Top > CCA-Seed_◆ygwcelWgUJa8氏_38
HTML convert time to 0.115 sec.


CCA-Seed_◆ygwcelWgUJa8氏_38

Last-modified: 2013-01-07 (月) 23:55:05

 不思議な、奇妙なその感覚は、まるで心だけが肉体から磁石のようなものにひきつけられ、ぴりぴりと剥がされていくような、そんな不気味な感じであった。
 天が白く輝くと、その光の中に数多のヒトの念を見、フレイはその光景に恐怖した。
 変えられてしまうかもしれない。ヒトとしての在り方そのものを。
 個を失い全の中の雑多の一つにされ、混ざり、それは精神の死滅を意味する。永劫苦しみ続けるのかもしれないという想像は果てしなく恐ろしい。ずるりと心が剥がされ、その淡い緑色のブラックホールからいくつもの手が伸びフレイの心を飲み込もうとした時、その無数の手が見えない障壁のようなものに弾かれる。
 ふいに、背後の誰かが彼女の手をぱしと握った。
 はっとして振り返る。
 その青年の金髪が風にそよぐと額に小さな傷を見つけ、彼の瞳の色を覗おうとした時、唐突に意識が肉体に引き戻され、フレイは人の重みと温もりを感じた。
 かはと息を吐ききると目の前のモニターに『System Error』という単語が赤く点滅している。
 フレイの膝元にちょこんと座る桜色の髪の少女が、モニターに映る少年の演説を見ている。
 アスラン・ザラというボウヤ、つまりお坊ちゃんが言った。
 ラクスが、死んだと。
 フレイはどうやってこのコクピットまで戻ってきたのかすら思い出せだせず、朦朧としたままの意識がじわじわと鮮明になっていく。
 ラクスが、死んだ? じゃあ、今ここにいるこの子はどうなるの?
 不安な気持ちに襲われる。帰る場所が無いのは、惨いことである。
 モニターをじっと見据えるラクスの表情は、ここからでは読み取れない。
 彼女がおもむろに口を開いた。
 
 「わたくし、死んだんですって……」
 
 短い沈黙、ラクスがぎゅっと指先に力を入れる。
 
 「利用されて、使われて、押し付けられて、最後は、死んだって――」
 
 彼女の声は震えている。泣いているのかもしれない。
 
 「ラクス……」
 
 かける言葉が見つからなかった。今までの彼女を知っているが故に。だのに、あのボウヤはこの子に更に苦難の道を歩ませようと言うのだろうか。
 ラクスが震える声のまま「アスラン……」とつぶやき、やがてぼろぼろと涙を流して天を仰いだ。
 
 「ありがとぉ、アスラン――」
 「は……?」
 
 思わず素っ頓狂な声をあげてしまった。え、ありがとうって言った? 何で、え、何言ってんのこの子。
 今度ばかりはラクスの言葉の意味もわからず顔をしかめる。そのままラクスは泣き出し
 
 「アスラン、わたくし、これで自由です、自由になれました、あなたの、おかげで……!」
 
 と大粒の涙を流し続けた。
 
 
 
 
PHASE-38 自由の代償
 
 
 
 
 爛疋潺縫ン瓩虜限Δ賄┐旅況發鮗け損壊しており、フレイは少しばかり嫌な予感がしながらミリアリアの指示に従い右舷格納庫《ハンガー》に爛淵ぅ船鵐押璽覘瓩魍蠅蟾ませ、着地させる。
 頭に包帯を巻いたマードックを初めとする数人の整備員が取り付き、作業に入る。
 フレイはコクピットハッチを開け、そのまま爛淵ぅ船鵐押璽覘瓩粒阿貿腓そ个襪函丁度マードックと目があった。
 
 「無事なようだな、ヤマトの坊主もいるぜ」
 
 真っ先にキラの名前が出てきたのは、フレイの行動やらが既に艦内では周知の事であり、それは乙女心としてはいささか恥ずかしいものであるから唇を尖らせてぷいと視線を反らす。
 
 「そ、それは良いですけど――あっち、どうしたんです?」
 
 顎で左舷デッキの方を指し示すと、マードックはどこか沈んだ表情になり髪をくしゃとした。
 
 「ま、あちらさんも必死だかんな……」
 
 セレーネとソルがいつものように甲斐甲斐しくも真っ先に爛淵ぅ船鵐押璽覘瓩離如璽深集の為に専用コンピュータを操作し始める。
 
 「ふうん……ハマナさん達は?」
 
 その言葉に、深い意味は無い。ただ、いないのはどうしたのかなとか、その程度の感情しか抱いてなかった。だがハマナは地球でカガリの爛好イグラスパー瓩寮鞍を任されていたため、整備員の中ではマードックの次に良く顔を合わせた間柄であるから、気にならないわけではない。
 マードックが力なく首を振る。
 
 「駄目だったよ」
 「えっ――?」
 
 思わず聞き返す。駄目って……?
 
 「逝っちまった連中はみんな爛悒螢ポリス瓩ら一緒だった奴らだ。ここまで何とかやってきたってのにな……」
 
 ようやくフレイはその言葉の意味を理解した。
 ああ、そうか、もう会えないんだ……。一度彼の笑顔が脳裏に浮かび、妻と子がいると話していた事を思い出す。
 ハマナさんの子供は、もうお父さんがいないんだ……。
 
 「整備に取り掛かる。それじゃな嬢ちゃん」
 
 そのまま無重力を飛んで左腕部の方へ向かう彼の背を見送ると、視界の端にそわそわと周囲を見回しながら這い出てきたラクスが、ひょいと顔を覗かせる。
 
 「どうしました?」
 
 どうしたって、言われてもな……。少しばかり心配げな瞳を向けられ、何だかくすぐったくなったフレイはやれやれと首を振った。
 
 「何でもない。ほら、とりあえず艦長のとこ行こっ。隠しておくわけにはいかないしさ」
 
 
 
 別にばれても平気だとそう思っていても、何だか居心地の悪いと言うか、いけない事をしているような気がして周囲を警戒してしまうのは良心の呵責というものだろうか。
 ラクスはフレイに連れられ、彼女の手をしっかりと握って導かれるまま歩みを進める。爛◆璽エンジェル疇鰻心呂箸い事らしく、内装はほぼ同じであり、記憶の中にある爛◆璽エンジェル瓩旅渋い蛤弘曚牢兇犬蕕譴覆ぁ
 一度先に居住区へ向かおうとしているのは、恐らく単にフレイが規律に疎いからだろう。疲れてるから先にシャワーを浴びてからで良いやなどと考えているのかもしれない。
 この通りも知っている。カガリの爪の形が思っていたより綺麗だとフレイを交えて騒いだのはこの辺だったと思う。少し進むと、また思い出が甦る。日本やオーブはどうして麺類は音を立てて食べるのか、で盛り上がった。
それに関してはカガリは音を立てたほうが美味しいとかラクスには理解のできない事をまくし立ててきたが、結局フレイが、その国の生き方に従えば良いのよ、とまとめた。
 何もかもが懐かしく、次の角を曲がればそこは食堂へと続く通路になるのだとわかっていた。
 通路を曲がる。
 ふと、人の集まりに気づいた。食堂の入り口付近で、軍医と思わしき人達が忙しく作業をしている。
 壁の一部がひしゃげている。
 その食堂の入り口で、黒髪の少女が呆然と佇んでいた。彼女の頬は硝煙で黒ずんでいる。
 悪寒がぞわりと走る。
 フレイが何かを言いかける前に、ラクスはそのまま彼女の元へ駆け寄り、抱き支え、食堂の中を覗き見た。
 潰れた金属の塊りに、人が押しつぶされている。
 黒髪の少女は動かず、呆然としたままだ。
 軍医達が何とかして彼らをそこから助けようと奔走している。
 一度、ふくよかなムラタ料理長の顔を思い浮かべ、その記憶を頼りに内部をそこから注意深く見渡す。
 この中にいないで欲しい、という願い。まだお礼を言えてなかったから。
 すぐにそれは虚しい願いであったと思い知らされた。
 
 
 
 アズラエルはひとしきり考えをめぐらしていた。実際連合の受けた被害は決して少なくないものであったし、このまま新生ザフトとかいうものを正面相手にし、プラント本国にも攻め入り、爛献Д優轡広瓩鯊杷砲垢觴蠱覆六弔気譴討襪箸聾世て颪、彼らが出した条件はそれを解決するものであった。
 爛献Д優轡広瓩両渡と技術提供、および、新生ザフトの戦力のみによる宇宙要塞爛筌ン・ドゥーエ瓩瞭庸砲魃造法彼らは新生ザフトの独立を認める事を連合に要求した。恐らくこれはハルバートンを通じて既にある程度話はまとまっているのだろうから置いておくとして、問題なのはもう一つの条件である。
 彼らは、コーディネイターという呼び名を破棄し、彼らもまたナチュラルの一つであるとブルーコスモスの盟主であるアズラエルに認める事を迫ったのだ。概ね、彼らの言い分はアズラエルらが売り出した『真のコーディネイター』や『ニュータイプ』と言った呼び名を逆手に取ったものであり、彼はわずかに苦渋の色を顔に浮かべた。
アムロやフレイのようなものを『真のコーディネイター』と呼ぶのなら、我々は諸君らと何ら変わりの無い『ナチュラル』であり『オールドタイプ』である、同族同士によるこれ以上の戦争は無意味であるとアスランという若き指導者は宣言した。
同時にそれはプラント本国のかつて要求していたコーディネイターの自治や自立を認めるような形であるが、ハルバートンは甘い男ではない。爛廛薀鵐鉢瓩郎8紂⊃¬叡呂剖瓩い發里箸覆襪世蹐Αしかし、それとこれとはまた別のものであり、ブルーコスモス側として彼らの存在を認めるとなると……ううむ、と悩み続ける。
 アスランの発した言葉を思い出す。
 
