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CCA-Seed_144◆BAcU0MCeFg氏_03

Last-modified: 2012-08-23 (木) 10:45:53

=第三話、拭い去れぬ恐怖=

 
 

震える手で操縦桿を握り、オートモードを解除する

 

「ヘリオポリスが…壊れてる…どうして…?」

 

目の前に広がるのは、さっきまでコロニーだったものの残骸

 

「僕が…やったの…?」

 

何があったかを覚えていないだけに、言いようの無い不安がどんどん大きくなっていく

 

「そうだ…戦闘記録…」

 

震えが一向に治まらない手でパネルを操作し、さっきまでの戦闘の記録を呼び出す
けど、映像は表示されない…戦闘中はプロテクトがかかってるみたいで、アクセス出来ない
アークエンジェルに帰ってから確認しなきゃ…そうだ、アークエンジェルは!?
そこでやっと、通信が入ってることに気づいた

 

「X105、ストライク!聞こえているか?応答せよ!…X105、ストライク!」

 

ノイズ混じりだけど、それは確かにバジルールさんの声
慌てて、通信を繋げる

 

「X105ストライク!キラ・ヤマト!聞こえていたら…無事なら応答しろ!」

 

きついけど、その声には不思議と温かみみたいなものがあって…震えがほんの少しだけ、和らいだような気がし

 

「こちら、X105ストライク!キラです!」

 

この声が聞こえたってことは、アークエンジェルは…トールたちは無事なんだって思うと、少し視界が滲む
通信の先で聞こえる、安堵の溜め息

 

「無事か?」

 

自分の状態を見る…震えてるけど、怪我はしてない
なぜか少しだけ、頭がくらくらするけど

 

「はい」
「こちらの位置はわかるな?」

 

レーダーを確認…ここか
「はい」
「ならば帰投しろ…戻れるな?」

 

あくまで命令口調なんだけど、少し気遣いも入れてくる
マリューさんと違って、不器用な人なんだろうなって…そう、思った

 

「はい」

 

通信を切って、改めて目の前の光景を見る
見渡しても、残骸ばかり…僕が暮らしてた頃の面影なんて残ってない
父さん…母さん…無事だよな?
再び震えだす体を抱きしめ、深呼吸…震えがようやく治まったところで、ストライクを発進させる
その時、ストライクが救難信号をキャッチした
信号の出されてる方向を見ると、そこには何かがあって

 

「あ…ヘリオポリスの救命ポッド?」

 

拡大したら、救命ポッドだってわかった
まだ握ったままだったシュベルトゲベールを、バックパックに移して、跳ね飛ばさないようにゆっくりと、慎重に近づいていく
近くで見たら、はっきりとわかった
推進部が壊れてる…もし放って置いたら、救援が来る前にコロニーの残骸で潰されちゃうかもしれない
そう思うと、放ってなんか、おけなかった

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

キラはまだ、事態が飲み込めてないらしい…無理も無い
軽く恐慌状態を起こしてるみたいだから、ぼくが母艦まで動かすしかないだろう
そう思ったけど、驚くべきことにキラは操縦桿を握り、オートモードを解除した
震えてることが、触れているその手の感覚ではっきりとわかる

 

「ヘリオポリスが…壊れてる…どうして…?」
「僕が…やったの…?」

 

知らないうちに事態が進行していれば、どんどん悪い方向に考える
キラはそういうタイプらしい
フォローを入れてやりたいが、生憎とぼくには意思疎通の手段が無い
それに、もし自分の乗り物に意思があって、勝手に動くことがあるなんてわかったら…恐ろしくて、二度と乗ろうとはしないだろう
何とか出来ないかと思案していると、キラがデータを見ようとしているのがわかる
が、それは無理だ…戦闘中、戦闘記録なんて見ていれば敵に気づくのが遅れてしまう
アクセスはプロテクトに虚しく阻まれる
気を逸らすために、切っていた通信機器を再び起動し、アークエンジェルからの通信を拾う

 

