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CCA-Seed_◆ygwcelWgUJa8氏_36

Last-modified: 2012-12-22 (土) 20:59:32

 それは、辛勝と言うべきなのだろう。爛廛肇譽泪ぅス甦霖呂納蕕蠅鮓任瓩討い紳荵梓和癲△よびユーラシア連邦の残党の生存者はゼロであり、ハルバートン率いる第八艦隊の損害も決して少なくは無い。が、後方の支援に徹していたザフトの艦隊はほぼ無傷に等しく、宇宙《そら》での戦局は連合にとって厳しいものとなった。
 全長三十メートルに達するほどの巨体を器用にくねらせ、両脇に伸びる翼を後方へ折りたたむと一匹の赤き竜が爛疋潺縫ン甞頁叱法團魯鵐ー》へ着地した。胸部の鋭利な装甲がせり上がり、内部の爛Εンダム瓮灰ピットハッチがゆっくりと開く。
甲斐甲斐しくも爛淵ぅ船鵐押璽覘瓩離泪縫絅團譟璽拭爾フレイを優しくささえ、集まってくるクルーたちへと促す様子をラウは爛廛蹈凜デンス瓩離灰ピットでじっと見つめていた。
 光の中心に、私はいた。君を器として闇を掃った光、そのすぐ隣に、私が――。
 だからだろうか、いつも感じていた悪寒のようなものは消え、普段はもやのかかっていたように感じていた視界も、さわやかな情景を映し出している。吐く息が暖かい、これが命の温もりか。既に老人となりつつあったラウの体にも、命が宿るのだろうか。それが、命の輝きなのだろうか。
 上半身だけとなった爛好肇薀ぅダガー瓩卜匹似た機体のコクピットがこじ開けられ、一人の女性が担ぎ出される。意識を失っているようで、軍医達が慎重にベッドに寝かせ、同時に彼女が暴れ出さないように拘束具を着せていく。
 ならば、あれがフレイ・アルスターの言っていたメリオルという女か、とたいした興味の無い感想を持った。
 クルー達の多くがそのメリオルに意識をやる中、何かに気づいたフレイが青ざめ、倒れこんだまま動かない爛侫蝓璽瀬爿瓩剖遒唄鵑襦
 爛廛蹈凜デンス瓩離灰ピットハッチが開き、ラウはそのままフレイを追うようにした。爛侫蝓璽瀬爿瓩龍刺堯宗獣度コクピットの位置だ――が何かに貫かれたようにぽっかりと空洞を空けている。
 ステラが無事生還を果たしたシンに飛びついた。こっそりとやってきた妹のマユが、その様子を見てがあと苛立ち、間に割って入る。
 爛魯ぅ撻螢ン瓩らカナードが運び出され、応急手当を受けている。
 爛侫蝓璽瀬爿瓩離灰ピットハッチが開かれる。
 軍医達が慌ててやってくる。
 一番最初にその内部を見たフレイが小さく悲鳴をあげる。
 ラウは、フレイの後ろからその様子を覗き見た。
 それは、酷く小さな『何か』。
 人と表現するにはあまりにもアンバランスなその『何か』は、左肩からその先に存在するはずのものが無く、そのまま左足にかけての半身が黒く変色し、細く乾き、腐り果てた木の表面のようにささくれていた。
 その『何か』はぴくりとも動かない。
 その場に固まっていたフレイを、大慌てで救助に入る数人の軍医が押しのけた。
 彼女は自失したままよろよろとバランスを崩し、ぺたんと座りこむ。
 クスクスと、幼子が笑う。
 ぞっとするほど明るい声。
 彼らが嘲る。
 
 『始まるよ』
 『ようやく始まる』
 『歪んだ世界が、元に戻るよ』
 『ここから、始まる』
 『さあ、やりなおそう』
 
 それは、即ち――
 
 
 
 
PHASE-36 螺旋の邂逅
 
 
 
 
 アスランは、閉じこもりがちになったラクスの食事を彼女の私室へと運び終え、声をかけることもできなかった己の弱さに打ちひしがれていた。
 父を失っても沈んだ様子も見せずに、機械のようにして笑顔を振りまいている彼女。どう言ってあげれば良かったのか、どう接したら良いのか、それがアスランにはわからない。
 本音を言ってしまうと、アスランはラクスに会うのが少し怖かった。
 彼女が恐ろしいわけではない。彼女を傷つけてしまうかもしれない自分が怖いのだ。
 些細な何かが、彼女の心に砕いてしまうのでは無いか。それをアスランは恐れている。
 それでも、自分ではラクスを守ってあげれないかもしれないだとか、救うことができないかもしれないだとかの泣き言を言うわけにはいかない。
 アスラン・ザラは、強くあらねばならないのだから……。
 でも、結局状況に流されているだけなのかもしれない。友が、仲間がいれば何もかもが上手くいくなどという考えは幻想でしかなく、無理なものは無理なのだ。
 これだけの頭数を揃えて、たった一人の少女を救う事すらできない、コーディネイター……。
 アスランは表情を曇らせ、重くなってきた足を無理やり前へ進めた。
 俺はどうすれば良かったのだろう。あの時、彼女を爛ぁ璽献広瓩望茲察△修里泙沺愨つき』にでも投降してればこんな事にはならなかったのだろうか。では、そんな事をしたらイザーク達はどうなる。爛廛薀鵐鉢瓩凌佑燭舛蓮帖勅分を信じてくれた父は……。
 どこで、間違えてしまったのだろう……。
 日に日にやつれていく最愛の人の姿は、見るに耐えない。何もして上げれない自分が悔しく、アスランもまた苦しいのだ。
 あの時、爛ぁ璽献広瓩涼罎波狃に投げかけた自分の言葉が脳裏に蘇る。
 
 『友達、できたんですね……』
 アスランは、全てを救いたかった。ラクスも、友も、国も、家族も、何もかもを。
 だから、アスランはラクスにハロを送ったのだ。彼女はそれをとても喜んでくれた。アスランとしても、こんな玩具で喜んでくれることは嬉しかったし、手作りなのだから渡す甲斐もあると思っていたのだが――そうではないのだ。
彼女は、アスランからの贈り物だからという理由だけで喜んだわけではない。決して手作りだから喜んだわけではない。――ハロは、ラクスにとって生まれて初めての――唯一の……。
 だから、アスランは友にならば自分がなろうと、決めていた。友であり、婚約者であり、彼女を救う者であろう、と。
 しかし、アスランが接し方を変えれば、彼女もそれに応えてくれるというのは、アスランのエゴでしかないのだという事に気づきつつあった。
 心の壁が、ある。
 アスランが近づこうとしても、彼女から拒絶の意を感じてしまう。
 思春期の少年特有の思い込みではない。
 ニコルにも、彼女の影ながら助けてあげて欲しいと頼んでいるが、避けられているかもしれないと感想を口にしていた。
 その心の壁は、恐らくは爛廛薀鵐鉢瓩暴擦爛魁璽妊ネイター、同胞から心を守るために作られたものなのだろう。
 心が折れてしまわないように、自分を見失わないために、心を穢されない為に、彼女自身の手で――。
 足元から闇が這い出てきた気がした。
 天使のような笑顔を浮かべ、狡猾な大人たちの相手をし、それでも決して笑顔を崩さず、その柔らかな声で人々を導き続ける、たった一人の無力な少女の姿を思い浮かべ、唇を噛み締めた。だが、彼女無しでは、爛廛薀鵐鉢瓩和面椶砲覆辰討い燭里澄
差別と暴力、嫉妬――同じコーディネイターの間にも、それはナチュラルと等しく存在している。だから、ラクス・クラインという一人のアイドルのもとに結束をせねばならなかったし、彼女がいなければコーディネイターという種はナチュラルと争うまでも無く、己同士の妬み殺し合いで滅びていく定めだったのだ。
だから、コーディネイターという人々は傀儡《アイドル》という偶像を必要とせねばならなかったのだろう。到底一人では生きていけないから。ああ、これでは古き時代に潰えた宗教と何もかわらないではないか。
盗み、恫喝、暴力、殺し、嫉妬、強姦と悪事を重ねたものは地獄に落ちるという強迫観念と、人を慈しみ、神に祈りをささげ誠実に生きるものは偉大なる父の元に召され永久の幸福を得る――そう言った建前が無ければすぐ隣にいるものと手を取り合い生きていくことのできなかった愚かな人類と、何も変わっていない。
縮小生産したまま潰えていく存在だと、どう否定できようか。このような愚かな種コーディネイターは、ラクス・クラインという主無くして人としての尊厳を保つことすらもできないのだ。
 アスランはいつの間にか酷く焦燥していた。そのまま自分に宛がわれている爛潺優襯亅瓩梁眥梗爾北瓩蝓▲妊好の上にちょこんと置かれた木彫りの虎の像が視界に映りこむ。
 
