマが漂っている。
 アムロが無言のまま母子の死体を抱き寄せる。
 そんな彼の様子を見ながら、カナードは苦々しい顔をして目を逸らした。

 

 「――くだらん……」
 「あんたまだそんなこと……っ!」

 

 フレイがきっと睨みつけるが、カナードは視線を凍りついた親子に向けたままだ。

 

 「戦争をやっているんだ。どんなヤツだろうと死ぬときは死ぬ。――第一コロニーが崩壊したんだ、助かるはずが無い。――何故こんな場所に逃げ込んだんだ? 理解できん、この女の行動は……」
 「……それが、母親ってものじゃないかな? カナードにはいないの? お母さん」

 

 ミリアリアがカナードに聞くが、彼は不機嫌そうな顔のままだ。

 

 「……そんなもの、オレには最初から存在しない」

 

 そう吐き捨てて爛献鵐▲汽襯鉢瓩慳瓩襯ナードの背中は、やけに寂しげだった。
 フレイがひとりごちる。

 

 「――私だっていないわよ……」

 

 爛罐縫Ε后Ε札屮鶚瓠宗臭犒譴離丱譽鵐織ぅ鶚瓩良饌罎箸覆辰疹貊蠅痢現在の姿だった。

 
 

 「あそこの水を……!? 本気なんですか?」

 

 爛◆璽エンジェル瓩隆篭兇北瓩辰織ラは、驚愕の声を上げた。

 

 「あそこには一億トン近い水が凍り付いてるんだ」

 

 何の理由も説明しない事実を、ナタルが口にする。彼らは爛罐縫Ε后Ε札屮鶚瓩了蝶爾ら、水を運ぶことを決定したのだった。

 

 「でも……見たでしょう? あのプラントは何十万もの人が亡くなった場所で……!」

 

 キラは懸命に講義した。コーディネイターの彼にとって、あの場所は特別な意味を持っていた。そして、彼以外の者とて、大多数は同じくらいの心理抵抗を感じる。だが、そうせざるを得ない理由があるのだ。
 そんなキラの肩に、手がぽんと置かれる。

 

 「誰だってそうさ、僕だってできる事なら彼らをそっとしといてあげたい。それはラミアス艦長だって同じのはずだ」

 

 キラは、「だったら……!」と抗議するが、アムロは続ける。

 

 「だからさ、君達を……あの母子のようにしないために、あそこの水を使うんだ。僕たちは生きてるんだから、ね」

 

 寂しそうに言うアムロに、キラは何も言えなくなってしまった。

 

 「水はあそこにしか無かったんですよね? ラミアス艦長」
 「……ええ」

 

 アムロの問いに、マリューは悔しそうに答える。そこにたたみかけるように、ムウが言った。

 

 「誰だって、できればあそこには踏み込みたくないさ。だがな、俺達は生きなきゃなんねえんだよ」

 
 

 「アスラン」

 

 議場から出たところで、声をかけられ、アスランは反射的に敬礼の姿勢をとった。

 

 「――クライン議長閣下」
 「そう他人行儀な礼をしてくれるな」
 「いえっ、これは……ええと」

 

 苦笑混じりに言われてはじめて気づき、アスランは慌てて上げた手を下ろした。二人は思わず、顔を見合わせて笑った。
 クラインは、ふと奥の壁を見上げた。
 そこには巨大なモニュメントが据えられていた。爛┘凜デンス01瓠宗縦名劉爐じら石瓠その名のとおり、水棲の脊椎動物の化石に見える。
だがこの生物は鯨とは明らかに違う特徴を持っていた。その胴から翼としか思えない骨格が突き出していたからだ。
 C.E.18、探査船爛張オルコフスキー瓩、木星からこの巨大な石の化石を持ち帰った。
外宇宙から飛来した隕石の一つと見られ、地球に大論争が巻き起こった。この一つの石が、地球外生命体の存在を証明していたからだ。以来、これは『存在証明(エヴィデンス)』と呼ばれている。

 

 「――ようやく君が戻ったかと思えば、今度は娘の方が仕事でおらん。まったく。きみらはいったい何時、会う時間が取れるのかな」

 

 クラインは苦笑しながら、ため息をついて見せた。

 

 「はっ……申し訳ありません」

 

 どぎまぎとアスランが頭を下げると、クラインはまた笑う。

 

 「いや、私に謝られてもな」

 

 彼はふと、議場の入り口へ目をやり、笑みを消した。

 

