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CCA-Seed_427◆ZSVROGNygE氏_20

Last-modified: 2009-10-12 (月) 18:00:31

失いし世界をもつ者たち

 

第20話「君主国の論理と大国の論理」

 

(前編) Edit

 

アラスカより帰還して1ヶ月の月日が流れた。我々は修理と部隊の再編、そしてコロニー譲渡問題に追われた日々を過ごしている。
基本的に我々はこの世界に対して積極的に関与することを是としていない。そのため世界情勢が激動化する一方で、我々は忙しくはあったが、命の危険を感じることなく過ごすことができた。

 

まず部隊の再編だが、主に行ったのは参入組の編成であった。
まず残留した連合軍将兵で帰国する艦艇に所属しながら残留した将兵や一部陸軍将兵は、アークエンジェルとユーコンの補充人員とした。
そのうえで参加将兵の階級調整を行ったのである。それというのも階級の均衡が悪い部分がいくつかあったからだ。
まずアラスカ防衛司令官のハルバートン少将には一階級降格の上で、ロンド・ベル副司令と水上艦隊司令を兼任してもらうことにした。
一部には私を少将に昇格させるべきだという意見もあったが、私自身の気持ちが前向きではなかったこともあり、とりあえず延期になった。
指揮官級で他に行った人事としては、マリュー・ラミアス艦長と正式にユーコン艦長に任命したピョートル・アレクセイエフ少佐を一階級昇格させ中佐とした。

 

ちなみにこの調整で最も階級の変化が著しかったのが、アークエンジェルである。
現地徴用兵であった学生たちは実戦経験に鑑み伍長に、現在リハビリ中のトール・ケーニヒはパイロットを今後も希望するということから、准尉に昇格させることにした。
但し、カズィ・バスカークは退役を希望したので、二等兵のまま退役という形という扱いになったが。

 

彼の退役申請に私は何も言わなかった。あの少年は戦場には向かない。同じ世代と一緒に学生生活を平凡に過ごしていいと思う。
もちろん退艦に辺りオーブ側の監視下に置かれることには辛抱して欲しい旨と、その監視には何も知らないと答えるようにも伝えた。
少年たちは互いの無事を話し合っていたようだった。この戦争が早く終わり、彼らが再び笑顔で出会える日が来ることを切に願う。

 

そしてアークエンジェルに所属していた従来の下士官組は、アーノルド・ノイマン曹長を特務中尉に昇格させ副長代行兼航海長を命じ、残りも少尉とした。
特務中尉は少佐相当の権限を付与させるが、艦内に限定させるための措置だ。
アークエンジェルはこれまでの経歴を踏まえると、新任の佐官クラスを重要ポストに付けるのは時期尚早と判断したのである。
コジロー・マードック軍曹も同様の事情から特務中尉に充てることにした。

 

アークエンジェルは兵器の移動も激しかった。ヤマト少尉はザフトから持ってきたMSフリーダムをそのまま運用することになり、フラガ少佐はオーブが回収して整備したストライクに乗ることになった。
加えてクワトロ大尉が乗るシャア専用ジンヘッドのドレッドノートが配備された。またパイロットは不在だがバスターとブリッツも修理されて配備された。ケーニヒ准尉にどちらかを乗せればいいのではないかと考えている。

 

彼らに支給する連邦軍の軍服を発注も行った。クワトロ大尉はパイロットが着込む軍服を赤く染めた特別製を着ることになった。さすがにノースリーブは年齢的にきついようだ。
私個人の意見としては17年前でも十分にギリギリだったと思うが。一部に不満は出たが、彼ならば仕方ないという空気もあったことは事実である。

 

「許したくないという気持ちがあります。彼はスペースノイドの希望でしたから。」

 

そう語ったのは、発注の見積もりを補給参謀たちとしている主計長のジョン・サマーン少佐だ。彼もまたエゥーゴ時代からの部下だ。クワトロ大尉に対して、いまだに憤りがあるという。
彼がシャアのスウィート・ウォーター演説に顔を紅潮させ激怒していたことを思い出す。一方で、もう1人のアーガマ時代を知る部下は複雑な表情を浮かべて語る。

 

「大尉のやったことは許せないけど、やっぱりこうして一緒にいると安心感みたいの、感じちゃうんですよ。」

 

そう話すのは航海長のロバート・シーサー少佐だ。トーレスとサエグサが軍に残らなかったこともあり、私にとっては古株の部下だ。サマーンに比べて若く、部下の人望も厚い。
メランや私たち幹部と乗員の橋渡しの役割を担ってくれている。また余談ではあるが、大尉はサングラスを街で購入し、オールバックにサングラスというどの方角の帝王かと疑いたくなる姿になった。

 

ともかく部隊の再編を終えた後に、もうひとつ重要な案件を処理した。亡命してきた将兵には、我々の世界に対する理解を深める作業である。情報参謀のコレマッタ少佐を講師として、宇宙世紀の歴史講義を実施させたのだ。
宇宙世紀の成立とその100年間にまつわる物語は参加者を時に驚愕させ、考え込ませたようだ。特に一年戦争で人類の半数が死滅したことと、現ロンド・ベルの中核メンバーである私やアムロの経歴に驚いていた。
そしてクワトロ大尉、すなわちシャア・アズナブルに対して、なぜ我々が複雑な感情を抱いているかも理解したようだ。キラなど少年たちは少し顔を青ざめてさえいた。
実のところ、シャア・アズナブルに関連した話題は、お茶を濁していいのではという意見があった。けれども、クワトロ大尉の希望で全面公開となったのである。
彼は後にしこりを残したくないと、ある意味で達観しているからこそ出る言葉だ。私は彼の意向を汲んで全てを開陳したのである。

