Top > CCA-Seed_427◆ZSVROGNygE氏_05
HTML convert time to 0.056 sec.


CCA-Seed_427◆ZSVROGNygE氏_05

Last-modified: 2010-01-02 (土) 12:07:41
 

失いし世界を持つ者たち
第5話「交渉と対話」

 
 

「アークエンジェルにようこそ。ノア閣下」
「よろしく、ラミアス艦長」

 

 私はマリュー・ラミアス艦長以下『アークエンジェル』幹部と握手を済ませ、アムロへ体を向ける。
 そして彼の肩を左手で掴み、固い、固い握手をする。

 

「アムロ、本当に……本当によく生きていてくれた」

 

 自分の声が震えている。向こうも心底から穏やかな表情だ。

 

「心配をかけてすまなかった。艦長、確かに近くで見ると老けたな」
「ふ、お前が元々童顔なんだ。それに先に老けた方が、後で若く思われる」

 

 互いに年齢について茶化しあうことで、その感情をごまかす。
 同時に何とも懐かしい感情が呼び起こされる。
 私はアムロと言葉を2、3交わした後で、キラ・ヤマト少尉に声をかける。

 

「君がガンダムのパイロットか」
「は、はい」
「若いな。年は幾つだ?」
「16歳です」
「そうか。アムロとよく今まで戦って来られたな」
「えっ、はい。アムロさ……大尉やフラガ少佐のおかげです」
「そうか」

 

 彼の雰囲気には、2人に対するただならぬ謝意が含まれている。何かあったのだろうか。
 そして、その謝意と裏腹に何か迷っているような瞳。少なくとも、初対面でそこに踏み込む理由はなかった。
 アムロに目線を向けると、彼は頷いてラミアス艦長に声をかける。

 

「ラミアス艦長、とにかく会談するためにも移動しよう」
「そうですね」

 

 紹介が終わったところで、およそ軍人には見えない少女が怒りの表情で歩いてきた。
 後には体格の大きい、まるで旧世紀のハリウッド映画に出てくるランボーのような風体の男が付いてきた。
 この2人は何者だろうかという疑問を持つ前に、彼女の糾弾が始まった。

 

「ようやくお出ましか、あれだけほったらかしておいて今頃、地球軍は何考えているんだ!」

 

 なんだ?こいつは。
 それがこの少女に対する第1印象だった。
 その脇でランボーが咎める視線を少女に送る。どうやら少女よりは知性があるようだ。むしろ、その視線に気づかない少女の感覚に驚く。

 

「しかも艦隊と合流するなら、こんな太平洋の真ん中でする必要があるのかよ。地球軍は頭がおかしいんじゃないか?」

 

 私はその言葉に怒りを覚えるより前に、アークエンジェル側の空気があまりに険悪になっていることに思わず失笑しそうになった。特にフラガ少佐の視線には殺気が伴われている。

 

「カガリ!」

 

 ランボーが諫めている。おそらく彼女のお目付けか何かなのだろう。

 

「お前、いい加減その嬢ちゃんを監督しろって言ってるだろ!」
「すまない」
「大体いつ誰が格納庫に入ることを許可したんだ!」

 

 カガリと呼ばれた少女は顔を赤くしたものの、非を認めて謝罪した。

 

「確かに勝手に入ったことは謝る。だがな……」
「だけどじゃねえよ。無断出撃したうえ行方不明になったことを忘れたとは言わせねぇぞ」

 

 にべもない。
 ただ会話から察するに、彼女はゲリラの協力者か何かで、トラブルメーカーなのだろう。
 とりあえず、話が込み入らぬうちにとりなすとしよう。

 

「少佐、私は気にしていない。ともかく今後について話し合うことの方が重要だ」
「はっ!」

 

 これは本心だ。
 彼女が抱く怒りの矛先は『この世界の地球軍』であって、この世界に来て1日も経っていない我々にそれを向けるのは全く見当外れの行為だ。むしろかわいそうな勘違いをしている少女に憐れみを覚えた。
 私は彼女を一瞥した後に、改めて他の連中を促して格納庫を後にした。

 

  ※  ※  ※

 

 会議室で、我々は現状を改めて確認することになった。
 特にこの世界に関する情勢は確認しておかなければならない。

 

