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CCA-Seed_◆ygwcelWgUJa8氏_14

Last-modified: 2012-10-24 (水) 08:13:01

 「『足つき』があんなところで、か。どう思う?」
 
 鼻の頭から横一文字に傷を負った壮年の熟練パイロットが、切り立った崖の上から海を挟んでスコープの中に映る爛◆璽エンジェル瓩鰲砲漾部下に聞いた。
 彼よりも一回り大きい体つきの部下が顎に指を当てしばし考え、答える。
 
 「補給か待ち合わせか――。いずれにしても、叩くなら今かと」
 
 部下の言葉に男は満足して「そうか」とつぶやく。その傍にいたやや若い部下が不安そうに聞いてきた。
 
 「ですが、あの部隊は『仮面の男』も『砂漠の虎』も太刀打ちできなかったと聞きます」
 
 傷の男は、目を瞑り何かを考えるようにじっと佇んだ。
 短い沈黙。
 やがて目を開き、言った。
 
 「――機を待つ」
 「機、ですか?」
 
 問われた傷の男は、油断の無い表情で部下の疑問に答える。
 
 「いずれ、必ず隙ができる。素人のようだからな」
 
 言ってから、傷の男は鷹のように鋭い目を部下たちにやる。みな、開戦当初よりいる歴戦の勇者たち。彼の頼りになる部下たちだ。あるものは不敵に構え、あるものは油断無く構え、あるものは静かに目を閉じ、瞑想をしている。
 
 「モビルスーツは稼動状態にしておけ――。ザフトのために、な」
 
 傷の男は慄然とした態度を崩さずに、部下達へ告げた。
 
 
 
 
PHASE-14 遙かなる暁
 
 
 
 
 無事補給を終えることのできた爛◆璽エンジェル瓮ルーたちは、しばしの休息を楽しんでいた。連合の中東地域における最大拠点。爛好┘梱甦霖呂慙⇒蹐繋がったのだ。電波撹乱は酷いが彼女達はその命令を待った。そして告げられた命令は――。
 
 「――この状況で待機命令だなんて。一体何を考えているんでしょうね」
 
 がらんとした爛◆璽エンジェル瓩隆篭兇如▲瓮螢ルが呆れてつぶやいた。
 
 「何か意味があるものだと思いたいが……」
 
 同じくため息をついてからナタルが言った。
 
 いつのまにか友好を組んでいた二人の女性士官がぺちゃくちゃとおしゃべりをしても、咎めるものはいないだろう。だって今艦橋《ブリッジ》には二人しかいないのだから。
 ナタルはもう一度深いため息をついた。
 
 「我々が必死の思いをしてやってきてようやくと思ったらいきなり、か」
 「何考えてるんでしょうねえ」
 
 メリオルが、ナタルの持ってきた一口サイズの正方形のチョコレートを口に運びながらまたつぶやいた。口の中にほのかな甘みとクリーミーなミルクの香りが広がる。これはチョコの中にホワイトチョコ・クリームが入っているタイプだ。実はメリオルは、この味が一番好きだったりする。いつからかは覚えてないのだが。
 ふいに、外で組み手のようなものをしている五機のモビルスーツを見下ろしてみた。
 それらは広めの砂浜を舞台にして取っ組み合いを――正確には、一機のモビルスーツに四機が手玉に取られている。
 そういえば、とメリオルは思い立ち、傍らでもぐもぐとチョコレートを口に運んでいる友人に聞いた。
 
 「ところでバジルール中尉。アルスター二等兵にはちゃんと謝罪を?」
 
 ぎくっと身を震わせた彼女に、メリオルはやれやれと首を振った。
 
 「レイ『大尉』の命令ですから」
 
 そう、アムロ・レイは大尉となっていたのだ。
 ――補給を終えた後、しばらくしてからエドモンドがゆったりとやってきて思い出したかのように告げた。『わーるいわるい忘れてた。レイ中尉は今日から大尉な』と。すぐ隣にいた彼の部下のレイエスも目を丸くして大げさに驚いていたのを見るに、どうやら本気で忘れていたようだ。
 今も彼らは、食堂でラクス・クラインの振るまう料理を楽しみにしながら訓練に励んでいる。エドモンド自体も『伝説の鬼車長』と呼ばれるほどの凄腕の戦車乗りであり、彼の部下たちの士気も高い。
もっとも、ラクスが振舞う料理の大半は奥にいるムラタ料理長が用意したものだと告げたら、その士気は激減するかもしれないのだが。
 そして大尉となったアムロに最初にした仕事は――
 ナタル・バジルールが軍の規律に厳しいのは爛◆璽エンジェル瓩巴もが知っていることである。その厳しさゆえに懸念されがちだったのだが、つい先日その矛先がフレイに向けられた。
やれ軍人なら従えだの戦えだの、まだ子供のフレイに向かってそういうことを直球で言ってしまった彼女に、上官となったアムロから叱りの言葉が飛んだ。
本来ならマリューもムウも上官なのだが、ナタルはマリューのことをいまいち信用していない面があるし、ムウはあまりそういうことを気にしない。
 だがアムロは違った。上官に弱いというナタルの弱点を巧みに突き、彼女を格納庫の床に正座させ、アムロと彼の背後に後で力強くたたずむ爛妊絅┘覘瓩魔砲澆弔韻蕕譟多くのギャラリーに囲まれながら長い事説教をされた。
これがまた実に巧妙な言い方であった。横でこっそりと盗み聞きしていたメリオルは参考にしようと心に決めたほどだ。どうせナタルのような堅物は人としてどうとかこうとか言っても聞く耳持たないのはわかっているのだ。
だから彼は、まず軍人としての素養から入り、そこから少しずつより良い軍人になるための資質、接し方と続き部下を育てる上官……などとナタルの逃げ道を完全に封鎖し、最後に先日のフレイへの件へと切り出したのだ。
詰め将棋のようなやりかただが、ナタルには効果覿面だったようで、完膚なきまでに彼女を打ち負かすことに成功した。何よりも彼は隊一の実力者であり、『狂犬』のモーガンとも親しかったようだし、『知将』と謳われるハルバートンからも絶大な信頼を寄せられているようだった。
権力と軍規に弱いナタルは、そんな彼に逆らう事もできず、言われるがまま汗をたっぷりと浮かべて叱りを受け続けた。どうもアムロはこういう女性の扱いに慣れている、というよりも人の扱い方に慣れているという感じがしたのは気のせいだろうか?
 ちなみにそんなアムロの様子を、フレイは『珍しく本気で怒った優しいお父さん』と述べている。
 彼女の逃げ道を全て封鎖した後、アムロの言っていたことは――
 厚顔無恥であるということが大人になるということではなく、それは人としての精神の磨耗であり、思慮の欠落である、と。自分はもう若くないだとか、年だからというのは、逃げを肯定する言い訳でしかなく、悪行を見てみぬ振りをする行為に等しい。
それは果たして大人と言えるのか? もしもそれが本当に大人だと言うのなら、彼らの前でそういう姿を見せる今の人類全てが不道徳なのではないか。と。
そして、ナタルの行いは、戦争だから、緊急時だからという理由をつけ、それが本当に正しい行いなのかという思考を放棄し、すなわち、社会の理不尽に対して何故だと立ち向かう心をなくした己の心の安定のみを求める思考の放棄であり――
 とかそんな感じであった。端っこで盗み聞きしていたメリオルは思わずむうとうなった。今時こんなことを真顔で言う大人がいる事実に、メリオルは多大な興味をひかれる。これがそこらの小僧の漏らした世迷いごとならば一蹴されて終わるであろうそれを、
既に連合最強のエースとしてお茶の間のワイドショーにまで売り出され始めてるらしい彼が言うのだから。こんなに青臭い人が、こんなに強いのか、とメリオルは大いに感心した。
 それを思い出したのか、ばつが悪そうに顔を逸らしているナタルにメリオルはもう一度声をかけた。
 
 「……バジルール、ちゅ、う、い、ど、の?」
 
 またナタルの体がぎくっと震えた。爛妊絅┘覘瓩飛び掛ってきた四機のモビルスーツを片手でいなしたのを横目で捉えながら、彼女が言った。
 
 「い、いずれ……な」
 
 メリオルは深々とため息をついた。
 
 
 
 広い砂浜に、太陽の光を受けて鈍く輝く六台の戦車が綺麗に整列して並んでいる。地球連合の主力戦車、爛螢縫▲ン・タンク瓩澄0貳岷γ爾砲△覦貘罎寮鐚屬ら男が指先を額に当てながら、モビルスーツ同士の格闘を眺めていた。
 
 「『メビウスの悪魔』か。大したもんだ」
 「ええ。……本当だったんですね」
 
 エドモンドのつぶやきにレイエスが苦笑しながら答えた。息のばっちり合った連携で迫る爛好肇薀ぅ瓩鉢爛丱好拭辞瓩鬮爛妊絅┘覘瓩さっと勢いを殺さずに弾き飛ばすのが見えた。
それは、東アジア共和国に吸収された小さな島国や、オーブにつたわる合気道とやらに似ていたが、知っているのはエドモンドだけだろう。唯一爛妊絅┘覘瓩箸修譴覆蠅寮錣い鬚靴童せているのは、白い爛蹈鵐哀瀬ー瓩澄
この二機の戦いぶりは見事であり、まるで格闘家のように手刀や足払い、投げ技や受け身の応酬を繰り返しているものの、やはり互いに加減をしているように見える。恐らく機体の強度や運動性を量ろうとしているのだろう。
 ここから距離はあるが、十数メートルの巨人が取っ組み合いをしているのである。その様子は壮観だった。
 
 「ま、殆どは組み合うことさえできてないみたいだけどな」
 
 ぽりぽりと頬をかきながらエドモンドがつぶやいた。ふいに、レイエスが聞いた。
 
 「隊長なら、勝てますか?」
 
 エドモンドはうーんと唸った後、自身に満ちた声色で告げた。
 
 「――戦車同士でなら、な」
 
 それを聞いたレイエスが、酷く悔しそうな顔をしたのを見て、エドモンドは思わず笑みをこぼした。
 
 「はっはっは。まあ、お前らヒヨッコにはまだ無理だろうな」
 
 言われて、むーっと口を尖らせていたレイエスを楽しげに彼は見つめていたが、ふと遠くの空を見上げ、その影を見てまた言った。
 
 「おお、帰ってきたぞ。空の王者と、可愛いひな鳥たちだ」
 
 エドモンドの視線の先には、空中飛行を終えて帰ってきた三機の爛好イグラスパー瓩あった。先頭を親鳥の『鷹』が飛び、少し後をそのひな鳥――トールとカガリの爛好イグラスパー瓩それに続く。エドモンドが肩の筋肉をほぐし言った。
 
 「さあて、そろそろ飯にするか。オムライスが美味いんだ」
 
 「はあ……」と気の抜けた返事をするレイエスに、エドモンドは不敵な笑みをこぼして付け足した。
 
 「ああそうそう、後でお前らの評価渡すからな。よーく目を通しておけよ?」
 
 ぎくっと身を震わせたレイエスを見て楽しそうに笑ってから、エドモンドは戦車内部に潜り込み、爛◆璽エンジェル瓩粒頁叱砲鯡椹悗靴拭
 
 
 
 爛好肇薀ぅ瓩ら降り立ったキラは、砂浜に情けなく横たわった自分のモビルスーツに目をやった。ふと、愛機の双眼《デュアルアイ》と目が合った気がして、少し申し訳ない気分になってしまう。
 今日、アムロの乗る爛妊絅┘覘瓩抜蔽韻別狼疾錣あったという事は爛◆璽エンジェル瓩涼もが知っていることだ。
一応爛◆璽エンジェル疇發悩能蕕豊爍猫瓩望茲辰燭里麓分であるという自負から、ひょっとしてアムロの爛妊絅┘覘瓩望,辰討靴泙Δ里任蓮 などと期待を寄せてみたが……甘かった。というより正直勝てる気がしなかった。
 赤子の手を捻るようにってのはこういうことをいうんだなあと一人納得したキラは、もう一度情けなく横たわる爛好肇薀ぅ瓩鬚犬辰噺つめた。
 ……この罪悪感はなんだろう。なんだか爛好肇薀ぅ瓩北妓世農佞瓩蕕譴討い襪茲Δ糞いする。
 
 「ご、ごめん」
 
 つい反射的に謝ってしまい、キラは軽い自己嫌悪に陥ってしまった。
 ――モビルスーツに謝っちゃった……。
 ふと、フレイ用の爛瀬ー瓩北椶鬚笋辰拭その足元には、自分と同じように爛瀬ー瓩離粥璽哀襪鬚犬辰噺つめているフレイの姿がある。
 キラは何故だか少し嬉しくなった。憧れの少女も自分と同じことをしてるんだなあ、と感慨深げに思っている。そんな思考に、だからどうしたと突っ込む人間もいないので彼の妄想はエスカレートするばかりだ。
 ふいに、爛瀬ー瓩梁元にいたフレイが機体のつま先に当たる部分を軽く蹴った。すぐさま痛そうに身をかがめて、蹴ったほうの右足を押さえている。
 ついこの前までモビルスーツに乗ることをあんなに嫌がってたのに、女の子ってのはわからないなあなどと思った後、フレイを食事にでも誘おうかと考えたが、はっとサイのことを思い出してそれを実行するのを止めにした。
 もっとも、サイがいなかったとしても実行する勇気など無いわけだが。
 そんなことを考えているキラに、白い爛蹈鵐哀瀬ー瓩ら降り立ったジャンが声をかけてきた。
 
