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CCA-Seed_◆ygwcelWgUJa8氏_10

Last-modified: 2012-10-03 (水) 00:53:41

PHASE-10 まなざしの先

 
 

 爛◆璽エンジェル瓩論鐺地域からほど近い地点に着底した。すでに夜は明けそめ、滲むような青い空のもと、曙光が砂丘をほんのり紅く照らし出す。
 その意図も勢力も不明な集団のバギーは、艦から少し距離をおいて停止した。爛好肇薀ぅ瓩鉢爛丱好拭辞瓩相手の出方をうかがうように、両者の間に立つ。ディアクティブモード――PSシステムがオフの状態の爍猫瓩蓮∩甲の素地を思わせる暗い鋼の色をしている。
 バギーから降り立ったのは、アラブ系と見える男達だった。いずれも一癖ありそうな、不敵な顔立ちをし、民族風の衣装や迷彩服など、衣装も年齢もまちまちで、明らかに正規の軍隊に所属する者たちではなさそうだ。だが、おもしろ半分で爛丱ゥ畫蠎蠅棒錣者はいないだろう。
 シートを立ったマリューに近づき、ナタルがたずねる。
 「味方――と、判断されますか?」
 マリューはしばし迷ったが、「少なくとも、銃口は向けられていないわね」と答え、エレベータに向かう。
 「ともかく、話してみる。向こうにもその気はあるようだから。うまく転べばいろいろと助かるわ」
 マリューは自分の声が確信を持って響いてることを祈ったが、クルーはどこか不安げな表情で彼女を見つめている。彼女はナタルに向かって微笑んで見せた。
 「――あとをお願い」
 ハッチの前では爛好イグラスパー瓩ら降りたムウとアムロが待っていた。ライフルを手にしたクルー数人が駆けつけ、ハッチの脇に身を潜める。
 「こっちのお客さんも、一筋縄じゃ行かないようだな」
 いつもどおりの軽薄そうな口調でムウが言い、拳銃のカートリッジを確認し、装填した。
  「俺、銃はあんま得意じゃないんだけどねえ……」
 「俺たちは歩兵じゃないからな……ツケが回ってきたかな?」
 「おっ、手厳しいねえ」
 やれやれと嘆じて腰のホルスターに銃を収めるムウに、アムロがいつものような余裕に満ちた様子で冗談交じりに答える。それを見たマリューは、意外に思って微笑んだ。
 少し緊張がほぐれた。やはり、エースパイロットと詠われるような人物は、部隊を支えてくれるような何かを持っているのかもしれない。そして『絶体絶命』の危機から脱出できるような活路を探し出してくれるのかもしれない。そう思うとマリューは、この二人が横にいてくれることを心強く感じた。
今の彼女にとって、射撃の腕よりもその感覚の方が切実に必要だった。
 「開けるぞ」
 ムウが言い、ハッチの開閉ボタンを操作する。朝のひんやりとした風とともに少量の砂が舞い込み、マリューは足を踏み出した。
 何者ともしれぬ男達は、警戒に目を光らせながら彼女らを見守っていた。中でも年長の部類に入る恰幅のいい男が、マリューたちが進み出るとずいと前に出る。彼が集団のリーダーらしい。髭を厚く生やし、日に焼けた頬には大きな傷跡がある。彼は驚くほど鋭い目で、値踏みをするようにマリューたちを見比べた。
 「ありがとう――と、お礼を言うべきなのでしょうね?」
 マリューが口をひらくと、男は彼女の顔に目を据える。内心の動きを見せない、寡黙な目だ。
 「――地球連合軍第八艦隊所属、マリュー・ラミアスです」
 彼女の名乗りを聞き、まだ幼さの残る少年が嘲るように笑った。
 「あれ? 第八艦隊てのァ、壊滅状態なんじゃなかったっけ?」
 マリューは思わずその少年を睨みつけた。リーダーらしき男が「アフメド」と、少年を制するように手を振る。
 「俺たちは『明けの砂漠』だ。俺の名はサイーブ・アシュマン。……礼なんざいらんさ、わかってんだろ? 別にアンタ方を助けたわけじゃない」
 サイーブ・アシュマンの黒い目を、マリューは真意を探るように見つめた。すると男はにやりと笑ってその目を見返す。
 「――こっちもこっちの敵を討ったまででね」
 すると、どうやらこの連中は地元の反ザフト派とみえる。ゲリラ活動をしているレジスタンスといったところか。
 「『砂漠の』虎相手にずっとこんなことを?」
 かたわらのムウが、少し呆れたようにたずねると、サイーブはじろじろと彼を見た。
 「……アンタの顔はどっかで見たことあるな」
 「ムウ・ラ・フラガだ。――このへんに知り合いはいないよ」
 そっけなくムウが言ったが、サイーブは小気味良さそうに笑う。
 「へえ、『エンディミオンの鷹』と、こんなとこで会えるとはよ」
 ムウが意表をつかれた表情になり、マリューも内心驚いた。彼女の後ろで、アムロとムウが「有名人は辛いな」「うるせいやい」、などと小言を繰り広げているが、それを無視して考え込む。こんな砂漠の真ん中で、ハンドランチャーを片手にほそぼそと戦闘しているゲリラ部隊の割には、たいした事情通ではないか。
 「情報もいろいろとお持ちのようね。では、私たちのことも?」

 

 「地球軍の新型特装艦爛◆璽エンジェル瓩世蹇 クルーゼ隊を壊滅させかけたとかいう。そんであれが――」

 

 と、サイーブがかたわらに立つ爛好肇薀ぅ瓩魍椶任気靴拭すると後方から、彼の声をさえぎるように、やや高めの声が上がる。

 

 「X一○五……爛好肇薀ぅ瓠その横のがX一○三爛丱好拭辞瓠C狼綏海凌祁慎‘以軸錙宗修修離廛蹈肇織ぅ廚澄

 

 マリューは驚いて見やり、金色の髪をした少女に気づいた。多くのレジスタンス同様に防弾ジャケットらしきものを着用し、物腰は荒削りで男勝り、金に近い色のきつい目はまっすぐ爛好肇薀ぅ瓩妨けられていて、こちらからは凛とした横顔しか見えない。彼女は、明確に周囲の人間達とは異なる雰囲気をまとっていた。そもそも人種さえ違うようだ。
 だが今は彼女の素性より。彼女が口にしたことの方が気にかかる。そこまで詳細なデータがなぜ、どういった経路でこの人たちの元に届いたのか……?
 マリューがじっと少女の姿を見つめていると、その視線をさえぎるようにサイーブが前へ出た。

 

 「さてと、お互い何者だかわかってめでたし――といきたいとこだがな、こっちとしちゃ、とんだ災いのタネに振ってこられてびっくりしてんだ。――ま、そっちにしてみりゃ、こんなトコに降りちまったことが災難なんだろうが――アンタたち、これからどうするつもりなのかね?」

 

 サイーブは無害そうな口調で話したが、その目はマリューたちからなにかを引き出そうと、油断なく反応をうかがっている。それはこちらも同様だ。 マリューはそっとたずねた。

 

 「――力になっていただけるのかしら?」

 

 すると男は食えない笑みを浮かべる。

 

 「話そうてんなら、まずは銃を降ろしてもらわねえとな」

 

 ハッチの陰でようすをうかがっていたクルーに向かい、マリューは手で合図した。

 

 「……で?」
 「アレのパイロットもだ」

 

 サイーブが顎で示したのは、巨大な番人よろしくこの会談を見守っていたモビルスーツだ。マリューが短く息をつくと、くるりと爍猫瓩妨きなおった。

 

 〈パルス中尉、ヤマト少尉! 降りてきて!〉

 

 爛好肇薀ぅ瓩粒杏凜泪ぅから、コックピット内にマリューの指示が届き、キラはハッチを開けた。爛丱好拭辞瓩ら降りてきたカナードと同じような動作で、ラダーにつかまり、足をかける。自動的にするすると地上まで垂れ下がるそれは、やはり無重力とは勝手が違った。キラたちはマリューたちのもとへ合流しようと、歩き出しながらヘルメットに手をかける。現れた彼らの顔を見て、レジスタンスたちが一瞬どよめく。

 
 

 「――ああ? あれがパイロットかあ?」
 「まだガキじゃねえかよ」

 

 その中で大きく息をのんだ者があった。次の瞬間、硬質な金色をした髪をなびかせて、一人の少女がキラの前に飛び出した。

 

 「おまえ……っ!」

 

 彼女の突発的な行動は、慎重に互いの動きを探りあうこの会談で突出して映った。誰もが一瞬ひやりとし、ムウは彼女がキラに危害を加えるのでは、とホルスターに手をかける。するとそのムウの動きをさらに牽制するように、彼の前に筋骨たくましい長身の男が立った。長く伸びた髪を不潔そうに垂らしているが、その陰からのぞく眼の光は鋭い。ムウがちらとアムロに視線を送ると、彼は小さく頷いた。
 一方少年たちは緊迫した周囲の雰囲気に気づくこともなく、互いの顔を見つめあった。少女が喧嘩腰に叫び、キラに手を上げようとする。

