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CCA-Seed_427◆ZSVROGNygE氏_16

Last-modified: 2009-09-27 (日) 20:47:47

第16話「天から来るもの」

 
 

アラスカへの航海は特に問題はなく、部隊は数回の模擬戦などを通して練度を上げつつ過ごした。
北半球も北緯50度を越えるといよいよ気温は下がり、南国の暑さにまいっていた整備員の作業効率は改善された。
艦内の雰囲気もここ数日はどことなく穏やかだ。宇宙暮らしが長いと地球の環境変化には辟易させられる。
ダッチハーバーを過ぎたところで、20隻の水上艦艇で構成された艦隊が我々を出迎えた。

「艦長!前方の艦隊より電文、『我アラスカ防衛艦隊旗艦アンカレッジ。貴艦隊ノ交信ヲ求ム』です。」
「わかった。メインパネルに繋げ。」
「了解!回線つなぎます。」

画面には髭を蓄えた初老にさしかかった男性が映る。

「アラスカ防衛艦隊司令をしております、デュエイン・ハルバートン少将です。」
「ロンド・ベル司令、ブライト・ノア准将です。」

答礼しながら、ハルバートンという名前に聞き覚えがあることに気付く。確か宇宙の第8艦隊司令であったはず。宇宙軍の提督が何故地上の水上艦隊の指揮をしているのだ。

「提督におかれてはまず部下を救ってくれたことに感謝の意を表したい。」
「とんでもありません。我々こそ右も左もわからぬ世界で手をさしのべて頂いたこと感謝しています。・・・ところで閣下は宇宙艦隊の司令と伺っていましたが。」
「ケジメだよ。私の主導で開発したMSのほとんどが強奪され、あげくに艦隊戦力の4割を失ったのだ。それでも開発の功績はあるから、昇進させて地上勤務に転属ということになったのさ。」

もちろんそれだけではあるまいが、そういったことをこの場で聞くことはさすがに躊躇われるし、向こうも話すことはないだろう。
私は適当に相槌を打ち、会談場所に関する要求を行った。これまで通り、可能な限り中立な場が望ましいことから、基地施設の外郭部、ないしは河川の関連施設を提案した。
連合側は想定内であったらしく、アラスカ基地JOSH-Aの玄関口、ユナラクリートの港湾で行うことになった。
向こうにしても交渉妥結前に本部施設を見せる気はないということか。
いずれにせよ向こうも譲歩を見せているし、こちらにとっても悪い提案ではなかったので承諾した。またアラスカ艦隊はノートン湾のユナラクリート基地まで同行することになった。

 
 

※※※

ユナラクリートはベーリング海峡の半ば、ユーコン川が注ぐノートン湾の東海岸に位置する都市である。
元は村であったが、同じ名を持つ川の上流にアラスカ基地JOSH-Aが建設されたので、資材の荷揚げ等のために大規模な港湾設備と関係者が住む都市が整備されている。
まだ人類の多くが地上にいる世界でよくも汚染問題に問われなかったものだ。自然環境の改善で宇宙に移民した我々には理解しにくい感覚だ。
最もジャブローやキリマンジャロ基地を考えるとあまり人様の世界を悪くいえないだろう。

部隊には第1戦闘配備を指示している。アラスカ防衛艦隊が我々を包囲しているからだ。先方としては当然の措置だろう。私はメランに指揮を委ねて、各艦長と参謀、アムロを伴い会談に向かった。

会談の席には、文民側よりアズラエル氏の他にブルーコスモスからロード・ジブリール、連合政府からジョゼフ・コープランド連合議会下院議員が、外務官僚を伴い代表として来ている。
彼は議会の外務委員だそうだ。公職にある人物と並んでブルーコスモスから2名出席していることに、連合におけるブルーコスモスの影響力が伺える。

「お初にお目にかかる、ブルーコスモスのロード・ジブリールです。」
「貴族の方ですか?」
「いえ、ファーストネームがロードなだけです。」
「失礼しました。」

鋭い目つきと神経質そうな表情が印象的な人物だ。次にコープランド氏と握手する。こちらは典型的な政治家の風貌だ。少壮の政治家として相応の自信を伺わせる。
それにしてもアズラエルにジブリールか、この世界では宗教の影響力もあるというらしいのに何を考えて改姓したのか。