 

歴史講義に関して余談めいた話になるが、キラとその友人たちに対して、私は時間のあるときに自ら講義を行った。
先日にキラに学べと話した以上は、自分にも責任が生じると考えたからだ。それに伝えるという行為は、自分がその事象を理解していなければできない行為である。
よってこの作業は己にとっても物事を学び直す機会となった。

 

「みんな、知識は力だ。知を軽んずるものは、己を確立することなどできない。」

 

私は自分が執務室に所蔵していた書籍から、我々にとって共通の歴史である21世紀の辺りまでの歴史を語った。
オリエントからローマといった古代世界の興亡や、西洋と東洋の展開、そして近代史と人類が宇宙へと向かう事情に至るまで、私は嬉々として講義したのである。
後に判明したことだが、私のこの「押しつけ癖」は部下たちを辟易させていたらしい。どうも私は好きな書籍を他人に勧めたり、話だしと延々と話したりする傾向が強い。
そのため部下たちは少年少女の犠牲を内心喜んでいたらしい(ちなみに最も喜んだのは副官のハムサット少佐だ)。全く心外な話だ。休憩中に3時間ほど語ったりする程度ではないか。

 

キラは、先にレーンらに言われたことを真摯に受け止め、横でいびきをかいたりするとトールにも気にせず、しっかりと学んでいった。
余談だが、いびきをかいた時のトールには『私は寝ていました』という看板を首から提げて、リハビリも兼ね、トイレ掃除を言い渡しておいた。
キラの質問に私が楽しんでいたことも、講義が長引く理由であった。たまにアムロやクワトロ大尉、レーン・エイム中尉など他のパイロットも冷やかしと好奇心のカクテル化した感情から来ていたが、トイレ掃除役が増える場合の方が多かった。
いずれにせよ私は公務の合間にこうした場を設けることに、喜びを感じ、心の安らぎすら持つようになったのである。ちなみに一番トイレ掃除が多かったのは、ケーニヒ准尉とスミス中尉、そしてキラたちを冷やかしに来たカガリ嬢だった。

 

ただトイレで後ろ指さされ組な面々で、一番学ぶ意欲があったのはカガリ嬢だ。彼女には宇宙世紀に関係ない時代の講義の際に参加を許可していたが、感情の動きが一番強いのは彼女だった。
ただその感情の動きの激しさが、エネルギー切れを起こしていたが。ちなみに私がカガリ君にトイレ掃除を命じるところを見たハムサット少佐は、私を諫めた上で念のため講義参加の是非も含めてオーブに問い合わせておくべきと主張した。
変な軋轢になったらかなわないということなのであろう。私は講義に熱中していたせいか、そちらに気が回らなかったので、副官に任せることにした。弁務官を通して確認したところ、ウズミ氏は罰則も含めて遠慮なくやってくれてかまわないと通達してきた。
その通達にメランとトゥースは驚いていた。対して私は驚きよりも、親としての懐深さに敬意を覚えた。自分自身を顧みる形にさせられる。親として私はハサに何をしてやれただろうかと。

 

※※※

 

我々がこの世界に来てから最も穏やかな時を過ごしている間、世界情勢はさながら嵐のようであった。マルキオ導師の単独和平活動に対して、過剰とも思える反応をしたのが既存の宗教界だ。

 

「我々宗教界はマルキオ導師が平和を望む姿勢を尊敬するも、連合政府の外交特権を付与された形でプラントへ訪問することを支持することはできない。また彼の見解はあくまでも推論であって、預言とは認められない。神学的な問題でなく宗教論であるとは言い難い。」

 

コンスタンティノープルで開催された宗教会議での冒頭にて、マリオ・ヴェロネーゼ主席枢機卿が代表して発信した。平和活動は否定しないが、宗教家としては認めないという姿勢を打ち出したのだ。
宗教家としての権威を地に落とそうという意図であろう。おそらくテレビの隅にアズラエル氏が映るのを確認して、この件は彼の工作した結果であることを推測させた。

 

それにしてもイスラーム各派とキリスト各派が良くも統一見解を出せるものだ。同じ敵には結束するとはよくいったものだ。アムロによると、私は映像に皮肉な視線を投げかけていたらしい。
それにしてもキリスト教各派からローマ教皇ウルバヌス9世にカンタベリー大司教ピーター・アシャートン、コンスタンティノープル総主教ゲルマノス7世が並んで座る様を見ることになるとはな。
さらにそこに国際ウラマー連盟会長アフメド・ジャーニーとシーア派最高指導者アブドーラ・ハルドゥーンが並んでいる様は、その筋の人が見たら卒倒しそうな面々が並んで座っていることには驚きも感じていた。
よくもこの肩書きを持つ一同が集合して話し合いで済むもんだと関心すら覚える。

 

さらに会議ではコーディネーターを生み出すことは神の意志に反することであるとしながらも、既に生まれている存在には生きていくべき定めが与えられているとも発信していた。
私はそのことにアズラエル氏が工作した結果にしては、穏やかであることに疑問を覚えたが、このときの疑問が解消されることになるのは、後になってからである。

 