 

 「おまえがなぜ、あんなものに乗っているっ!?――うわっ」

 

 キラは反射的に避けようとしたが、それよりも早くカナードが足払いをしかけ、その少女を転ばした。そのまま起き上がろうとする少女を足で思い切り踏みつけ、ホルスターから拳銃を引き抜きトリガーに手をかけた。

 

 「撃つな、カナード!」

 

 そのトリガーを引く前に、鋭い声が響き渡った。カナードはその体勢のまま、声のした方向をじっと睨みつけた。

 

 「……なんだこいつは」
 「世間知らずのお嬢様か何かなんだろう。それよりも――」

 

 温和な態度を崩さなかったアムロの油断せぬもの言いに、長身の男が一歩下がった。

 

 「サイーブ・アシュマン。ずいぶんと仲間達への教育がなっていないようですね。――あれではザフトのスパイだと言われても、文句は言えない」

 

 すぐさまムウがわざとらしい笑みを浮かべて続いた。

 

 「いや〜実はつい先日もスパイを捕えましてね。年端もいかない少女でしたが、どうやらザフトと繋がりがあったようで……」

 

 サイーブは悔しそうにアムロを睨みつけるが、やがてため息をついていった。

 

 「こっちの管理不届きだ。謝罪しよう。――カガリ!」

 

 リーダーにとがめられて、カガリと呼ばれた少女はそちらに目をやろうとしたが、未だカナードに踏みつけるように押さえ込まれており、うまく身動きが取れないでいた。

 

 「くっ……離せ! この馬鹿っ!」

 

 しばし呆然としていたキラだったが、やがて何かを思い出したようにはっと目を見開いた。そうだ、この少女は――。

 

 「――きみ……あのとき、爛皀襯殴鵐譟璽騰瓩砲い拭帖帖」

 

 爛悒螢ポリス瓩鬟競侫箸襲撃した、あの運命の日、カトウ教授に会いに来ていた少女だ。あのあと襲撃に巻き込まれて――彼女は避難用シェルターへ、キラは爛好肇薀ぅ瓩悗畔未譟△修譴りになった。

 
 

 そんなキラの独り言を耳にしたカナードは、にいっと意地の悪い笑みを浮かべて銃を少女のこめかみにつきつけた。

 

 「やはりスパイか。ここで死ぬか?」
 「ま、待ってカナード。その子は……えーと……。そう、友達だよ! 友達! わざわざ会いに来てくれたんだよ!」

 

 慌てた様子で止めに入ったキラを、カナードは見向きもせずにそのままの体勢で動かない。そこにゆっくりと近づき、丁度爛好肇薀ぅ瓩肇泪螢紂爾燭舛涼羇屬飽銘屬垢訃貊蠅妊▲爛蹐言った。

 

 「離してやれ、カナード」

 

 だが、カナードは動かない。アムロを見ようともせずに彼は言った。

 

 「この女がザフトのスパイでないという証拠はあるのか?」
 「ン、それは――サイーブ・アシュマン。彼女がそうでないという証拠は?」

 

 アムロが何かを考えるそぶりをしてから、サイーブに問いただす。

 

 「……先ほども見ただろう。カガリは俺たちとともにザフトの爛丱ゥ瓩鯏櫃靴拭それだけの理由じゃ不服か?」
 「図に乗るなよ? 爛丱ゥ瓩里燭辰唇豕,函地球連合の未来がかかっている爛好肇薀ぅ瓠D爐蟾腓Δ箸任盪廚辰討い襪里」

 

 アムロがいつにもなく敵意を出して言った。
 長身の男が悔しそうに歯噛みしているのを横目で見ながら、マリューは意外そうな顔をしてアムロを見つめた。いつも冷静で優しい人物だと思っていた彼が、なぜこんなにも……?
 終始睨み合いが続いていたが、ふいに背後のムウが何かを伝えるように咳払いをし、マリューははっとした。
 ――そうか、これは……。
 彼女は慌てて命令をだした。

 

 「パルス中尉。銃を降ろしなさい」

 

 その声に、アムロが不満の色を浮かべ言う。

 

 「ですがラミアス艦長、あの少女は――」
 「命令です。銃を降ろしなさい」

 

 そう、これは演技だ。何者かもわからない相手、まずはイニシアティブを取ろうというのだろう。一筋縄ではいかないな、と相手におもわせれたのならそれでよし。すぐにボロは出るだろうが、ここで彼らを押さえ込んだという事実は決して消えないのだ。
そう考えてから、ひょっとしてカナードも一枚噛んでいるのではないかと思い少し嬉しくなった。それでも、突然の事態にまだ心臓がどきどきといつもより強く鼓動している気がして、少し指先が震えた。
 長身の男が、しぶしぶ戻ってきた少女を迎えながら、マリューに小声で「すまない」と言った。後ろのほうでムウがにたにたとアムロをからかっている。マリューは、どこか気が楽になるような感じがして、ふぅっと息をついた。

 
 
 
 

 〈全員無事にジブラルタルに入ったと聞き、安堵している〉

 

 通信室のモニターには、特徴的な銀色のマスクをつけた金髪の男が映し出されていた。
 ザフトの前線基地、ジブラルタル。ここに、第八艦隊との戦闘中、地球の重力に引かれた九人の少年少女たちが収容され、上官の指示を仰ぐために通信機の前に控えていたのである。

 

 〈――先の戦闘ではご苦労だったな〉

 

 そう労った仮面の男に向けて、ディアッカは皮肉な笑みを浮かべた。

 

 「まあ……死にそーになりましたけど」
 「そーそー! もう二度とごめんですって感じ」
 「ぼ、僕ぁ死ぬかと思いましたよ……」

 

 ラスティとアイザックががっとモニターに近づき、すがる様に訴えた。

 

 「降りたところが地中海じゃなければ……今頃は機体ごと粉々になっていたかもしれません」

 

 アスランが思い出すように言ってから、椅子の上で軽く身震いをした。
 モニターに映った相手は彼らの上官、『仮面の男』ラウ・ル・クルーゼだ。

 

 〈残念ながら『足つき』をしとめることはできなかったが、君らが不本意とはいえ、ともに地上に降りたのは幸いかもしれん〉

 

 狙った獲物を逃したためしがないこの男が、ついに爛◆璽エンジェル瓩鮗茲蠧┐し、地球へ降下させてしまった。それでもラウの仮面に覆われた顔には悔しそうな色は見えず、終始穏やかな声で話し続ける。
実はディアッカは上官のこの声が大嫌いだった。それはラスティやアイザックも同じのようで、三人はモニターに映らない位置まで下がってから目を合わせ、にやにやといたずらっ子のような笑みをこぼしている。

 

 〈――『足つき』は今後、地球駐留舞台の標的となるだろうが、きみたちもしばらくの間、ジブラルタルに留まり、ともに追ってくれ。ゼルマン艦長らも、意識が戻り次第そちらに向かわせよう。ああ、それから――〉

 

 彼は言葉をいったん切ると、まるで揶揄するようにアスランたちを見なおした。

 

 〈ラクス・クラインの救助は君達に一任されるそうだ。健闘を祈る〉

 

 通信が終わる。アスランはかけていた椅子に座りなおし、かたわらに立つ仲間達を見上げた。

 

 「――一任……? それはつまり、本国からの捜索は打ち切られたということなのか……!?」
 「ま、大丈夫だって。なんせ俺たちは、腐っても地に落ちてもクルーゼ隊だからな。『足つき』探してどこへでもってね」

 

 ラスティあえて明るい口調で言った。そもそもクルーゼ隊に所属することができるのは、それだけの技量に裏打ちされていなければならず、自分達は本来ならばザフト屈指のエース部隊なのだ。

 

 「でもねぇ、なんというか、結局上の連中はラクス・クラインを見捨てる決定を取ったんだろ?」

 

 終始ふてくされていたディアッカだったが、ふと目を上げてぎくりとする。横に立っていたイザークが、おもむろに顔の半分を隠していた包帯をほどきはじめたのだった。

 

 「おい、イザーク」
 「大丈夫なのかよ……?」

 

 ディアッカとラスティはそれを見て妙にどぎまぎしてしまった。彼らの仲間もまた、包帯の下から現れたものに、驚きで息を止めた。シホがそれをみて、小さく悲鳴を上げそうになった。
 イザークの顔を、醜い傷跡が大きく斜めに横切っていた。もとが繊細で鋭利な美貌だけに、その顔が刻まれた傷痕はなおさら無残で、ディアッカは不本意ながらその顔から目を離せなくなる。しかし現在の医療技術をもってすれば、これくらいの傷は痕も残さず治療することはたやすい。つまりこれは、イザークが自分の意思で残したものと考えていい。
 すると、イザークはその端整な顔を変えず、淡々と言った。