軍部からはデュエイン・ハルバートン少将、ウラジミール・ロストツェフ少将、ウィリアム・サザーランド大佐の3名が出席している。
彼らに対する第1印象はよくも交渉の席において内輪で険悪な雰囲気を作れるものだというものだった。
ことにハルバートン少将とブルーコスモス側、サザーランドとロストツェフの間にまたがる空気は最悪といっていい。

「改めてよろしく、デュエイン・ハルバートン少将です。」
「アラスカ地上軍司令のウラジミール・ロストツェフ少将です。」
「総司令部参事官ウィリアム・サザーランド大佐です。」

両少将は実戦部隊の統括者を会談に出席することで、即時攻撃はしないという誠意を見せるための措置だろう。
もちろん形だけのものだろうが。本命は参事官だな。それにしてもこの空気の悪さには苦笑を禁じえない。

会談はアズラエル氏がこれまで要請してきた軍事同盟と技術供与などを提示し、こちらも現状において中立を望んでいること、技術流出や同盟には消極的であるということを述べ、互いの主張を確認しあう形で始まった。
私とアズラエル氏の間では事実関係の確認にすぎ無かったが、ジブリ−ル氏にとってはそうでもないらしい。

「ブライト司令は何故こちらとの同盟に消極的なのか。正直に申し上げてこれまでの経緯も確認してもなお理解に苦しむのだが。」
「そうでしょうか。突如道に迷い、森を抜けたら銃撃戦をしていたところに喜んで参加する方はあまりいないと考えるが。」

彼は私の切り返しにすら不満らしい。盲目的な反コーディネーターなのだろう。これまでアズラエル氏だけが交渉に来ていた理由もわかるというものだ。続けてサザーランド大佐が発言する。

「アークエンジェルより報告を受けましたが、貴艦隊の技術は非常に興味深く感じます。特にアムロ・レイ中佐、貴官のMSνガンダムは我々の世界と動力形態そのものから大きく異なるようですが。」

そう、艦隊はともかくνガンダムの存在は露見しているだろう。アムロはνに関してはアークエンジェルのクルーに説明してあると言っていた。当然予想されたことで驚くにはあたらない。

「異なる世界ですから、同じ技術の道を進むとは限りませんからね。それほど突飛なものではないでしょう。」
「そうですかな。整備員の証言によれば動力形態は我々の世界にとってオーバーテクノロジーである可能性が示唆されている。」

全く腹の探り合いだな。彼は司令部の参事官だという。こうした駆け引きは慣れているだろう。

「可能性だけで言及されても困る。仮にそういった技術として、貴国にとってそれほど手に入れたいと思うのですかな。」
「整備員の1人は核融合炉の可能性を示唆していてね。仮にそうであった場合、我々の世界にとっては革命的なのですよ。ブライト司令。」

ついに核心を突いてきたか。

「その整備員が何を以てそのような可能性を提示したかわからないが、仮に核融合炉だとしても、それは貴世界にも存在していると認識しているが。」とレディング艦長が指摘する。
「小型化し、MSにも使用できている点が重要なのです。それはおわかりのはずだ。」
「そう思うのは自由だが、私からは何とも言いかねるな。我が艦隊、いや我が国の根幹に関わる機密事項だ。」

ここでジブリ―ル氏がしびれを切らす。

「いい加減にしろ!!!だいたい君たちはその技術があるから、こうして交渉の席が与えられているのだということを忘れるな。国家など名乗ってはいるが、所詮は流浪の海賊集団と変わらないのだぞ!!!」
「だからこそ、情報や技術を安売りするとお思いか?」

