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CCA-Seed_427◆ZSVROGNygE氏_07

Last-modified: 2009-03-28 (土) 17:57:54
 

失いし世界を持つ者たち
第7話「行動するもの 迷うもの」

 
 

 バジルール中尉の一喝にも関わらず、艦橋には唖然とした雰囲気が立ち込めている。
 私はどうすべきか考えあぐねていると、通信相手が先にこの場にいる全員が希望している言葉を発した。

 

『キサカ1佐、説明してくれないか?』

 

 通信パネルで、トダカ司令がランボー改めキサカに説明を求めている。無理もない。
 何がどうしたら、1国の、しかも君主制を施行していると思われる国の代表の息女が、ゲリラを装い戦争の一方に加担していることが想像できよう。

 

「……カガリ様はある事情から、アフリカの反ザフト勢力と共同で活動していた。その後、アフリカ戦線のザフト戦力低下に鑑み、連合軍のアークエンジェルに乗船して行動を共にしていた」

 

 我々に対して機密を漏らさないためだろう。あまり納得のいく説明ではない。
 あるいは、このような形で本国と連絡することを想定していなかったのかもしれない。
 トダカ司令は明らかに不審を感じている。

 

「トダカ司令、よろしいですか」

 

 ラミアス艦長が割って入る。

 

「小官は本艦アークエンジェル艦長、マリュー・ラミアス少佐です」

 

 トダカ司令が頷き、先を促す。

 

「小官らはカガリ嬢がアスハ前代表の身内であることを認識していませんでした。従ってゲリラに所属する彼らの乗艦に当初は反対しました。ですが、キサカ1佐よりオーブ関係者であることを仄めかされ、我々への支援を条件に乗船を許可しました。彼女が乗艦した時点で我々は単艦行動中でありまして、補給の心配を抱えていたからです。その時点では具体的な内容については相互に決めていませんでした。
 しかし、その後にカガリ嬢が兵器を無断使用し、一時行方不明になる出来事がありました。その際にオーブ本国での補給を得ることをを条件にカガリ嬢の捜索を行いました。
 以上が、オーブ方面に航行していた理由であります」

 

 ……そういう事情は早く言え。
 私だけではなく、先任参謀も呆れた顔をしている。

 

『……なるほど、全てが明確ではないし、真偽のほども疑問の余地が残る。だがとりあえず事態は了解した。それで、貴艦は艦隊と合流してなお、我が国への入国を希望するか?』
「はい、こちらは今の戦闘でかなりの損害が出ました。整備補修ができないまでも、態勢を立て直す時間を得るためにも、本艦は艦隊とともに貴国への入国を希望します」

 

 ラミアス少佐の交渉は上手いやり方ではないが、こちらにカガリ嬢がいる限り交渉は可能であるし優位に立てる。通信記録からも偽物とは今更言えまい。
 仮に疑っていてたとしても、少なくとも本国に確認はするはずだ。

 

『わかりました。本国に確認します。とりあえず、現海域で待機されたい』

 

 トダカ司令が通信を打ち切ろうとする。

 

「待ってくれ、トダカ司令。我々はザフトの追撃を受けている。貴国領海への移動とは言わないまでも、このまま航行することを許可願いたい」
『……我が国領海ギリギリの公海までの移動については、小官も規制できません。そちらの判断に意見を申し上げる事はありません』
「了解した。では、良い回答が来ることを期待している」

 

 敬礼して通信を終える。
 トダカという男、明確な言質を与えないあたり慎重な男だという印象を持った。むしろそういう男の方が話しやすい。
 私は先ほど殴打した少女に体を向けた。

 

「さて、プリンセス・カガリ・ユラ・アスハ。改めて事情を聞きたいが、我々は作戦行動中で、ここはその指揮を司る重要な場所だ。
 まずは退出して、後でお話を伺おう。これ以上ここにいる事は、貴女にとっても貴国にとっても不利益なものになるでしょう」
「……わかった。失礼する」

 

 務めて諭すように言うと、カガリ嬢は震えながらも激情することを抑えた。状況を遅まきながら理解したようだ。
 彼女は一人で艦橋から退出した。

 