 「――君もだいぶ絞られたようだな」
 「あ、キャリー中尉。お疲れ様です」
 
 ペコリと頭を下げたキラにジャンは苦笑を交えながら言った。
 
 「あれでナチュラルだものな。彼を相手にしてきたザフト兵には同情するよ」
 
 相変わらず渋く真面目な声の彼にも、さすがに呆れたものが見えていた。少し離れたところでは、カナードが爛丱好拭辞瓩梁元で「クソックソックソックソッ!」と言いながらゲシゲシとつま先に当たる部分を足蹴りしているのが見えた。
 
 「――ってことは、ひょっとしてアムロさん相手に生き延びてきた人たちって、相当凄いパイロットだったってことですか?」
 「だろうな。クルーゼ隊とバルトフェルド隊の名は、私も幾度と無く耳にしている」
 
 キラが「うひゃー」と感想を述べている少し離れたところで、カナードがマードックに「壊すな馬鹿!」とペンチで殴られている。ふいに、キラの背中に明るい声がかかった。
 
 「よう、キラ。そっちも大変だったみたいだな?」
 「あ、トール」
 
 彼の友人、トールもムウにこってりと絞られたようだ。少し奥では、自分の爛好イグラスパー瓩鰲砲澆弔韻討ら、「ちっくしょおー!」と言いながらゲシゲシと足蹴りをしているカガリの姿が見えた。
 
 「そっちもってことは、トールの方も大変だったんだ?」
 「大変のなんのって。赤子の手を捻るようにってのはああいうこと言うんだろうなあって、しみじみ思ったよ」
 
 がっくりと肩を落としてうなだれるトールに、ジャンも笑顔で声をかけた。
 
 「『エンデュミオンの鷹』の名も有名だからな。彼の実力もかなりのものなのだろう」
 
 キラとトールが、「うひゃー」と感嘆の声を上げている少し奥で、カガリがマードックに「だから壊すなって!」と拳骨を食らっている。ふいに、キラたちの背中に疲れたような声がかけられた。
 
 「やあ、お疲れ様」
 「あ、レイエスさん。お疲れ様です」
 「お疲れでっす」
 
 キラとトールがぺこりとお辞儀をした。彼は続けた。
 
 「君達のところも大変だったみたいだねえ……」
 「ってことは、レイエスさんも?」
 
 キラの疑問に、またジャンがふむ、と言ってから答えてくれた。
 
 「『伝説の鬼車長』という名も良く耳にする。彼もやはり、とてつもない男性なのだろうな」
 
 キラたちがまた、「うひゃー」と感心したように声を上げた。
 レイエスは、「おーい、置いてくぞーっ!」とエドモンドと戦車隊の仲間達に呼ばれ、慌てて「それじゃあ、また!」と言って彼らのところへ駆けていった。
 キラは、まだ訓練を続けている爛妊絅┘覘瓩北椶鬚笋辰拭L椶料阿縫乾蹈鵑氾櫃譟△修里泙泙罎辰りと前転をしたり。東アジア共和国に伝わる、太極拳のようなゆったりとした動作で動いてみたり。腰を左右に回し、体操をするように動いてみたり。
 器用だなあと思いながら、キラは爛妊絅┘覘瓩陵融劼鬚棔爾辰噺つめていた。
 
 
 
 爛譽札奪廛広瓩粒頁叱貌發蓮∧箋詈資でごった返していた。アスランたちもまたその量に驚きを隠せないでいるようだ。
 
 「あの爛殴ぅ牒瓩辰討里呂気◆4粟度がかなり高いらしいけど……」
 
 ラスティが髪をかきながら困ったような顔で言った。側にいたニコルが運び込まれる新型のモビルスーツを見つめながら訝しげな表情になる。
 
 「いくらなんでも早すぎます……。あれが使えるようになるのはまだ当分先だったはずです」
 
 ZGMF‐六○○爛殴ぅ牒瓠宗愁競侫箸亮ヾ主力機として開発されたこの機体は、MA‐M二一Gビームライフルを保持し、シールド部からはMA‐MV○三・二連装ビームクローを出力する。
また、両腰部から射出されるワイヤー付きのアンカー、エクステンショナル・アレスターEEQ七Rは、アンカー部でロックしてゼロ距離からビームを発射するという兵装だ。
モノアイや頭部のとさかなど、形状は従来のザフト機の流れを受けたデザインだが、これらのビーム兵器や頭部のMMI‐GAU二ピクウス七六ミリ近接防御機関砲など、連合からの技術転用も随所に見られる。だが――。
 彼らと共にそれを眺めていたイザークも、同じように眉をしかめている。
 
 「――本国で何があったんだ」
 「確かにこれは尋常じゃないよねぇ……。試作機だってやっとできたかできないかの状態だったんだろ?」
 
 ディアッカがイザークの隣にいるシホに疑問を投げかけた。
 
 「ええ……。実際爛妊ープアームズ瓩冒備されたビームにも、かなり梃子摺ったのですが……」
 
 彼女はビーム兵器の開発に深く携わっていたのだ。だからこそ、爛殴ぅ牒瓩防現狒備されたビーム兵器の完成度の高さに、疑念を隠せないといった様子だ。
 既に格納庫には、ダークグリーンで塗られた爛殴ぅ牒瓩二機、ダークブルーで塗られた機体がもう一機、ミゲル用にオレンジで塗られた更に一機。合計四機もの爛殴ぅ牒瓩運び込まれている。そしてそれら全てが、完全な形で稼動できる状態にあるように見えた。
 ――いったいどうやって……。アスランは疑念に駆られ、また思考にふけっていった。
 ともあれ、ザラ隊の出港まであと少しである。良い戦力になることには変わりないのだろうが、しばらくこの疑念はなくならないだろう。
 
 
 
 爛◆璽エンジェル瓩粒頁叱砲如一機のモビルスーツと戦闘機が発進準備を始めていた。
 キラは、マードックから機体の説明を聞いているフレイを遠くから見つめながら不安げな表情になる。
 
 「……大丈夫かな、あの二人だけで」
 
 あの二人とはフレイとカガリのことだ。機体のテストも兼ねて彼女達に偵察任務が言い渡されたのだ。当然キラは自分が行くと志願したのだが、却下されてしまい悔しくてたまらない。
 
 「初陣というのは誰にでもあるだろう。ならばそれを今の内に経験させておこうということだろうな」
 
 隣にいたカナードがつまらなそうに腕を組んでいる。トールが続いた。
 
 「ってことは、次は俺とキラかな?」
 「まあ、そうだろうな」
 
 彼らの会話を聞きながらも、キラの表情から不安の色は消えない。
 
 「でも、敵の勢力圏内だし……」
 「だから爛献屮薀襯織覘畭Δ任呂覆、爛好┘梱畭Δ慊綮,帽圓せるんだろう」
 
 カナードのやる気のない言葉にキラはきょとんとして、「え? どいうこと?」と聞き返す。彼は怒りに身を震わせ頭を抱えた。
 
 「味方の基地だぞ! そんなとこで攻撃したら、オレたちとスエズの勢力で挟み撃ちにされるだろうが!」
 
 苛立った彼の怒鳴り声に、キラははっと顔をあげた。
 
 「そ、そっか! なら……大丈夫だよね、きっと」
 
 不安はまだ消えない。しかし、それでもきっと何とかなる。無事に帰ることができると思うことができるようにもなっていた。
 そしてまた自分を勇気付けてくれた頼れる兄のような友人に、キラは深く感謝をした。カナードは妙に苛立っているようだが、いつものことなので気にしないことにしている。
 彼らの前で、爛瀬ー瓩鉢爛好イグラスパー瓩法∧箋詈資の中にあった新型のストライカーパック――爛侫薀ぅ肇好肇薀ぅー瓩装備される。戦闘機の後部がそのままストラーカーパックになったかのようなそれは大気圏内用の高機動戦闘用ストライカーパックであり、爛─璽襯好肇薀ぅー瓩慮綏儺,任△襦
 爛─璽覘瓩任眤膺篶呂伴舁磴龍力効果で、重力下でもハイジャンプや短時間の滑空が可能であったが、本来は宇宙用である。だがこの爛侫薀ぅ肇好肇薀ぅー瓩蓮完全に大気圏内用として設計されたために高い飛行能力を有し、滑空というよりもむしろ戦闘機の様に自在に飛行ことが可能なのだ。
 しかし、爛瀬ー疇瑛佑傍滕唄粟したために、武装はビームサーベルしか装備されていない。後は、ビームライフルやバズーカを装着できるハードポイントがついているくらいだ。
 爛侫薀ぅ肇好肇薀ぅー瓩鯀備する事により、爛瀬ー瓩蝋發と行能力を、爛好イグラスパー瓩蝋垢覆覽‘粟を得ることができ、連合内でも今後の量産に期待をかけられている。
 爛瀬ー瓩鉢爛好イグラスパー瓩発進準備を終え、カタパルトに進んでいくのをキラは名残惜しそうに見つめていた。
 
 
 
 爛瀬ー瓩離灰奪ピット内で、フレイは初めて使うカタパルトに身体を震わせていた。
 
 「なんでわたしが行かなきゃならないのよ……。キラたちにやらせればいいじゃない」
 
 おびえを隠すように呟いた彼女に、モニターの中のカガリが呆れた様子で首をかしげる。
 
 〈あいつらだって行くよ、私達が最初だってだけさ。順番なんだよ〉
 「だってさあ……」
 
 戦う理由も無くは無い。だが戦わない理由の方が山ほどあるのだからフレイとしては文句の一つや二つや三つは出てくるものだ。それでも、こうやって命令通りにしているのだからずいぶんと成長したほうなのだが。
 彼女達が会話を繰り広げている間にも、着々と武装が取り付けられていく。
 左腕には、爛好肇薀ぅ瓩里發里茲蠅癲△笋筌轡磧璽廚雰舛鬚靴紳丱咫璽爛掘璽襯鼻
爛侫薀ぅ肇好肇薀ぅー瓩離蓮璽疋櫂ぅ鵐箸砲蓮△海譴睚箋詈資として新たに配備された三八○ミリバズーカ、一○○ミリマシンガン、一九七ミリショットガンが装着されていき、右手にはビームと実弾の打ち分けが可能なMX七○三G ビームライフルを持つ。
 
 「こんなにいっぱい装備して重くなんないのかしら?」
 
 フレイが怪訝そうにつぶやいた。モニターの中のカガリが、「うーん」とひとしきり考えた後、軽く首をかしげる。
 
 〈テスト飛行なんだから色々やってるんじゃないのか?〉
 「ふーん……。あーあ、早く帰ってシャワー浴びたいなぁ」
 〈おいおい、そんなんじゃ生き延びられないぞ〉
 
 呆れたように言うカガリに、フレイは唇を尖らせて何か言おうとしたが、それよりも早く別のモニターにマードックの顔が映った。
 
 〈出撃だぞ嬢ちゃんたち! 偵察任務だ、適当に行って帰って来い! 敵の判別はコンピューターがやってくれる!〉
 〈任せとけ!〉
 「はーい」
 
 慌しく命令を出しているマードックにカガリとフレイは答え、目の前のハッチが開いた。通信機からミリアリアが彼女達に声をかける。
 
 〈針路クリア! 爛瀬ー瓠↓爛好イグラスパー疊進です!――危険は無いって聞いてるけど……気をつけてね〉
 
 彼女もまた、不安げな表情を浮かべている。ミリアリアとは爛悒螢ポリス瓩らの友人だ。心配してくれるのはやはり嬉しい。
 
 〈当ったり前だ! 私がついてるんだからな!〉
 
 カガリが自信満々と言った様子で胸を張る。まったく、どこにそんな自信があるのやら。フレイは少し可笑しくなってしまい笑みをこぼした。
 
 「そうね。いざとなったらカガリを盾にして逃げてくるから大丈夫よ」
 〈なんだとお!?〉
 
 素直に反応して驚くカガリにミリアリアとフレイは苦笑した。少し後の方でナタルが軽く咳払いをしてみせ、その隣ではメリオルがくすくすと笑っている。
 
 「なによ、あんたさっき『私に任せろ!』とか言ってたじゃない。だから任せるのよ、頼んだわね」 
 〈お、覚えてろよ……。いつかギャフンと言わせてやる〉
 
 カガリが悔しそうに顔を歪ませる。ミリアリアがその様子を見て楽しそうに笑みをこぼした。彼女の後ろのシートでナタルがもう一度、今度は少し強めに咳払いをしてみせる。すぐ横でメリオルが口元を押させて全身の笑いを堪えている。
 
