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CCA-Seed_427◆ZSVROGNygE氏_外伝08

Last-modified: 2010-05-05 (水) 13:25:05
 

 連合王国王都ロンドン、今日においてはあのイギリス帝国の威光こそないが、未だに世界の一大中心都市であろう。
 ヒースローからヒースロー・コネクトに乗りパディントン駅を下りると、車の迎えが来ていた。どうせならヒースローで待っていてもいいだろうに。

 
 

 僕は柄にもなく若干緊張している。これから向かう場所が原因だ。

 

 ロンド・ベルへのヴィデオ・レターを収録し終えると、本来の仕事に掛かりきりであった。僕は政治家ではなく企業経営者なのだ。いつも政治活動しているわけにはいかない。
 拡大ユーラシア(E.F.F.)結成に関する一連の問題を処理した後に、僕はオランダに企業の中心を移す作業を移すためにマーストリヒトに向かった。
 この都市は、いわゆるオランダ的なイメージとはほど遠い。なにせ風車もあまり見かけることが出来ないうえに、海から遠く内陸に位置しているためだ。ビールとチーズでようやくその片鱗を感じることが出来るくらいだ。
 僕がこの都市に拠点を置いたのは、立地に尽きる。そこで数日ほど本業に従事していると、ランズダウン侯爵からロンドンに至急来て欲しいという連絡が来た。
 首相は目下のところアフリカ共同体の拡大ユーラシア加盟折衝でロンドンにいる。にもかかわらず、ロンドンから少し離れたここに呼び出すとは、いったいどのような用事なのか。目的地の敷地に入り、車が止まると出迎えの執事がドアを開けた。

 

「こちらです」

 

 僕を見下ろすウインザー城は、国王の旗が掲げられ、王が滞在している事を示している。

 
 

失いし世界を持つものたち外伝・8
「ムルタ・アズラエルの憤慨」

 
 

 目の前には、まるでドラゴンクエスト靴破糎韻僚颪魑録するような、玉座のある大広間が広がる。かつて観光に来たとき、その大きさに驚かされたが、今回は非公式とはいえ式典ために、内装が相応に整えられている。

 

 僕はモーニングコートに身を包み、赤い絨毯を進んでいく広間に入り10mは歩いているのに、未だに国王の顔を視認出来ない。
 ただ参列者の中にランズダウン侯爵や英国首相のバトラーと何人かの閣僚が立っていることは確認出来た。僕は国王の前まで進み、停止線でひざまずく。

 

「貴公が、ムルタ・アズラエルか?」
「Yes, His Majesty」
「うむ、そなたの働き大儀である。よってOBE(The order of British Empire:イギリス帝国勲章)を授ける。今後も我が国だけでなく、世界の繁栄のために活躍して欲しい」
「光栄に存じます。陛下」

 

 授賞式と終えた後、パーティーが開かれた。この辺りはアメリカでは見ることが出来ない代物だ。だが、欧州に強固な人脈を確保するにはいい機会といえる。
 参加者は経済界の大物も多く、幾人かは知己もいた。僕は思考をビジネスモードに切り替え、食事よりも会話を楽しんでいた。
 しばらくすると、バトラー首相が会話に割り込み、いくらか話していると彼の案内で城内の一室に向かうことになった。
 部屋には今回僕を呼びつけた、ランズダウン侯爵が待っていた。その脇には、タキシードに身を固めた顔立ちのいい男性とやや初老の女性が控えている。

 

「どうされたのです。首相閣下、まさか勲章を授与するだけのために呼んだわけでもないでしょう。アフリカ共同体の件はどうなりました?」
「ふむ、彼らはかつてのローマ帝国のように地中海経済圏を構成する一員として、EEFに参加したいそうだ。
いや、20世紀のフランス系植民地で提起されていた『ユーラフリカ(Eurafrica)構想』を希望しているというべきだろう。ここにきて、改めてリージョナルな枠組みへの関心が高まっている。
ナショナルな枠組みを希望する連中も少なくはないが、再構築戦争以後は市民や経済界には受け入れ難いだろう。ことにアフリカはね。南アフリカ統一機構からも非公式だが、打診があったよ。
現状では大西洋連邦の意向が強くて困難であるそうだがね。もっとも、アフリカ共同体も中々大変ではある」

 