 『命とは、産み出す者にこそ責任が問われる。既に産まれた命に罪など無いと、私は思いたい。ですから、我々新生ザフトは遺伝子医学による新たな『作られた存在』を産み出すことを法で禁じます。我々は、宇宙《そら》に生活するナチュラルな人として、生を全うしていきたい』
 
 詭弁だな、とアズラエルは冷ややかに思う。既にコーディネイターとして産まれ、驕った者たちはそうそう考えを変えたりはしないし、第一世代の、所謂ナチュラルの親を持つコーディネイターの誕生は既に『トリノ議定書』により禁止されている。連合に下るというのなら、それの適用は当然だろう。
その法に爛廛薀鵐鉢瓩従う姿勢を見せると言うのなら、情勢は更にこちら側に有利だ。後は、爛廛薀鵐鉢畊馥發砲い襪修譴鉾紳个垢訐力をどうにかするのは、新生ザフトとやらの面々だろうから、彼らの行動に目を離さずにいればそれで良い。
 状況を見て、切り捨てる事も算段に入れつつ、アズラエルは彼らの条件を概ね認めてやっても良いと考え始めた。既に、地球や連合の所有するコロニーに在住するコーディネイターの多くは反爛廛薀鵐鉢瓩箸覆辰討い襦新生しようとも、ザフトに、そして爛廛薀鵐鉢瓩北ね茲六弔気譴討い覆ぁ4砲笋に衰退していくのを待つだけだ。
 そこまで考えたところで、帰頭したフレイが「志願兵らしいんですけど……」と困った顔ような顔をして連れて来た少女を見、アズラエルは呼吸をする事すら忘れ、思考を停止させた。
 ナタルが「え、あれ……?」と可愛らしい声をあげると。桜色の髪をした少女が深々と頭を下げた。
 連合の登録には、そのフレイ・アルスターの口添えもあり、レノア・アルスターと記された。レノアと言う名がアスラン・ザラの母の名であると聞き、アズラエルは嫌味な女だと感じたが、本人には別の思惑があるようであえて口には出さなかった。
一応はアルスター家の遠縁の親戚とし、軍属であったらしいフレイの曽祖父の不貞の際に生まれた隠し子の血筋で、戦争で親を失ったレノアの家族関係を調査したところ事実が明らかになった、と適当にそれらしい理由を付け加えた。
 そこにいる人間を最初からいなかったことにすることすら可能なアズラエルにとっては、いない人間を作り上げるなど造作も無いのだ。
 大事な事は、これでアルスター家に貸し一つ、という事である。
 知らなーいと一蹴されそうなのが唯一不安な点であった。
 
 
 
 一先ずの事を終えたアスランは、爛椒▲梱畛蔑畆爾離愁侫 爾砲匹りと体を預けた。色々な出来事が、一遍に起こりすぎた。
 ミゲル、ラスティ……。
 今でも、ひょっこり現れていつものように、気の聞いた一言を言ってくれるのではないかと淡い期待を抱いてしまう。
 それでも、刻々と時が過ぎていくという事実が、その死が真実なのだと知らしめる。
 もう、あの二人の親友には、二度と会えないのだ。謝ることも、お礼を言う事もできない。
 だが、彼の死は決して無駄にはしない。彼らが爛献Д優轡広瓩鮗蕕辰討れたから、こうして連合にも多少の強気を見せることができたのだ。
 ふと、もう一人の、自分のもとからいなくなってしまった少女に想いを馳せる。
 これで良かったのかもしれない。ゼルマン艦長がラクスの命を救い、その戦闘でフレイ・アルスターが彼女の心を救った。彼女が使った旧式の、かつてアスランが使っていた爛献礇好謄ス瓩牢袷瓦紡臟砲靴討い燭、爛献Д優轡広甞杏瑤離メラが、荒い画像で彼女を捉えていたのだ。
淡い光に包まれ、アスランの、ザフトの爛献礇好謄ス瓩ら救い出されるその姿を。
 もう彼女には会えないかもしれないな、という予感がしていた。それが、彼女の得た、アスラン達が勝ち得た自由の代償か。
 それでも、君が幸せなら俺はそれでいい。
 ザフトに傀儡が必要なら、俺がなろう。道化が必要なら、俺が演じよう。だから、君はもう、幸せに生きてくれ――。
 
 
 
 爛椒▲梱瓩了蔑畆爾如▲妊アッカがふうと息をついた。
 
 「で、どーするの? 俺たちだけで爛筌ン瓩鰺遒箸擦襦」
 
 問われたアスランは、短く「考えがある」と返す。傍らのニコルがふむと考え込む。
 
 「現在、爛筌ン・ドゥーエ瓩隆霖六慘瓩蓮愃叔の虎』のアンドリュー・バルトフェルドですが、議長のギルバート・デュランダルがそのまま総指揮を取るとかで――」
 「バルトフェルド――」
 
 イザークが考え込むようなそぶりをした。
 
 「『砂漠の』、ねぇ? どーするの? 強いぜあの人」
 
 なおも茶々を入れるディアッカに、アスランは気を害した様子も無く苦笑で返す。
 
 「あの人に小細工は通用しないよ。だから、直球で攻める」
 「ふーん?」
 「それなら、僕に任せてください」
 
 と、ニコルが何かを思いつき快活に言った。
 
 「昔、ラスティと一緒に考えていた面白いものがあるんです」
 
 
 
 単独爛椒▲梱瓩鯲ッΔ掘△修里泙洵爛筌ン・ドゥーエ瓩帽澆衫ったラウは、急ピッチで爛廛蹈凜デンス瓩ら『別の機体』へコクピットの移植作業を進まさせていた。その様子を捉えつつ、彼はギルバートのいる作戦司令室へと足を進める。
 扉を開けると、彼は一人で静かに佇んでいた。ちらとギルバートが視線をやる。
 
 「来たか。どうだった? 彼らは」
 「見ての通りだ。結局、お前の思惑通りだったというわけだな?」
 
 ラウが皮肉ると、彼は心外だと言いたげな視線を向ける。
 
 「私はそこまで万能では無いよ。事実、私の描いたプランの中では、ラクス・クラインは彼らの傍らにいた」
 
 彼が一度言葉を区切り、ちらとモニターに映し出される宇宙要塞爛椒▲梱瓩鯲し見る。
 
 「彼らは、私の期待以上に動いてくれた。だから、この爛筌ン瓩最後の決戦の場となる」
 
 残存兵力の全てがここ宇宙要塞爛筌ン・ドゥーエ瓩暴厳襪靴討い襦ラウが秘密裏に結集した、あの部隊も――
 だが、ラウはここで彼らを使うつもりは無かった。彼には彼の目的があるのだから。
 
 
 
 爛疋潺縫ン甦篭供團屮螢奪検佞念貎融弔辰討い織淵織襪蓮△箸海蹐匹海躱破した箇所の補修と、追加武装の為にと何故か降り立っていたジャンク屋達の対応を通信で終え、ようやく一息ついた。
 結局、どこをどう探してもレノア・アルスターとその家族はこの世に存在していた事にされたそうだ。
 それどころか、どこからか嗅ぎ付けたマスメディアの数人が彼女の隣人にどのような人物だったのかを尋ね、そしてその隣人からは『利発で良い子だった、ラクス・クラインのファンだった、容姿が少し似ていた』などと決められたワードを喋り、地元紙の隅っこにそれが書かれたらしい。
 薄ら寒いものを覚えながらも、ナタルは世の中の必要悪というものを知らされつつあった。だが、それを許容する事などできず、ただ漠然と『嫌だな』という感想を持つ。
 そんな彼女の様々な思惑は、艦の修理にやってきた兵の言葉を聞いて掻き消された。
 
 「修理ができない!? どういうことだ!」
 
 怒りの剣幕でまくし立てると、兵はしゅんと身を縮め状況を説明する。
 言うに、修理が出来ないわけではないのだが、爛椒▲梱瓩納けた攻撃は艦の動力部にまで達しており、一度月面のラボでじっくりと時間をかけて修繕しなければならないとのことで、ナタルはそれを待つ時間は無いと言い放つと、アズラエルがいつものようににやけた態度で爛◆璽エンジェル瓩膨命を入れた。
 モニターの奥でその様子を捉えたマリュー少しばかり迷惑そうな表情になったが、口調は和やかなものでナタルは流石だなと感嘆した。
 通信相手がジブリールに移り変わると、アズラエルはすぐに言い放つ。
 
 「ん、ジブリール君、『アレ』の用意はできてまス?」
 〈『アレ』……『アレ』とは『アレ』のことですか!〉
 「そーです、『アレ』の事でス」
 
 どれの事だよとナタルは気づかれないようこっそりとふんと鼻を鳴らした。
 ジブリールは感激した様子で、〈すぐに手配します〉とだけ告げ通信を切った。
 
 
 