「通信手、各艦に打電! 戦闘配置を解除! 第1警戒態勢に移行する。
 MS隊は帰還させろ。但し、スカイグラスパーとリゼルはローテーションを組んで周辺の警戒にあたれ!」
「了解!」
「それと、艦隊は進路このまま! オーブ領海ギリギリまで航行する!」
「了解!」

 

 私は指示すべきこと出し終えると、キサカとラミアス艦長に体を向ける。

 

「さて、色々と事情を聞きたいな。砂漠で何があったのか」

 

  ※  ※  ※

 

 艦橋をバジルール中尉に任せ、再び会議室に戻る。カガリ嬢には10分後に入室することを連絡し、まずはラミアス艦長とキサカ1佐から事情を聞いた。

 
 

 一通り説明を受けたが、私には理解しがたい行動であることは間違いなかった。
 砂漠に行った事情は機密を盾に聞けなかったが、聞いたところで理解できたかどうか。
 要約すると、カガリ嬢は現地のゲリラとともに、ザフト軍北アフリカ戦線指揮官の『砂漠の虎』こと『アンドリュー・バルトフェルド』と戦っていた。
 そこへアークエンジェルが降下してきたので、その戦力を用いてバルトフェルド隊を撃破した。
 その後、元々オーブのコロニーで建造されたアークエンジェルの行き先が気になり、ともに行動するために理由を作ってついてきたらしい。
 ラミアス艦長は不審に感じたが、ゲリラの代表とキサカがオーブの国営企業である『モルゲンレーテ』との関係を仄めかしたので、今後の補給に鑑み、乗船を許可したという。

 

 まずもって中立国のVIPの取るべき行動ではない。素性が発覚したら本国もただでは済まないだろう。政治的な理由ならゲリラに所属させる理由は何だ。下手をしたら死亡する可能性は十二分にある。実際、一時的ではあったが行方不明になったという。
 私は彼女の父親で前代表首長である『ウズミ・ナラ・アスハ』という人物の考え方がわからなくなった。
 バジルール中尉の説明では、開戦直後にいち早く中立を宣言した指導者と聞いていたので、私の印象ではこの世界を冷静に見ることができている、現実主義者という認識だった。ところが、贔屓目に見ても娘の教育に失敗したようだ……もっとも、『子供をコントロールできていない』という点では、あまり人様のことは言えないが。

 
 

 私が腕を組み黙考しているとカガリ嬢が入室してきたので、改めて経緯の説明を求めた。
 既に聞いていたことの焼き直しであったが、彼女を理解するうえでは、有益だった。
 彼女はまず非常に感情的である。若さ故と思うが、主観的な説明に終始している。一方で、その説明から彼女が圧政に対する怒りを強く抱き、抵抗することも辞さない姿勢を持っていることがわかった。
 権力者側の子弟がそういった感情を持つのは、特に珍しいものではない。その原因は家庭の事情であったり、権力者としての親を見たりと様々だ。彼女にも何か動機があるのだろう。共感できるかどうかは別にして。

 

「プリンセス」
「その言い方はやめてくれ」
「では、カガリ君。君のこれまでの行動については、ここで議論すべき問題ではない。ともかくも今回の行動が軽率であったことは、分かってもらいたい」
「……」

 

 彼女はなお納得していない節がある。
 私は諭すように語りかけることにした。

 

「貴女は自身が望まなくとも、君主制を施行している国家の首長の一族である以上、どのような権力を有しているかは別にしても、貴女は公的な影響力を持っているのです。そういう人物が、今度のような行動を行うと、貴国の中立そのものが危うくなります。
 今回、我々もことを荒立てるつもりはありません。貴国への入国と補給を考えていますから。だが、それが必要なかった場合、貴女は最悪の場合、連合軍へのオーブ参加を余儀なくさせる交渉の道具にもなりえる」

 

 実際のところ、本人には言わないが我々も交渉材料と見做している。

 

「そんな!!」

 

 カガリ嬢は再び激発する。
 私は口調を緩めない。

 

「それが外交です。卑怯・卑劣などという感情は意味を持たないのです。
 国家は慈善団体ではない。所属する国民の(最も、一部のものかもしれんが)、幸福を追求する組織です。他国の国内問題など、戦時では特に、自国と関係がない限り問題としません。それは貴国とて同様でしょう」
「なんだと!」
「今回の大戦で貴国は中立を標榜したが、それは貴国の幸福の追求であって、連合やプラントの現状は一義的な問題ではないと思いますが?」