 これを送ってれた彼は、いまどうしているのだろう。
 必ず力になると言ってくれた、あの人は……。
 その思考は現実からの逃避に近いものであったが、アスランはそのまま逃げ出してしまいたい衝動に駆られながら一度天を仰ぎ、特に変わり映えのしない無機質な天井の灰色を見て無感動のまま視線を元に戻し、逃避した思考が更に過去へと運び去られる。
 ふいに、懐かしい顔が思い浮かんだ。記憶の中の少年は、月にいたあの頃と変わらない優しい瞳をし、それでいて強く成長していたような気がした。
 あいつなら……キラ・ヤマトなら、どうしただろう。
 最後に顔を会わせたのは、いつだったろうか。
 爛悒螢ポリス”の、一瞬の再会……? ああ違った、確か砂漠で、だったか。
 あの場に、今のオーブの代表と、大西洋連邦事務次官の娘と、キラと、アスランがいたのは今思えば滑稽であった。
 ……あの時、何かできたのでは無いか……? それは、彼女達を人質に取るという事では無い。
 バルトフェルド隊長がしたように、彼らの話を聞き、彼らの意思を知り、そうしてアスラン自身の答えを出すことができたのでは……?
 もっと、知っておくべきだったのかもしれない。
 たくさんの知識を、得ておくべきだったのかもしれない。
 それは、遅すぎた後悔である。
 ラクスは、地球での事をあまり話さない。
 恐らくは、アスラン達に気を使っているのだろう。
 彼女にとってその思い出は掛け替えの無いものであり、かつ輝かしいものであるから、それをアスランに聞いてもらう事は、いらぬ不快感を与えるのでは無いか、と。
 そういう気遣いが自然とできてしまうほどに賢く、それが不要なものだと気づかないほどに彼女は愚かであった。
 そして、それはアスランにも同じことが言える。
 アスランは、彼女の意図を知りながらも、彼女が決めた事だからとその意思を尊重したのだ。
 それは、単に過保護と呼べるものでしかないのだということにアスランは気づかない。
 所詮、どれだけ近い存在となったとしても、人は他人にしかなれない。友、恋人、家族ですらも、その他人の本当の心を知ることなどできはしないのだ。
 ――呪われた存在。何もできない自分。滅び行く種。進化したり得ない人類。コーディネイター。どうしたら良い……。俺は……。
 
 決して理解しあうことの無い、触れ合うことの無い他者との違い、見出せることの無い可能性、孤独に生まれ、孤独のまま死んでいく人は、わかりあうことはできないのか――。それでも、と足掻き、同胞を信じ続けたアスランの思いは否定されつつあった。
人は誰もが、当たり前のように生き、生活し、営む自由という名の権利を持っている。だがその自由という名の自我への執着は、やがて肥大し自己を正当化し他人を束縛する正義と名を変え、他者の自由を縛り行く。
正義と自由――決して相容れることのない二つの存在が、希望を、可能性を見出せず何も変わらないままのコーディネイターと、人の可能性を、人類の英知を垣間見、少しずつ変わっていくナチュラルとの間により深い溝を作りつつあるのは不幸なことだ。
ナチュラルがそれを見出せば見出すほど、コーディネイターとはより相容れぬ、敵対した存在へとなっていく。何も、コーディネイターが悪ということではない。結局のところ、コーディネイターを生み出したのもナチュラルの独善と傲慢さ故なのだから。
いや、だからこそと言うべきなのかもしれない。コーディネイターという存在が、歪な存在なのは――。他者より強く、他者より上へ。人類が目指す進化の形は、その過程で歪みを生じ、人としての種そのものの進化というよりも、すぐ隣にいる同じ種である他人よりも、優れた個であることを望んだのだ。
人の可能性を捨てた、個という他人の集まり……それが、コーディネイターの正体であった。
 そうか、とアスランは少しずつだが真理に迫りつつあった。
 コーディネイターは、自分達が優れた種であると信じている。
 確かに肉体はそうだろう。
 では、精神は……?
 神経の伝達速度や筋肉の量、質で心が変わる?
 そんな馬鹿な事があるか。
 学習能力の高いコーディネイターは、十五歳で成人と見なされている。
 ナチュラルでは五年はかかる試験を、コーディネイターは二年で突破する。
 それは即ち、知識や記憶力の問題である。
 コーディネイターにも、犯罪者はいる。
 その中には赤子を殺した者もいるし、無関係の幼子を使って人を殺す者も、弱者を甚振る者もいれば、ボールペンや消しゴムを万引きして捕まったものもいた。
 ナチュラルと、何も変わっていない。
 それは何故だ?
 我々はより進化した人類ではなかったのか……?
 進化――。
 我々は、何から進化したのだ?
 どうやって、進化したのだ……?
 それは、アスランも知っている。
 ナチュラルという人種から、遺伝子を弄り肉体を強化し、誕生した――
 そのままアスランは乱暴にベッドにどさりと座りこみ、項垂れた。
 ナチュラルの、彼らの思考と主義によって生み出されたコーディネイター……ナチュラルの肥大したエゴによって生み出された、我欲の結晶。
 子の未来を金で変えると思い上がったナチュラルが、歪んだ愛情によって遺伝子を弄り作り上げた……それは、ただの……。
 
 
 