「ノア閣下」
「閣下はこそばゆい、ブライトで構わない」
「ではブライト司令。まず理解していただきたいのが、我々は今戦時下であるということです」

 

 ラミアス艦長が切り出すと、ナタル・バジルール中尉が立ち上がり、状況説明を始めた。その内容は我々が異世界に来たことを理解させることに十分な内容であった。
 受精卵の段階で遺伝子調整を施された新人類『コーディネイター』と、そうでない『ナチュラル』との対立が原因による戦争が1年続いているという。人種の対立が旧世紀に表面上は克服された我々にはなかなか理解しがたいものだった。
 確かに人間が存在している以上は、些細なことで争いが起こる。それは我々の世界でも同様であった。

 

 一通り説明を受けたとき、私にとって印象深かったのは、コーディネイターと呼ばれる『人種』がそれほどに優れているのか、大いに疑問に感じたことだ。
 もちろんそれは異邦人たる私の感性であったし、生のコーディネイターを見たこともないから当然ではある。
 だが、この世界の歴史的事例を見ていくと、その印象はこの段階ではぬぐいきれない。
 例えば、ジョージ・グレンの行動からしてあまり賢い行動ではない。
 さんざん注目を浴びてから「実は他の人と違います」という言い方は、別に遺伝子を操作していなくとも反発を生むだろう。いうなれば「後だしジャンケン」みたいなものだ。そもそも、遺伝的に優れていようが、それが生かされるのは環境によるところが大きいはずだ。
 その意味において、この対立は旧世紀末より続く、「持つ者」と「持たざる者」の対立かもしれない。どの程度かかるかは知らないが、遺伝子調整を行う費用は安くはないだろう。
 18世紀半ば以降に工業化の過程で発達した資本主義社会において、増加した「持つ者」と「持たざる者」の差を、資本とは別に能力面でさえ生まれる前から作られたら、確かにたまったものではない。

 

 また、個人レベルではなく国家のレベルではどうかというと、『プラント』と称する政治組織に対しても、結成するところまではその行動を理解できたが、その後の対立に対してはやや短絡的に感じた。
 プラントの政府高官に旧世紀の『白人至上主義』に通じるものがある。いわゆる自身の遺伝的優等性意識の強さからか、人同士の対話という基本的な作業を疎かにしている印象を受けた。
 もちろん、私の聞いている説明は、対立勢力のバイアスがかかっていることは踏まえるべきだが。

 

 一方でナチュラルと呼ばれる人類の大半が属する統一国家(もっとも地球連合は連邦よりまとまりがないようだが)が、民族浄化政策を半ば本気で政策の案件に掲げているあたり馬鹿馬鹿しさを感じる。
 目の前の軍人たちはそれに加担しているのか。アムロが協力している以上はそんなこともないだろうが、この世界では一神教の原理主義勢力でも権力中枢にいるのか。

 

 たしかに諸事情を考慮しても、対立の原因はナチュラル側にある。
 なぜならこの問題を人種的な対立、それ以前に遺伝の調整という倫理上において問題の問われる行為をなし崩し的に認めた段階で、事態が人の種という回答困難な問題に向かい、対立が起きうることはわかりきっていたはずなのだ。
 我々の世界では宗教の力が低下していたが、それでも強化人間のような遺伝子調整技術に関して先天的な問題を除けば市民レベルで出来るかといえば、倫理上でも法律上でも論外だ。
 ニュータイプ研究所のような国家機関……これはこれで問題があるが、公的機関以外の医療施設では禁忌とされている。ましてやこの世界では宗教の力が影響を持つという、キリスト教とイスラム教の力が残っているだけで、すぐに大論争になるだろう。
 にもかかわらず、遺伝子調整をほとんど好き放題に行った段階で迂闊としか言いようがない。また、コーディネイターを人間でないとする理由も、実は不思議な議論である。
 親はホモ・サピエンスなのだから、両者から生まれた子供は遺伝子調整しようと基本的にはホモ・サピエンスに変わりはないはずだ……この辺は今後調べる必要があるだろう。

 