 

 「――当たり前だ」

 

 ため息をついているミハイルの横で、彼はほどいた包帯を力強く握りしめ、決意に満ちた様子で言った。
 「ラクス・クラインを救出する。『足つき』も落とす。俺たちはクルーゼ隊なんだっ!」

 
 
 
 

 なめらかな砂の海に突き出した、小鳥のような岩山に、爛◆璽エンジェル瓩篭瓩鼎い討い拭9濂璽櫂ぅ鵐箸ら東へ二百キロほど離れた場所だ。白く輝く巨大な船はバギーに先導され、岩の隙間を縫うようにゆっくり進む。住人らしい男達が、艦の威容に驚いて目をみはるのが見えた。
岩山に取り囲まれた谷底に、爛◆璽エンジェル瓩藁祥磴覇佑出た岩壁を削りながら着底した。そのうえに、上空からの偵察に備え、隠蔽用ネットを人とモビルスーツが広げていく。

 

 「サイーブ! どういうことだよ、こりゃ!」

 

 岩山の奥から男が駆けてきて、サイーブ・アシュマンに抗議する。だがレジスタンスのリーダーはむっつりと命じただけだった。

 

 「客人だ。仲良くしろ」

 

 マリュー、ムウ、アムロ、ナタルは彼に続き、奥へ進む。
 この岩山が彼ら『明けの砂漠』の本拠地なのだろう。彼らはサイーブについて奥へと通され、どうやら司令室らしい用途の部屋へたどり着いた。暗い電灯がともった部屋には通信機や情報分析用だろうか、コンピュータなどの機械類も並び、中央には広いテーブルが据えられている。ムウが小さく口笛を吹く。

 

 「たいしたもんだ。だが、こんなとこで暮らしてんのか?」
 「ここは前線基地だ。みな家は街にある。まだ焼かれてなけりゃな」

 

 サイーブが壁の方へ行き、電熱器にかかっていたポッドを取り上げながら答える。マリューが「街?」と聞き返す。

 

 「タッシル、ムーラ、バナディーヤから来てるやつもいる。俺たちそういう街の有志の一団だ」

 

 男はカップに注いだコーヒーを口にしながら、その場を離れる。マリューはサイーブの後を追った。

 

 「艦のことも――助かりました」

 

 慌てて礼を言う。あのでかい図体ではどこに置いても目立って仕方ないが、ここなら隠し場所として申し分ない。
 さっきの金髪の少女がそっとサイーブに近寄り、なにか耳打ちし、一瞬そばにいたアムロを睨みつけてから離れていく。ムウがその姿を見送りその姿を見送り、「彼女は?」とたずねた。サイーブは寡黙な目で彼らを見つめたあと、答える。

 

 「俺たちの『勝利の女神』だ」
 「へえ?」

 

 少女を見るムウの目にからかいが混じる。さっきの行動といい言動といい、『女神』と呼ぶには、彼女はいささか女ッ気が薄いように見える。

 

 「名前は?」
 「………………」

 

 答えが返ってこないので、ムウは青い目をサイーブに向けなおし、肩を竦めて見せた。

 

 「女神様じゃ、名を知らなきゃ悪いだろ」
 「……カガリ・ユラだ」

 

 彼はカップをテーブルに置き、その上に地図を広げた。

 

 「アンタらはアラスカに行きてえってことだがな――」

 

 明らかに話を逸らそうとしている。マリューは一瞬、彼の態度を不審に思ったが、すぐに地図に注意を引かれてしまった。

 
 

 「まずはアフリカ大陸を出る算段だな……。そりゃ、ザフトの勢力圏内ってったって、こんな土地だ。砂漠中に軍隊がいるわけじゃねえ……。だが、三日前にビクトリア宇宙港が落とされちまってからこっち、ヤツらの勢いは強い……」

 

 淡々と情勢を語るサイーブの言葉に、マリューたちの驚愕の声がかぶった。

 

 「ビクトリアが!?」
 「三日前――?」

 

 さすがのムウも「ありゃー」と渋い顔をし、アムロが何かを考えはじめる。

 

 「アフリカ共同体はもともと爛廛薀鵐鉢甦鵑蠅澄最後まで抵抗してた南アフリカ統一機構も、ついに地球軍に見捨てられちまったんだろうよ。ラインは日に日に変わってくぜ」
 「残るは、パナマか……」

 

 暗澹たる気分でマリューがつぶやく。

 

 「――あの船は、大気圏内ではどうなんだ?」
 「そう高度は取れない」

 

 質問にナタルが応じ、サイーブは地図の上に身を乗り出す。

 

 「山脈が越えられなえってんなら、あとはジブラルタルを突破するか……」
 「この戦力で? 無茶言うなよ」

 

 ムウが顔をしかめた。 ヨーロッパ及びアフリカ大陸侵攻の足がかりとして、ジブラルタル海峡にはザフトの前線基地がある。その巨大な勢力圏を爛◆璽エンジェル甍貔匹覇庸砲任るとは、とても思えない。
 だがそんななか、一人の男が口を挟んだ。

 

 「……いや、いけるかもしれない」

 

 みなが驚いて、一斉にその声をした場所を見やる。アムロはいつものように冷静な口調で言った。

 

 「ハルバートン提督は既にユーラシア連邦を通して補給部隊を送ってくれているはずだ。それ次第では、突破もできる。――爛妊絅┘覘瓩望茲譴襪發里いれば、の話にもなるが」

 

 そういわれて、マリューはその航路の可能性を真剣に検討しはじめる。だが、ナタルが反論するように声をあげた。

 

 「無茶です! 我々の戦力では――」
 「残る航路は、インド洋から太平洋へ出る、といったところだろう。だが僕たちには水中用のマシーンがない。ザフトにはあるのだろう? そういうモビルスーツが」

 

 ぐっと押し黙ったナタルに、アムロは追い討ちをかけるように言った。

 

 「……爛◆璽エンジェル瓩涼罎ら爛妊絅┘覘瓩望茲譴襪發里鯀出するしかないな。嫌な話だが……しかたがない、か。――そうすれば、爍猫瓩三機、戦闘機が二機。それなりの部隊になる。提督からの補給部隊も期待して言いと思う。彼はそういう人さ」

 

 アムロの余裕と自身に満ちた物言いに、サイーブが首をかしげた。

 

 「アンタ……ひょっとして『メビウスの悪魔』か? 軌道上開戦でやられたって聞いたが」
 「その名前は知らないが、宇宙で灰色の爛瓮咼Ε広瓩望茲辰討い拭△箸いΔ里覆蕁△修Δ澄

 

 その瞬間、サイーブの目の色が変わった。だがすぐにもとのむっつりした顔に戻って、言った。

 

 「……連合の流したデマだと思ってたが、実在したんだな」

 

 彼の言い方に、アムロはやれやれと息をついた。マリューが疑問に思っていたことを聞く。

 

 「レイ中尉は、ハルバートン提督とお知り合いなのでしょうか?」

 

 横でムウがにっと笑みをこぼしたが、アムロは平然と答えた。

 

 「知り合いというわけではないが……。いや、たぶん良い友人なんだと思う」

 

 釈然としない言い方に、マリューは首を傾げたが、それを無視してアムロが続ける。

 

 「まずはここを抜け出すことを考えよう。『砂漠の虎』とは、手ごわい相手らしいからね」

 

 その言葉にマリューははっとした。そうだ、問題は山ほどあるのだから……。

 
 
 
 

 迷彩ネットを爛◆璽エンジェル瓩砲け終わり、爛好肇薀ぅ瓩ら降り立ったキラに、あの少女がまた近づいてきた。カガリとか言ったか。
 彼女はキラを上目遣いに睨みつけるようにして、ぼそっと言った。

 

「さっきは悪かっ――」
「ごめんね」

 

 が、その前にキラが言った。カガリは「はあ?」と拍子抜けし訳のわからないと言った顔をしたので、キラは少し離れた位置にいる爛丱好拭辞瓩ら今しがた降り立ったばかりのカナードを視線で指した。

 

「本当は優しい人なんだよ。いつもみんなを励ましてくれて。でもちょっと乱暴なところがあるから……ごめん」

 

 カガリは「や、やさしいっ!?」と驚いたが、すぐにその感情を引っ込め、軽く咳払いをした。

 

 「……ずっと気になっていた。あのあと、お前はどうしたんだろうと……」

 

 あいかわらず、怒ったようなぶっきらぼうさで言う。それは気まずさを隠すためのものだとキラは気づいた。
 爛悒螢ポリス瓩妊ラは、満員だと言われたシェルターに「せめて一人だけでも」と、カガリを押し込んだ。だが、見も知らぬ人間が自分だけを助けて、その後コロニー崩壊に巻き込まれていたら――と、わが身に置き換えて考えると、カガリの気持ちがわかった。

 

 「……ごめん」

 