 結局、まあ予想はしていたが、ラクスはフレイの部屋に泊まることとなり、どうしてこういう事はスムーズに事が進むんだかと溜息をついた。
 シャワーを浴び、着替えを済まし、ビスケットとドリンクで軽い食事を終え、ようやく一息つくと、ラクスは沈んだ表情のまま俯き、小さな声で言う。
 
 「……父が……死にました……」
 
 フレイは、知っていた。病死だと言われているが、そんな事は嘘だって事くらい子供でもわかる。殺されたんだ、この子の父も。カガリの父と同じように。わたしのパパと同じように。
 
 「フレイにも、わたくし、隠していることがいっぱいあります……ずっと騙してきたことも、たくさん……」
 「うん」
 
 ただフレイは頷いた。だって、誰にだって隠し事くらいあるもの。それくらいの事で嫌いになったりなんてしない。
 ラクスは唇をぎゅっと結んだまま、堪えきれずに大粒の涙を瞳に浮かべる。彼女が言葉をようやく紡ぐ。
 
 「……泣いても、良いですか……」
 「――良いよ」
 
 ラクスの体を優しく抱き寄せると、彼女はフレイの胸にすがって泣きじゃくった。そのままフレイはラクスの桜色の髪に頬を埋め、ぎゅっと抱く腕に力を込める。
 
 「……またみんなで、ショッピング行こうね――」
 
 優しく囁くと、ラクスは喘ぎながら小さく頷く。
 
 「カガリに良いとこ教えてもらってさ、美味しいものもいっぱい食べよ――」
 
 ぎゅうとラクスの腕に力がこもる。
 
 「平和になったらさ、ラクスの家にも行ってみたいな、わたし――」
 
 それは、家の名も今までの人生も失ったラクスにとっては決して叶わぬ夢物語なのかもしれない。
 それでも、フレイは希望を胸に抱きながら、ラクスをその胸に受け止める。かつて自分が涙を流したとき、彼女がしてくれたように、その髪を撫でながら。
 その日、フレイは夢を見た。
 今日は五歳の誕生日。父が母を出迎えると、母は両手にいっぱいのプレゼントを持って来てくれた。
 母の後ろに知らない夫婦がいた。その妻と思わしき女性は桜色の髪をしており、彼女と同じ髪の色の少女がちらと足の影から覗いている。
 フレイがその少女に手を伸ばすと、少女は気恥ずかしそうにフレイの手を握り、二人は親友となった。世界が広がり、青空を白鳥と赤い鳥が羽ばたき、星が瞬いた。
 それは、決して叶わぬ夢と幻であるけども、二度と戻ることのできない幸せな過去であるけども、未来は、無限に広がっている。
 その無限の選択肢の中から、どれを選ぶかはわたし達次第……。
 でも、きっと大丈夫。だって、みんなと一緒だから――。
 
 
 
 むにゃと目を覚まし、のそりと起き上がる。寄り添って寝てくれたフレイはまだすやすやと寝息を立てており、ラクスははだけた服のずれを寝ぼけたままで直す。
 何だかとても良い夢を見たような気がした。
 不思議な気分だ。
 辛うじて思い出せるのは、フレイに良く似た赤い髪の女の人に出会い、父と母に連れられて知らない人の子の誕生日を祝いに行くのだと――
 フレイが「……ん」と寝返りを打ち、はだけた下着から形の良い胸が露になる。
 大きいなあと朦朧とした頭のままその胸をぐっと下から鷲づかみにして持ち上げる。そういえば胸に重みがあると悪い夢を見るって聞いたことがあったけど……。
 ちらと自分の胸元に視界を落とし、はあと溜息をつく。
 きっとそれは迷信だ。
 決して大きくは無いけど、いや、たぶん標準くらいのはずだけど、ひょっとしたら標準より少し小さいくらいかもだけど、でもきっとあくまで標準の範囲内のはずだけど、重さなんて全然わからないくらいだけど、自分だって結構嫌な夢は見るし。
 ラクスはフレイの寝顔をじっと見つめてから、そっと顔を近づけ彼女の頬にキスをしてからベッドから起き上がった。
 と、思い立つ。スタイルが良いと悪い男が寄ってきて、胸が大きくて重いと嫌な思いをいっぱいして、それで悪い夢を見る?
 士官室に備え付けられたバスルームでシャワーでも浴びようかと考えたが、ぶると肌寒さを覚え、下着同然の自分の姿を見てふと胸からわき腹にかけてをそっと撫でる。
 少し、あばらが浮いているかもしれない。禄に食事も取ってなかったのだしそれは当たり前だが、何だかそれを見たらお腹が空いてきて、今日はご飯をめいっぱい食べれるような気がしてきたが、そういえばまだ食堂は壊れたままで使えないのだと思い出してはあと溜息をついた。
 放心したまま、考える。
 ――『ラクス・クライン』って……何だったんだろう?
 自分のできる限りの事をしたと思っていた。アイドルとしての自らの影響力を用いて人々に呼びかけ、父の人脈を利用して、政権に反する一派を作り上げ、全てを奪われた。それはただ戦争を終わらせたい、破滅へ突き進む世界を止めたいという思いから発した行為だった。その、はずであった。
 人々がはやしたてる。ラクス・クラインは正しく、美しく、紅蓮の騎士達を従えた救国の歌姫だと。それはラクスの実像からほど遠く、彼女の真実の思いや苦しみを置き去りにして高まり、それは時にナイフとなってラクスの心をも抉った。
 自らが招いた事だとして逃げる事も許されず、かといってそれ以上進むこともできず、脆弱な身と心を貪られていくだけだったのかもしれないその時、あの人が――アスランが、逃げ道を作ってくれた。目を閉じ、耳を塞ぎ、自らの責任からの逃避を許してくれた。
 では、彼はどうなるのだろう。
 ラクスの背負うべき重圧も、罪も罰も一身に背負う彼は……。
 
 ――手紙でも書こうか?
 ……どうやって?
 書くとしても、何を書くのだ?
 一向に考えがまとまらず、やがてラクスは『どうしたらアスランに許してもらえるか』といった考えになっている事に気づき、それは違うだろと首を振った。
 書く事は、ええと……ありがとう、とそれから……愛してますって必要? いつまでも待ってますとかいるのだろうか。むしろ書いたらアスランみたいな真面目な人は信じ続けて逆に束縛しちゃうのでは。んん、それではわたくしの事は忘れてくださいさようならとか? いや、流石にそれはあまりにも失礼なのでは。
じゃあ、やっぱりずっと待ってます、愛してます……? ずっとってどれくらい? 五年? 十年?……二十年とか……? うーん、それは嫌だなぁ。じゃあどこかのタイミングで区切りをつけて会いに行く? あ、でもその間にあっちが結婚して子供作ってたらどうしよう。狙ってそうな人はいっぱいいたし……。
英雄は色を好むと言う言葉を聞いたことはある。たぶん、アスランは英雄になれる、かもしれない。もしそうなったら……でも、アスランが誰それ構わずつきあったりするとは思えないし、どうせああいう人だから真剣に一対一で、将来を誓い合って付き合ったとしても二年くらいでようやく軽いキスをする程度だろうし、うーん、どうしよう……。
 ん、とラクスはまた気づく。そもそも手紙を書くなんて事は確定したわけではなかった。
 では、どうしようか……?
 一頻り考えたが良い案は浮かばず、ぶると肌を震わせた。少し鳥肌が立っている。
 うん、寒いし、とりあえずもう一度寝よう。
 ラクスはまたフレイのとなりに潜り込み、冷えてきた自分の体を温めるようにして彼女を抱き寄せた。
 人の肌は、温かかった。
 
 
 
 艦の移行を申し渡されると、厨房でラクスが周囲の視線も気にせず駄々をこねていた。
 
 「せっかく! 少しずつ! 何とか! 頑張って! 使えるようになってきたのに!」
 
 バシバシとところどころ破損した冷蔵庫をはたきながら、彼女はモビルスーツ訓練を終えて一人戻ってきたキラを睨みつける。
 
 「わたくし馬鹿にしてるのですか!?」
 「え、ええと……」
 
 ついでに言うのならば、別にキラがその事を彼女に伝えたわけでもなければ、別段話し相手になっていたわけでもない。おもむろに足を踏み入れ、フレイにマユの事を気にかけてあげてと頼まれていたので、寂しそうに(最近はラクスと一緒で迷惑そうに)しているマユに声をかけようとしたところ、突然発作のように彼女がわめきだしただけなのだ。
 
 「……別に良いじゃん。そもそもザフトの人になんて意見される筋合い無いです」
 
 とさらりと突き放すのはシンの妹のマユだ。一四○センチに満たない小さな身長で、身長一六○センチのラクスに臆する事無く物を言える彼女は凄い。というのも単にザフト嫌いなだけなのだろうが。彼女の黒髪は色褪せたキラの世界でも艶やかで、見ていると少しばかり安心するものがあるが、その感情は置いておくとしてキラはちらと向けられた矛先を見つめる。
 
