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CCA-Seed_631氏_第2話

Last-modified: 2007-11-10 (土) 18:52:40

「シャア、何故貴様がここにいる」
怒声を上げるアムロ。それをよそに、シャアはコーヒーに口をつけるだけで答えようとしない。
「答えろ、シャア」
アムロはシャアに詰め寄ると、胸倉を掴みかかり、強引に持ち上げる。
一方のシャアは、アムロとは対照的に落ち着いた様子で対応した。
「ふっ、貴様とさしで話すのはロンデニオン以来か」
「そんなことはどうでもいい、何故ここに貴様がいる?何故、地球にいるんだ」
アムロは、腕に力をこめる。シャアは格別、何をするでもなく、されるがままにさせていた。
しかし、傍観者たちはそれをよしとはしなかったようだ。
「まあまあ、アムロ君、落ち着きたまえ」
シャアの隣で、コーヒーをすすっていた男が仲裁に入る。左目に大きな傷を持つ、趣味の悪いシャツを着ている男だ。
「これが、落ち着いていられるか。大体、あなたたちは何故そう冷静でいられるんだ。もしアクシズが落ちていたら、あなたたちも、今頃は生きてはいなかったかもしれないんだぞ」
「だが、現に落ちてはいないんだろう。それに、君をここまで連れてきたのは、何を隠そう彼なのだよ」
「な・・・に」
シャアを掴むアムロの腕から力が抜ける。
シャアが助けてくれた。敵であるシャアが。アムロの驚愕の表情が、シャアを覗き込む。
しかしシャアは、そんなアムロに見向きもせず、乱れた襟元を正すと、バルトフェルドに向き直った。
「アンディ、私がいると興奮して話もできない。しばらく出ているので、後を頼む」
シャアは残りのコーヒーを飲み干すと、ドアのほうへ向かう。
「まて、シャア、どこに行くつもりだ」
一時、うろたえたアムロであったが、まだ肝心の話を聞いてない。シャアの元に向かおうとした。
しかし、アンディといわれた男性に手首をつかまれ、止められてしまう。
「何をするんだ、離してくれ」
アムロは無理やり手を解こうとするが、バルトフェルドの力は相当のもので、振りほどくことが出来ないでいた。
「心配することはない。彼は逃げんよ」
「何故そんなことが言い切れる」
「そりゃあ、言い切れるさ。彼には行くあてなどないのだからな。それに、逃げる気なら君を助けたりはしないし、ましてや1週間もここにいるわけはないだろう」

1週間。
その言葉を聞いて、唖然とする。
「俺は、1週間も眠り続けていたのか?」
「ああ」
アムロの身体から力が抜ける。と、同時にバルトフェルドも掴んでいた腕を離す。もう、大丈夫と考えたのだろう。
「まあ、仇敵にあって興奮するのも分からんではないが、少し落ち着きたまえ。今、コーヒーでも入れてやろう。そこに、座っていたまえ」
バルトフェルドが、自分の向かいの椅子を引く。アムロを、座らせると「少し待っていたまえ」と残し、奥に入っていった。
アムロは席に座ると、少し冷静になって考え出した。
(ラクスもアンディと呼ばれた男も、シャアが俺を助けたと言っていた。だが、どうやって?アクシズ周辺には、俺たち以外の機体はなかったはずだ。サザビーも脱出ポッドしかない状態だし。一体、どうやって助かったんだ)
考え込むアムロ。
(もしかして、ラー・カイラムが助け出してくれたのか。いや、それでは説明がつかない。それでは、シャアが助けてくれたことにはならないし、何より今頃、地球にいるはずがない。)
眉間に、シワがよっていく。
(ならば、レウルーラか。それなら、シャアが助けたと間接的に言わないでもない。いや、しかし、何故俺たちが地球にいるこの説明が付かないし・・・)
すっかり、考え込んでしまったアムロを、隣に座ったラクスと、もう一人の盲目であろう人物が眺めていた。アムロの気持ちの整理がつくまでは、待ちの姿勢を貫こうと考えているのか、一言も発しなかった。
「待たせてしまったね」
そんな、二人の心遣いをよそに、無遠慮に割り込んでくるバルトフェルド。
アムロの前にコーヒーを置き、向かい側の席に座った。
「少しは、冷静になったようだな。結構なことだ。」
「いろいろと聞きたいことがあるんだが・・・」
アムロが説明を求める。
「まあ、そんなに焦ることはない。自慢のコーヒーだ。それでも飲んで、間を取りたまえ」
目の前のコーヒーが、いい湯気を出している。匂いを嗅ぐと、1週間何も入れていなかった胃袋が、急に活性化したように動き出す。
アムロはおもむろにカップを取り、口を付けた。
(こっ、これは・・・)
口の中に広がる味。それは、今まで味わったことのあるコーヒーと一味も二味も違っていた。