 キラはまた謝罪の言葉を口にしたが、よく考えると謝るのも妙だ。だが、カガリは居丈高にその言葉を受け入れた。

 

 「そうだ。二度とあんなことしてみろ。許さないからな」

 

 と、言われても、もしまた同じ状況になったら、たぶん自分は同じ事をしてしまうような気がした。密かにジレンマに陥っているキラをよそに、カガリは怒った口調になる。

 

 「で――そのおまえが、なんでこんなものに乗って現れる。おまけに今は地球軍か!」

 

 彼女に咎められる筋合いではないが、なんとなく怒られても当然、という気がして、キラはうつむいた。その時、背中越しからあいかわらず不機嫌そうな声がした。

 

 「――戦う力があったからだ」

 

 カガリがその声の主――第一印象最悪だろう――をギッと睨みつけた。

 

 「いろいろあったんだよ……」

 

 だが、キラは優しく言った。その脳裏を、幼い頃のアスランの顔が、爛悒螢ポリス瓩任寮験茲、カナードとの出会い、泣いているフレイ、自分を支えてくれる大人たちの背中が、そして、シャトルと自分達を包んだ優しい光が、一瞬のうちに駆け抜ける。

 

 「……いろいろ、ね」

 

 彼の思いを馳せるような声になにか聞きつけたのか、カガリはそれ以上追求せず、だが探るような目で彼を見つめる。そういう気がかりそうな表情をしていると、急に女の子らしく見えた。

 

 「そういえば――きみこそ、なんでこんなところにいるの?」

 

 キラがあっと思い出してからカガリに聞いた。

 

 「オーブの子じゃなかったの? それとも元々こっちの方の人?」
 「ほう……オーブの子、か」
 「えっ!?……えー……」

 

 カガリは困ったような顔でそっぽを向いた。そのとき――。

 

 「ん〜、やっと出られました〜」
 「はいはい」

 

 少女たちの声が近づいてきて、三人は見やった。突き出した岩塊の角を回って姿を見せたのは、フレイと、んーっと思い切り伸びをしているラクスだった。フレイはキラの姿をみとめ、「あらっ、仕事終わったの」と声をかけてきた。

 

 「まあ、キラさまもカナードさまも。お勤めご苦労さまです」

 

 ラクスはぺこりと頭を下げ、言った。キラは反射的に頭を下げ、「あ、どうも」と言ってしまい、横にいたカナードが大きく舌打ちをした。

 

 「わたくし、砂漠に来るのは初めてですの。お砂がサラサラしていて、素敵なところですわ〜。うふふ、好きになってしまいそうです」

 

 楽しそうに歩きながら言うラクスの顔には笑みが溢れている。キラはそれに見とれていたが、彼女が砂に足ととられて顔からぼふっと転んでしまったのを見て、慌ててかけよった。

 

 「だ、大丈夫?」
 「あーあー。もう、何やってんのよラクス。コーディネイターなんだからしゃんとしなさいよね」

 

 二人に助け起こされたラクスは、悲しそうな表情をしてつぶやいた。

 

 「帰りましょう、もう……」

 

 キラとフレイは呆れ顔で言うガックリと肩を落とした。

 
 

 それを側で見ていたカガリがぎょっとして目を見開いた。しばらくラクスを凝視してから、何かを考え、きょろきょろとあたりを見回す。

 

 「……へ? えーと……。え、え……? ラクスって?……はあっ!?」

 

 カガリはしばらく事態が飲み込めない様子で、しどもどしていた。

 

 「やだ、何この子……。かわいそうな子?」
 「まあ……」

 

 同情と軽蔑の入り混じった視線を向けたフレイに、ラクスが悲しげに続く。それをカガリは体全体で否定を表してから言った。

 

 「違う違う違ーう! えと……ラクスってあのラクスだろ!? クラインのラクスなんだよな!?」

 

 ラクスが一歩前へ出て、ふわりとした笑みを浮かべていった。

 

 「はい。わたくし、クラインのラクスのラクス・クラインと申します」
 「あ、いえ。わざわざご丁寧に……。――じゃなくって! なんでここにいるんだよ!? なんでプラントのトップの娘が連合の戦艦から楽しそうに出て来るんだよお!?」

 

 言い終わってからぜえぜえと大きく息をついたカガリに、フレイが「ノリが良い子ねえ」と感想を漏らしている。彼女はまたふわふわと言う。

 

 「わたくし、捕虜になってしまいました」
 「駄目じゃんお前…………」

 

 流石にそう言われるのは答えたのか、ラクスは「駄目……ですか」と言いながら悲しそうに身を縮ませた。フレイが、あーあ言われてやんのと言わんばかりにやれやれと視線をそらす。

 

 「おい、ラクス・クライン。……次は無いぞ?」

 

 キラの背中越しから、殺気を込めた声がした。だが、ラクスはぷいっと後ろを向いてしまう。

 

 「わたくし、モビルスーツの操縦はできませんっ」

 

 カナードは舌打ちをし、わずかに目を細める。

 

 「二度とするなと言っている」
 「もうできないことはいたしません。できることをするのです」

 

 そう言って、「行きましょ、フレイさん」と言って歩き出す。

 

 「行くってどこへよ?」
 「できることをしに、ですわ」

 

 呆れ気味のフレイに、ふわっと可愛らしい笑みでラクスが振り返った。キラはそれを追おうと歩き出す。

 

 「それじゃあ、おやすみカガリ。また明日ね」

 

 終始圧倒され気味だったカガリは、「え? あ、ああ」と返して動けないでいた。その場には彼女とカナードの二人が残され、彼がじっと睨んできたのでカガリは身構えた。

 

 「な、なんだよ……?」

 

 しばらくにらみ合っていたが、不機嫌そうに鼻を鳴らしてからカナードも彼らの後に続いていった。それを見送りながらカガリは呆然として立っている。

 

 「……変なやつら」

 

 砂漠の夜は更けていった。

 
 
 
 

 「ダコスタです、失礼します」

 

 ノックをしてドアを開けると、凄まじい臭気がダコスタを包み込み、彼は思わず鼻を押さえた。コーヒーの香りは芳香というのだろうが、ここまでくると暴力としか感じられない。部屋の主は濃く立ち込めた香りにも動ぜず、コーヒーを竹べらでかき混ぜていた。

 

 「う……隊長、換気しませんか?」

 

 やっとのことで言うと、バルトフェルドは不審そうにダコスタを見やる。

 

 「そんなことわざわざ言いに来たの?」
 「いえっ、そういうわけでは……」

 

 ――だめだ。コーヒーに熱中している時の彼に――いや、そもそも常識というものを異国の言語程度にしか理解していないこの人に、正論を説いてもはじまらない。ダコスタはあきらめて報告した。

 

 「――出撃準備、完了しました」

 

 バルトフェルドはできたばかりのコーヒーをカップに注ぎ、立ち上る湯気を深く吸い込んで満足そうにため息をついた。

 

 「うん、いいね――今度のにはハワイコナを少し足してみたんだ」
 「…………はあ」

 

 ダコスタは注意深くあいづちを打つ。以前不用意に「それはどういう豆なんですか」などと口を滑らせ、えんえんと薀蓄を聞かされるはめになったことがある。

 

 「うん……これもいい。ハワイコナはわずかでも充分にその存在を主張する。ぼくは好きだね、こういうの」

 

 バルトフェルドは空になったカップを置き、颯爽と艦長室を出た。
 甲板上には、いつでも出られる状態の爛丱ゥ瓩三機と装甲車、そしてその前には兵士たちが整列し、彼らの指揮官を待っていた。バルトフェルドはあいかわらず、気負ったようでもなく口を開く。

 

 「ではこれより、レジスタンス拠点に対する攻撃をおこなう!――昨夜はおいたが過ぎた。悪い子にはキッチリおしおきをせんとな」

 

 ――どうも一言よけいなことをつけ加えねば気がすまないらしい。兵士たちはマイペースな上官に不満を見せることもなく、格別にへつらう様子もない。バルトフェルドを侮る者など、この隊にはいない。たしかに奇行の多い人物ではあるが、その実力を誰もが認めているからである。

 

 「目標はタッシル!――総員搭乗!」

 
 
 
 

 鋭い笛の音がキャンプに響いた。
 どうやら警報の意味らしく、司令室からサイーブが飛び出し、マリューたちもなにが起こったのかと後に続く。

 

 「どうした!?」

 

 見張り台にいた少年が、まだ高い声で叫び返す。

 

 「空が……空が燃えてるっ!」

 

 みなが、はっと息をのむ。

 

 「タッシルの方向だ!」

 

 とたんにサイーブは取って返し、無線に駆け寄る。すでにそれを試していた男が、ノイズを吐き出すスピーカーを乱暴に殴りつけた。

 

 「ダメだ! 通じん!」

 

 外ではみな口々に怒鳴りながら行き交い、車を急発進させる音が響く。

 