 「べ、別にわたくしはザフトのでは無くて――」
 「歌って踊ってザフトの連中の士気上げてるなら同じです。敵です」
 
 あうと身じろぎラクスは視線でキラをじとりと睨みつける。
 ……これは、何とかしろと言われているのだろうか。
 ううんと一頻り考え、とりあえずキラは取り繕った。
 
 「ええと、戦争なんだしさ。お互い様だと思うけど……」
 「お互い様だから、お父さんとお母さんと友達をみんな殺されたのを許せって、そう言うんですか」
 
 その感情は最もであり、キラは口を噤んだ。マユは真っ直ぐな瞳でキラを見ている。戦争だからという理由で片付けようとしてしまったのは、自分の精神が磨耗しているのかもしれないと感じてしまい、思わずその瞳から逃げ、視線を落とした。
 
 「……そうだね。ごめん」
 
 そこから先は何も言えず、ただ時計の針の音だけが機械的に時を刻むだけだ。
 ややあってからマユがぺこりと頭を下げる。
 
 「すみません、感情的になってました。もう行きます。艦を移るなら荷物をまとめないとだし」
 
 てくてくと、小さな姿のまま彼女は食堂を後にし、それを見送ったキラははあと溜息をついた。
 頭が良くて、賢くて、良い子なのだろうけど、だからこそ色んなことを考えてしまって、それがまとまらないのだろう。
 ちらと視界をやると、ラクスが頬をぷくと膨らませてキラをじとりと睨んでいる。
 どうしてもっと上手く言ってくれなかったのと言わんばかりの表情だが、そんな顔されても困る。
 話しを反らす意味もあったのかもしれないが、キラは思わず声をかけた。
 
 「本当に良かったの? ラクス、これから一人なんだよね……?」
 
 爛淵ぅ船鵐押璽覘瓩離如璽燭鮗集していたセレーネらにキラは疑似人格というものを後学の為に教えてもらっていた。どの道視力が完全になくなってしまえばパイロットはできなくなるので、今後の人生とやらを考えての事だが、とりあえず今は今まで興味の持たなかった色んなことをやってみよう、と思ってのことだ。
その中で、先の戦いのデータを、記録された映像を見た。たった一機と一人の少女が起こした奇跡を、垣間見た。状況は少し、爛譽イエム瓩任亮分の時と似ていたかもしれない。
 ――倒すのではなく、救う。
 その為に、キラは代償を払った。
 だが、彼女の起こした奇跡は違う。ただ、人の想いを力に変え、想いの力で人を救ったのだ。思いだけでも、力だけでも、そしてその二つがあったとしても決して守れないものがあるのだと思っていた。いままでの戦いでそれを否応無く見せ付けられてきた。
 彼女は、想いを力にできるマシンに乗っているのだ。
 それは、奇跡のマシン。
 コーディネイターのキラには、決して届かない心の輝き。
 そしてその結果、彼女は――ラクス・クラインはここにいる。全てを捨てて……。
 母は幼い頃に死別し、父もついこの前……。
 彼女は天涯孤独の身なのだ。フレイと同じように。
 キラは、ラクス・クラインという少女に同情していた。
 が、そんなキラの思いを知ってか知らずか、ラクスは「ふうん」と漏らし冷めた目でじとりとキラを見る。
 
 「わたくし、貴方に呼び捨てにされる筋合いはございませんが」
 
 ……これである。
 
 「……すみません」
 
 たまらず頭を下げたキラであったが、ラクスはふふと笑みを浮かべキラの顔を覗き見た。
 
 「ん、冗談です。では、わたくしは貴方の事をキラと呼びますね?」
 「は、はぁ……」
 
 わけもわからずただ相槌を打つと、ラクスは更にふふっと笑みを浮かべてご機嫌になった。
 彼女の指がキラの頬に触れる。
 
 「え、あの……」
 
 何を、と言いかける前に彼女が言った。
 
 「キラは、色と視覚とが……ええと――」
 
 彼女が言葉を濁す。
 気を使われているのだろうか、と思い立ちキラは言った。
 
 「はい、駄目になってます」
 
 ラクスはわずかに目を伏せ、
 
 「はい、そう聞きました」
 と返した。
 
 何だかその様子が可笑しく、キラは噴出しそうになってしまい思わずにやけた口元を覆った。
 ラクスがそっと言った。
 
 「キラがフレイに振られたら、わたくしが貰って差し上げましょうか?」
 「えっ――」
 「ふふ、勿論冗談です」
 
 にこりと天使のように微笑み返され、キラはどう返したら良いのかもわからずに顔を反らしたが、何となく彼女がそう言った理由に予想がついていた。
 ――慰めようとしてくれてるんだ。
 それは、不器用な心遣いである。暗に、頑張ってねと告げているのだ。彼女の気持ちはありがたく、素直に嬉しいものであったが、それとは別にキラはあることを思っていた。
 にこにことしているラクスを見る。
 この人、人と付き合うのが下手なんだ……。
 たぶん、人との触れ合い方を知らなかったのだ。ラクス・クラインというアイドルは。幼い頃からずっとアイドルを求められてきた故に、自分という存在を己の中で蔑ろにしすぎていたのだろう。本来の彼女は幼いままで時が止まり、アイドルのラクス・クラインだけが表に出て成長していったのだろう。
 そんな彼女が、アイドルを辞め、本来の自分と向き合い生きようとしている。
 キラはラクスの冗談に付き合うつもりで、苦笑を浮かべてこう返した。
 
 「じゃあ、もしそうなったらお願いします」
 
 と。
 ぴたりとラクスの表情が固まり、しどもどしながら彼女はきょろきょろと周囲を見渡す。
 ……何だろう?
 相変わらずキラの見ている景色は土気色であり、もうじき届くらしい専用の電子デバイスがあれば少しはマシになるそうだが……などと考えていると、ラクスはそのままぎこちない仕草で無言のまま食堂を後にした。
 キラはわけもわからずその後姿を見送ったが、その後、ラクスが顔を耳まで真っ赤(トール談)にしてフレイに何かを打ち明け、それからしばらくフレイから軽蔑した眼差しを向けられる事になるのはすぐ後の話である。
 
 
 
 アークエンジェル級七番艦をベースに、新技術の試験の為改良を施された生み出されたガーティ・ルー級一番艦爛ーティ・ルー瓠A環垢廊爛◆璽エンジェル甬蕕了容鵝メートルよりもやや小型の三八○メートルであるが、爛疋潺縫ン瓩茲蠅盥垢縫皀咼襯后璽脹人僂貌嘆修気譟∪鞍システムや指揮範囲などが飛躍的に向上していた。
外見こそ、両翼の無い爛◆璽エンジェル瓩噺世辰申蠅世、特徴的な深青色を、ラクスは嫌いではなかった。その蒼が、宇宙《そら》の色だと彼女は知っているから。あの輝きの中で、命の鼓動を感じたから。
 爛ーティ・ルー瓩爛椒▲梱瓮疋奪に入港し、艦体を固定させる。ちらと横隣のマユに視界をやる。彼女の隣には実の兄のシン・アスカがステラ・ルーシェに抱きつかれて迷惑そうな、それでいてまんざらでもなさそうな年頃の男子特有のむっつりとしたスケベ心を出しているように思える。
無論、マユはそれに気づいているようで、むすと不満げな顔でシンを横目でじろと見ているが彼は気づいていない。
 ラクスはツンツンとマユの小さな肩をつつくと、彼女は視界だけをこちらにちらと向ける。
 
 「わたくし、コック見習い」
 
 にこりと言うと、マユはすぐに視線を正面に戻してぶっきらぼうに言う。
 
 「そうですか」
 「はい、頑張りましょうね?」
 「そうですか」
 
 この子、手ごわいなぁ。
 でも、可愛い!
 ラクスは小さくとガッツポーズをして気合を入れた。
 ほどほどに頑張って、ほどほどに手を抜こう。うん、そうしよう。
 厨房のどこかに、ムラタ料理長の遺影を飾らないとな、などと考えていると、自慢げに艦の説明するジブリールの声が聞こえ、ラクスは意識をそちらに向けた。
 
 「そう、世界初の爛潺離侫好ークラフト瓩鯏觝椶靴燭海凌径だ鏨廊爛ー・ティ・ルゥ瓠 それの初代艦長として任命された君への信頼は計り知れないものがある!」
 
 何だかいらっとする発音である。身振り手振りでばっばっと臭い芝居の劇団員のように彼は語り、ナタルがげんなりと口を挟む。
 
 「あの、爛潺離侫好ークラフト瓩箸蓮帖帖
 「良い質問だキャプテン! そもそもは爛潺離侫好ー粒子瓩糧見と爛潺蕁璽献絅灰蹈ぅ畢瓩凌届太について語らねばならないだろうが、今日はそれは置いておこう、それは良い! だが、同様の技術として爛淵ぅ船鵐押璽覘瓩ら得たデータをもとに完成された爛潺離侫好ーエンジン瓩鯏觝椶靴燭海劉爛ァ! ティ! ・ルゥ!瓩蓮特に! 重力下での航行においてはもはや右に出るものはいないと断言できる! 
あのヒマラヤ山脈ですら悠々と飛び越えるこの艦の性能、計り知れない! それを私はキャプテンたる君に伝えねばならないのだろうが、君は優秀だと聞いている、だからあえてここは省くとしよう! 私にはまだほかに伝えねばならないことが山ほどあるのだから!」
 