「X105ストライク!聞こえているか?応答せよ!…X105ストライク!」

 

バジルール少尉の声が、スピーカーを通してコックピットに響く
どうやら思惑通り、そちらに気を取られてくれたらしい
通信が繋がり、キラと彼女が通信を続ける
その間、ぼくは索敵を…どうやら、イージスは撤退してくれたらしい

 

今のキラには、戦闘は無理だろうから好都合だ
そうして索敵を続けていると、通信機器が切られる
そしてパネルをいじられ、アークエンジェルの座標データを表示する
それをサブモニターに映しつつ、バーニアが点火
帰投しようとしたところで、救難信号を受信する
位置は…こっちだな
僅かに首を動かし、そこにあるものを確認する
あれは…脱出ポッド、か?
キラもそれに気づいたんだろう
邪魔な剣をバックパックに差し、ゆっくりと、跳ね飛ばさないように近づいていく
コロニー崩壊の際に損傷したのだろう、推進部が機能していない
ちゃんと機能してるなら放って置くべきだが、このままだと危険だろう
最終的に判断するのはキラだが…やはりな
思わず、笑みを浮かべる
彼は、躊躇無くぼくの手でポッドを抱えたのだ
まあ、この体で笑みを浮かべるのは物理的に不可能だが…気分的に、な

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

「何だと!?ちょっと、待て!誰がそんなこと許可した!!」

 

コックピットに、バジルール少尉の怒鳴り声が響く
報告もせずに救命ポッドを勝手に持って帰ったのが、まずかったらしい
それでも!

 

「認められない?認められないってどういうことです!推進部が壊れて漂流してたんですよ!」
こんな物が…MSや戦艦があったから、ヘリオポリスは襲われる羽目になったのに…
この人たちは、何も知らないまま、家を失ったのに…
「それをまた…このまま放り出せとでも言うんですか!避難した人たちが乗ってるんですよ!」
それなのに、今から捨てて来いなんて…あんまりだ!
「すぐに救援艦が来る!アークエンジェルは今、戦闘中だぞ!避難民の受け入れなど、出来るわけが…」
「良いわ、許可します」

 

バジルールさんの怒声の合間を縫って、マリューさんの声が割り込んでくる

 

「艦長!?」
「収容、急いで!」

 

また、バジルールさんの怒声…僅かな間の後、落ち着き払ったマリューさんの指示が聞こえた

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

「何だと!?ちょっと、待て!誰がそんなこと許可した!!」

 

バジルール少尉の精一杯なんだろう、可愛い怒声が響く
相当焦っているらしい…無理も無い
戦闘中の艦に避難民を収容するなど、一般人を戦闘に巻き込みかねない
だがあの場合は、せめてデブリの無い宙域までは運ぶべきだっただろう…まさか、アークエンジェルまで運んでいくとは思わなかったが

 

「認められない?認められないってどういうことです!推進部が壊れて漂流してたんですよ!」

 

キラの叫び声
操縦桿を握る手が震えている…恐怖じゃなく、怒りでだ

 

「それをまた…このまま放り出せとでも言うんですか!避難した人たちが乗ってるんですよ!」

 

場所は選ぶべきだが、放り出したほうが賢明だろう
少なくとも、戦闘に巻き込む恐れはぐっと減る

 

「すぐに救援艦が来る!アークエンジェルは今、戦闘中だぞ!避難民の受け入れなど、出来るわけが…」

 

正論だ。こうなれば、捨てる際に場所を選ぶ外無いだろう…そう思った矢先

 

「良いわ、許可します」

 

その答えにはぼくも驚きを禁じえなかった

 

「艦長!?」

 

聞こえないよう、小声で話しているが生憎、こっちは生身じゃない
人間なら聞き逃してしまうような小さな声でも、一度スピーカーを通ったなら聞くことが出来る

 

「今、こんなことでもめて時間を取りたくないの…」

 

なるほど、確かにもたもたはしていられないな…流石に、短慮と言わざるを得ないが
戦闘になったら戦艦に被弾させないように、こっちでフォローするしかないだろう

 

