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CCA-Seed_◆ygwcelWgUJa8氏_20

Last-modified: 2015-06-28 (日) 02:36:23

 「オーブ、ですか?」
 
 爛◆璽エンジェル瓩隆篭兇如▲泪螢紂爾歪命モニター越しに伝えられたハルバートンの命令に、思わず聞き返した。何故わざわざ? ここからではオーブを経由しアラスカへ、では大回りになるだけだ。すると彼はとたんに難しい顔になる。
 
 〈言いたいことはわかる。だが――〉
 
 言い淀み、困ったようにして彼は目を瞑った。
 
 「閣下?」
 
 またも聞き返すと、ハルバートンは更に考え込み、首を傾げる。傍らのホフマンが呆れて助け舟を出す。
 
 〈諸君らには、オーブである要人と会ってもらうことになっておる〉
 
 ――要人? しかし、何故わざわざオーブで? そんな彼女の疑問を見透かしたかのように、ハルバートンが盛大にため息をつき、言った。
 
 〈下らん金持ちの道楽に近いものがある。事を急いているのかもしれんが……まあ、諸君らの艦には、既に同乗してしまっておるからなぁ……全てを巻き込もうとしているのかもしれんが……うーむ……〉
 
 本人だけ意味がわかっているような物言いであるが、マリューは特に同乗の意味を図りかねた。確かにオーブの民間人であるキラ達は、同乗している。だが彼らを気遣うのだというのなら、真っ先にアラスカへ向かい、除隊の許可でも出すべきだと考えるのがマリューである。
恐らく、ハルバートンもその事に関しては同じように思ってくれているはずだ。では、何故――?
 結局詳細は教えてもらえず、やがて通信を終えたマリューは、そっとコンソールを操作し、モニターの端に外部カメラの映像を映し出す。
 フレイやカガリたちが、現地で知り合った友人、ここに残ることになったエドモンド隊と別れの挨拶をしている姿が映し出される。
 そこにいる者たちは皆笑顔であり、別れ際にそういう表情をできるというのは、マリューからしても嬉しいことだ。
 どうか、この笑顔がずっと続きますよう――。
 
 
 
 
PHASE-20 平和の国へ
 
 
 
 
 ――いつもの食堂のいつものテーブルで。フレイは、ジェスが祭りの最後に撮影してくれた集合写真を眺めていた。その写真には、カガリも、ラクスも、アムロも写っている。
みんなで撮った、本当の思い出。ラクスだって、自分のベッドに立てかけてあるし、カガリもミリアリアも同じように大切に保管しているはずだ。撮影の瞬間、深々と被ったラクスの帽子を取っ払ってやったら、彼女は少し顔を赤らめて「もうっ」と言っていた。
みんなの記念なのに顔が見えなくちゃ嫌だなと思ってやったのだが、迷惑だっただろうか? いや、決してそんなことは無いはずだ。この気持ちは、皆同じであってほしいから……。
 
 
 
 「ふふ、いたいた」
 「あ、ミリアリア。お疲れっ」
 
 昼休みで食事を取りに来た友人に、フレイはにっこりと微笑んだ。
 
 「なーにー? 随分と機嫌良いじゃない」
 「なんでもなーいー」
 
 そのままミリアリアは券売機の前で、「どれにしよっかなー」と腕を組む。
 
 「……おーっす」
 「あっ、シミュレーションで味方撃っちゃって居残り食らったバカガリだ」
 
 フレイが皮肉ると、カガリは一層不機嫌な顔になってぶすーっと視線を逸らした。
 
 「……ほっとけ」
 
 その仕草がやけに可愛く、フレイは思わず笑みをこぼした。ミリアリアが券売機のボタンを押しながらちらと振り向く。
 
 「フレイとは上手くできるのにねえ」
 「……うん」
 
 カガリがしょんぼりと肩を落とす。どうしてかわからないが、フレイはカガリとチームを組む時が一番調子が良いし、カガリもそうだと言っている。二番目がトールで、三番目がどういうわけかオルガ・サブナックとかいう漫画オタク――本人は否定しているが――で、一番相性が悪いのはキラだ。
良い子だと思うんだけどな、というのが彼女の感想であるが、モビルスーツの連携となると、相性は最悪なようで、二人は射撃、回避、索敵、あらゆる分野で足を引っ張り合った。
 ふと、手に持った写真に目をやる。中心にいるラクスやフレイたちの少し左側に、珍しく笑みを浮かべたカナードと、本当に楽しそうなキラが仲睦まじげに写っている。
 ――写真ではそっくりなのに。
 育った環境が違うだけで、ああも性格が変わるもんなんだなあとしみじみ感じるフレイであった。
 
 「あーっ、そうそう」
 
 ミリアリアが思い出したように握りこぶしを手の平の上にぽんと乗せた。
 
 「次の目的地ね、どうやらオーブになりそうよ」
 「……ふーん、オー……何ぃ!?」
 
 テンションが最低から最高にまで一気に上ったカガリが目を思い切り見開く。
 
 「オーブ!? オーブなのか!?」
 「そ、オーブ」
 「オーブってのは……その、あのオーブなんだよな!?」
 「……他にどこがあるのよ」
 「う、ぐ……そ、それは……」
 
 ミリアリアに呆れられ、押し黙るカガリ。
 
 「そろそろ覚悟、決めないとね。カーガリぃー?」
 
 フレイもさっと冷やかしをいれ、更に彼女は押し黙る。
 
 「うー……ん……覚悟って言われても、なあ……」
 「ね、ミリアリア。艦長って今艦橋かな?」
 
 頭を抱えて悩むカガリを無視して、フレイは食券をラクスに渡しているミリアリアに声をかけた。
 
 「えーとね、確かオーブに着くまでに報告書をまとめなきゃとかだから、艦長室だと思うわよ」
 
 そう答えたミリアリアの後ろで、ラクスがジェスの装ったライスにカレーをかけているのが見え、そういえば昼食食べないでカガリを待っていたことを思い出す。
 
 「んー、昼ご飯食べたらさ、艦長とこ行こうよ」
 「どーしてー?」
 「カガリを、ね」
 「あー、なるほど」
 「……うーん、食べたら行くのかぁ」
 「そ、食べたら行くの。早いうちが良いでしょ?」
 
 尚も決心ができないでいるカガリであったが、意外と肝が据わってることは知っていたので無理やり連れて行けば何とかなるだろう。
 
 「……そうだな、行こうか。食べたら」
 「ん、けってーい。わたしも食ーべよっ」
 
 居残りカガリを待ってたおかげで、もう食べたいものは決まっている。今日はシーチキンサラダとシーフードカレーだ。
 
 
 
 彼女たちの会話を、キサカは通路を通り過ぎながら聞き、複雑な表情になる。カガリの砂漠での言葉が彼の脳裏によぎる。
 
 『この艦とあいつは沈めちゃいけないって――どうしてもそんな気がするんだ!』
 
 そのために彼女は半ば無理強いするような形で爛◆璽エンジェル瓩悗両茣呂魑瓩瓩拭自身に関する秘密を抱えて――。
 キサカはむろん反対したが、下手をすれば彼女が単独で密航でもしかねないことを知っていたから、結局は従った。決して彼女の秘密を明かさないことを条件に――。
 まず最初に驚かされたのが、彼女がスエズ運河で初陣を終えて来ての一言だ。
 
 『キーサーカー! お前の所為でばれちゃったじゃないか!』
 
 彼のプライベートルームに押しかけてきたカガリが顔を真っ赤にして怒鳴り込んできたのだ。何故ばれたと問いただすと、どうも幼い頃から教え込まれた礼儀作法を指摘されたそうなのだが、それが何故自分の元へ怒鳴り込んでくることに繋がるのかはキサカにはわからなかった。礼儀作法を教えたのは彼では無いのだから。
 だが素性がばれたことは事実、キサカはすぐさまフレイ・アルスターにカガリの素性の件に関して口止めの交渉をしに向かったのだが、丁度ラクス・クラインやミリアリア・ハウにその事を話しているところに出くわしてしまったのでどうすることもできなかったのだ。
カガリは黙っていてくれると約束したんだと言っていたが、まさかその日のうちにその約束が破られていたとは夢にも思わなかったであろう。年頃の少女とは怖いものだなと再認識したキサカであったが、それ以上に、自分たちがこれからどうなってしまうのか、という不安の方が大きく、すぐにその考えは捨てた。
 キサカはいつだってカガリを見守っていた。幼少時からずっと、彼女のことを護ってきたのだ。彼女を暗殺すべく(誘拐かもしれないが)屋敷に忍び込んだ刺客から、身を挺して彼女をかばった傷は今でも残っている。
砂漠で爆風から彼女を護るときに受けた火傷の後も、夜になると疼いてくる時だってあるのだ。だからこそ、キサカはわかる。……カガリは変わった。親心からしてみれば、大きくなったと言い換えても良いほど、彼女は立派になった。
 彼は一度自嘲気味に鼻を鳴らし、深いため息を吐いた。
 嫌なことがあれば泣いて喚く子供のようなカガリ。何とかして一人前のアスハにしなければならなかったから、キサカは彼女に厳しく接するように勤めた。今回の家出も、人の死や戦争という現実に直視することで、成長をして欲しいと強く思ったから、彼女についていったのだ。
 だが、爛悒螢ポリス瓩ら帰ってきた彼女も、砂漠で戦った彼女も、何の変わりも無い何時も通りの『カガリ・ユラ』でしかなかった。
 ……カガリは変わった。泣くことを止め、戦うことを選んだ。喚くことをやめ、信じることを学んだ。それを教えたのは……自分ではない。
 一抹の寂しさを覚えたが、それもまた時代の移り変わりであると勝手に納得し静かに目を瞑る。自分は、古い人間であったのかもしれない、と。
 カガリはいつでもフレイと一緒だった。キサカが愚痴を聞かされるときも、十中八九その内容はフレイのものだ。今日は一度も勝てなかっただとか、小馬鹿にされたとか、後ろから蹴られたとか、更には髪質を馬鹿にされたとか。そして最後には、『ま、良いんだけどさ!』と快活に終わるのだ。
本当にそれで良いのか、と思わず呆れたが、カガリにとってきっとそれらの事は大した問題ではないのだろう。それが悪友なのか、親友なのかわからなかったが、二人の友情とやらは本物である。
 だからこそ、心配なこともある。オーブ首長国としては、あくまで中立を維持しているのだ。地球連合の准尉として戦っているカガリの存在は問題であるし、この艦に肩入れしすぎている。
 キサカにはカガリが連合への――具体的には爛◆璽エンジェル畍堕蠅世蹐Δ――支援を言い出すのが目に見えているため、どうしたものかと頭を抱え、考え込んでしまった。
 