そしてパナマ陥落から8日後、連合議会にて連合事務総長ウィレム・オルバーニの不信任動議が可決された。
アラスカとパナマの陥落と独断での和平交渉の失敗の責任を追及されたのである。
ところが、後任の事務総長に大西洋連邦の大統領が現職のままで就任することになって、連合議会は大混乱に陥った。
そもそもこんな事態になったかといえば、議会が人口構成を基準に分配されていたこと。
もうひとつの理由に成立して間もない連合事務総長の就任条件に関する項目が、事実上の白紙であったことに起因する。

 

まずジブリールらブルーコスモス急進派が、工作を行い東アジア共和国選出の議員に大量の実弾と説得を行ったのである。
一方で漸進派のアズラエルは同じく東アジア共和国とユーラシア連邦、さらには本来政敵であった大西洋連邦の穏健派に工作を行った。
けれども大西洋連邦大統領の対立候補であるランズダウン侯爵が18世紀に首相を排出したこともあるほどの超名門貴族であったことが災いして、大票田のアジア圏で支持が集まらなかった。
最もこれには実弾の影響も大きいらしい。

 

大西洋連邦大統領のアダム・コートリッジは戦時の指導者としての手腕が評価された。MS開発に対する積極性と、開戦時より一貫してぶれていない対強硬論などが安定的であると判断されたのだ。
さらに演説によって戦争1年目の劣勢こそ今時大戦で苦戦している原因であると主張し、本来は大西洋連邦国防相が負うべき敗北の責任までユーラシアになすりつけることにも成功したのである。

 

その経緯と選挙結果にユーラシアは猛反発し、ユーラシア連邦選出の全連合議会議員を召喚する事態となった。
また東アジア共和国でも、今回の工作にかねてから抱かれていた旧日本と朝鮮半島地域で旧中国の圧倒的な人口優位に対する議員の分配格差に対する不満が噴出し、国内は騒然となり分裂の危機を迎えている。

 

このような状況下でコートリッジは連合事務総長に就任した。所信演説で彼は地球連合の発展と中立国への連合参加を強く要請した。

 

「敬愛すべき連合議会の同胞諸君!!我々はこれ以上、プラント政府の横暴を許容することはできない!!彼らは言う!独立をよこせと!!ならばなぜ外交努力せずにコペルニクスでテロ行為に走ったのか!!
彼らは言う!!血のヴァレンタインの悲劇があったからだと!!エイプリルフール・クライシスで何億人が死んだと思っている!!しかも中立国の人民も多く亡くなっていることを忘れてはならない!!
彼らは自衛戦争というが、今時大戦は中立国にすら甚大な戦災がもたらされたことに目をそらしているのだ!そのような国家に正義はない!!地球連合政府は残余の国力を持ってプラント政府に対して、今時大戦の戦災に対する責任を追求する!!
そして中立国の諸国に対して呼びかけたい!!同じ大地に生きるものとして、連合に参加し私たちに協力して欲しい!!地球連合がひとつになれば、我々はかつて先人たちが夢見た地球圏統一国家が実現するのだ!!
これ以上戦争が続くことは戦後の人類社会に残しようがない傷を残すことになる。同調されない国家群は混乱を助長するものとして、地球連合政府の敵対国と見なす!!」

 

どよめく議会に対して、私は大国の論理を垣間見ていた。事実上世界最大の権力と軍事力を保有する人物が、世界統一を語り協力を強要するのだ。しかも民主的なプロセスを経ている分たちが悪い。
いずれにせよ、この一連の国際情勢の帰結としてオーブは最終的な圧力に晒されることになったのである。

 

※※※

 

画面には辞任したランズダウン侯に代わり、大西洋連邦の外相のまま連合外相に就任した、クロード・ヴェイルが声明を発表している。

 

「連合政府は地球連合議会の総意を持って、オーブ連合首長国に要求する。オーブ政府の地球連合加盟とオーブ保有戦力の連合軍への参加、マスドライバーの連合への譲渡を求める。
もちろん我々はオーブ政府に対して敵対することを希望するものではない。またオーブが有する価値観や文化、理念を踏みにじるものでもない。
我々の目的とするところは、ただ今時大戦を速やかなる収拾を希求するのみである。しかしながら、要求が容れられないということであれば、それは国際秩序への挑戦である。
さらに言えば自国の安寧に興ずる国家に人類の共有財産であるマスドライバーを保有する資格はない。
6月12日までに返答がない場合は連合軍が持つ太平洋戦力の総力を持って、オーブの保有するマスドライバーを確保するものである。」

 

我々が連合の新政権がオーブ政府に対して、明確な圧力を掛けた放送で見ることになったのは、既に何十回も行っていたコロニー譲渡の件を議論していたときである。
最後通告とも言うべきこの連合の通告に対して、コンタリーニ艦長はこれを利用すべしと主張した。

 

「これは・・・この件を利用してどさくさにコロニーを確保できないか?オーブ側がこの通告を受諾するとは思えん。
だから連合の武力行使直前にオーブの要求を受諾し、連合の攻撃前に宇宙へ上がってコロニーを確保すればいい。奪ってしまえばオーブは連合の対応でこちらに手を出せまい。」
「それはいくらなんでも信義に反するのではありませんか。それに軍事上の条約を締結している以上は、対連合軍に対する戦列に参加することは要求してくると思いますが。」

 

とマリュー・ラミアス艦長が反論する。アムロが続ける。

 

「ラミアス艦長の言うとおりだ。コンタリーニ艦長の意図はわかる。けれどもひとつ間違えるとコロニーを確保する前に、オーブが連合と手を組んでこちらに向かってくるかもしれない。博打めいた策はしない方がいい。」
「ふーむ、そうだな。安全策は採ってしかるべきだろうな。」