 「弾薬をはやく!」
 「あいつら……! お袋は病気で寝てんだよっ!」
 「はやく乗れ! もたもたしてっと置いてくぞ!」

 

 サイーブはまた外へ駆け出した。

 

 「待て! 慌てるんじゃない!」
 「サイーブ、ほっとけっ言うのか!?」
 「そうじゃない、半分は残れと言うんだ! 落ち着け! 別働隊がいるかもしれん!」

 

 彼らの動きを見ながら、マリューはとなりのムウに声を落としてささやきかける。

 

 「――どう思います?」

 

 「うーん」と、ムウは腕を組んだ。

 

 「『砂漠の虎』は残虐非道――なんて話は聞かないけどなー」
 「じゃ、これはどういう……?」
 「さあ? だって俺、知り合いじゃないしねえ」

 

 いつもどおり緊迫感のかけらもない態度に、マリューは一瞬肩を落とす。

 

 「んもう、中尉はどこにいるのよ」

 

 きょろきょろと周囲を見渡していたマリューだったが、突如爛◆璽エンジェル瓩ら発進した機影を見て、目を見開く。
 「あれは……爛好イグラスパー瓠?」
 「――ん、行くのか? 恩を売っておく必要もある、か」

 

 独り言のようにぶつぶつと言い始めたムウにマリューは首を傾げる。

 

 「フラガ少佐?」
 「うん? いや、俺も行ってくるよ。お留守番よろしくっ」

 

 彼女の心配そうな様子を気にしたようすもなく、ムウは軽く肩を回しながら爛◆璽エンジェル瓩惴かった。マリューは彼の後姿に声をかける。

 

 「私たちにできるのはあくまで救援です! バギーでも医師と誰かを行かせますから!」
 「ほーい」

 

 ムウは振り返らずに、手だけ振って走り出した。彼の横をすり抜けて駆けてきたカガリが、「アフメド!」と叫んで、見覚えのある少年が運転するバギーを呼び止める。カガリがアフメドのバギーに乗り込むと、後部座席に今朝方、彼女をかばうようにムウの前に立ちふさがったあの大男が飛び乗り、バギーは発進した。
 マリューも周囲に向かって呼びかけた。

 

 「総員! ただちに帰投! 警戒態勢を取る!」

 
 
 
 

 キラたちのもとにも騒ぎは伝わっていた。とたんにキラはベッドから飛び起き、はじかれたように走り出す。

 

 「近くの街が焼かれたらしい。一応俺たちも出る事になったそうだ」

 

 走っているキラの横に、併走するような形でやってきたカナードが言った。

 

 「そんな……!? じゃあ、街の人は……」
 「さあな。先にアムロ・レイが出て行った、間に合いさえすれば問題ないだろう」

 

 キラはほっと息をついた。だが、カナードは意地悪な笑みを浮かべてにやりとキラを見た。

 

 「――間に合うはずもないがな」

 

 楽しそうに笑いだしたカナードを、キラは文句の一つでも言ってやろうかと思い口を開こうとした。その時、目の前に「もう朝ですか〜?」と言って目を擦りながら寝ぼけ眼でやってきたラクスをが現れ三人は思いっきり激突してしまった。

 

 「貴様……またオレの邪魔を……!」
 「ま、待ってよ。カナードだってよそ見してたじゃないか!」

 

 ラクスの上に乗ったままケンカを始める二人をよそに、部屋からミリアリアとフレイが出てきて声をかけてきた。

 

 「あいやー、やっちゃった。だから突然飛び出すと危ないって言ったのよ」
 「やだ……あんたたち女の子を押し倒して何やってんの!? 痴漢、変態!」

 

 それぞれの反応をする少女たちに、キラは慌ててラクスの上から飛びのいた。

 

 「違うよ! たまたまぶつかっちゃっただけて……」
 「はいはい、わかってるから。ねえキラ、出撃とかじゃなかったの?」

 

 軽蔑して睨むフレイを遮るようにミリアリアが前に出て言った。キラは「あっ!」と言って走り出した。カナードはというと、もうとっくに行ってしまったらしく、姿は見えない。
 ああ、きっとまた怒られるんだ……。キラはおかしいような悔しいような、不思議な感情になってカナードの背が見えるまで走り続けた。

 
 
 
 

 街は火の海だった。
 タッシルは広がる砂漠の闇を照らし出す、巨大な松明へと変じていた。

 

 「隊長!」

 

 ダコスタが戻り、助手席に乗り込むと、目を閉じて待っていたバルトフェルドは片目を開ける。

 

 「……終わったか?」
 「はい!」
 「双方の人的被害は?」
 「は?」

 

 ダコスタは思わず聞き返す。抵抗する術も持たない民間人相手に、被害など出したらいい笑いものだ。

 

 「あるわけないですよ。戦闘したわけじゃないんですから!」
 「『双方』だぞ?」
 「……そりゃまあ、街の連中の中には、転んだだの火傷しただのってのはあるでしょうが」

 

 結局のところ、バルトフェルドは『気分の悪い』ことはしない主義なのだ――と、最近ダコスタは思うようになった。非戦闘員――女子供や年寄り連中を傷つけたり殺したりすることは、気分が悪いからしない。彼が人道主義者であるとは言わない。
もちろん必要ならば街のひとつや二つ焼き払うことをためらったりはしないし、住民を殺す場合もある。だが、ただ町を焼くだけで同じ効果が上がるなら、それだけでいい。それは彼なりの合理性に従った厚意なのだろうと思う。
 そして今もバルトフェルドはあっさり言った。

 

 「では引き上げる。ぐずぐずしてるとダンナ方が帰ってくるぞ」

 

 ついついダコスタは、あっけにとられた顔になってしまう。

 

 「それを待って討つんじゃないんですか?」
 「おいおい、それじゃ卑怯だろ!? ダコスタ君、僕がやつらをおびき出そうと思って街を焼いたと思ってるの?」

 

 心外そうに言われ、ダコスタは「はあ……」と力なくつぶやく。卑怯も何も、戦争なんだからそういうものだろう、という、ごくまともな意見はこの人に言うだけ無駄だ。

 

 「ここでの目的は達した! 帰頭する!」

 

 バルトフェルドは指示を出し、ダコスタはそれを各機に伝えた。
 やっぱりこの上官の行動を読むことは、自分には不可能だ――と思いながら。

 
 
 
 

 左翼に赤いユニコーンの頭部を模したエンブレムを施した爛好イグラスパー瓩、夜空を切り裂いて飛ぶ。タッシルはレジスタンスの拠点から東に数十キロの距離にあるが、行き先を迷う可能性はまったくなかった。百キロ先からでもこの灯りは見えるだろう。
 燃えさかる街に近づくと、アムロは気流に巻き込まれないように注意しつつ、上空を旋回した。

 

 「妙だな……」

 

 コックピットの中から街を覗き見しつつ、彼は顔を顰めた。

 

 「避難が完了していたのか……?」

 

 無事に残っている区画はほとんどなく、残ったそこも、じきに延焼の炎にのまれて灰と化すだろう。街に動く者の姿はなかった。
 アムロが注意深く周囲を捜索していると、町外れの小高い丘に人影が見えた。生存者が残っていたのだ。――というより、ほとんどの住民が生き残っているように見える、と、アムロは爛好イグラスパー瓩鯢婉瓩肪緡Δ気擦覆ら考える。
 人々は天を呪い、泣き叫び、あるいは呆然として立ち尽くして燃える街を見ていた。
 アムロは通信を開いた。

 

 「こちらアムロ……生存者を確認した」
 〈そう……よかったわ〉

 

 荒れた画面の中で、マリューの顔が少し微笑む。

 

 「だが、どうやらほとんどの住民が無事のようだ」
 〈え?〉
 〈こりゃ、いったいどういうことかな?〉

 

 上空からやってきた、もう一機の爛好イグラスパー瓩らも通信が入る。マリューはせきこんでたずねた。

 

 〈――敵は!?〉

 

 当然そう考えるだろう。それならば街を焼いたのは、彼らやレジスタンスをおびき寄せる作戦に違いないと。だが、アムロは平然と答えた。

 

 「いや、いないな。敵の気配も感じない――そうか、『砂漠の虎』とはこういう男か」

 

 マリューに伝えてから、一人納得してつぶやく。彼女が困惑した様子で疑問を投げかける。

 

 〈それは、どういうことでしょうか?〉

 

 「『砂漠の虎』は、レジスタンスの連中をまったく相手にしていないってことさ。たぶん今回のも、悪戯が過ぎた子供を叱った程度にしか考えていないはずだ」

 

 アムロの答えに、彼女は口をあんぐりと開けて驚いていた。ムウがやれやれと言う。

 

 〈眼中に無いってことかあ。そりゃみなさんお気の毒に〉

 