 それにしても人種対立と経済事情と食糧問題と、よくも人間が対立するうえで頻出する原因が揃っているものだと感心するほどだ。
 しかし、個々の原因はともかく、個人的には人種問題を叫んでいるのは、一部の過激派のようにも感じるが、1年戦争がそうであったように、1度開かれた戦端は当事者の思惑を遙かに超え、収拾のつかないものになる。
 戦争を終わらせるときに重要となるのは、双方による主張の妥協点によって講和することだが、他の理由はまだしも、民族間対立となると難しいとも感じる。
 もちろん我々の世界における戦争要因が、イデオロギー対立であるから、我々の方が高尚であるなどとは思わないが。
 これは相当に難しい世界で、困難な状況に来てしまったのだという意識を抱いた。

 
 

 また軍事技術の違いについては考えさせられるものがあった。
 もちろん軍事機密の観点から全てが説明された訳ではないが、民間レベルでも知ることができる内容については説明を受けた。

 

 こちらの世界にも特筆すべき技術がある。ニュートロン・ジャマーやバッテリー技術など、我々の世界とは違う形で進化した兵器体系は関心を誘う。
 特にニュートロン・ジャマーについては詳しく調べる必要がある。
 最大の特徴は『核分裂抑制』との事だが、我々の艦艇・MSの動力源は『核融合炉』なので問題は無い。副次的な効果で『電波障害』があるらしいが、どの程度なのか全く不透明だ。転移直後の際、計器類に影響はあったのだろうか。
 意識して確認をしていないからな。この世界のミノフスキー粒子に直面した件の部隊のように、存在を認識していなかったから、仮に影響があっても認識していなかっただろう。
 だがミノフスキー粒子散布下に比べて、それほど影響が強い印象がない。

 

 だが、我々の世界の兵器が、やはりいくつかの点で特筆すべきものがあることを意識した。
 例えばエンジン出力やビーム兵器の技術から、我々の兵器の方が攻撃力では上回っていることは間違いあるまい。
 なにより、小型大型問わず、核融合炉の技術はここでは喉から手が出るほど欲しがる技術だろう。MSにしても、この世界よりも遙かに長い間に渡って運用してきた実績がある。その実績に裏付けられた技術と人員は得がたいものだろう。そして、『ミノフスキー粒子』の存在だ。
 私はこの説明を受けた時に、自分の艦隊がこの世界にとって相当に危険な存在であることを明確に理解した。

 

「……以上が我々の世界に関する、状況を理解する上で基本的な情報です。これまでのご質問以外で何かあればお答えいたしますが?」

 

 バジルール中尉の説明は簡潔かつ明快で、こちらも質問に対しても、機密に触れない範囲で誠実に応答した。
 私は彼女が優秀な軍人であるという印象をより深めた。

 

「いや、これまでの経緯に関してはない。ありがとう、非常に解り易かった」
「ありがとうございます」

 

 さて、この状況下で我々がとるべき手段は限られている。まず浮かぶ選択は3つある。

 

  “爐蕕塙舂して、連合軍の一員として戦う
  ▲競侫箸塙舂して、連合軍と戦う
  アムロを復隊させ、艦隊単独で元の世界へ戻る方法を探す

 

 ……正直どれも現実的な行動ではない。,鉢△魯疋薀泙箸靴討鰐滅鬚い世蹐Δ、艦隊が適当に利用されて終わりだろう。最悪、私を含むクルー全員が皆殺しにされて、装備だけを奪われかねない。
 かといってこの世界に来た原因もわからないのに、補給の当てもなくこの戦時下をさまようなど馬鹿げている。そもそも補給をどうすればいいだろうか。
 ビーム兵器や推進剤はともかく、実弾系の兵器は確保など無理だ。先の説明から中立国があるようだから、第4の選択として独立勢力として中立勢力の傭兵となるか……
 だがそれは異分子が世界に介入することになる。しかもオーバーテクノロジーを持つ艦隊が、だ。アムロ個人の場合とは次元が違う。

 

 だが、今や我々は政府からの指揮命令系統を失ってしまった。今後における艦隊の方針は全て私の判断によって決まることになる。
 いや、背負わなくてはならない。元の世界に戻るときまで『第13独立機動艦隊』が我々の『国』となったのだ……我々は今や『世界を失いしもの』か。

 

「ブライト司令。今後についてですが、小官は状況が安定するまで、本艦とともに行動することを推奨します。
 理由としては、少なくとも小官らは貴艦隊が異邦人であろうと、作戦中とはいえ受け入れる土壌があるからです」

 