 確かにアフリカは再構築戦争後もアフリカで大きく2つの勢力にまとまることができたが、依然として貧困地域の問題に苦しんでいる。
 ましてや今時大戦で旧ロシアと並びエネルギーを奪われ最も深刻な犠牲者を出した地域でもある。
 我がブルーコスモスでも、アフリカ出身者はロシアと並び、イスラームのような宗教的な心情と言うよりは個人的な怨恨で参加している人間が多い。
 ある意味で、「暗黒大陸」とはよく言ったもので、今日においては地理的な意味ではなく経済的な意味においてその名称があてられよう。
 つまり、アフリカ共同体も南アフリカ統一機構もアフリカ独自で事にあたるよりも、市場をユーラシアと共にして自らの力を高めたいのであろう。

 

 それにしてもユーラフリカか。確かに旧フランス植民地は独立後も旧宗主国と密接な関わりがあったな。Common wealthとはまた違う紐帯が存在していた。この繋がりはアフリカを抱き込むには妙手かもしれない。
 なるほど、ルビアン外務大臣というフランス系で非社会党を据えたのはこの布石か。

 

「だが君を呼んだのは、その問題について話をするためにではない」
「それでは、どのような趣ですか?それに、そちらの方々は?」
「紹介しよう、彼らはSISの008君とN君だ」

 

 僕は冗談を聞かされているかと思った。

 

「はじめまして、ジェームズ・ポンドです」
「……どう答えたらいいのか、正直わからないですね」
「コードネームみたいなものですよ、大抵この名前を言うと誰もスパイと思いません」

 

 それは、そうだろう。

 

「実はイギリス政府は極秘裏に008君をプラントに潜入させていたのだ。そこで驚くべき事態が起きた。まずは聞いて欲しい」

 

 そこで008が語り出した内容は、予想の範疇にない出来事であった。すなわちロンド・ベルとプラントの完全決裂である。
 僕は全身が震える。そして、場所を弁えない行為に出ることを止められなかった。

 

 いっやったぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっぁぁぁ!!!!!!!!

 

 僕はここまで心躍る気持ちを抱いたことはない。これで、慎重に行動しなくてもプラントを叩き潰せる。
 両首相がポカンとした目で僕を見つめるけれど、そんなこと構うものか。だが、侯爵から出た言葉は、僕を憤慨させることになった。

 

 ※ ※ ※

 

「では、この一件をもみ消すと言われるのですか?首相は!!!」
「そうだ」

 

 どういうことだ。

 

「盟主殿、我々は『戦後』を考えなければならないのだよ」

 

 彼は立ち上がり、窓の側に立つ。

 

「確かに盟主殿、貴方の言う通りだ。この一件が世界的に認知されれば、戦争は終わると言ってもいい。だが、カタストロフが起こるだけだ」
「カタストロフ、ですか?」
「そうだ、君とて受け入れがたいとは思っていても、今日における社会がコーディネイターにより支えられている点が少なくないという事は無視出来まい。
だから君は即時抹殺には否定的なのだろう?」

 

 まぁ、それを認めることにはやぶさかではない。ゆるやかに消滅させればいいのだ。もっとも、実のところ最近の僕は、これまで以上にコーディネーターをジェノサイドしたいと思っていない。
 もちろん、好きかと問われたらはっきり嫌いと答える。そして、いない方がいいかと言われたら、そうだと答える。だが、かつてのような感情が湧かないのだ。
 なぜか。答えは簡単である。彼らが優れているとはとても思えないからだ。

 

 戦争が始まり1年以上が経過しているが、実際のところ、ザフトやプラントの行動は、我々が煽らなくとも、自分たちの行動で反コーディネイター感情に火を付けている。
 まさしく自業自得である。さらにはロンド・ベルのように、コーディネイター以上のものを作れ、圧倒的な形で勝利することの証明が現れた。連合軍やEEFも各地で勝利を収めつつある。
 この戦争は、プラントの議長とは逆の結末、つまりナチュラルの優位を示す事で終わらせることができると考えている。そして、その目標はロンド・ベルと提携すればより確実となろう。

 

 そのような事情から、最近はプラントそのものよりも、戦後のあり方としてEEFと連合の行く末の方に関心がある。
 E.E.F.主体の戦後秩序に、大西洋連邦と東アジアを如何に絡ませるか。人的資源では未だに無視出来ぬ両大国を、戦後の経済において穏やかにまとめるかは大きな課題だ。
 その辺りはランズダウン侯爵も考えているだろうが、僕自身も自らの利益のために動く必要がある。今後はブルーコスモスの質的な再編を行う必要も出てこよう。
 これまでの路線では戦後にその存在意義が問われることになる。その一方で、民需に関する問題では、父である会長ブルーノ・アズラエルが所属する『結社』にも関わりたい。
 戦後に起きるだろう圧倒的な民需に対応するためにも、準備をしなければと考えていたのだ。

 