 〈カガリさんって古いわねぇ。ギャフンなんて今時言わないわよ?〉
 〈い、良いだろ別に!〉
 
 呆れて言うミリアリアにカガリが慌てて反論した。そこへ――
 
 〈貴様らは出撃だろう! アルスター二等兵、ユラ二等兵!〉
 
 先ほどから無視され続けていたナタルが顔を真っ赤にして怒鳴り声をあげた。
 ミリアリアは慌てて計器を弄り始める。ふと、モニターの中のカガリが何かに気づき首をかしげた。
 
 〈ユラ……二等兵? なんだそれ?〉
 〈志願兵としてこちらで受理した〉
 
 ナタルが凛として答えた。
 
 〈ちょ、ちょっと待てって! なんでだよ!?〉
 〈志願したではないか。第一、軍人でもない者に軍の兵器のパイロットを任せると思うか?〉
 
 〈ぐっ……〉と押し黙ったカガリの顔には苦渋の色が浮かべられている。フレイが呆れて声をかけた。
 
 「ほら、さっさと行くわよユラ二等兵」
 〈なっ……わ、私は……!〉
 〈フレイ、それからユラ二等兵、発進どうぞっ!〉
 
 尚も言いすがるカガリにミリアリアが楽しそうに追い討ちをかけた。開ききったハッチの奥からは、雲ひとつ無い青空が見える。
 
 「それじゃあミリアリア、行ってくるわね。爛瀬ー瓠⊇个靴泙垢茵
 〈誰がだ〉
 
 ナタルがむっつりと声をかけた。フレイは何のことだろうと首を傾げたが、すぐにはっと思い出し、告げた。
 
 「えと、フレイ・アルスター。爛瀬ー瓠行きます!」
 
 カタパルトが爛瀬ー瓩鮗予个垢襦伸びきったバッテリーケーブルが弾けるように機体から離れ、急激にかかる爍猫瓩法▲侫譽い牢蕕鯱弔瓩襦が、すぐに晴天の空へと投げ出されてしまう。すぐさま折りたたまれていた爛侫薀ぅ肇好肇薀ぅー瓩陵磴バッと展開し、飛行形態を取る。
 
 「トランスフェイズ起動……っと。えーと、こんなんで良いのかしら」
 
 トランスフェイズ装甲――初期のG兵器の設計が終了した時点で、フェイズシフト装甲の欠点を補った次世代機の開発が進められていたその技術もまた、彼女やジャンの乗る爛瀬ー瓮織ぅ廚汎瑛佑法∨寨茲侶弉茲ら早すぎる実戦配備をされ、尚且つ稼動にまで持っていくことのできた機能である。
トランスフェイズ装甲は通常装甲の内側にフェイズシフト装甲を備えた二重構造であり、外装に内蔵されている圧力センサーに反応があった時のみフェイズシフトする。
この為従来のフェイズシフト装甲の様に常に相転移を維持する必要が無く、機体のエネルギー消費量は大幅に軽減される事となったのだ。また、外側は相転移を起こさない通常の装甲である為、外見からエネルギー切れが露呈する心配も無い。
 もっとも、着弾の衝撃で誤作動をする可能性もあるだろうし、作動しない心配もあるため、アムロから「そんなものは当てにするな」と言われているのだが。
 少し遅れてやってきた爛好イグラスパー瓩法▲侫譽い藁笋笋しの通信を入れた。
 
 「遅いわよカガリ」
 〈うるさいな、良いだろ別に。お前こそ本当にちゃんと操縦できるのか?〉
 
 カガリの問いに、フレイは自信を持って答えることができた。
 
 「大丈夫、わかるわ!」
 
 そう、軌道上で爛妊絅┘覘瓩望茲辰燭箸よりも、砂漠で乗ったときよりも、より鋭い感覚で理解できる。まるでモビルスーツが自分に操作方法を教えてくれているかのようだ。
 フレイは爛瀬ー瓩量燭犬襪泙泙冒狃張譽弌爾鮠刻みに動かし、機体を前方に加速させた。
 その駆動音はモビルスーツのそれというよりも、戦闘機のように鋭い音に近い。これが、爛侫薀ぅ肇好肇薀ぅー瓩領蓮
 
 〈あ、待てよ! 私だってできるぞっ!〉
 
 食って掛かってくるカガリが、フレイには楽しく映った。
 
 「そーれ、宙返りーっ!」
 
 笑みをこぼしながら爛瀬ー瓩鮃垢鵬誕させ、舞うように空を飛行させる。ほんの少しだけ、ムウが空にこだわる理由がわかったような気がした。
 
 
 
 「……あれ、フレイなんですか?」
 
 艦橋へやってきていたキラが、みごとなとんぼ返りをしながら遠ざかっていく爛瀬ー瓩鮓て驚愕してつぶやいた。口をあんぐりと開けているサイの側で、ミリアリアが呆れて言う。
 
 「カレッジのサークルで運動神経は良い方だったと思うけど……こういうのって、予測できなかったなぁ……」
 「彼女には才能があったのでしょうか、レイ大尉?」
 
 唖然としたままのマリューが、アムロに声をかけた。彼がその問いに答える前に、同じくキラとやってきたカナードが眉を顰めながらつぶやいた。
 
 「……あれは何だ?」
 
 腕を組んで言った彼に、トールが聞いた。
 
 「何だって……何だよ?」
 
 「オレたちのモビルスーツとは、動きの質が違うように見える」
 
 相変わらず不機嫌な口調の彼が言った意味に、キラたちはわかるわけも無く首を傾げる。アムロが一度爛瀬ー瓩北椶鬚笋蝓一度睨みつけるように目を細めてからもとの表情に戻して言った。
 
 「爛瀬ー瓩砲惑焦叛御装置が搭載されている」
 「のうはせいぎょそうち?」
 
 艦橋にいたクルーが一斉に声をあげた。相変わらずムウはにやにやと静観している。カナードが何かを考えるように腕を組んだ。
 
 「なるほどな……。オレに使えるか?」
 
 彼の問いに、ムウが答えた。
 
 「さあ? やってみなけりゃ何ともいえねえだろうけど……。ま、無理だろうな」
 「コイツには?」
 
 ちらっと目でキラのことを指したので、また何か変なこと言われるのかと思いぎくっと身を引いた。
 
 「同じ事さ。やってみなけりゃわからねぇが、たぶん無理だってのはわかる」
 「そうか」
 
 ムウの言葉に何故か満足そうに答えるカナードを見て、キラは唇を尖らせた。
 
 「あのさぁ……。何のこと言ってるのか全然わかんないんだけど」
 「……俺も」
 
 釣られるように、トールが小さく挙手をし、ミリアリアも「……わたしも」とつぶやいた。カズイが「お、俺も」と言いかける前に、マリューが言った。
 
 「……説明してもらえないかしら?」
 
 もうしわけなさそうに聞く彼女に、ナタルがむっつりと横目でにらむ。思いっきり無視されたカズイの背をぽんぽんと励ますサイの側から、メリオルが「バジルール中尉は知ってるの?」と声をかける。
 
 「むっ……。そ、それは……」
 
 黙りこくってしまった彼女に見かねて、アムロがやれやれと補足した。
 
 「あの爛瀬ー畆体が爛璽蹲瓩筬爛┘姚瓩冒備されていたような爛ンバレル瓩里茲Δ覆發里世塙佑┐討れれば良い。通常の操作に加えて、彼女の意識が機体のコントロールを補助してくれるからスムーズに動く。それを見てカナードは質が違うと感じたのだろう」
 
 クルー達がなるほどと頷いた。サイが「うーん」と唸って首をかしげてしまった。
 
 フレイは素人なのは当然だろう。それでもああいう事ができるのは脳波制御装置とやらのおかげで……それは爛ンバレル瓩里茲Δ覆發里如帖帖
 そこまで思考したところでキラははっと顔をあげた。
 
 「それじゃあ、フレイは爛ンバレル瓩鮖箸┐襪辰討海箸任垢?」
 「ン、そういう事になる」
 
 アムロが平然と答えた。少年達はみな驚き、「マジかよ」「ええー、うっそー!」「フレイが……」などと声をあげている。
 信じられないことだ。まさかあのフレイが……。カレッジのアイドルで、薔薇のような少女だったフレイが、アムロ・レイやムウ・ラ・フラガ、モーガン・シュバリエのようなエースパイロット達と同じものを持っていたなんて……。
 そんな彼らの心を察したのか、アムロが優しく付け足した。
 
 「それが彼女自身に秘められていた才能か、それとも無理やり与えられたものかはわからないけど、ね」
 「無理やり……?」
 
 視線を落として言ったアムロに、キラはきょとんとしてたずねた。
 
 「おいおい、あの中心にいたんだろ?」
 
 両手を腰に当て、やれやれとムウが言った。
 
 「……オレは声を聞いた。幻聴では無いのだな?」
 
 カナードが慎重に言った。――声……。そうだ、あの時のことだ。軌道上の戦いで、フレイが乗った爛妊絅┘覘瓩らオーロラのような光が発し、それが自分達を護ってくれた。あの中心とは、その光の中心の事だったのだ。
 
 「それじゃあ、あれはフレイがやったってことなんですか!?」
 
 キラは思わず怒鳴るように言ってしまったが、アムロはそれを気にした様子も無く首を振った。
 
 「一人の人間にそこまでの力は無いよ。あの光は彼女とは関係の無いものだ。ただ――」
 「ただ……?」
 
 キラたちは彼の次の言葉を待った。やがて、少し迷う素振りを見せてからアムロがつぶやく様に答える。
 
 「あの宙域で彼女が一番人の死に敏感な子だったのだろうというのは、予測ができる」
 「敏感だと、どうなっちゃうんです?」
 
 ミリアリアが心配そうに尋ねた。
 
 「あの場所で死んだ人間の心が爍瞳伸瓩噺同してオーバーロードを引き起こし、彼女を犂鎰瓩箸靴童を発したんだ。あの子自信にも何らかの影響があったと見て間違いないはずだ」

 爍瞳伸瓩箸蓮△修ΔいΕ泪轡鵑世辰燭里世蹐Δ。大気圏で燃え尽きてしまった故にそれの真偽を知ることはできない。それ以外の要因があったかもしれないと気づくこともできず、キラは難しい顔をして考え続ける。フレイの持つ『お守り』が輝くことはフレイとラクス二人だけの秘密であり、彼の知るところではないのだから。
 
犂鎰瓠宗衆貉とはいえ死んだ人間の魂をその身に宿したフレイは……。キラの心配を察したのか、ムウが明るい口調で声をかけた。
 
 「そう心配すんなって。大丈夫だよ」
 「……何でわかるんです、そんなの」
 
 キラが不機嫌そうにつぶやいた。この人たちは、フレイのことが心配じゃないのだろうか……。
 
 「何でって言われてもなあ」
 
 ひょうひょうと言ったムウが苦笑した。マリューが彼に声をかけた。
 
 「前々から思ってたのですが……。フラガ少佐たちの言う空間認識能力とは何なのですか?」
 
 彼女の問いかけにメリオルが補足するように続ける。
 
 「三次元空間で物体の位置を瞬時に把握する能力――そしてそれを把握した人間の脳内にある物体配置をコンピュータが読み取り、フィードバックしたものが爛ンバレル瓩噺世錣譴討い泙垢……」
 
 そこまで言って彼女は言葉を濁した。黙って聞いていたトノムラがつけたす。
 
 「――しかし空間認識能力を持つ者でも、爛ンバレル瓩鮖箸Δ海箸里任る者は稀である。だったっけ?」
 
 パイロットシートに座るノイマンが相槌を打った。
 
 「自分も、空間認識能力はありましたからね。爛ンバレル疆正試験には落ちましたが」
 
 今度はナタルが言う。
 
 「少佐たちがおっしゃっているものは……その……まるで空間認識能力とは関係の無いようなものだと感じるのです」
 
 確かにその通りだ。空間認識能力とテレパシー。まったく結びつく要素が見えない。
 
 「そういやキラもあるよな、空間認識能力っての」
 
 ふいに、トールが声をかけてきた。ミリアリアが、「そう……だっけ?」と首をかしげている。サイが思い出したように口を開いた。
 
 「ああ、そういえばカトー教授のとこで試した事があったよな。ほら、目を瞑って歩けるかとかってのさ」
 
 そういえば……。まだ平和の中にいたあの頃、トールたちと遊び半分に、インターネットで見つけた空間認識能力テストだとかいうのを実践してみたのだ。結果、カズイ以外はみんな持っているということになったのだが。
 
 「でも、ぼくにはアムロさんみたいなことできないし……ミリィだってそうだろ?」
 「うーん、そうよねぇ……」
 
 ミリアリアも、首をかしげている。すると――
 
 「――名前が無いのさ」
 
 ふいに、ムウが言った。皆が彼に目をやる。
 
 「こういう……俺たちのようなのをさ、超能力者だとかエスパーだとか言う連中がいるけど、そんなのじゃあねえんだ」
 「少し勘が良い程度だものな」
 
 アムロがあいづちを打った。ムウが「ああ」と言って続ける。
 
 「でもよ、そういうのって色々面倒だろ? だから、偶々それっぽい――似たようなことができたから、空間認識能力って枠に入れちまったのさ」
 
 これにはキラも驚いた。では彼らは何なのだろう……。本当の空間認識能力ならば、自分も、ミリアリアも……いや、それこそ一流のスポーツ選手などなら皆持っているような力だ。だが彼らのは明らかに違う。
 