 ラミアス艦長の提案は、慎重に言葉に出したせいか、上手い形ではないがアムロのことを踏まえた上での協力の申し出であり、誠実なものに聞こえる。
 しかし、暗に支援を期待されていることも確かだ。彼女の意見は理解できる。だが、自分らと全く関わりのない戦争になし崩し的に巻き込まれて、将兵の命を失うわけにはいかない。
 私は思案の末に口を開いた。

 

「……申し出には感謝する。
 だが、少なくとも現時点で、我々はこの世界に対して積極的には戦闘に関わるつもりはない」

 

 会議室の面々に緊張が走る。
 その様子からして、我々がこのまま自分達に協力するとでも考えていたのだろう。
 我々の存在がいかに異常かつ危険であるか、という事態の深刻さに気が付いていないのか?
 今の彼らには極限下で任務を遂行することが念頭にあるだろうから無理もない。

 

「少なくとも説明を受ける限り、我が艦隊がこの世界のパワーバランスを崩すほどの危険な存在であることは間違いない。
 であるならば、我々がこの戦争に関わるべきではない。一般論だが、戦う理由もない人間が、戦争に関わるべきではないだろう」
「では、これからどうなさるおつもりですか?」

 

 ラミアス少佐が問う。

 

「中立国があるのだろう? 先ずはそこに寄港して今後の対策を練る。
 艦隊で行動している以上は隠れることなどできまい。幸い地図によると現在の針路上に中立国がある。
 『オーブ連合首長国』か。我々の世界には存在しない島嶼群なのでどのような文化や習慣・政治体制かは見当もつかないが、そこに行こうかと思う」
「どのようにですか?」
「そこで君たちに頼みたい。我々とともに『地球軍』としてこの国に入港してくれないだろうか?
 その後の交渉については、一切こちらが責任を取る」
「なっ!」

 

 トゥースたち連邦側も含めて全員が絶句している。アムロは何か考えているようだ。

 

「そんなことが出来るわけがないではないですか! 閣下!」

 

 バジルール中尉が声を荒げる。

 

「無茶な要求であることは承知している。だが現状の我々はこの世界に戸籍すらないのだ。
 そんな連中が太平洋上をいつまでもうろつくわけにはいかんし、現実問題できんだろう。
 かといって正攻法で入国が出来るとは思えない。君らとてアムロがいなければ我々のことを理解できなかっただろう。
 最初の行動は超法規的に動かざるを得ない。見返りとして、我が艦隊が貴艦の任務……もちろん虐殺のような、この世界にもあるだろう西暦以来の国際法に違反するようなものなら応じないが……君らの任務達成のため護衛を行おう」
「しかし……」
「アムロと君たちの1か月がどうであったのか、私はまだ知らない。だが君たちとアムロの間に信頼関係があることは察している。
 そして、我々がその信頼を利用しようとしていることも確かだ。だが、異世界に来てしまった我々は生存権を確保するためになりふり構ってはいられないのだ」

 

 沈黙が会議室を包む。ここに至り、全員が事態の深刻さを認識することになった。
 アムロが口を開く。

 

「いずれにせよ、検討する必要もあるだろう。少し休憩にしたいが、艦長?」
「わかりました、では1時間ほど休憩しましょう。もしそちらで打ち合わせるのであれば、空いている士官室を用意します」
「ありがとう、お言葉に甘えよう」

 

 ――もちろん盗聴するのだろうな――

 

 私は内心そのようなことを考えつつ。席を立った。

 

  ※  ※  ※

 

 あてがわれた士官室で、先任参謀が声を荒げた。

 

「司令、いくらなんでも要求が無茶です!!」

 

 副官も同調する。
 私は彼らの意見に「わかっている、すまなかった」と言いつつ、机の上にあったメモ帳で盗聴の可能性を指摘し、今後の検討点のみ筆談することを指示した。

 

「そうかな、我々の置かれている状況から、これくらいは要求してもかまわないと思うがな」

 確かに強引な要求であると思う。だが、最初に無理難題を要求して、後で我々の望ましい要求まで折れさせたい。
 

「司令は、この世界の状況をそもそも信じておられるのですか?」

 ならば、もっとふっかけてもよかったのでは?
 

「信じざるを得ない……といったところだ」

 アムロもいたからな、あまり尊大な要求をして向こうの態度を硬化させても良くない。
 これは商業の取引みたいなものだ。私はあまり得意なわけではないが。
 

「艦長、我々は今後どうすべきなのでしょうか?」

 いっそ彼らと合流すべきでは?
 

