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CCA-Seed_◆ygwcelWgUJa8氏_19

Last-modified: 2015-06-28 (日) 02:29:19

 「はっはっは! 腐っておるなあ少年!」
 
 あの時、下品なでかい足音で独房に入ってきた男はそう言った。
 
 「単刀直入に言おう、今から貴公にはある特殊部隊の人集めをしてもらうことになった」
 
 うずくまっていた少年がぴくりと動き、小さくつぶやいた。
 
 「……失敗作のオレに、価値など無い」
 
  それが彼の見出した答えであった。失敗作はどこまで行っても失敗作。例え成功作を超えたとしても、失敗作のままなのだ。もはや生きている意味すら――
 
 「興味の無いことだ。私が重要視しているのは、君の生きてきた上で得ることのできた技能と経験! 爛后璽僉璽魁璽妊ネイター瓩任△襪どうかなど、もはやどうでも良い!」
 
 少年の心臓が、どくんと高鳴った。この男、どこでそれを……!
 
 「――貴様……!」
 
 目の前に立つ初老の男は、にかっと口元をゆがめた。
 
 「もっと知っておるぞ。施設での名は『ベリアル』、そして特務部隊αのコードネーム『ヘイト』……」
 
 ベリアル、ヘイト――カナードにとってはどれも懐かしい名前であり、忌むべき名でもあった。前者の方は、カナードが最初の孤児院から売り飛ばされて住まわされることになった、エルサレムという名の、いわゆる『殺し屋養成施設』だ。
世界中の赤子や幼子を集め、優れたエージェントを作る――反吐が出るような腐った場所。二つ目の名は、そのエルサレムが『非人道的な施設を告発』という名目の下に消された後、ユーラシア連合所属の兵士として名付けられたコードネームである。
カナードがヘイトであった時期が、最も過酷な日々であったかもしれない。アフガニスタンで地雷を踏んだ仲間の肉片を浴びたのもこの時だ。ちょっとしたミスの所為で SAS相手に必死に逃げたのもこの時だ。――メリオルと出会ったのも……。
 
 「もう一度言う、君の力が欲しい!」
 
 ――オレの、力……。
 
 「……また来る。いい返事を期待しているぞ」
 
 言いたいことを言い終えたのか、さっときびすを返し男は来た道を戻っていった。少し遅れて、小太りで口ひげの男がやれやれと続く。
 独房の扉は、再び閉ざされた。
 三日ほどたっただろうか、艦全体が騒がしくなってきたのを感じ、カナードは目を覚ました。腹の減り具合から見て、午前五時といったところか。そんなことを考えていると。先日と同じように荒々しく男がやってきて、告げた。
 
 「爛◆璽エンジェル瓩敵部隊と交戦に入るそうだ。敵は爛譽札奪廛広瓠E陲泙譴殖任了僂盂稜Г靴討い襦2罅垢榔膩海帽圓ことになった」
 
 爛◆璽エンジェル瓠帖弔燭辰唇貊鬼屬曚描阿了なのに、酷く懐かしいように感じるのは何故だろう。キラ・ヤマトは、戦えないだろう。
 
まだ傷は治っていないはずだ。フレイは詰めが甘すぎるし、カガリは問題外、トールは経験さえ積めば悪くないだろうが、今の状況では難しい。爛◆璽エンジェル瓩鷲蕕韻襦事実上の戦力は、アムロ、ムウ、ジャンの三人なのだから。
 そう思うととたんに胸が締め付けられるような錯覚に陥った。何故だ? あんな連中どうなろうと知ったことでは無いはずだ。オレにとって目標はキラ・ヤマトただ一人、他の連中など道端に落ちる小石のようなものだったはずだ。なのに……。
 
 「……では、行ってくる」
 
 そういうと、ハルバートンはさっときびすを返し戻っていく。
 
 「――ま、待て!」
 
 カナードは慌てて声を上げた。
 
 「何かね? 少年」
 
 ……わからない。でも――
 
 「……オレが、行ってやっても、良い、ぞ……」
 
 仕方ないさ。これは借りを返しに行くだけだ。飯はネズミの肉やレーションやと比べれば、不味くなかったし、そうさ、借りだ。
 ハルバートンはそのまま振り向きもせず、そっけない態度で言い放つ。
 
 「いらんよ」
 「――っ!? な、に?」
 「君の力はいらんと言ったのだ。戦力はある」
 「ふざけるな! オレが行ってやったって良いと――オレが……!」
 
 カナードはたまらず激昂し、体を思い切り起こそうとしたが、拘束具がそれを阻害し、情けなく倒れてしまっただけだった。
 
 「私には『仕方なく行ってやる』というようにしか聞こえんな?」
 
 そんなこと……ない。まだ立ち止まりたくなんて、無い! 違うんだ、オレは――
 
 「……オレは、戦いたい。戦いたいんだ!」
 「ならば貴様を宇宙《そら》に送っても良いのだな!」
 「何っ!?」
 「レバノンの紛争に送ったとしても、南米地帯に送ったとしても満足か!」
 「違う! オレは――」
 「戦いたいのならどこだってできると私は言っているのだ!」
 
 違う! 違う! オレは……オレは……!
 
 
 
 
PHASE-19 神話の王
 
 
 
 
 「ふふ、そんなことがあったの」
 
 スエズ基地格納庫で修理を受ける爛◆璽エンジェル瓩虜鄒鐚爾如▲泪螢紂爾篭貍个靴拭いかにもハルバートンらしい強引さと物言いがおかしくてたまらないのだ。
 
 「ま、三ヶ月は減給だがな」
 
 と自嘲するカナードに、ナタルが当たり前だと口を挟んだ。
 
 「本来ならば銃殺のところをそれだけで済ませていただいたというのに、何だその態度は!」
 「反省はしている、もうしない」
 
 そして、ハルバートンが持ってきてくれたものは、補給物資だけではなかった。彼が言うには、アークエンジェル級戦艦を主軸とした特殊部隊が設立されつつあり、その人材は世界各地から選りすぐりの精鋭が集められることになっている。その選抜を行う監察官のうちの一人が、カナードなのだそうだ。
子供のような笑みで、『心配するな、あらゆることを揉み消そう!』と言い放ったハルバートンの顔とそれに絶句したナタルの顔は今でも忘れられない。……絶句したのはマリューも同じであったが。
 ハルバートン直属のカナード・パルス監察官、という肩書きには流石のナタルも黙るより他ならず、むっつりと押し黙った。
 
 「ま、良いさ。オレはまだやることがあるんでな、もう行くぞ」
 「あっ、ちょっと待ってくれるかしら」
 
 機嫌よく作戦室を後にしようとするカナードの背中を、マリューは引きとめた。
 
 「……? どうした」
 
 いぶかしげに振り向き、カナードは立ち止まった。……これはケジメだ。大人として、人として。マリューはそう自分に言い聞かせるようにし、カナードの前にまで足を進める。
 
 「用があるなら早――」
 
 ぴしゃり、と音を立て、マリューはカナードの頬を平手打ちした。驚いて固まるナタルを尻目に、マリューはつづけた。
 
 「どのような事情があろうと、実の弟を手にかけようとすることは許しません」
 
 あれほど慕っていたというのに、彼はそれを銃弾で返したのだ。許せることではなかった。しかし――
 マリューはそのまま動かないカナードの頬を優しくなで、ゆっくりと抱き寄せる。流石にこれには驚いたのか、カナードは「お、おい」と軽く抵抗をしたが、無理やり顔を胸にうずめてやった。
 