 「もしもそれ以前にそういう存在を表すような名前があったら、それがつけられてたかもしれないぜ?」
 
 皆が黙りこくってしまったのを察してか、ムウは明るい口調で言った。彼は続ける。
 
 「例えば……そうだな、『フラガパワー』なんてのはどうだ」
 
 …………。キラが呆れていると、他のクルー達も同じ感想を持っているようで、皆苦笑いをしている。
 その時、艦橋内に緊急通信を告げる警報が鳴り響いた。
 
 
 
 「――隊長!」
 
 一人の兵士が熟練した動きでやってきて、待機していた彼らに告げた。
 
 「『足つき』より戦闘機と未確認の……新型と思われるモビルスーツが発進しました!」
 
 来たか、と隊長と呼ばれた傷の男は喜々とした表情で立ち上がる。
 
 「偵察任務と見た! どうか!?」
 
 凛として声を上げ、仲間達を見渡す。彼の仲間達も皆自分と同じように拳を握りしめ、戦いの時を待っている。そして、部下達の考えも同じのようだ。
 
 「――発進準備!」
 
 傷の男が号令を出すと、仲間達は皆飛ぶように行動に移っていく。
 
 「だが、わかっているな貴様ら!」
 
 部下達の背中に傷の男が声を響かせた。これは最後の確認でもあり、この部隊ではお決まりの台詞だ。
 
 「――ハッ! たかがナチュラルの一人や二人に、命をくれてやるつもりはありません!」
 「俺たちの命は、爛罐縫Ε后Ε札屮鶚瓩濃兇辰親泳Δ里燭瓩法」
 「そして、ザフトのために!」
 
 部下達もまた響く声で叫んだ。そうだ、これでこそ自分の部下だ。命を預け、また預かってやれる仲間達。
 
 「それでこそ、だ」
 
 傷の男が発した号令に反応するか様に、跪いていた爛妊ン畸のモノアイが一斉に光を上げる。
 
 「サトー隊は、出撃するっ!」
 
 
 
 雲一つ無い、無限に広がる青空と太陽の光を浴び煌びやかに輝く海の間を二機のマシンが飛び交っている。爛瀬ー瓩鉢爛好イグラスパー瓩澄0賁未帽がる美しい光景に、二人の少女はしばし見とれていた。
 カガリはふと昔の事を思い出し、独り言のようにつぶやいた。
 
 「そういえば……屋敷から見える景色も、綺麗だったよなぁ……」
 〈屋敷?〉
 「げっ!? い、いや……ほら、えーと……」
 
 自分の独り言に反応したフレイに驚き、カガリは慌てて弁明しようとしたが言葉にならない。爛瀬ー瓩ぬうっと近づいてきた。
 
 〈や〜し〜きぃ〜?〉
 
 相変わらず意地の悪い友人だ。その癖酷くお姫様思考だったりで自分とは正反対だ。まあ嫌いでは無いのだが。
 
 「知らん! 黙秘権を発動する!」
 〈ふーん?〉
 
 尚もいやらしい口調で言うフレイには流石にたじろいだ。コイツは絶対に言いふらす気だ……。
 
 「だ、だが! このことを黙っているのなら、私はお前にオムライスを奢ってやる用意がある!」
 
 オムライス――多大な補給が来て以来、爛◆璽エンジェル瓩硫は大いに潤った。兵器、弾薬、そして食糧である。少ない材料で何とかやりくりしていた頃とは想像もつかないほどに増えたメニューの数は、もはや両手両足合わせても数え切れないほどである。
そして新たに追加されたメニューの中でも特に人気が高いのが、『ラクスのオムライス』だ。目の前で「むむむ……よっ、ほっ、とやっ」と言いながら卵をふんわりと包むラクスの姿が話題を呼び、艦内の男達はそればかり頼むようになったのだ。
そしてそれがいつの間にか、数あるメニューの中でもオムライスが一番美味しいという話になってしまったのだから世の中わからない。ちなみにカガリはオムライスもカツカレーも牛丼も平等大好きだ。愛していると言っても過言ではない。
 
 〈わたしはパエリヤ派なんだけどなあ〜?〉
 
 パエリヤ、これも美味い。思い出して一瞬涎が出そうになるがぐっと堪えた。
 
 「良いだろう! 許可するぞ!」
 
 こういう時は弱みを見せずに堂々と言うのが良いと教わってきた。まずは場の空気を仕切るのだ。そしてどうやら成功したようだ。
 カガリは内心ほっと胸を撫で下ろした。
 
 〈でもダーメ。わたしは皆に言いふらすの。あんたが実は屋敷に住んでる良いとこの子ってこと〉
 「うおおい!?」
 
 まずい、これはまずい。なんて性格の悪い女だ。カガリは全身を汗だくにしながらどうしようかと考える。が、浮かばない。いったいどうすれば……。
 
 〈だいたいさ、あんたおかしいのよ〉
 「な、なにがだ!?」
 
 私のどこがおかしいのだろう。たしかに昔からキサカにもっとおしとやかにしろとか言われてるし、幼馴染たちからも男みたいと言われているが――
 
 〈そう、それよ!〉
 
 カガリは思いっきり身体を奮わせた。まだ何も言ってないのに……。
 
 〈あんたさ、そうやって男みたいな口調だし――〉
 
 とりあえず心を読まれたわけでは無かったかと安心してから、次の言葉を唾を飲み込んで待った。
 
 〈乱暴だし――〉
 
 たしかに……すぐに手が出るという自覚はある。よく幼馴染を蹴り飛ばして遊んだ記憶もばっちり残っている。
 
 〈短気だし――〉
 
 言われて見ればそうかもしれない。子供の頃は六人ほどの友達と遊んでいたのだが、些細なことから喧嘩になり彼らをボコボコにしてしまったこともある。ちなみに子供だったとはいえ、相手は全員男である。
 
 〈口悪いし――〉
 
 ……フレイに言われたくはなかったがとりあえずは黙っておくことにした。
 
 〈馬鹿だし――〉
 「ば、馬鹿じゃないぞ!」
 〈馬鹿じゃない〉
 「馬鹿じゃないぞ!」
 
 凄く悔しい。馬鹿呼ばわりされるのが一番むかっとくる。なんでかは知らないが昔からそうなのだ。六人の男の子をボコボコにしたのもそれが原因だったのだし。
 
 〈でもさ、その癖して仕草が変なのよねえ〉
 
 「仕草……?」
 
 一体どこが変なのだろうか? 作法や歩き方、身のこなしに関しては嫌というほど叩き込まれている所為か、意識しなくても完璧にこなしているはずだが――
 
 〈そう、それよ!〉
 「な、なに!?」
 
 カガリはまた思いっきり驚いた。まだ何も言ってないぞ、と。
 
 〈今みたいにさ、何でもないような動作とかそういうのがみんな綺麗すぎるのよ! 絶対どこかで訓練受けてる!〉
 「げぇ!? そんな馬鹿な!」
 
 まさか……まさかそんなことが裏目にでるとは。帰ったら後でキサカに文句を言ってやろう。
 
 〈わたしもさー、大変だったのよ。うちの執事長がまたうるさい人でね。ダンスだとか作法だとかほーんと厳しいんだから〉
 「ええ!? フレイもか!?」
 
 まさか自分と同じような苦労をしている人がいるとは……。それもこんなに身近にいたなんて。カガリは嬉しくなって顔を綻ばせた。口うるさいけど嫌いではない彼女に、親近感が沸いてくる。フレイが『あ、こいつちょろいわ』と言いたげな視線を向けたがカガリは気づかない。
 
 〈そうなのよねえ。あんたも大変だったでしょ、キサカさんとか厳しそうだもん〉
 「ああ、抜け出す度に怒られてたよ。『王族としての自覚が無い!』とか、『人の上に立つものは賢くなければ!』とか、もう耳にタコができそうだった」
 
 それにしてもあの短気で口の悪いフレイがそういう作法を学んでいたとは。いや、確かにそういうお嬢様な雰囲気はあったが。ひょっとしてそういう小さな仕草だとかが全部そろうと、そういう雰囲気が出てくるのだろうか。カガリは嬉しくなって様々な思考をめぐらせた。
 
 〈で、あんたはどこのお姫様?〉
 「……へ?」
 
 突然何を言い出すのだろうこの意地悪女は。まだ身分を明かすようなことは一言も……。
 
 〈カガリの馬鹿〉
 「…………へ?」
 
 顔面を蒼白としながらカガリは考えた。いったいどこでばれたのだろう。モニターに映る友人の顔は確信に満ち、意地悪そうに笑みをこぼしている。ばれる要素など無かったはずだ。……とりあえず自分の発言を思い出してみることにした。すると――
 
 〈思いっきり言ってるじゃない、自分の事〉
 「い、いや……その……」
 〈あんた馬鹿だから、たぶんカガリ・ユラってのも半分本当の名前なのよね?〉
 
 相変わらず鋭い。
 カガリは下士官という事もあり、フレイとミリアリア、そして何故か捕虜のラクスとも同じ部屋で就寝をしている。硬いベッドの上でちょっとしたお泊り会気分になり、こういう経験が無い彼女はたっぷりとはしゃいだ。
そしてフレイには頻繁にいじめられている。「昔男の子苛めた事あるでしょ、絶対」だとか、「情けない男の子に『少しは男らしくしろ!』って怒った事あるでしょ。自分は女らしくないのに」だとか具体的に言うのだ。全部当たってるだけにたちが悪い。
 
 〈ってことはさ。あんたはカガリ・ユラ・なんとかなのよね?〉
 
 ……こうなったら仕方が無い。カガリは腹をくくった。彼女はなるべく凛とした姿を見せることを意識してこう告げた。
 
 「……そうだ。実は私は大西洋連邦大統領ジョゼフ・コープランドの娘、カガリ・ユラ・コープランドなのだ!」
 
 もちろん嘘である。何も本当のことをいう必要など無いのだ。自分の素性がばれなければ――
 
 〈ジョゼフおじさんの子には会ったことあるけどあんたじゃなかったわよ。はい次〉
 「な、何ぃ!?」
 
 これは予想外だ。というか会った事あるってなんだ。そんな思考とは裏腹に、すぐさま体が反応して別の言葉が飛び出した。
 
 「なら隠し子だ!」
 〈あの人の奥さんって嫉妬深いのよねえ。なんとかテールって人たち雇って身辺調査させたとか自慢げに言ってたわ。ほら、さっさと次を言いなさい〉
 
 なんということだろう、こんなに早くばれるとは夢にも思わなかった。モニターの中でフレイが、〈んー? もう降参?〉などと言っている。こんな性悪女に屈するわけにはいかない。何か、何か良いものは考えはないものだろうか……。
 ふと、猝世韻虜叔瓩砲い榛△肪膣屬言っていた事が脳裏によぎった。その内容が少しずつ頭の中に思い浮かんでくる――これだ!
 戦場に出る理由、爛好肇薀ぅ瓩覆匹竜〔を知っている理由、爛◆璽エンジェル瓩砲海世錣詬由、その全てに説明がつく素晴らしい言い訳が見つかった。名前はなんといったか……小耳に挟んだ程度だから良く思い出せないが、まあなんとかなるだろう。
 カガリは悲しげな表情を意識して、言った。
 
 「実は私は……悲劇の死を遂げた、あの大西洋連邦事務次官の娘なんだっ!」
 〈……ちょっと〉
 
 座った目つきでフレイが言ったが、そんなものに負けるもんかと力いっぱい演技をした。
 
 「お父様の敵を討つべく砂漠で戦っていたら、その父の最期を看取った爛◆璽エンジェル瓩暴于颪い海Δ靴鴇茲蟾んだんだ!」
 〈………………〉
 
 フレイが先ほどから何も言わない。おそらく同情しているのだろう、間違いない。それに今のカガリは絶好調だ。普段使ってない脳をフル稼働させている所為か頭も栄える。名前も少しづつ思い出してきた。止めを刺すべく、カガリは歌い上げるように宣言した。
 
 「そう、私の名前はカガリ・ユラ・アルスター! カガリ・ユラ・アルスター!! カガリ・ユラ・アル……ス……」
 
 カガリの思考が止まった。……聞き覚えのある名前だ。
 
 「あ……あれ? お前……誰だっけ……?」
 
 座った目でじとーっと睨んでいるフレイの口元は不愉快そうに歪んでいる。
 
 〈言ってごらんなさい、聞いててあげるから〉
 
 カガリは頭の中が真っ白になった。
 
 「えと……フレイ……」
 
 モニターの中のフレイはぴくりとも動かない。
 
 〈続き〉
 
 続き……既にその答えは出ている。が、どうも脳の働きが鈍い。カガリはぎこちない仕草で視線を泳がした。
 
 「フレイ……アルスター……」
 〈……ん〉
 
 言葉と同時に爛瀬ー瓩侶骨が飛んできた。ゴンという振動音と衝撃が爛好イグラスパー瓩鮟韻ぁ▲ガリは慌てて姿勢を制御させた。
 
 「何すんだよ、危ないだろ!」
 
 そう怒鳴ったものの、モニターに映るフレイは不機嫌そうだ。
 
 「……その、悪かった。……ごめん」
 
 フレイは答えなかった。
 流石に悪い事をした。肉親を失ったのだから当然なのだろう。だが、自分はその傷口に塩を塗るどころか紙やすりで擦り高らかに祭り上げてしまったのだ。
 