 副官が先に心の内で検討した第1案を提示する。

 

「ふむ、エイム中尉はどういう感じを持ったか?」

 いや、連合政府は戦争の経緯を考えると、我々を徹底的に利用するだろう。
 そこに我々の意思は介在しない。下手をすればバラバラにさせられる。
 我々の目的は元の世界に帰還することだ。この目的がすべてに優先される。そのためにもまとまって動かなければならん。
 我々は愚連隊になろうとも、我々自身の判断をこの世界の他者に委ねてはならない。
 

 ハムサット少佐は文面を読み、頷くと腕を組み考え込んだ。
 声をかけられた、レーン・エイム中尉が発言した。

 

「彼らの話はおそらく事実だと思います。アムロ大尉……いえ中佐が、そういった腹芸ができる方とは思えません」

 自分の印象みたいなことでよろしいのですか?
 

 私は頷いて意見を促し、今後の展望を書き記す。

 

「他に何か感じた事は? 何でもいい、君の感じたことに興味がある。
 我々とは違った、パイロット的、いや世代の離れた人間の感性による視点を聞きたい」

 ともかく生存権は確保する必要がある。そして補給地の確保だ。
 そこに居つくどうか別にして、中立国が目の前にある以上利用しない手はない。
 だから多少の無理はする必要がある。
 

「そんな大きなことまで考えたわけではありませんが、なにか必死さというか緊張感をまとった雰囲気でした。
 あと、あのガンダムのパイロットの印象でしょうか。彼の纏う雰囲気は、説明しにくいのですが、なにか温度差を感じました」

 あまり明快ではなく申し訳ありません。
 

 おそらく監視カメラからの映像でも見ているだろうが、筆談していることがばれる事は構わない。
 要はこちらの真意ないし目的を、交渉妥結まで開示させなければいいのだ。
 意見を交わしながら筆談をしているとドアが突然開き、連合軍制服に身を包んだアムロが部屋に入ってきた。やや難しい顔をしている。

 

「ブライト、いいか?」

 

 アムロに視線が集まる。

 

「かまわん」
「ブライト、さっきは強く出たな。腹芸は年の功か」
「ふん、それよりいいのか? ラミアス艦長らにいらぬ誤解を与えはしないか?」
「いや、実は彼女らに頼まれてな。つまるところ、艦長の真意を知りたいそうだ」
「なんだと? それは……」

 

 ずいぶん迂闊な人物だな。
 私はマリュー・ラミアスに対する印象を変化させつつ、それを彼女の意図を踏まえながらも、この部屋に来たアムロの心中を推し量った。

 

「艦長、正直に言って彼らには世話になった。ひとりでこの世界に来てしまって1月の間、彼らとともに行動しなければ、おそらく生きてはいなかっただろう。
 彼らには恩がある。そういった人たちと事を構えてほしくない。これは俺の本心でもある。もちろん艦長が危惧していることはわかるつもりだ」
「うん、お前の言いたいことはわかる」

 

 私はそういうと筆談していた内容を見せる。

 

「アムロ、さっきは顔合わせ程度だろう。うちの……というより前任の司令が退役したので預かった部隊の若手なんだが、レーン・エイム中尉だ。
 『νガンダム』の後継機ともいうべきMS『ペーネロペー』のパイロットだ」

 おまえの意見も聞きたかった。できれば紙に書いてくれ。
 

「アムロ・レイ大尉だ。よろしく」

 了解だ、艦長。
 

「アムロ大尉、よろしくお願いします。お会いできて光栄です」

 

 エイム中尉が緊張しながら応対している。無理もない。

 

「νガンダムの後継となると、サイコミュも搭載しているのか?」

 俺は既にこの世界に相当関わってしまった、この関与がどれだけの影響を及ぼすかは見当もつかない。
 元の世界に帰るというが、方法は俺にも心当たりはないぞ。最悪この世界で暮らす羽目になりかねない。
 

「ああ」

 それでもだ。その目標を掲げない限り、将兵は耐えられまい。
 

「サイコミュの感覚はどうかな? 中尉」

 そうだな、そのためにも足場を作るというは、分かる話だ。
 

「自分ではうまく扱えていると信じます」
「若いな」
「復隊されたら、ぜひ模擬戦をお願いします」

 