トゥースが切り返す。アズラエル氏は苦虫をかみつぶした表情を見せる。いや、他の面々も同様だ。

「ジブリ―ルさん、落ち着いてください。ここは交渉の席です。脅す場ではない。いくら政界の有力者といえども、この交渉失敗の原因を作れば連合政府として看過できる事態ではありませんぞ。」コープランド氏が諫める。
さらにはアズラエル氏が低い声で諭す。「ジブリ―ル、会の意向で出席させているが、盟主の判断でここから退場させてもいいんですよ。」

ジブリ―ル氏は腕を組み黙り込んだ。アズラエル氏が続ける。

「申し訳ない。しかしなんであれ技術に対する欲求も持つことは不思議ではないでしょう。人間は好奇心を持つ動物です。未知の技術を前に知りたいという思いはあります。そういった感情はおわかりになるでしょう。」
「それはわかります。」私は頷いた。
「ではそろそろ口頭で言うだけでも教えて頂きたいものです。ここで口に漏らした程度で我々が実現できうる技術なのですかな。」
「ふむ・・・。」

私は右手をあごに当て首肯してみせる。確かに口で漏らした程度で実現できるかと言えば不可能だろう。こちらの核融合技術はなんといってもミノフスキー物理学に支えられている。これが理解できなければ先に進むことはできまい。
そこをごまかして核融合技術だけ伝える程度であれば問題ないのではないか。このまま秘匿を通せばかえって悪い方向に向かうかもしれない。私がそう考えているとアムロがアズラエル氏に発言した。

「仮にお話して、この世界で不可能な技術だった場合はどうするのですか。」
「その言い方はおかしい。あなた方は現実にこの世界にあってその技術を用いている。それだけで貴方の仮定は無意味ですよ。」

技術供与の話ばかりであったこの会談で、コープランド議員が初めて政治的な発言する。

「提督。貴方は自由と共和主義を信ずる方と聞く。我が国は価値観において共有できる土壌があると思うが。」
「確かに。」
「ならば専制国家に近いオーブよりも我々と交流を深めるべきではないか。提督はアークエンジェルと共通の価値観を持つことができた。それは我々ともできないのか。」
「可能であると思う。それはこれまでの対話においても否定してはいない。けれども現状の貴国は戦時下であり、さらには統一国家が民族浄化を行おうとしている。そのことがある限り簡単には友誼を結ぶことはできない。」

最後の言葉にジブリ―ル氏は過敏に反応した。

「民族とは、コーディネーターを民族というカテゴライズするのか。」
「確かに『民族』とカテゴライズするのは不適当かもしれない。けれども独自の集団として統治体を構成して存在している現実には目を向けるべきだ。
イギリス帝国は13植民地の現実を認めることができず、最後には第一次海上帝国を失ったことを想起されたい。すでに国家と呼んで差し支えない統治集団をジェノサイドするなど、ショアーを経験した世界がすべきことだろうか。」

その発言にコープランド氏は思うところがあったようだ。腕を組み背もたれに体を預ける。
ハルバートン提督もロストツェフ将軍も考えるそぶりを見せる。アズラエル氏はまたも苦虫をかみつぶした風である。サザーランド大佐は無表情だ。ジブリ―ル氏は不快な表情を隠さない。

その後も認識の差や思考の違いが浮き彫りになったが、交渉ごとではそういったところから徐々に妥協点を探っていくものだ。
アズラエル氏と行った2回の会談と今回の会談は互いの認識を確認するためのものである。
ともかく、これまでの会談で連合が一枚岩ではないこと、さらにはブルーコスモスも思考の対立があることがわかっただけでも大きな収穫だ。3時間近い会談の後に、明日へ会談は持ち越されることになった。

会談後の艦長会議は、翌日の方針が話し合われた。情報参謀から我々の有する情報を緩和することで、連中の関心を引きつけることが提案された。
コレマッタ少佐は虚構と真実の混合物は人間好奇心の最高の調味料と主張した。私自身も情報の一部開示には思うところがあったので支持した。議論は白熱したが、一部緩和でまとまった。
また連中が強硬姿勢に出たとき、ミノフスキー粒子の使用を躊躇わないことでも一致した。

 
 