 

 少し口調がきつくなっているかもしれんな。
 少女は沈黙してしまった。理想と現実という若者の誰もが衝突する壁に直面したように見える。

 

「少し言いすぎたかもしれません。殴ったことも含めて、非礼は謝罪しましょう。
 ただ、貴女が善意から発する行為でも、激情のままに動くことで、貴女が愛すべき世界を失いかねないという事実を覚えておくといい」

 

 私は立ち上がると、通信回線を開いた。

 

「ハゥ二等兵、各艦に打電。アークエンジェルにおいて、艦長会議を行う。各艦艦長並びに旗艦にいる参謀は30分後にアークエンジェル来られたし。以上だ」
「了解」
「混乱する可能性もあるから、私は甲板に降りて皆を迎える。
 トゥース、バジルール中尉と共に各艦長に対するプレゼンの用意をしてくれ」
「了解しました。では、中尉を呼び出します」
「艦長、君は私とデッキへ。レーゲンも来てくれ」
「わかりました」
「了解です」

 

 私が指示を出し終えると、カガリ嬢は俯くのをやめ、私の前に来て、ためらいながら言葉を紡いだ。

 

「ブライト司令……今回のことは……すまなかった」

 

 ……良くも悪くもまっすぐな少女だな。
 私はその行動力と率直さには好感を持った。私はおそらく微笑していただろう。

 

「過ちを犯して叱られるのは、若者の特権です。
 偉そうなことを言うようですが、もし貴女が今回の事で何か思うことがあるのであれば、次に生かしてください。
 ……貴女のそういった率直さは、大切にしていくといい」

 

   ※   ※   ※

 

 デッキに行くと、まだ戦場が続いている様であった。整備員にとっては、戦闘後の方が最も忙しいときだ。
 アムロは整備主任らしき人物と打ち合わせていた。

 

「アムロ」
「艦長。どうした?」
「ああ、オーブからの返信を待つためにも、私がラー・カイラムに戻れなくなった。
 そこで、艦長会議をここで行うことになってな。一応混乱を回避するためにも、私が皆を迎えるためにここに来た」
「そうか、ただあと10分くらいは騒々しいぞ。なぁ、マードック曹長」
「えぇ。各部のチェックはすぐに済ませたいのですが」
「わかった。ではパイロット控室で待っているとしよう。アムロ、おまえも来てくれ」
「ああ、わかった」

 

 アークエンジェルの整備主任であるコジロー・マードック曹長にガンダムの整備について2、3言葉を交わした後で、私とアムロ、ラミアス艦長、ハムサット少佐の4人は、パイロットの控室へと足を向けた。
 途中アムロが、エイム中尉について話しだした。

 

「レーン・エイムはいいパイロットだな」
「ン? なんだ、唐突に」
「彼は戦闘時に、下駄を直接操縦して俺のサポートをすると言い出したんだ」
「なに? 下駄のコントロールをMS管制に調整しなかったのか?」
「ああ、俺も驚いたよ。若いっていいもんだな。ああいった行動をまっすぐにできる。俺の戦いぶりを見たいってさ」
「フ……そりゃ活きがいい。ペーネロペーを早く修理してやりたいな」

 

 レーン・エイムの行動力に面白みを抱き、我々は控室に足を向けた。
 ところが控室に入った途端に、そのエイムが大声を挙げているところに遭遇した。

 
 

「貴様は戦う気があるのか!」

 
 

 エイム中尉はキラ・ヤマト少尉の胸倉をつかみ上げ、ロッカーに叩きつけた。
 彼の側にいた赤毛の少女が声を荒げて抗議している。

 

「やめてください! 何をするの!」
「女は黙っていろ!」

 

 エイム中尉に一喝され、少女は震えながらその場に座り込む。
 ヤマト少尉の目に危険な光が宿る。この少年はこのような表情も見せるのか。
 私は場違いな感想を抱いた。

 

「何をしている!!」

 

 ハムサット少佐が慌てて止めに入る。彼にしてみれば、ようやく協調体制となった関係が壊れる恐れを抱いたのだろう。
 エイム中尉は制止を振り切り、ハムサットにも怒りをぶちまけた。

 

「少佐殿も見ていたでしょう! こいつはガンダムを任されているくせに、戦闘中に攻撃をためらっていたんですよ! そのために母艦をみすみす危険にさらしたんだ!」

 