 ところが今回の件である。この件でプラントは終わりだろう。場合によっては連合と再統合させ、一挙にあの砂時計を破壊すれば戦争は終わる。そのうえで速やかに、今述べたような戦後秩序を考えればいい。
 面倒な交渉を行うよりも、現連合を再吸収するには手っ取り早いのではないか。ブルーコスモスに関しても、戦争さえ終われば過激派をさっさと切り捨てることもできる。
 地上に残るコーディネイターなど、それこそ放っておけば自然消滅するだろう。なかば感情を抑制する作業に終始していただけだったが、私の沈黙を先への促しと受け止めた首相は、話を続ける。

 

「この件が公になれば、かつて君達が煽ったような全地球規模のコーディネイター排斥運動が引き起こされるだろう。それが、すでに体力の落ちた社会機構に致命的な打撃を与えることは容易に想像出来る」

 

 確かに公になれば単純な一般市民は放って置いても排斥運動を起こすだろう。直接行動を起こさずとも、ネットの掲示板にそれとなく煽る言葉を書き込ませればいい。
 問題は腹立たしくとも、社会における重要な位置で仕事をする連中が多いことだ。その連中が後釜も考えずに消えてしまうとさすがに面倒な事態に陥る。

 

「戦局は決定的だ。既にE.E.F.とアフリカは統合準備段階に入り、地球連合も感情的な問題とは別に、我々とむやみに事を構えようとしていない。
実はね、非公式に大西洋連邦とは接触している。内容までは話すつもりはないが、コートリッジ大統領は軍部より現実を見据えている。さすがに共闘まではできないだろうが、冷戦状態を維持することはできそうだ。
東アジアも同様だ。もっとも国家主席と首相のコンビは、国内の瓦解を食い止めることに精一杯であるがね。だが、向こうだって早晩この情報を仕入れる。そうなれば、こちらよりも先にプラントを何とかしようと考えるだろう。
何より君の同志が喜び勇んで行動するだろう。連合も外の問題で国内問題から目をそらしたいだろうからね」

 

 確かにジブリールならそのように動く。僕も半ば近いことを考えた。

 

「我が国も同様だ。特に中央アジアやイスラーム、今後参加する可能性が高いアフリカの統治に関しては、コーディネイター以上に危険をはらんでいる。
一部議員には、ビクトリアのマスドライバーを確保したことから、積極策を行い、問題意識をそらす形で時間稼ぎをしたいと目論む連中も多い。
だが、まだ戦力的に完全ではないし、国内の諸問題はその程度でどうにかなる状況ではない。特にエネルギー問題でね。
議会でアフリカ統合に慎重な勢力が多いのは、エネルギー問題が最も不安定な地域を取り込むことに対する不安なのだ」

 

 確かに、エイプリルフール・クライシスで最も被害にあったのは貧困地域だ。それも適度にエネルギーを使うような貧困地域が悲劇的な事態に陥った。
 中央アジアもアフリカ同様に、中規模都市が壊滅する事態にも陥ったのだ。旧ロシアでも深刻だった。昨年の冬に、村ごと全滅する地域が各地で発生し、旧ロシア圏での反コーディネイター感情は非常に高いものがある。
旧CISを抱える連邦としては、同様の問題を抱える地域が増えることは、エネルギー問題を考えると消極的になるだろう。
 つまり、今回の一件が公表された場合、今述べたような問題への対処もしないままに、言うなれば誤魔化し派が多数派となり、収拾が付かないまま戦線だけが拡大する危険性がある。
もちろん完全なる準備など不可能だ。だが、この状況下ではあまりにも準備不足と言わざるを得ない。そして無駄な人的被害の増加は社会機構の崩壊へと導く。それを防ぐ必要があるのだ。
そこで、君を呼び出した理由だが、私はロンド・ベルと直接交渉を行うためにこの後すぐに宇宙に上がるので、君にも同行して欲しい」

 

 何だと。僕は目を大きく見開く。

 

「本来なら君と外相を出すつもりであったが、この問題に対応するためには彼らと直接交渉しなければならん。
エネルギー問題だけでなく、この一件の公表を思いとどまらせるためにね。それに私自身が動くことは元々考えていたことだ。
こうも優先順位の上位に来るとは考えていなかったがね。事態が深刻な形へ向かう前に、私はまずは国内の安定確保とエネルギー問題を解決するために自ら動くことにする。
そして、この状況では直ちに動く必要がある。ロンド・ベルの連中がこのことを公にしてからでは遅いのだ。
連中がプラントを脱出したのが、昨日だ。ヘリオポリスに到着するまであと数日はかかるだろう。高速艇を乗り継げば、向こうが到着した頃には我々も辿り付ける」

 