 

この問題について会議はハルバートン提督が主張する提案受諾派と、レディング艦長が主張する受け入れ拒否派の論争が延々繰り返されて来た。
私はどちらかと言えば受諾に心が傾いている。ヘリオポリスはデータを見る限りは資源衛星と工業施設が完備されたコロニーだという。
特にラミアス中佐が、アークエンジェルやストライクを製造したヘリオポリスの工業力を力説したことで大きく傾いている。

 

一方で受諾拒否派の意見も十分に首肯できる。施設が完備されていても人がいないのでは意味がない。また対外的にオーブの属国と見なされる。
この世界に永遠にいるわけではない。実のところ、画面の連合の通告が現れるまで、ある程度のすりあわせは行われてきている。
条件付きの受諾をという雰囲気にはなっている。たとえばミノフスキー関連技術のように存在を知られていない技術は知らせない措置を執るなどだ。
だが拒否派が当初述べていた意見は、私も含めて考えさせられる意見だった。

 

「永遠にこの世界にいるのか。」

 

この意見は異邦人の間で複雑な感情を残し、それが単純に受諾を支持できない雰囲気もたらしていたのである。

 

「みんな、そろそろ意見をまとめたいと思う。条件付き受諾という形を採用するという形でいいだろうか。向こうは難色を示すだろうが、外交交渉である以上は向こうとて妥協点はあるだろう。それを探していく方針でいいだろうか。」

 

一同は一様に頷く。ただレディングが懸念を示す。

 

「司令、ですが我々は統一見解を出すのに時間を掛けすぎたのかもしれません。連合の攻撃までに話がまとまるでしょうか。」
「そこは我々の軍事協力をちらつかせればいい。オーブだって我々の戦力を当てにしているはずだ。」

 

ハルバートン准将がレディング艦長に答える。この1ヶ月というもの彼と中佐が最も議論を交わした間柄である。彼らの議論は艦隊にとって有益なものであったことは確かだ。私にはそれが頼もしく思えたのである。

 

(後編) Edit

※※※

 

会議の終了後に我々は駐在オーブ高等弁務官メインザー中佐から意外な報告を受けることになった。
プラント政府の駐オーブ大使がようやく着任し、その大使がメインザー中佐の会談要請を受け入れたのである。
この情勢下によくも派遣してくる。ともかく翌日さっそく会談することになり、例によってラー・カイラム前の桟橋で行われた。
壮年だが美麗な表情は大使がコーディネーターであることを物語っている。

 

「初めましてプラント政府全権大使のユリウス・ハーネンフースです。」
「こちらこそ、ロンド・ベル司令のブライト・ノアです。ようやく貴国と会談の席が持てたこと、うれしく思います。」
「こちらこそ、我が国の事情で大使未着任のために貴国には誤解もあったのではないかと心配していました。」

 

誠実そうな人物に見えるが、パトリック・ザラ政権の指名した大使であることは踏まえなければならない。
そういった表情を見透かされたのか、大使は人なつこい笑みを浮かべて穏やかに指摘する。

 

「司令は我が政府の姿勢から、私を警戒されているようだ。」

 

私は一瞬目を見開き、そして苦笑してしまった。アムロがそれを見て同じく苦笑する。

 

「いや、失礼しました。」
「懸念されるのも当然です。それに我が国と貴国との間では不幸な誤解が重なっている。警戒されるのは当然と思います。」

 

我々がこの世界に転移して以来、一貫して敵対し続けたことは不幸な巡り合わせであった。少なくともガダルカナル島の戦い以外は我々としても不本意な行動であった。
私は大使に改めて転移した事情を話すことになった。大使は話を聞いたうえで、今後両国が越えるべき問題を指摘した。

 

いわゆる賠償と謝罪の提示をして欲しいというのが本国の意向であるそうだ。ところがそう話す大使にはそれほど熱心ではないように見える。
大使は現状のプラント政府の立場を我々に開陳した。

 
 

基本的にプラント現政権は我々ロンド・ベルに対して懐疑的であり、連合軍の部隊と見なしてきていた。
ようやく方針に変更が見られたのはアラスカの件で連合とは別行動を取ったからだという。
そうした状況下で今回ロンド・ベルに接触するべきことを強く主張したのは外務委員長アイリーン・カナーバだ。
彼女がそういった主張をすることにそれほど違和感は覚えなかった。彼女はキラとクワトロ大尉のおかげで、我々の実情を正確に理解しているだろうことを推測できるからだ。
同氏はクライン政権においても戦争拡大に必死に抵抗した人物だという。彼女とのパイプは作っておきたい。
目の前の人物がこうして話すのは、カナーバの派閥に属しているからなのだろうか。慎重に見極めなければならない。私はともかく公式な要求に関しては拒絶する形で様子を見る。

 

「なるほど、意図することは理解します。けれども現時点ではどちらも我が国はそれを行うつもりはありません。」
「残念ですな。」
「ですが、かつて会見でも公式に発信しましたがプラント政府と積極的に敵対したいと考えていません。」
「とりあえずは了承しましょう。ですが、本国は失望されることはご留意していただきたい。」

 

大使も我々を見極めようとしているのだろう。彼はもうひとつの問題に触れてきた。

 