「収容、急いで!」

 

指示に従い、ポッドを抱えたままアークエンジェルに着艦した

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

コックピットから降りたらちょうど、ポッドのハッチが開けられるところだった
中から赤髪の人が出てくるのが見えて…僕の胸元から、トリィが勝手に飛び立つ
慌てて手を伸ばすけど、とても捕まえられる速さじゃなくて
結局、ガンダムを蹴って宙を泳ぐしかなかった
近付くにつれ、助け出された人がよく知る人…フレイだって、わかる
向こうもこっちに気づいたみたいで

 

「あぁ、あなた!サイの友達の!」

 

強張ってた表情が緩んで、こっちに飛んでくる

 

「フ、フレイ!?」

 

僕だって浮いてたから、慌てて足を踏ん張って、それを受け止める体勢をとる

 

「あくっ!?」

 

胸に飛び込んできたフレイからは、良い匂いがしたけど…肩が鳩尾を正確に捉えて、一瞬息が詰まった

 

「本当に、フレイ・アルスター!?このポッドに乗ってたなんて…」

 

うれしい反面、少し複雑な気分

 

「ねぇ、どうしたのヘリオポリス!?どうしちゃったの!?いったい何があったの!?」

 

矢継ぎ早に同じ内容の質問をされるけど、僕が答える前にフレイは続ける

 

「私…私…お店でジェシカとミーシャとはぐれて、一人でシェルターに逃げて…そしたら!」

 

フレイの目が、大きく見開かれる
こんなときに不謹慎だけど、僕はそれに見とれてしまった

 

「これ、ザフトの船なんでしょ?私たち、どうなるの?何であなた、こんなところにいるの!?」

 

また、矢継ぎ早に質問される
なんて答えたら良いんだろう…

 

「こ、これは地球軍の船だよ…」

 

そう、答えるのが精一杯で

 

「嘘!だってMSが…」

 

そう言って、フレイはガンダムを見る

 

「いや、だから、あれも地球軍ので…」

 

答えながら、僕もそっちを見る
気のせいかな?ガンダムが僕たちを見ているような…
また顔をフレイに向けたら、彼女は信じられないって顔をしてた

 

「で、でも、良かった…ここには、サイもミリアリアも居るんだ…もう、大丈夫だから」

 

そう言って、笑顔を作ってみる…どうやら、安心させることが出来たみたいで、フレイの表情が柔らかくなった

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

着艦後、体が固定される
コックピットが開き、キラがぼくの中から出て行く
それと同じくして、ポッドのハッチが開かれ、中から少女が出てくるのが見える
そして、キラの胸元から何かが…鳥型ロボット?あんなものをずっと入れていたのか?
それを追うように、キラは宙を泳ぐ
だが、やはり追い付けない…止まる時のことを考えれば、当然か
そのままキラはポッドへと飛んでいったが、キラに気づいた少女が突然飛び立った
結構な加速だ、無重力化で活動したことが無いんだろう
キラが慌てて受け止めるが、少女の入り込む角度が悪い
狙ったように正確に、鳩尾に肩で突進していた
不意に、記憶がよみがえる
初めてMSに乗って、ザクを倒したときのことを…あの時は、コックピットをサーベルで貫いたんだったな
それ以上を思い出そうとすると、思考に霞がかかる
肝心な部分…自分が何者であるかが、どうしても思い出せない
そうしてるうち、事態に変化があった
キラが、まるで詰め寄られるようにして質問攻めにされている
ぼくのことに話が及ぶと、少女は僕を見る
その目の中に、何か澱んだものが見えた気がして…思わず、視線を逸らしてキラを見た
キラもまた、ぼくを見ていた
だが、その視線はすぐに逸らされ、また話に興じている
一段落着いたらしい、キラは少女と連れ立って格納庫から出て行った
キラが行ったのを確認してから、アンカーで捕らえていたパーツを放す
すぐに、整備士の一人が気づいて何人かとそれを回収した

 