 「あんなことは、もうしないで。私にとっては、貴方も、キラ君も、同じくらい大切な子たちだから」
 
 これが偽らざる本心。あの時の戦闘は、良くも悪くもマリューの中にあった殻を一つ突き破るきっかけをくれたのだ。――技術仕官でしかない私が、艦長などできるわけがない。以前はずっとそう考えていた。
ナタルが何かを言うたびに、またか、またかと幾度と無く自分を責め続け、己の情けなさに泣き出してしまいそうになるときもあった。アムロは良くやっていると言ってくれた。
ムウは頑張ってるさと言ってくれた。だがそれが何だというのだ。良くやっていても、頑張っていても、誰かが死んだらそこまでなのだから。私は艦長になれない、いやそれどころか軍人さえも失格だ。――そう、思っていた。いや、今でも思っているかもしれない。
 
 でもあの時、ノイマンは私の指示に従ってくれた。チャンドラは私のような情けない采配を、心地いいと言ってくれた。……何も無理をして艦長をやる必要などなかったのだ。
もともと寄せ集めの部隊。たまたまそこにアムロやムウといった超エース級のパイロットがいたせいで誤解してしまっていたが、どれもこれも素人に毛が生えた程度のものでしかなかったのだ。
私に艦長はできない、なら何ならできる?……何も特別なことをする必要は無い。マリュー・ラミアスはマリュー・ラミアスでしかないのだから。今思えば、マリューはある意味で、誰も信用をしていなかったのかもしれない。
信頼とは難しいものであり、キラたちを守りたいと思う気持ちは親心であり、善意であり、責任感であり、彼らの決意への裏切りである。マリューは命の重さを、マリューの価値観で差をつけてしまっていた。それが人の情であり、尊いものであることは確かだろう。
しかし、それ故にとも言うべきか、その感情が艦長としての判断を鈍らせる。乗組員全ての命を背負っているのだということを、忘れさせる。アムロやムウなら大丈夫だろうと信頼し、キラやフレイでは危険かもしれないと苦慮し、それは即ちキラたちの事を、己の親心というフィルターを通して見ることで、誤ったということである。
子供を戦わせてしまっているという事実が、マリューの善の心を大きく?き立てるが、彼女の問題は、その感情を引きずり続けていたことにある。キラも、フレイも、トールも、皆個人差はありながらも現実に目をむけ、戦い続けている。
マリューもまた、彼らを信じ、前を向く必要があったのだ。もっとナタルを頼り、ノイマンの、チャンドラの、パルの、トノムラの、メリオルらの意見を尊重し、彼らに教えを請うべきだったのだとようやく思い立った。
技術士官の私が、キャプテンシートに座ればそれで艦長をできる? 馬鹿げている。できるわけが無い。ではどうする?
 自分にできることを、するしか無いのだ。そして幸運なことに、ナタルは優秀な指揮官としての素質を持ち、ノイマンらの技術も目を見張るものがある。何もできない自分を肯定してから、ようやくその先にいけるのだ。
 
 「も、もう……わかった……」
 
 流石に照れたのか、顔を赤くしてカナードが言った。何だ、この子だってこんなに可愛らしいところがあるんじゃないか。
 
 「悩み事があったら、いつでもいらっしゃい。きっと力になるから」
 
 彼はこちらの目を見ることすらできず、短くうっと言葉を詰まらせてから、「ん、そ、そうする」と言ってそそくさと部屋を後にした。彼の出て行った扉を一瞥してから、マリューは内心ほっと胸を撫で下ろした。
一時はどうなることかと思ったこの問題も、どうやら良い方向に解決しそうだ。ハルバートンには感謝をしてもしきれないだろう。それにしても……まさか彼が監察官とは、思い切ったことをしたものだ。
 
 「艦長は彼らを甘やかしすぎです」
 
 ナタルもまた、いつも調子に戻り――何故か頬を赤く染めていたが――口元をむっつりへの字に曲げマリューの非難を始める。
 しかし、彼女もまた、少しずつ変わってきているのだ。自分でも気づいていないのかもしれないが……。いや、隠しているつもり、と言ったほうがこの場合は適切なのかもしれない。人の少ない時間を見計らって、フレイたちと食事を取るだなんて、可愛いところがあるではないか。
それを知らないものなどいないというのに、上手く隠せてると思っているところなんて特に。
 悔しそうに視線を逸らしたナタルも、ずかずかと乱暴に作戦室を出て行く。無事アラスカに着くことができたら、この艦は彼女に任せよう。私はただの技術士官に戻ろう。
 それは、決して責任の放棄ではない。仲間達を、真の意味で信じることができた――それだけのことである。
 
 
 〈おっそーい!〉
 
 切り立った岩肌から、ギンギンと輝く太陽を背に、青いモビルスーツがスラスターを吹かせ一気に駆け下りる。予想だにしない事態に慌てふためく爛好肇薀ぅダガー瓩離灰ピットを、コンピューターが画面に描写したビームが撃ちぬき、怯んだもう一機をビームサーベルで切り捨てる。
最後に残った爛好肇薀ぅダガー瓩ビームサーベルを抜き、斬りかかろうとしたところで、爛好イグラスパー瓩ら放たれたビームに頭上から貫かれてしまった。
 
 〈どうだっ!〉
 
 自慢げに胸を張るカガリだったが、
 
 〈わたしは二機落としたけどねー〉
 
 と皮肉るのも忘れないフレイである。
 そこから少しばかり離れたバギーの助手席で、キラは彼女たちの模擬戦を、流石だなと思いながら眺めていた。先日の戦闘以来、彼女は更に腕を上げた。いや、彼女だけではない、カガリも、トールも、みんなどんどん強くなっていく。
なんだか自分一人だけ置いてきぼりをくらいそうに思い、溜息をつきたくなったが、まだまだ傷は感知しておらず、左腕にも包帯が巻かれているような状態ではシミュレーションもできない。
先の戦闘で負ったキラの傷は宇宙《そら》で負った傷に加え、新たに左肩から抉るように斜めにつき、合わせるとちょうど胸にX字のようになっている。あ、これちょっとカッコイイんじゃない? などと思ってしまい、自分の思考の馬鹿さ加減に自己嫌悪に陥ったのは誰にも言ってない、言えるわけが無い。
 
 〈てっめえ邪魔だぞ!〉
 
 突然無線から漏れてきた怒鳴り声に、キラははっとした。この声は……オルガ・サブナック少尉だ。カナードが戻ってきたその日に殴り合いの喧嘩をして、互い独房に入れられた時はもうどうしようかと思った。
 
 〈貴様が前へ出すぎているだけだ、サブナック!〉
 
 そう怒鳴り返したのは、カナードだ。どうやらオルガの駆る爛丱好拭辞瓩亮仞軸上にカナードの爛好肇薀ぅE瓩入ってしまったのが原因のようだが、爛丱好拭辞瓩里い覦銘屬賄初の位置よりもかなりずれてしまっている。
 