「さて次の問題に移りましょう。貴国が救助したニコル・アマルフィとディアッカ・エルスマンに関しては事実関係の確認の上で返答する形でいいだろうか。」
「と、いいますと?」
「DNA鑑定等を実施して本人確認をしたい。そのうえで返答せねば、本国のご家族に安易な期待をさせるわけには行きますまい。」
「わかりました。我々もこの件に関してはいらぬ誤解を与えることは本意ではない。心行くまで確認してもらいたいと思う。」
「感謝します。」

 

私は大使の言い方に少し違和感を覚えた。DNA鑑定など、する気があるなら明日にでも終わるはずだ。
遺伝子に対してそれなりの技術はあろうに、なぜ時間がかかるような言いぐさなのか。その後、ニコル君たちについていくつかの確認をした上で、会談の終わりに大使は話を切り出した。

 

「さて、最後に要請しておきたいことがあります。」

 

いよいよ本題か。私は警戒する。

 

「率直に申し上げる。おそらく現状の情勢がこのままの形で進めば、遠からずオーブは戦場になります。」
「それで?」
「そこでオーブが陥落した場合は、私も含めた駐在職員が貴国に避難することを受け入れていただけないだろうか。」

 

ロンド・ベル側がざわめく、私も含めて予想していなかったからだ。

 

「なぜそのようなことを?あなた方は外交特権がある。生命等の保証はされているはずだが。」

 

コンラッド・モリス中佐が基本的な事実を指摘する。

 

「貴国もアラスカの件をご存じかと思う。今時大戦は既に理性的な行動を求める段階では無いと考えるからです。」
「それは貴国がパナマで行った残虐行為も該当すると思うが。」

 

モリス中佐が追求する。彼は正義感の強い男だ。降伏を希望した兵士を一方的に虐殺したという、報道にあるような出来事があったのであれば容認できないだろう。

 

「一部の部隊が暴走したことに関しては現在調査中で、コメントする立場にはありません。だが、戦場では理性的な行動が取られないことは起こりえます。
ブルーコスモスに属する兵士が連合軍にいないと想定するほど、私は楽観論者ではない。部下の安全を確保する必要がある。」
「なるほど。」

 

私は思案する。なるほどこちらの返還に応じないのは、少年たちを足かせにさせる気か。ようは我々に保険を掛ける気だろう。賢しいな。
だがプラントとパイプは作っておきたい。ハーネンフース大使は少なくとも対話はできるようだから、彼と良好な関係を築くべきだ。おかしな強硬論者が来るよりかはマシというものだろう。

 

「わかりました。その密約を受け入れましょう。付いては開戦後の貴方方の行動について確認しておきたい。」

 

こうして我々はプラント政府関係者との初会談で密約をすることになったのである。

 
 

オーブ政府とコロニー譲渡案件に関して、交渉の席を設けたのは6月6日である。
オーブ側は代表に再任することになったウズミ・ナラ・アスハが座る。他にはユウナ・ロマがいたが、ロンド・ミナが不在だった。
彼女はこれまでも欠席することが幾度かあったので、それほど気にならなかった。我々が条件付きの技術供与を示唆すると、ウズミ氏は特に不満を見せず、先の事実を指摘した。

 

「私は全てが前提であるといったはずだが。」
「閣下、交渉ごとで一方の要求のみが受け入れられると思わないでいただきたい。」
「条件が破格であることは留意しているかと思うが。」

 

対してハルバートン提督が発言する。

 

「我々にとって、技術力は独立を維持するために不可欠な要素です。慎重になるのは当然のことだ。」
「そうはおっしゃるが、我々も施設も整ったコロニー一基を譲渡するのだ。その見返りに見合う対価だと考えるが。なにしろ君たちに住むべき大地を用意するのだからね。」

 

その後はしばらく原則論の応酬が続いた。この辺りは外交交渉のお決まりといってよかろう。私はその応酬を聞きながら、オーブ側で原則論を展開するユウナ・ロマに目をやる。
先日のパーティーでウズミ氏とは異なる独自の意見を開陳したことを思い出す。彼はこの件に反対であることをおくびにも出していない。処世術にも長けているようだ。単純に主導権争いに敗れただけかもしれないが。

 

目の前で原則論を展開するハルバートン提督には申し訳ないとも思う。彼にはある意味で原則論の応酬役を任せたきらいがある。
おかげで私は観察し、思考に浸ることができるというものだ。そこへ会議の場で初めてクワトロ大尉が発言した。

 

「重要な問題を確認したい。現状の情勢では、数日中に連合に対する解答をしなければならないでしょう。
そこで連合に参加する場合はデータを連合に引き渡すのか。また非礼を承知で指摘するが、万が一連合軍にオーブが占領される事態になった際に、データの扱いはどうなるのか。
さらには事態の趨勢如何で、譲渡案件は反故になるのだろうか。」

 

いいアシストだ。ハルバートン提督とクワトロ大尉の加入は交渉の席に深みが増したと思う。私自身も安心感が湧く。カガリ・ユラが激発しそうになるのを、ユウナ・ロマが押さえる。しばらくの沈黙の後でウズミ代表が口を開く。

 

「貴艦隊がそれを恐れるのは当然でしょうな。データに関しては連合に渡る前に消去することを約束しましょう。また連合軍の攻撃前に交渉が妥結した場合は、法的に反故になる事はありません。」
「それを聞いて安心した、と申し上げておきましょう。艦長。」

 

クワトロ大尉の言葉に私は頷く。データ消去等頭から信じていないが、譲渡案が反故にされたら目も当てられない。

 