 ナタルの顔には、これから向かう宇宙要塞爛筌ン・ドゥーエ瓩任修僚杜浪爾任旅匚圓鮴犬せる場所があるのかと言いたげな色が浮かんでいたが、きっと言えなかったのだろう、かわいそうに。ふとスペック表に目を通していた彼女があることに気づいた。
 
 「爛蹇璽┘鵐哀螢鶚瓩蓮⊆茲螻阿気譴討い襪里任垢……?」
 
 爛◆璽エンジェル畉蚤腓稜笋蠅琉譴弔任△詬枦纏卩望詼き爛蹇璽┘鵐哀螢鶚瓠ナタルはぎょっとして言うが、ジブリールはすうっと息を思い切り吸い、大声で「古い!」とまくし立てた。
 
 「良いかね!? 爛◆璽エンジェル甬蕕箸いΔ里蓮△い錣仍邯慨蓮 機動戦艦か、強襲揚陸艦か、そのどちらにすべきか争い、どっちつかずになったのがそれなのだ! そもそも宇宙の主役はモビルスーツであるのだから、いまさら陽電子砲など、もはや過去の遺物でしかない! キャプテン、君は見ただろう!? 
爛淵ぅ船鵐押璽覘瓩牢に単機で運用可能な爛蹇璽┘鵐哀螢鶚瓩鯑眤△靴討い襪里澄 モビルスーツサイズにまで小型化されはじめているそれを、わざわざ戦艦に搭載し貴重な電力を割くなどと! 爛ーティ・ルゥーウ瓩砲廊爛潺離侫好ークラフト瓩搭載されている! 
陽電子砲などといった玩具を装備している余裕などありはしないのだ! だがそういった大艦巨砲主義に走りたくなる気持ちも私にはちゃんとわかっている! あれのデータにあった爛疋乾好ア瓩里茲Δ覆發里鮖笋呂い弔作ってみたいと思うし、無論そのための労力は惜しまないだろう! 
名、そうだな、歴史上の偉業をこなした人物から名をとってジブリール級一番艦爛献屮蝓璽覘瓩箸いΔ里呂匹Δ!」
 
 だからその爛潺離侫好ークラフト瓩麓,量榲地の宇宙要塞爛筌ン・ドゥーエ瓩任匹μ鬚卜つんだとナタルは問いたげだったが、やはり我慢したのだろう。かわいそうに。
 
 「だがそれだけではない、この艦は単独での大気圏突入、そして離脱が可能なのだ! これは従来には無い未来の技術であり、それを我々が手にしたことは大きな進歩であると、宣言しよう! これは進化だ! 人としての進化、知恵の結晶がこの爛ーティ・ルゥゥー!瓩砲枠わっており、その艦だからこそ諸君らにはふさわしいと判断された理事の見解は正しい! だからこそ、私も全力を尽くしたのだ、来たまえ!」
 
 だからその大気圏突入と離脱がこの後向かう宇宙要塞爛筌ン・ドゥーエ瓩鵬燭量鬚卜つのかとナタルは言いたげな視線を向けていたが、きっと言えなかったのだろう。かわいそうに。
 げんなりとした様子の彼らに続いてラクスもこっそりと後を追った。
 最後の調整をしていたらしいジャンク屋が「よお、キラとフレイじゃねえか」と元気良く手を振ると、キラは「あ、ロウさん……」とお辞儀をした。後で聞いた話であるが、彼らはロウ・ギュールというらしいジャンク屋には地球に落ちた際様々な面で世話になっていたという。
 
 「状況は!」
 
 ジブリールが緊迫した様子で問うと、ロウはにいっと口元を歪め親指をぐっと突きたてた。
 
 「そうか、やってくれたか!」
 「あんた良い趣味してるぜぇ、戦艦にこんなのつけちまうとはな!」
 「いや何、諸君らの働きがあってこそ!」
 
 と上機嫌に互いの仕事を称えあい、ジブリールが向き直る。その『のれん』をかけられたいかにもな入り口を彼は満足そうに見、うんうんと力強くうなづいた。彼がガラガラガラと無駄に古典的な音を立てる扉を開けると、中にはいかにもといった様子の脱衣所と、広い岩風呂そのものが覗いている。
 ナタルが絶句し、そのままついてきたキラ達は声を失い、ラクスも流石にこれはちょっと引いた。ジブリールがぺたりと岩風呂の岩に触れるとはっと何かに気づき、自信に満ちた笑みを浮かべるロウに向き直る。
 
 「本物の岩か!」
 
 問われた彼は無言で、それでいてゆっくりと親指をぐっと衝きたて、ドーンという効果音が見えた気がした。
 
 「素晴らしい、良くぞここまで! 地球の岩か!?」
 
 更に問われた彼は、同じくして無言で、それでいてゆっくりと親指をぐぐっとつきたて、ドドーンという効果音が見えた気がした。
 ジブリールは「ああっ」とよろめき、キラキラとした背景を背に写しながら感涙した。流石のラクスもどん引いた。
 
 「素晴らしい、このような日が訪れようとは――クルーのレクリエーション、これできっと救われる!」
 
 きゅっときびすを返し、彼はロウの両手をがちりと握った。
 
 「見事な仕事だ! ボーナスは弾もう!」
 「ほんとか!? 助かるぜ!」
 
 そういうと再び男は岩風呂に向き直る。
 
 「欲を言うのならば、私はやはりヒノキの香りが良い。ヒノキの湯が、欲しかった……」
 「あんた、そりゃあ……」
 
 わずかに怪訝の色を浮かべるロウに、ジブリールはうむと頷く。
 
 「わかっている。だがな、いつか究極のヒノキの湯を開拓してみたいと思うのだ……。頑丈で、燃えにくく――知っているかね。ヒノキとは、『すぐ火がつくから火の木』と名付けられた説すらあるそうだ……」
 
 何を言ってるんだろうこの人は、と厨房とメニューを我が物にして好き勝手やっていた自分を棚に上げてため息を吐いた。
 
 「だが私は諦めないぞ、ジャンク屋の青年、ロウ・ギュール君と言ったか!」
 「ああ、その意気だぜ! 諦めたらそこで試合は終わっちまうんだからな!」
 
 だから何の話ですか。
 ともあれ話がずれにずれる馬鹿な男たちの会話などとうに忘れて、やれやれとご丁寧に『女湯』と漢字で書かれたそれを見ると、少し今後が楽しみではあった。
 着実に物資の補給作業が進められていく。
 その爛ーティ・ルー畤堂の壁にかけられた料理長ムラタの遺影にラクスはぱんぱんと両の手を合わせ、ぎゅっと彼の冥福を祈る。ムラタの出身国の日本流のやり方らしいが、聞きかじっただけなのでこれであってるかはわからないが、祈りは心の所作だとかマルキオが言っていたので、たぶんラクスのこれはこれで正解なのだと自分に言い聞かせる。
 これで良いのだの精神である。
 
 「似非仏教徒」
 
 マユが手を洗いながら小言を言う。日本からの移民が多いオーブでは元々信仰心は薄めだが習慣として過去の宗教の作法が今も生きて存在するため、マユにはラクスのやった行動はやっぱりどこかが間違って見えたのかもしれない。
 
 「こ、心がこもっていれば良いのですっ」
 
 慌てて反論したが、マユは洗い終わった手を拭きながら見向きもせずに言った。
 
 「本当に心がこもってるなら、調べてからやるんじゃないですか」
 
 ぐうの音も出なかった。
 
 
 
 爛椒▲梱甦挈遒ら数日が経過し、少しずつ部隊のみんなも明るさを取り戻しつつあった。シンはオムライスを食べながら正面の席にどかりと座る女性に愚痴を聞かされていた。
レノア・アルスターだとか名乗っているくせに、レノアさんとかアルスターさんとか呼んでも彼女は反応が鈍い。「え、ああ、そ、そうでした、わたくしを今呼びましたか!」など言いながらだばだばと慌てて駆け寄るのだから、皆は彼女をラクスさんとかしか呼ばなくなるのは時間の問題である。
 
 「ですからね、人が足らないと言っているのです。だのに、ムルタ・アズラエルはこちらの都合を考えないお方でしょう?」
 「――はあ……」
 
 迷惑でしかないが無視するわけにもいかず、シンは適当に相槌を打った。
 時刻は午後二時半。人の入りはまばらだ。
 カウンターで食事を受け取ったキラがおもむろにやってくる。
 
 「やあ」
 
 彼は届いたばかりの専用のメガネ型デバイスをつけていた。
 
 「どうも。調子良いんです? それ」
 「うん、何とかね。色も少しわかるよ」
 
 眼鏡をかけると大人びてみえるというか、賢く見えるタイプの人間がいるが、キラは間違いなくそのタイプの人間であった。つまり、似合っている。
 彼のトレーにはライスとロールキャベツと味噌汁、追加で頼んだから揚げが乗っている。そういえば、味覚が駄目だって聞いてたけど……とシンはその事を言いかけたが、口を噤んだ。
 これから食事するっていうのに、面と向かって言うのは失礼だよな……。
 
 「味覚はどうなのでしょう?」
 
 ………………。
 
 「そっちは流石にね。でもこれ好きだし、美味しいと思うよ」
 
 シンは半ばあきれ気味に溜息をつく。キラの方が明らかに気を使っているようだったからだ。
 厨房からマユがひょいと顔を覗かせた。
 
 「仕事してよ……」
 
 明らかに不機嫌であり、その様子にシンは胸を痛める。父と母を失ってから、マユは一度も笑っていない。それでも、ここにきて表情が少しずつ豊かに(と言っても喜怒哀楽の中では怒の部分が強いが)なってきているのは救いであり、シンは少しばかりラクスに感謝していた。
 