 〈……ちっ、ベリアルのくせに〉
 
 〈そのベリアルに使われる気分はどうだ? サブナックの分際で〉
 〈うるせえ!〉
 
 独房から出てきて以来、どういうわけか、ほんの少しだが二人の距離は縮まったようだ。カナードは同じ釜の飯を食べた仲だと言っていたが良くわからなかった。……まあ、少し前までのオルガなら何も言わずに後ろから撃っていたかもしれないので、これも進歩なのだろう。
そう思うことにした。ベリアルって何だろうと思ったがどうせ教えてくれそうも無いのでそれも捨て置くことにした。
 
 〈おい、来てるぞ!〉
 
 痴話喧嘩の隙にとやってきた二機の爛好肇薀ぅダガー瓩傍い鼎、上空からトールが慌てて急降下し、ビームを連射する。
 
 〈うるせえ、わかってんだよんなことは!〉
 〈ならさっさと撃てサブナック〉
 〈うーるせえ! てめえごと撃つぞ!〉
 〈ふん、やってみろ。このオレが貴様の撃つ弾に当たるとでも思うのか?〉
 〈てめえ!〉
 〈だから来てるってのお!〉
 
 余裕たっぷりの――というか背まで向けていた爛好肇薀ぅE瓩ばっと振り返り、目前まで迫っていた爛好肇薀ぅダガー瓩鬟咫璽爛機璽戰襪覇溝里鯲消任掘△修里泙淇兇蠅未勢いに任せ左方に飛ぶ。すぐさま爛丱好拭辞瓩旅皀┘優襯ー収束火線ライフルが残った爛好肇薀ぅダガー瓩魴發舛未い拭
 
 〈お、おお……〉
 
 トールが思わず感嘆の声を漏らした。
 
 〈へっ、わかってるっつったろ?〉
 
 オルガも得意げだ。
 バギーの運転席で、チェックボードとにらめっこしていたアムロがふっと息をつく。
 
 「終わったようだね」
 「はい。みんな凄いですね……フレイはもう爛瀬ー瓩鮠茲蠅海覆靴董
 
 アムロは一瞬苦しい表情をし、ああ、と短く答えてから無線機を手に取った。
 
 「ン、皆ご苦労だった。午前中はここまでにしよう」
 
 時計はもう午後十二時を回っていた。
 爛◆璽エンジェル瓩粒頁叱砲帽澆衫ったフレイたちを見つけ、キラは思わず顔をほころばせた。
 
 「みんな、お疲れ様」
 「怪我人のくせにー」
 
 フレイの苦笑に、キラも苦笑で返した。タオルと冷えたスポーツドリンクを手渡し、彼女のありがとっ、という言葉を聞いてから、遅れてやってきたカガリにも同じようにタオルを渡してやる。
 
 「お前休んでろよー」
 「じっとしてられないんだ」
 「良いんだよ、怪我してんだろお」
 
 そう言いながらぐびぐびとドリンクを男らしく飲むカガリを見て、本当に美味しそうに食べたり呑んだりするんだなと思いおかしくなってしまった。一度、フレイの引き締まった腰つきに目をやってしまい、思い浮かんだいくつかの卑猥な妄想を否定するように慌てて首を振る。自分の機体から降りて来たカナードたちに視線を向ける。
 
 「よう、キラ」
 「やあトール」
 
 ドリンクとタオルを軽く放ると、トールはぱしっとキャッチした。
 
 「見てたろー? こいつらまた喧嘩してさーっ」
 
 半ば呆れ気味に、彼はカナードとオルガを視線で指す。
 
 「オレは上官として適切な指示を下しただけだ。なあ、サブナック少尉?」
 
 受け取ったタオルで汗を拭いながら、彼は皮肉をたっぷりと込めて言った。
 
 「覚えてろよ糞ったれ……」
 
 盛大に舌打ちをして、オルガはキラからドリンクをぶんどり、一気に口元に運んだ。
 少し遅れてアムロがやって来るのを見て、皆が視線をやる。彼は先ほどまで持っていたチェックボードを睨みながら、「ン、全員いるな」と告げる。皆がさっと姿勢を正した。これから始まるのは、俗に言う反省会だ。今頃爛好肇薀ぅダガー畭發凌佑燭舛癲△海辰討蠅般を絞られているころだろう。
 
 「――ユラ准尉」
 
 アムロが言うと、カガリはぎくっと身を振るわせた。この数日で、カガリとトールはモビルスーツパイロットの補欠ということになり、一応の昇進を果たしたのだ。まあ、肝心のモビルスーツが足りてないので結局は爛好イグラスパー瓩望茲辰討い襪里世。
 
 「敵機の撃墜を確認したら即索敵だと、何度も言っているはずだ」
 
 う、と縮こまるカガリ。そのままごにょごにょと言葉にならない言い訳をつぶやくが、やがて観念したのか、ちぇっと言ってから向き直った。
 
 「……わかったよ、悪かったよ」
 「それが即、死に繋がるかもしれないということを頭に入れておいてくれ。――アルスター少尉」
 
 フレイがはいっ、と元気良く答えた。いつでもそうだ、アムロの前では元気で素直な女の子。たぶん、お父さんの前でもそうだったのかなと思うと悲しい気持ちでいっぱいになる。ぼくは――いや、ぼくたちは、守れなかったのだから。彼女の、父親だけに向けられたこの笑顔を。
 
 「左肩に被弾したようだね」
 「エドモンドさんです。二機目の爛好肇薀ぅダガー瓩鮃況發垢觸峇屬砲笋蕕譴泙靴拭
 
 エドモンド・デュクロ……『伝説の鬼車長』の名は伊達ではないということか。
 
 「彼のプレッシャーを感じたかい?」
 「はいっ。刺すような感覚でしたけど、爛瀬ー瓩守ってくれました」
 「良い感じ方だ。だがあのマシンでなければ撃墜されていたということも、一応言っておく」
 
 フレイはもう一度「はいっ」と元気良く答えてから、機嫌よくカガリの隣で小さくちょっかいを出し始めた。プレッシャーだの何だの、キラには全然わからない世界の話だったが、もはや慣れっこだ。
アムロだけならともかく、良く喋るフレイにムウまでもが日常会話で使うのだから。半ば呆れながらも、ほんの少しプレッシャーという言葉を使ってみたい気もするのがキラであるのだが。
 既に寛ぎムードに入ったフレイとカガリを端目で捉えつつ、キラは、アムロが自分と同様に彼女たちを一瞥したことに気づく。一瞬怒られるのかな、と思ったが、アムロは無視して視線をボードに戻した。
 
 「ケーニヒ准尉」
 「は、はいっ!」
 
 来たかと言わんばかりに飛び出し、トールは声を裏返してしまったが、彼のそんな恥ずかしい失敗も、モビルスーツの点検作業にかかっているマードックたちの声や機材の音にかき消された。それでも、フレイ経由でミリアリアに伝えられ、後でからかわれることは目に見えているのだが。アムロがふっと苦笑した。
 
 「そう力まなくて良い。良くやれているよ、君は強くなる」
 
 トールは心のそこから嬉しそうな顔をして、小さくガッツポーズを作った。なんだかキラまで嬉しくなり、自然に笑みを浮かべた。
 
 「パルス中尉、サブナック少尉」
 
 やれやれとアムロが言い、二人は視線を向けた。
 
 「実戦であれをやられると困る、ということは肝に銘じておいてくれ」
 「あれはこいつがっ!」
 
 と、オルガがカナードを指差したが、当の本人はどこ吹く風かと平然としている。それが余計に気に食わないのか、尚も食って掛かろうとするも、その前にカナードが、やれやれと首を振った。
 