※※※

会談終了後、連合政府からバイキング形式の会食に招待された。艦隊からは私と参謀連中、各艦艦長、そしてアムロが出席した。
連合側ではアズラエル氏とコープランド議員の配慮だろう、出席者はジブリ―ル氏を除いた会談参加メンバーだった。
私がワインを片手に食事を集めていると、アズラエル氏がアムロと話しているのが目に入った。興味を覚えて足を向ける途中でコープランド議員に呼び止められた。

「ブライト提督、少しいいかな。」
「ええ、かまいませんよ。」

2人で波止場に立つ、パーティーは我々への配慮から港の波止場で行われているのだ。既に夜の9時を過ぎたというのに、空は未だ夕暮れだ。

「提督は異邦人としてこの世界に対して客観的な見解をもっておられるようだ。」
「それはそうでしょう。我々は招かれもしていなければ、望んでもないのに他人のパーティーに部屋を間違えて来てしまったゲストのようなものですからね。」

コープランド議員は笑みを見せる。人当たりのよい政治家の顔だ。確かに外交畑の人間だな。それにしても提督と呼ばれることに違和感を覚える。間違いではないが。

「昼間は興味深い議論でした。今時大戦は落としどころという視点が、特に我が方に欠けていてね。もっとも向こうも強硬論者が元首に就任したようだが。」

政治家は回りくどい。だが昼間の会談からも今後も対話の相手になり得る人物に思える。もう少し付き合っても良い。

「戦時には強硬論が勇ましく聞こえる物です。チャーチルやド・ゴールのように。我々の世界では、絶望的な状況で国民を鼓舞した人物が全軍の総指揮官になりました。」
「確かに。だが、チャーチルは戦後を考えていた。私は政治家です。代議制民主主義によって選出された政治家です。
国民の負託に応えなければならない。そして今は議会で外交の責任を負う地位にあります。今の連合は残念ながら有力な団体の影響が強すぎる。残念なことです。」

自分はブルーコスモスと距離を置く人間だと言うことか。

「団体ないし結社の存在は馬鹿にならないでしょう。特に西洋の政治文化では。」
「提督は博識ですな。」
「歴史が好きでしてね。それに軍人は軍事オタクではあるべきではないと考えています。
外に対する視野を欠く人間は時として愚かしい誤りを犯します。もちろん哲学的に考える余裕があるときは、という条件が付きますがね。」

昔、アムロに言った言葉を思い出し苦笑する。コープランド議員は私の笑みの理由には気付かなかったようだ。彼はラーカイラムのデッキに乗っかり、我が物顔で寝そべるアザラシを見つめながら言葉を続ける。

「我が世界もそうでありたい人々は多い。だが1度憎悪の種が播かれると、感情論は強くなる者です。」
「エイプリルフール・クライシスのことですか。」
「それだけではないが、直近ではそうでしょう。憎しみという生き物は人間の様々な感情を肥やしに育っていきます。そして愚かな考えにとりつかれていきます。第一次大戦の交戦国間で行われた名称についての逸話をご存じですか。」

私は頷いた。第一次大戦、欧州人にとってはthe Great Warとだけで呼ばれ第二次大戦以上の傷を残した戦いにおいて、イギリス帝国の王家の名称はドイツ起源であったサックス・コーバーク・ゴータ家であった。
けれども敵国の名称は具合が悪いと国王の居城の名前からウインザー家に改称し、さらにはドイツ風の名前を持つ貴族にもイギリス風の名前読みに変えさせたのである。
同様のことはドイツ側でも行われていた。憎悪の対象は日常に使われる名称にまで波及してしまうのである。妻の祖国である日本においても、第二次世界大戦では敵性言語として英語の使用が躊躇われていたという。
憎悪の方向は戦時においてはどのように向かうかわかるものではない。実際この世界は人種戦争の様相を呈している。そういった中でコーディネーターに対する感情をどう捌いて落としどころへと向かうのか。彼は頭を悩ませていることだろう。
彼は私の頷きを確認すると説明することはせず、再びアザラシを眺め始めた。確かに少し愛らしく感じる。特にあくびみたいな表情が。もちろんデッキで糞でもしたら食料にしてやるところではあるが。