 メリオル・ピスティスは重度の精神汚染の可能性あり、と判断され、専用の医務室に収容されていた。
 が、それは患者の扱いではなく、まるで今にも暴れ出すかもしれない猛獣のそれであり、その事実がナタルの気を落とさせていた。
 色んな事が同時に起こりすぎて、何から対処して良いのかわからなくなる。ナタルは重い溜息を吐ききり、キャプテンシートに深く背を預けた。
 強化処理を施された彼女は、目覚めてもナタル達の事を忘れている可能性があるのだそうだ。
 もしもその通りになってしまったら、どうしたら良いのだろう。どう接すれば良いのだろう。何も、わからない。
 …………パイロットスーツごとビームで体の末端を焼かれると、死ねないと聞いた事がある。焼き切られると同時に熔けたパイロットスーツと肉で止血され、苦しみ続けるのだと。それは、拷問である。
 無言のまま、ナタルは艦橋《ブリッジ》の窓から外を見る。何の変哲も無い、静かな宇宙《そら》。まるで悪夢でも見ていたようだ。あれは、何だったのだろう。
 あれに気を取られていた所為で、あの少年を助けるのが遅れた。障害が残る、と聞かされている。
 左腕はもう無い。左足は炭と化しており、切断したそうだ。
 あまりにも突然な、悲劇。
 軍人になったのだから、覚悟はしていた。しかし、本当にそうかと問われれば言葉に詰まってしまうかもしれない。覚悟をしている、つもりだった……。
 ナタルは、ただ漠然と、これからどうしよう、としか考えれなかった。
 爛廛肇譽泪ぅス甦霖呂貿枷されていた第三艦隊の生存者はいなかったそうだ。
 修復可能な機体も無く、文字通りの消滅である。
 地球に放たれた一撃は、大気の減衰を受ける事無く太平洋に着弾し、海底すらも焼いたその一撃で起こされた津波が海岸沿いの街を飲み込んだと聞いた。
 七つに分かれた光が、人里離れてた小さな孤島や高級別荘地を焼いたと聞いた。
 その街は消滅したと聞いた。
 いくつかの大企業の当主らが旅行に来ていたらしいと、報道機関がひっきりなしにテレビで流している。
 戦争の再開は、一ヶ月後となったそうだ。ザフトは地球から部隊を引き上げ、戦力を再編成する時間が欲しく、地球連合は此度の戦いの被害が大きすぎた為、その件はスムーズに事が運んだとナタルは聞かされている。
 ただ、聞かされただけだ。結局ナタルには何の決定権も無く、できる事も無かったのだ。
 その機会にザフトは次々と地球から撤退していき、事実上残されたザフトの勢力は宇宙要塞爛椒▲梱瓩函∨楾颪砲茲蟠瓩け宙要塞爛筌ン・ドゥーエ瓩里澆箸覆辰拭0譽月の間にどれだけの戦力を整えられるかが勝負となるだろう。最初の目標は爛椒▲梱瓠帖弔そらく、そこが決戦の地になる。
 『決戦』……。これだけの被害を出してなお、戦い続けねばならないのだろうか。
 あの少年は、どうなるのだろう。
 助けれるのか……? どうやって?
 無意味な思考が、ナタルの頭の中を埋め尽くし、時間だけがただ過ぎていく。
 呆然としたまま、何度目かとなる『これからどうしよう』という言葉を、口の中だけで小さくつぶやいた。
 答えなど、返ってくるはずが無かった。
 
 
 
 静寂の中、心電図の音だけがかすかに反響し、フレイの沈んだ気持ちを更に落ち込ませる。ベッドに寝かされたキラは人工呼吸器といくつもの生命維持装置に身を包まれたまま眠っている。
 肺は熱風に焼かれ、既にその機能を失っていると軍医が言っていた。彼は人工呼吸器を外されると、自力での呼吸もできずに死んでしまうらしい。
 少年の唇は焼け爛れ色が紫に変色している。
 かけられた薄い布は、その左肩と左太ももからかけてが空虚であり、人ならざる不自然さを醸し出していた。
 色んなことが、ありすぎた。
 ビラードは自ら命を絶った。自分の勝ちだと言っていた。あの時ラウはフラガ家の誰かのクローンだと言われた。では、父は……?
 本当は聞きたいことが山ほどあった。口にしてしまいたい弱音がいくつもある。
 それでも、全ての言葉が喉下まででかかったとき、呼吸が苦しくなり、無意味な擦れた声が出てくるだけだ。
 色んな思いが交錯しすぎて、思考が追いついていないだけなのかもしれない。
 何も、考えられない。
 ただ、フレイは縋るようにして愛している人の左手を握ろうとした時、自分のその指が空を切り、そこに何も無いのだと気づいた時、堪えてきた思いが膨れ上がると喉元がきゅうと絞まり、ぼろぼろと大粒の涙をこぼした。
 
 
 
 格納庫《ハンガー》へ降り立ったアムロが、出迎えたマードックに小さく敬礼をし、固定された爛淵ぅ船鵐押璽覘瓩鮖覲Δ貌れ、言う。
 
 「ようやく許可が下りてね。また爛疋潺縫ン瓩農は辰砲覆襪茵班長」
 
 マードックにとっては願っても無いことだ。
 
 「そりゃあ助かりますぜ大尉。うちは規格外の機体ばっかで――」
 
 ちらと修復作業を受けるザフト製の爛オス瓠↓爛イア瓠↓爛▲咼広瓩鮓回し、同時にアムロと共にやってきたハマナ、ブライアンに視線を送る。
 
 「――ベテランが来てくれるのは、ありがたいことですから」
 
 そのままハマナとブライアンは各々の仕事に向かう。アムロがちらともう一機のモビルスーツ、爛札ぅ弌辞瓩忙覲Δ鬚笋辰拭
 
 「あれは誰が乗るんだ?」
 
 これは彼がここにいないアズラエルに向けて放った皮肉である。
 前の戦いでも、この機体は稼動状態にありながらも一度も出撃する機会を与えられなかった。
 即ち、余計な手間が増えただけなのだ。
 が、アズラエルはそれを改善する気は無いようで、マードックの頭を悩ませる。
 とはいっても、そういった所への無頓着さのおかげで、マードック達整備班は好き勝手やらせて貰っているのが現状であるから、表面上は不満な態度を作っていてもそれを表立って抗議するような事はしなかった。
 ふいにアムロが視線を落とし、言った、
 
 「彼は――?」
 
 彼――問われたマードックは力なく首を振った。……あの少年は、あの土壇場の状況で、爛譽イエム瓩鯒鵬し、メリオルをも救い出すという偉業を成し遂げた。事情を知らぬものは、それを奇跡と呼ぶかもしれない。あるいは数多の戦史につづられる英雄が為せる業か。
だが、実際は違う。キラ・ヤマトは、己が身を代価として、それを成し遂げたのだ。
 褒められるべきことではない。自殺に等しい行為など、誰が推奨できるものか。だが、彼がそうしなければ、あの時メリオルは死んでいたのだ。救える命はどちらか一つ――。己の命と他者の命を秤にかけ、彼は他者の命を救う道を選んだのだ。
そういう決断をできる少年……それは、時代が生み出した悲しい存在か、あるいは世界という名の闇が残したわずかな光か――。
どちらにしても、彼は死んでいいようなものではない。それがマードックの思うところであり、クルー全員の総意に違いないだろう。
 しかし、だからといって事態が好転するわけでもなく……。
 マードックは一度溜息をついた。今は自分にできる事をするしか無いのだ。
 
 
 
 その少女の背中は儚げであり、一六二センチの身長を更に小さく見せていた。
 あれからたくさんの出来事があった。自分があの時彼女と距離を取ってしまったのは、今思えば傷つけてしまっただけなのかもしれない。彼女の為を思っての事だったが、それは失敗だったのかもしれない。その負い目から、サイは少しばかりフレイと距離を取りつつあったのは事実だ。
ひょっとしたら彼女の方からもサイを無意識のうちに避けていたのかもしれない。どう顔を合わしたら良いのかわからなかったのだろう。父と母は、彼女を良く思っていないというのも、フレイを遠ざける原因だろう。
 だが、サイは臆する事無く声をかけた。
 