 「休憩です、きゅーけい」
 「まだ時間になってないんですけど」
 「細かい事は良いのです」
 「………………」
 
 マユはぷいと身を翻し厨房に戻っていく。この人は人の神経を逆撫でする天才なんだろうか。
 キラが「あはは……」と乾いた愛想笑いをし、食事に戻る。
 ふと、入り口から話し声が聞こえてきた。
 
 「じゃあ、やっぱり――?」
 「ン、爛淵ぅ船鵐押璽覘疥匹い諭5‖里糧娠も良くなってきている。少尉はこの調子で頼む」
 「はいっ」
 
 フレイとアムロである。
 会話の内容から察するに、また訓練をつけてもらっていたのだろう。最近はシンもちょくちょく彼に手ほどきをして貰っているが、レベルが違いすぎて何がどう駄目なのかわからない。
フレイ曰く、アムロの強さは初動の速さと対応の的確さであり、キラ曰くそれは死角の突き方の上手さであり、死角の無さであり、カナード曰く戦略の幅広さであり、戦い方の不透明さであり、トール曰くとにかく凄い、との事である。シンはトールの意見に賛同した。
 フレイがラクスを見つけ、ぱあと表情を明るくする。
 
 「あれ、もう休憩?」
 「はい、今日はもうお休みですっ」
 
 この人は……。シンが呆れると同時に、厨房からひゅるひゅるとオタマが回転しながらラクスの後頭部目掛け投げつけられ、彼女ははっと何かに気づいて慌てて振り向きそのオタマを白羽取りした。
 ばしん、とマユが小さな両手で厨房のカウンターを思い切り叩く。その表情は平和なあの頃に一度だけ見たことのある――俗に言う、マジギレであった。
 
 「は、はい、ごめんなさい、すぐ戻ります!」
 
 流石のラクスも汗をだらだらと浮かべ、慌てて立ち上がる。
 
 「あ、ねえラクスー? この前の検査の結果聞いたー?」
 「後でお願いしますー!」
 
 そそくさと厨房に戻っていくラクスの背に向けてフレイがはあと溜息をつく。
 「しょーの無い子っ」
 
 口ではそう言っているが、彼女の表情は優しい。
 
 「大尉。ユーラシアの人達が戦線復帰って聞きましたけど――」
 「ン? ああ、表向きはビラードという男の独断に近いものと処理されたそうだ。人手は足らないみたいだからね」
 
 アムロが答え、シンはふむと考え込んだ。恐らくはそれ以外にも政治的なやりとりが多数飛び交っていたのだろうが、結局は大人の事情というもので、シンにはそれが良い事なのか悪い事なのかの答えも出せずに考えるのを止めた。フレイは買った食券をカウンターに出しながらちらと振り向く。
 
 「誰から聞いたの? わたしだって知らないのに」
 「ガルシアさん」
 「あの禿てる人? 会ったの?」
 「メールが来たんだよ」
 「はあっ?」
 
 フレイがわけがわからないと言った様子で顔をしかめる。彼女ははっとして驚愕した。
 
 「あ、あんた、あの禿とメル友になってんの!?」
 
 何だか死語チックな言葉だが、シンはかつて彼らがガルシアという男どどういう関係があったのか知らないためそのまま傍観者でいるよう努める。
 
 「良い人だよ、話してみると」
 「わたしヤだなぁ……あの人、何か苦手……」
 
 苦虫を潰したような何ともいえない表情でフレイが言う。が、キラはさわやかに反論した。
 
 「でも、凄い人だよ。テノール部門の主席だったとかで、この前その時の映像が送られてきたんだ」
 「ますますヤだなぁ……知りたくなかった意外な事実……」
 「トマトのサラダ、おいておきました」
 
 マユがトレーにトマトのサラダとパエリア、アップルジュースを置くと、フレイがにこりと笑顔を向けた。
 
 「ん、ありがと。――ねえ、あれ良いの?」
 
 フレイが指差し、マユが振り向くと、ラクスが揚げ置きのから揚げをぱくんと口に運んでいるところだった。
 
 「良くないです」
 
 マユが不機嫌に言うと、ラクスはもぐもぐと少し冷めたから揚げを幸せそうに堪能する。
 
 「ふぁふぃふぃふぇふひ」
 
 マユが苛立ち目元をひくつかせると。ラクスが口の中のものをもぐもぐもぐと良く噛み飲み込み、「味見ですしっ」と天使のような微笑みで誤魔化した。
 
 「やっぱりお肉は美味しいですわね」
 
 マユがはあと溜息をつく。ラクスがひょいと揚げたての方に手を伸ばし、ぱくんと二つ目のから揚げを口に入れた。
 はふはふとその熱さと美味しさに表情を綻ばせている様子を見ようともせず、マユはふと何かを思い出し、フレイに声をかけた。
 
 「あ、そうだ。お母さん明日予定あります?」
 「ん?」
 「あっ――」
 
 言ってからマユは表情をさあと青ざめさせる。三つ目のから揚げを口に運んだラクスがにやにやと後ろで見ている。
 フレイがきょとんと目をぱちくりさせ、首をかしげた。
 よくある間違いだ。シンも何度か学校の先生の事をお母さんと呼んでしまったことがある。だが、それをこのタイミングで言うとは……。
 
 「あ、わたし? 最近セレーネさん達がしつこいけど、何かあるなら合わせれると思うよ」
 
 フレイが何事も無かったかのように言うと、マユは顔を真っ赤にして顔を伏せた。
 
 「……はい」
 
 少し後ろで、アムロがくくっと小さく笑っていた。
 
 
 
 誰もいない通路をラウは一人で歩む。
 ギルバートは、これから決戦が始まると思っているだろう。だが、ラウはそれないと確信していた。コーディネイターとナチュラルのわだかまりから引きこされたこの戦争は、宇宙要塞爛椒▲梱瓩任侶萓錣、最後の戦いだった。これから起こるのは、戦争ではない。
 扉を開けると、ギルバートはたった一人でしずしず迫る新生ザフト艦隊を見据えていた。最大望遠にしてもぼやけてはいるが、その旗艦が爛潺優襯亅瓩任△襪海箸呂垢阿砲錣った。もう数刻で最後の戦いが起こると思っているであろうギルバートは、それらの結末全てを他のものに任せ、ここで高みの見物を決めているようだ。
 ギルバート・デュランダルは夢想家であり、革命家であり、愚か者であった。彼の精神は、未来の為に自己を礎にする事を躊躇わないほどに気高く、その為に概ね無関係の命が奪われて行く事を必要な犠牲と切り捨てるほどに、邪悪である。
 だが、ギルの自分でも気づいていない醜悪さを否定するつもりは無い。ラウも、ギルバートも、人生という旅路の最中で屈し、折れ曲がってしまった敗北者。折れた心は、元には戻らない。歪んだ精神は決して元には戻らないのだ。だから、歪な心となってしまったギルバートは人を信じたいと思いながらも、人を信じられず、奇跡という不確かな存在に縋った。
そしてその奇跡の為に、爛廛薀鵐鉢瓩旅駝韻量燭鬟船奪廚箸掘¬亀可で全てを賭けたのだ。
 戦争に勝ったところで、あるいは敗北したところで、爛廛薀鵐鉢瓩箸いθ庭に閉じこもったコーディネイターの傲慢は変わらない。蔑まれ、あるいは爛┘ぅ廛螢襯奸璽襯ライシス瓩撚搬欧簍Э佑鮹イ錣譴織淵船絅薀襪料悪も同じ事だ。何も、変わらないのだ。例えコーディネイターの地位、差別問題、それらを解決したところでも、歪は出る。
 意識の改革が必要なのだ。コーディネイター同士による戦争。ナチュラルと共に歩むコーディネイター。共通の敵が、必要だった。滅びの運命《さだめ》に抗う為の、わずかな可能性。
 それが、『デスティニープラン』。
 
 「来たか」
 
 ギルバートがちらとラウを見、視線をモニターに移した。ラウはそのまま壁に背を預け、静かに目を瞑った。
 結局、ラウがギルバートと行動を共にしたのは、二人が似た者同士だったからかもしれない。もはや奇妙な友情すらも感じていた。
 ラウは一度前を見、モニターに映る虚空を睨みつける。
 立ち止まってはいけない、それが『ヤツ』の思うつぼだから。
 あの時、あの黒い女の見たものと同じものをラウは見た。
 それは、ほんの『何度か前』の戦争の歴史。
 ……一番最初のそれに、世界が修正されようとしている。
 『ヤツ』は既に『今回』に見切りをつけた。
 抗わねばならない。
 あの時見た『未来』が現実のものとさせないために。
 戦わなければならない。
 まだ、『ヤツ』はどこかに潜んでいるから。
 ラウは気づかない。
 それが、無駄な足掻きで『あった』事に。
 唯一違いがあるとすれば、それは――
 
 
 