「あなた方ならばコンプレックスや偏見を持たずにこの世界と向き合っていけるでしょう。それがこの世界にとって良い方向に作用して欲しいと思います。」

少し前に似たような発言を聞いた私は、彼らの受動性に不快感を覚えた。

「あまり異邦人に過剰な期待はしないで頂きたい。我々がこの世界に波紋を広げてしまった自覚はあります。ですが、この世界はあなた方が住む世界だ。
そこに住む者が第1に責任を持つべきです。議員。」

コープランド議員は特に不快を覚えたわけではないようだった。少なくとも私に対して見せるようなことはしなかった。彼は時計に目をやる。

「さて、私はこれから議会に出席するためにワシントンへ戻らなければならない。貴方とはもっと議論したかったが、残念です。
後のことは向こうで提督の参謀と話している、外務省の高等参事官であるペロー君にまかせることになっている。」

ウイスキーを片手にトムソン少佐とスミス中尉と話している、丸眼鏡に口ひげを蓄えた昔のブルジョワのような格好をした男が見えた。彼がそうだろう。

「彼は染まっていません。今後は彼とチャンネルを作るといいと思う。これは彼への直通の回線コードです。」彼は別れの握手を装って紙を私に預けた。
「コープランド議員・・・。」

私が彼の真意を読み取れずにいると、後ろから声をかけられた。

「興味深い組み合わせですね。どのような議論をされていたのです?」

振り向くとアムロとアズラエル氏が立っている。アズラエル氏は酒で顔を赤らめ、アムロは少し辟易しているように見える。

「この戦争のあり方についてですよ。アズラエルさん。貴方にとっては必ずしも愉快ではない会話です。」
私は紙くずを持つ右手をポケットに突っ込み、グラスを飲み干してごまかす。コープランド議員も曖昧に苦笑してみせる。
「ああ、そういった話ですか。別にかまいませんよ。私は空の化け物と違い、意見対立自体を否定しませんから。
私はアムロさんと人間の可能性について楽しい会話をさせて頂いた。」
「アズラエル氏はナチュラルにもっと可能性があることを示したいのだそうだ。」
「ほう。」
「やはり人間は遺伝子なんぞで決まる生物ではないんだ。それを連中は認めるべきなんだ。コーディネーターどもめ。」

少し酒の周りが良いようだ。コープランド議員も肩をすくめる。
議員が足早に去った後で私とアムロはアズラエル氏の弁舌にしばらく付き合う羽目になり、やたら疲労感だけが残る会食となったのである。

 
 

※※※

翌朝、私は自室にて朝食を済ませ、今日の会談に備えた準備を終えて艦橋に向かう。
今日は13時より会談を行う予定だ。午前中に艦長会議を行い、議論を練っておこう。
特にコープランド議員の一派との関わり方は大きな問題点になり得るだろう。そんなことを考えているうちに艦橋に到着する。
艦橋では朝からソートン中佐とアムロがメランと話していた。どうやら警戒のために出している部隊のシフトについて話し合っているようだ。
私は椅子に座り、副官が持ってきたコーヒーを一口飲む。マックのコーヒーとどちらがましだろうか。
いっそオーブに戻ったらお茶を買い込もうか。副官の愛情溢れた苦みを堪能しつつ、およそ建設的ではない考えに頭を使い始めたとき、報告の声が上がった。

「艦長!!!上空より降下する物体あり!!その数多数!!」
「なんだと!」

艦橋に緊張が走る。

「識別信号確認しました、ザフト軍です。宇宙から降下してくる模様です!!どんどん数が増えていますので、正確な数は不明!!
ザフト降下部隊の展開能力が不明ですから正確な接敵時間はわかりません。ですが我々の世界におけるHLVであれば、およそ25分後には戦闘可能状態になるかと考えられます!!」

たしかにザフト側の降下能力について我々は正確な情報を持たない。
ニコル・アマルフィに尋問しても良いが、この戦いには間に合わないだろう。メインパネルには上空の反応が次々と浮かび上がる。全く次から次へと・・・。