 首相が同行されると、こちらはやりにくくなる。しかしながら確かに憤慨はしたものの、社会機構が崩壊すれば、自社の倒産が待ち受けるのみだ。
 コーディネイターのために自分の利益をふいにされては本末転倒ではある。左手をぎゅっと握りしめ、ここは同意することにした。

 

「いいでしょう。直ちに宇宙に上がることには賛成です。しかし、高速艇を乗り継ぐには閣下が動いていることが悟られない必要が出てきますが?」
「そこで君を呼んだ第2の理由であるが、バトラー首相」
「はっ、N君」

 

 バトラー首相が、情報部の女に声を掛ける。

 

「現在ロンドン周辺に潜伏する、過激派ブルーコスモスのデータです」

 

 これは、国家組織をなめるものではないな。僕は冷や汗をかくと言うよりも感心させられた。ランズダウン首相が再び問いかける。

 

「適当な奴がいるかね?」
「は?」
「過激で、かつ生物テロを起こせそうな構成員だよ」

 

 ふん、さすがにタヌキだな。

 

「……つまり、公式記録で閣下は数日入院されるのですか?」
「察しがよくて助かる。インフルエンザ・ウイルスを混入した化学テロが発生、被害者は私を含めて数名出たが、ワクチンですぐに健康へと向かっている。犯人はすぐに特定し対応した、という筋書きでいいだろう」

 

 やはりこの男は迂闊に敵にできないし、素直にこちらのコントロールは受け付けない。だからこそ、オルバーニの後釜にはしたくなかったのだ。
 だが、今はこちらとも利害は一致している。僕としてもロンド・ベルとは直談判を行いたい。様々な技術を獲得したいのだ。ならば、ここは協力するとしよう。

 

「こいつらでいいでしょう。適当に薬学に関する知識もあり、過激な思想家です。加えて言えば、既にご存じかと思いますが、前科もあります」

 

 ここまで知られているのだ。彼らを使う機会などもうあるまい。

 

「間違いないか?」
「ええ、ジブリールとも近く、僕も扱いに困るときがあります」
「そうか、では彼らの母親に嘆きの種を与えるとしよう。首相?」
「はい閣下」

 

 バトラー首相は目配せをすると、ふたりの諜報員は自らの職場へと戻っていく。私の視線に気が付くと、首相が顔色ひとつ変えずに言う。

 

「何だね、彼らは犯罪経験もあるテロリストなのだろう?よくあることだ」

 

 僕に対する牽制も含んでいるのだろうな。だが萎縮するとは思うなよ。軽いイヤミを掛けるだけに留める。

 

「後の悪評は免れないでしょうな」
「我々が考えるべきことは、今を生きる人民と後の世代が幸福に過ごせる基盤を築くことだ。
後世の評価など、問題ではない。それに、歴史家がケチを付ける頃には我々は墓の下だよ」

 

 僕は貴方より半世紀は長生きするのだ。明るみに出てたまるか。

 

「さて、3時間後に極秘裏に宇宙港へと向かう。盟主殿も支度をして欲しい。
ロンド・ベルの連中とどのような交渉をするかは何度か打ち合わせているが、細部は道中で詰めるとしよう。それほど時間があるわけでもないからな」
「わかりました」

 

 こうして我々は、数時間後にシャトルで宇宙へと上がることになった。

 

 全くふざけた話だ。プラントの愚か者どもめ。何故僕があいつらのミスをカヴァーしなければならないのだ。
 それにしても、ランズダウン候とは別に大西洋連邦や東アジアにも働きかける必要があるか。いずれにせよ時間が必要であろう。

 

 ともかく、この状況でまず押さえるべきはロンド・ベルだ。貿易体制さえ樹立すれば、いつでも彼らと連絡を取り合える。
 ブライト・ノアに、あの僕にも年齢の近いアムロ・レイという男を、取り込む必要がある。ブルーコスモスではなく、自らの手札として。だが慎重に行う必要がある。
 戦後のブルーコスモスのありようも踏まえて、僕自身が従来のブルーコスモス色を薄めていく様にしなければならない。
 僕としては父が属している『結社』の方に比重を置いていくようにしなければな。ブルーコスモスというよりも戦後の経済活動における自身の利益のためにも。

 

 このような事態に対して、僕はコーディネイターに対するあきれすら抱いていた。もはや彼らに劣等感はない。あるのは、現実の見えない愚か者への侮蔑であった。だが、だからこそ彼らに世界を好きにされてはたまらない。
 シャトルのシートで僕は今後の展開を考えつつ、気持ちを高ぶりを抑えるために目を閉じることにした。

 
 

 ――「ムルタ・アズラエルの憤慨」end.――

 
 

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