 
 
 〈――えー、ご覧いただいた映像は、数ヶ月前に起こった軌道上での戦闘の様子でした……〉
 
 落ち着いた様子の、それでもかつては狂犬として知られた芸人上がりの男性キャスターが大げさに驚いて原稿を読み上げる。街行く人々は、またかといった様子で街頭の巨大なテレビモニターに映し出されている映像を素通りし、あるものは興味深げにじっくりと眺めている。
 男性キャスターの横で、オカマっぽいコメンテイターが手の甲を顎に乗せる。
 
 〈んー、まずたった数機のモビルスーツで艦隊を壊滅させちゃうコーディネイターって、やっぱりおっかないって思っちゃうわ!〉
 
 更に画面が変わり、今度は鋼色のモビルアーマーが映し出され、ゲストの科学者と思われる男性が律儀に答えた。
 
 〈ですが私どもといたしましては、このモビルアーマー爛瓮咼Ε広瓩鮖箸辰織僖ぅ蹈奪函▲▲爛蹇Ε譽い剖縮が沸きますねえ〉
 〈あら? どうして? 見かけは素敵だけど、何かオタクっぽくない?〉
 
 オカマが言うと、芸人キャスターや女性キャスターがくすくすと笑い、科学者は少しばかり気を害した様子でつけたす。
 
 〈ですが、アムロ・レイがたった一人で十数にも及ぶ爛献鶚瓩鯊任租櫃靴討澆擦燭里六実です〉
 〈あら、だったらフレイ・アルスターさんだってそうじゃない? 何でも初陣でいきなり『砂漠の虎』を倒して見せたとか。これって一種の天才よね? しかもあのアルスター事務次官さんの敵討ちだなんて、偉いわあ〉
 
 こんなくだらない番組などは日常茶飯事である。いや、こういった番組を流しているだけまだマシなのかもしれない。他のテレビオロファトでは今日も地方の料理特集の番組がやっているし、オーブテレビでは昼のドラマが普通に放送されているのだから。
 この街に住む人々にとって、戦争はあまりに遠い存在なのだ。アムロ・レイなどは戦争がカッコイイものだと考える中学生くらいしか知らないし、フレイ・アルスターこそ盛大に取り上げられているが、戦果よりもその生い立ちや容姿のほうで騒がれたり、その程度の問題でしかない。
 この国の名は、オーブ連合首長国。赤道直下に位置する、火山性の環状列島はオーブ諸島と呼ばれ、王冠のように円を描いて並ぶ二十以上の群島から成る。主に工業と宇宙港の運営で富む中立国だ。
ここは軍需企業モルゲンレーテや軍施設があるオノゴロ島――狭い国土を象徴するかのように、海岸線ギリギリまで住宅地が立て並び、ちょっとしたことで海に飲まれてしまいそうにさえ見える。観光も盛んであり、活火山を利用した温泉なども、この国を潤わせている理由の一つだ。
 
 〈……そして彼女たちを乗せたその艦が今日、このオーブに入港するんですってね! 私サイン貰っちゃおうかしら、なんて……〉
 
 同じ中継を、目を輝かせながら、興奮気味で見つめている子供がいた。他の家よりも少しだけ広いリビングに置かれたソファーの上で、顔にかかる黒い前髪を直そうともせず、深紅の瞳を輝かせている。
 
 「んもー、お兄ちゃん! 置いてっちゃうよ!」
 
 妹のマユが腰に手を当て、唇を尖らせた。
 
 「わかってるよ!」
 
 少年はすぐさまテレビのスイッチを切り、床を蹴るようにしてソファーから勢い良く立ち上がった。
 
 「もー、折角の夏休みなんだから! ピクニック行くんでしょー?」
 「いつもはお前の方が遅いじゃないかー」
 「だから、こうやってお兄ちゃんよりも早く準備したんだよ?」
 「お前が遅いから待ってたんだよ」
 「嘘ばっかりっ」
 「本当だって!」
 
 妹と同じように唇を尖らせながら、玄関で靴を履いている少年の名は、シン・アスカ。このオーブで生まれ、オーブで生まれ育った第一世代型のコーディネイターである。
今年から地元の中学に通い始め、もうじき十三歳の誕生日を迎えるのが楽しみで仕方ない彼であったが、ある日みんなが寝静まった夜、窓から空を見ていると、とても凄いものを見てしまった。
父も母も先生も、テレビの見すぎだと言うけれど、一緒に見ていた妹のマユだってはっきりと覚えているのだから、嘘なんて言っていない。もちろんシンの自信はそれだけが原因ではない。学校の友達も、みんな淡い光を目撃していたのだ。
そして、その光を見た日と、軌道上での戦いがあった日は同じ――。シンには、爛◆璽エンジェル瓩箸△慮が何か関係しているようにしか思えなかった。
 しかし、やはりその事を話しても、父と母は呆れたようにくすくすと笑うだけ。まったく、大人って何でこうなんだ! だから彼は、いつか本人たちに会って、あの光の帯のことを問い詰めてやる気でいるのだ。そうして自分たちが正しかったということを、父と母に証明してみせるのだ。
 
 
 
 〈……私サイン貰っちゃおうかしら、なんて言ってみたりしてね〉
 〈いやー、流石にそれは無理でしょー〉
 〈んもう、冗談よ冗談!〉
 
 テレビモニターから下品な笑い声が漏れ、険しい顔つきで低く話し合っていた男たちが苛立たしげに鼻を鳴らす。ここは首都オロファトのあるヤラファス島――高層ビルが所狭しと立ち並ぶ。市街地の背後にはなだらかな稜線を描く活火山ハウメアが聳え立っている。この火山の地熱を利用した工業が、オーブ発展の原動力となった。
 広い部屋には細長いテーブルが置かれ、周囲を人々が取り囲んでいる。ここはこの国の行政府、集まっているのは各州の首長たちとその側近だ。テーブルの中央には、髪を長く肩に流し、髭を蓄えた壮年の男が座っている。
 
 「――ウズミさま……」
 
 いかめしい顔つきでモニターを見据えていた壮年の男は、声をかけられてひとつ溜息をつき、ゆったりと椅子の背もたれに背をもたせかけた。
 
 「……あの男の言うがまま入港を許してしまうとは、なんとも情けないことですな……ホムラ代表」
 
 代表と呼ばれた最初の男は、そう言われていかつい顔に困惑を浮かべる。
 
 「はあ……しかし……」
 「それどころか滞在までも許可を出すとは、あまり良い状況では無いと思いますがな」
 
 ウズミが独り言のようにぼそりとつぶやくと、ホムラは更に困惑の色を強め、情けなく下を向いてしまった。
 彼――ウズミ・ナラ・アスハはオーブの前代表首長であった。あるスキャンダルが元で失脚し、代表の座を弟のホムラに譲りはしたものの、さっきのやりとりでもわかるとおり、実権は未だ握っている。
 彼は内心をほとんど窺わせない鋭い目で、じっとテレビ画面を見据えた。
 
 
 
 〈指示に従い、艦をドックに入れよ〉
 
 先導してきた護衛艦から通信が入り、壮年の生真面目そうな将校がてきぱきと指示を出す。艦長席の横で、カガリがぱっと笑みを浮かべ、モニターに映る男に手を振った。
 
 「よ、トダカ! 元気そうじゃないか!」
 
 トダカと呼ばれた男は、酷く疲れた様子で指先で鼻の根元を抑え、低い声でつぶやいた。
 
 〈……お戯れが過ぎます、カガリ様〉
 
 つい先日、カガリがフレイたちと一緒に艦長室にやってきて、自らの素性を明かした時は頭が真っ白になったものだ。まさかあの元気な彼女がオーブ首長国の姫、カガリ・ユラ・アスハであったなど、誰が想定できるものか。
 マリューたちは護衛艦に前後を付き添われ、オーブ群島の一つへ近づきつつあった。切り立った岸壁にカモフラージュされていた巨大なハッチが開き、開口部に海水が流れ込む。爛◆璽エンジェル瓩呂罎辰りとその奥に進む。ハッチの奥は、島の内部に隠されたドックに通じていた。
 
 「オノゴロは軍と爛皀襯殴鵐譟璽騰瓩療腓澄1卆韻らでもここを窺うことはできない」
 
 『オーブ陸軍第二一特殊空挺部隊のレドニル・キサカ一佐』がゆっくりとカガリのそばに歩み寄りながら言う。それまで彼女のようすをちらちらと窺っていた子供たちだったが、ミリアリアが思わずつぶやきを漏らす。
 