「こりゃあ…イージスの左腕か?」

 

ヘリオポリスを脱出する際、回収しといた物だ
せっかく腕自体はほぼ無傷で斬り落とせたんだ、使わない手は無いだろう
問題は、ここのメカニックがそれの使い道に思い到ってくれるかどうか…
そう考えながら、ぼくはこの体の強化プランを考え始めていた

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 
 

「このような事態になろうとは…いかがされます?」

 

責める様な口調で問いただす副官…アデスの言葉を聞きながら、私は笑みを浮かべていた
そうだ、これで良い…目的を達するには、もっと大きく戦火を広げる必要がある

 

「中立国のコロニーを破壊したとなれば、評議会も…」

 

結局は、この男は我が身が可愛いのだろう
どうあっても、責任は自分には無いことにしたいらしい
そういう俗物であるが故に御し易いのだが

 

「地球軍の新型兵器を製造していたコロニーの、どこが中立だ?」

 

詭弁でも、簡単に黙らせられる

 

「しかし…」

 

まだ、不安か、ならば…

 

「住民の殆どは脱出している…さして問題は無いさ」

 

甘い言葉と、取って置きのキーワード

 

「『血のヴァレンタインの悲劇』に比べれば」

 

少し呻くと、完全に静かになった
『血のヴァレンタインの悲劇』…私には何の感慨も無いが、ザフトに属する大概の者はそれを聞くたびに地球連合…並びに、ナチュラルそのものへの憎悪を高める
大した努力もせず、生まれ持った才能だけで高い能力を持つ…それ故にメンタリティの低いコーディネーターを操るには好都合な言葉だ
とはいえ、あの戦艦とMSを見逃す気も無い

 

「敵の新造戦艦の位置、掴めるか?」

 

見つければすぐ報告するだろうが、自分の目でも確かめなくては気が済まない
だがやはり、レーダーも熱探知も、コロニーの残骸のせいで当てにはならない

 

「いえ、この状況では…」

 

私が完全に確認し終えてから報告をする…遅い
所詮、経験の浅い兵などこんなものか

 

「まだ、追うつもりですか?」

 

アデスの声…質問の形を取ってはいるが、本音はさっさとプラント本国に帰って、安全で責任も追及されないところにいたい、といったところか
つくづく、俗物だな

 

「しかし、こちらには既にMSが…」

 

私が答える前に、もっともらしく退くべき理由をあげる
どうしても帰りたいと言うのか、この男は
だが、今帰るわけにはいかない

 

「あるじゃないか…地球軍から奪ったのが、四機…いや、一機壊れているから三機か」

 

元より、この戦争を泥沼化させるためには戦力を拮抗させたほうがいいのだ
地球軍のMSを、なんとしてでも仕留めねばならない

 

「あれを投入されると?…しかし…」

 

ふん、自分の手柄が減るのは困る、と言うわけか

 

「データを取ればもう構わんさ、使わせてもらう」

 

もちろん、嘘だ
データを取ったところで、実物が無ければ再現には相応の時間を要する
例え、メカニックや技師が、どれほど優秀であろうとも
そして開発が遅れれば、戦争はますます泥沼化していく…必殺の武器を持たぬ、鳩同士の決闘が凄惨であるようにな

 

「宙域図を出してくれ」

 

モニターへと飛びながら、アデスに自信に満ち満ちた笑みを見せてやる

 

「ガモフにも、索敵範囲を広げるよう打電だ」

 

さて…どう出てくるかな?