 「――また大変なことになりそうだ。……クルーゼも急進派のようだしな。言っていることはわかるのだが」

 

 上品な顔に、疲れたような皺が寄った。シーゲル・クラインは穏健派だ。だが、ここ一年、クラインら穏健派は、急進派の意見に押し切られてきたのだ。
そして、急進派のトップこそが、アスランの父、パトリックであり、クラインとは最も対極の立場にある男でもある。

 

 「ですが……父上にもちゃんとした考えがあるのだと……その、信じておりますので」

 

 しっかりとした様子でそう断言するアスランを、クラインは意外そうに見ていたが、議場から、ラウと連れ立って会話しながら出てきたパトリックを見つけて、難しい顔をしてしまう。ラウがアスランを見つけて近づいてくる。

 
 

 「アスラン」

 

 議場から出たところで、声をかけられ、アスランは反射的に敬礼の姿勢をとった。

 

 「――クライン議長閣下」
 「そう他人行儀な礼をしてくれるな」
 「いえっ、これは……ええと」

 

 苦笑混じりに言われてはじめて気づき、アスランは慌てて上げた手を下ろした。二人は思わず、顔を見合わせて笑った。
 クラインは、ふと奥の壁を見上げた。
 そこには巨大なモニュメントが据えられていた。爛┘凜デンス01瓠宗縦名劉爐じら石瓠その名のとおり、水棲の脊椎動物の化石に見える。
だがこの生物は鯨とは明らかに違う特徴を持っていた。その胴から翼としか思えない骨格が突き出していたからだ。
 C.E.18、探査船爛張オルコフスキー瓩、木星からこの巨大な石の化石を持ち帰った。
外宇宙から飛来した隕石の一つと見られ、地球に大論争が巻き起こった。この一つの石が、地球外生命体の存在を証明していたからだ。以来、これは『存在証明(エヴィデンス)』と呼ばれている。

 

 「――ようやく君が戻ったかと思えば、今度は娘の方が仕事でおらん。まったく。きみらはいったい何時、会う時間が取れるのかな」

 

 クラインは苦笑しながら、ため息をついて見せた。

 

 「はっ……申し訳ありません」

 

 どぎまぎとアスランが頭を下げると、クラインはまた笑う。

 

 「いや、私に謝られてもな」

 

 彼はふと、議場の入り口へ目をやり、笑みを消した。

 

 「――また大変なことになりそうだ。……クルーゼも急進派のようだしな。言っていることはわかるのだが」

 

 上品な顔に、疲れたような皺が寄った。シーゲル・クラインは穏健派だ。だが、ここ一年、クラインら穏健派は、急進派の意見に押し切られてきたのだ。
そして、急進派のトップこそが、アスランの父、パトリックであり、クラインとは最も対極の立場にある男でもある。

 

 「ですが……父上にもちゃんとした考えがあるのだと……その、信じておりますので」

 

 しっかりとした様子でそう断言するアスランを、クラインは意外そうに見ていたが、議場から、ラウと連れ立って会話しながら出てきたパトリックを見つけて、難しい顔をしてしまう。ラウがアスランを見つけて近づいてくる。

 

 「あの新造戦艦とモビルスーツを追う。ラコーニとポルトの隊が私の指揮下に入り、新たなパイロットの補充もできた。出港は七十二時間後だぞ」
 「はっ!――失礼します、クライン議長閣下」

 

 アスランはクラインに再び敬礼をして、パトリックにも同じように敬礼をしようとしたが、苦笑混じりにそれを片手で制される。アスランがきょとんとしていると、パトリックから声がかかる。

 

 「時間があるのなら、少々遅い昼食にでもしよう。たまには父親らしいこともせんとな――。先に行ってなさい、すぐに行く」
 「――は、はいっ!」
 アスランは嬉しくなって顔を上げ、一礼をしてからラウに従った。
 一人残されたクラインにパトリックが近寄り、二人の目線があった。

 

 「……珍しいな、パトリック。お前があんな口を聞くとは」

 

 クラインが驚きを交えながら苦笑して言うと、パトリックも苦笑で返す。

 

 「失いかけて、初めて気づくものもあります。私とて、一児の父だという事を、今になって思い出しました」
 「ならば何故? 我々に、そう時は無いのだ……。いたずらに戦火を拡大してどうする?」

 

 低い声でクラインが問うと、パトリックが答えた。

 