 「フレイ、大尉がまた正式に爛疋潺縫ン瓩梁眥垢砲覆辰燭鵑世辰討機
 
 少女の背中はぴくりとも動かない。しかしサイは今の言葉がただの会話の口実の一つだと自分でも把握していたから特に気を害さない。
 
 「キラが言ってた事、覚えてるか?」
 
 少女は背を向けたまま動かない。サイは知っていた、どうしようも無くなった時、彼女は歩むことをやめ、時間を止め、全てから逃げ出してしまうような女性《ヒト》なのだと。彼女が普段見せる心の大部分が、父の為に作り上げた都合の良い外骨格でしかない事を。だからその外面の許容できる範囲を超えた時、何もできなくなってしまうのだ。
 サイは、一人っ子である。だからアーガイル財団はゆくゆく彼のものとなる。父と母が彼女をどう思っていようと、次の世代はサイなのだ。
 アーガイル財団は、アメリカの経済と医学を発展させた過去がある。まだ西暦の頃の、一九○○年代の頃だ。
 財団の息のかかった、優秀な医者は多数いる。
 が、それだけではまだ足りない。所詮は石油会社の血統だ、とサイは自らの血筋をそう言い切り、半歩前へ足を進める。
 
 「爛瓮鵐妊覘瓩如◆愾呂蕕譴拭戮辰童世辰燭茲福 あいつ」
 
 フレイ・アルスターと言う少女は確かに愛らしく、個人の好みで言うならばラクス・クラインよりもずっとアイドルのような顔立ちだと感じている。が、今この瞬間、サイの心の中に、『あわよくば二人の関係を復活させよう』だとか、『ここで彼女を慰めて自分のものにしてしまおう』だなどという感情は微塵も無かった。
そして、その自分を誇りに思っていた。
 艦の操舵士を任され、サイはひたすら寡黙に戦い続けてきた。彼の肩には、責任があった。艦長のナタルがこの艦の乗員全ての命を預かっている、というのは半分は本当だが半分は嘘だ。
 同じ理屈は、サイにだってある。
 彼の腕に、ほんの僅かな操舵の差に、乗員全ての命がかかっているのだから。
 その命の重さが、サイの心を飛躍的に成長させた。
 いつの間にか、シンやアウル達がふざけている様子を、後ろから見守るようになっていた。通信士のカズイやメリオル、カナードを交えて、戦争の行末や艦の運用に関してのちょっとした議論を重ねる事が増えていた。女子供の艦橋と言っても、禄に働かないアズラエルを除けばあの中の男でサイは最年長なのだ。
 環境が人を育てるとは誰が言った言葉だったか。
 間違いなく、サイは今の環境に適応していた。
 そして、その事を事実として受け止め、呑み込み、糧とするだけの器量を持っていたのは、生来の才能か。
 
 「キラを助けれるかもしれない」
 
 言うと、フレイが振り向いた。彼女の瞳は涙に染まっている。彼女が何かを言いかけるが、言葉をはっせずに震えたまま押し黙った。
 その愛らしさに、サイは少しずつ、自分の気持ちを理解しはじめた。
 親同士の決めた婚約者。愛していたかはわからなかったが、好きだったのは事実だ。それが恋なのかどうかが、わからなかった。結婚したとしても、たぶん二人は幸せな家庭を築けたとは思う。しかし、妙な違和感を感じてはいた。
 そして今、サイはようやくその不思議な感情に納得のいく答えを見つけることができ、その可笑しさに苦笑し、心の中でつぶやいた。
 世話のかかる妹ってこんな感じなのかもしれない、と。
 
 
 
 「んー……えーっと……」
 
 艦橋《ブリッジ》でだらだらと報告を盗み聞きしていたアズラエルは、その少女から発せられた言葉の意味を理解していくにつれ、今までのだらけた余裕は完全に消えつつあった。
 月の戦闘が終わり既に五日が経過している。ようやく爛疋潺縫ン瓩僚ねが完了し、その間もアズラエルは爛淵ぅ船鵐押璽覘瓩離如璽深集に夢中であった。
 それがいけなかった。
 迂闊だった、と言えばその通りだ。この可能性を全く予期していなかったのは、見通しが甘かったのもあるだろうが、彼らへの理解力が欠如していた為だろう。
 パイロットを務めていたフレイがやけに素直だったのにもさして疑問をはさまなかった。キラ・ヤマトの事に関しても、メリオル・ピスティスの事に関しても、何かしらの文句を言ってくるものだとは思っていたのだが……。
 それが、いけなかった。
 アズラエルは、興味本位もあって、この爛疋潺縫ン瓩望茣呂靴討い拭2羸茲棒こΔ寮茲髻⊃佑量ね茲箸笋蕕鮓てやろうという子供染みた欲求も無かったといえば嘘になる。つまり今、アズラエルの社は代表取締役――即ち、社長不在の状態が長く続いているのだ。
無論、指示は定期的に出しているし、今の状況で爛淵ぅ船鵐押璽覘瓩手元に存在し、アムロ・レイという駒があるのだから、どんなライバル社がしゃしゃり出てきたとしても、一息で吹き飛ばせるという自信はあった。
 そして、これである。
 傍らのナタルがこっそりとくくっと小気味良く笑ったのに気づかず、アズラエルは赤毛の少女にもう一度聞いた。
 
 「えーと……そ、それホント……?」
 
 すると、問われたフレイはにっこりと微笑み、悪魔のように言った。
 
 「はい。この艦を爛瓮鵐妊覘瓩妨けて発進させてください」
 
 そんな事言われても困る、とアズラエルはたまらなくなって視界を外したが、フレイは笑顔を崩さずに続ける。
 
 「今言いましたよね? 貴方の会社の株を買いました。わたしが筆頭株主です。わたしの意見も聞いてくれますよね?」
 
 これである。
 通信士のカズイがひゅっと口笛を吹く。
 確認はまだ取っていない。が、この自信、間違いなく事実だとアズラエルは確信せざるを得なかった。
 今、アズラエル社は波に乗っていた。株価も高騰し、それを……?
 筆頭株主とは、大株主の中で持株比率が一番高い株主の事だ。本来なら、それはアズラエルの実父ブルーノ・アズラエルのはずである。それを……? どうやって……? あの父が、株を彼女に全て売った……? 僕に断りも無く?
 そんな馬鹿な、と彼女がここに来てから何度目かになる感想を心の中で口にし、考え込む。
 ……まさか、全部なんて事ないよな……。
 もしもそうなら、アズラエルの社はアルスター家に乗っ取られたという事かもしれないが……。
 
 「へぇぇ……そうなんですカ。ええと、確か前の持ち主は――」
 
 妻の名でも出して鎌をかけようかと思った時、フレイは微笑んだままアズラエルの言葉を遮った。
 
 「ブルーノさんです。お父さんですよね? 直接話をしました。基地の通信施設を使って、ですけど。息子に済まなかったと言っておいてくれって頼まれました」
 
 ……謝られても困る。ごくりと唾を飲み込もうとしたが口の中が乾ききっていたため叶わず、嫌な汗を全身にかきながらアズラエルは、『済まないと言っておいてくれ』ではなく『済まなかっ『た』と言っておいてくれ』……?と頭の端で思考しながらも
 