「全く次から次へとあきさせない世界だ。」
「ホントだな。」

私が心の中で思っていたことを、そのまま言われたので少々驚きながら同意する。
アムロは私に苦笑して見せから、ソートンに目配すると艦橋より飛び出していく。彼らが開けたドアが閉まるのとほぼ同時にインターカムで指示を出す。

「総員!!第1戦闘配備!!!艦隊は直ちに出航せよ!!陣形を組み、迎撃態勢を取る!!陣形はクローズ・デルタ!!」

号令と共に全員が各自の持ち場に向かい始める。

「戦闘ブリッジ開け!!それとペロー参事官とアズラエル氏に連絡を取れ!!」
「了解!!」

ズマは応答しながら下に降りていく。彼が私の視界から消えた直後に、私の椅子は動き出し戦闘ブリッジに滑り込んでいった。

 
 

※※※

艦隊は岸から離れて陣形を組む。中央に旗艦たるラー・カイラムを配したデルタ陣である。
その側を水上艦隊が慌ただしく迎撃陣形を組むために展開を始めている。その後方からアークエンジェルが現れた。そこへ通信回線が入ってきた。

「艦長!!アラスカ防衛艦隊旗艦アンカレッジより通信です。」
「メインパネルに繋げ。」
「ハルバートンです。このような状況です。戦闘開始後は共同で立ち向かっていただきたい。」

艦橋の乗員が私を見る。

「貴国とは同盟を結んでいるわけではない。ですからあなた方の指図は受け付けるつもりはありません。」

その言葉にハルバートンの表情が難しくなる。後ろで副官らしき人物が激昂している。副官らしき人物をなだめて彼は私に問う。

「ではどうされる?」
「現時点でザフトがどのようなルートから攻撃してくるのか不明瞭な以上、ある程度交戦して状況を把握し、そのうえで離脱するつもりです。
不意打ちで戦力を消耗するのもばかばかしいですから。もちろんこちらが派手に暴れ回ることで、貴軍の戦闘を妨害するつもりもない。ですから通信の共有は行いましょう。」
「・・・感謝する。」

通信が切れると、メランが噛みついてきた。

「艦長!!よろしいのですか!!」
「難しいところだが、連合軍まであえて敵にすることはない。後ろから砲撃を受けるのもばからしい。
それにザフトは我々を見逃してくれないだろう。いまだに外交ルートすら築けていないのだからな。」
「・・・やむを得ませんな。」

トゥースが消極的に支持をする。メランも渋々椅子に座り直した。

「艦長!!アズラエル氏とペロー参事官からです。」
「よし、先にペロー参事官に繋げろ。」
「いえ、参事官は電文です。アズラエル氏らと待避するので、すぐに同氏と共に連絡するとのことです。」
「わかった、アズラエル氏と回線繋げ!!」

画面にアズラエル氏とペロー参事官が現れる。どうやら既に移動中のようだ。そこにある疑いが芽生える。

「大変な事態となりました。連合軍はまんまとコーディネーターどものフェイントに乗せられたようです。」
「といいますと?」
「この事態ですからお話しましょう。連合はザフトの攻撃目標はパナマのマスドライバーと想定していまして、戦力の大半をパナマへと送っていたのです。
その隙を突いて総司令部を攻撃してくるとは・・・。」

その言葉を受けてもくすぶる疑惑を率直にぶつけることにした。

「アズラエルさん、率直に言って今回の事態は本当に想定外の事態なのですか?」
「なんですって?」アズラエル氏は聞き返してきた。
「ザフト側がこちらに攻め込んでくる時期を選んで我々を招待したのではないかと言うことです。そうであれば悪辣極まりない。」