 「……本当にホンモノだったか」
 「おい、それどういう意味だ!」
 「別にー」
 
 すかさずカガリが反論したが、ミリアリアはどこ吹く風とばかりに彼女の言葉を受け流した。
 
 「ミリィ、知ってたのか?」
 
 サイが小声で突っ込むと、ミリアリアがにっこりと答える。
 
 「ん、とーぜん。って言っても、フレイから聞いたんだけどね」
 「フレイが?」
 
 彼が首を困惑して首をかしげていると、カガリが悔しそうにそっぽを向く。
 
 「黙ってるって約束したのに……」
 「そうよねえ、あれはやっぱりフレイが悪い」
 
 うんうんと頷くミリアリアはどこか他人事であったが、実際そうなのだから仕方無い。
 
 「って、君らの国のお姫さまなんだろ? わからないもんなのかい」
 
 トノムラが呆れて言い、メリオルが眼鏡の位置をさっと正して答えた。
 
 「オーブ首長連合国は秘密主義の国ですからね、知らないのは当然だと思います」
 「……変な国」
 
 とチャンドラが言い、メリオルが
 
 「知っている者からすればバレバレだったんですけどね」
 
 と付け足した。
 
 「中尉は知ってて黙っていたのか?」
 「こういうことは、知らない方が悪いの」
 
 困惑したナタルに、彼女は突き放すように答えた。同じことをハルバートンに言われた事を思い出し、思わずマリューはむずかゆい思いをする。
 
 「まずは、これからある人物に会っていただく」
 
 おほんと咳払いをしてから、キサカがいかつい顔を変えずに言った。
 
 「ある人物?」
 「『オーブの獅子』――ウズミ・ナラ・アスハ様だ」
 
 マリューはまた重くなってきた胃を、片手でそっと抑えた。
 
 
 
 「……こんなふうにオーブに来るなんてなあ」
 
 オノゴロ島に繋留された爛◆璽エンジェル甦脇發如▲函璽襪流石に感慨深げに言った。
 
 「うん……」
 
 ミリアリアも複雑な表情でうなずく。
 待機を命じられた少年たちは、例によって食堂で顔を突き合わせていた。キラも彼らの言葉を聞いて考え込む。故郷に帰った――厳密に言うと、宇宙生まれのキラやカズイなどにとっては、それは正確な表現でないのだが――という事実は、彼らに理屈抜きの安心感を与えてはくれたものの、現在の身分を考えるとどうしても違和感は ぬぐいきれない。
 いや、それだけじゃない、オーブには……『義父』と、『義母』がいるのだ。ぼくはいったいどんな顔をして会えば――。
 
 「ね……さあ、こういう場合ってどうなんの?」
 
 カズイがおずおずと言い出す。
 
 「やっぱり降りたり……ってできないもんかな?」
 「あのなあ……」
 
 すでに交わした議論の蒸し返しに、サイが少し呆れて言いかけると、カズイは慌てて言葉を継いだ。
 
 「いや、除隊できないってのは知ってるよ。けどさ……えーと、休暇とか……」
 「状況しだい、だな」
 
 彼の疑問に答えたのは、キラの隣でトマトジュースを呷っていたカナードだった。
 
 「補給、修理に時間はかかるだろうし、わざわざオーブに立ち寄らなければならない理由も不明だ。艦長たちがどう出るかってことさ」
 「だ、だよな!?」
 
 とたんにカズイの顔が、ぱっと明るくなる。
 
 「にしても、解せないな」
 「ん?」
 
 カナードのつぶやきに、サイが少し真剣な顔になる。
 
 「オーブが俺たちの入港を許可した理由だ。――秘密主義だからな」
 「……裏がある、か」
 
 サイが低い声で相槌を打った。
 
 「……父さん母さん……元気かな……」
 
 ミリアリアのつぶやきに、キラは思わず息を呑んだ。
 爛悒螢ポリス瓩鮹出できたほかの市民は、みなオーブ本国に帰されたと聞いた。艦に慣れてきて、ふだんは明るくふるまっているミリアリアたちも、しょせんはまだ十代の子供だ。一緒にいるときは鬱陶しい存在でもある親だが、離れてみれば恋しくなるのも無理はない。カナードの声に、哀愁めいた響きが忍び込む。
 
 「家族、か……」
 
 短い沈黙ののち、彼はふっと微笑を浮かべ、いつに無く優しい声音で言う。
 
 「会えると良いな」
 
 消え入りそうな兄の姿にいたたまれなくなり、キラは適当に用事を思い出したと言い訳をして席を立ち、そっと抜け出した。
 キラの両親もたぶん、今はこの国にいるのだろう。以前は当たり前の存在だったが、今、彼らについて考えようとすると、別の国の人たちみたいに思える。あの朝、母はいつものように寝坊したキラを叱り、キラは起きなかった自分を棚に上げて、母に文句を言いながら家を飛び出した。
相手の顔もろくろく見ずに。いつもと同じ朝――その日のうちに、自分の身になにが起こるかなんて……母が、母では無かっただなんて……。
 
 彼らのことを思うと、キラの胸にはほかの仲間たちと微妙に違う感情が兆す。もちろん懐かしく、恋しい気持ちに変わりはない。どうしているだろうかと思い、向こうもキラのことを心配しているだろうと思う。だが――。
 甲板のドアが開いたとき、キラが見たのは、静かに遠くを見つめるフレイの後ろ姿だった。なんとなくその光景が、もの悲しく見える。周囲には鋼鉄で作られた灰色の壁や機材だけだったからかもしれない。まるで彼女が、親に捨てられた子供のように見えて。
 
 「フレイ」
 
 キラはそっと彼女に声をかけた。フレイは顔だけこちらに向け、「なんだあんたか」と、視線を戻す。
 
 「どうしたの? みんななら食堂だよ」
 
 隣の手すりに手を置きながらたずねると、フレイは気の無い調子で、「あんただって」と答える。彼女がさっと指を指した。
 
 「……この壁のずっと向こうにね、わたしの家があるの」
 
 なぜだかキラは、彼女が泣いているような気がして、気休めになるような言葉を口にした。
 
 「上陸、できるかもしれないって」
 「そう?」
 
 フレイはやっぱり気の無い調子だ。キラは意外に思ってたずねる。
 
 「家に帰れるかもしれないんだよ?」
 「だって……誰もいないもの。ママは小さいときに死んだし、パパも……」
 
 キラは、はっと胸を衝かれて口を閉ざした。その『パパ』は、キラたちが守りきれずに死なせてしまった。彼女のたった一人の肉親を奪ってしまった……。
 フレイは小さく息をつき、一度視線を泳がし、逡巡するような仕草をしてから、手すりをぎゅっと握り締めた。
 
 「ね……スーパーコーディネイターって、何?」
 
 キラ思わず息を詰まらせた。キラどう説明していいのかわからず、顔を背けた。
 
 「……言いたくないなら、良いわよ」
 
 彼女がふっと微笑んだ。その美しさに思わずキラは見惚れる。フレイになら、話せそうな気がする。彼女になら、ぼくは――。
 
 「ぼく、さ……。昔よく苛められたんだ」
 
 キラは懐かしい月での日々に思いを馳せた。
 
 「アスランが助けてくれてから、ぼくたちは親友になった。苛められることもなくなって、父さんもいて、母さんもいて、普通に暮らしてたんだ」
 
 軽く息をつき、キラはちらと横を見ると、フレイの綺麗な指先が視線に入る。
 
 「兄弟、ってのにずっと憧れてて、まるで本当に兄さんができたみたいで嬉しかったんだ」
 
 ずっと続くと思っていた平和な日々。永遠かと思っていた友情……。
 キラはもう一度深く息を吐いてから、手すりに体を預けた。
 
 「だから、カナードが――ぼくの、クローンだったなんて……本当の父さんと母さんが、とっくに死んでたなんて……、全然思わなかったんだ」
 「……クローン?」
 
 フレイは、はっと振り返り、キラに視線を向けた。彼女の瞳は、まるでキラの全てを見透かしているように感じた。
 
 「実験で生み出された十二番目のキラ・ヤマト。ぼくは……爛好肇薀ぅ瓩筬爛瀬ー瓩畔僂錣蕕覆ぁ△燭誠佑侶舛鬚靴燭世韻痢宗宗
 
 ――化け物だ。
 それは、少年の絶望であった。キラは、カナードという最愛の兄を得、自分という存在を失ったのだ。キラが言葉を切ると、フレイがくすりと笑った。
 
 「ね、『美女と野獣』ってしってる?」
 「えっ? う、うん」
 
 『美女と野獣』とは、童話のことだ。予期せぬ言葉に、キラは困惑して答えた。彼女が続ける。
 
 「わたしはとーぜん可愛いから美女っ」
 
 そう言いながら、呆然とするキラの周囲をつかつかと歩き、フレイが高い天井を見上げた。
 
 「ビーストはね、魔法使いに姿を怪物に変えられちゃったけど、本当はとても優しい人」
 
 ……しかし、とキラは思う。
 
 「最後は魔法が解けて元の人間の姿に戻れる――。無理だよぼくには。魔法なんてかかってない、正真正銘、生まれたときからビーストなんだ」
 
 キラは視線を鉄の壁に戻す。ぼくは、死ぬまでビーストなんだ。冷たいものがキラの心を支配していく。
 
 「そ? じゃあビーストさん、少しだけ良い?」
 
 フレイがからかうように言った。
 
 「……何?」
 
 その言葉遣いに少しばかり苛立ちを覚えたキラは振り向かずに言うと、さっとその背中を柔らかな感触が覆い、フレイの綺麗な指が彼の体を抱いた。
 
 「――ありがとう。わたしを守ってくれて」
 
 わずかにキラの鼓動が高鳴った。
 
 「もう駄目だって思った、わたしはここで死んじゃうんだって――。だから、助けに来てくれたときは本当に嬉しかった」
 
 彼女の暖かさが背中を通してキラに伝わる。その温もりに、キラは思わず涙をこぼした。まもる、ぼくが……? ぼくは、この化け物の力で、君を、まもれた……? それは、救いであり、希望である。自分と言う存在の意味を、彼女を守るということで保とうとしているだけなのかもしれない。
 