 「オレはプロだ、そんなヘマはしない。一応、こいつもな。そうだろうサブナック?」
 「……ちっ。うっせえよ」
 
 悔しそうに顔を逸らし、オルガは小さく鼻を鳴らした。ほんと、この二人にいったいどんな関係があるのやら。おかしな連帯感があるような気がしてならない。同じ釜の飯っていったいなんなんだろう。
 
 「ン、報告書の作成が終わった者から休憩に入ってくれ」
 
 アムロが短く告げると、皆はいっせいに敬礼をした。キラは早くその輪の中に入りたい衝動に駆られたが、それにはいち早く怪我を治すことが大事だと考え、その衝動を必死に抑えた。
 
 アムロがいなくなると、まずフレイが緊張を思い切り解きはなった。
 
 「あー疲れたー。報告書カガリやっといてよ」
 「はあ!? 何でだよ」
 「わたし疲れたの」
 「んなもん知るかー!」
 
 ……アムロがいなくなった途端にこれである。
 
 「自分でやれ、自分で」
 
 と言ったのはカナードだ。フレイを見向きもせず、せっせと自分のボードに張られた報告書を書き上げていく。
 
 「何よ、良い子ぶって」
 「心配して言ってやってるんだ」
 「……し、心配?」
 
 ぽっと顔を赤らめ、フレイが言った。
 
 「自分で感じたことや、不都合なことはキッチリと伝えておく必要があるだろう? オレたちはこれに命を預けるんだからな」
 「う、うん」
 「わかったなら、書け」
 「ん、わかた」
 
 ………………。
 と、とにかく、カナードが戻ってきてくれて良かった。トールたちも、お前がそういうならそれで良いと言ってくれたし、後はオーブに戻って母さ……いや、義母と、義父に、会うだけだ。既に、カナードが自分のクローンであるということは受け入れることができた。
それでも良い、間違いなく血が繋がった、自分よりも先に生まれた兄なのだから。自分が爛后璽僉璽魁璽妊ネイター瓩任△襪海箸癲⊆け入れよう。いや、これは正直いい気味ではあるのだ。
ユーレン・ヒビキが作り上げた最高傑作は、ナチュラルのアムロ・レイに手も足も出ず、それどころかキラよりも後にモビルスーツに乗ったフレイにだって勝てるか怪しくなってきてるのだから。ざまあみろと言いたくもなる。お前のそれは、失敗だったと。
だが――義理の父と母が自分へ向けてくれた愛情は、本物だと思いたかった。義母は知っているのだろうか? カナードの事を、多くの兄弟たちのことを。ぼくのことをどういう目で見ていたんだろうか。ただの爛后璽僉璽魁璽妊ネイター瓠 唯一の成功例? それとも――。
 ぼくは、家に帰るのが怖い。
 
 「おい、帰るぞ」
 
 思考にふけっていたところを突然カナードに声をかけられ、キラはぎくっと身を震わした。
 
 「考えごとか?」
 「い、いや、ちょっとね」
 「ふん?」
 
 「なんでも無いよ。早く行かないと席無くなっちゃう」
 
 カナードが「なら良いが」とつぶやき、キラたちは格納庫を後にした。さあ、昼食だ!
 キラたちが食堂に入ると、サイとカズイがいつもの位置――入って左奥――に座っており、軽く手を振ってくれた。既にフレイはカガリとミリアリアを連れていつもの位置――入り口から入って右奥――に陣取っている。楽しく談笑をしている彼女の横顔に見とれていると、カナードはそそくさと券売機で食券を買い、ぶっきらぼうにカウンターに置いた。
 
 「カツカレーとプリンだ、さっさとしろ」
 「まあっ、『さっさとしろ』だなどと言うものではありませんわ!」
 
 食券をさっと受け取りながらラクスが憤慨した。
 
 「それは街の不良さんがおっしゃる台詞ですっ」
 「オレが知るか、そんなもの」
 
 ラクスはもう一度まあっと声を上げてから、てきぱきとお皿にライスを盛り付けていく。すると――。
 
 「おい糞アマ、日替わりだ」
 「く、くっ――!?」
 
 着任早々口が悪いパイロットナンバーワンの称号を圧倒的多数の票で勝ち得たオルガである。ちなみにナンバーツーはカナード、僅差でスリーとなったのはフレイだ。ちなみに今日の日替わり定職はホタテのグラタンにフランスパンとコーンスープのセットだ。
 
 「そ、その言葉遣いを正さない限り日替わり定食を食べる権利など、あ、あ、あ、貴方にはございません!」
 
 俗に言うマジギレである。
 
 「あ? 知るかよ、ぶっ殺すぞ」
 「おい、そんなことよりオレのカツカレーを――」
 
 ラクスは更に顔を真っ赤にして声を荒げた。
 
 「お黙りなさい! オルガ様、オルガ・サブナック様!」
 「……んだよ」
 「おい、カレーを早くしろ、盛るだけだ」
 「お聞きなさいオルガ様! 貴方が日ごろ読むハリー・ポッターのハリー様はそのような言葉遣いをなさいますか!? なさいません!」
 
 ハリー・ポッターという極聞きなれた言葉に、皆がいっせいに振り向いた。――ハリー・ポッター。それはかつて、まだ大西洋連邦が生まれるよりもずっと前、爛ぅリス瓩箸い国のある作家が書いたファンタジー小説だ。
魔法使いの少年ハリーの、魔法学園での生活や、闇の魔法使いヴォルデモートとの戦いを描いた物語なのだが――何という意外な趣味だろう。フレイも、カガリも、厨房で忙しく玉ねぎを切っていたムラタまでもが振り返り、ぎくっと表情を変えたオルガを見つめている。
 
 「て、てめ……それをどこで――」
 
 「貴方の大好きなポケモンのサトシ様は、ピカチュウ様は、そのような言葉遣いをなさいますか!? なさいません!」
 ――ポケモン、これも有名だ。例によって例のごとく、狷本瓩箸い国で生まれた世界的なゲームソフトである。ピカチュウというのは、それが発売されて以来、常にナンバーワンの人気を誇る電気ネズミの可愛いポケモンだ。ちなみに今年の夏は爛ーブ瓩任眇靴靴け撚茲眈絮任気譴襪海箸砲覆辰討い襦
 オルガはラクス以上に顔を赤くして怒鳴り散らした。
 
 「ピカチュウは人の言葉を喋らないだろう!?」
 「おい、カツカレーだ」
 「あれは声優さんが言っている言葉です!」
 「そういう意味じゃねえ!」
 
 ……オルガはいったいどんな本を読んでいるのだろう。ラクスの隣にまでやってきたムラタ料理長が、「はい、日替わり定職だよ」とカウンターに置いた。オルガが「お、おう」とそれを受け取ると、ラクスは心外したように驚きの色を顔に浮かべた。
 