両名共に心外そうな表情を見せる。ペロー氏が口火を切る。

「冗談ではない。攻撃直前にあなた方を呼び出してどのような利益があるのですか。
それにこちらの情報部が間抜けであったことをさらすようだが、こちらはパナマ攻撃を想定していた。貴艦隊を利用するなら、パナマで会談を開いている!!」さらにアズラエル氏が続ける。
「そうですな。それに攻撃がこれほど早くなったことも我々には想定外です。
私が本気であなた方を取り込みたいのはご存じでしょう。繰り返しますが、今日にこのような事態になるとは想定していませんでした。
私としても、ようやっと交渉をじっくりと始めるつもりだったのですから。」

確かにアズラエル氏は、一貫してこちらに対して不利益になるようなことを表向きはしていない。

「・・・失礼しました。」
「いや、あなた方の疑問は当然でしょう。全くコーディネーターどもは我々の間に築き上げたものを、ぶちこわすつもりなのかと文句を言ってやりたい気分です。ともかくご無事で、あなた方とはまだまだ議論をしたいと思っている。」
「わかりました。それはこちらもそうです。では緊急事態ですから、この辺りで失礼します。」
「ご無事で!!」ペロー参事官が会話を結ぶ。私は敬礼して通信を終える。直後オペレーターから報告が上がる。
「艦長、通信終了と同時にアズラエル氏から暗号電文が入りました。」
「内容は?」なぜ通信で伝えてこなかったのか。
「それが、かなりのプロテクトが施されていまして、すぐには解除できません。」
「わかった、情報参謀に回せ。」
「了解!!」
そう指示を出すと、通信の間に先任参謀が代わりにMS部隊の展開を指示していて、それが終わったことを報告してきた。
私は頷いて自分の意向を示す。

「よし、ともかく我々は最後まで付き合う必要はない。自衛のために戦うことに徹する!適当なところで離脱するぞ!!」
「「了解!!」」

そこにオペレーターが声を上げる。

「艦長!!一部の降下部隊は上空でHLVより離脱してきました。第1派の総数は30機以上!!来ます!!」
「なに!・・・その中で我々に向かってきそうなのはどのくらいだ!?」
「少なくとも10機近くがこちらへ滑空してきます!」
「全艦一斉射撃!!天から我々を襲うものを全て打ち落とせ!!!」

号令と共に艦隊の艦砲射撃が始める。連合軍も基地の防空システムが稼働し、ミサイルが次々と撃ち出されていく。防衛艦隊がまだ砲撃していないのは、ミサイルの節約であろう。ビームはもう少し引きつけるつもりか。

考えているうちに最初の攻撃がザフト軍に到達し、不運なMSが光の玉へと変化していく。

「艦長!!!ユーコン湾中央部に潜水艦艦隊が浮上しました!!MSを出してくる模様です!」
「全艦に警戒を喚起せよ!特に水陸両用機に警戒することをアラスカ艦隊伝えておけ!」
「了解!!」

同じ船乗りとしては、教えずに沈まれるのも寝覚めが悪い。

「司令、潜水艦隊後方!!ディンの大軍が来ました。総数40機以上!」
「南方より輸送機と思われる編隊が接近中!!」

「艦長!!本艦の位置からでも打ち落とせますが!!」

砲雷長の田所謙人少佐が意見具申してくる。確かに基地防衛に責任者であれば打ち落とさせるところだ。
けれども内陸から北上してきたと言うことは基地攻撃部隊であろうから、我々に脅威はないだろう。

「いや、そちらを攻撃するより降下部隊撃墜に全力を挙げてくれ。」
「はっ!!」

前方ではMS部隊がザフト軍の先陣と衝突している。

「甘い!!」

アムロとレーンの遊撃部隊は中央からレーンを急進させて間合いを詰め、敵陣が崩れたところに容赦なくアムロが狙いを定めて打ち落としていく。もちろんレーンも接近する際に牽制のメガ粒子砲を砲撃しながら、待避したところをライフルをもって射撃し打ち落としていく。この2人の恐ろしいところは将棋でいうところの次の一手が正確なのだ。さらにはディンというこれまで戦ってきたMSの性能を把握してきていることも大きい。

「さすがだな。」私が感嘆の声を上げると、メランも同意してくる。
「全くですね。これなら突破も容易になるでしょう。訓練の成果です。」作戦参謀と共に訓練計画をまとめ海上で実施させたメランは自信を深めていう。