 「ありがとう、キラ。あなたのおかげで、わたしは……」
 
 とめどなく溢れる涙を拭うことも忘れて、キラはひたすら泣き続けた。思えば、ずっと誰かにそう言って欲しかったのかもしれない。誰かにこの悲しみを打ち明けたかったのかもしれない。彼の背中を優しく抱きしめる彼女の姿は、まるで迷子の子供を慰める母のように優しかった。
 
 
 
 「ご存知のとおり、我がオーブは中立国だ」
 
 目の前に座った壮年の男は、いかめしい顔つきで言った。前代表首長、ウズミ・ナラ・アスハ――カガリの父親である。
 
 「はい」
 
 マリューは硬くなって頷いた。すでに代表の地位を退いたとキサカから聞かされていたが、相手から発される威圧感に気圧されるような気がする。物腰や話し方は穏やかで洗練されており、風貌も上品で、どこにも猛々しいところや見下す様子もないというのに、前にいるだけで圧倒されるような印象を受けた。
 これが『オーブの獅子』と呼ばれる男――と、あらためてマリューは姿勢を正す。
 オーブは立憲君主制――国家元首は代表首長だが、主権は国民のものであり、議会が政策を協議し、決定する。とはいえいまだに、最大首長の力は大きい。オーブはもともと、複数の部族が寄り集まってできた国家であり、部族を代表する首長たちのなかで最も勢力の強かったアスハ一族が、代々この国を束ねてきた。
この国の民にとって幸福だったのは、アスハ一族がだいたいにおいて――長い歴史の中では、例外も存在しないわけではない――よい施政者であったことである。彼らの指導の下、南海の楽園に過ぎなかった群島が、ここまでの経済的成功をおさめ、連合にもザフトにも軽視できない一勢力となったのだ。
 
 「公式には、貴艦は爛悒螢ポリス瓩瞭駝韻燭舛鯀り届けてくれた――ということになっておる」
 「はい……」
 
 ウズミ――そしてオーブの意図を計りかね、マリューは用心深く返事をした。
 彼らはオノゴロ島内にある、オーブ軍指令本部の一室に呼び出され、非公式の会談を行っていた。爛◆璽エンジェル畭Δ藁磴砲茲辰董▲泪螢紂次▲▲爛蹇▲爛Α▲淵織襦▲瓮螢ルの五人、そして爛僖錙辞瓩らはハルバートンとホフマンが来ていたが、オーブ側は前代表首長、ただ一人だ。
 ふいに、ムウが脇から口を挟んだ。
 
 「入港を許可してくださったのは、まさか、お嬢様が乗っていたから――ではないですよね?」
 
 ウズミは軽く苦笑する。
 
 「国の命運と、甘ったれた馬鹿娘一人の命、秤にかけるとお思いか?」
 「失礼いたしました」
 
 本当に失礼と思っているかどうかわからない、飄々とした様子でムウが軽く頭を下げる。ウズミは怒った様子もないが、ふと顔を引き締めた。
 
 「――そうであったなら、いっそ判りやすくて良いがな……」
 
 マリューたちは相手の出方を見守り、ウズミは独り言のような調子で続ける。
 
 「爛悒螢ポリス瓩任侶錙帖調き込まれ、志願兵となったという、この国の子供たち……聞き及ぶ戦場でのXナンバーの活躍……」
 
 どれもマリューにとっては耳の痛いことばかりだ。だがウズミの声に責める調子はなく、あくまでも淡々としていた。それだけに、つづられた言葉にどきりとする。
 
 「――人命のみを救い、あの艦とモビルスーツは、沈めてしまった方が良いのではないかと、大分迷った……」
 
 ナタルがその言葉に衝撃を受けたのか、身じろぎするのを感じる。
 
 「……今でも、これで良かったものなのか……わからん」
 
 ウズミが少しばかり視線を落とし、表情を曇らせる。
 
 「――我らが中立を保つのは、ナチュラル、コーディネイター、どちらも敵にしたくないからだ……」
 
 彼は語り始めた。
 
 「が、力なくばその意思を押し通すことはできず、だからといって力を持てば、それもまた狙われる……」
 
 たしかにそうだ。今のこの情勢では、国際社会において独自の立場を堅持するにも、背景に他国の口出しを許さぬ武力と経済力を必要とする。そして爛悒螢ポリス畚鰻發里茲Δ蔑磴里澆覆蕕此△修良戮販呂鯲め取ろうと、虎視眈々と窺っている者たちもいるはずだ。
 ウズミはマリューたちに目をやり、ふっと笑った。
 
 「――軍人である君らには、いらぬ話であろうがな」
 「いえ――ウズミさまのお言葉もわかります……」
 
 ウズミの言うことに同意したい部分は、たしかにマリューの中にもある。しかし――。
 
 「……でも、我々は……」
 
 マリューはかたく唇を引き結んだ。
 しばし、沈黙が落ちる。ウズミは居住まいをただし、微かな笑みを向けながら、口を開いた。
 
 「――ともあれ、こちらも貴艦の受け入れを許可した最大の理由を、お話せねばならん」
 
 マリューは、はっとして目を上げる。さっきまでの温和な表情は拭い去られ、ウズミは鷹のように鋭い目で彼女たちを見つめて、こう告げた。
 
 「爛好肇薀ぅ瓩里海譴泙任寮鐺データ、それと、パイロットであるコーディネイター――キラ・ヤマト、カナード・パルス双方の爛皀襯殴鵐譟璽騰瓩悗竜蚕儷力を、我が国は希望している……」
 
 彼はちらと視線をハルバートンに移し、短く続ける。
 
 「そういう手はずであったな、デュエイン・ハルバートン殿」
 
 一同が一斉にハルバートンに視線を向けると、彼は迷惑そうに鼻を鳴らし、ソファーにふんぞり、その様子に盛大にため息をついたホフマンがいつもの表情で返す。
 
 「もちろんです、アスハ前代表」
 
 会談の後、爛◆璽エンジェル瓩北瓩辰織淵織襪、怒りを爆発させた。
 
 「私は反対です! この国は危険だ!」
 
 うんざりした顔で、マリューは彼女を見返す。艦長室に彼らは集まり、さきほどの会談について検討していた。ムウが肩をすくめる。
 
 「そう言われたって。じゃ、どうする? 今からでも提督に直訴しに行く?」
 「そういうことを言っているのではありません!」
 
 ナタルはぴしゃりと答える。
 
 「修理に対しては代価を、ということです!」
 「わかるけどねぇ……」
 
 ムウが答えたようすもなく、首をひねった。
 
 「いや、そうか……そういうことなら」
 
 会談以来、一言もしゃべらなかったアムロの様子に、いらいらとナタルが噛み付く。
 
 「大尉はどうお考えなのですか! この艦を沈めるとまで言われたのですよ!?」
 「そうそうやられはしないさ。――それよりも、だ」
 
 先ほどまでの温和な視線に鋭さを増し、彼が続けた。
 
 「何故ウズミ・ナラ・アスハは爛瀬ー瓩筬爍天伸瓩任呂覆、爛好肇薀ぅ瓩鮖慳召靴燭里、ということさ」
 「……そういえば妙ですね。確かに爛好肇薀ぅ瓩廊爛皀襯殴鵐譟璽騰畧修離皀咼襯后璽弔任垢、爍天伸瓩諒が技術的価値は上かと思われますし」
 
 メリオルがいぶかしげに考え込み、気だるげにムウが答えた。
 
 「んなの、単に知らなかったからじゃないか?」
 「そ、そんな理由で――」
 
 ナタルが呆れて否定すると、アムロはぱっと表情を変え、言った。
 
 「それだよ。恐らく彼らは爛瀬ー瓩筬爍天伸瓩里海箸髻↓爛妊絅┘覘瓩筬爛丱好拭辞瓩汎営度にしか考えていないんだ」
 
 彼はもう一度短く考え込み、続けた。
 
 「それに、この件は既に上層部で決められていたことに見えた。だから――」
 
 一同は彼の次の言葉を待つ。アムロがさっと視線をこちらに向きなおし、こう告げた。
 
 「連合にとって、爛好肇薀ぅ瓩竜蚕囘価値は皆無に等しい。そう思う」
 
 すかさずナタルが反論する。
 
 「馬鹿な! ならば、我々の任務とは――」
 「だからさ、僕たちはこんなところに寄り道もできたし、量産化も始まって、爍天伸瓩里茲Δ糞‖里盧遒蕕譴討ているんじゃないか?――おそらく、『決定的な何か』を地球連合は手に入れてしまったんだと思う。爛好肇薀ぅ甍幣紊砲諭
 
 ――決定的な、何か。妙に含んだ物言いに、マリューは真剣な顔で頷いた。
 
 「……そうね。とにかく、慎重に行動しましょう。上層部が爛好肇薀ぅ瓩離如璽芯鷆,魑可したというのなら、それにしたがうわ」
 
 メリオルがさっと眼鏡の位置をただし、後に続く。
 
 「『爛好肇薀ぅ瓩痢戰如璽拭△箸いΔ海箸任垢諭
 「ええ、そういうことよ」
 
 マリューは彼女に微笑み、自分のデスクに向き直った。まだまだやるべきことは山積みなのだから。
 
 
 
 同じ頃、艦内の一室では熾烈なる戦いが繰り広げられていた。
 
 「いいって! このままでぇっ!」
 「なりません! そんな格好で、国民の目に触れるような場所に出ることは、このマーナの目が黒いうちは許しません!」
 「絶対に嫌だ! あいつらの馬鹿笑いする姿が目に見えてるんだよお! そんな鬱陶しい格好しているとぉっ!」
 「どこが鬱陶しいんです! 姫様の社会的地位に見合った服装でございますっ!」
 