 「じゃ、じゃあさ! えーと、一つだけ当ててみろよ、私がどこの国のなのかをさ! もし当たったら嘘つかずに答えてやる!」
 
 フレイの視線がちらっと動いた。カガリは必死に続ける。
 
 「ああ、でも一度だけだぞ? ま、まあ当たりっこ無いけどな、フレイじゃ!」
 
 共に寝泊りをしているのだ、相手がどんな言葉に反応するかくらいはだいたいわかってきている。そして、フレイはプライドが無駄に高い。
 
 〈……良いわ、泣いたって許してやらないんだから〉
 
 とりあえずは場の空気が少し回復した。まあ世界は広い、そう簡単に当たりはしないだろう。
 
 〈オーブでしょ〉
 
 カガリの頭の中が真っ白になった。ついでに目の前は真っ暗になった。
 
 
 「はっ!? え、え、と、あ、あの……」
 〈うろたえまくりじゃないの馬鹿〉
 
 も、もう何がなんだかわからなかった。そそそそそうだ、とりあえずここには大人がいないのだから……。そう、フレイの口から漏れなければ良いのだ。
 
 「な、なぁ……このことは――」
 〈言いふらすわ、思いっきり〉
 
 不機嫌そうに鼻をならして、フレイは言った。
 
 「パエリヤ奢ってやるよ!」
 〈飽きるからいらない〉
 
 困った。本当に困った。
 だが、カガリにはまだ最後の手段が残されている。それは権力者の特権、金持ちの特権、支配者の特権をフルに行使した禁断の必殺技である。いざという時のために取っておいた奥義の封印が、今解かれたのだ。これはキサカですら知らない極秘の中の極秘技である。
 
 「オーブは良いところだぞフレイ!」
 〈ええ、そうでしょうね〉
 
 とりあえずは否定されていないので話を続けるべくカガリは更に意気込んだ。
 
 「特にオノゴロ島のビーチは最高なんだなあ!」
 〈ええ、そうね〉
 
 大丈夫、まだいける。カガリはそう確信し続けた。
 
 「広いビーチを見渡せて、尚且つ潮の匂いがギリギリ届かず、少しだけ高い丘、木々に囲まれた豪邸なんてあったら、最高だろうなあ!」
 〈ええ、そうよね〉
 
 カガリは一度その屋敷の光景を思い出した。幼い頃に友人を無理やり連れて何度も忍び込んだあの屋敷。勝手に秘密基地にして、鬼ごっこをしたり飾ってあった剣や槍で戦隊ごっこをしたり、自分と同じくらいの年齢の少女が描かれた絵に落書きをして大笑いをしたあの広い屋敷――。
少々……いや、かなり名残惜しいが背に腹は帰られない。バカンス地としても知られているオーブ島の中でも最高とも言える場所に立てられた優雅な豪邸。誰であろうと飛びつくはずだ。これこそがカガリの究極奥義、物で釣る大作戦である。
 
 「それがあるんだよフレイ! その豪邸をお前にやろう!」
 〈それたぶん私の家よ馬鹿〉
 
 カガリの頭が真っ白になった。ついでに目の前が真っ暗になって、顔面は蒼白だ。
 
 〈昔パパが買った別荘。バカガリ〉
 「そ、そんな! だって……どれだけ遊んだって誰も出てこなかったんだぞ!?」
 
 そう、どれだけ騒ごうと、どれだけ汚そうと人の気配など全く無かったのだ。
 フレイの顔が驚愕の表情に歪んだ。
 
 〈遊んだって――勝手に入ったの!?〉
 
 しまった、失言だった。カガリの顔に焦りが浮かぶ。
 
 〈ああー!!〉
 
 フレイが思い出したように声を上げた。
 
 〈まさか、絨毯が泥だらけだったのは!〉
 「い、いや……雨上がりだったから……」
 
 ぎくっと身を奮わせたカガリは慌てて言い訳をした。走り回ってたらついぬかるみにはまってしまったのだから、自分の所為ではないはずだ。
 
 〈パパがどっかの国から貰った剣とか槍とかボロボロになってたのも!〉
 「そんなに良いもんだったのか!?」
 
 そんな馬鹿な。あんな鈍器一歩手前の古びたものが高いはずが無い。そう思っていたのに……。
 
 〈わたしに落書きしたのも!〉
 「お前だったのか!?」
 
 言われてみれば……なんとなく面影はある気がする。とは思ったものの、脳裏に浮かぶ幼いフレイの絵には、筆で付け足された太い眉と裂けた唇と吊り上った目と角と牙がセットになってしまっているのでどうもしっくりこない。
ちなみにその絵は、怪我をして迷い込んできた渡り鳥を手当てするために額縁から取り出し、折り紙の要領で箱を作り、藁を詰め、簡易版鳥の巣として使う事にしたのだ。当時はなんて感動的な話だと喜んだものだったが……。
 
 〈全部あんたがやったことだったってわけ!?〉
 「ち、違う! 私はそんなこと知らない!」
 
 カガリは必死に否定した。フレイには悪いが、バレさえしなければ平気なのだ。
 
 〈……もう怒った。絶対に許してやらない!〉
 「待てって! 私はそんなの知らないって言ってるだろ!」
 
 とは言ったものの、どうやらフレイはカガリが犯人だと確信しているようだ。いったいどこでばれたのだろうか……。
 もうこうなったら素直に言うしかない。カガリは心を決めた。誠意を持って頼み込むしかない。
 
 「頼む、黙っててく――」
 〈嫌よ〉
 
 何と言う性悪女だろう。魔女か悪魔か……いや、もっと上位のものかもしれない。そう考えながら、カガリは表情を引きつらせたまま固まってしまう。モニターの中で、フレイが一瞬表情を曇らせたがそんなことはもはやどうでも良いことだ。
 
 〈――ッ! カガリ!〉
 
 そう叫ぶのが早いか否か、爛瀬ー瓩思いっきり爛好イグラスパー瓩鮟海衄瑤个靴拭C,つけられるような衝撃とぐるぐる回る視界に慌てて機体を制御しきれずに、墜落直前にまで陥る。それでもカガリは必至に操縦桿を握り、機体を立て直せたのは訓練の成果か。
 
 「お、おい! ここまでしなくたって――」
 
 その瞬間、先ほどいた位置に無数の銃弾が飛び交い、海に着弾したそれが水の柱を上げた。一瞬遅れて警報が鳴り響く。
 
 「――敵!? なんでわかった!?」
 〈知らないわよ!〉
 
 私は全く気がつかなかった。一体フレイはどうやって……。
 遠くに見える六機の爛妊ン瓩魍稜Г掘▲ガリは慌てて爛◆璽エンジェル瓩膨命を入れた。
 
 
 
 〈申し訳ありません、外しました〉
 「外されたのだ。あの位置から良く避けれたものだ」
 
 丘の上から、スナイパーライフルを構えた青い迷彩塗装を施された爛妊ン瓠△修靴討垢安Δ砲蓮同じように迷彩塗装を施された五機の爛妊ン瓩佇んでいる。これがサトー隊のいつもの戦い方だ。奇襲から始まり、混乱の状態の敵を一機に鎮圧し、すぐさま撤退をする電撃作戦。
 
 「――俺が先に行く」
 
 隊長と呼ばれた傷の男、サトーの爛妊ン瓩飛び、それに後の機体が続く。指揮官が先陣をきるなどと……と言うものは多いだろう。だがそんな彼だからこそ皆が惚れこみ、ついてきたのも事実である。
 彼は決して勲章を取らない。そうする事で連合から注目を浴び警戒されることになるからだ。それは部下達を危険にさらすことにもなる。
 戦場の王者であるモビルスーツを使いながら、奇襲という作戦を取る。プライドの高いコーディネイターからしてみれば恥すべき行為だ。が、彼らはそれをする。より確実に敵を倒せるからだ。
 パーソナルカラーなど必要無い。アマゾン地帯では緑の迷彩、山岳地帯では茶色の迷彩、宇宙では黒に塗り、今まで生き抜いてきたのだ。そしてこの爛妊ン瓩凌Г癲海と空に溶け込むように青をベースとした迷彩塗装をされている。
 捏造してでも少ない戦果を維持してきた。軟弱部隊と知られれば敵が油断をするからだ。
 そして最もあってならないことは、敵が自分達に降伏することだ。戦意を失って白旗を振るなどという行為をさせてはならない。それでは仇討ちにならないのだから。
憎きナチュラルの愚か者どもは、自分達を侮り、奢り、油断したところを一気に地獄へと突き落とされ、その恐怖を味わって死ぬべきなのだ。そうでなければ、爛罐縫Ε・セブン瓩濃兇辰榛念Δ虜淵リスティと愛しい娘アランが浮かばれないではないか。
 ゆえに、彼らは負けない。そして彼らは確信している。自分達こそが、ザフト最強の部隊だと。
 自惚れは持たない。それは油断を招き、敗北に繋がるからだ。
 サトーは爛妊ン瓩魏誕させ青いモビルスーツに迫った。観察している時間充分にあった。これは、連合のモビルスーツ、爛好肇薀ぅ瓩領婿嵯燭魏良したものだ。そこまで断定できる知恵と経験が、彼にはある。
 小手調べなどする理由は無い。手に持ったMMI‐M七S七六ミリ重突撃機銃に、爛妊ン瓩法燃えたぎる闘気をみなぎらせ、撃ち放つ!
 だが驚いたことに青いモビルスーツはそれを回避し、更には手にもつビームライフルで反撃までしてきた。
 
 「正確な射撃だ! しかし、未熟!」
 
 もちろん手加減をする気など無い。
 重突撃機銃を左手に持ちかえ、右手には重斬刀を握らせる。そのまま重突撃銃を撃ちながら爛妊ン瓩浪誕をかけた。
 これもいつもの戦い方である。
 いつも通り敵はそれに反応し構える。機動性は爛妊ン瓩茲蠅發△襪茲Δ妨えたが、それを生かせていないのはパイロットの差だろう。
 青いモビルスーツが必死に応射してくるが、サトーはその射撃の隙間を縫うように滑空と対空を繰り返し、力強く切りかかる。
 これもいつも通りだ。そして自分の攻撃よりも早く死角から仲間の射撃が敵を襲うのも――。
 
 しかし、青いモビルスーツは仲間の爛妊ン瓩真後ろから放った射撃を、宙返りの形で避けてみせた。……だがこれも長く戦い続けていればあることだ。
そしてその隙をついてサトーが重斬刀で切りかかることも、更にはこれから起こるかもしれないそれで撃墜できなかった時のことまでも、彼らにとっては何の些細もない小さなことだ。
腐ったナチュラルの兵士を撃ち、妻と娘の無念を晴らす。これこそが我らにとって最も重要視すべきことなのだから。
 
 「やるではないか!」
 
 闘志をみなぎらせた爛妊ン瓩禄纏妥瓩鯲昭蠅忙ち、青いモビルスーツに切りかかる。敵は素早くシールドを構える。その反応速度にサトーは笑みをこぼした。
 
 「今ここでその芽、紡ぎ取らせてもらう!」
 
 幾度と無く経験した事だ。その時は、ここで接触回線から相手の若い青年兵の怯えたような声が聞こえてきたか……もしくは勇敢に立ち向かってきたか……いや、どちらもあったことかもしれない。
が、そんな事はどうでも良い。目の前にいるナチュラルを撃ち滅ぼすことこそが、最愛の娘の笑顔を取り戻す唯一の方法なのだから。
 
 〈な、何よ、あんた!〉
 
 接触開戦から聞こえてきた声に、サトーが固まった。
 
 「……女の……子供の……声!?」
 
 もしもナチュラルに殺されていなければ、丁度今の声の少女と同じくらいの年代になっていただろう自分の娘が、脳裏に過ぎった。任務が終わり家につくと、一番最初に飛び出してきた娘が言うのだ。『おかえりなさい、パパ!』と。
 
 〈だったら何よ!〉
 
 怯んだ爛妊ン瓩謀┐離皀咼襯后璽弔体当たりを仕掛てきた。たまらず爛妊ン瓩話討飛ばされる。やはりパワーではあちらが上のようだ。飛ばされた爛妊ン瓩髻部下が慌てて抱えた。
 
 〈隊長!?〉
 「子供が……若いぞ!」
 〈ナチュラルの、少年兵!?〉
 
 爛廛薀鵐鉢瓩任蓮▲魁璽妊ネイターは十五歳で成人と見なされる。優れた判断力ゆえのものだ。だが――戦場を駆ける大人たちにとっては、例え法律上成人と見なされようと、どれだけ優れていようと、子供は子供。
 