 既に領域内へと侵入している新生ザフト艦隊がしずしずと艦を進める。砲撃は始まらず、ギルバートは何故だと疑念を感じながらパネルを操作し、爛潺優襯亅瓩魃任圭个后
 コンピュータがその爛潺優襯亅瓩隆麓鵑膿硫ξちする一機のモビルスーツを捉える。景色が拡大されると、それが爛ぅ鵐侫ニットジャスティス瓩覆里世筏い鼎、武装をしていないのを疑念に思うよりも早く、もう一つの異様さに気づいた。
 
 「……馬鹿な」
 
 おもむろに声が漏れた。同時にわずかな高揚に拳が震える。
 たった一人、パイロットスーツに身を包んだだけの無防備な少年が、爛ぅ鵐侫ニットジャスティス瓩瞭部に立っていた。それが誰なのかはすぐに思い立つ。無線に耳を傾けると、混乱した声で指示を仰いでいる者達の悲鳴にも似た様子が漏れ聞こえる。
 一機の爛競瓩爛献礇好謄ス瓩亡鵑蠹困Δ函▲咫璽爛機璽戰襪諒舛里茲Δ覆發里鯏靴妨け、放った。放出されたビームの粒子はサーベルの形状よりも遥かに長大に伸び、やがて広がるとそれはビーム粒子で形成された爛競侫鉢瓩隆となり、同時にいくつもの同じビームでできた鮮やかな旗が立ち並んだ。
 
 
 
 〈――繰り返す、我々に敵対する意思は無い!〉
 
 専用の爛イア瓮灰ピットの中で、全方位に向けて放たれた無線に、バルトフェルドはこらえきれずに漏らしたくぐもった笑いに全身を震わせていた。
 
 〈――誇り高い爛競侫鉢疂嫉里燭舛茵 我が爛献礇好謄ス瓩紡海院〉
 
 本国は、ラクス・クラインの死とアスラン・ザラの決起に困惑していた。それは宇宙要塞爛筌ン・ドゥーエ瓩望鐫鵑垢詈蔀もまた同様であり、その是非を知りたがっていた。ラクスという希望を失い、アスランという未来を失った爛廛薀鵐鉢瓩旅駝叡は、既に敗北の未来を見据えていた。
だが、新生ザフトとしてアスランが持ちえてきた、連合から勝ち取った(と表現した)ものは、今の状況から見て爛廛薀鵐鉢瓩量ね茲鯡鸞するものであった。果たして連合が本当にこれを飲んだのか、疑わしい面もある。仮に事実だったとしても、厳しい条件が突きつけられたのだろう。
それでも、爛椒▲梱瓩鰺遒箸気譴織競侫箸呂海里泙泙任廊爛筌ン・ドゥーエ瓩嚢垢棒鑪呂鮠談廚気察∨榲攘萓錣慮紊北犠魴鏐濾を行わざるを得ない。
 爛潺優襯亅瓩寮萋で、爛献礇好謄ス瓩静かに前を見据えている。そこにアスラン・ザラの姿を見、バルトフェルドはまた小さく笑いをこぼした。
 
 「あーダコスタ君、聞こえる?」
 〈ハ! 隊長、いかがなさいますか……?〉
 
 爛┘拭璽淵覘甬蘋鏨廊爛譽札奪廛広境瓩猟命士を勤める彼もまた困惑しているのだろう。彼らはきっとバルトフェルドの奇跡の一言とやらを待っているのだろう。状況を打破し、部隊を勝利へと導く、そんな一言を。、
 だが彼らの待っているであろうそれらをあえて無視してこう言った。
 
 「すまない。僕も行くよ」
 〈は……ええっ!?〉
 
 通信を切る。今頃爛譽札奪廛広境瓩里澆鵑覆呂匹鵑粉蕕鬚靴討い襪……でも、きっとアイシャは笑っているだろうな。
 それだけで、満足だった。
 バルトフェルドはフットペダルを軽く踏み込むと、緋色の爛イア瓩星空を駆けた。
 こちらがビームライフルを携行しているにもかかわらず、新生ザフト面々からの攻撃は無く、彼らもこれに全てを賭けているのだと知った。ここで失敗したら、きっと彼らも死ぬつもりだったのかもしれない。
 あの生真面目な少年は、バルトフェルドという男の、そしてこの宇宙要塞爛筌ン・ドゥーエ瓩砲い襯競侫畔爾凌祐崟に、賭けたのだ。
 ぶる、と背筋が震えた。
 このバルトフェルドが、思った。――狂っていると。
 そういうの、大好きだと。
 一か八かなんてもんじゃあない。もしもこの中に一人でも、平和を望まないものがいたとして、そいつがトリガーを引いたらどうなるんだ。連合のスパイの可能性だってある。愉快犯だっているかもしれない。なのに、これである。
 背筋がぞくぞくする。
 バルトフェルドは、もう一度思った。
 そういうの、大好きだと。
 そのまま爛献礇好謄ス瓩魄貶佑掘∨気蕕寮弔き爛競瓩膨命を入れる。
 
 「よおみんな、久しぶりだね」
 〈バルトフェルド隊長!〉
 
 懐かしい少女の声、ザラ隊の紅一点、シホ。同時に空色の爛競瓩ちらと単眼《モノアイ》を向け、敬礼をした。
 
 「面白いもの持ってるねぇ」
 
 シホが〈えっ?〉と返し、爛イア瓩離泪縫絅團譟璽拭爾妊轡曚了つビームの旗を指すと、〈ああ、ビームフラッグ!〉と彼女が言った。
 
 「そう、ビームフラッグ! 良いねそれ!」
 〈ラスティ先輩が考えて、ニコル先輩が作ったんです、『見栄を張るには丁度良い!』って〉
 「僕にもくれよ、使ってみたい!」
 
 期待に胸を膨らませて言うと、シホは〈はい!〉と元気良く答え、予備のビームフラッグを手渡した。
 ああ、ほんと面白いなあ。
 バルトフェルドは受け取ったそれをぎゅっと握り、天に掲げ、そのまま全方位に向けて叫んだ。
 
 〈バルトフェルドである! みんなすまない、僕は新生ザフトに下る! 今のザフトに異を唱える者よ、我らと志を同じにする者よ! ビームフラッグの下へ集え! この戦いはコーディネイターの手で、決着をつけよう!〉
 
 言うが早いか、いくつものモビルスーツがスラスターを煌かせ、爛潺優襯亅瓩亮囲に集い始める。無論全てが新生ザフトと共に来ることは無いだろう。だが、彼らもまた人の子であり、つい先ほどまで部下であった仲間、共にいた同士を撃つことはできない。そう願いたい。あの時の少年が、彼らの胸の内にある正義に命を賭けてここにいるのだから。
 遅れてやってきた爛譽札奪廛広境瓩反転し、そのまま新生ザフト艦隊の一員となる。相対する何隻かのザフト艦は、砲等をこちらに向けたまま、アスラン達の行く手をさえぎろうとはしなかった。
 星の狭間を、歌姫の騎士団が行く。
 それは、人の心に残された、最後の希望が成し得た事なのだろうか。バルトフェルドには、わからなかった。
 
 
 
 無理やり同乗してきた爛淵ぅ船鵐押璽覘瓩離灰ピットのサブシートで、ラクスはぼろぼろと大粒の涙をこぼした。
 
 「わたくし、本当はあそこにいたかった……いるべきだったのに、みんなと、一緒に……」
 
 それは、彼女の責任感から来る言葉だ。人はそう簡単に変わらない。真面目で、頑張りやだという彼女の心は、そこにこうして輝いている。フレイは優しく微笑む。
 
 「そんなことしたら、また逆戻りでしょ。あの子達があなたを自由にしてくれたんだから」
 
 二度と彼らに会えない。代わりに彼女は自由を得、ここにいる。
 
 「わかってます、わかっています……! でも、やっぱり悔しい……! だって、本当はこの為に、ずっと――」
 「そう思うのなら、しっかり胸を張って生きてさ、もう一度会いに行けば良いのよ。何年たってもあの子、ラクスの事待ってるわ」
 
 言われた少女はくすりと笑みを浮かべ、涙も拭かずに振り返る。
 
 「それ、『ニュータイプ』の勘ですか?」
 「さあ? ただの嫌味かもしれないわよ?」
 「まあっ」
 「ラクスだって、そうでしょ?」
 
 後日の検査の結果、ラクス・クラインは微弱だがガンバレル適性が見受けられた。いくつかのランクに分けられたうちの、辛うじて使用可能という最低レベルであったが。
 彼女はあの輝きの中で覚醒したのだ。
 今、フレイとラクスは同じ世界を見れるのだ。
 
 「そう……かもしれませんが、よくわかりません」
 「わたしだってそーよ。よくわからないの。それなのに『ニュータイプ』がどうとかさ」
 「でも、わかる気がします。そうやって区別しないと不安で仕方ないって」
 「そんな事するからいざこざが起きるのよ」
 「ええ、そうですわね」
 「だから、わたしはただのナチュラルで良いの」
 「では、わたくしはただのコーディネイター?」
 「あの子流に言えば、ラクスもただのナチュラルなんでしょ? どーなるかわからないけどね」
 「ああ、ならわたくしもフレイと同じナチュラルで!」
 