 などという言い争いと、どたばたと格闘するような音が、カガリが使っている士官室から聞こえてきて、通りかかったクルーたちは思わずドアの前で様子を窺っていた。
ひとしきり騒動が聞こえたあと、観念したのかカガリはおとなしくなり、ややあって、ドアが開いた。
 現れた人物の姿に、クルーたちはぎょっとして立ち尽くす、無理も無い。先日まで粗雑なふるまい、汚れたジャケットにカーゴパンツという格好を見慣れていた者には、今、目の前に現れた、上品なドレスを身にまとい、髪を整えられた、どこの夜会に現れてもおかしくない令嬢が、同じ人物とは思えないだろう。
 カガリはむっつりとした顔で部屋から出て、彼女を盛装に着替えさせた侍女に手を取られると、その手を振り払った。
 
 「一人で歩ける!」
 
 だが、大柄でたくましい侍女は負けていない。
 
 「ダメでございますっ!」
 
 頭ごなしに叱りつけ、断固として『姫君』の手を取った。勇ましいカガリも、この母親のような侍女には頭が上がらないのか、それ以上反抗をあきらめ、しずしずと歩き始める。当然、待機を命じられて暇なクルーたちが、この見ものを逃すはずがない。
通路にはたちまち人垣ができ、みな、自分たちの知る少女の変身ぶりに目を見張った。
 ちょうどそのとき、食堂へ行こうと甲板から戻ってきたキラとフレイが通りかかる。
 クルーたちの中からジェスがばっと躍り出て、その姿を確認したジャンが心底呆れた顔になる。
 
 「こりゃスクープだぜ! お姫さん、一枚、こっち向いてっ!」
 「……やれやれ、ずいぶんなことだな」
 
 何が起こったのかと最初は目を見開いていたキラだったが、人垣の向こうからカガリが現れて、納得する。彼自身は以前にドレスアップしたカガリを見ていたからか、それほどの衝撃は受けなかったが、こういう格好をしていると、やはりお姫様なんだなあと思う。
 
 「ぷっ、あは、あははは、あっはっはっはっは! カガリが馬鹿やってるぅー!」
 
 すかさず、フレイが盛大に噴出した。キラは思わず釣られて笑いそうになってしまった。カガリが顔を真っ赤にして駆け寄り、フレイの笑い声以上に大声で怒鳴り散らした。
 
 「わ、ら、う、なぁーっ!!」
 「あーっはっはっは! おかしー、お腹痛い、痛いー! 死んじゃうー、あははははは!」
 
 腹を抱えて笑い転げる彼女に目をやり、カガリは思い切り悔しそうな顔になる。
 
 「笑いすぎだ! もう良いだろ、笑うな!」
 「あはははは!」
 「お前ぶっ飛ばすぞマジで! なあ!」
 
 目じりに涙を浮かべながら笑うフレイを、同じように目じりに涙を浮かべてカガリが胸倉を掴む。すると――。
 
 「ふん、馬子にも衣装だな」
 
 カナードが、キラたちの後ろから皮肉った。
 
 「お、お前ぇ―っ!」
 
 だっと走り出し、カガリは彼に殴りかかるも、片手でいなされバランスを崩し倒れそうになり、ラクスが慌てて支えてやった。
 
 「ふふ、似合っていますわ、カガリ様」
 「えっ? そ、そうかな――」
 「はい、ネコに小判っ」
 
 にこやかにそう告げたラクスに、カガリは目を見開きながらこぶしを握り締めた。
 
 「は、ははははは……いい度胸だなおい……」
 
 すると、サイたちまでも集まってきて、皆がカガリの姿に喚声を上げた。
 
 「うお、本当に着てる……」
 「……お姫様だったんだ、ほんとに」
 「うっひゃー、変なのー」
 「ぷっ、あははは、カガリさんが変―っ! あはははは!」
 「お前ら全員後で覚えてろよお!」
 
 それぞれの反応に、カガリは悔しそうに地団駄を踏んだ。つまらなそうにしていたオルガがちらとカガリのドレスに視線をやり、「豚に真珠だな」とつぶやいた。
 
 「はいお前―! 聞こえたぞ、聞こえたからなぁっ!」
 
 顔を真っ赤にして暴れまわるカガリの背後で、侍女のマーナがほろりとこうつぶやいた。
 
 「ああ、カガリ様にこんなにご友人が……」
 
 と。
 キラは過呼吸になり苦しそうにしているフレイの背中を軽くさすりながら、柔らかい背中だなとも思いつつマーナの言葉の意味を考えていた。
 
 
 
 翌朝――爛◆璽エンジェル瓩鉢爛僖錙辞瓩亮囲には、爛皀襯殴鵐譟璽騰瓩ら派遣された技術者や作業員たちが車両で乗りつけ、クレーンやフォークリフトなどの作業者も行き交い、驚くほど活気ある状況を呈していた。まるで大きなケーキに、アリの群れが一斉に襲い掛かったような有様だ。
 その様子をモニターで見ながら、当直のノイマンが感嘆する。
 
 「驚いたな、もう作業にかかってくれるとは」
 「そりゃ虎の子の爛好肇薀ぅ瓩鯊澆靴討發蕕┐襪辰討鵑世らなあ、張り切ってんだろ」
 
 チャンドラが呆れた様子で答え、ノイマンは軽く溜息をついた。
 
 「そういうもんだよな、やっぱり」
 「そういうこったな」
 
 二人で相槌を打つと、丁度そのとき、マリューからの通信が入った。
 
 〈それじゃあ、行ってくるわね〉
 「了解です、艦長」
 
 さっとノイマンは敬礼する。通信が切れると、チャンドラが興味深げに聞いてきた。
 
 「何しに行くんだっけ?」
 「さあ? 最重要任務、としか教えてもらえなかったからな」
 
 ハルバートン曰く、それこそが爛◆璽エンジェル瓩オーブに立ち寄った本当の目的なのだとかなんとか。まあ彼の考えることなのでまた碌なことでは無い気がするのだが、表情には出さないように努めることにした。
 こんな朝早くから、さる重要人物と面会とは、ご苦労なことだ。完全に他人事なノイマンは、後数分で引継ぎだと思い、やれやれと肩の筋肉をほぐした。
 
 
 
 ハルバートンに引きつられ、彼に言われるがままに黒く塗られたリムジンに乗せられ、キラは目をぱちくりとさせるばかりだった。
 会談の立会人として指名されたのはアムロ、キラ、フレイ、ラクスの四人。それに付き添う形で、ハルバートン、マリュー、ナタルと続き、どういうわけかジェス・リブルまで同行してきた。
 サングラスをかけた強面の運転手が車を止め、ドアを開ける。
 
 「こちらです」
 
 車から降り立ったキラたちは、促されるまま数十回建てのビルの中に入っていく。エレベーターに乗り広い通路をしばらく歩くと、彼らは応接室へと案内され、ハルバートンが扉を開けた。すると――。
 
 「やあ、待ってましたヨ」
 
 そう言って軽く手を振って見せた男は、金髪で色白の、ほっそりした優男であった。三十代後半だという年齢よりも若く見える男の顔に、ラクスの表情が凍りつく。
 
 「ム、ムルタ・アズラエル……」
 
 キラは、はっと目を見開いた。ムルタ・アズラエル――反コーディネイターの政治団体爛屮襦璽灰好皀広瓩量措腓砲靴董▲▲坤薀┘觝眞弔慮譱盪福そんな男が、何故こんなところに?
 
 「あーっ! あんたは!」
 
 ジェスが思い切り驚き指を刺した先で、黒髪を肩の位置で切りそろえた細身の男が優雅に座っていた。
 
 「なあマティアス、ひょっとして、依頼主ってアズラエルだったのかよ!?」
 「ふふ、言ってなかったかしら?」
 
 マティアスと呼ばれた男が口を開き、釣られてフレイが気色悪そうに声をあげた。
 
 「オ、オカマがいるっ」
 「まあ、失礼な子ね。『紳士』って呼んでちょうだい」
 
 彼(?)が小さくウィンクをし、フレイがうっと視線を逸らした。
 アズラエルがこほんと咳払いをしてからさっと立ち上がり、アムロに厭らしく眺める。
 
 「いやいや、お久しぶりですねェ、アムロ君」
 
 言われたアムロが怪訝そうな顔になり、アズラエルがさっと付け足した。
 
 「ブライト君たちはお元気ですカ?」
 
 ほんの一瞬、アムロが目を見開き息を呑んだが、すぐさまもとの表情に戻し、会食用に作られた広いテーブルの椅子に腰を下ろした。
 
 「……目的は何だ」
 
 ハルバートンが小さく舌打ちをし、同じように席に着く。
 
 「そう焦らずに、まずは食事でも楽しみましょう」
 
 心底嬉しそうに口元を歪め、アズラエルが大げさにキラたちを手招いた。
 言われるがまま、席に着くと、ハルバートンが短くアムロに、「すまん」と言ったのが聞こえた。楽しそうに含み笑いをするアズラエルと対照的に、キラたちの表情は固い。それもそのはず、本来ならばアズラエルはここにいていいような男では無いのだから。
この男の発言力は、今や連合の方針さえも変えてしまうほどの力を持っている。 だというのに、わざわざオーブに出向いてまで来た理由とは?
 七面鳥の丸焼きやローストビーフ、サラダにスープなどが所狭しと並べられていき、料理全てが出揃ってから、アズラエルが「さあ、ドウゾ」と促した。一同は一言も発せず、黙って食事に手をつける。ローストビーフを一口食べたキラに、彼がいやらしい笑みを浮かべて声をかけた。
 
 「どうです、キラ君。ここの料理のお味ハ」
 「えっ? あ、はい、美味しいです……」
 「それは良かった」
 
 本当に良かったと思っているのかどうかも怪しい言い草で、彼が大げさに喜んで見せた。ふいに、ラクスが口を開いた。
 
 「ムルタ・アズラエル様、貴方は犒譴離丱譽鵐織ぅ鶚瓩砲弔い討匹Δ考えになっているのですか」
 
 マリューがぎょっとして振り向いた。いきなり何を、と言いたいのだろうが、ラクスは無視して続ける。
 
 「あれだけの悲劇を起こしておいて尚戦うというのですか?」
 
 普段の様子とはだいぶ違う凛とした態度で、彼女はアズラエルをきっと見据える。しかし、とキラは思った。それは水掛け論だ、ナチュラルにはナチュラルの言い分が……爛┘ぅ廛螢襯奸璽襦Εライシス瓩箸いθ畄爐起こされているのだから。
 