 「ム、ムラタ様――!? 貴方ともあろう方が、このような暴挙に屈するのですか!?」
 
 ムラタがまあまあとラクスを窘めてる間に、キラはさっと自分の食券をカウンターに出す。今日は……エビフライとロールキャベツにスライスしたトマト、大盛りご飯と味噌汁が嬉しいAセットだ、君に決めた。
 キラの背後から、「ぴっか〜」というフレイの声が聞こえ、キラは振り返る。ちなみに、ポケモンのピカチュウは「ぴかー」だとか、「ぴっかっちゅう」とかいう鳴き声なのだ。オルガが日替わり定職のフランスパンを握りつぶしそうになり、まあまあとサイになだめられている。
その姿を確認したフレイやカガリたちがくすくすと笑いだしたのをみて、流石に同情した。他人の趣味をとやかく言うのは良くない、非常に良くない。でもフレイの笑顔は可愛いからいいや、と思ってしまうのがキラである。
 そんなことを考えていると、待ちに待ったAセットを、ラクスがわずかに不機嫌な様子で持ってきて、カウンターに置いた。キラはありがと、と言ってからサイたちの待ちテーブルへと向かう。
 
 「おい、オレのは……」
 
 厨房には、ライスが盛られただけのカツカレーが、ほくほくと湯気を上げていた。
 
 
 スエズ基地から戻ったジャンは、報告のためにと爛◆璽エンジェル甦篭兇妨かっていた。ハルバートンがやってきてから、アムロ、ムウ、ジャンの三人は休みなどは無く、やってきた新米パイロットたちの訓練にひたすら明け暮れた。
ムウとジャンは、スエズ守備隊の訓練を担当したのだが、これがまた大変であった。モビルスーツのモの字も知らないようなヒヨッコたちが、ナチュラル用のOSでやっとこさ動かすことができるようになり、さあ模擬戦だ――ということになったのだから。
基礎も知識も、何もかも足りていない。こんな状況にもなれば、慣れた爛◆璽エンジェル瓩離皀咼襯后璽賃發函▲魯襯弌璽肇鵑集めた爛僖錙辞瓩離皀咼襯后璽賃發侶盈を受け持ったアムロが羨ましくも思えてくる。
なんだかんだ言っても、あの子たちは優秀だったのだなと思い、深い溜息をついた。大の大人が子供に勝てぬとは、なんとも情けないことだ、と。
 ようやく艦橋までたどり着くと、クルーの少なさに眉をしかめたが、すぐにああと思い立ち表情を戻した。
 
 「ご苦労様、キャリー中尉」
 一番最初に労ってくれたのは、マリューだった。艦内のお袋さん、というのが似合いそうなふっくらした笑みが魅力的だと感じる。何よりも人間として好きになれるタイプなのだ。ちなみにハルバートンが来てから、ジャンは昇進して中尉となっている。
 
 「一応報告書をまとめました。爛好肇薀ぅダガー瓩寮能はまずまずと言ったところですが、いかんせんパイロットが未熟です」
 
 マリューは「それは仕方ないわ」と苦笑し、資料を受け取った。
 
 「彼らは食堂ですか?」
 
 いや、これは聞くまでも無かったか。
 
 「ええ、そろそろ戻るころじゃないかしら」
 
 これもマリューの計らいである。なるべく子供たちは、同じ時間に休憩に入り、友達同士で食事をしたり談話をしたり、いわゆる青春というものを楽しんで欲しいと考えているのだ。この考えを聞かされた時は、一介の指揮官としてどうかとも思ったのだが、ジャンの中にもそれは当然の処置だと思ってしまう自分もいるので、どうにもこうにも言えなくなってしまった。この艦は、子供がパイロットを務めているというだけでも、既に特異な場所なのだから。
 
 「あーあー、良いよなー子供は気楽で」
 
 チャンドラがずれたサングラスを直してから、ぐぐっと背筋を伸ばした。
 
 「ははっそういうもんだ」
 
 と返したのはノイマンである。
 同時に、ジャンは今のこの状況を、奇跡のようなものだと考えていた。爛悒螢ポリス”からの状況は聞かされている。よくもまあこうやっていれるものだ。いくつもの偶然が折り重なって、それが結果として良い方向へと繋がったのだろう。
 そして、それが果たしていつまで続くか……。
 一抹の不安が、ジャンの胸をよぎるのだった。
 
 
 「――ガルナハン基地へ?」
 
 スエズ基地の会議室で、マリューは首をかしげた。ようやく補給が完了し、さあアラスカへと思っていたのだが、何故わざわざそのような所に行かなければならないのだろうか。ハルバートンがゆったりと頷く。
 
 「うむ、スエズ再建のために多くの住民を強制的にこちらへと向かわせていてな、おかげで辛うじてスエズは基地として保てていたのだが、それも必要なくなったのだ」
 
 確かに――十数ものモビルスーツに、補充人員。これならば爛競侫鉢瓩砲眤亶海任るだろう。しかし、とマリューは思う。
 
 「閣下。強制的に、とおっしゃいましたか?」
 
 ……酷いことをする。そんな彼女の心情を察したのか、ハルバートンは困った顔になってこう告げた。
 
 「私の知らんところなのだ、勘弁してくれ」
 「――ですが!」
 「ええい、黙って聞け! まだ続きがある」
 
 マリューはぱちくりと目を瞬かせ、彼の言葉を待つ。
 
 「本土の方でな、志願兵が増えたおかげでそういうことをせんで済むようになってきているのだ。だから、ガルナハン基地への補給を届けるついでに現地の住民を爛◆璽エンジェル瓩覗り届ける」
 
 志願兵が……? それに、今、なんと? 爛◆璽エンジェル瓩如何を――? ハルバートンがそのままの表情で付け足した。
 
 「――という建前だ」
 「………………」
 
 ……また彼の悪い癖が始まった。
 まずどこから口を出せば良いのか、マリューはそこから考えた。ハルバートンはむっつりと何も言わない。彼女は一度やれやれと息を吐き、小さく挙手した。
 
 「何かね? ラミアス少佐」
 
 さも心外そうに言う彼の仕草が妙に小憎らしい。
 
 「二つほど、質問があります」
 「ん、構わん」
 「……まず第一に、志願兵の急増の件に関してなのですが――」
 「ああ、それか……。なあに、あのムルタ・アズラエルが上手くやっただけに過ぎんわ」
 
 忌々しそうに彼が言う。
 
 「上手く、とは?」
 「やつはフレイ・アルスターをジャンヌダルクに仕立てあげたのだよ」
 
 ムルタ・アズラエルの名は、マリューも聞いたことがあった。あの爛▲坤薀┘觝眞牒瓩慮譱盪覆砲靴涜膽蠏鎧産業の経営者であり、爛屮襦璽灰好皀広瓩量措腓任發△襦悗△痢戰▲坤薀┘襪澄H爐続ける。
 
 「ああ確かにそうだろうな、効率の良い売り方だよ。十五歳の、年端もいかないナチュラルの少女が、父親の仇討ちの為にモビルスーツに乗って戦うのだからな! それも自国の事務次官の娘なのだから、ああもなる! なまじジョージに人気があったおかげで、ここまで大事に持ち込むのがあの男なのだ!」
 