 しかし、と同時にアムロは思った。これはやりづらい相手かもしれない、と。概ね今まで相対してきたコーディネイターの敵は、少なからず油断がある。反応速度や、操縦法などは見事だと感心するが、それらが物理法則を捻じ曲げることなどできるはずもなく、
十七メートルの巨人がそれを行うのだから、少なくともモビルスーツ戦において、ナチュラルとコーディネイターの差はそれほど開いてはいないとアムロは実感している。無論、彼らがそれを理解し、本気でナチュラル相手に戦おうとしたのならまた話は別であろう。
しかし、彼らはそれをしない。だから、アムロの中では、コーディネイターは所詮は強化人間のバリエーションでしかなく、精神面においてはナチュラルのそれと何も変わらなく、付け入る隙も大きいというのが感想だ。
そして、多くの強敵と相対してきたアムロにとって、こちらを脆弱なナチュラルと侮蔑するコーディネイターなど、敵ではない。
 だが、それも長くは続かないだろうとアムロは感じていた。おかしな異名をつけられ、敵に自分の存在が広まり始めている。そのうちコーディネイターは本気でアムロを殺しにかかるだろう。その時、果たして彼らを守りきれるかどうか、あの少年たちが生き延びることができるかどうか――。
 だがそれとは別の問題で、『砂漠の虎』にはやりづらい部分がある、とも感じていた。おそらく、相手は『独自の美学』にしたがって戦うタイプだ。そういう者たちは総じて常識に囚われず、予想だにしない行動を取る。
個々の美学など、人殺しに特化したアムロに理解できる道理は無く、かつて『彼女』が否定してくれた、人殺しの道具としてしか生きることのできない己にわずかに苛立ちを覚えた。

 
 
 
 

 そうこうするうち、レジスタンスたちのバギーが、砂煙を上げて近づいてくるのが見えた。彼らは車から飛び降り、家族の姿を見つけて駆け出す。

 

 「父さん、母さん、無事か!?」
 「あんたァ! 家が……!」
 「サーラ、サーラ!」

 

 あちこちで、妻や子供を抱きしめる者、夫にすがって泣き崩れる者、肉親の無事を確認する者の姿が見られた。そこへ、少し遅れて爛◆璽エンジェル瓩離丱ーも到着した。ナタルとメリオルが降り立ち、すでにコックピットから出て家族達の再会を眺めていたムウとアムロに駆け寄る。

 

 「少佐、これは……?」

 

 ナタルも、さしずめ街の中身をそっくり移したような大量の避難民に、意外さを禁じ得ない。
 サイーブが指示を出して避難民の中を歩き回っていると、カガリが一人の少年と、彼が付き添っている老人に気づき、「ヤルー! 長老!」と、喜色を浮かべて声を上げる。すると、サイーブもぱっとそちらに目をやった。どうやら少年は彼の息子らしい。

 

 「無事だったか、ヤルー。母さんとネネは……?」
 「シャムディンのじいさまが、逃げるとき転んで怪我したから、そっちについてる」

 

 少年が気丈なようすで答えると、したたかなレジスタンスのリーダーもさすがに安堵の息をついた。

 

 「そうか……」

 

 大きな手でほめられるように撫でられ、ヤルーは気が抜けたのか涙ぐむ。だが、サイーブはすぐにリーダーの顔に戻った。

 

 「……どのくらいやられた?」

 

 問われて、長老と呼ばれた老人が、皺の多い顔を上げた。

 

 「……死んだものはおらん」
 「どういうことだ……?」

 

 そばにいたカガリが驚きの声を上げるころには、ムウたちも事情を聞くために彼らに近づいていた。長老は苦々しくつづける。

 

 「最初に警告があったわ。『今から街を焼く、逃げろ』とな……」
 「なんだと?」

 

 意外な言葉にサイーブが息をのむ。

 

 「……警告のあと、爛丱ゥ瓩来た。そして焼かれた……家も、それに食糧、燃料、弾薬、すべてな……」

 

 静かな憤りを込めて、長老は砂漠の陽射しに刻み付けられた皺を更に深める。

 

 「たしかに、死んだ者はおらん。今はな……。 じゃが、すべて焼き払って、やつらは明日からわしらにどうやって生きろと言うんじゃ……」
 「ふざけた真似を……! どういうつもりだ、『虎』め……!」

 

 サイーブが拳を握りしめる。そのとき、怒りに沈んだ空気に、横から淡々とした声が割り込んだ。

 

 「だが、手立てはあるだろ? 生きてさえいりゃさ……」
 「なに!?」

 

 サイーブたちが険悪な表情で、言葉を発したムウを見やる。アムロが続くように言った。

 

 「あなたたちはまだ生きているんだ。それも、誰一人として欠けることなく、ね。建物ならばまた作り直すことができる」
 「なんだとぉ!?」

 

 アムロの冷静な言葉にカガリが飛び出し、胸ぐらをつかまんばかりの勢いでつめ寄る。

 

 「街を焼かれたんだぞ! 住む場所を奪われたんだぞ!」
 「でも君達はあの時、爛丱ゥ瓩離僖ぅ蹈奪箸鮖Δ靴燭世蹐Α にも関わらず『砂漠の虎』は一人の死者も出さずに街だけで済ましてくれたんだ」

 
 

 「だが……!」と、尚も掴みかかるカガリを制して、長老と呼ばれた老人が言った。

 

 「わしらはこれからどうやって生きていけばいい……。住む場所も、食糧も無くなってしまった」

 

 彼の言葉に、周りにいたものが悔しそうな顔をしてうつむいたが、アムロはそれに正面から答えた。

 

 「――ここを出るまでの間なら、モビルスーツとパイロットを貸しましょう。復旧の役には立つはずです」

 

 それはアムロの見せる最大の譲歩だった。ナタルが驚いて反論する。

 

 「いけません、中尉! そのようなことをしては――」
 「彼らの訓練にもなるし……爛妊絅┘覘瓩離僖ぅ蹈奪箸眩ばなければならない。そうこう言ってられないさ」

 

 ふっと軽く言うアムロに、尚も彼女は言った。

 

 「ですが……軍の機密が……!」
 「既にザフトに奪われたモビルスーツに、機密かい?」

 

 呆れたように苦笑してから、アムロは背を向けて自分の爛好イグラスパー瓩妨かって歩き出した。そのとき、カガリが激昂した。

 

 「……そうだ、昨日だって爛丱ゥ瓩鯏櫃靴燭鵑澄 あいつは卑怯な臆病者だ! 我々が留守の街を焼いて、それで勝ったつもりか!? 我々はいつだって勇敢に戦ってきた!」

 

 周囲のレジスタンスたちも、それに賛同するようにアムロを軽蔑の目で見る。

 

 「――だから臆病で卑怯なあいつは、こんなやり方で仕返しするしかないんだ! 何が『砂漠の虎』だ!」

 

 だが、爛丱ゥ瓩鯏櫃擦燭里蓮敵が爛好肇薀ぅ瓩傍い鮗茲蕕譟¬断していたからだ。しかし彼女らの中ではすでに「爛丱ゥ瓩鯏櫃靴拭廚箸い事実が一人歩きを始めていた。そんな彼らに、冷たい声色でアムロが口を挟む。

 

 「図に乗るなと言った。俺たちは勇気と無謀を履き違えるようなアマチュアにつきあうつもりは無い」

 

 カガリはギッとアムロを睨みつけてから何かを言おうとしたが、それよりも早く「おまえら、どこへ行く!」というサイーブの鋭い声が聞こえ、一同はどちらに目をやった。レジスタンスのメンバーたちが、手に武器を持ち、バギーに乗り込もうとしていた。

 

 「やつらが街を出て、まだそうたっていない! 今なら追いつける!」
 「なにを……!」

 

 男たちのやりとりを聞き、ムウはアムロの側によってつぶやいた。

 

 「ちょっとちょっと、マジかよ?」

 

 男たちは口々に言いのり、興奮した様子でエンジンをかけた。サイーブが慌てて止めようとする。

 

 「馬鹿なことを言うな! そんな暇があったら怪我人の手当てをしろ! 女房や子供についてやれ! そっちの方がさきだろう!」

 

 だが男たちは倍の勢いで怒鳴り返す。

 
 

 「それでなんになる!?――見ろ! タッシルはもうおわりさ、復興のしようがない! ――なのに、女房子供といっしょに泣いてろとでも言うのかよ!?」
 「まさか俺達に『虎』の飼い犬にでもなれって言うんじゃないだろうな、サイーブ!」

 

 サイーブがぐっと詰った隙を縫うように、バギーは走り出した。取り残されたサイーブは、どうしようもない苛立ちをぶつけるように砂を踏みつけたあと、一人の男に顎をしゃくった。

 

 「――エドル!」
 「おう!」

 

 その意味を心得た男はバギーに飛び乗り、エンジンをかけた。カガリが駆け寄る。

 

 「私も行く!」

 

 続けて飛び乗ろうとしたカガリは、猫の子のように払い落とされる。

 

 「お前は残れ」

 