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 
 

フレイを連れて、食堂に行く
食堂のドアが開いてすぐ、トールたちが目に入って…フレイは駆け寄って、サイに抱きついた
少し寂しかったけど、フレイを安心させられるのはやっぱりサイだから…僕は、そっとその場を離れる
向かうのはガンダムのところ…何が起こったのか、どうしても知りたかった

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

整備士たちがそれをどうするか決めかねている中、ぼくは黙々と自分の目的を果たす
アークエンジェルのデータベースにアクセスし、データを取り込む
主に、他の機体…Gのデータやストライクの他の装備に関するデータ
設計段階の物から、実物が出来ている物まで、全てだ
そして、今アークエンジェルに積まれている物資も何があるかを調べる
使用したものと予備パーツを含め、ソードとランチャーは二つ分
エールはさっき組み上げたらしく、完成したものを含めて三つ分
さらに、他のGのパーツはデュエルの頭部とブリッツの胸部、バスターの脚部がある
ストライクの余剰パーツと併せれば、コックピットが無いものの、何とか一機分はパーツがあるらしい
問題は、機体を作っても現状動かす術が無いことと、作った場合にどんな不具合が生じるかわからないことだ

 

何せ、同じメーカーの作ったものでありながら、試作機だからか、パーツの互換性なんて殆ど無い
それぞれに特異な部分があるせいで、他の機体にパーツを組み込んでも不具合が無いのはデュエルくらいと来ている
ぼくが頭を悩ませていると、コックピットハッチが開いて、キラが乗り込んでくる
どうやら、没頭しすぎて気づかなかったらしい
そんなことはお構い無しに…まあ、ぼくに自我があるなんて、まさか思わないだろうが
キラはパネルを叩き、戦闘記録を呼び出した

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

今後の進路が決まったところで、格納庫から通信が入る
どうやら緊急の事態みたいで、報告するメカニック…マードック軍曹の口調も早い
よく聞き取ることが出来なかったから、また訊ねた

 

「どうしたの?」
「だから、ストライクが持ち帰ったんですよ!イージスの腕を!」

 

イージスの腕…ヘリオポリス崩壊の際に、基地に残ってたコンテナでも出てきたのかしら?

 

「そう、それは良かったわ…けど、腕だけ見つかっても、どうしようも無いでしょ?」
「違うんですよ!どうも、こいつはザフトに奪われた一機の物らしくてですね!左肩に切断の痕があるんです!」

 

それを聞いたら、流石に黙っていられなかった
「じゃあ、キラ君が…さっきの戦闘の際に、斬り落として回収したというの?」
自分でも、声が震えるのが分かる
腕だけ持ってきたということは、もしかしたら、イージス本体は既に破壊されたのかも
今後の戦局の傾きを抑えられたかも知れない
そう考えると、キラ君への期待がどうしても高まるのを感じた

 

「それは、坊主に話を聞いてみないと分かりませんけどね!」
「キラ君は、今どこに?」

 

間髪いれず、問う
一刻も早く、細かい話が聞きたい

 

「さっきから、ストライクの中でなんかやってます!呼びかけても答えないんで、整備も出来ないんですよ!」
「分かったわ…バジルール少尉!私はしばらく格納庫に行きます。艦の指揮権を一時預けるわ、お願いね」

 

通信を切ってすぐ、バジルール少尉に指示して駆け出す

 

時間が惜しかった

 

「了解しました…三番、デコイ発射!」

 

背後で、バジルール少尉が指示を飛ばすのが聞こえた

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

モニターに映った光景は、信じられないものだった
あっという間に蹴散らされる、二体のジン
アスランからの通信…地表に叩きつけられるイージス
そして、そのイージスの肩を斬り落とす、ガンダム
もし、ぼくがあのまま目覚めなかったら…ヘリオポリスが崩壊しなかったら…アスランは
そう思うと、また手が震え始め、自分の体をかき抱く
恐ろしかった
このMSが…ガンダムが
まるで自分以外を殺す、悪魔みたいに感じられて
一刻も早く降りたかったけど、手が震えて言うことを聞いてくれない
操縦桿や、パネルに触るのすら恐ろしい
触れた途端に飲み込まれてしまいそうで
そこへ、外から通信が入った

 

「キラ君、聞こえる?」

 

マリューさんの声だ
他の人の存在を感じることで、少しだけ落ち着きを取り戻す

 

「ハッチを開けて!そのままじゃ、整備できないわ」

 

