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CCA-Seed_427◆ZSVROGNygE氏_29-3

Last-modified: 2010-04-26 (月) 01:24:22
 

失いし世界をもつものたち
第29話「ロンデニオン共和国」(後編)

 
 

 既に、ここ数日の間でダービー伯爵との事前折衝は行われており、拡大ユーラシア(E.F.F.)には参加しない形で対等な軍事同盟並びに通商協定を締結することには合意がなされていた。

 

 軍事同盟の中身は、いくつかの要素からなる。
 アルテミス要塞とロンデニオンが存在するL3周辺宙域での行動に関しては、アルテミス要塞の戦力と共に共同に治安維持を行うことで合意した。その場合はアルテミス要塞司令官兼駐留艦隊司令のアレクサンドル・ロサコフ中将と同格となる。指揮系統が混乱する危険性は内包されるが、ロンデニオン側の独立性を留意した結果である。

 

 問題はそれ以外の軍事行動だ。L3宙域外で軍事行動を行う場合、行政上のトップないし大使の要請に応じて共同戦線を貼ることになる。受諾に関しては、相互の国は情勢を勘案して主体的に決定するという合意ができた。
 但し問題になったのは、指揮系統や部隊の独立性、作戦運用の面で如何に位置付けるかという点である。
 基本的には第1の案件同様に実働部隊であるロンド・ベルに独自性を持たせたいという主張に、特使はEEFの軍部が納得出来ないという理由から慎重で合意には至っていなかったのだ。

 

「独自性を持ちたいというのは、そちらの立場からすれば当然でしょう。けれども貴方方も軍人であれば、軍部が軍事行動に不確定要因を挟むことを好まない、という感覚が理解出来ると思う。大規模な軍事行動の場合は、なおさらにね」

 

 ランズダウン侯爵は特に激しい感情を見せない。私も、淡々とこちらの主張を述べる。

 

「それはそうです。ですが、我々の現有戦力は貴国に比べて圧倒的に少ない。艦隊の独自行動権は確保したい。
 妥協点として、L3宙域以外においては、階級上位者が全体の指揮を執る場合、EEF側の指揮下に入ることは容認します。但し、自軍戦力の著しい損失の危険がある場合など、いくつかの条件下では、独自の行動を許していただきたい」
「ふむ……、貴国の言い分は了解した。その問題は、協定の締結後に継続して議論を交わせばいいのではないかと思う。
 明日すぐさま軍事行動をするわけでもないですからな。もちろん生存権に関わると判断した場合に、独自行動が認められるかどうかは、貴国にとっては重要でしょう。
 つまり貴方方は遊撃戦力、チェスでいうところのクイーンとして扱って欲しいという事か、いや東洋的な表現で言えば持ち駒の飛車か角かな」
「閣下は将棋もされるのですか?」
「下手の横好きだよ、チェスに関してはそれなりに出来るつもりなのだがね。どうにも倒した相手が好きなときに相手の持ち駒として復活される辺りが面倒でね」

 

 彼の苦笑に場が少し和む。

 

「ともかく、私もレイモンドとよく話しておこう。ご存じの通り、我が国は拡大に伴い色々とドタバタしていますからね。すぐに理想的な結論が出せる状況にない。
 その中においても我が国にとって貴国との交渉は、重要な優先事項だ。大きな方向性だけでも合意に至れば、この会談は成功と言える」

 

 彼がこちらの行動権に関して寛容なのは、彼らの目的の主眼が貿易だからであろう。我々が保有する技術に対する関心が強いことは疑いないことだ。

 

 次いで通商条約に関する問題に移ったが、事前折衝で提起されていた、アルテミス要塞への軍事物資支援は合意に至った。だが、それ以外の問題については、すぐに合意に至らなかった。

 

「特許と仰いますが、先のオーブ政府と交わした技術の全面提供という協定がある以上は、我々の支払い損ではありませんか?」

 

 アズラエル氏が、こちらの提示した案件の問題点を指摘する。

 

「その辺りに関しては、我々は現在のオーブ政権をクーデター政権であると認識している。正統政府ではない以上は、こちらに履行義務はない」

 