 ラクスがにこりと白い歯を浮かべて笑うと、フレイも同じようにして「ん、そう」と返した。それは夢物語なのだろうと冷静な部分でそう感じる。でも、きっと世代を重ね、後十年、二十年もすれば、その夢が現実のものになってくれるかもしれない。淡い希望であるが、確かにそう思わせてくれるだけの何かが、アスランという少年にはあるのだ。
 フレイは心の中で、「ま、せーぜー頑張りなさいな、応援しててあげるからさ」とつぶやいた。
 
 
 
 情景を見ながら、ギルバートは興奮して立ち上がった。
 
 「見ろ、ラウ! 私の勝ちだ! これで戦争は終わる! クライン議長も、ザラ防衛長官もなし得なかったことを、彼らがやったのだ!」
 
 ギルバートは振り向きもせずにモニターを食い入るようにして見つめた。
 
 「これで良い。私が彼らに撃たれて、全てが終わる……」
 
 ギルバートもまた、『持たざる者』たちを、無意識のうちに蔑ろにしているのかもしれない。
 すぐ隣の扉がそっと開く。一人の男が入ってくる。
 ギルバートはそれを勘違いしたのか、
 
 「行くのか? また会おう、ラウ」
 
 と振り向かずに言う。
 
 「いいや――さよならだ。ギルバート」
 
 ギルバートが振り向くと同時に、やってきた男は銃の引き金を引いた。弾丸は正確にギルバートの腹部を貫き、男はそのまま弾を撃ち切るまで引き金を引き続けた。ボロ雑巾のように壁に打ち付けられたギルバートの体がわずかにはねる。そのまま男は銃を捨て、ラウに向き直る。
 
 「『仮面の男』ともあろう者が、情に惑わされたのかね?」
 
 その細身の男は、キツネのような鋭い目つきでじろりとラウを見下していた。
 
 「私では駄目なのだよ。彼を撃った所で意味は無い」
 「あーん?」
 
 その男――アッシュ・グレイは大して無い頭脳でラウの意図を読み取ろうと首を捻らせたが、ラウは無視をしてそのまま部屋を後にした。
 
 
 
 新生ザフトの部隊が爛筌ン・ドゥーエ瓩貌港し、それに追従する形で連合の部隊が取り付いた。
 
 〈オレ達はこのまま周囲の警戒にあたる〉
 
 と爛魯ぅ撻螢ン瓩離ナードから通信が入ると、キラは同じくして爛侫蝓璽瀬爿瓩鬮爛魯ぅ撻螢ン瓩吠汰させ続く。
 ――戦争が、終わる。
 傍らの爛宗璽疋ラミティ瓠↓爛淵ぅ船鵐押璽覘瓩鬚舛蕕伐L椶蚤え、もうじき訪れる平和に想いを馳せた。
 
 
 
 ZGMF‐X四二S爛妊好謄ニー瓠宗臭爛疋譽奪疋痢璽鉢瓩ら始まるモビルスーツの系譜。爛献礇好謄ス瓩鉢爛侫蝓璽瀬爿瓠↓爛螢献Д優譽ぅ鉢瓠↓爛謄好織瓮鵐鉢甅爛廛蹈凜デンス瓩搬海、爛ぅ鵐僖襯広甅爛札ぅ弌辞甅爛オス甅爛▲咼広甅爛イア甅爛譽献Д鵐畢瓠△泙任料瓦討竜‖里らの到達点が、このモビルスーツであった。決闘用でも無ければ、決戦用でも無い。拠点防衛用でも無ければ局地戦用でも無い。
 これは、戦略兵器。
 角のようなアンテナ、一対の目を持つ頭部に直線的なデザインは爛ぅ鵐僖襯広瓩砲笋篁ているが、一見してわかるほどフレームや装備に向上が見られる。大きく張り出したような翼のような、背中のスラスターが特徴的だ。右肩後方には対艦刀、左肩後方に巨大な砲身が見え、突き出した両肩には投擲型のドラグーンブーメランが装備されている。だが、これらは全て、爛妊好謄ニー瓩『万が一』戦闘になった際の補助兵装にしか過ぎない。
 なぜなら、この機体は――
 ラウは目の前の『ガンダム』を見据える。爛廛蹈凜デンス瓩ら移植されたコクピットが搭載されている爛妊好謄ニー瓩蓮∧兇譴睫気き爛ンダム瓩侶鷲茵正統な血統を受け継ぎし、アムロ・レイが開発した爨優ンダム瓩諒未了僉
 とんと床を蹴り、無重力の格納庫《ハンガー》を飛ぶ。
 きっと、この先も、百年か二百年もすれば人類はまた今までのことを忘れて争いが起きるのだろう。その戦争はどれだけの被害をもたらすのか、どれだけの人が死に、悲しみと憎悪に身をゆだねるか。
 それでも、ラウは『今』の為に戦うのだ。『あの子』の平和な期間はわずかかもしれない。ひょっとしたら病気で死んでしまうかもしれない。
 垣間見た絶望に、抗うために。全ては、『今』の為に。
 だが、その為には代償が必要だ。命の器を満たすには、命を使うより他無い。奪われた者、持たざる者、彼らの器に、『恵まれた者』の命を使わせてもらう……!
 だから、地球の人々よ、そのための代償を、払ってもらおう!
 私は見ず知らずの貴様らの為に、この命を使ってやる気は無い。ギルバートのように、起こるかもわからない奇跡に縋るつもりも無い!
 人類の英知の結晶である、爨優ンダム瓩それを成す……!
 あらゆるものを、利用させてもらう!
 だから、人よ!
 この爛妊好謄ニーガンダム瓩貴様らの罪、裁いてやろう!
 
 
 
 突如として爛魯ぅ撻螢ン瓩爆散し、キラは兄の名を呼ぶ間も無く爛宗璽疋ラミティ瓠↓爛淵ぅ船鵐押璽覘瓩灼熱の業火に呑まれ誘爆していく姿を視界に捉え絶叫した。
 
 「フレイ!!」
 
 同時にモニターの下部で多数の閃光と火球があがり、わずかな雑音と共に通信の全てが途絶した。
 ――どこから!?
 キラは虚無へ向けてビームを幾度と無く応射したが、敵の姿は無くそれが爛潺蕁璽献絅灰蹈ぅ畢瓩覆里世罰凌した。
 全身が恐怖と怒りに震える。一瞬にしてキラは全てを失ったのだ。しかし――
 何も無い空間から無理やり腕を引かれ、キラは我に返った。
 
 〈落ち着け! オレ達は無事だ!〉
 
 オレ……達? キラは慌てて周囲を見回したが、そこには先ほどと変わらず、鉄くずとなったフレイ達の機体が漂っているだけだ。
 〈これ何なんだよ!? 俺の方じゃキラ達がやられたように見えたけど……!〉
 
 と、トール。
 
 〈こっちでも同じだ。アルスター! 貴様は!?〉
 〈こ、この子だってそうよ、みんなやられちゃったと思って、わたし……〉
 
 涙声となったフレイが答え、キラは〈幻を、見ていた……?〉とうめく。だが、それはここにいるキラ達だけに起こったことではない。
 
 「通信は!?」
 〈駄目、繋がらない!〉
 
 全ての情報から隔離され、モニターには数多のモビルスーツが争う情景が映し出されている。
 ――姿を『消す』のではなく、『映す』爛潺蕁璽献絅灰蹈ぅ畢瓠帖帖?
 
 〈爛ーティ・ルー瓩北瓩襪勝〉
 「うん!」
 
 キラはそのまま機体の感覚だけを頼りに、何も無い空間にいるだろう爛魯ぅ撻螢ン瓩稜悗肩の部分をがちりとつかむ。
 彼が全員を確認すると、そのまま一気に加速した。だが、間違いなく下方の爛ーティ・ルー瓩妨かっていたはずが、何処ともわからない岸壁に衝突したとき、〈方向すらも狂わすのか!?〉と驚愕したカナードと同じくキラは戦慄した。
 思わずコクピットから乗り出すと、爛侫蝓璽瀬爿瓩埜ていた光景とほぼ同じものがそこに映し出されているだけだった。
 ――一体どうやって……。
 だがわずかにモニターで見ていた光景とは違うものを見、思わず目を凝らした。
 せり出した真紅の翼から光の翼が放出されている。漂う粒子をモニターにして、これを映し出している……?
 わずかにフレイの声が漏れ聞こえると、キラは慌ててコクピット内に戻った。
 
 「知らない機体がいる、上のほう!」
 〈待って、ラウがどこかにいるの! 爛淵ぅ船鵐押璽覘瓩――〉
 
 ぞくり、と身を震わせた。あの知らない機体、ラウ・ル・クルーゼ……。
 
 〈どこだ!〉
 
 問われたキラはもう一度コクピットから覗き見ると、そこに先ほどのモビルスーツは存在しなかった。
 
 「わからない、もういないかも!」
 〈でも、いるのよ! 爨優ンダム瓩どこかにいるって、爛淵ぅ船鵐押璽覘瓩言ってるもの!〉
 
 言い知れぬ不安を覚えたキラは、やがてその不安が的中していたことを知るのだった。
 混乱は続き、やがて全てが終結した時には、多くの兵が爛筌ン・ドゥーエ瓩ら脱出した後であった。
 連合はそれを反乱分子とし、それらの討伐を条件として新生ザフトの奮起を認め、爛廛薀鵐鉢瓩斑狼紊隆屬膨篝鏘定が結ばれた。

 
 
 
 戻る