優しい声が、僕の怯えを柔らかく包み込む
震えは止まらないけど、ハッチを開くくらいは出来た
ハッチが開くとすぐ、マリューさんが乗り込んでくる
服装は、最初に会ったときと同じ、作業着だ
まっすぐ突っ込んできたせいで、僕はマリューさんの胸に顔を埋める事になる
けど、マリューさんはそんなこと気にもしないで、質問を投げかけてきた

 

「キラ君、イージスと戦闘したの?破壊できたのね?」
「んぐ…」

 

答えようとしたけど、顔が埋められたままじゃ答えられない
しかも、呼吸も出来ない
それに気づいて、慌ててマリューさんが離れてくれる

 

「ごめんなさいね…それで?」
「僕は…戦ってません」

 

嘘をついても仕方ないので、正直に答える
さっきの戦闘のこと、気を失ったこと、ガンダムが勝手に戦ったこと
話し終えたとき、マリューさんが眉を顰めていた
「にわかには、信じられないわね…キラ君、戦闘記録を見せてもらえる?」
確かに、見てもらったほうが早いかもしれない
僕がシートを譲ると、マリューさんはパネルを叩いて戦闘記録を呼び出そうとする
けど、画面に映し出されたのはErrorの文字
何度試しても、戦闘記録は呼び出されなかった

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

キラが戦闘記録を見て、恐怖に震えている
だが仕方ない、ぼくが戦わなければ死ぬのはキラだ
割り切ってもらうしかない
彼は何度も、何度も繰り返し再生する…だが、その度に困惑を深めるばかり
ついには、手を離して丸まってしまう
震えるキラを降ろしてやりたいが、今ぼくが動けばキラは今度こそパニックを引き起こしてしまうだろう
外部から、通信が入る
困り果てた顔のメカニックに囲まれているのは…ラミアス大尉か
彼女なら…キラに気づかれないよう、そっと通信をつなぐ
彼女が呼びかけることで、少しだけ落ち着いたらしい
ハッチを開いて、彼女を招き入れた
しばらくのやり取りの後、戦闘記録にまたアクセスがある
それに応え、情報を開示しようとするが…出来ない
キラ以外の人間には、開示できなくなっているらしい
キラの困惑が伝わってくるが、どうしようもない
それに…敵が、来ていた

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 
 

「ラスティ…ミゲル…」

 

散っていった戦友の名を、ポツリと呟く
キラは何故…あいつも、コーディネーターなのに…
どうして、あいつがストライクに乗っている!それに、あの強さは何だ!
とても、一朝一夕で身に付くようなものじゃなかった

 

そこまで考えたところで、クルーゼ隊長に呼び出されていたのを思い出した
ラウ・ル・クルーゼ…父に気に入られ、部隊を任されているが素性のよく分からない仮面の男
俺は、あの人が苦手だ
だが、上官である以上は従わなくてはならない

 

「アスラン・ザラ!出頭いたしました」

 

部屋の前で声を上げると

 

「ああ、入りたまえ」

 

すぐに中から、どこか嫌な感じのする声が聞こえる
嫌悪感を表には出さないように注意しながら入室
すぐに敬礼する

 

「ヘリオポリスの崩壊で、バタバタしてしまってね…君と話すのが遅れてしまった…」

 

キーボードを打つのをやめ、こちらを見てそう宣う
と、すぐに立ち上がってこちらに歩み寄ってくる

 

「何故呼んだか、分かるかね?」
「ハッ!先の戦闘では、申し訳ありませんでした…ガッ」

 

不意に、姿が視界から消えたと思ったら頬を強く打たれていた
倒れたりはしないが、流石によろけてしまう

 

「奪取した新型機で無断出撃した挙句、腕を一本奪い返されるという失態…本来なら、本国に強制送還の後に厳罰ものだが、君はザラ国防委員長の息子だ…この一発で不問とする」
「ありがとう…ございます…」

 

口の中に錆の味が広がる
不意を衝かれたせいで、口の中を切ってしまったらしい

 

「では、続けよう…あの機体…ストライクが起動したときも、君はそばにいたな?」

 