 エイム中尉の指摘は、私も戦闘中に感じた事だ。

 

「……すみませんでした」

 

 ヤマト少尉は謝罪した。
 すでに先に見せたギラッとした目はない。

 

「すみませんで済むかよ!」

 

 その言葉でさらに怒りで髪の毛が逆立ったレーンを抑えて、アムロが切り出した。

 
 

「キラ。やはり、イージスのパイロットはアスラン・ザラだったのか」
「……はい」

 

 アムロ以外は置いていかれた空気が漂う。
 私は代表して口を開く。

 

「アムロ、何か知っているのか?」
「キラ、もう話してもいいだろう。隠す必要もあるまい」
「……わかりました。
 実は……イージスのパイロットは僕の友達なんです」

 

 そして彼の独白が始まった。
 私はここではじめて、キラ・ヤマトがコーディネイターであることと、元々は民間人で偶然ガンダムに乗り込んだという事実を知ることになった。
 そして、現在の友人を守るために、再会を誓い合った友人と殺し合う羽目に陥ったことも。
 アムロは、偶然保護したプラント要人の令嬢をヤマト少尉の独断で解放した際に、そのことを彼の友人とともに告白されたそうだ。

 

 私はアークエンジェルの境遇に再びホワイトベースを想起しながら、彼の迷いの原因を垣間見たという思いを抱いた。
 一方、ラミアス艦長と赤毛の少女には衝撃的な独白だったようだ。

 

「キラ君……知らなかったは言え、私は貴方に単に同朋と戦う以上の苦しみを与えてしまっていたのね」
「ラミアス艦長……」
「……ごめんなさい」

 

 ラミアス艦長が、泣きそうな顔の少尉を優しく抱きとめる。

 

「すみません。頭ではわかってはいるんです。アムロさんにも言われました。『迷いは自分を殺すことになる』って。
 ……それでも、できることなら戦いたくないんです。でも、戦わなければみんなが死んでしまうんです。僕がコーディネイターでも、友達になってくれたみんなが……」

 

 私は2人の会話を傍観しながら、ラミアス艦長がかなり情にもろい印象をもった。
 彼女の言葉から、そこには強い母性もあるのだろう。彼女の慈愛には感銘を受ける。だが指揮官としては問題だなとも感じる。
 一方で、ヤマト少尉が非常に繊細な少年であるという印象を持った。繊細といっても、カミーユ・ビダンとは別種にも感じるが。また、それに加えて内向的であることが、彼をこういった人間にしているのだろう。そして、理由はわからないが彼は自分がコーディネイターであることにある種のコンプレックスを持っているようだ。
 エイム中尉は、なんとも形容しがたい表情をしている。怒りはあるが、情状の余地があると感じたからだろう。
 だが、その場を壊す声が、赤毛の少女から発せられた。

 
 

「……ふざけないでよっ!」
「フレイ?」
「アルスター二等兵?」

 

 フレイと呼ばれた少女は、怒りの表情でヤマト少尉に詰め寄る。

 

「戦いたくないですって? あんたがそんな資格があると思っているの? パパを守れなかったあんたが!」
「フレイ……」

 

 突如始まった修羅場に、我々男はなすすべもない。こういうとき男という生き物は確実に弱い。
 私も思考を働かせることができず、傍観するのみだった。ラミアス艦長も同様であったが。

 

「あんたは戦うしかないのよ! あたしを守るために、戦って、戦って、戦いぬいて、そして……」

 

 アルスター二等兵は、ダムが決壊したように感情をヤマト少尉にぶつける。

 

「知っていたわよ! あんたが友達と戦っていたことも! だから私は……あなたを……」
「フレイ……」
「1人でため込んで、苦しんで、泣いて! そんなあんたが……! あなたが……」

 

 アルスターはヤマト少尉の胸を叩く。
 彼が口を開く。

 

「ごめん、フレイ……僕はサイを裏切ってまで、君にすがってしまった。僕はずっと君が好きだったから……だけど、僕たちは間違えたんだ……だから、ごめん。もう……終わりにしよう」

 

 その眼は涙を湛えている。少女はもはや言葉を紡げない。

 

「何よ! そんなの!」

 