 その言葉だけ残して、バギーが走り去る。カガリは彼の言葉の意味を考えもせず、砂煙にむせななが「サイーブ!」と恨めしげな視線を送った。その彼女の前にアフメドの車が停まる。

 

 「乗れ!」

 

 すでに後部座席には、いつも影のように付き従う大男の姿もある。カガリの顔が、ぱっと明るくなり、彼女は喜び勇んでバギーに飛び乗った。そしてもう一度アムロをキッと睨み言った。

 

 「私たちは爛丱ゥ瓩世辰禿櫃擦襪鵑澄 それだけの意思と力がある!」

 

 カガリの視線を正面から受け止め、アムロが冷たく言いははなつ。

 

 「――復旧にモビルスーツを貸すとは言った、だが君達の自殺に付き合うなどとは言っていない」

 

 その言いように、彼女は再び激昂した。

 

 「自殺などしない! 私たちは戦って勝つんだ!」
 「ならやってみろ。俺たちはここにいさせてもらう」

 

 売り言葉に買い言葉となり、カガリたちは鼻を鳴らして仲間たちの後を追った。
 いつになく冷たい口調のアムロに驚いているナタルの横で、メリオルが不安げに声をかけた。

 

 「本当によろしかったのでしょうか……? 彼らは間違いなく……」
 「だよねえ……」

 

 案の定、それを聞いたマリューもあきれた。

 

 〈なんですって!? 追っていった? なんて馬鹿なことを! なぜ止めなかったんです、少佐!〉
 「止めようとしたんだけどねえ……。あの嬢ちゃんたち、駄目だわ。周りが見えていない」

 

 爛◆璽エンジェル瓩板命をしているムウの後ろでは、ナタルが怪我をしてい泣いている子供に手を焼いているようだ。

 
 

 「えー、い、痛いのか? ほら、もう泣くな」

 

 明らかに子供をあやすのに慣れていない彼女は、泣き喚く五歳ばかりの男の子に向かって、ポケットからスナックを取り出して与えている。子供はぴたっと泣くのをやめ、夢中で菓子を頬張る。ナタルはほっとして笑ったが、それをみて集まってきた子供たちに気づいて顔を硬直させる。

 

 「あ……そ、そんなにはないんだ。 こ、困ったな……」

 

 それを見て、アムロとメリオルが苦笑しながら彼女に声をかけた。

 

 「中尉は、良いお母さんになれそうだね」
 「可愛い人ってことなんですね」

 

 「ン、そうだ」と相槌を打ちながら、むすっと顔を赤らめているナタルに笑いかけているアムロを、横目で見ながら、思いっきり顔をしかめた。

 

 (くっそー、楽しみやがって。俺なんて怒られてるんだぞ)

 

 しみじみとしていたムウに、マリューは通信機越しでため息をついた。

 

 〈――モビルスーツ隊を発進させます。見殺しにはできません。そちらには――〉
 「アムロのやつは、自殺に付き合うつもりは無いって言ってるぜ?」

 

 ムウがマリューの意見を遮るようにして言った。彼女は驚いて聞き返した。

 

 〈で、でも……! 見殺しには、できないわ〉

 

 念を押すように言うマリューに、ムウはやれやれと頭をかいた。

 

 〈フラガ少佐も、レイ中尉の意見に賛成なのですか?〉

 

 マリューが不安げな顔をしている見て、ムウは視線を逸らした。

 

 「いや――磨耗しちゃってるのさ俺たちは。人に死に慣れすぎてる」

 

 〈慣れすぎている?〉とモニターの中で疑わしい顔をして見つめてくる彼女に、ムウは軽く目線を落とす。

 

 「俺の中にもな――避難勧告なんて出さずに、ごく普通に街を焼き討ちしてくれればこんな面倒なことにもならずにすんだ。――そう思っている部分があるんだよ」

 

 モニターの中で、うっと顔をゆがめているマリューの顔が見えた。だがムウはそれを気にした様子もなく、子供たちの相手をしているアムロに向かって声を上げた。

 

 「どうするよ、アムロー。艦長さんは助けに行ってほしいみたいだぜ」
 「どうすると言われてもな。キラたちをこんなことに引っ張り出させるつもりはない。待機はしてもらっているが――」

 

 手を軽く振りながら、駄目だと合図して彼は言った。ムウはこれで決まりかな、と口の中で言ってからマリューに報告しようとしたが、その前に後ろで少し驚いた様子のアムロの声がしたので、そっちを見やる。

 

 「――あなたは……」

 

 アムロの前に、先ほどサイーブたちから長老と呼ばれた老人が立っていた。彼が深く頭を下げる。

 

 「……頼みます。血気盛んな若者ですが……、この街の未来を担う大事な若者なのです」

 

 懇願するように言う老人に、アムロはあえて冷たい口調で答えた。

 

 「そうしてその若者を助けるために戦場に行くのも同じ未来を担う若者、ということをご理解していただきたいな。――うちのモビルスーツに乗っているのは十六の子供でね」
 「それは……。ですが、このままでは彼らは全滅してしまいます。なんとか、なんとかならんでしょうか? 普段はとても気のいい、優しい連中なのです。どうか……」

 

 困惑しているナタルの後ろで、ムウが見定めるようにアムロを見つめている。メリオルもまた、彼がどうでるか待っているようだ。やがて、アムロはため息をついて老人に背を向ける。

 

 「モビルスーツ隊の発進を。俺と少佐で敵をかく乱して、後方から撃たせるようにする」

 

 そう言いながら自分の爛好イグラスパー瓩妨かっていくアムロの背に、ムウが「へえっ」と言って声をかける。

 

 「いいのか?」
 「自殺に付き合うつもりは無い、だが――ああいう、時代を担ってきた人の頼みも聞いてあげたいと思う。俺のエゴかもしれないけどね」

 

 そう言って苦笑したアムロは、さっさと爛好イグラスパー瓩望茲蟾み、起動させていく。ムウはひゅっと口笛を吹いてから、モニターに目をやった。

 

 「だとさ。行って来るぜ」

 

 のほほんとマリューに告げてから、彼も爛好イグラスパー瓩魑動させる。

 

 〈――では、パルス中尉、ヤマト少尉の両名に発進命令を出します〉
 「おう、よろしく。――バジルール中尉、ピスティス少尉っ! 子供たちのお守りをよろしくなっ」

 

 相変わらず緊迫感のかけらもなく、子供に囲まれた女性士官たちに言ってから、爛好イグラスパー瓩肋緇困靴討い辰拭

 
 
 
 

 「隊長……もう少し急ぎませんか?」

 

 ダコスタは制服の襟をくつろげながら、やれやれと言う。するとシートにふんぞり返ったバルトフェルドが片目を開けた。

 

 「そんなに早く帰りたいのかね?」
 「じゃなくて……追撃されますよ、これじゃ」

 

 ダコスタの懸念をよそに、バルトフェルドは目を閉じた。しばらくして、ぼそっとつぶやく。

 

 「……運命の分かれ道だな」
 「は?」

 

 会話が続いているのか、それとも独り言なのかわからず、ダコスタは思わず聞き返した。

 

 「自走砲と爛丱ゥ瓩犬磧▲吋鵐にもならん……」

 

 バルトフェルドはふと目を開けて、そのまま空を見上げた。明るくなっていく空はかすかに夜の名残をとどめ、甘く優しい青に染まっている。彼は唐突に訊いた。

 

 「……死んだ方がマシ――という台詞はけっこうよく聞くが、本当にそうなのかね?」
 「はあ……?」

 

 知りませんよ、まだ死んだことないんですから――と、ダコスタが答えようとしたとき、通信が入った。爛丱ゥ瓩離僖ぅ蹈奪箸らだ。

 

 〈隊長、後方から接近する車両があります。六……えー、八、レジスタンスの戦闘車両のようです〉

 

 ダコスタは思わず上官を見やった。さっきから彼が独り言のように言っていたのは、このことだったのだ。彼はレジスタンスの反応をすべて読んでいた。
 バルトフェルドは深く青い砂漠の空を見上げたまま、つぶやいた。

 

 「……やはり、死んだ方がマシなのかねえ?」

 
 
 
 

 「カガリ、アフメド! だめだ、戻れ!」

 

 バギーの上からサイーブが叫んだが、アフメドはそれを笑い飛ばした。

 

 「こないだ爛丱ゥ瓩鯏櫃靴燭里話だ、え? 俺たちだろ!」
 「今回、地下の仕掛けはない! 戻るんだ、アフメド!」

 

 さすがにサイーブは、自分達の力のほどというものをわきまえていた。爛丱ゥ瓩鯏櫃擦燭里蓮⊆到に用意した仕掛けと、そして爛好肇薀ぅ瓩箸いΕ┘機敵の意表をつくという戦法、それらすべてがうまく作用したから成功した事であり、僥倖と言ってもいい。正面からぶつかれば敵うはずがない。だが若いアフメドは、敵に煮え湯を飲ませたということで、有頂天になっていた。

 