「降下部隊第2派きます!!ですが連中はアラスカ艦隊の方へと向かうようです!!」

それはそうだろう。ザフト軍とて馬鹿ではないだろう。

「よし、各艦に命令!!ウェポンズ・フリー!!有効射程内で各個に対処することを許可する!!」
「了解!!各艦へ、ウェポンズ・フリー!!有効射程内で各個に対処せよ!!」
「前方より潜水艦隊から出撃した部隊の第2派がきます!!SFS に搭乗している部隊の模様です!!」
「直掩隊には味方の砲撃に気をつけさせろ!!」
「了解!!」

一方、アラスカ艦隊はMSの支援もなく苦戦しているようだ。そこへ報告が上がる。

「アラスカ艦隊所属、ダニロフ級ベーリング大破!!」
「同じく、ダニロフ級アウクラシア爆沈!!」

アラスカ守備側からは絶望的な報告が上がり始める。それというのも、第1派攻撃部隊が主に我々と交戦して形勢不利と考えたらしく、第2派の攻撃はアラスカ艦隊に重点を置いてきたからだ。

「支援はしなくてよろしいのですか。」トゥースが確認してくる。
「うん、同盟をしているわけでもないからな。そこまで面倒を見切れん。それに我々もそれほど友軍の支援をするほど余力があるわけでもない。」
「確かに。わかりました。」

メインパネルに映る全体の状況を確認すると、既に一部は上陸されているようだ。
特に先ほど見逃した輸送部隊から、ザウートとバクゥの混成部隊が南部からユナラクリート基地を攻撃し始めている。おそらく基地戦力では30分も持つまい。先ほどから近距離からの基地迎撃ミサイルも上がらなくなっている。

航空戦力も次々と撃墜され突破を許している。パナマに向かったという部隊や、近隣の戦力によって編成された救援が到着するまでに外に出ている部隊が保つとは思えないな。

こちらの迎撃は問題なく機能している。メランの言葉の通り、航海途中で行った訓練はアムロとレーンのコンビネーションを確実に高めている。今後の我が艦隊が攻撃する際には大黒柱になるだろう。仮にサイコミュ兵器も使用できれば、我々の世界においても強力な部隊になるな。
私がそう考えている間にアムロは既に6機目を撃墜している。こちらへの攻撃がアラスカ艦隊に比べて薄いとはいえ、ザフト側の戦力投入はかなりの規模で我々にも断続的に攻撃を行ってくる。
おそらく我々が他の部隊の支援に付くことを恐れているのだろう。またこちらに水陸両用機が攻撃に来ないこともありがたい。その代わりアラスカ艦隊が大苦戦を強いられているが。
ただアラスカ艦隊も水上艦隊の誇りを見せ、対潜機とは別に3機の水中機を撃破している。

ジェガン部隊はアムロ・レーンのコンビによってかき乱されたところへビームライフルを浴びせかける。統制がとれた動きで敵を次々と打ち落としていく。
そろそろ次の戦力投入があるだろう。戦局全体を見ると、善戦はしているが防衛線はすでに突破されていて、アラスカ基地メインゲートとおぼしき滝にとりつかれつつある。
第3派ないし予備戦力が投入されるなら、そろそろのはずだ。それに合わせて撤退すべきだな。この段階で追撃戦はあるまい。

「アークエンジェルに被弾!!カタパルト発進口損傷!!」

サブパネルにアークエンジェルが映る。右舷の発進口に大穴があいている。ラミアス艦長を援護してやりたいとも思うが、艦隊の被害が低い間に離脱するためにはかわいそうだがかまう余裕はない。

そこに被弾した戦闘機が着艦していく。アークエンジェルを前線での補給整備基地とするやり方は面白いな。
そのときの私にはそのようにしか感じていなかったが、この戦闘機の到着が、この戦いを次なる段階へと導くことになる。

 
 

第16話「天から来るもの」end.

「通常のザフト機より3倍の速度です!!」

 
 

第17話「降臨する翼と舞い降りた彗星」