 アムロは、レーン・エイムの若さからくる自信にまぶしさを感じた様子を見せながら、おそらく彼がこの部屋に来た本題を言い出した。

 

「俺でよければかまわないが。
 艦長、νガンダムはこの1カ月の戦いで部品の消耗が限界だ。整備を頼みたい」
「わかった。ただ、うちの部隊にはガンダムの部品などないぞ。せいぜい互換性のあるパーツくらいだ」
「駆動系だけでも助かる。『ジェガン』とかの備品で代用はきく」
「了解した、あとでトラジャ・トラジャに話しておく」
「ん? アストナージは退役したのか?」
「死んだよ。アクシズのときにな……」
「……そうか」

 

 私にとっては10年前だが、アムロにとっては、わずか1ヶ月前のことだ。彼はしばらく事実を受け止めるためか、目をつむり、溜息を吐いた。
 私の方でもアストナージ・メドッソの死を振り返ると、急にこれまで失ったものに対する感情に揺り動かされた。
 このままでは冷静な議論ができない……少し休むべきだな。

 

「いずれにせよ、このまま漂流するわけにはいかん。こちらは2000名以上の将兵に対して責任がある立場だ。慎重に行動してしかるべきだ。
 さて、本当に少しは休もう。少し一人になりたい。たしか展望室があったから、そこにいる」

 

 アムロ達を残して、私は部屋を出た。

 

   ※   ※   ※

 

 展望室に着くと、私はそのパノラマ窓から海上に『ラー・エルム』と『ラー・キエム』を確認して、窓際に座った。
 これからのことを考えると憂鬱だった……我々は所属するべき軍と国を失ったのだ。
 元々忠誠心は高くないが、それでも少なからぬ衝撃だ。特に家庭を持つ将兵にどう説明すべきか。
 しばらく思案に耽っていると、アムロが紙コップを2つ持って歩いてきた。中身はフラガ少佐が砂漠で仕入れたバーボンだそうだ。
 よくイスラーム圏で酒が手に入ったものだ。まぁ、エジプト地域は世俗化も進んでいたからな。私が謝意を述べてから受け取ると、彼は隣に座った。

 

「……ブライト、トゥースから聞いた」
「……そうか」

 

 それだけで全てが通じた。

 

「ブライト、ハサウェイはクェス・パラヤに……」
「ニュータイプはこういう時に察しがよすぎていかんな」
「クェスをああしたのは俺のせいだ」

 

「おまえがそこまで背負うような話でもない。それに……全くとは言わんが、親子の問題でもないんだ……あれは、シャア・アズナブルに魅せられてしまったんだよ」
「ブライト……」
「アムロ、お前がアクシズを押し返して地球は救われた。
 俺はνガンダムから放たれた光と、すべてのMSが協力する様に人類の希望を見たよ。
 だが、『奇跡』ってのは都合がいいもんでな。すぐにみんな忘れちまう」

 

アムロは無言で俺の独白を聞き続ける。

 

「U.C.100年に、当時の大統領だったゴールドマンがうまいことを言った。
 『人々が今後イデオロギー対立を乗り越えて、続く世代が「ニュータイプ」であることを期待します』とな。
 一字一句同じってわけじゃないが、この言葉に俺は未来の在り方があると思った。だけど議会のやつらがな……
 マフティー・ナビーユ・エリンの言っていることは正しいさ。俺やお前が戦ってきたのは、あんなクズみたいな政治屋や官僚どものためじゃない……だがな、俺はテロリズムを認めることはできない。1年戦争を、ティターンズを、そしてハマーンやシャアを知る人間にとってはな。
 体制改革をああいった形で行うことを認めるわけにはいかないんだ。絶対に」

 

 アムロはバーボンの入ったカップを両手で持ち、目線を下に落として言葉を紡いだ。

 