 「このままでは開戦前と何も変わりません。せめて、我々の子供達が住みよい世界になるまでは――そうでなければ、レノアの死までもが無駄になってしまう……」

 

 レノア・ザラ――アスランの母にして、パトリックの妻であった女性だ。
 爛廛薀鵐鉢瓩領鮖砲篭従の歴史だ。
 地球各地でナチュラルからの迫害を受けたコーディネイターたちは、その住処を宇宙に求めた。地球は爛廛薀鵐鉢瓩法▲┘優襯ーと工業製品を生産させ、一部のオーナー国だけでその利益を独占した。
オーナー国は爛廛薀鵐鉢瓩良霑と食糧生産を禁じ、食糧の供給を文字通り「エサに」して爛廛薀鵐鉢瓩鯀爐辰討たのだ。
 両者の関係が深刻化すると、爛廛薀鵐鉢瓩魯┘優襯ーと工業生産物の、地球は食糧の輸入を断ち切った。
 そんな中、爛廛薀鵐鉢瓩砲箸辰撞重な食糧生産地であったユニウス市の一基、爛罐縫Ε后Ε札屮鶚瓩法地球連合軍は核ミサイルを撃ち込んだのだ。
 一瞬にして爛罐縫Ε后Ε札屮鶚瓩亙壊した。
 以後、彼らは二度とこのような悲劇を招かぬよう、核弾頭を無効化する爛縫紂璽肇蹈鵝Ε献礇沺辞瓩鮗騨儔修掘地球と爛廛薀鵐鉢畆辺に設置したのだ。
 だが、彼らは忘れている。それが招いたもう一つの事件。ナチュラルに取っての犒譴離丱譽鵐織ぅ鶚瓠宗臭爛┘ぅ廛螢襦Ε奸璽襦Εライシス瓠
 爛縫紂璽肇蹈鵝Ε献礇沺辞甕洞舛燃吠裂炉の原子力発電をエネルギー供給の主としていた地球上の各国家は、地球全土で深刻なエネルギー不足が問題になった。
 電力の供給が止まり、世界は大混乱となった。ある国ではエネルギーを巡って暴動がおき、それを鎮圧する為に軍隊を派遣し、やがてそれは虐殺へと繋がり内戦となった
。ある国では国家そのものが分裂し、かつての国は消滅した。
またある国では同時に天災が起こり、それは竜巻であり、地震であり、津波であり、噴火であり、
いくつかの国々がこれによる大きな被害を、エネルギーの枯渇により復興、復旧どころか救助すらもままならず、多数の餓死者、凍死者を出し、それらは地球の総人口の一割近くに及んだのだ。
 死んだのは、主に赤ん坊や子供、老人であった。
 戦局は、泥沼化した。

 
 

 かつては砂浜だったであろう凍てついた波打ちぎわで、ミリアリアは両手一杯にかかえた花を投げた。もちろん生花など、爛◆璽エンジェル瓩砲鰐気ぁ
だから、彼女やトールたちが、色とりどりの色紙で作った折り紙の花。 避難民の中にいたエルという少女も花作りを手伝ってくれた。
 怒りの形に固まった海の上に、小さな花々が舞った。
 かつて、このプラントで、人々は彼らと同じように、走り、笑い、育ち、呼吸してきたのだ。凍った大地の上で、艦の中で、人々は同時に黙祷を捧げた。
それは自分達の気休めでしかないかもしれなかったが、せめてそれだけでも、せずにはいられなかった。この墓場は、地球の――彼らの罪の烙印の一つだった。

 

 〈――僕の知り合いに、ね〉

 

 爛好肇薀ぅ瓩涼罎妊ラは顔を上げ、声のしたモニターを見る。

 

 〈――僕の知り合いに、地球に残っているような……たとえば連合の高官だとか、そういうのを『地上のノミ』だと表現した男がいたんだ〉
 「酷い言い方……」
 〈良い表現じゃないか〉

 

 フレイとカナードが、各自意見を述べるが、アムロは優しい顔をしたまま続ける。

 

 〈でも、僕は信じたい。人はそんなものだって乗り越えていけると……。こういったものだって、きっと……〉

 

 アムロの声を乗せて発信している爛┘姚瓩、太陽光を受けてきらめく。鋼色が、キラにはとても寂しげに見えた。
 作業がはじまる。キラは爛好肇薀ぅ疉婉瓩涼莪茲鮠ゲしながら、切り取った氷の塊や弾薬を運ぶポッドを見守っていた。