「そうだな。閣下、我々としては技術の提供はこの情勢下に即座に行うことに躊躇しています。」

 

ウズミ代表は姿勢を崩さず聞いている。

 

「この情勢下です。安易な提供が無用の混乱を招くことは十分にあり得ます。
ですから譲渡の条約文面を『段階的な技術提供』に変更していただきたい。
さしあたり我々はいくつかの技術供与を行っている。妥結の段階で新たな技術提供を提示しましょう。」

 

そこへユウナ・ロマが確認する。

 

「文面については意図しておっしゃるのか、一応であるが確認したい。『段階的な技術提供』ではなく、『段階的な全ての技術提供』への変更でよろしいか。」

 

当然だろうな。だがこう言っては悪いがオーブが占領されれば、そうそう提供など求めることはできまい。

 

「もちろんです。どうでしょうか。閣下?」

 

代表はしばし目をつむった後に、頷き答える。

 

「・・・わかりました。基本的には了解しました。念のため文面を細部まで確認することも必要でしょうから、修正案を夜に送付します。その検討の上で締結は明日にしましょう。」
「全く問題ありません。こちらも明日までに提供技術について検討します。少なくとも前金に相応しいものは出さねばならないと思いますから。」

 

こうして交渉は双方の妥協によって合意に至った。会談は連合政府に対する対応に移った。ピレンヌ艦長が指摘する。

 

「それでどうされるつもりですかな。連合の要求は実のところ、それほど問題があるように見えませんが。」
「そうかな。マスドライバーを連合に供与することは、プラント政府の標的になると言うことだ。先のパナマやヴィクトリアの事例を見る限り、我が国土に甚大な被害を与えかねない。」

 

それはわかる。

 

「しかし連合政府を拒絶するからといって、プラントと協定を結ぶ気はないのでしょう?」
「無論だ。それでは数日も待たずに連合の攻撃を受ける。」

 

だが、プラントの政府の支援もなしにどうするつもりなのだ。まさか我々をあてにしてもらっているなら、過大評価もいいところだ。ハルバートン准将が発言する。

 

「閣下、現実問題としてオーブ軍の戦力は確かに連合軍とある程度は戦えるでしょう。さらにはロンド・ベルもいる。
ですが戦力の絶対数が違いすぎる。防衛戦である以上、防衛設備に戦力をプラスすることは可能であろうが、それでも敗戦は免れない。」

 

ウズミ代表は答える。

 

「現時点ではユーラシアや東アジアをこちら側に引き込むべく、外交努力を続けている。連合政府の強攻策は、既に各地で軋轢を生じている。
そこに付け入り、議会に撤兵案を飲ませる。特に東アジアの現首相川崎裕次郎は日本出身だ。味方に成り得る。」

 

やや机上の策に聞こえてくる。前政権ならまだしも現政権を選出した連合議会がそう簡単に撤兵案を可決するとは思えないな。
それに国家主席の劉慶は華人だぞ。それにユーラシアも東アジアも自国のゴタゴタで他国に介入する気などあるのだろうか。もうひとつ疑問がある。

 

「閣下はお話を聞く限り、連合政府の提案を拒絶するようお見受けする。」
「その通りだ。世界を単純な2項対立に導くやり方には断固として屈しない。」
「ですが貴国は中立を維持するには力が大きすぎたのではないでしょうか。少なくともマスドライバーの存在が、立場を鮮明にしなければならない事態に向かっている。」

 

かつてのスイス連邦のような、周辺国の思惑等が絡み合う状況でなければ、本来中立など維持できない。かつての大戦で蹂躙されたベネルクス諸国がいい例だ。

 

「2項対立だけではない、このままでは人種戦争に歯止めがきかなくなる。ここで違う道を主張しなければならないのだ。」
「おっしゃることはわかるが、それは理想です。理想だけで民衆は支持してくれると本気で思っているのですか?」
「民衆の支持は問題ではない。我が国はハウメアの加護によって守られた首長が統治する国家である。
ハウメアの正義に反する事を王族がなしてはならないのだ。無論臣民を徒に戦 火に焼くことも正義に反する。だからこそ連合の撤兵まで攻撃を支えるために最善を尽くす。」

 

この言葉にロンド・ベル側は唖然とする。だが私はというと、驚きよりもこの国が君主国であることを改めて感じさせられ、むしろある種の関心さえ覚えた。
代表自身は無自覚であろう。君主国の論理を垣間見る。この理想に対する超然さは、民主主義国家の政治家では出せない。
近代国家の存在意義である、国民の財産と生命の安全よりも理想が前に来るのか。もちろんウズミ氏は彼なりの目算はあるのだろう。
だが私は彼もまた大衆を理解していないことを理解した。

 
 

※※※

 

ラー・カイラムに戻り、我々は最終的な合意文書の検討と提供技術についての検討会議を行った。
その会議の後で休憩もかねてアムロと士官食堂へと向かう途中、クワトロ大尉とキラ、いつの間にか乗艦しているカガリ嬢が話している場面に遭遇した。私とアムロは何事かと顔を合わせる。

 

「ウズミさんのやり方は一番大変だと思いますけど、正しいと思います。」
「そうかな?民衆の支持がない行為にどれだけ意味があるかは疑問だな。」

 

私とアムロは複雑な表情で話を立ち聞きする形になった。

 