 法務士官であるモリス中佐が述べる。彼はロンデニオン共和国における司法相を担っている。もっとも、彼以上に法務を担当出来る士官が、艦隊にいない。

 

「それで先方が納得しますかね?」

 

 アズラエル氏の問いに対して、クワトロ大尉が応じる。

 

「仮に向こうがどう思うとしても、我が国とオーブの問題です」
「……まぁそうでしょうね。しかし、どのような技術があるのかは知りたいですが」
「それに関しても、我々は慎重にならざるを得ません」
「それでは議論になりませんよ」
「理事、国力で言えばはるかに我々にアドバンテージがあるのだ。もう少し余裕を持ち給え」
「……」

 

 侯爵がアズラエル氏をたしなめた後、言葉を続ける。

 

「理事の言う事もわかっていただきたい。ともあれ、我々としては第1に核融合技術を要求したい。核融合炉さえあれば、現状で地上を脅かすエネルギー問題にけりがつきますからね」
「それについては、我が国で生産した物をリースする形でいかがでしょうか?」
「技術提供は行わないと?」
「慎重でありたいという理由の他に、単純に運用ノウハウがそちらにないという事です」
「ふむ……」
「今後に関しては、議論には応じると?」

 

 アズラエル氏の確認に対して私が応じる。

 

「それはもちろんです。対話は互いの主張を言い合うだけでは意味がありませんからね」

 

 それを受け入れるかどうかは別にして、実のところ核融合炉も含めた技術提供問題は、ロンド・ベル内部で最後まで議論が分かれてところだった。
 しかし、結論から言うと、いつか漏洩する可能性に神経をとがらせるよりも、こちらで情報の出所を管理ないし把握した方が、様々な点で対応出来るという結論に至ったのである。
 よって、発電用核融合炉をロンデニオンで製造して貸し出し、使用料を払ってもらう。大まかに言えば、以上の様な運用を行うことになった。
 アズラエル氏は多少不満そうであったが、侯爵は、まずは民間のエネルギー問題解決を優先したいと考え受諾し、今後の扱いについては継続的に協議をするという形になった。

 

 もちろん、売却する機動兵器に関しても協議がなされた。ロンド・ベルにおいて使用しているものと同じMSを売却出来ないという事情から、こちらからはジム兇鯒箋僂垢觧櫃鯆鷦┐靴拭
 アズラエル氏は、それを不満ながら了承した上で具体的なスペックの開示を求めた。もちろん想定の反応であったので、準備していたデータを提示する。
 加えて付加要素として旧連合の運用形態にも配慮して、ジム兇縫好肇薀ぅー・パックを装備出来るよう再設計を試みている事も提示した。ちなみにネェル・アーガマ所属整備員タクヤ・イレイ軍曹らが中心に設計している。
 アズラエル氏はともかく実物がロールアウトした上で再び交渉したいという事になった。

 

 核融合炉をリースする場合でも、建造する材料は確保する必要がある。よってこちらからは、月面よりヘリウム3を輸入することを要請した。
 核融合炉のリース価格やヘリウム3の金額に関しては、前者はこの世界における原子炉の相場と、我々の世界における核融合炉の値段から、後者は現状の流通量と輸送コストからはじき出した値段を提示し合う。
 果たしてその値段が妥当かどうかで激しい応酬がかわされたが、一応の合意には至ることができた。ある意味では一番揉めたところだったかもしれない。
 ちなみに他には生活物資をいくつか地球ルートから輸入することも合意された。

 

 さて、ここまでならば、わざわざ首相自らが来なくてもいいだろう。外務大臣辺りにやらせればいい話だ。もちろん、互いの信義を深めるという点では一番の方策であるが。
 一連の合意がなされた後で、侯爵の口からは予想もしない言葉が出てきた。その言葉を聞いたとき、ロンデニオン側ですぐに反応出来たものはいなかった。

 

「プラントでの一件を口外しないで欲しい……という事ですか?」

 

 ピレンヌ艦長が最初に立ち直り、灰色から白くなりつつある右の眉毛をくいっと上げて確認した。アズラエル氏に顔を向けると、多少眉をひそめている雰囲気だ。

 