 「女だった! 腐ったナチュラルは、このような少女を戦場に駆りだし……ましてやモビルスーツに乗せるのかッ!」
 
 どんな敵にも、どんな困難にも打ち勝ってきた不死身のサトー隊。失った友の、妻の――娘の無念を晴らすべく、全てをかなぐり捨てて戦うことこそが彼らの行動理念であり……唯一の弱点であった。
 
 
 
 なんとか敵を振り切ってきた爛好イグラスパー瓩鮓つけ、フレイは舌打ちをした。
 
 「遅いわよバカガリ! あんた大口叩いてるくせに全然駄目じゃない!」
 〈――な、ん、だ、と、フレイ! もう一度言ってみろ!〉
 「あんた大口叩いてるくせに! 全然駄目じゃない! この馬鹿!!」
 〈ほんとに言うなよ馬鹿!〉
 
 お互いに怒鳴り散らしたが、すぐに殺気を感じて機体を移動させる。自分を目掛けて伸びる敵意の条から少しずれるだけで良いのだ。そしてそれを辿った先に敵がいる。
 この感覚こそがムウやアムロたちの言う空間認識能力の枠に入れられた力なのだが、フレイはそれを知らない。
 フレイは光の先を目掛けてビームライフルを連射した。だが爛妊ン瓩詫動廚回避し反撃を加えてくる。
 
 「こいつ、強い!」
 〈どうする、私たちだけじゃ!〉
 「どうするって……わたしにわかるわけ――」
 
 三機の爛妊ン瓩猛然と迫る。
 慌てて役に立たないビームライフルを捨て、バズーカを構えた。
 
 〈ああ! 捨てんなよ馬鹿!〉
 「うっさいわね! 当たんないのよ!」
 〈だからって捨てんなよ!〉
 
 爛好イグラスパー瓩睇死に加速をかけ爛妊ン瓩量垤兇ら逃げ回っている。流石にムウが空の王者と言うだけあって素早い。そしてその機動性を更に向上させる爛侫薀ぅ肇好肇薀ぅー瓩装備されているのだ、そうそう追いつけはしまい。
 フレイはバズーカで敵に狙いを定め、三射ほど放つ。弾頭は易々と回避され足止めにもならず無様に海へと着弾し海面を波立たせる。すぐさま敵機がばら撒くマシンガンの雨に晒され、慌ててシールドを構えながら後退する。
 
 「ああもう役立たず!」
 
 バズーカを捨て、今度はマシンガンを構えた。フライトパックの加速力で距離を取りながら戦っている所為もあり狙いが上手くいかない。それでも懸命に応射すべく、トリガーを引いた。
放たれた無数の銃弾は空しく海面に反れ、水しぶきを上げる。フレイは舌打ちをして、マシンガンを捨てた。そして残った最後の武器を手に取る。
 
 「これで最後!?」
 
 手にしたのはショットガン。弾がばらける散弾というのは頼り無さそうなイメージがしたが、仕方あるまい。敵の攻撃を回避すべく自機に加速をかけ、トリガーを引いた。
 ばっと放たれた弾はそのまま弾け、面をとなり、ついに一機の爛妊ン瓩北臣罎靴拭
 
 「あ、当たった!?」
 
 だが距離もあったために致命傷にはならなかったようだ。ふらふらと力なく飛ぶ爛妊ン瓩鮓るに、カメラでも破壊できたのだろうか。
 
 「そうよ、当たんなきゃ意味がないんだから!」
 
 彼女の言葉に反応するかのように、爛瀬ー瓩離丱ぅ供爾留にある双眼《デュアルアイ》が、赤く輝いた。
 二機の爛妊ン瓩舞うように迫る。そして時折ふいをつくかのように攻撃を加え、それに合わせたかのようにもう一機――カガリの爛好イグラスパー瓩茲蠅發海舛蕕侶眷砲鰺ダ茲靴燭里世蹐Α宗醜膩彁圧,劉爛妊ン瓩挟み撃ちをしかけてくる。
 フレイはそれらから発せられる殺気の鼓動を手繰り寄せ、その先を見据えた。
 
 「そこ!」
 
 再びショットガンが火を噴いた。放たれた散弾の面が自分の後方に回っていた爛妊ン瓩鯊る。確かな手ごたえ。爆発させるまでには至らなかったが、今は戦闘能力さえ奪えれば充分だ。
 だがその瞬間、もう一機の爛妊ン瓩貿惴紊鮗茲蕕譴拭これにフレイは反応できない。
 ――やられる!
 
 と、そこへ――。
 〈こぉんのおおっ!〉
 爛好イグラスパー瓩二○ミリ機関砲を連射しながら爛妊ン瓩紡療たりを仕掛けた。シールドでいなされた爛侫薀ぅ肇好肇薀ぅー瓩留ν磴思いっきり捻じ曲がり、すぐさまそれを分離し、立て直す。
カガリの咄嗟にする対応には目を見張るものがあるようだ。思い切りが良いのだろう。無鉄砲と取れるギリギリの行動が、今回はフレイの危機を救ったのだ。
 
 〈フレイ! 大丈夫か!?〉
 「おっそいわよ馬鹿!」
 〈なんだとお!? 人が決死の覚悟で助けてやったってのにお前はぁ!〉
 
 フレイは時々カガリのことがとても可愛く思えることがある。まるで犬でも飼っているかのように、それこそ愛らしい小動物のように思える時が。だからこうやってからかってやりたくもなったのだし、面と向かって礼を言うのは絶対に嫌だと思う。気恥ずかしいし。
 
 「良いわ、黙っててあげる!」
 〈何が!〉
 「オーブのお姫様だってことっ!」
 〈ほ、ほんとか!?〉
 
 それに答える前に、フレイの知覚に反応して機体が動いた。そこまでいた場所に銃弾が降りそそぐ。彼女は敵から伸びる殺気の光を手繰り寄せるようにして見据え、その終点目掛けてショットガンのトリガーを引いた。
見れば、それは先ほど大声で怒鳴っていた隊長機と思える爛妊ン瓩世辰拭散弾の弾はそれに当たることなく、青空へと消えていくだけだ。
 その爛妊ン瓩らは、全身が震えるほどの殺気が敵から発せられている。今までに無いほどの強さと威圧感。これが本当のエースパイロットというやつなのだろう。だが、不思議と恐怖は感じない。
軌道上であった光に包まれているようにこの機体が自分を護ってくれていると感じることができた。いや、そもそもこれは本当に殺気と呼べるものなのだろうか? フレイにそこまではわからない。だが彼女のその思考は、敵にとって大きすぎる隙であることは確かだった。
 正確無比な射撃が爛瀬ー瓩鮟韻ぁ∋っていたショットガンに命中する。
 ――誘爆する……!?
 すぐさまそれを敵に投げつけると、ややあってショットガンが爆発し、わずかに安堵したが、同時にそれは爛瀬ー瓩良雋錣尽きたことを意味する。
 
 「そんな……もう武器が!」
 
 爛妊ン瓩爆煙をかきわけ、重斬刀を構えて迫る。
 
 〈だから捨てるなって言ったんだ!〉
 
 カガリが必死に応射するが、かすりもしない。
 
 「だ、だって!」
 
 ついに爛妊ン瓩目前までやってきた。目の前に広がる爛妊ン瓩涼唄磧團皀離▲ぁ佞龍欧蹐靴気法∋廚錣哉疚弔鮠紊欧修Δ砲覆辰拭そのとき――。
 
 〈君ッ! 年は!?〉
 
 先ほどの怒鳴っていた男の声が通信機から聞こえてきた。驚いたフレイは反射的に応えた。
 
 「じゅ、十五!」
 〈若いぞ娘! こんなことしていては、ご両親が泣くぞッ!〉
 
 一瞬、フレイが固まった。脳裏に優しかった父の笑顔と、写真の中で笑みをこぼしている母の幸せそうな顔が思い浮かぶ。だがそれはすぐさま消え、冷たい笑みを浮かべた仮面の男が浮かび上がる。彼の足元には、血を流し息絶えている父と母が……。
 泣く? パパとママが? 誰の所為で? 誰の所為でわたしがこんなことをさせられてると思っているの? パパが死んだのも、ママが死んだのも、わたしがこんなことをしなくちゃならないのも、みんなみんなお前たちの所為だというのに!
 フレイの思わずカッとなり、獣のように怒鳴り声をあげた。
 
 「パパとママを殺したコーディネイターが言うことかァッ!」
 
 爛瀬ー瓩ら力強い意思が発せられ、波動となって戦場を駆けた。
 
 
 
 少女の乗るモビルスーツから発せられた鋭い何かにサトーは全身を震わせた。
 
 「君の……お父さんとお母さんは――」
 〈殺された! コーディネイターに!〉
 
 耳を劈くような叫び声に、操縦桿を握る手が止まる。
 
 「だがっ! 俺は――私は妻と娘をナチュラルに殺された!」
 〈わたしのパパは! ママを殺されても、コーディネイターを憎んだりなんかしなかったのに!〉
 
 もしも――もしも娘が生きていたらどんな子に育ったのだろう。どんな恋をしただろう。俺はどんな生活を送っていただろう。考えてはいけないとわかっていても、その思いは湧き水のように浮かび上がってくる。
 もしも――もしもあの時爛罐縫Ε・セブン瓩濃爐鵑世里娘ではなく自分だったら……あの子は、どうしただろうか――。
 
 〈パパを返してよお!〉
 
 少女の叫びこそが、その疑問の答えであった。サトーの思い描いた我が娘のイメージが重る。
 父を殺された少女と、娘を殺された自分と……。操縦桿を握るサトーの指は震えたままだ。ふと、モニターに映る仲間達の爛妊ン瓩北椶鬚笋襦みな動けず、海をゆったりと漂っているが死んではいないようだ。
 
 「娘! 君は私の部下たちを殺さなかった、何故だ!」
 〈そんな暇なんて無かったじゃない!〉
 「そういうことではない! 仇を、お父さんの仇を討とうとは思わないのか!?」
 
 自分に言い聞かせるようにして言い放つ。そうだ、自分達は娘の仇を討たねばならない。サトーの心の中で消えかけた復讐の炎が再び燃え上がり始めた。
 あの優しかった妻と娘を殺したナチュラルどもに復讐を――
 
 〈あの優しかったパパが、わたしに戦えなんていう訳無いじゃない!〉
 
 サトーは思わず息をのんだ。
 もしも自分の仇を討つために我が娘が戦場に立つことになったら……。
 自分の復讐のために、愛しい我が娘が人殺しをするようになってしまったら自分はどう思うだろう。
 答えは、既に出ていた。
 ……復讐などは望まない。戦いの無い平和などこかで静かに暮らして欲しい。時折自分の事を思い出し、祈りを捧げてくれるだけで充分だ。人殺しなどして欲しくない、その身を危険にさらして欲しくなど無い。サトーは思わず涙をこぼした。
 
 「俺は何をしている!? ここで!」
 〈パパは優しかったのにい!〉
 
 青いモビルスーツが腰からビームサーベルを抜き、切りかかってきた。
 
 「ま、待て、娘!」
 重斬刀であれを受けることはできない。だがサトーの腕でその攻撃を避けることなど容易だった。
 そこへ、先ほどからいた戦闘機までが痺れを切らし特攻気味にやってくる。サトーは舌打ちをしてそちらに重斬刀を振りかぶり、切りかかった。
 
 「ちょこまかと、うっとおしいわッ!」
 
 すかさずその斬撃の盾になるように青いモビルスーツが躍り出、その躯体ごと爛妊ン瓩鯀箸瀝泙┐拭そのパワーは爛妊ン瓩里修譴鬚呂襪に上回っており、サトーはまた舌打ちをした。
 
 「なぜ庇う!」
 〈友達が乗ってるじゃない!〉 
 「年は!」
 
 反射的に聞き返してしまった。
 
 〈十六!〉
 「若いではないかあ!」
 
 サトーの目にまた涙が溢れた。もはや、モビルスーツに乗る少女と自分の娘のイメージは完全に重なっている。たまらず彼が叫ぶ。
 
 「君! 私と来るんだ!」
 〈――ッ!? 何言ってんの!?〉
 
 愚かな策だった。もはや自分に彼女を殺すことは適わない。だが、敵を見過ごすわけにもいかない。そうすることで仲間達が危険に晒されてしまう。サトーは確かに混乱していた。自分の信じていたものが、その全てが、崩れていきそうで……。
 
 「私は君を殺せない! 君が駄目だというのなら、その友人もだ!」
 
 言いながら、ぼろぼろと涙をこぼす。娘は生前とても明るい子だった。元気いっぱいで、まるで太陽のように自分と妻を照らしてくれた。まさに、宝だった。
 
 〈わたしのパパは、パパだけしかいないのよ! そのパパを殺した連中になんか……!〉
 「わ、私は殺していないだろう!? 君の父はいつ死んだ!」
 〈ジョージ・アルスター! 殺した男はラウ・ル・クルーゼッ!〉
 
 ラウ・ル・クルーゼ……冷徹なる『仮面の男』――。有名な名だ。だがサトーの興味は別のところに惹かれた。
 
 「アルスター事務次官には、会ったことがある……、私は……!」
 ジョージ・アルスター。しつこく地球との融和を訴えて来た男。大西洋連邦事務次官にしてブルーコスモスの官僚。彼の脳裏に、あの時の様子が刻々と蘇える。親馬鹿丸出しの事務次官の姿が……。
 