やはり、それを聞かれるか

 

「申し訳ありません…思いもかけぬことに動揺し、報告が出来ませんでした」
あらかじめ、用意しておいた返答をする
「あの機体…ストライクに乗っているのは、キラ・ヤマト。月の幼年学校で一緒だった、コーディネーターです」

 

動揺を表に見せないように答えるが、それを見抜いているのか、クルーゼ隊長は楽しげに先を促す

 

「まさか、あのような場で再会するとは思わず…どうしても、確かめたくて」
「そうか…戦争とは皮肉なものだ」

 

口の端に、にやりと嫌な感じのする笑みが浮かぶのを、そのとき確かに見た

 

「だが、敵なら討たねばならない…討てるかね、君に?かつての友を!その手を、友の血で染める覚悟はあるかね?」

 

核心を突かれ、心の臓がひやりとする
正直に言えば、まだ分からない
悩んでるうちに、クルーゼ隊長は続ける

 

「どの道、次の出撃は君の出番は無い…イージスが壊れてしまっているのでね、乗る機体が無いのさ」
「ですが!」
「説得できるなどと、甘いことを考えているのではないだろうな?彼は既にミゲルを殺しているのだよ」
「あいつは!」
「コーディネーターだから、友達だったから分かり合えると?幼年学校で一緒だったのなら、既に何年も経っているのだろう?君がザフトに入ったように、彼も変わってしまったのさ」

 

口答えなど許さないとでも言うかのように、俺の言葉はことごとく封じられてしまう

 

「君は少し、疲れているようだ…自室で待機していたまえ」
「了…解…」

 

ドアを示し、下がるように言われる…一度、命令違反をした以上、二度も逆らうことは出来ない
キラ…もう一度、俺が行くまでやられるなよ

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 
 

突然、警報が鳴り響く
続いてアナウンス
マリューさんはそれを聞くと

 

「詳しい話はまた後でね、キラ君!今は…」

 

急いでブリッジに走っていった
ブリッジから通信が繋がり、バジルール少尉の声が聞こえる

 

「キラ・ヤマト!敵が来る…本当に、申し訳ないが…やれるか?」

 

本当に苦悩してるのが、通信越しでも分かった

 

「やります…僕がやらなきゃ、皆が」

 

口では強がって見せたけど、手はさっきから震えが止まらない
幸い、通信越しだと分からないみたいだけど

 

「「「「バジルール中尉、失礼します」」」」

 

割り込んできた声は、四人分
今のは…

 

「皆!?」
「よう、キラ!」

 

間違いなく、トールの声

 

「何?どうして君達がブリッジに?」
「俺たちも、艦の仕事手伝おうと思って…人手不足なんだろ?」

 

今のはサイだ
そして、映像が繋がって…
皆、地球連合の軍服を着てる

 

「ブリッジに入るなら、軍服を着ろってさ」

 

カズィが、恥ずかしそうに後頭部を掻く

 

「軍服は、ザフトのほうがカッコいいよなぁ…階級章も無ぇから、なんか間抜け」

 

ちゃかすように、トールが肩をすくめる
呆然とする僕に何を思ったのか、トールは続ける

 

「お前にばっか戦わせて、守ってもらってばっかじゃな」

 

ミリアリアが続ける

 

「こういう状況なんだもの、私たちだって出来ることをしたい」

 

皆、僕に笑いかけている
それを見てると、不思議と…震えが、無くなっていく

 

「お前も、出撃するんならパイロットスーツを着とけ!」

 

さらに割り込むようにして、チャンドラさんが注意する
通信が切られ、再び沈黙がコックピットを包む
そこから抜け出して、僕はパイロットスーツを着るため、急いだ

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

パイロットスーツに着替え、部屋に戻るとコーディネーターの坊主…キラとか言ったっけな、がパイロットスーツに着替えたところだった

 

「お?やる気になったってことか、その格好は」

 

警戒を解くため、フレンドリーに接したのがちょっとまずかったらしい
キラは俺に背を向けて、そのままで話しやがる

 