 「い、いやぁ、そう言われましてもネ? あ、ホラ! 放棄されたコロニーの爛瓮鵐妊覘瓩辰童世辰燭辰董∪擬阿兵蠡海とかが一応……」
 
 と普段の自分の行動を棚に上げた逃げの一手を講じたが、フレイの次の言葉でそれが悪手であると気づかされる。彼女がにっこりと言った。
 
 「はい。ですから爛瓮鵐妊覘瓩眷磴い泙靴拭△気辰。持ち主のわたしが許可しますね、どうぞ」
 
 これである。
 
 「で、でもですねェ、そんなこんなで軍を動かしちゃあいけないと僕は――」
 「急いでくださいね? 地球からはもう医療チームが向かってますので」
 
 彼女の笑顔は有無を言わせない本気さを秘めているものである。それが暗にこう告げていた。『わたしのこの株をライバル会社に全て安値で売り渡して、お前の会社を潰してやろうか?』と。
 彼女ならやる。幼さとは時に恐ろしく、残酷に牙を向くものだ。損得を抜きに、何かを成しえようとしてしまう危うさと強さがある。そうだった、忘れていた……。彼女の父と母が受け継いできたアルスター不動産は、今彼女のものなのだということを。
 同時に、その身勝手を止めるものはいなかったのか? という疑念が浮ぶ。
 しかしアズラエルは知らない。ブルーノから買ったと彼女が表現したその株が譲渡に近いものであった事を。
 ブルーノがそのような事をした本当の理由と意味を彼が知るのはもう少し後の事だ。
 フレイがふふとサディスティックな笑みを浮かべる。
 
 「世界の裏側とか、知りもしない赤の他人とかがどこでどう苦しもうと、わたしの知ったことじゃあ無いですよねェ?」
 
 これが、最後のダメ押しとなった。
 思わずアズラエルはひやりとした汗を背中にかいた。
 恐ろしい、と素直に恐怖する。誰の入れ知恵なのかは知らないが、こうまで言い切ることのできる自信に、アズラエルは感嘆した。
 別にアズラエル自身は困りはしないのだ。たとえ軍事産業会社が潰れたとしても、アズラエル財閥の地位は揺るがない。銀行も開いているし、学校も開設している。車や飛行機、掃除機にまでかけてを幅広く製造し販売している。
だが、アズラエルは好き勝手行動してはいても、それなりに社会に適応して生きてきた大人である。彼の采配には社員の生活がかかっているし、トップを独走する大企業ともなればその社員の数は星の数よりも多い。社員はアズラエル社に勤務している事を誇りに思うし、それの親兄弟も同じだろう。
下請け会社もそうだ。専属の契約をしている所は多数ある。体裁の為であるが、慈善活動もしている。その為の部署も設けている。彼らは所謂、善良な市民だ。その全ての人々を、目の前の少女は、『路頭に迷わせるぞ』と脅しているのだ。
 無邪気、とは無自覚な邪悪だと誰かが言っていたが、恐らく目の前にいる彼女は少し違う。それを理解した上で、アズラエルが絶対にその選択肢を選べないと確信しているのだ。
 その絶対的な自身が、ひょっとしたら他の株も……と最悪の事態をアズラエルに思わせた。本社から離れ自分で情勢からの孤立の道を選んだアズラエルが、ほんのわずかでも今、社と連絡を取り状況を把握できれば他の選択肢もあったかもしれない。彼女の態度の半分以上が虚栄なのだと知る事ができたかもしれない。
だが、それをさせてはくれないだろう目の前の少女が、さっさと『はい』と言えと言いたげににっこりと笑みを浮かべ首をわずかに傾ける。
 結局、数分にかけて悩みぬいた末、アズラエルは首を縦に振らされ、爛疋潺縫ン瓩話影箸猫爛瓮鵐妊覘瓩鯡椹悗校となったのだった。
 
 
 
 本国から爛潺優襯亅瓩貌呂韻蕕譴詈箋詈資到着までのわずかな時間ではあるが、ザラ隊にも体を休める機会を与えられた。
 ラウ・ル・クルーゼは既に連合の艦から発ったそうで、彼をこの爛潺優襯亅瓩妨かえる必要の無い事は心情的に嬉しいことだ。隊長室で思案を重ねていたアスランは最近一人でいる時間が増えた、と自覚していた。無論、それは隊長としてやる事が増えてきたからに他ならないが、自分で人とのかかわりを少し避けていたのかもしれない、とも思い始めていた。
 考えなければならない。この先について。未来についてを――。
 『歌姫の騎士団』――本国でザラ隊はそのように呼ばれ、士気高揚の一役を担わされていたが、それはいい。戦争をしているのだから、わかりやすい英雄というものは必要であり、そのお鉢が自分に回ってきただけなのだとアスランは思っている。だが、その先導者がラクス・クラインなのだとして本国で謳われているのは不愉快な事だ。その事実が、少しずつ、少しずつ、それでも確かな束縛となって彼女の自由を奪っていく。
 これでは、まるで――。
 『足つき』でのラクスの生活はどうだったのだろうか。
 アスラン達の知るラクスという傀儡《アイドル》は、誰にでも天使のような微笑みを与え、世界の光に餓えたコーディネイターたちを照らしつける太陽という名の神に等しき存在である。だが、彼らの知るラクスという一人の少女は、まず最初に捕虜という立場から始まったのだ。それが、良かったのかもしれない。
ナチュラルにとって、ラクスという少女はアイドルでは無く、地球のどこにでもある、娯楽の一つにしか過ぎない。コーディネイターにとってかけがえの無い人口の太陽は、光に満ちた母なる大地の前では木々を照らす照明の一つでしかないのだ。だからこそ、ラクスという本質に触れることができたのかもしれない。
フレイ・アルスターという少女は、人の心に土足で踏み込むような礼儀を知らない女なのだろう。それが、ザフトという――コーディネイターという牢獄に縛られた彼女の心を、救い出したのかもしれない。――おかしなものだ。
それでは、まるで『歌姫の騎士』とは彼らのことで、彼女を爛◆璽エンジェル瓩ら救ったと思っていた自分こそが、彼女のその無垢な魂を再び牢獄に縛り付けようと行く邪悪そのものではないか。ラクスという一人の少女が、コーディネイターたちの心を照らすという表現は間違ったものではないだろう。
では、それならば、神でも無く天使でも無いあの少女の心は、誰が照らしてやれるのだ? 己の力だけで輝くことなど、できはしない。闇の中の小さな光は、やがて闇に呑まれただの白い闇になる。
かつてはジョージ・グレンという存在が、コーディネイターの希望であり光だった。その光を、希望を、たった一人のナチュラルの少年が奪ったことは歴史が語っている。だが、その少年は、ジョージ・グレンが生み出した光によって、同じように生み出された闇だったのでは無いだろうか。
光があれば必ず影ができる、その影が闇となり――否、コーディネイターだからこそジョージ・グレンを光と判断したが、ナチュラルにとってはジョージ・グレンこそが闇であったのかもしれない。それは、決してすれ違うことの無い双方の見解の相違であり、それが互いの溝となり、やがては銃を向け合うことにまで発展してしまう。
 