 「何故? もうよろしいのではないでしょうか?」
 「いーえ、よろしくありまセン」
 
 まともに議論する気すら無い様子のアズラエルがからかうように返す。
 
 「ですから何故?」
 「理由なんてありませんよ。強いて言うなら……『スカッとする』、からですかねェ」
 
 見え透いた挑発であったが、今のラクスには聞いたようで、彼女はぎりっと奥歯をかみ締めた。
 
 「そんな理由で貴方は――」
 
 彼女が激昂しかけたところで、アズラエルがさっと手で制し、告げた。
 
 「あーはいはい、わかりましたカラ。――それよりも、ジェス・リブル君?」
 
 問われたジェスは、はっとして懐から小さな封筒を取り出し、アズラエルに差し出した。彼は「ドウモ」と言いながら封筒を開ける。ここからでは良く見えないが、中身はどうやら何かの写真のようであった。
 
 「ふーん、なるほド」
 
 何がふーんなるほどなのか全くわからなかったが、表情から察するにそれなりに満足行く結果を得られたようである。アズラエルがフレイとラクスを一瞥してから、再びアムロに向き直る。
 
 「サテ、本題と行きましょうか」
 
 キラはごくりと生唾を飲み込んだ。とうにローストビーフの味などは忘れていた。
 
 「狆夜啼鳥瓩浪罅垢梁Δ砲△螢泪后
 
 ハルバートンの表情が曇り、アムロは苦虫をつぶしたような顔になる。
 
 「……そういうことか」
 「ええ、そういうことデス」
 
 キラには――否、キラだけではない、マリューもフレイもラクスも、ナタルでさえもわけがわからないといった様子で困惑の色を浮かべているだけだ。
 
 「ならばあのマシンには――」
 「狆夜啼鳥瓩凌澗,魄椰△靴討△蠅泙后――いや、眼球と言ったほうが正しいでしょうか……もしくは、脳みそトカ」
 
 アズラエルのからかうような言葉に、アムロは右手で軽く頭を支える。その様子を満足げに楽しみながら、アズラエルは続ける。
 
 「嫌だとは、言わせませんよ」
 
 観念したように視線を逸らしたアムロに満足したのか、アズラエルは更に饒舌になって続ける。
 
 「いやー良かった良かった。わざわざこんな国にまで出向いてきた甲斐がありましたヨ。ところで――」
 
 アズラエルが芝居がかった仕草で大げに手を広げた後、ふと思い出したかの用にこう告げた。
 
 「爛瀬ー瓩呂匹Δ任后 フレイ・アルスターさん」
 
 フレイがびくりと反応し、少しばかり考えてから言葉を選んで答える。
 
 「え、と。良いマシンだと思います。……たぶん」
 「爛侫.鵐優覘瓩盪箸┐織鵑任垢諭」
 「はい」
 
 彼女の返事を満足げに聞いてから、アズラエルは一度言葉を切り、背もたれに体をゆったりと預ける。
 
 「いるじゃないですか、『こちら側』にも優れた……空間認識能力者が」
 「彼女は関係ない。用があるのは俺だろう、ムルタ・アズラエル」
 「ふふ、それもそうですネ」
 
 アムロの鋭い視線をさらりと受け流し、アズラエルは立ち上がった。
 
 「さて、お喋りはこの辺にしておきましょう。アムロ君、それからハルバートン君、こっちですヨ」
 
 つかつかと扉へと向かう彼に、二人が無言で付き従う。
 
 「マティアス君、後を頼みます。――くれぐれも喋りすぎないヨウに」
 「貴方こそ、はしゃぎすぎちゃだめよ」
 
 呆れ気味に返したマティアスをちらと一瞥してから、アズラエルは部屋を後にし、アムロたちもそれに続いた。
 短い沈黙の後、マティアスが優しい声音で口を開く。
 
 「さて、何か質問はあるかしら?」
 「……レイ大尉とはお知り合いなのですか?」
 
 マリューが注意深く聞いた。
 
 「ええ。爛蹈鵐鼻Ε戰覘瓩辰特里辰討襪しら?」
 
 彼がいたずらっ子のように視線をキラたちに向け、皆が首を振った。
 
 「……C・E・30年の爛僖譽好謄ナ公会議瓩慮紂権威失墜を恐れた権威者たちは、秘密裏にその原因を作ったジョージ・グレンを拉致し、暗殺を企てたわ」
 
 マティアスが語りだす。
 
 「それを阻止すべく、ユーラシア連合はある特殊部隊を派遣した――『ゼダン』、『アマルガン』、『アスカル』の三人で構成されたハイテク特殊部隊爨銑瓠帖帖
 「おとぎ話のですか?」
 
 フレイが不思議そうに聞くと、マティアスは苦笑をこぼした。
 
 「コードネームよ。本名まではわからないわ」
 
 そのまま彼がふっと息を吐き、続ける。
 
 「やがて彼らは新たに『レイ』を部隊に引き入れ、その強さは次第に大西洋連邦を脅かすほどになっていった……。C.E.32年、完成間近だったモビルアーマー爛廛螢鵐轡僖謄瓩鯣爐蕕貿鵬されて以来、大西洋連邦もようやく対爨銑疉隊の設立を考え始める」
 
 一度言葉を区切り、マティアスはさっと姿勢を正す。
 
 「それが、爛蹈鵐・ベル瓠N匹ぬ樵阿茲諭¬扈辰砲麓麥悗鬚弔韻討靴泙うというのですもの……」
 「ですが、爨銑疉隊は40年に解散したのでは?」
 
 ナタルが苛立たしげに口を挟む。まるで「何を出鱈目を」とでも言いたいかのようだったが、マティアスは怒った様子も無く苦笑を漏らしただけだ。
 
 「ええ、そうよ。爨銑瓩廊爛蹈鵐鼻Ε戰覘瓩叛錣Δ海般気解散し、結局爛蹈鵐鼻Ε戰覘瓩呂燭世亮存撹隊へと成り下がったわ。来る日も来る日も戦闘実験。――彼はそこの出身なの」
 
 隣にいたフレイが、小声でナタルに声をかけた。
 
 「……本当なんですか?」
 
 問われた彼女は深く考え込み、答えた。
 
 「爨銑瓩箸いμ召蓮軍の教科書にも載っていることだ。だが……」
 「今はもう存在しない部隊よ。軍の中でも一部の人間しかしらない、ね」
 
 ナタルの疑問に、マティアスが優しく答えた。
 
 「ああそうそう、ラクス・クラインさん」
 
 思い出したかの用に彼が告げ、ラクスが答える。
 
 「あ、な、なんでしょうか?」
 「貴女の安全は保障するわ。だからそんなに怖がらないで」
 
 そう言ったマティアスからは、アズラエルとは違う本物の優しさを感じることができた。
 
 
 
 翌日――キラは爛皀襯殴鵐譟璽騰瓩離丱ーに先導されて爛好肇薀ぅ瓩髻地下の工場区へと運び、その広大さに目を見開いた。
 
 〈――そちらのゲージへ〉
 
 ふいに無線機から女性の声が聞こえた。足元を見やると、その声を発したらしい女性が、手を振って指示している。キラは指示どおりに爛好肇薀ぅ瓩鬟瓮鵐謄淵鵐好戰奪匹悗反覆泙擦晋紂▲灰ピットから降りた。
 
 「ここって……」
 
 戸惑いがちに声をかけるキラに、三十代くらいの女性はにっこりと微笑みかけた。短いジャケットにジーンズというラフな服装だが、どうやらここの技術者らしい。
 
 「ここなら、爛好肇薀ぅ瓩盍萎な修理ができるわよ。いわば、お母さんの実家みたいなもんだから」
 「はあ……」
 
 まだ困惑しているようなキラに、女性は「こっち」と言い、きびきびした動作で先に立って歩き出す。
 
 「私は、エリカ・シモンズ。あなたに見てもらいたいものは、こっちよ」
 
 彼女は名乗りつつ、キラに名をたずねることもせずに、工場内を早足で歩いていく。キラは置いていかれないようにと足を速め、後につづく。彼女は彼がついてきていることさえも見ずに、薄暗い通路を抜け、もう一つのゲートをくぐった。キラは後に続き、次の区画で自分を待ち受けていた光景に、あっと息を呑んだ。
 ――爛好肇薀ぅ瓠
 そこには、数体のモビルスーツが並んでいた。ほとんど爛好肇薀ぅ瓩噺まがう形状の――。
 
 「やっと来たか……。おい、こっちだ」
 
 聞き覚えのある声の主を探し、キラは視線をモビルスーツの足元へとやった。そこには、周囲の作業員と同じように爛皀襯殴鵐譟璽騰瓩虜邏班に身を包んだカナードが、立っていた。
 
 「M1爛▲好肇譽き瓠宗愁ーブの機体だそうだ、一応な」
 「あら、厭味な言い方ね」
 
 一応のところに強いイントネーションをおいた彼に、エリカは面白がるような口調で言う。
 キラは呆然としながら、ふたたびモビルスーツに目をやった。よく見ると、爛好肇薀ぅ瓩箸楼磴Αベースカラーは白で、胸部に黒、腕部や下部などに赤が使われ、背中からは爛─璽襯好肇薀ぅー瓩陵磴砲盪たバーニアスラスターが突き出している。爛好肇薀ぅ瓩茲螢好沺璽箸憤象を与えるボディは、おそらく機動性を重視した結果だろう。
 
 「こんな……」
 
 キラはまだ信じがたい思いでそれを見、エリカにたずねる。
 
 「オーブはこれをどうするつもりなんですか?」
 
 訊かれてエリカはきょとんとした顔になる。答えたのはカナードだった。
 
 「戦争だよ」
 
 彼はあざけるような視線で、M1爛▲好肇譽き瓩鮓つめる。
 
 「今の世で無防備宣言なんてしてみろ、東アジア連合あたりが大喜びで植民地にしに来る。力ってのは必要なのさ」
 
 エリカはやれやれと苦笑を漏らし、キラに向き直った。
 
 「――さ、こっちよ、来て」
 
 エリカがまた先に立って歩き出し、彼らはその区画を後にした。キラたちはエレベータでさらに下層に向かい、エリカに先導されてひとつの部屋へ入る。そこは前面が強化ガラスになった、視察用のブースらしい。
ガラスの向こうは広々とした試験場となっており、そこには三機の爛▲好肇譽き瓩並んでいた。キラは黙ってガラスの側に寄る。今度はなんなんだろう?――と思ったとき、エリカがインカムで呼びかけた。
 
 「アサギ、ジュリ、マユラ!」
 
 するとスピーカーから〈はあーい!〉と、甲高い声が返ってきて、キラはぎょっとする。
 ――こ、これが操縦者?
 