 〈嘘よぉ!〉
 
 通信機越しで少女が絶叫した。これが運命だとしたら、あまりに酷なことだ。なぜ、ここであの気さくな男の娘に出会わなければならないのだろう。
 
 「彼がプラントに来た時、クライン議長との会談にやってきたのを目にした、すぐ側で!」
 
 偶然入った任務だった。ある要人の護衛として、軍務に忠実なサトー隊が抜擢されたのだ。その要人は、コーディネイターを弾圧するブルーコスモスに入っていながらも、コーディネイターを差別したりなどしなかった。あの時彼は言った。
 
 『私はコーディネイターというものに反対だ。あれは悲しみしか生まない……』
 
 酒の席でひとしきり娘の自慢話をした後、彼はふと声を落とした。その声色はどことなく冷たく悲しげだったのを覚えている。
 
 『しかしだ、既に生まれてしまった命には何の罪も無い。それを生み出すものにこそ、真の罪がある』
 
 ――そういった男の目は鋭かった。
 おかしな男だと思った――。そういえばラウ・ル・クルーゼに会いたがっていたことを思い出したが、その思考はすぐに捨てた。
 サトーが叫んだ。
 
 「そうか。ならば、君がフレイ・アルスター」
 
 
 
 父の名を呼ばれてからフレイは身体が動かなくなった。息が荒くなる、鼓動が早い。指先の震えが止まらない。頭を抱えてうずくまってしまいたい衝動に駆られる。
 
 〈何やってんだよフレイ! 動けって!〉
 
 フレイは震えたまま動かない。パイロットスーツのポケットに入っている爐守り瓩函△修靴謄灰奪ピットを包む何かにより相手の意思が伝わってくる。前の時とは比べ物にならないほど明確に――相手の記憶までも――。
 それは優しく素敵な記憶。すがってしまいたくなるほどに愛おしい記憶。そして、その記憶の中に父の姿を見た。
 少しだけ若いジョージ・アルスターが、笑みを浮かべてフレイの写真を見せびらかしている。相手は――今戦っているパイロットだ。
 
 「わ、わたしは……フレイ・アルスターなのよ……」
 〈知っている! 私は君を全力で護る!〉
 
 既に相手の名は知っていた。サトーという男と、その妻と娘の幸せそうな笑顔がフレイの頭の中に浮かび上がる。
 
 『お帰りなさい、パパ!』
 『あなた、今日もご苦労様でした』
 『ああ、ただいま。プレゼントもちゃんと買ってきたよ』
 
 記憶が……響いてきた。今日は娘の誕生日。目の前にいるのは優しい妻と可愛らしい娘そして――。
 その家族の姿が、一瞬でもの言わぬ屍へと変わった。
 
 『これがナチュラルのすることか! 同じ人間のすることなのかッ!』
 
 サトーとなったフレイの腕の中に、冷たくなったとなった妻と娘が抱かれている。妻と娘の亡骸を抱き、サトーは泣き続けた。
 彼の記憶と感情をダイレクトに受信してしまったフレイは、その憎悪と絶望に耐え切れずうずくまる。こんなもの見せないで欲しい。こんな悲しい事知りたくなんてない。……もう何も考えたくない。聞きたくない……。
 
 「わ、わたしは……」
 〈寂しいのだろう! だから君は、すがってしまいそうになるから他人を遠ざけようとする!〉
 
 
 
 通信機から漏れ聞こえてきた声に、カガリは目を見開いた。
 寂しい? あのフレイが……?
 
 〈きみのお父さんを殺してしまったのはすまないと思っている! 私も娘を殺されたのだ! だから、一緒にやり直すことはできないか! 父と子を、二人で!〉
 
 聞こえてくる声はどこまでも優しく、誇り高い声だ。純粋に彼女を求めている。
 
 「ま、待てフレイ!」
 
 このままでは行ってしまう気がした。ひょっとしたら初めてできたかもしれない同性の、同じ年代の友達。
 ――昔友達だった彼らは変わってしまった。友に笑いあった日々は過ぎ去り、誰もが身分と家柄と打算で動くようになってしまっている。
 
 『おーいお前ら、遊びに行くぞ!』
 
 十六歳の誕生日パーティを終えた次の日、さっそく屋敷を抜け出したカガリはいつものように抜け道を通って、友人達を丘の上の屋敷――勝手に秘密基地にした――に呼び寄せた。
いつまでも続くと思っていた日々。夕方まで、あるいはうるさいキサカやマーナに見つかるまで走り回ったあの日々。だが――。
 
 『ご自分の立場を理解してください、カガリ様』
 
 その日返ってきた言葉は、カガリの知る彼らの言葉ではなかった。色のついた眼鏡をかけ、長めの前髪の青年、ホースキン・シラ・サカトが淡々とそう言ったのだ。
 いつもなら、『やれやれ、またですか? カガリ様』と言った彼を、カガリが『様ってつけるなっ』と小突いてやったものだった。いったい彼らに何があったのだろう……。その隣にいた、浅黒い肌のガルド・デル・ホクハが言った。
 
 『あなたはもう十六です。我々のような下々の者と交友を持っていてはいけません』
 
 彼の家は代々軍属の家系であり、仲間達の中でも年長で兄的存在だった。落ち着いた様子の中に見える暖かさがカガリは好きだった。だというのに――。
 
 『立場が違うんですよ、カガリ・ユラ・アスハ様?』
 
 長い金髪にパーマをかけた男が言った。彼の名はファンフェルト・リア・リンゼイ。オーブの騎士になると宣言した彼をボコボコにしてやったこともある。だがファンフェルトは諦めずに努力を重ね、何度もカガリと戦った。そのひたむきな心を美しいとも感じていたのに。その気高さに憧れていたのに。
 ふいに、扉が開き、そこからすらりとした長身の男が入ってきた。
 
 『ユ、ユウナ! 聞いてくれ、こいつら突然――』
 『君も大人になるんだ、カガリ』
 
 仲間の中で一番情けなく、いつもカガリに小突かれていたユウナ・ロマ・セイランが舐めきったような口調で言った。カガリの背中から、舌打ちが聞こえてくる。
 振り返って見ると、くすんだ赤毛のワイド・ラビ・ナダカが敵意をむき出しにしてユウナを睨みつけている。ひねくれものの彼は、仲間内で少しだけ距離を置いた存在だった。だからカガリはワイドにヘッドロックをかけ、無理やり輪の中へ放り込んでやったことがあるのだ。
それ以来、距離を取りつつも彼の口調は明るくなった。だが、これではまるで出会ったばかりのときのようだ……。
 ユウナは彼を見ようともせず、言った。
 
 『……なんだい?』
 
 『いえ、別に……。ユウナ様』
 
 立場が違うということは既に知っていた。だがカガリはそれを嫌い、自分に様をつけて呼ぶことを禁止した。当然ユウナを呼ぶ時も様つけを止めさせていたのだが……。それよりもこの険悪なムードは何なのだろう。
カガリは藁にも縋る思いでサース・セム・イーリアに目をやった。黒髪で色白の大人しい彼は、口数が少なく、仲間内でも最年少だ。カガリやガルドによく懐いていた彼ならば――。
 だが、サースは何も言わずに顔を背けただけだった。
 
 『……サース! 何でだよ!?』
 
 カガリは泣きそうになりながら叫んだ。みんな、大好きな友達だった。情けないユウナも、無口なサースも、頼れるガルドも、捻くれ者のワイドも、頭が固いホースキンも、プライドの高いファンフェルトも、本当に大好きだった。
いつまでもこんな日が続けば良いと思っていたのに……例え大人になって、誰かと結婚をして、子供ができたとしても、この友情は変わらないと信じていたのに……。
 そこへ、ユウナの背中越しにある扉を開け壮年男がやってきて言った。入り口から差し込む太陽の光が逆光となってカガリの目を照らす。
 
 『戻るぞカガリ。ここはお前のいるべきところではない』
 『――お父様? どうしてここが……』
 
 カガリははっとして思い当たった。
 
 『ユウナ……お前……』
 
 驚愕と、ほんの少しの怒りを込めて長身の友人を見据えた。いつにも増して人を舐めたような表情が、今のカガリには癪に障る。父が口を開いた。
 
 『……戻るぞ、カガリ』
 『い、嫌です! 私はここにいたい!』
 
 島を捜し歩いてようやく見つけた自分達だけの秘密基地、大切な大切な友情の証。ここを去ってしまったら、本当に彼らと離れ離れになってしまいそうな気がしたのだ。
 
 『いい加減にしろカガリ! お前は――』
 『私は私のままでいたい! オーブの姫だとか、そんなもの!』
 『――カガリ!』
 
 父の平手がカガリの頬に飛んだ。その衝撃で身を倒し、小さな肩が観葉植物にぶつかる。
 カガリは視線を落とし拳を思い切り握りしめた。血が滲み出るのではないかと思うほど、力いっぱい。だから背後でカッとなり飛び掛りそうになるワイドをガルドが抑えつけていることになど、サースが悲しげにうつむいていることになど――気づくはずも無かった。
 ――その日、無理やり連れ帰られた自分の屋敷で、カガリは思い切り泣いた。もう涙が出なくなるのではないかと思うほど――。
 砂漠で出会った少年アフメド。彼とは友達になれたかもしれない。
 
 
 でも、彼は死んだ。せっかく築き上げられたかもしれない友情は、ミサイルの爆風によって吹き飛ばされてしまったのだ。
 カガリはもう、友達を失いたくなかった。
 
 〈邪魔をするのか、君!〉
 
 通信機の中で、爛妊ン瓩離僖ぅ蹈奪箸叫んだ。
 
 「お前はフレイを連れていく気なんだろう!? コイツは、私の……大事な友達なんだ!」
 
 カガリも負けずに声をあげる。いつもそうだ、大人たちは自分の勝手な都合で全てを奪っていく。戦争だって大人たちが勝手に始めたことだし、モビルスーツの開発だってそうだ。自分勝手な連中が何も知らない自分達を巻き込んで……全てを駄目にしていく。
 
 「ワイドも、ファンフェルトも! サースもホースキンもガルドもみんな変わってしまった! ユウナだって……! もう私たちは昔のように笑うことなんてできなくなってしまったんだ!」
 〈娘、君は……! だがこの子は父を求めている!〉
 「違う! 一緒にいてくれる人を求めているんだ! でもそれはみんな同じ事だろう!?」
 
 側にいてくれる人を――。それは家族、恋人、友人。なんでも良いのだ。共に手を取り、笑いあうことのできる素晴らしい存在。
 
 「アムロ・レイは、お前を護ってくれてるだろう!?」
 
 フレイの身体が一瞬びくっと震えた。カガリは続ける。
 
 「私だってお前と一緒にいる! ラクスもミリアリアも、キラもカナードもみんなお前の側にいるんだ!」
 〈ラクス・クラインと言ったか!〉
 
 爛妊ン瓩離僖ぅ蹈奪箸怒りを孕んだ声を上げた。カガリは一瞬口にしたことを後悔したが、怯まなかった。
 
 「友達だ!」
 
 間違いなく事実だ。彼女達は振り分けられた部屋で、共に遊び、笑いあいながら、小さな友情を育んできた。それはカガリにとって幸せなことだ。
どこか情けないキラ、捻くれ者のカナード、プライドの高いフレイにまとめ役のミリアリア、知ってか知らずかトラブルメーカーとなっているラクス。友達思いのトール、良い人代表のようなサイ、さらっと釘を刺すカズイ。何物にも変えがたい、本当に大切な友達。
 敵のパイロットが驚愕を隠さずに言った。
 
 〈君達は何をしているのだ!? 連合の戦艦だろうに!〉
 「そんな大人の事情、私が知るか!」
 〈戦争をしているのだ!〉
 「私はしていない!」
 
 その時、一筋のビームが爛瀬ー瓩鉢爛妊ン瓩隆屬鯲くかのように宙を走った。
 カガリが慌ててそちらに目をやる。彼方には、爛侫薀ぅ肇好肇薀ぅー瓩鯀備した、爛好肇薀ぅ瓩函二機の爛好イグラスパー瓩了僂あった。
 
 
 
 敵の襲撃を聞いて、大急ぎで飛び出してきたキラは、今まさに捕らわれ様としている爛瀬ー瓩了僂鮓て激昂した。
 大好きなフレイが殺されてしまう。それも、モビルスーツなんかに乗って……。
 
 「――フレイ!」
 
 彼は通信機に向かって叫んだ。だが、返事は返って来ない。
 
 〈そういうのは後だキラ! まずは敵をぶったおそうぜ!〉
 
 トールが力強く叫んだ。
 
 「でもっ!」
 
 言うが早いか否か、敵の爛妊ン瓩こちらを捉え重斬刀を振りかぶる。キラはとっさにシールドを構えそれを受ける。その衝撃がコクピットを襲った。
 
 〈邪魔をするかナチュラルの兵士よォッ!〉
 「な、なに!?」
 〈――ッ!? 君も子供かァッ!〉
 
 爛好肇薀ぅ瓩魯機璽戰襪鯣瓦爛妊ン瓩棒擇蠅かる。しかし敵は半身を反らして紙一重で回避し、重斬刀で胴体部分を薙ぎ払うようにして切りかかってきた。見事な動きに、キラは反応できず重斬刀を胴体部で受ける。なんとかフェイズシフト装甲が持ちこたえ、衝撃だけが残った。
 