 「サイーブ! いつからあんたはそんな臆病者になったんだ!?」

 

 揶揄するように叫び返し、助手席のカガリも、「仕掛けがなくとも、戦い方はいくらでもある!」と、手にしたランチャーを持ち上げてみせる。

 

 「そういうこと!」

 

 アフメドはぐっとアクセルを踏み込み、サイーブの車を追い越した。
 砂丘を越えたところで、爛丱ゥ瓩竜 ̄討肇丱ーを捕らえた。先行していたレジスタンスはランチャーを肩に担ぎ上げて、のそのそと四本の足で歩く爛丱ゥ瓩妨けて発射した。

 

 「くらえ――!」

 

 軽い音と同時にミサイルが放たれ、巨大な鋼鉄の獣に命中した。だが爛丱ゥ瓩呂修譴鬚發里箸發擦此▲ラリと彼らにモノアイを向ける。

 

 「ジープを追え! 『砂漠の虎』を倒すんだ!」

 

 ランチャーが今度は、無防備なジープに向けられた。射線を読み取ってジープはハンドルを切り、すぐ脇の地面が砂柱を上げる。

 

 「いいぞ――もう一丁!」

 

 だが、次のミサイルは割って入った爛丱ゥ瓩竜‖里謀たり、目標を捉えることはできなかった。爛丱ゥ瓩迫り、巨大な前肢でバギーを踏み潰そうとするところへ、カガリがランチャーを発射した。その砲撃は爛丱ゥ瓩隆虧未北臣罎掘▲メラをやられたのか、その肢が一瞬止まる。すかさず後部座席のキサカがバズーカを撃ちこみ、ほかの車両も一斉に砲撃する。その何発かが巨大な鉄の肢で炸裂し、たまらず鋼鉄の巨獣は膝を折った。

 

 「やった!」

 

 アフメドが快哉の声を上げる。だが、彼らの善戦もここまでだった。爆発の所為でジョイント部が不調を起こした一機をのぞき、ほかの二機はどれだけ砲撃を受けてもびくともせず、逆にレジスタンスたちを追い詰める。四本足で駆けていた一機が、飛び上がった宙でキャタピラに切り替え、下を走っていたバギーを押しつぶした。

 

 「うわあぁっ!」

 

 その横を仲間のバギーが駆け抜ける。爛丱ゥ瓩狼涎磴淵拭璽鵑鬚笋辰討里院△圓燭蠅犯爐蕕砲弔韻襦バギーはとっさに左右に分かれて逃げようとするが、遅すぎた。爛丱ゥ瓩料圧咾一台を横様に払い、一台を踏み潰す。

 

 「ジャアフル! アヒド――!」

 

 サイーブの悲痛な声が響いた。

 

 「くそォっ!」

 

 アフメドがハンドルを切り、別のバギーを追う三機目に迫った。その巨大な肢を掻い潜り、腹の下に入る。
 これまで黙りこくっていたキサカが、唐突に叫んだ。

 

 「――飛び降りろ!」

 

 言うが早いか助手席のカガリを片手でかかえ、高速で走るバギーからキサカは勢いよく身を躍らせる。

 

 「え……?」

 

 アフメドはその理由がわからず、逡巡する。
 ――そのわずかな間が、命運を分けた。
 巨大な前足が唸りを上げて蹴りだされ、アフメドがまだ乗っているバギーに叩きつけられる。金属同士のぶつかり合う鈍い音と同時に、バギーが木っ端のように跳ね飛ばされた。
 キサカに抱かれて砂地に転がり落ちたカガリが、目をみはった。

 

 「――アフメド……!」

 

 原型をとどめないほどに潰されたバギーとともに、高く宙を舞う少年の体が目に映る。

 

 「アフメド――ッ!」

 

 いったん駆け抜けた爛丱ゥ瓩ターンし、モノアイがギラリとこちらに向く。そのとき――。
 今まさに襲い掛からんとする爛丱ゥ瓩、その腹部――コクピットに直撃を受け、力尽きるように膝を着いた。
 カガリがはっと我に返り、空を見上げる。地平線から顔を出した太陽に照らされ、砂地すれすれを飛ぶようにして直進する、左翼にユニコーンを模したような赤いエンブレムが描かれた戦闘機が目に焼きついた。

 

 「――連合の戦闘機……。さっきの男が来たのか!」

 
 
 
 

 「撤退だ、急げ!」

 

 戦闘を見ていたバルトフェルドが、突然声を張り上げた。

 

 「一機ですよ!?」

 

 運転席のダコスタが驚きのあまり声を上げる。
 さっき肢にレジスタンスの砲撃をくらい、動けなくなっていたカークウッドの爛丱ゥ瓩復調したらしい。キャタピラを回転させ、前肢を動かしてジョイント部に問題が無い事を確かめた後、のそりと立ち上がった。それを見て取ったバルトフェルドは無線を手にした。

 

 「カークウッド、逃げるぞ!」
 〈はっ!?〉

 

 無線から虚を衝かれて聞き返すパイロットの声が入る。

 

 「撤退だと言っている。急げよ」
 「隊長!」

 

 ダコスタが、今度は避難の調子を漂わせて呼びかけた。たかがナチュラルの戦闘機が増援に来た程度で撤退など、馬鹿げていると言いたいのだろう。
 バルトフェルドは困った顔をしている副官に向かって、やれやれと肩をすぼめた。

 

 「僕は自殺志願者じゃないんでね」

 
 
 
 

 勝負は一瞬だった。先ほどコクピットに直撃を受けた爛丱ゥ瓩呂發Δ圓りとも動かない。もう一機の爛丱ゥ瓩ミサイルを掃射したが、爛好イグラスパー瓩枠射されたミサイルの合間を縫うように直進しあっさりと回避する。
 爛丱ゥ瓩蝋欧討銅,旅況發鬚靴茲Δ筏離を取るために後退しようとするが、それよりも早く爛好イグラスパー瓩遼づ禺安膩織ャノン砲が火を噴いた。それは吸い込まれるように、爛丱ゥ瓩諒部に位置するコクピットに当たり、爆散した。
 その隙に、慌てて引き上げていく最後の爛丱ゥ瓩鮓送り、アムロはちらとモニターの隅に映し出された人影を見やった。横たわったアフメドの体を抱え、座り込むカガリの姿だ。

 
 
 
 

 カガリは呆然としながら、自分達を蹴散らしたコーディネイターたちを、ただの戦闘機で屠った男を見据えていた。その華奢な躯体に、思わずぞっとする。レジスタンスのメンバーがどこか気まずい表情で彼を迎える。やや遅れてストライク瓩鉢爛丱好拭辞瓩やってきて、彼が通信機で何か指示を出すと、二機のモビルスーツが負傷者の救助活動を始めた。
 男が、カガリたちに向かって淡々と言った。

 

 「長老が待っている」

 

 どくん、とカガリの血液が沸騰しかける。なんだ、この男は。みんなを守ろうと必死に戦ったのに、そうして散っていった勇者達に向けてかける言葉すら無いというのか……! 無事だったかとか、遅れてすまないとか、何も無い……長老が待っている、だと……!? その怒りはカガリのエゴそのものだと、彼女は気づかない。
 気がつけば、カガリはこぶしを血がにじむほど握り締めていた。

 

 「…………それだけかよ」

 

 低く唸り、言う。みんな良いやつらだった。誰もがみんなの為を思い、必死に生きてきた、それを、この男は、何の感傷も無く切り捨てやがった!!
 アムロはあくまでも淡々と聞く。

 

 「……それだけ、とは?」

 

 カガリがギッと睨んで「見ろ!」と指をさした。その先には、仲間達の死体が横たえられていた。カガリがヒステリックに叫ぶ。

 

 「みんな必死で戦った! 戦ってるんだ! 大事な人や、だいじなものを守る為に必死で……! なのに、お前は――私たちが戦っている時は何もしなかった癖に、後からやってきた癖に、それだけなのか!?」

 

 一瞬でカガリの脳裏に生きていた頃の仲間たちの快活な笑顔が浮かび――そこにはアフメドもいる――やがてそれが炎に飲まれて消えていく。カガリは悔しさから、自然と涙があふれてくる。この地を守ろうと平和のために戦った勇者たちに、せめて……せめて……。

 

 「――アフメドや他の人に、ありがとうの一言くらい……ッ!」

 

 一瞬、アムロの目に明確な怒りが宿ったように見え、カガリはわずかに怯えた。カガリの言葉の何かが、彼の逆鱗に触れたのかもしれない。アムロが無言で近寄り、カガリの胸倉をつかみ、何かを言いかける。
 男の体は、怒りに震えていた。それは、カガリが今まで見たことのない、『静かな怒り』。
 だが、そこまでだった。アムロは無言のまま、発しかけた全ての言葉と感情を飲み込み、カガリを離す。
 カガリは残されたわずかな理性で、軽蔑されたかもしれないと思い立っていた。

 

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