 またいつもの病気が始まった。マリューは彼がこれ以上熱くなる前に慌てて口を挟んだ。
 
 「わ、わかりました。ですが何故爛◆璽エンジェル瓩彼らを送り届けることになったのですか?」
 
 問われた彼は「うん?」と口を紡ぎ、すぐさまいたずらっ子のような笑みを浮かべた。
 
 「――もうすぐ夏だ」
 
 突然の言葉に、思わず「は?」と声を上げてしまった。
 
 「戦争中だというのに、たくましいものだよ」
 「……何が、でしょうか?」
 「祭りがあるのだ」
 「は、はぁ……」
 
 何がなんだかわからないマリューに、ハルバートンはにっと白い歯を見せて笑った。
 
 「ゆっくり楽しめ」
 
 
 低い駆動音を上げ、爛◆璽エンジェル瓩飛び立った。針路良好視界良し、天候快晴戦力充分。僚艦には爛僖錙辞瓠爛◆璽エンジェル瓩砲廊爛妊絅┘覘瓩豊爛好肇薀ぅ瓩二機。
爛丱好拭辞瓠↓爛瀬ー瓩豊爛蹈鵐哀瀬ー瓠9垢砲魯┘疋皀鵐瀕┐い訐鐚崑臑癲人間関係も良好であるはずなのに、この気分はなんなのだろう。
 マリューは未だにガルナハンへ行く真の目的を話せないでいた。果たして誰に言えようか? 最新鋭艦の二隻に連合の主力モビルスーツを満載して地元のお祭りに出かけようなどと、誰に言えようか……。
 そうこう考えていると、何時ものようにメリオルがふっとつぶやいた。
 
 「しかし……この時期にわざわざあのガルナハン基地へ、ですか……。上の人たちは何を考えているのでしょうね」
 
 流石のマリューも「お祭りに行きたいそうよ、ふふっ」などとは口が裂けても言えず、「え、ええ、そうね……」と無理やり笑顔を作って返した。というかこの子は本当にこういうことを平気で言うのだ。怖いもの知らずというかなんと言うか。
 
 「そう言うな中尉。ハルバートン提督の事だ、きっと何か考えがあるに違いない」
 
 と、ナタル。「ううん、そんなの無いわ、何も考えていないのよ」とは言えず、マリューはぎこちない笑みを浮かべるので精一杯だ。もちろんマリューだって、最初は自分たちのことを気遣ってくれているのだと思ったのだ。嬉々とした様子で、「もちろん私も行くぞ! わっはっは!」などと言うまでは、信じていたのだ……。
 
 「だと良いんですけどねえ」
 
 メリオルが飽きれながら返し、はっと何かを思い出したようにして表情を引き締めたが、マリューは気づかない。チャンドラが苦笑気味に顔だけを彼女に向かせた。
 
 「おいおい、言うじゃあないか。うちの上官なんだぜ?」
 「そういうのを笑って許してくれるのが提督なんですけどね」
 
 と、パル。
 
 「いやー、ハルバートン提督のことだからさ、裏の裏くらいまであるんじゃないか?」
 
 トノムラまでもが話しに乗ってきて興味深げに言った。
 裏の裏、か。はてさて、どこまで本当なのやら。
 
 「ま、結局は閣下自身に聞いてみないとわからないってことですかね」
 
 パイロットシートのノイマンが締めくくり、一同はうーんと考え込むようにしてシートにもたれかかった。
 
 「やれやれ、いったい何をお考えになっているのやら」
 
 チャンドラが茶化すように言う。すると――
 
 「――何がだ?」
 
 すぐ背後から聞きなれた声がかかり、皆がいっせいに振り向いた。マリューはその声に主に、心底絶句した。
 
 「ハ、ハルバートン提督!?」
 
 一瞬の沈黙の後、ノイマンが「おっと!」と慌てて操縦桿に向き直りオートパイロットを確認する。マリューが声を荒げた。
 
 「何をしておられるのですか、こんなところで!?」
 
 すかさずナタルが続き、
 
 「爛僖錙辞瓩呂匹Δ靴燭鵑任后?」
 
 と続く。メリオルは珍しく目をまん丸にして冷や汗を浮かべている。
 
 「ああ、ホフマンに任せておる」
 
 一同が声を失う中、悠然とした態度を崩さぬままハルバートンが続ける。
 
 「それよりも虫除けスプレーがどこにあるか知らんか? それと……帽子のようなものがあると助かるのだが」
 
 いったい何を言い出すのやら……。ナタルが呆然としながら、
 
 「あ……こ、これ……ですか?」
 
 と自分の軍帽を手に取った。するとハルバートンは苦い顔になり、んーと考え込む。
 
 「麦藁帽子が良いなあ」
 「そ、そうですか」
 「いや、良い。邪魔したな諸君」
 
 そう言って何事も無かったかの用に出て行くハルバートンの背を呆然と見つめながら、マリューは口を開けたまま目をぱちくりとさせ、ようやく気がついた。
 裏の裏は、ただの表だ、と。
 
 果てさて、どうしたものか。事を全て上手く運ばせるためには街の祭りの準備にも参加しなくてはならないというのに……麦藁帽子が無いとは。いや、これは持ってこなかった自分が悪いのでもあるが、今となっては仕方が無いことだ。
 ハルバートンが行く充ても無く爛◆璽エンジェル瓩猟模を彷徨っていると、何やら話し声が聞こえてきたのでそっと耳を澄ました。
 
 「あの、ありがとうございました。こんなことまでしてもらって……」
 「いや、良いさ。僕も久しぶりにできて楽しかったよ」
 
 この声は……。ふむ、と指を顎に当ててからハルバートンはさっと身を乗り出した。
 
 「よう、アムロ・レイとヤマト少年ではないかっ!」
 
 彼らはすっとこちらに視線を向け、まずアムロが軽く敬礼をし、やや遅れて慌ててキラが敬礼をする。なんだかその様子が酷くおかしく、ハルバートンは思い切り噴出した。
 
 「わっはっは! 良い、良い、そう身構えるな少年!」
 
 彼は気恥ずかしそうに顔を赤くしたが、ハルバートンは気にも留めずに問いただす。
 
 「面白いものを持っているな、コンピュータのチップに見えるが?」
 「ええ、ペットロボの、ですが」
 
 と、アムロがやれやれと言う。
 ペットロボ? 興味をそそる話題に、彼は思わず
 
 「ほうっ」
 
 と感嘆の声を漏らす。
 
 「後は微調整を済ますだけだ。サイたちとできるね」
 「はいっ。ありがとうございました!」
 
 アムロの淡々とした言葉に、キラは笑顔で返し、ハルバートンにもう一度敬礼をして小走りで去っていった。
 
 「肩入れしているようだな、大尉」
 
 危ういのではないか? とハルバートンは思ったが、あえてそこまでは口に出さなかった。
 
 「俺にできることは、これくらいですから」
 
 それは悲しいものの見方だ。だが、そう言った彼の瞳は深く静かな力強さを宿していることに気づき、その言葉を飲み込む。
 
 「あー、ところでだ大尉。麦わら帽子のようなものは、どこかに置いてないかね?」
 
 アムロは「は?」と聞き返したが、すぐさま真剣な顔になり、「危険なのでは?」と小声でつぶやいた。
 
 彼のその言葉に、ハルバートンはたまらなくなってしまった。今の一瞬で、こちらの『本当の目的』を読み取ったのではないか、という考えが頭に浮かんできたからだ。当然である、ただの祭りになど、行くはずがない。
 
 「できるとも。伊達に狠両瓩箸聾討个譴討らんのでな」
 「……だとしても、そういったものがあるとお思いですか?」
 「あるとも! 資材の発注にはラクス嬢も携わっておるのだからなっ」
 