 
 

 花が散る。風に吹かれて、切れ切れに飛ばされる花びらの行方を、アスランは見守った。彼の前にはひとつの墓石があった。
 レノア・ザラ C.E.33〜70――アスランの母の墓標だ。
 だがその下に、遺体はない。爛罐縫Ε后Ε札屮鶚瓩里曚の犠牲者たちと同じように。
 彼女は農学の研究者だった。アスランは、あまり多くの時間を母と共にしたことがなかった。だが、一緒に過ごしたわずかな時間、彼女は控えめな、だがまぎれもない愛情を彼にふりそそいでくれた。
だから、離れていても不安はなかった。彼は立派な仕事をしている母を、誇りに思っていた。
 彼女のように優秀な人材が、そしてそれ以上に大切な誰かの家族である人々が、一瞬のうちに命を奪われた。それが、戦争だ。
 ふいに、アスラン少し後にいた男がつぶやくように言った。

 

 「――すまないレノア。随分と来るのが遅くなってしまった」

 

 父が墓標に向かって寂しげに語りかけた。アスランもまた、悲しい顔をして問う。

 

 「戦争は……いつまで続くのでしょうか……」
 「……わからん。だが、今では駄目なのだ」
 「ナチュラルは着々と力をつけてきています、このままでは……っ!」

 

 アスランは我を忘れて声をあげるが、パトリックは鎮痛な面持ちのまま答えた。

 

 「連合は、まだ負けたとは思っておらんのだ。いまだにやつ等は、我々に無条件降伏を持ちかけている」
 「そ、そんな……」

 

 驚愕するアスランを一瞥し、悔しそうにパトリックは続ける。

 

 「もう少し、もう少しなのだ……。私とて、ナチュラル全てを一掃するなどと馬鹿げた考えを持っているわけではない。
だが、それが虚実だろうと、強気の姿勢を見せねばやつらはいくらでもつけあがる」

 

 苦い顔のまま、父はうつむいた。彼が続ける。

 

 「ほんの一部でも良い。我々の出した条件を飲ませない限りは……。でなければ、お前たちにも、お前たちの次の世代にも辛い思いをさせることになる」

 

 驚愕の事実を明かされ、力なくうな垂れているアスランに、パトリックは励ますように声をかける。

 

 「私はな、アスラン。戦争が終わったらレノアをこの墓の下へ釣れて来てやりたいと思っている。……お前も手伝ってくれるな?」

 

 アスランの肩に優しく手を置いてから、パトリックは笑みをこぼす。

 

 「はい。――必ず……!」

 

 それは、母の前で交わした、父と子の約束であった。
 そう。座して待っていても平和は訪れない。戦争なんて嫌だと叫べば、戦争がなくなるのか。失われた人の死を惜しめば、彼らは帰ってくるのか。ちがう。アスランはあらためて、自分の意思を確認した。
 ――戦って、そして勝ち取るんだ……!
 決意を込め、力強く墓標を見つめていた彼のリストウォッチから、非常呼び出しのシグナルが鳴った。

 
 

 爛好肇薀ぅ瓩離灰ピットに、警戒警報が鳴り響いた。ぼんやりともの思いにふけっていたキラは、ぎくっとモニターを見なおす。
 デブリの向こうで、何か動いたものがあった。
 ――モビルスーツだ!
 キラの体に、電撃のような緊張が走る。その間にコンピュータが機種を特定する。
モニターに流れた文字は、爍擅韮唯董檻味劭劭沓娃苅足瓠宗集と背中に二つのレーダードームを装備し、マシンガンを手に持ち、大口径のロングレンジライフルを腰にマウントした強行偵察型、複座の爛献鶚瓩澄

 

 「……なんでこんなところに!?」

 

 キラはぎりっと歯を食いしばった。爛◆璽エンジェル瓩悗諒資搬入はまだ終わっていない。もし爛献鶚瓩妨つけられて、応援を呼ばれたら……!
 彼はビームライフルの狙撃用スコープを、眼前に引き寄せた。照準機の中で、なにかを探しているらしい爛献鶚瓩ロックされる。
 ロックオンを示す電子音が鳴り、目の前で「FIRE」という文字がキラを促す。

 

 (行け……! 行ってくれ……)

 