 〈あ、その子がキラ君って子?〉
 〈あら、可愛い!〉
 〈やだー、ほんとに可愛いー!〉
 「え、ええ?」
 
 キラはモビルスーツの外観とあまりにそぐわない、華やいだ姦しい声に、ぎくっと身を引いた。
 
 「あ、やっと来た」
 
 背後から聞こえる聞きなれた声に、キラは弾かれたように振り向く。
 
 「ン、来たようだね」
 
 仁王立ちをしてキラを睨み付けるフレイの側から、アムロが何時もの調子で言う。
 
 「ピスティス中尉、用意を」
 
 彼が傍らにいたメリオルに指示を出し――彼らも皆爛皀襯殴鵐譟璽騰瓩虜邏班を着ていた――彼女が広いデスクのコンソールを手早く操作する。
 
 「サポートシステムのOSはほぼ完成した。後は戦闘データを積ませるだけだ」
 
 傍らのカナードがぽんとキラの背中をたたいた。
 
 「やれよ、あいつの相手になるヤツがいない」
 
 彼が視線でフレイを指すと、彼女はとたんに不機嫌そうな顔になる。
 
 「カガリたちが弱すぎんのよ、訓練にだってならないじゃない」
 
 そんな馬鹿な、とキラは思ったが、ここ数日の彼女の実力から推察するにありえない話ではないことだと思い立ち、複雑な表情になる。
 
 「うるさいなー、たまたまだよ、たまたま」
 
 いつもと同じ、Tシャツにカーゴパンツ姿のカガリが、壁に寄りかかりながら不機嫌そうにつぶやいた。
 
 「たまたま何十回も負けたってわけ? ほんと、バカガリっ」
 
 ぐっと押し黙るカガリに満足して、フレイは足早に奥の扉に向かった。
 
 「ヤマト少尉、相手をしてやってほしい」
 
 アムロが短くキラに告げた。
 
 「はい」
 
 キラはさっと答え、急いでフレイの後に続いた。
 
 
 
 ドアが開き、懐かしい両親の顔が見えたとたん、少年たちは走り出していた。
 
 「母さん、父さん!」
 
 オーブ軍本部内における一室で、少年たちの両親は彼らを待っていた。先日カズイが口にした希望的観測が、実現したのだ。オーブに到着してからはや三日、どんなにこの日を待ち望んでいたことか――。
少年たちは出港するまでのわずかな期間であるが、肉親とともに時間を過ごすことを許された。昨日マリューからそれを聞かされたとき、既にミリアリアなどは半泣きになっていた。
 
 「トール……!」
 
 壮年の男がトールに駆け寄ると、彼の母は手で口元を覆い、嗚咽を漏らす。男は「おまえ……」といいかけたが、やはり胸がいっぱいになったのか、そこで黙り込んでしまう。
 彼らの隣ではミリアリアの母親が、娘をかたく抱きしめている。父親も可愛い娘の軍服姿に戸惑いつつ、久しぶりの再開に喜びを隠せない様子だ。部屋にはサイとカズイの両親の姿もあった。
 
 「……キラ」
 
 母の懐かしい声に、キラは動かなかった。否、動けなかったのだ。どういう顔をして会えば良いのか、わからない。何を言ったら良いのか――。
 母のカリダが駆け寄り、キラを力強く抱きしめた。
 
 「良く無事で……」
 
 キラの肩を優しく撫で、父のハルマが言う。
 
 「上陸許可が下りたのだろう? さ、家に帰ろう」
 
 キラはどこか気まずい様な顔になり、視線を落とした。話さなければいけないことは山ほどある。あれから自分たちがどういう目にあって……誰と出会ったかを。何故黙っていたのかとか、本当の父と母のことを。でも――。ふいに、背後の扉が開き、聞きなれた声がする。
 
 「お、おい、オレは――」
 「彼で最後です。出港は七日後ですから、それに間に合うようにしてください」
 
 背中を押され慌てて戻ろうとするカナードを無視して、マリューが両親たちに向き直った。
 キラの鼓動がどくんと高鳴る。言うのなら、今しかない。でも――。
 でも、体が動かない。言ったら父と母が、もう家族ではなくなってしまうかもしれないから。今までのように接することができなくなってしまいそうだから。
 カリダが、カナードを見、目を見開く。キラを抱いている指に力が入り、彼女は震える声でつぶやいた。
 
 「……カナード?」
 
 ――知っていた! キラはその後の母の行動を注意深く見つめる。
 ハルマがまさか、と言わんばかりに驚愕の色を浮かべ、彼女は飛ぶようにカナードを抱きしめた。
 
 「お、おい!」
 「ああ、カナード! カナード・パルス! 貴方は――」
 
 そこから先は、言葉にならなかった。その母嬉しそうな、そして悲しそうな声に、キラは泣きそうになりながら口を開く。
 
 「ごめん。知っちゃったんだ……ぼくたち……」
 
 ハルマが一瞬躊躇した後、「そうか」とだけつぶやき、キラの頭を優しくなでた。それだけで、キラは充分だった。
 キラは両親との面会を楽しんだ後、各々の自宅へと戻るトールたちと別れを済ませてからそれぞれの両親に挨拶をしていたアムロに声をかけた。
 
 「あの、アムロさん……ありがとうございました」
 「ウン?」
 
 きょとんとした顔になったアムロが聞き、キラは自然と笑顔になる。
 
 「お礼を言っておきたくて」
 
 ――オーブは厳しい国だ。いかに国民であったとしても、他国の軍に属するものの入国をそう簡単に許可を出したりはしない。おそらくは、あのムルタ・アズラエルに掛け合ってくれたのだ。特殊部隊出身のアムロの力を欲するアズラエルに協力する条件として、きっと今回の件も――。
 アムロがふっと優しい顔になり、キラの頭を優しくなでた。
 
 「君は良くやってくれたよ。ゆっくりしてくるんだ」
 「はい」
 
 思わず笑顔になって答えると、同じく両親たちに挨拶をしていたマリューが視線をさっとカナードに向け、優しく言う。
 
 「パルス中尉、貴方もよ」
 「オレは……別に……」
 
 唐突に言われたカナードはどこか都合が悪そうに顔を逸らす。その仕草が妙におかしくて、キラは思わず噴出しそうになった。
 自宅へと戻るため、キラたちは部屋を後にし、薄暗く長い通路とエレベーターを登って外の軍港へと出た。既に日は落ちかけていたが、久しぶりの太陽の眩しさに思わず手で太陽を覆い隠くす。ふと、広大な滑走路に立つ二つの人影を見つけ、キラは目を凝らした。
 
 「ヤマトご夫妻……ですな?」
 
 ウズミ・ナラ・アスハが歩み寄る。どうして自分が連れてこられたのかわからない様子のカガリがこちらを見つけ、ようっと手を振った。そのとき――
 ぴしゃり、と、鋭い音が鳴り響いた。ハルマが驚き、カガリが唖然と見つめる。
 そこには、カリダの鋭い平手打ちを受けたウズミが立ち尽くしていた。カリダが憤る。
 
 「人でなし!」
 
 ウズミは黙ったまま、動かない。ハルマが間に割ってはいる間もなく、カリダはウズミに掴みかかった。
 
 「あなたが最初からああしてくだされば、カナードを一人にさせることなんてしなかったのに!」
 
 キラは、はっとカナードを見やる。彼もまた、注意深くカリダの行動を見守っているようだ。
 
 「カリダ、もう良い!」
 
 ハルマが尚もすがるカリダを無理やり引き剥がし、ウズミを一瞥し、軽く頭を下げた。
 
 「……すまないとは、思っている」
 「でしたら、何故今ここに!? カガリまで連れて!」
 
 唐突に自分の名を出され、カガリはびくっと身をひいた。
 
 「約束はどうしたんですか! あの人たちとした約束は!」
 
 尚もカリダが憤り、ウズミは少しばかり躊躇してから口を開く。
 
 「――知らぬというものは恐ろしいのです。彼らは知らぬまま、出会ってしまったのですから」
 「あなたは昔からそう。まるで自分が世界の中心にいるかのように考えて!」
 「あれの娘は、結局知らぬまま、父とも、そして母とも死別することになったのです。それは哀しいことではないかと、私は思います」
 「あの人の気持ちも知らずに、よくもそんなことを言えます! あの人は、ジョージは――!」
 「カリダ!」
 