 アルスターは溢れ出す涙を拭おうともせず、部屋を飛び出した。
 ドアが開いた直後、直掩から戻ったフラガ少佐とぶつかったが、なにも言わずに走って行った。全く事情のわからない少佐は目が点になっている。
 ヤマト少尉は茫然とした後、俯き始めた。

 

「追わなくていいの?」

 

 ラミアス艦長が確認する。ヤマト少尉は何も答えず彼女に涙笑いを見せ、アムロへと向き直る。

 

「アムロさん……僕は……どうしてこうなってしまったんでしょうか」
「君がすべて悪いというつもりはないが、状況だけがこうなったとは思わないだろう?」
「……」

 

 彼の様子に私はいらだちを強くさせた。

 

「……ヤマト少尉、歯をくいしばれ」
「えっ?」
「今から君を修正する」

 

 皆が一瞬戸惑う。
 かまわず私は拳を握りしめ、ヤマト少尉の顔面に鉄拳を叩きこんだ。

 

「くっ!」
「少尉、殴られた理由は分かっているか!」

 

 ヤマト少尉は左頬を抑えて、目をパチクリさせている。

 

「第1にエイム中尉も指摘した、戦闘中の行動だ!
 君の友人が敵である事実は、確かに君を苦しめていただろう。だが、アムロの言う通り、そんな迷いを抱えたまま戦っても、君が守りたいものなど守れはしない!
 現に先の戦闘ではその迷いが、アークエンジェル中破を招いたんだ! 戦死者が出なかったことを幸運に思え!」

 

 ヤマト少尉は茫然と聞いている。

 

「第2に、女を泣かせたことだ!……惚れているんだろう?」

 

 少年は俯く。

 

「はっきりしろ!」
「……でも、僕は友達から彼女を……奪ってしまったんです」
「だったらしっかりモノにして見せろ! ナチュラルとかコーディネイターとか友達とかがどうしたか!
 色恋沙汰にそんなこと関係あるか! 惚れているのなら追っかけてこい!」

 

 ヤマト少尉は再び俯きかけたが、顔をあげ立ち上がる。
 その顔は少し迷いを拭った目をしていた。

 

「……はいっ!」

 

 彼は勢いよく部屋を飛び出して行った。

 

「……俺、ひょっとしてすげぇモノ見逃した?」

 

 フラガ少佐がおどける。ラミアス艦長は俗っぽく笑い、私に話しかけた。

 

「司令、こういうときはかえって時間をおいた方がいいのでは?」
「こういうときは迷う、というより俯いて泣いて後悔するくらいなら、行動した時の方がいい。結果はどちらでもな。若いうちは尚更だ」

 

 アムロも苦笑している。

 

「それにしても、ブライトが恋愛に口を出すとはな」
「茶化すな。俺は不器用だからな。こういう形でしか言えん。それに、主目的は戦闘中の行動についてのものだ。迷っている人間に戦争などできん」

 

 そういったものの、みんなの受け取り方は違うようだ。
 ラミアス艦長は今度こそ笑いはじめた。レーゲンも同様だ。フラガ少佐はアムロに何があったのかしつこく聞いている。レーンは色恋沙汰に慣れてないらしいが、私の言葉が滑稽に感じたのか、笑みを浮かべていた。

 

 私も憮然としたのち苦笑していると、先任参謀のトゥースが『艦長たちを待たせてどこにいるのか』と、バジルール中尉と2人で怒った顔をして通信を入れてきた。
 今度こそ我々は全員で笑いだし、両名の怒りの呼び水になった。
 思えばハサウェイを喪ってから初めて大声で笑ったかもしれない。
 笑い声はしばらくやむことはなかった。

 

   ※   ※   ※

 

 集合した各艦艦長と参謀全員は、バジルール中尉からこの世界のことと、ここまでの約24時間の出来事について説明を受け、改めて事態の深刻さを認識した。

 

「レイ中佐、本当に心当たりはないのか? 1ヶ月もこちらにいるのだろう」

 

 『ラー・エルム』艦長、ジェームズ・レディング中佐が確認する。
 彼はエゥーゴ時代からの知己で、グリプス戦役ではメール・シュトローム作戦に参加しながら生き残った数少ない人物だ。慎重な性格で、いわゆる石橋を叩いて渡るタイプである。

 