「でも!お父様はこの世界のことを真剣に考えている!」
「2人ともブライトの講義は聴いただろう?だから考えて欲しい。かつてはともかく、現代の国家は何のためにあるのかと言うことだ。
そこに住む人々のためなのだ。世界の全体を考える前にな。もちろんそういった自国の利益のみに走るエゴが、悲劇を生み出すことに繋がるから、代表の考えを一方的に断ずるつもりはない。
だが私がかつて行ったことを思い出してみるがいい。私はスペースノイドの支持があったからこそ、それを為すことができた。確かにこの国は、その支持を必要としなくても制度上機能する国家だ。
だが下地となる人民の協力なくして目的を果たせるだろうか。」

 

カガリ嬢は父親の理想を否定されたようで悔しかったのだろうか。うつむき沈んだまま私に向かって来てぶつかった。

 

「あっ」

 

カガリ嬢は一瞬逡巡する表情を見せたが、何も言わずに去っていった。クワトロ大尉がこちらに気付く。

 

「ブライト艦長、あまり見られたくはないものを見られてしまったな。」

 

私は首を振り近づく。

 

「いや、大切なことだ。そしてそれは我々にも跳ね返る言葉だ。」

 

現状のところ将兵は支持してくれているが、いつ望郷の念におそわれるか。私は話を切り替えた。

 

「大尉、それに昼間はいいアシストだった。感謝する。」
「何、無駄飯食いと皆に後ろ指を指されたくない。役に立つところでは貢献したいと思う。」

 

アムロは硬い表情で沈黙を守る。

 

「それでどうかな。大尉の視点でこの状況をどう考える。」
「おそらく戦いは避けられまい。そして戦火がオーブを焼くことになるだろう。」

 

これはクワトロ大尉でなくとも誰もが思うところだ。

 

「そうだろうな。それで落としどころはあると思うか。」
「艦長はどう思う?」

 

カガリ嬢もいなかったが、私は慎重に言葉を紡いだ。

 

「私は現状ではオーブの主張が連合に受け入れられる余地は少ないと思う。
考えられる最善の解決は、戦端を開いて連合軍にある程度の損害を与える。
その上で軍隊の連合参加を行わないが、マスドライバーの使用許可を与えることを条件に和平交渉をすることだ。だが。」

 

私の言葉に大尉が続ける。

 

「おそらくウズミ代表は容認しないだろうな。」
「そうだ。だから状況がこのままいけば・・・」
「ギリギリまで戦ったうえで無条件降伏だろう。」
「もちろん損害が想定よりも悪化して連合側が撤兵する可能性は確かにある。」
「しかしたかが島国の軍隊が仮にも地球圏の統一国家を標榜する軍隊を撃破でもしたら、オーブを危険視する国家は増加してかえって事態は悪化する。
所詮戦争などというものは、実際に戦う前にある程度趨勢は決まっているものだ。」

 

オーブ政府の命運は決まりつつあるということだ。クワトロ大尉が続ける。

 

「艦長、我々も選ばねばなるまい。」

 

これまで沈黙を守ってきたアムロが答える。

 

「俺たちは適当なところで離脱する必要があるというわけか。」
「そうだ。」

 

私も内心で思っていたが、どのタイミングで言うべきか考えあぐね、先の会議では話題に出さなかった。クワトロ大尉の言葉にキラが口を挟む。

 

「でもそれじゃあオーブはどうするんです!見捨てるんですか!?」
「我々はオーブの国民ではないし、利害関係からここにいるだけに過ぎない。冷酷なようだが、そこまでする義理は我々にはない。」
「そんな!」
「それが生きていくということだ。ブライト艦長は部下に対して責任がある。艦長の目的とウズミ代表の目的は自ずと違うのだ。」

 

キラは食い下がる。そのまっすぐな瞳で大尉のサングラスを見ながら。

 

「じゃあ、万が一のことがあったとき、オーブの人たちが大変な目に遭うことをわかっていながら、逃げなくてはいけないんですか!」
「個人の友情を国家のレヴェルを同列にしてはいけない。君の思いはわかる。
だが我々はできることをその範囲で行動するしかないのだ。艦長この件は締結の段階で通達した方が波風は立たないと思うが。」
「そうだな。」
「・・・。」

 

沈黙するキラにアムロが声を掛ける。

 

「キラ、その感情は君にとって戦う理由になるかもしれない。」
「アムロさん・・・。」
「君は今、国家や一方的なエゴに対して怒りを感じている。戦争はそういったエゴや感情のぶつかり合いでもある。
それに対してどうにかしたいという気持ちは、今後戦っていく上で君の軸になるだろう。だが今回の件でおまえの気持ちが生かせる機会は、残念ながら少ない。」

 

キラが心持ち弱々しい表情を見せる。私はキラの肩に手を置く。

 

「そうだな。キラ、残念だが今回の件はウズミ氏が、考えを変えない限りもはやどうにもならん。
連合に協力する上で自身の意見を展開するやり方とてあったはずだが、彼はそれを選ばなかった。それもひとつの決断なのだ。
それに我々もさっさと逃げるわけではない。できることはするのだ。やれることをやるしかないだろう。」
「ブライトさん・・・」

 

キラはうつむく。キラは国家なり集団なりが直面する現実に初めて直面したのだろう。私はアムロに目をやると、彼は頷いてキラの隣に座りフォローする。
10代の少年には思い現実かもしれない。そう思うと彼も退艦したカズイ君同様に、本来は戦うことには不向きなのだろう。そう思うと彼には気の毒だと思う。
沈む彼が心配ではあったが、とりあえず至急話し合わなければならない用件ができた。

 