「そうです、交渉の事実は否定しなくていい。要は、あの破壊的な結末になったことを伏せて欲しいという事です。なぜならば、これからは『戦後』を考えなければならない」
「どういうことです?」

 

 ハルバートン提督が確認する。

 

「今回のプラントの一件が大々的に喧伝された場合、それこそカタストロフが起きるという事だ。国家組織としてのプラントが自滅する分には構わないが、問題はその後だよ。
 大洋州連合やプラント占領下にある地域までが、戦後深刻な状況下に置かれることは容易に予想出来る。もちろんプラントそのものもそうだ。あの砂時計を消滅させない限り、戦後にあれを統治するにせよ、独立させるにせよね。
 なにより戦後世界においてコーディネイターの扱いが悲惨なことになる」

 

 私はアズラエル氏を見やる。表情に変化はない。

 

「私は理事とは意見が多少異なるのでね。それに、これは別に彼らを取り立てて救おうなどと考えているわけではない。
 重ねて言うが『戦後』の安定が問題なのだ。我が国内にもコーディネイターは多く居住している。国内に騒動の種があからさまに残るのは好ましいことではない。加えていうならば、大洋州連合は鉱物資源国でもある。彼らの国内事情と言うよりも、経済的にあの国が不安定化することは、望ましいことではない」

 

 ブルーコスモスの盟主を前にこうした物の言い方をする。タヌキだな。

 

「国内に無駄な争乱の種は不要だ。汎地球規模の経済市場を考える上で、他国、しかも20世紀とは異なり国民国家ではなく、リージョナルな枠組みとして成立している国家が社会不安を抱えることは論外と考えている。
 もちろん大西洋連邦が喧伝するかもしれないが、当事国と我が国が公式に否定することで、それなりの説得力は持たせられる」

 

「しかし、いつかはばれる話ではありませんか?」

 

 コンタリーニ艦長が素朴な疑問を口にする。

 

「そうだ。だが、別に私は永遠に秘匿することなど端から考えていない。少なくとも世界が安定するくらいの間だけ、秘密が保たれてくれればいい。私が首相に就任したのは戦争の終結とその後の安定が主目的だ。そのためには必要な事をする」

 

 強い意志を持った目をしている。アズラエル氏は半ば諦めているように肩をすくめる。

 

「わかりました。私としても、自分たちが原因で世界が誤った方向へと向かうことは本意ではありません。こちらから喧伝することはしません。ですが、プラント側が不当に我が国を貶めるのであれば、その限りではありませんが」
「そのときは我が国が全面的に味方になる事を約束しよう」

 

 その後も議論及び交渉は、会食を経て深夜まで続いた。加えて翌日も午前中が協議に費やされた。これは首相一行が極秘行動だったことから、時間的な制約がないことにも起因するが、かくてトップにおいてはかなりの信頼関係を構築することができたのである。

 

 昼食後いよいよ調印することになった。サインをする前の侯爵は上機嫌であった。

 

「いや、久しぶりに楽しくもエキサイティングな議論が行え、君たちが信頼に足る相手だということも理解することもできた。それだけでも宇宙に上がってきた甲斐があるというものだ」
「ありがとうございます。私も全く同感です。
 今回の会談はこの世界においてともかくも孤立した存在ではないこと、そして生まれた世界が異なろうとも人間が対話を通してわかり合えるという事を実感することができました」
「うん、この交渉が後に続く希望になってほしいものだ」

 

 互いの文書にサインを行い、握手を交わす。既に議会工作を終えているらしく、帰国後に直ちに臨時議会を開催し承認を得る手筈だそうだ。
 握手を終えると、今日の午前中に提起された案件が正式に提案された。

 

「さて、正式に協定が発効するのは議会で承認が得られてからではあるが、先にも話したように、来月後半から再来月初頭に双方の交易路、つまりヘリウム3の輸送路確保のため、軍事行動を提案する」

 

 私は、先の議論を思い出しながら応じる。

 

「了解しました。細部の作戦計画については、正式な要請の後に詰める形で行いましょう」

 

 ※ ※ ※

 

「共同戦線ですか?」

 