 何も見ず、この宙域から立ち去ってくれ。キラの祈りを聞いたかのように、爛献鶚瓩魯弌璽縫△鮨瓩して離脱しようとする。だがその直後、何かを見つけて反転した。
キラははっとモニターに目をやる。爛◆璽エンジェル瓩虜邏肇櫂奪匹、爛献鶚瓩了覲Δ貌ったのだ。

 

 「ばかやろう! なんで気づくんだよ!」

 

 爛献鶚瓩マシンガンを構えるのが見えた。キラはトリガーを引こうとするが、その前に、一瞬にして雨のような砲撃が爛献鶚瓩坊發噌まれる。キラははっとして、攻撃のあった方向を見つめた。

 

 「アムロさんっ!」

 

 キラは驚いて、爛┘姚瓩惴かおうとするが、背後から赤と灰の爛献鵐▲汽襯鉢瓩僕泙┐海泙譟△ょっとする。

 

 「カナードもっ!? みんな、気づいてたの……?」
 〈当然だろう。貴様に気づけて、オレに気づけないはずは無いよなあ?〉

 

 ふふん、と嬉しそうに言うカナードを、キラは無視して爛┘姚瓩里箸海蹐惺圓海Δ箸垢襪、なおも爛献鵐▲汽襯鉢瓩押さえつける。

 

 〈良いから黙ってみていろ。馬鹿か貴様は〉

 

 流石にキラはむっとして、「な、何だよお」と文句を垂れながら正面のモニターに目をやる。
そこには、丁寧にも手にしたマシンガンと装備したレーダードームだけを破壊された爛献鶚瓩了僂函△修譴亮囲を完全に包囲している四基の爛侫.鵐肇爿瓩了僂見えた。

 

 「アムロさんは、装備だけ破壊するのか……」
 〈情報を聞き出す意味もあるんだろう。それにここはニュートロンジャマーが濃い。外付けのドームを破壊されたら通信もできん〉

 

 目を開いて驚くキラに、カナードが不機嫌そうに教える。だがキラはふと思い立ち、カナードに質問した。

 

 「でも、近くに敵の母艦がいたら……」
 〈母艦が近くにいたのならたかが一機撃墜したところで何の意味もない〉
 「え?……えと、どうしてかな?」

 

 本当にわからないので、キラは聞き返したのだが、モニターの中のカナードは思い切り睨みつけてから、大げさに舌打ちをし、腕を組んで不機嫌そうに黙り込んでしまう。
〈なんでこんなやつが……〉などとぶつぶつ言っているのが通信から漏れ聞こえるが、詳しい内容を聞き取る事ができなかった。

 

 〈キラ、来てくれたのか!〉
 〈……キラッ!――なんだ、あんたもいたんだ〉

 

 スピーカーから、サイとフレイの声が飛び込んでくる。狙われたポッドには、彼女たちが乗っていたのだ。
カナードの映っているモニターから、〈助けるんじゃなかったな〉、と言って舌打ちする姿が見えたのが、なんだかキラには可笑しく思えてしまい、吹き出しそうになるのをこらえるのに苦労した。

 

 〈いやあ、死ぬかと思ったよ――〉
 〈爛好肇薀ぅ瓠何があった。応答しろ、爛好肇薀ぅ瓠

 

 サイの心底ほっとしたような声にかぶさるように、爛◆璽エンジェル瓩猟命が入る。

 

 〈あ、はい。こちら爛好肇薀ぅ瓠えーと……敵の偵察型の爛献鶚瓩鯣見したんですけど――〉
 〈――なんだと!? 撃ち落せ、早く!〉
 〈い、いえ、えーと……。あ、終わったみたいです。アムロさんが爛献鶚瓩鯤甞佑靴泙靴拭

 

 通信の中で怒鳴るナタルに、慣れない様子で説明していくキラを、カナードは鼻で笑った。

 

 〈下手糞め〉
 「別に良いじゃないかぁ……」

 

 キラが顔を膨れさせていると――またあの電子音が鳴りはじめた。キラははっと顔を上げた。
 ――まだ敵が!?
 だが、今度モニターに映っていたのは、敵の機影ではなかった。

 
 

 「つくづく君は、落し物を拾うのが好きなようだな」
 ナタルの声には苦々しさと、ほんの少しあきらめが混じっていた。キラはむすっとして答えない。帰り際に同じような事をさんざんカナードに言われてきたのだから、こうもなる。

 