 アスランは、コーディネイターという種に絶望し始めていた。
 今、地球連合は――ナチュラルは、コーディネイターに勝る存在を大々的に宣伝している。宇宙という過酷な環境に適応するために進化した人類……。呼び名はいくつもある。
ある科学者はそれを『真のコーディネイター』と呼び、作られた者ではなく人と人の架け橋となる者だ、とジョージ・グレンを作った者の言葉を持ち出し、同時に今のコーディネイターを偽者であると宣言した。
ある思想家は彼らこそが『SEEDを持つもの』であり、人類全てを導く存在であり、更にその可能性は全てのナチュラルに開かれているとした。
あるものは、それを『ニュータイプ』と呼び、宇宙に適応した新人類であり、進化したり得ないナチュラル、コーディネイター全てを『オールドタイプ』と一括りにした。おそらく、地球連合が彼らの存在を誇示しつつもその定義を明確にしないのは、新たな火種を恐れているからなのだろう。
それが彼らの頭の良い所だったのかもしれない。自分たちこそが進化した人類、優れた種だと奢ったコーディネイターという存在の二の舞にならないよう、行動している。
それでは、コーディネイターは彼らが生まれる為の踏み台か何かだったのか? コーディネイターという愚かな種でナチュラルは人のあり方を学び、本当に生まれた進化した種を受け入れさせるための、生贄だったのだろうか。そしてそのコーディネイターもまた、ラクス・クラインという生贄無しでは成り立たない……。
 誰かが、流れを断ち切らねばならない……。この、負の連鎖を。生贄の螺旋を。
 アスランの心に重くのしかかる重圧。まるで、出口の見えない迷宮に押し込められたようだ。
 その時、突然隊長室の扉が開かれ、慌ててやってきたニコルが声をあげた。
 
 「アスラン、レイが!」
 
 
 
 「では、本当に――?」
 
 カーテンの向こうから、爛潺優襯亅瓩侶外紊ら報告を受けるアスランの声が聞こえてきた。レイはゆっくりと目を開けた。医務室の天井が目に入る。
 
 「ええ。この薬がどういったものなのかはもう少し調べてみないといけませんが……」
 
 なにやら検査しているらしく、軍医は言葉をきり、ややあって続ける。
 
 「……彼は、ナチュラルです」
 
 カーテンを一枚隔てているだけのはずのその言葉が、やけに遠いものに聞こえる。ただ素性がばれたという事実だけが、淡々と告げられていた。
 そう、レイはナチュラルだ。
 ――遠い昔の記憶。つめたい……おぞましく暗いあの場所……。
 できるという理由だけで『作られ』た、ある男の……。
 レイには、未来が無い。
 もう一人の自分――ラウ・ル・クルーゼが、冷たく暗い研究所から自分を連れ出してくれた人。
 未来が無いのは、彼も同じだ。
 きっと彼も、今頃は――
 そんな拙い思考の中、レイは別の事も考えていた。
 もう、ここにはいられないかもしれないな、という淡々とした思い。裏切り者と呼ばれるだろうか。憎まれたりはしないだろうか。それが悲しむべきか、喜ぶべきかもわからず、ただ来るべき時が来たのかもしれないと、そう思うことにしてた。
そうしなければ、死の恐怖に屈してしまうから。世界を、自分すらも他人事にしておかなければ、蹲ってしまいそうになるから。
 
 「……この事は他言無用とします」
 
 やけに透き通るような声で、アスランが言った。
 
 「よろしいので?」
 「ええ。そうではないかとは、思っていたので……」
 
 思わず首だけを動かし声の方向を見たが、カーテンに阻まれていてその先は見えない。
 
 「似てるんですよ、あいつの動きは。……アムロ・レイだとか、フレイ・アルスターとか、そういう連合のナチュラルの動きに」
 
 似ている……。フレイ・アルスター。あいつは、自分の何なのだろう。ラウなら、知っているのだろうか。ずっと昔に一度だけ会ったことがあるような、そんな彼女の事を。
 
 「動き、ですか」
 
 軍医がさして興味もなさげに言い、続けた。
 
 「わかりました。でも危ない橋ですよね?」
 「ん? どうかな、デュランダル議長から送られてきたのだから、上の連中は把握してるんじゃないか?」
 
 身の保身を口にした軍医に、アスランは気づいた様子も無く返した。
 事実だ。ギルバート・デュランダルも、レイの出生を知っている。彼もまた、レイを救ってくれた一人なのだから。
 だからこそ、わからない。
 どうして彼らは、未来の無い自分に期待を寄せているのだろう。もうじき、死ぬかもしれないというのに……。
 ――ゼロ・シリーズ。
 最高のコーディネイターを生み出すその前身として、とあるプロジェクトが立ち上げられた。ある優秀な人物は、己の力を後世に残そうとやがて子をなしたが、所詮わが子とはいえ他人でしかない、それは己の能力とはかけ離れた、見るに耐えない雑多の一つでしかなかったのだろう。
だからこそ、信頼と実績の置けぬ他人ではなく、己を増やす――彼らは、禁忌へと手を染めていった。いくつもの失敗作が生まれ、そのうちの一人に、レイがいた。やがてその施設の研究者は己が技術を過信し、他者より上へ、他者より強く、より『性能の良い』わが子――スーパーコーディネイターを生み出すことに執着していく。
それにより、後に『人としての形を保ち生まれ出ることに成功した固体』に、ナンバーがつけられた。そしてその後に、便宜上それ以前に作られたクローンタイプを、ゼロ・シリーズと呼ぶことになったのだ。
 ナンバーゼロだから、零《レイ》。
 そんなレイの絶望など知るわけが無く、軍医はぬけぬけと続けた。
 
 「そりゃそうでしょ。でも、艦長から怒られるかもしれないのは私でしょ?」
 「ああ、そういう……」
 
 その声色に微かに嫌悪の色を読み取ったレイだったが、黙って聞き耳を立てた。
 
 「何かリクエストはありますか?」
 
 アスランが問うと、軍医は待ってましたといわんばかりに上機嫌な声色になる。
 
 「日本酒ってね、一度飲んだ事あるんですが、あれ良いですよね?」
 
 レイは酒の味も良さも知らなかった。知りたくも無い。こんな老いた体でそんなものは自殺行為だ。
 
 「……わかりました、日本マニアの友人がいますから、そいつに聞いておきます」
 「どうも。それじゃ、艦長には上手く言っておきます」
 
 軍医が医務室を後にすると、アスランが溜息をつきそのまま言い放つ。
 
 「……これだよ。――あの様子じゃあ艦長に隠し事してるってばれてしまうな?」
 「……ですね」
 
 と、どうやらずっといたらしいニコルが苦笑で答える。
 こつこつと足音が近づく。
 ちらと視線だけでそちらを向けると、さっとカーテンが開かれ見下ろすアスランと視線が交差する。彼の眼差しは優しい。
 
 「どこから聞いていた?」
 
 一瞬、返答に困り視界を泳がせた。その先に、桜色の髪の少女が俯いているのが視界に入り込み、何故だか一番聞かれたくない相手に聞かれてしまったような、酷い不快感を覚えた。
 
 「ナチュラルって、あたりから……」
 
 それとはまた別の、不快感がレイを襲った。俺は、この人からも期待されていた。おそらく、コーディネイターとして。その期待も裏切ってしまった……。レイはどんな顔をして良いかわからずに、彼の顔を見れないままでいると、アスランはふっと笑みを浮かべてから背を向けた。
 