「大尉、逃げ出すタイミングについて話し合うことにしよう。」
「そうだな。」

 

私はキラのフォローをアムロに任せて、帰還した幹部と打ち合わせるためにクワトロ大尉と共に艦橋へ向かったのである。

 
 

※※※

 

翌日のコロニー譲渡条約は無事に締結された。この書類にサインしたことで、我々は帰るべき場所を確保したのである。
艦長会議の結果、動力系は危険すぎることから、装甲技術としてガンダリウムγを供与することになった。
またウズミ代表には万が一オーブが陥落した場合は、ヘリオポリスへ離脱する旨を通達した。代表は何も言わずに頷いた。

 

会談後に我々はカガリ・ユラ、驚いたことに彼女も軍の将官らしい、彼女の案内でオーブ軍軍令本部に入り迎撃作戦を協議する。
オーブ軍令本部総長バルトロメウ・ハシモト大将は、冒頭にキルケー部隊にMSを供与することを通達してきた。
今は1人でも優秀なパイロットが欲しいからだそうだ。付随してオーブ製のSFSも供与された。多少の航続距離は減少しているが、基本的に我々の下駄のコピーだから性能的には申し分ない。

 

ちなみにM1の支給に対して、キルケー部隊のテンションが上がったらしい。

 

「異世界でガンダム・タイプに乗れるとは思わなかった」

 

そう話すのはキルケー部隊のハンス・エイレン少尉だ。このテンションの昂揚ぶりに周囲は驚いていた。
その件について、ウエスト大尉と同じリゼル小隊の小隊長ダニエル・タイラント大尉は苦笑気味に話す。

 

「あいつらガンダム面でテンション挙がるんだから現金なもんだぜ。」

 

かつてはZプラスに乗り、ムーン・クライシスで活躍したこのパイロットは、ガンダムヘッドには特別な感慨がやはりあると話してくれた。
それについては私もそう思う。特にキルケー部隊は、最新鋭のガンダム・タイプがいたのだから。

 

布陣については島を囲むように艦隊を展開し、直掩に航空機とSFSないしフライトユニット搭載のM1を配備する。そして陸上に支援砲火のため火砲を並べ、最終防衛戦とする。堅実な作戦案だ。

 

そして先日の提案から、制作されたMA水中用ミストラルの運用についても話し合われた。
性能について整備班長のピート・シェリトン少佐は一応の太鼓判を押してくれた。彼は元ティターンズの実験部隊に所属しており、その腕は信頼できる。余談だが将兵からはとっつぁんと親しまれている。

 

「ようは艦長の想定の通りで、フィッシュ・アイと考えてくれればいい。まぁカニみたいな手はないがな。
水の中にボールとオッゴを足して2で割ったMAを水の中に沈めたと考えてくれればいい。機動性は悪くない。」

 

先日の試作品のチェックをしている時、彼はニカッと笑ってみせた。

 

ハシモト大将との協議で、ミストラル改は海底に待機し、陸上戦力の上陸に対する妨害と艦隊への直接攻撃を担う事になった。諸島周辺の海底図面で配置場所を検討する。

 

またロンド・ベルは協定により、オーブ軍の指揮系統には入らないので、戦闘開始後の行動について打ち合わせが行われた。
ロンド・ベルはオノゴロ島の港湾施設防衛を担当する。
そして我々の撤退判断としては、ヤラファト島の首都周辺に上陸を許し、制圧された場合は戦線崩壊と見なし離脱するということも確認した。

 

ウズミ・ナラ・アスハが国民に対してこれまでの経緯と非常事態宣言を発表したのは6月の9日である。国民は驚きと不安を覚えたようであるが、とりあえずは粛々とシェルターや山間部への避難を始めた。

 

連合軍から通告が来たのは、その期限直前である6月11日であった。一般に対しても公開されていたので、我々も見ることができた。
画面には意外な人物が写っていた。ロード・ジブリール氏である。通告自体は南太平洋艦隊司令官ジョン・ダーレス少将と同艦隊参謀長キム・ギブン准将が行っている。
先の通告と特段変わらないものであったから、内容には関心がなかった。けれどもジブリール氏が前面に出ているということは、ブルーコスモスの現状は急進派が優位であることを示唆している。
元々過激な考えの方に傾きやすいのだろうが、今後の悩みの種が増えたことにため息を吐かざるを得ない。

 

少なくとも、ブルーコスモスルートで調停は難しいか。我々の方でも、ペロー参事官とユーラシアのブリアン中佐に要請はしたが、即効性があるとは思えない。
私はいよいよ覚悟を決めたのである。

 

※※※

 

各部隊の展開が完了して夜が明けた。6月12日である。我が艦隊はオノゴロ島の港湾施設前面に展開している。
既に戦闘ブリッジに入って、その時を待つ。少しでも時間を稼ぐために、最後通告に対する返答は5分前に行われた。

 

「まもなくですな。」

 

メランが私に顔を向け話しかける。私は頷く。そして時計が期限時刻を指す。

 

「艦長、前面に展開する艦隊からミサイルが発射されました!!」
「あまり時間稼ぎにはなりませんでしたな。」

 

トゥースが皮肉気にコメントする。私は少しほほを緩める程度にし、命令を発する。

 

「迎撃開始!!」

 

こうしてオーブ防衛戦は幕を開けたのである。

 

第20話「君主国の論理と大国の論理」end.

 

次回予告

 

「俺は真実を知りたいんだ!」

 

第21話「真実と正義を求める少年」