 「つ、強い……!」
 
 すぐさま上空からムウの爛好イグラスパー瓩二○ミリ機関砲を放ちながら援護に駆けつけてきた。
 
 〈どけ坊主! 空中戦なら負けはしない!〉
 「頼みます!」
 
 爛妊ン瓩妨かってビームを放ちながら、キラは空中でホバリング状態の爛瀬ー瓩剖瓩鼎い拭
 
 「フレイ、怪我は!?」
 
 ――返事が帰って来ない。いや、かすかに嗚咽のようなものが聞こえてくるが、これはいったい……? キラは、三機の爛好イグラスパー瓩叛錣Ν爛妊ン瓩鮹写椶蚤えながら計器を操作し、モニターの中にフレイを出すようにした。
 映った憧れの少女は、膝を抱えてうずくまっていた。
 
 「フレ……イ……?」
 
 かすかに嗚咽が聞こえ、その度に身体が震えている。キラははっとして目を見開いた。
 
 
 ――フレイが、泣いている。
 操縦桿を握る指が震える。歯を食いしばらずにはいられない。心臓の鼓動が早くなる。吐く息が熱い。全身に許しがたいほどの怒りがたまっていくのがわかる……。
 なにかが弾ける音が、体の奥底で響いたような気がした。
 キラは爛好イグラスパー瓩鯔殤するように動き回る爛妊ン瓩鮴┿瓦別椶弔で睨みつけると、頭部バルカンで牽制しながら一気に加速をかけた。
 こんな気持ちは初めてだ。奥底にある感情は間違いなく怒り。大好きなフレイを泣かせた相手と、護ってあげれなかった自分への怒り。
 
 〈おい坊主!?〉
 〈キラ、手ごわいぞ!〉
 
 ムウとトールが慌てた口調で言ったのも、キラには聞こえていなかった。
 
 〈フレイが……。キラ、あいつが……!〉
 
 カガリの震える声も今のキラには届かない。
 
 サーベルを構え、フレイを泣かした相手に全力で切りかかった。だが爛妊ン瓩録箸鯣燭蕕靴堂麋鬚掘△修里泙洵爛好肇薀ぅ瓩半彳佑靴童澆い魔砲澆弔韻襪茲Δ雰舛砲覆襦
 
 「――フレイを!」
 〈なんだ!〉
 
 男の声に、キラが本気で激昂した。
 
 「泣かしたなッ!」
 
 キラはシールドを捨て、左手にもう一本のビームサーベルを持ち再び切りかかる。二本のビームサーベルによる連続攻撃で爛妊ン瓩暴韻いかる。
 
 〈甘い!〉
 
 爛妊ン瓩魯ラの攻撃を物ともせずに武器を構えなおす。一本の重斬刀を両手に持ったその姿は、かつて、オーブ発祥の地となった東アジア共和国の小さな島国に存在したという侍の姿に似ている。
二刀流のビームサーベルを悉くかわした爛妊ン瓩呂修谿幣紊梁さで爛好肇薀ぅ瓩棒擇蠅かる。腕、頭部、胴体を素早く斬られ、止めとばかりに首に当たる部分を、爛妊ン瓩料澗僚鼎魍櫃韻親佑が襲う。その衝撃に、キラはたまらず顔をゆがめる。
 突如、バッテリー切れを告げる警告音が鳴りはじめた。
 キラははっと息をのみエネルギーゲージに目をやる。バッテリー残量がいつの間にかレッドゾーンに近づいていたのだ。
 
 〈距離を取れ坊主! 相手は近接武器しか持っていない!〉
 
 ムウが怒鳴るように言った。
 キラが機体を動かすよりも早く、爛妊ン瓩重斬刀を振りかぶる――!
 
 「――くっ……!」
 
 こんなところで死ぬわけにはいかない。あそこには――爛瀬ー瓩砲和膵イな子が乗っている。
 
 その時、拡散する一条のビームが爛好肇薀ぅ瓩凌神橘漫宗臭爛妊ン瓩凌晋紊蹐ら迫り、重斬刀の切っ先を焼いた。
 キラは慌てて砲撃の先を探したが、見えない。いや、遥か遠くにきらりと輝くものがある。
 爛妊ン瓩その点の方向を振り返る。
 そのタイミングに合わせるかの用に、前より勢いがついたビームが迫った。
 懸命に避ける爛妊ン瓩鮴騎里冒世Χ大な粒子の濁流は、力強くも恐ろしい。
 たまらず爛妊ン瓩、信号弾を上げた。
 すると、海中から六機の見慣れぬモビルスーツ――恐らくザフトの水中用モビルルスーツ――が姿を現し、墜落した五機の爛妊ン瓩魏鷦し全速力で後退していく。隊長格の爛妊ン瓩それを援護しながら続いた。ムウがそれを見てからかうように口笛を吹いた。
 
 〈奴さん手ごわいぜ。良い引き際だよ〉
 
 キラは息を思いっきり吐ききり、呆然となりながら爛瀬ー瓩慮気惶‖里鯑阿した。
 
 〈……それの何が手ごわいんだよ〉
 
 カガリの声だ。いつもより明らかに不機嫌そうな声色だが、何か嫌な事でもあったのだろうか?
 
 〈見誤らないってことさ〉
 
 しばらくの沈黙が流れる。敵の姿はもう見えないほど遠くに行っていた。
 
 「ねえカガリ。フレイ……どうしたの……?」
 
 ようやく落ちつきを取り戻したキラが尋ねた。モニターの中のフレイは、今だうずくまったままである。
 
 〈……どうしたっていうか……、さ〉
 
 どこか逡巡するようにカガリが言う。彼女は優しい声色で続けた。
 
 〈――なあフレイ。……帰ろう、爛◆璽エンジェル瓩法みんな待ってるから〉
 
 フレイの頭が、少しだけ動いた。
 一体彼女達になにがあったのだろう? キラにはわからない。だが自分が踏み入れてはいけないような、そんな気はしたのだ。二人の少女だけの、とても大切な奥底の問題……。
 空はもう黄昏に染まっている。雲ひとつ無い赤い空が美しい。
 ふと見ると、先ほどの点――爛◆璽エンジェル瓩近づきつつあった。甲板の上には狙撃の体勢のままこちらを見ている爛妊絅┘覘瓩了僂ある。右手には九四ミリ高エネルギーロングレンジ・ビームライフルが持たれ、左腕には、ユニコーンのエンブレムが施されたシールドが固定されている。
そこから少し離れて爛丱好拭辞瓩版鬚き爛蹈鵐哀瀬ー瓩佇んでいる。
 
 〈……爛◆璽エンジェル瓩泙罵茲燭里〉
 
 カガリが呆れたような声に、トールが答えた。
 
 〈目的地が変わったんだってさ〉
 〈変わったって?〉
 〈ああ、スエズ基地って所に行くみたいだぜ〉
 
 彼女達が出撃した後、スエズ基地から通信が入り目的地がアラスカから変更になったのだ。そしてフレイ達が戦闘に入ったという報告が入り、爛◆璽エンジェル瓩らキラ達に出撃命令が下った。
 みな無事だったのはとても嬉しい。しかし……。
 
 「……フレイ……」
 
 かける言葉が見つからない。泣いている少女に――ましてや普段の彼女に声をかけることすらできないキラに、今の状態のフレイを慰めてあげらえる言葉など浮かびはしないだ。
 
 〈……うん〉
 
 フレイが小さく頷いた。ひざを抱えていた腕を操縦桿に戻し、彼女は前を見る。涙で濡れた頬が、キラにはとても可愛らしく見えた。
 
 〈フレイ、遅れてすまない。……無事でよかった〉
 
 一瞬自分がうっかり喋ってしまったかと思いぎょっとしたが、これはアムロの声だ。彼の声は優しい。
 
 〈カガリ、良く彼女を助けてくれたね、ありがとう〉
 〈えっ? あ、ああ、うん。わかった……〉
 
 やけに驚いているカガリが、可笑しかった。いったいアムロにどんなイメージを持っていたのだか。
 キラはぎこちない仕草で戻っていく爛瀬ー瓩剖遒唄鵑蝓⊆蠅魄いてやった。そのままゆっくりと甲板の上に降り立つと、モニターの中のフレイと目があった。キラは自分の鼓動が高くなっていくのを感じた。何か言わなければならないという気持ちと、それを恐れる気持ちが入り交ざっていく。
 
 〈……ありがと、キラ〉
 
 涙に頬を濡らした少女が軽く微笑んだ。キラは反射的に拳を握りしめ、勇気を振り絞った。
 
 「フレイ。その……無事で良かった。君が、無事で……」
 
 今のキラには、これが精一杯だった。それでも、これは大きな前進だという自覚があった。声をかけることもできなかった自分が、たった一言でも、思ったことを言えたことが嬉しい。
 
 〈うん、大丈夫……大丈夫だから〉
 
 フレイが少しうつむいて、胸の前で『お守り』を握りしめている。キラは彼女を抱きしめたい衝動に駆られたが、そこまでの勇気はないし……サイに申し訳なかった。
 爛妊絅┘覘瓩一歩前へ出た。アムロの透き通る声色が通信越しに響いてくる。
 
 〈トール、良い動きだった。今の感じを忘れるな。自分にできることをやるんだ〉
 
 〈へへ、了解でっす〉
 
 トールは嬉しそうだ。ムウにたっぷりと絞られた成果が出たのだろう。キラから見ても上手い戦い方だと思う。モニターの中のアムロが、キラの方を向いた。
 
 〈キラ、彼女の為に必死になってくれるのは嬉しい。だけど、周囲の状況に目を向けるんだ〉
 「周囲……ですか?」
 
 確かに……伏兵に気がつくことができなかったのは失態だった……。しかし、アムロの言葉はキラが想定していたものとは違うものだった。彼が視線を軽く落とし、口を開く。
 
 〈僕達は一人で戦っているわけじゃないはずだ。フラガ少佐も、トールも、カガリもいた。君だけが無理をする必要は無い〉
 
 キラははっとしてアムロを見やった。彼の視線は優しいが、どことなく心配気な雰囲気も感じることができた。
 
 「……はい。フレイが泣いてて……その……訳がわからなくなっちゃって……」
 
 しどろもどろに言いながらも、キラは爛瀬ー瓩悗猟命をオフにすることも忘れなかった。流石にこれを彼女の前で言うのは恥ずかしい。
 
 〈ン、わかっているならそれでいい。君の感じた怒りを爆発させずにできるようにすれば、もっと多くの人を救えるようになると思う〉
 「……はい」
 〈おいおい、俺の心配は無しかよ?〉
 
 ムウが茶化すように言った。甲板の上にいた白い爛蹈鵐哀瀬ー瓩こちらに向かって軽く手を上げる、お疲れ様と言っているのだろう。キラは嬉しくなって笑みをこぼした。
 
 〈少佐の心配は最初からしていないと言ったはずだろ?〉
 〈労いの言葉くらいかけてくれよ、隊長殿っ〉
 
 くだらない会話をする爛妊絅┘覘瓩慮緤では、パイロットの所為か機体まで不機嫌そうな雰囲気を出している爛丱好拭辞瓩立っている。
 
 〈ン、ご苦労だった。適当に戻って、適当に休んでてくれ〉
 〈てんめえ!〉
 
 ムウが笑い混じりの声を上げた。キラは彼らの会話に耳を傾けつつ、爛丱好拭辞瓩剖瓩鼎い拭
 
 「どしたの?」
 〈……何がだ〉
 
 いつもよりも更に不機嫌そうな声が、通信回線から聞こえてくる。
 キラの問いに、ジャンが答えた。
 
 〈バスターでも照準が付けれない距離から爛妊絅┘覘瓩狙撃して見せたのが気に食わないそうだ。年頃の少年は難しいな〉
 
 呆れ声の彼に、カナードが思いっきり嫌な顔をしてから通信を強引に切ってしまった。相変わらず意地っ張りな親友だ。
 だが、キラはそれにちょっとした憧れを抱いているのも事実だ。さっきだってフレイに一言声をかけるだけで精一杯だったのだ。もしも自分がカナードのように強い心を持っていたら、あの時大好きなフレイにしっかりとした声をかけてあげることができたのだろうか……。
 キラは、カナードのようになりたかった。彼のように強い心と、力を持ちたい。
 だがキラは知らない。自分を見るカナードの瞳に込められた、本当の意味を――
 星が出始めた空の下爛◆璽エンジェル瓩忘討喨寝困訪れた。少年達を乗せたこの艦に、これからどんな困難が待ち受けているのだろうか。その先に待つものは誰も知らない。それでも、戦い続けなければならないのだ。願わくば、誰一人として欠けることの無いことを――。
 夜の帳《とばり》が、訪れた。
 
 
 
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