 自信満々にそう告げると、アムロは片手で頭を抱え、
 
 「……ああ、そうでしたね」
 
 と力なくうな垂れた。彼はそのまま続ける。
 
 「モビルスーツデッキに空き部屋がいくつかあります。まだまだ物資が山積みになっているでしょうから、あるのならばその中に」
 「ん、すまんな」
 
 短く礼を言ってから、ハルバートンはモビルスーツデッキを目指した。目的の場所はすぐに見つかった。何せ自分の乗る爛供Ε僖錙辞瓩汎鰻心呂覆里澄L造Δ呂困ない。モビルスーツの整備をしているマードックたちを尻目に、ハルバートンは薄暗い一室へと足を踏み入れる。
視界一杯に広がる山積みとなったダンボール箱たちに思わず目眩を起こしかけたが、ぐっと踏みとどまった。
 ふと、ごそごそと動く小さな影を見つけ、ぎょっとしたまま声を上げた。
 
 「む、麦わら帽子か!?」
 
 ややあってから、ダンボールの影から、小さな少女が恐々顔を出した。
 
 
 いつものように食堂でおしゃべりをしていたフレイ、カガリ、ミリアリアだったが、突然の来客に息を詰まらせた。
 
 「よう、元気そうではないか」
 
 悠然と、ハルバートンが――頭には麦藁帽子をかぶり――食堂へと入ってきたのだ。しばらく呆然としていたが、とりあえずはと思い、フレイは軽く頭を下げた。
 
 「あ、その……どうも」
 
 カガリが「ども」と続き、ミリアリアもぺこりと会釈した。
 
 「民間人の迷子がいたぞ」
 
 彼はほれっ、と横に体をずらし、背後に隠れるようにしていた少女を見せるようにした。茶色い髪を後ろに束ねた少女は、十一〜十二歳ほどの年齢に見える。彼女は不安げに顔を上げ、ハルバートンを見つめた。
 
 「と、父さんと母さんは……?」
 「乗艦しておるから心配するなっ。とりあえず飯でも食べていくと良い」
 「で、でも――」
 「でも、何かね?」
 
 ハルバートンの鋭い視線に晒され、少女は気恥ずかしそうにつぶやいた。
 
 「……お金、持ってない」
 
 彼は一度目をぱちくりとさせた後、盛大に笑い声を上げた。ハルバートンはひとしきり笑った後、呆気に取られているフレイたちにさっと向き直った。
 
 「心配するな、お金なら――うむ、そこの赤毛の子が出してくれる」
 「ちょ、ちょっと待ってくださいよ! 何でわたしがそんなことしなくちゃならないんですか!」
 
 いきなりやってきて何を言い出すのかこの人は。そんな思いを隠す気なく、フレイは思い切り立ち上がった。
 
 「ええいうるさい! これは命令だぞアルスター少尉!」
 「権力の乱用です、そういうの!」
 「ふふん、若いな少尉」
 「な、ん……」
 「権力とは、面倒ごとを押し付けるためにあるのだと覚えておくことだ!――というわけで任せたぞ。私は忙しいのでな」
 「ああっ! ちょっとぉ!」
 
 言うだけ言ってそそくさとその場を後にするハルバートンを引きとめようとするも、彼は全てを無視してその場を後にした。
 しばらく呆然と立ち尽くしていたフレイであったが、カガリの
 
 「で、どうすんだ? こいつ」
 
 の言葉ではっと我に返り、悔しさがふつふつと沸いてくるのが自分でもわかった。
 やれやれとミリアリアが席を立ち、少女のそばに寄る。
 
 「私はミリアリア・ハウ。君、名前なんていうの?」
 
 彼女は居心地悪そうに顔を反らした。
 
 「名前くらい教えてくれないと、何て呼んだら良いかわからないでしょ?」
 
 あくまでも優しい声色のミリアリアを尻目に、フレイは
 
 「ちっちゃいカガリみたい」
 
 と漏らし、
 
 「えーっ」
 
 とカガリが返した。
 
 「ちょっとー、外野二人うるさいわよー」
 
 呆れた様子でミリアリアの言葉に、フレイは小声で「何よぉ」と唇を尖らせる。
 
 「……―ル」
 
 少女が小さく口を開いた。ミリアリアが「ん?」と聞き返す。
 
 「……コニール・アルメタ。……名前」
 
 「ふうん、コニール、か……。ん、コニールっ、可愛い名前!」
 
 小さくウィンクしたミリアリアは、そのままくすりと笑みをこぼし、続けた。
 
 「あそこの券売機で好きなもの買うと良いわよ。お金ならぜーんぶフレイが出してくれるんだから」
 「ミ、ミリアリアぁっ!」
 
 フレイは慌てて声を上げたが、彼女は無視して続けた。
 
 「今のがフレイね、フレイ・アルスター。あっちの子がカガリ・ユラ・アス――」
 「わぁあああー! わー! わー!!」
 
 カガリが血相を変えて立ち上がり、両手をばたばたさせた。ミリアリアがしまったとばかりに両手で口元を押さえ、大した悪びれた様子も無く告げた。
 
 「あ、ごめーん」
 「なあ頼むから! ほんっと頼むから、な!?」
 「ついよ、うっかりよ。口が滑っただけ、ね?」
 
 その状況があまりにもおかしく、フレイは噴出すのをこらえるのが大変だった。すると――
 
 「おい、ちょーほんにん」
 「何よ、バカガリ」
 
 唇を尖らせたカガリに、フレイはさっと切り返す。
 
 「何だとぉ! お前が――」
 「だからー、あれは謝ったでしょー?」
 「謝ってすむなら軍隊はいらん!」
 「じゃあ謝らなーい。やーいバカガリぃー」
 「こ、の……」
 
 カガリが悔しそうにぎりぎりと歯を食いしばるのが、フレイには心地良かった。なんというか、スカッとする。
 
 「ま、いつもこんな調子だから、あなたももっと気楽に、ね?」
 
 すっかりお姉さん役のミリアリアが、ぽんとコニールの頭に手を置いた。何だか話題のダシにされたようで気に食わないフレイだったが、カガリで遊べたので良しすることにした。
 ふと、「うおっほんっ」というわざとらしい咳払いに、フレイたちは視線を厨房へと移す。にこやかにふわふわと手を振るラクスに、ミリアリアが困ったような顔になる。
 
 「あー……あの子は、えーと……」
 「何か見たことある……」
 
 フレイたちはぎくっと身を震わせたが、ラクスはぱんっと胸の前で手をあわせ、感激の声をあげた。
 
 「このような小さなお友達も知っていてくださっているなんて! わたくしは今猛烈に感動しています!」
 「………………え? あれ? な、何で?」
 
 コニールが、呆然と口を開く。ま、当然の反応だろう。何度も言うようだが、ラクス・クラインが爛◆璽エンジェル瓩琶疥困鬚笋辰討い襪箸いΔ里亘榲にごく一部の人間にしか知られていないのだ。
……知られていないはずなのに、当の本人がこの調子であるため、結構ばれてたりするのだが、そこら辺のことはフレイにとって興味が無いことなので捨て置くことにしている。
 未だ状況が把握できていないコニールの様子を、フレイはめんどくさいなあと思いながら眺めているのだった。
 
 
 切っ掛けは、ちょっとした悪戯心。勝手に連れてきておいて、今更故郷へ帰れなどと、あまりにも勝手な連合のやり方に内心穏やかでなかったコニールは、自分たちに解放された居住区画の一室を抜け出して――ただ、何か困らせてやろうと思っただけだったのだ。
それがどういうわけか、良くわからないダンボールだらけの部屋に迷い込み、それ以上にわけのわからない髭のおっさんに麦藁帽子探しを手伝わされ、果ては――
 