「ブライト、俺は思うんだ。
 革命はいつもインテリが始めるが、夢みたいな目標を掲げるから過激かことしかやらない」
「そうだ、知識階級から理念や国家の在り方が醸造され、市民層がそれに触発され大規模な運動に繋がり体制の変革に至る。そこが歴史的な体制の変革運動だ。成功するかどうかは別にしてな。
 この2、30年での問題は理想主義者が大衆を理解できなかったことだ。パプテマス・シロッコがそうだ。天才がいようとも、社会は人が支えている。フィヒテだったかカントだったかの言葉だが、国家は人間が必要であるから作った結合組織であって、国家のために人があるわけではないんだ。
 シロッコは大衆を嘲笑したが、大衆がいなければ、世界は成り立たないんだ」
「シャアの奴もそうさ。奴の場合は俺との決着に固執しすぎていたけどな。
 リアリティがないんだよ。日々の生活に対する。極端な事例しか知らないから過激になる。
 ……俺も軍に長いこといるから、あまり奴と変わらないが」
「だからさ、俺は退役しようと考えた。
 もし俺が政治家なり、社会の在り方を模索するには世界のリアリティを知る必要があったと思うんだ。
 知らないで行動したら、シャアや連邦政府の高官たちと同じだ」
「ブライト……」
「ところが、なんてことはない。社会とか国家とかの前に、人間にとって最も重要な結合組織である『家』を維持できなかったのさ。
 ハサウェイのこと、わかってやれなかった。俺のことをニュータイプと呼ぶ連中もいるが、確実に違うよ。
 他者の理解とか以前に、息子の理解に失敗した父親がニュータイプであるはずがない」
「……」
「すまない、アムロ」
「……いや」
「もう少し落ち着いたら、ちゃんと付き合え」
「あまり絡まないでくれよ?」
「ふん」

 

 互いに微笑しあい。カップを飲み干した。

 

「そうだ、今更だが、おまえ二階級特進して中佐だぞ」
「10年も行方不明じゃそうなるだろうな」
「お前の遺族年金は、ベルトーチカ・イルマに渡るように手配しておいた」
「……そうか」

 

 アムロの顔に複雑な表情が見て取れる。

 

「ベルは……元気か?」
「ん?……ああ」

 

 俺たちはただ沈黙して手の中にある空のコップを見ついた。

 

「司令! 中佐!」

 

 エイム中尉が歩いてきた。考えてみれば随分話し込んだ。アルコールも入れて。

 

「なんだ?」
「先任参謀がそろそろお戻りいただきたいと」
「わかった」

 

 俺たちは立ち上がり、会議室へと足を向けた。

 

   ※   ※   ※

 

 その後、いくつかの点で論争が起きたが、アムロの取り成しもあり、交渉は妥結に向かった。
 ラミアス、バジルール両人はこの状況を打開するため、我々と共同で行動できる利点を重視したように感じたようだ。
 後にアムロから聞いたが、両名ともにアムロから私について聞かされていたらしく、やはり要求に応じた場合のメリットが大きいとラミアス艦長が考えたそうだ。思考が柔軟なのだろう。
 バジルール中尉も利点やアムロの件でその点は考えないでもなかったが、今後のことを考えると軽々に同意はできなかったという。
 ただ、それは軍の規律という観点よりも、我々やラミアス艦長の立場を考えてのことだったらしい。
 アムロに言わせると、彼女のそういうところはチャーミングなのだそうだ。俺のことを老けたといった礼に、この件は生きて帰ったらベルトーチカに報告しておこうと思う。
 フラガ少佐はあまり発言をしなかったが、重要な指摘もいくつか行い、部隊における立ち位置をわきまえている人物であるように感じた。
 ともかく、最終的な話し合いで以下のことが合意された。

 
 .◆璽エンジェルと第13独立機動艦隊は、差し当たりオーブ連合首長国に寄港するまで行動を共にする。
  行動時に他勢力から攻撃を受けた場合は共同で対処する。
 部隊の指揮はブライト・ノア准将に一任する。但し、アークエンジェルには拒否権を有するものとする。
 A佇の軍事技術は一部特殊事情を除いて、基本的に非公開とする。
 ぅーブ寄港後、第13独立機動艦隊はオーブ軍に編入という形で参画しない。
 ゥ◆璽エンジェルはオーブ寄港時にνガンダム及びアムロ・レイ中佐をラー・カイラムに返還する。
  それまでは整備を除いて、アークエンジェル所属とする。
 Ε◆璽エンジェルはオーブ寄港後に、護衛関係の継続について第13独立機動艦隊と協議する権利を有する。
  艦隊側は護衛要請を拒否できる権利を有する。
 Д◆璽エンジェルは任務終了後に、連合軍に対して我々の生存権確保に対して活動する。
 ┐海龍定は、ぁΝァΝΠ奮阿旅猝椶蓮▲◆璽エンジェルの任務終了をもって解消とする。
 