 ハルバートン提督が確認する。ヘリウム3の輸送に関する議論が落ち着き、小休止をした後で、既定路線のごとく侯爵が提案したのである。
 ブリアン大佐に趣旨を説明させる。大佐は画面を開きデータを映し出す。つまりは既に準備していたのだ。
 向こうの思惑に乗せられて動いてしまったということに、私は苦笑させられた。
 全員が画面に目を向けていたので、おそらく誰も気がついていないだろう。大佐が部下のウェリントン少佐にコンピュータを任せて指揮棒で説明を始めた。
 余談だが、少佐は元帥の孫で駐在武官として赴任することが内定している。このことからも相手の老練さを思い知らされる。

 

「L4コロニー群は、開戦後に放棄され無法地帯と化しています。ここの安定は双方の通商上重要な問題でありましょう。よって両国による艦隊をもって宙域の平定を行いたい。
 平定後は、旧ユーラシア所有コロニーを要塞化したい上で、連邦側から1個艦隊を駐留させ、航路の安定維持を図ります。戦力は月面より再編した艦隊を用います」

 

 確かにヘリウム3が安全に到着してくれなければ意味がない。艦隊首脳も思案顔で腕を組む。アムロが相槌を打つ。

 

「確かに、協定を結んでも物資が来なければ意味がない」

 

 侯爵が応じる。

 

「その通りだ。貴国がヘリウム3を確保出来ない限り、核融合炉が建造出来ないという事であれば、当方としても航路の確保は至急の課題である。L4の制宙圏確保は両国の国益にも合致している」
「それに機動兵器を輸入する場合でも重要です。運ぶ度に海賊どもに好きにさせるわけにはいけませんからね。
ましてや砂時計ルートが使えるわけでもない。それにこうした形で軍事行動を行う事でアルテミス要塞や宇宙艦隊と貴国との間に信頼関係を醸造することもできる」

 

 アズラエル氏が続ける。

 

「至れり尽くせりに聞こえますな」

 

 トゥースが苦笑いをする。彼も私同様に乗せられていると感じているのだろうか。

 

「利益があると思って行動した方がいいという事ですよ。もちろん実益が双方にあることは疑いないことです」

 

 アズラエル氏がにこやかに述べる。彼は昨夜の食事でも色々思うところがあったようだ。侯爵が咳払いをして仕切り直す。

 

「いずれにせよ、交易路の安定させるためにも、L4のコロニー群を海賊どもから奪回する必要があるかと思う。これは協定で焦点となる独自性をどう担保するかのモデルケースにもなる、数ヶ月を目処に調整していきたい」
「そうですな」

 

 このようなやりとりから、我々は「自身のライフラインの確保」という名目での軍事行動を行う事になったのである。
 もちろん、その後の休憩で意見のすりあわせは行われたが、結局のところ、物資を確保するためにはやむなし、という結論になったのである。

 

 ※ ※ ※

 

 記者会見場には、首相一行の随員と、オーブ脱出時に紛れ込んだフリーのジャーナリストなどが参列している。私は正装の軍服でのぞみ、侯爵はモーニング・コートにアスコット・タイというスタイルで隣に立つ。

 

「拡大ユーラシアの市民並びに全地球圏の市民諸君に告げる!
 私、ランズダウン侯爵ロバートは、ここに自らの世界を失いし人々たるロンド・ベル、いや本日よりロンデニオン共和国として独立した彼らとの間に協定を結ぶことになった!!
 私は彼ら異邦人達とじっくり話す事で、彼らは我々と同様の思考のできる対話が可能な人類であると、相互にわかり合うことができた!……」

 

 彼の演説を聴きつつ、私は自らの草稿を確認する。しかし、本職の政治家の後に演説をする羽目になるとはな。前列にいるアムロと目が合う。奴のにやけ顔に多少腹が立つ。

 

「私はそういった新しい価値観に期待したい!!!……」

 

 こうして我々は、いよいよこの世界に根を張っていくことになった。それがこの世界にどのような変化をもたらすのか、私にはわかるはずもない。何より、私は今から読む演説が受け入れられるかどうかを考えることで精一杯であった。

 
 

 ――第29話「ロンデニオン共和国」end.――

 

 

【次回予告】

 

 「所詮作られしものか……」

 

 ――第30話「コロニー群奪回作戦」――

 
 

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