「戦いたくなんか、無いけど…この船は守りたい…だから!」

 

まだ悩んでるらしいな
そういう独白じみた行為は、一人でやっててほしいもんだ
だから、俺はそれを遮るように

 

「俺たちだってそうさ!意味も無く戦いたがる奴なんか、そうはいない…戦わなきゃ、守れねえから、戦うんだ」

 

一語一語に思いを乗せて、到って真剣に語ってやる
我ながら、照れ臭いが本心だ
キラも納得してくれたらしい
振り向いて頷くと、目付きに迷いがあんまり感じられなくなった

 

「いよっし!じゃあ…作戦を説明するぞ」

 

こういうのは、意気が大事だ
迷えば迷うほど、足を取られて何も出来なくなるからな
戦闘の始まりが、刻一刻と近付いていた

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

「ストライク、発進位置へ!」

 

アナウンスが聞こえる
大尉が隠密先行して、前の敵を討つ
その間僕は、後方の敵から艦を守る…作戦はそれだけの、シンプルなものだった
うまく、いくのかな?…手は、コックピットに戻るとまた震えだした
考えてる時間はもう、無い…

 

「キラ!」

 

突然ミリアリアの声が聞こえて、通信モニターを見る

 

「ミリアリア!?」
「以後、私がMS及びMAの戦闘管制となります!…よろしくね♪」

 

そういうと、ウインクして見せて、後ろで怒られてた
茶目っ気たっぷりなその態度に、少しだけ、心が安らぐ
「装備はエールストライカーを!アークエンジェルが噴かしたら、あっという間に敵が来るぞ!…良いな?」
バジルールさんの、最終確認

 

「はい!」
「キラ・ヤマト!ストライク、発進だ!」
「キラ…」

 

皆の優しい言葉が脳裏に浮かび、心に沁みる
「了解…キラ・ヤマト…ガンダム、行きます!」

 

指示に従い、暗い宇宙に飛び出す

 

「ガンダム…僕は、君が恐ろしい…」

 

暗い宇宙を見ていると、体が酷く震えだす

 

「だけど、君の力が今、僕には必要なんだ…だから、お願いだ。力を貸して…」

 

独り言のように呟くけど、もちろん返事は無い
だけど、一瞬ガンダムが加速して、僕に応えてくれたような…そんな気がした

 

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ラミアス大尉が出て行った後、コックピットに取り残されたキラに通信が入る
発進元はブリッジからだ…キラの友人たちが、キラを手伝うために志願したらしい
それを聞いて、キラの表情が和らぐ
恐怖が無くなった訳ではないだろうが、戦うことも出来ない、ということはなさそうだ
すると、コックピットを飛び出して、どこかへ
数分後、キラがコックピットに戻ってきた
今度は、パイロットスーツを着ている
これならもし被弾しても、直撃じゃない限り大丈夫だろう
また、ブリッジから通信
MAの発進を見送り、ぼくもカタパルトへ
今回装備されたのは…組みあがったばかりの、エール
武器はビームライフルにビームサーベル、そしてシールド
オーソドックスで、纏まりが取れた装備だ
多少、設定を弄らせて貰いながら、指示に従って宇宙へ
キラの震えが大きくなるが、それでも操縦桿を離そうとはしない
すると

 

「ガンダム…僕は、君が恐ろしい…だけど、君の力が今、僕には必要なんだ…だから、お願いだ。力を貸して…」

 

古来より、パイロットは自らの乗機に愛称をつけたり、まるで人のように扱うことで恐怖心を克服してきた
これもその一種で、ぼくを認識しての行動では無いだろう
だが、それはキラが初めてぼくに語りかけた瞬間で
とても、嬉しかった
だから、聞こえないのを承知でぼくも答える

 

『護ってみせるさ』

 

そして、加速する
敵が、近付いてきていた

 

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次回、悪魔の贄
漆黒の宇宙を、赤く染め上げろ、ガンダム!

 
 

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