 文面が印刷機から吐き出される。双方の代表が確認を終え、書類にサインする。

 

「改めてよろしく、ラミアス艦長」
「こちらこそ、よろしくお願いします。ブライト司令」

 

 話もまとまったので、私は次に部下に対して状況説明と方針を話さねばならない。
 ラー・カイラムに戻ろうとしたとき、通信を担当している少女、ミリアリア・ハゥ二等兵が会議室に通信を入れてきた。
 活発そうな美少女で、もう2、3年すれば周りの男が口説き落としに来るような娘に感じた。
 パイロットはこういうオペレーターとベッドに寝たがる。

 

「艦長!ラー・カイラムからです。ラー・エルムがレーダーにて敵部隊を探知、その数約20以上とのことです!」
「接敵までどのくらいだ?」
「それが、海中から突如反応があったということです。およそ、10分後です!!」
「ソナー員は何を聞いていた!」

 

 バジルール中尉が担当者を叱りつける。海中からというと潜水艦か……

 

「ブライト」
「ああ、戻っている時間はないな、通信兵!」
「はっ、はい!」
「各艦に打電せよ。全艦第1戦闘配備を発令! 私はアークエンジェルで全体の指揮を執る。
 ラー・カイラムの指揮は副長に委任! 機動部隊はソートン中佐の指揮で出撃させろ!」
「っ! 了解! 全艦第1戦闘配置を発令!」

 

 男性に怒鳴られる経験が少ないのだろうか、ハゥ二等兵はやや動揺した声をあげた。

 

「また、各MS及び艦隊は実体弾頭の使用を極力減らすことに努めよと連絡しておけ!」
「了解!」
「艦長」
「協定も調印しているし、今回は自衛の範囲内だろう。
 通信を開いて向こうに説明したとしてだ、異世界から来たなんて与太話を信じてくれるほど、純粋ではあるまい……ラミアス艦長!」
「はい!」
「何をしている! 君たちもさっさと配置につかないか! 狙われているのは君らなんだぞ!」
「はっ、はい! 総員、第1戦闘配置!」
「全艦、第1戦闘配置!」
「MS隊、発進用意!!」

 

 ……遅いな。

 

「アムロ、この艦に『下駄』はあるのか?」
「いや、ただ『ストライク』が高度は取れないがオプションで短時間飛行できる」
「では、お前は甲板で援護か……エイム中尉!」
「はっ!」
「我々の乗ってきた下駄をアムロに使わせたい。調整を頼む」
「了解! 早速行ってまいります!」

 

 エイム中尉は敬礼すると、駆け足で会議室を去る。

 

「ありがとう、俺も下に行く」

 

 アムロとフラガ少佐が続いて会議室を出ていく。
 残った我々は艦橋に上がる。艦橋を見渡したとき、戦闘前であるというのに、私はペガサス級との違いに強い関心を持った。

 

「司令、指揮席に座りますか?」
「いや、立ったままでいい。この艦のシステムは全くわからんからな」
「わかりました」

 

 介入しないと決めながら、この艦と行動を共にする以上は確実にこの戦争に巻き込まれていくだろう。
 矛盾だな……

 

「『ストライク』、エール装備でスタンバイ完了しました」
「よし、出させろ!」
「『ストライク』キラ・ヤマト出ます!」
「『ストライク』発進! どうぞ!」

 

 『ストライク』が飛び立っていく。あれがこの世界のガンダムか……

 

「ブライト司令、ミノフスキー粒子を散布しないのですか?」

 

 ラミアス艦長が訊ねてくる。

 

「いや、ミノフスキー粒子の使用はアークエンジェルの電子装備にも深刻な影響を与える可能性がある。艦隊の通信にも支障が出るようだから使わん。
 ハゥ二等兵! ラー・カイラムに打電! ミノフスキー粒子の散布を禁止する!」
「了解!」

 

 これはウソではなかったが、迂闊にこちらの切り札を使うわけにはいかないと考えた気持ちの方が大きい。
 すでに1度使用しているが、それはまだ我々の世界であると考えていたからだ。

 
 

 こうして我々第13独立機動艦隊は異世界と認識して初めての戦いに臨むこととなった。
 長い旅路の始まりであった。