 「ん、そうか。――今は薬が効いているそうだ。効き目が悪かったのは、お前の言う病気が悪化しているかららしい」
 
 レイを責める色など微塵も感じさせないような凛とした声色。思わずレイは彼の背を視界で追った。アスランがそのままの姿勢で顔だけをわずかに向け言う。
 
 「デュランダル議長はお前の事を――?」
 「はい。知っています」
 
 嘘をつく理由は無い。レイは正直に言うと、アスランは満足したようでもう一度うんと深く頷いた。
 
 「今日の事は俺からも議長に報告しておくよ。何か良い案が見つかるかもしれない。――ニコル、ディアッカのヤツに日本酒とやらの事を頼む」
 
 言われたニコルは、「わかりました」と答えてから律儀にレイの側にまでやってきて、
 
 「大丈夫です。僕達は仲間ですから。貴方を見捨てたりなんてしません」
 
 と優しく微笑む。
 ――仲間。
 言われた瞬間、不思議と胸に暖かいものが宿った。この気持ちは、なんだろう。
 ニコルはその笑みのまま、「では」と一度ぺこりとお辞儀をしてから踵を返し部屋を後にした。
 
 「それじゃ、俺も行くよ」
 
 アスランがレイに向き直り、言う。
 
 「あの……」
 
 思わず、レイは声をかけていた。理由は自分でもわからない。
 
 「ん、どうした?」
 
 アスランがきょとんとして首を傾げる。そこには、心の駆け引きだとか心理戦だとか、そういったものは微塵も感じられず、その様子が妙に可笑しく、レイは思わず言葉に詰まった。
 
 「いえ、その……何も聞かないのですか……?」
 
 それは、レイの過去の事か、それとも今まで素性を偽っていたことか、あるいはギルバートの事か。それら全ての意味を含んでいたのかもしれない。自分は今までずっと、彼らを欺いていた事になるのだから。
 しかし、アスランはもう一度きょとんとした顔になり、目をぱちくりとさせただけだ。
 
 「そう、言われてもな……。別に騙そうと思ってたとかじゃないんだろう?」
 「それは……はい」
 「うん。連合の内通者?」
 「いえ、違います」
 「ん、だったら俺は何も聞かないよ。誰にだって知られたくない過去だってある」
 
 だが、それは隊を預かる者としてどうなのだろう、とレイは当たり前の疑問を思った。アスランは続ける。
 
 「俺にだって隠し事くらいはあるけど、黙ってるしね」
 
 そう言ってうんうんと一人納得してしまったアスランを見て、レイはああと妙な納得をしてしまった。
 この人は、真っ直ぐなんだ。どんな事でも真剣に取り組んで、真面目に悩んで、直向に努力を重ねる、そんな人。
 きっと彼が隊長としてここまでやってこれたのは、彼だけの力では無いのだろう。裏でこそこそといつも何かをしているディアッカ、知ってか知らずかムードメーカーになっているラスティとアイザック。神経質なほどきっちりと部隊を取りまとめるイザークに、それを補佐するシホ。アスランの理解者のニコル。隊の相談役のミゲルとミハイル。
 彼ら全員で、一つの隊。
 だからザラ隊は強いのか、とレイは改めて思い知った。
 そして、その真っ直ぐな彼に惹かれて、地球軌道上で命を救われた多くの兵がザラ隊への転属願いを出しているのも事実。
 もうじき、爛潺優襯亅瓩塙舂する予定の艦隊もそうだ。
 先の戦いにこそ間に合わなかったものの(これは意図的なものがあったかもしれない)、その艦隊を加えればザラ隊の戦力は、戦艦の数だけでも爛潺優襯亅甍貔匹縫淵好級が三隻。ローラシア級が六隻の大所帯となるのだ。
 少しずつ、少しずつ、それでも確実にアスランの元に人が集っていく。
 いつの間にか、レイも、ついでにルナマリアも、ザラ隊の古参の一人になっている。
 そして、レイは確信する。
 今、この瞬間でも、レイは目の前にいるアスラン・ザラという男に、『無条件』で信頼されているのだ、と。
 この人は、絶対に仲間を見捨てない。見捨てる事が出来ない。危うさと頼もしさの同居。ある兵は、彼に忠誠を近い志願したのだろう。だが別のある兵は、そんな彼を見ていられず、心配のあまり……。人を惹きつけるという意味において、彼はラクスと同等かそれ以上の才を発揮しているのかもしれない。
 そして、レイもまた、他の者と同じように心動かされていると自覚していた。
 なんて危なっかしい人だ、と。
 もしも俺が本当に嘘をついて、例えばザラ隊の内情を知る為のスパイだったりしたらどうするつもりなんだ、この人は。
 こんなに簡単に人を信じて、ころっと騙されるような、それで、隊長……?
 馬鹿げている、と心の中で小さく罵倒しながらも、レイは不思議と笑みを浮かべていた。
 
 「……わかりました。では、黙ってます」
 「わかった、それじゃ俺は何も聞かないよ」
 
 どこまでも優しい瞳の彼に、レイは気恥ずかしさのあまり心にも無いことを口走る。
 
 「でも、後で俺の所為にしないでくださいよ?」
 
 うっと押し黙るアスランに、レイは苦笑した。まったく、この人は……。
 いつの間にか不快な気持ちは消し飛んでいた。
 
 
 
 酷く、不快であった。何もできず、言葉もかけれず、アスランは一瞥くれただけで、ここを去っていった。
 たった、一瞥……? 隊長が、婚約者が、たった、それだけ……?
 言い様の無い苛立ちが全身を支配していく。
 この気持ちは何だろう。
 悔しい……? 嫉妬をしている、わたくしが……? 誰に……?
 人の中心にいる、アスランに? それとも、ずっとナチュラルだと黙っていた、偽っていたレイに……?
 あるいは、両方に……?
 ぎゅっと唇を結び俯いたままのラクスに、ふいに声がかかる。
 
 「すみません、助かりました」
 
 いつものように、淡々と、レイである。彼はてきぱきと制服に袖を通し服装を正す。
 
 「……皮肉です?」
 
 何もできなかっただけの自分に、何をとラクスは尚も苛立った。自身の中で、攻撃的になっているだけだと自覚しながらも、それを抑えられない自分がいる事が悔しかった。こんなにも自分は小さな人間だったのだと思い知らされているようで……。
 だが、レイは気を害した様子も無く、いつものように続けた。
 
 「居てくれるだけで、助かる事だってあります」
 
 何を馬鹿な、とラクスは鼻で笑ったが、彼は無表情のままちらと視線だけ向け、言った。
 
 「クローンなんです、俺」
 「え……?」
 
 何を言われたのか理解できず、思わず顔を上げ聞き返した。レイの表情は変わらない。
 
 「生まれつきテロメアが短いんです。ですから、俺はもうじき死にます」
 
 どくんと心臓が跳ね上がる。指先が震える。思わず呼吸をするのを忘れた。もうじき、何だって……?
 