「残念ながら、そもそも自分がどうやってこの世界に来たことも分かっていないんだ」
「では、我々は冗談抜きで漂流者だというのか」

 

 レディングは腕組み、黙考を始めた。
 かわって『ラー・キエム』艦長のルイ・フィリップ・ピレンヌ中佐が挙手した。
 最年長で、1年戦争時にルウム戦役において、サラミス級の副長として参加していた。その際に上官が戦死し、以後代行を経て艦長職に就いた人物だ。豪胆さと知性を備えている。もっとも、その豪胆さがロンド・ベルへの「島流し」を招いたが。 

 

「司令、そのオーブという国は信用できるのでしょうか?」
「ビレンヌ中佐の意見は尤もだ。中立国というのは、時として交戦国よりたちの悪い場合がある」
「その通りです。場合によっては軍事技術の提供を求めてくる可能性……いや、確実に求めてくるでしょうな。
 司令はその危険性をどうお考えですか?」
「そこは、どのレベルまでかはわからないが、我々は覚悟を決めて妥協すべきところはあると思う。
 我々の目的は生存権の確保だ。この目的は元の世界への帰還と並んで大目的である」
「結果として、この世界に大きな変化を生んだとしてもですか」
「そうだ」

 

 ピレンヌ艦長は憮然とした表情で下に視線を向ける。
 私自身も、妥協することに大きな危険があることは百も承知だ。だが、何のつてもない国家に対して、生存権を確保させるためには、いたしかたない。彼もそれがわかるから憮然としているのだろう。

 

「ブライト司令、やはり連合軍に合流すべきではありませんか?
 少なくとも、ラミアス艦長らと彼女の上司たるハルバートン提督を後ろ盾にすれば何とかなると思いますが」

 

 『ラー・ザイム』艦長、ジョバンニ・コンタリーニ中佐が発言する。
 彼は各艦長の中ではラミアス艦長を除き、艦長歴が一番短い。艦隊に着任したのも、アムロが行方不明になった後だ。但し実戦経験は豊富で、星一号作戦が初陣である。各艦長の中で最も血の気が多い人物だ。
 彼の指摘も十分に理解できるものがある。露骨にコネを使えと発言する彼に、ラミアス艦長は眉をひそめている。
 だが、私はすでに決断していた。

 

「その時は連合軍の指揮系統に組み込まれることになる。こちらに機密情報を秘匿など絶対させないだろう。そこに我々の意思は介在できまい」
「確かに、指揮官として軽率な発言でした。申し訳ありません」

 

 その後も議論は紛糾したが、結局のところ、会議の結論としては、以下のようになった。
 簡潔だが、詳細な計画を立てる段階ではない。

 

  仝気寮こΔ悗竜還。
  可能な限り自主独立を保持すること。
  そのためには、あらゆることをおこなう。

 

 また異世界に来たという事実は、まず各艦長が佐官及び大尉に対してのみ状況を説明し、オーブ寄港時に私が全体に説明することとなった。
 以上を話し合い、会議は解散となった。

 

   ※   ※   ※

 

 会議が解散した後も、私はオーブ政府からの返信を待つ関係でアークエンジェルに残留することになった。
 艦橋で航路設定について、キサカを交えて話していると、アムロがコーヒーを持ってきた。ラミアス艦長は察したのか、少し休むようにと言ってきたので、言葉に甘えて展望室まで降りて2人で腰かけた。

 

「大丈夫か? ブライト」
「ああ、正直にいって、あまりに大きな出来事が起きすぎて、感覚が麻痺しているが本当のところだ」
「そうか」
「つい一昨日まで、俺は世界が終っちまったような気持ちだった。俺がこれまでしてきたことが、ひどく間の抜けた感じに思えてな」
「ブライト……」
「忙しい方がいい。色々考えなくて済む」
「オーブに着いたら少し休め」

 

 アムロが私を気遣う。こういった心遣いが素直にうれしい。

 

「そうだな。急いだところで何か変わるわけでもないからな」

 

 だが落ち着くということは、ハサウェイのことを考えなければならないことも意味している。
 今回のことで、深く考えないようにしていたことも確かだ……いずれにせよ、整理する時間は必要だろう。
 私は無理矢理にそう結論付けることにした。

 
 

 オーブ政府から入国を許可する旨の通信が入ったのは、この15分後のことであった。