 「……だいたい何でぼくがフレイ達のポッドも拾った事を知ってるんだよ」
 「ふん。情報は生き延びるために最も必要なものだ。その程度の事を調べ上げるなど、このオレにかかれば造作も無い」

 

 またもや自慢げに語るカナードを見て、キラは深いため息をついた。
 爛◆璽エンジェル瓩粒頁叱砲砲蓮▲ラが見つけて曳航してきた救命ボートが横たわっている。マリューとムウは目と目を交わし、小さくため息をついた。
すでに、捨て犬と見ると拾ってきてしまう子供を持つ親の気分である。マードックが操作し、「開けますぜ」と言った。 ハマナとブライアンが、さっと銃を構える。
 ハッチが微かな音を立てて開いた。そこへ、捕獲した爛献鶚瓩離僖ぅ蹈奪斑を拘束し終えたアムロが戻ってくる。

 

 「ン、開けたのか。ラクス・クラインという要人が乗っているそうだが、知っている者はいるか?」

 

 それを聞いて、キラたちは一斉に「はあっ!?」と驚き、アムロに目をやった。視線にさらされた彼はびくっと身を震わせる。アムロの顔に少しばかり焦りの色が浮かんだ。そこへ――。

 

 〈ハロ・ハロ……〉
 「静かにしてろ。――いや……世捨て人みたいな生活をしてきたものだから……ハロ!?」

 

 間抜けな声を発しながら漂い出てきたピンク色をしたボール状の物体にアムロは自然に声をかけてしまい、自分で驚いている。
その様子はまるでお笑い芸人が、一人でボケて一人で突っ込んでいるような何とも言えない様子だったが、ハッチの中から別に動くものが見えたので、皆はそちらに目をやった。

 

 「ありがとう。ご苦労様です」

 

 ふわり――と浮かびながら、愛らしい声をした少女がでてきた。そしてフラガは呆れた様子でつぶやく。

 

 「ラ、ラクス……クラインって、いったよな?」

 

 柔らかなピンクの髪と、長いスカートの裾をなびかせて、ハッチから出てきたキラ達と同年代の少女――ほんわりと白い肌、ほっそりした腕、優しく愛らしい顔には、見る者を幸せにするような笑みがたたえられている。
――その少女が宙に浮かんだ様子は、まるでシャボンの泡のように、綺麗ではかなげに見えた。

 

 「あら……あらあら?」

 

 慣性でそのまま漂ってしまいそうになる彼女の体を、キラは慌てて受け止めようとした。だが、同じように出てきたカナードと思いっきりぶつかってしまい、
そのままもみくしゃになった状態でラクスにもぶつかった。カナードが怒声を上げる。

 

 「き、貴様あ! 良い度胸だ、今この場で殺してやるっ!」
 「な、なんだよお! そっちがぶつかってきたんじゃないかっ!」
 「まあ、ケンカはおよしになってくださいな」

 

 ふわふわと言うラクスを、カナードは睨みつけ、怒鳴るように言った。

 

 「黙れっ!――だいたい、オレがめずらしく他人の手助けをしてやろうと思ったのに貴様はそうも邪魔をする!」
 「だから知らないってっ!――だいたい何だよ、自分で『めずらしく』なんて言っちゃって!」

 

 尚も続ける二人に、押し出されるような形でラクスは別の方向にふわり、と流れてしまう。

 

 「あら? あらあら? あら〜?」

 

 遠ざかりながらふわふわと回るラクスを無視してケンカを始める二人に見かねて、アムロが彼女を抱きとめた。いや、それどころか、他のクルー達も口をあんぐりと開けたまま、ラクスを見ているだけだったのだ。

 

 「大丈夫かい? ラクス・クラインさん」
 「まあ、ありがとう」

 

 間近で少女がにっこりする。春の空のような柔らかなブルーの目でみつめられ、アムロは首をかしげた。
 ふと、少女の顔が疑問符を浮かべた。

 

 「あら?」

 

 その目は、アムロの制服の徽章に止まっている。

 

 「……あらあら?」

 

 彼女はくるくるとあたりを見回す。そしておっとりとした口調で言った。

 

 「まあ……これはザフトの船ではありませんのね?」
 〈ミトメタクナイ! ミトメタクナーイ!〉

 

  アムロがコホン、と軽く咳払いをした。

 

 「ン、ここは地球連合の艦だ。君が要人のラクス・クラインさんなのだろう?」

 

 一拍おいて、ナタルが深々とため息をついた。

 
 

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