 「たった一つの夢を創る資金の為に、俺たちは創られたんです」
 
 創られた、存在。たった一つの、夢。良く似たものを、ラクスは知っていた。その兄弟は、殺し合いを――
 
 「キラという、たった一つの命。その為だけに……」
 
 思い出の中にいるあの少年の儚げな笑みを覚えている。
 数多の思い出が甦り、ラクスは彼の言葉に偽りが無いのだとわかってしまった。
 では、本当に彼は……。
 人の罪。命の重み。あの少年がこの世に生まれ出る為だけに、どれだけの命が犠牲に……。その犠牲の一つが、今目の前にいる命。数日間ラクスの我侭を聞き続けてくれた人。唯一愚痴を言えるかもしれない相手。それが、もうじき……。
 ほんのわずかに宿った怨恨。
 あの、少年が……。
 しかし、とラクスは思う。
 あの少年はもう十分過ぎるほどの罰を受けたのでは無いか、と。
 雨の中、血に塗れ呼吸の止まったあの少年の姿がはっきりと甦る。ずっとそうだった。あの少年は、その罪をその身に宿し、それでも戦い続けてきた。前を見続けてきた。これ以上何を責めろと言うのだろう。それでも、罪は消えないのだろうか。
 レイはわずかに視線を落とす。
 
 「……その元凶が、のうのうと生活しているんです……俺には父も母もいないというのに……」
 
 それは、彼の見せたわずかな負の感情か。
 罪とは、何だろう。
 あの少年が何かをしたのだろうか?
 あの少年に何の罪があるというのだろうか。
 あの少年もまた、望まぬ命と力を無理やり与えられた、被害者の一人なのでは……。
 しかし、彼は一つの結果である。でも、それだけで罪があるというの……?
 
 「……違います、そんなんじゃ、ない……」
 
 気がつけば、ラクスはレイの瞳を見据えていた。彼はそんな人じゃない。ずっとずっと、傷ついて……。
 
 「きっとあの方は、貴方がそう告げれば、命を差し出します」
 
 そういう少年だった。キラ・ヤマトという子は、どこまでも優しく、その罪を償おうとしている。本当に自分の罪なのかもわからないというのに、彼は……。
 レイは俯いたまま言う。
 
 「……復讐を遂げたとしても、俺はもうすぐ死ぬんです。何もできず、何も残せずに……」
 
 それは、少年の絶望であったのだろう。何を成し遂げたとしても、未来は死だ。
 ああ、それでは、どうすれば良いのだろう。
 救う手立ては無く、死の未来しか無いのだというのなら、どうすれば……。
 ふいにレイが顔をあげ、ラクスの瞳をじっと見据える。思わずそのスカイブルーの瞳に見惚れ、彼はぎこちなく笑みを浮かべる。
 
 「……もうじき死ぬかもしれないと思った時、貴女が側にいてくれて、少し安心したんです」
 
 ラクスはその言葉の意図を読めず、彼の表情を覗き込むにした。彼の声はどこまでも優しい。安心……? 側にいるだけで……?
 
 「こんな俺でも、死ぬ瞬間を看取ってくれるかもしれない人がそこにいて、嬉しかったんです……。だから――」
 
 彼の瞳は美しく、どことなくフレイに似ている気がした。だからかもしれない、不思議な安心感を覚えているのは……。そしてラクスは彼の思惑をようやく理解した。彼は今弱音を吐いているわけではない。苦しくて、誰かに聞いて欲しかったのでもない。
 ――慰めようとしてくれている。
 今、死の間際に陥ったこの少年が――父も母も最初からなく、未来も無いこの少年が、わたくしを……。
 その心は気高く、たまらなくなったラクスはそのままレイに寄り添うと、その細く老人のような手を優しく包んだ。
 
 「――ごめんなさい。わたくしは、大丈夫ですから。だから、もう良いんです。貴方が無理をなさらなくても……」
 
 ただただ苦しかった。自分の鈍感さを呪いたくなった。こんな時、彼女ならどう言うのだろう。この少年に何て声をかけてあげれるのだろう。今のわたくしを見て、どう言ってくれるのだろう……。
 
 「……すみません、上手く言えなくて」
 
 レイが無表情のまま、それでも確かな暖かさを感じさせる声で謝罪の言葉を口にする。その様子が儚く、今にも消え入りそうで、ラクスは口をぎゅっと噤んだ。
 少しだけ、頑張ってみよう。
 だって、彼はこんなにも優しいのだから。
 もう少しだけ、もう一度だけ、頑張ってみよう……。
 きっと、変われるかもしれないから――。
 
 
 
 「爛淵ぅ船鵐押璽覘畚个泙后↓爛淵ぅ船鵐押璽覘疊進!」
 
 ミリアリアがてきぱきと指示を出していく様子を、アズラエルはふうと息をつき見つめる。
 結局、彼女の言った事は事実であり、アズラエルはしぶしぶながらも従うしかなかった。が、そんな中でも爛淵ぅ船鵐押璽覘瓩僚杜浪嫉邯海鬚佑弦むのが彼であるから、ここまで社の利益を上げることができたのだろう。
 
 「爛淵ぅ船鵐押璽覘瓩両況は欠かさずに報告してくださいネ?」
 
 爛瓮鵐妊覘瓩砲魯◆璽イル財団の医療チームが到着し、既に内部の散策を始めている。
 通信モニターに映るフレイが、うーんと不満げにうなってから口を開く。
 
 〈やっぱりちょっと重いんですけどー〉
 
 アズラエルがやれやれと苦笑した。
 
 「もともと無重力下用に調整されたマシンですからネェ。爛潺蕁璽献絅ラフト瓩呂修里泙泪咫璽爛丱螢△砲眦彰垢任ますから、ま、それはヨシとしまショウ」
 〈えー、外しちゃえば良いのに〉
 
 とぶつぶつと小言を言い始めたが、経営者としてはパイロットの意見ばかりを聞いているわけにはいかないのが現状である。戦争の間に少しでもたくさんのデータを欲しいのだから。
 そんな事を考えながらも、アズラエルはつい先日に報告があった別の事に意識を取られていた。
 アーガイル財団の医師達の中に、アズラエルは無理やりこちら側の人間を潜り込ませることには成功した。表向きはアズラエル財閥の優秀な医師としていたが、本当の目的はメンデル内部の調査である。
 無論アーガイル財団側もそれを行うだろうが、こちら側が先に情報を得る事が重要なのだ。
 その中でいくつか、興味深い情報があった。
 研究施設のデータの中に、爛汽ぅ灰侫譟璽爿瓩硫鮴肋霾鵑あったのだ。
 大体は削除されていたが、わずかに残る断片的なデータと照らし合わせた結果、爛淵ぅ船鵐押璽覘瓩謀觝椶気譴討い襪發里箸曚榮韻犬發里任△襦△箸いΨ覯未砲覆辰拭
 それが奇妙でならない。
 つい最近手に入れた様子ではない。もう何十年も前から、その研究は続けられていたのだという。恐らくは、純粋な科学の発展の為に。
 そして、その現物が保管されていたと思われる所に、その爛汽ぅ灰侫譟璽爿瓩鰐気った。
 ユーラシア連邦が、一度この研究施設を襲撃し、何かを持ち去ったらしいとは聞いている。
 では、彼らが……?
 あの赤い巨神は、機体の停止と同時にその巨体を砂のようなものに変貌させ、既に月の大地と同化しているのは恐ろしい事だ。
 金属が砂のようになるということは、その砂からまた甦るのではないか、という恐怖がある。
 まだその砂が何なのかすら解析できていないのだから。
 そして、もう一つ――彼らが持ち帰った情報の中に『Lacus Clyne』と記された資料があったことを、アズラエルは誰にも言うつもりは無かった
 
 
 
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