 「さあコニール様、オムライスですわ。から揚げとポテトはオマケです」
 
 捕虜兼コックだと聞かされたラクス・クラインがふわりとオムライスをテーブルにまで運んでくれた。コニールは無言でスプーンを取り、葉っぱのように綺麗に巻かれた卵に切れ目を入れ、中のチキンライスと一緒に口へと運んだ。
 ――美味いじゃないか……。
 連合の兵隊なんかに舐められるわけにはいかないと、あくまで無表情を貫こうと意識するのだが、口の中に広がる卵の甘い食感に、自然と頬が緩んでしまうのが悔しかった。
 ラクスがにっこりと笑みを浮かべてから、コニールの頭を優しくなでた。子ども扱いされているのが気に食わなかったが、オムライスの美味しさに夢中なのがコニールである。ああ早く大人になりたい。から揚げとポテトの美味しさにも気づいてしまい、頬が緩みっぱなしなのが本当に悔しい。お腹、ぺこぺこだったんだ。
 もぐもぐと口の中でから揚げの味を楽しみながら、コニールは父と母にも食べさせてあげたいなあなどと考えていたのだった。
 
 
 オルガ・サブナックはこう考えていた。なるほど、つまり俺は捨てられたのか、と。
 割り当てられた彼の私室は、彼が想定したものとはまるで違う、人間の住む部屋であった。
 棚には彼の趣味であるジュブナイル小説が何冊かおかれ、いくつかの映像ディスクも同じくして並べられた。
 デスクの上におかれた薬は、しばらく生活するのに十分な量がある。
 γグリフェプタン――それが、彼の命運を握っている薬の名だ。彼はこの薬を定期的に摂る事により、常人離れした肉体を保つことができる。そして薬の効果が切れると、それは耐え難い禁断症状をもたらす。あの身のうちを噛む苦痛は、できるなら二度と味わいたくは無い。
 『こうなる』前のことは、ほとんど思い出せない。日々与えられる薬、度重なる手術、繰り返し繰り返し耳元でささやく声――あいつらはそうやって、最強の兵士を創り出そうとしていたのだ。コーディネイターに劣らぬ反射神経、運動能力、耐久力を持ち、恐怖に怯えることなく、敵を打ち倒すことにのみ喜びを感じる最高のパイロットを。
 だが、オルガが捨てられた、と感じた理由がそこにあった。彼は、不完全な状態でここに送り込まれたのだ。碌にモビルスーツの訓練も積めず、実践すら経験したことの無い彼であったが、既に研究員がこちらに向ける視線に、『それまで』とは別の色が宿っていたことになど気づいていた。否、正確に言うなら、何の色も無くなったことに、と言うべきか。
 恐らく自分は、何かを誤魔化す為の隠れ蓑でしかないのだろう。この艦に乗艦する前に研究員が漏らしていたことを、ちらとだがオルガは盗み聞いていた。それも、自分が捨てられたと確信する要因の一つだ。
 彼らは、研究の方向を変えたのだ。精神、肉体の両方を強化させコーディネイターに近づけようというものから、肉体はそれなりに、そして精神の強化に特化させた戦闘パイロットに……。しかしそれには、オルガや他の数人の『お仲間』は既に手遅れだそうで、だから彼はここに連れてこられたのだ。恐らくは、本当に研究したい者への当て馬として。もしくは、弾除けだろうか。
 だが、奇妙なことが一つある。何故、『あいつら』が執着して調べ上げようとしている相手が、アムロ・レイではなくフレイ・アルスターなのだ? と。
 模擬戦では、オルガはフレイに勝っている。総合的に見ても、こちらが優勢なのは間違い無いはずだ。
 『あいつら』が少女趣味などと言った性癖で研究対象を選ぶなどということはありえないだろう。あのむかつく中年と、むかつく糞女の決定的な違いはなんだ? 実力は前者が上だ。というより何をとってもそうだろう。では、何故――?
 あのむかつくカナードとかいう野郎なら知っているのだろうか? オルガですらうろ覚えであった過去を知っていたあいつは……。
 とは言っても、別に知り合いだったわけでも何でも無い。同じ施設出身だからと言って、それで何か変わるわけでも無い。結局、『こうなる』前のことがわかったと言っても、更にその前があったことがわかっただけで、その事を思い出せない限りは何の意味も無いのだから。
 ともあれ、オルガはしばらくの休暇らしい時間を、読書と映画鑑賞に費やすと決めていたから、他の誰にも邪魔されるわけにはいかなかった。
 
 
 ガルナハン基地に到着した爛◆璽エンジェル瓩補助アームにがっちりと固定される。同じようにして爛僖錙辞瓩料ヂ里固定され、マリューたちはようやく一息つくことができた。すぐ隣にいるハルバートンが、すっぽりとかぶった麦藁帽子を手でいじりながら立ち上がった。
 
 「ん、ご苦労だったな諸君。楽にして良いぞ。私は出かけてくる」
 「し、しかし――」
 
 とナタルが慌てて抗議しようとしたが、ハルバートンは
 
 「文句とかはホフマンに言ってくれ」
 
 とだけ言ってさっさと行ってしまった。マリューはどうしたものかと呆れ果てたが、表情には出さないように勤めた。
 
 「さて、と。そんじゃ自分は失礼させてもらいますよ」
 
 と、チャンドラがおもむろに立ち上がる。すかさずナタルが突っかかった。
 
 「どこへ行く! チャンドラ軍曹!」
 「休暇ですよ休暇。閣下が言ってたでしょう?」
 
 そう言いながらそそくさと艦橋を後にする彼に呼応するかのように、パル、トノムラが席を立ち、ナタルが信じられないものを見るように周囲を見回した。
 
 「お、お前たち……」
 「それでは、お先に失礼します中尉」
 
 パルが苦笑気味に返し、トノムラが
 
 「では、中尉殿失礼しますっ」
 
 と茶化すように言った。
 
 「中尉もたまには羽を休められてはどうです? アルスター少尉たちは街に出かけるようですし」
 
 ノイマンがやれやれと言うと、ナタルがぐっと押し黙った。
 
 「な、何故そこでアルスターが出てくる……」
 
 その様子がおかしかったのか、ノイマンがくくっと笑い、ナタルは一層不機嫌そうになった。ミリアリアがうーん、と軽く伸びをしながらナタルの側に歩み寄った。
 
 「よし、と。じゃあ艦長、私たちは街に行ってきまーす」
 「お、おい」
 
 ナタルが小声で彼女に詰め寄ったが、さっとメリオルがやってきて、
 
 「何を今更」
 
 と口を挟んだ。
 罰が悪そうに顔を赤らめるナタルがやけに可愛く感じ、マリューは思わず噴出してしまった。
 
 「か、艦長!」
 
 ナタルが抗議の声をあげたが、マリューは無視して彼女の瞳をじっと見つめる。
 
 「みんなのことよろしくね、ナタル」
 
 そういうと、ナタルは耳まで真っ赤にして、小さく「……り、了解です」とだけ言って顔を背けてしまう。マリューはもう一度くすっと笑みをこぼした。
 そこから少し距離を置いたところで、カズイがサイに、「俺たちどうする?」と聞いているのを見て、マリュー自身もどう休日を過ごそうかと考え始めるのだった。
 
 
 
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