 ハルマが慌てて割って入り、カリダは、はっと我に返った。カガリが呆然とつぶやく。
 
 「ジョージって……?」
 
 ウズミはさっとカリダに向き直り、口を開いた。
 
 「それで本当に幸せだとお思いですか……?」
 
 彼が語りだす。
 
 「最愛の娘に何一つ知らせず、教えず! 一人老いて死んでいくことが、子供のためなのでしょうか?……そんなことは無いはずです」
 「……あの人は、普通に生活して、普通に恋をして、普通に笑って過ごす――そんな生活を彼女にして欲しかったのに。……爛悒螢ポリス瓩妊皀咼襯后璽弔鮑遒辰董彼女を巻き込んだ貴方に言えることではないでしょう!?」
 「それでも……それでも私は――」
 
 ウズミが傍らのカガリを抱き寄せ、カリダの前に立たせた。うっと竦むカリダに、カガリはわけもわからず目をきょろきょろとさせる。
 
 「私は、カガリ達を信じます」
 
 「えっ?」と声を上げ、カガリが父の顔を見上げた。
 
 「彼女に教えられましたよ。一番大切なのは、『繋がり』であったのだと。カガリは家を飛び出し、二人に出会いました」
 
 そう言いながら、ウズミがちらとキラとカナードを一瞥し、そのまま続ける。
 
 「――あれの娘にも……」
 「因縁めいたことをおっしゃらないでください! 子の代にまで受け継がせるつもりですか!」
 「そうではない! 私は、この子達ならばそれすらも乗り越えていってくれると――」
 「それは貴方の理屈です!――もう、この子達を巻き込まないでください……!」
 
 消え入りそうな声で、カリダがキラとカナードを硬く抱きしめる。キラは震える母の体をそっと抱き返した。母の嗚咽に混じった涙が、キラにはとても哀しく感じた。
 黄昏色の空は、すっかり暗くなっていた。
 
 
 
 その夜、キラは久しぶりの母の手料理を楽しみ、自分の家のお風呂に入り、自分の家のベッドにもぐりこんだ。ふと思い立ち、キラは床に布団を敷いて横になっているカナードに声をかけた。
 
 「ね、母さんのロールキャベツ、美味しかった?」
 
 彼は片眉をぴくりと上げ、寝返りを打つ。
 
 「まあ……悪くはなかった」
 
 キラはたまらなく嬉しくなり、自分の布団をぎゅっと抱きしめる。しばらくの沈黙の後、キラは気になっていたことを打ち明けた。
 
 「母さんたちとアスハさんの間に、何があったんだろう……」
 「……さあな。爛瓮鵐妊覘瓩里海箸念賁綯紊△辰拭△らいしかわからん」
 「そっか……」
 
 でも、母は決して自分たちを見捨てようとしたわけじゃあないということがわかった。それだけでもキラ十分だったのだ。カナードも、キラも、平等に自分たちの息子として扱ってくれる両親の愛情が、とても暖かかった。
 
 「ねえ、カナードはまだ戦うの?」
 
 彼の背中に、キラは探るように言った。カナードが天井を見上げ、凛とした態度で告げる。
 
 「ああ」
 「どうして? アラスカまで行けば、一緒に――」
 
 そこまで言いかけて、キラは口を紡いだ。いつになく真剣な表情で、カナードは独り言のようにつぶやいた。
 
 「オーブへ来て、カリダに会って――やっと、思い出したんだ」
 
 まだ母と呼んでいないことにキラは少しだけ胸を痛めたが、黙って次の言葉を待った。
 
 「オレは施設に行くまで、どこで何をしていたのかを――」
 
 彼は一度目を閉じ、深く考え込むようにしてから口を開く。
 
 「決着をつけなければならないヤツがいることを」
 「なら、ぼくも行くっ」
 
 キラは反射的に言い返した。呆れ顔のカナードがキラに目をやる。
 
 「馬鹿。お前は残れ」
 「嫌だ。ついてく」
 「あのなあ……」
 「だって、悪いやつなんだろ?」
 
 真剣な顔でキラが言うと、カナードはもう一度短く思考し、言った。
 
 「まあ、な」
 「なら、ぼくも行くよ」
 
 カナードは目をぱちくりとさせた後、くくっと含んだ笑みをこぼし、大きく息を吐いた。
 
 「まったく、勝手にしろ。――どうなっても知らんからな」
 「うん、ありがとう」
 
 嬉しくなってキラが言うと、カナードは寝返りを打って背を向けた。
 
 
 
 フレイは爛◆璽エンジェル甞頁叱砲離瓮鵐謄淵鵐好戰奪匹某欧された爛瀬ー瓩離灰ピットの中で、寂しさを紛らわすように膝を抱えてうずくまっていた。
 彼女にはミリアリアたちのような工学の知識も無ければ、ラクスのように料理ができるわけでもない。洗濯や掃除だって、ずっとメイドにしてもらってきたのだから、できるわけがない。そう、フレイにできることなど何も無い……はずであった。
この機体に乗るまでは、彼女は限りなく普通に――といってもお金持ちのお嬢さまという立場ではあったが――育てられてきた。父は彼女に、モビルアーマーの操縦方法や工学、生態科学などには一切触れさせようとしなかったし、フレイ自身、それに何の疑問や不満を持たなかったからだ。
 ……こうしてモビルスーツのコクピットに座っていると、なんでこんなことしてるんだろう、という気持ちがふつふつと湧き上がってくる。こんなことするために、軍に入ったわけじゃないのに。
 何だかこうしてるのが馬鹿馬鹿しくなり、彼女はすわり心地の良いシートから腰を上げ、コクピットから降りた。今、格納庫に人はほとんどいない。当直でない者は、ここぞとばかりに休息をとっているし、修理作業に加わっている者もいる。仲間たちの姿はない。みんな家族に会いに行ってしまった。
 そう、その事実も彼女を滅入らせる理由の一つだった。
 独りは、嫌だな――彼女はぎゅっと唇を噛んだ。それも当然だ。ミリアリアも、トールも、カズイの両親だって、みんな生きてそこにいるのだから。サイの両親は昔からフレイを――否、アルスターを嫌っているのだから、声をかけようとも思わなかっただろう。
 しばらく彼女は艦内をうろうろしたが、あきらめて自分の部屋へ向かった。こんな日は、さっさと寝てしまおう。本当はお気に入りのバスオイルを垂らしたお風呂にゆっくり入りたかったが、今となっては叶わぬことだ。
 彼女はむっつりとドアを開け、部屋へ入った。すると――。
 ぱんっという破裂音にが室内に響き、細い紙のテープがフレイの目の前を舞った。
 
 「――おかえりなさい、フレイ」
 
 フレイは驚いて目を瞬かせた。手に持ったクラッカーをふわふわと振り、ラクスがにっこりと微笑む。ハロが足元でぴょんぴょんと飛び跳ね、キラが残していってくれたトリィと楽しげにじゃれあっている。まだラクスは食堂で仕事があるはずなのに、何故、どうしてもうわたしの部屋に……?
 
 「あ、あんた……仕事は……?」
 
 フレイは呆然としながら言うと、ラクスは気にも止めずにふわふわと自分のベッドに腰を下ろす。
 
 「ふふ、今日は早めに切り上げさせてもらいましたわ」
 
 ああ、そうか、ラクスは――
 ただ驚くだけで言葉が浮かばないフレイだが、何故彼女かこうしてここに『いてくれた』のかを理解していくにしたがって、胸の内が熱くなった。
 ラクスがさっとベッドの脇から、手作りのチョコレートケーキを取り出し、優しく微笑んだ。
 
 「最近初めて出会った時の事が、ずっと昔のことのように感じるのです。なんだか可笑しいですわね」
 「……うん」
 
 これは同情? それとも友情? フレイにはわからない。ただ一つ理解していたのは、ラクスはフレイの気持ちを理解してくれていたということ……。きっと、フレイが爛瀬ー瓩覇箸蟲磴い討い燭箸いΔ海箸癲宗宗フレイはたまらなくなって涙をこぼした。
 
 「上陸許可はわたくしたちにも出ていますし、明日二人でショッピングにも行けますわね」
 
 夢見るような口調で、ラクスはフレイに微笑みかける。フレイは瞳に溜まった涙の所為で彼女を見つめられず、嗚咽交じりの息を吐く。
 
 「素敵なお店でお食事も楽しめますわ」
 「……うん」
 
 どうして彼女は自分に優しくしてくれるのだろう。何故、こんなにも――。
 
 「貴女のお家にも、行ってみたい」
 
 その言葉に、今までずっと――父を殺されて以来、ずっと堪えてきた感情が、フレイの心の内を駆けた。彼女が縋るようにラクスの膝元に抱きつくと、ラクスは優しく抱きしめた。
 
 「み、みんな、家に帰るんだって……!」
 
 ラクスはうずくまるフレイの髪を優しく撫でる。
 
 「……うん」
 
 ――なのに、なのに……!
 
 「ミリアリアも、トールも、カガリも、キラも、カナードだって! みんな、みんな!」
 「……うん」
 
 みんなには父も、母もいるんだ! 家族が生きてそこにいるんだ! でも、でも――。
 
 「わたしにはいないのに! パパもママもいないのに、みんなは――! みんなは家に帰るんだって! わたしは、いないのにぃ! わたしは……!」
 
 どうしてわたしだけいないの……。どうしてみんなは残ってくれなかったの……。わたしには誰もいないのに、どうしてわたしだけ置いて……。フレイは優しく抱きしめてくれるラクスを乱暴に抱き返す。
どうしてラクスはわたしといてくれるんだろう。友達だから? でも、それならカガリやミリアリアたちは? フレイにはわからない。でも、一つだけわかっていることがある。それは、フレイにとって、ラクスという存在はかけがえの無いものだということ……。
親友というのは、こういうことものなのだろうか。それとも、これはもっと別の――。
 その日、フレイはこれで涙が枯れてしまうのではないかと思うほど泣き続けた。こんなみっとも無い姿は誰にも見せたくないと決めていたのに。
 でも、何故だろう……こうして誰かの胸でこうしていると、とても落ち着く。ラクスの胸で泣きじゃくりながら、フレイはああと理解した。――母とは、こういう存在なのかもしれない、と。
 
 
 
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