(これは、ブレンドか?しかし、ここまで、コーヒー本来のうまさを消し去ることが出来るとは)
アムロは、隣のラクスに目をやる。すると、ラクスはなんとも言えないような、微妙な笑みをこちらに浮かべてきた。ラクスには、アムロの考えが分かるようだ。どうやら、その奥にいる、盲目の男性も同意見らしい。
「どうだい、なかなかの物だろう」
バルトフェルドは上機嫌に、コーヒーをすすっている。
「すっ、すまない、俺はコーヒーには明るくなくてな。たぶん、うまいんだと思う」
とりあえず、言いつくろっておく。
「そうか、これはシャアも絶賛してくれた自信作なので、ぜひ、君のきたんのない意見を聞きたかったのだが。もしかして、アムロ君は紅茶党かね。それなら、ラクスの紅茶を飲んでみるといい。彼女の入れた紅茶は絶品だぞ」
よほど自身があったのか、少しばかり残念そうに述べるバルトフェルド。
一方のアムロは少しばかり、気がめいりそうになっていた。
(これが、自信作・・・。しかも、シャアが絶賛だと。この二人の舌はどうなっているんだ)
自分のライバルの味覚に涙しつつ、アムロは、まじめな顔に戻した。
「それより、そろそろ本題に入りたい。アンディだったか。聞きたいことは山ほどあるんだ」
バルトフェルドもカップを置き、一息つくと、アムロに向き直った。
「そうだな。しかし、その前に、まだ自己紹介をしていなかったな。私はアンドリュー・バルトフェルド。まあ、シャア同様アンディと呼んでくれ。そしてこちらが・・・」
そういう、バルトフェルドはラクスと、盲目の男性を続けて指し、
「ラクス・クラインとマルキオ導師だ」
と、紹介をした。
「そういえば、こちらもちゃんとした自己紹介とお礼がまだだったな。俺は、地球連邦軍外郭新興部隊『ロンドベル』のMS隊隊長、アムロ・レイ大尉です。このたびは、世話になり感謝しています」
そういって、敬礼のポーズを取る。
座りながらの略式な紹介と礼だが、3人は特に気を悪くしたわけでもなく、ただ肯いていた。
「君の事は、シャアからあらかじめ聞いていたから、そう形式張ることはないよ」
「そういってもらえると助かります」
「さてと、まず、どこから話せばいいかな」
バルトフェルドは考えるそぶりを見せるように、腕を組み、目をさまよわせていたが、何か思いついたのか、アムロの方に目を戻す。
「いろいろ話すことはあるが、まずはこれからかな。アムロ君」
「アムロで結構ですよ、アンディ」
「そうか、ではアムロ、君はパラレルワールドという異世界を信じるかね?」

海というのは、人の心を落ち着かせてくれる。
シャアは、遠く水平線をただ見つめていた。
「何をしているんだ」
背後からの声に、シャアは振り向きもせず、答える。
「別に何もしていない。ただ、海を眺めていただけだ。この、美しい海を」
「海を?」
「ああ」
「何故?」
アムロは問いかける。
「美しいものに感動するのに理由が要るのか」
シャアは、以前アムロの方を向かず答える。
「だが、あなたはその美しいものを破壊しようとした」
アムロが語気を強める。
しかし、シャアは冷静に対応する。
「私が排除しようとしたのは、地球ではない。その上に、我が物顔であぐらをかき、汚物を垂れ流す肥えた官僚共だ」
「結果的には同じことだ」
アムロが吐き捨てる。
しばらくの間、二人は目を合わせず、ただ海を眺めていた。静寂な空間。そこには、潮騒の音のみが広がっていた。
「ララァは私たちに何を見せたかったのだろうか」
不意にシャアが口を開く。
「分からない、もう一つの世界を見せるとだけいって、俺をこの世界に導いてくれただけだ」
「ララァは言っていた。私たちには、世界を見届ける義務があると。だから、あるいは在ったかもしれないもう一つの世界、別の進化を模索した世界に連れて行くと、な」
「別の進化・・・・・・コーディネーターか」
アムロが呟く。
「この世界のことは聞いたな」
シャアがはじめて、アムロの方を向き、確認する。
「大体はな」
「私はこの世界のことを知ったとき、7年前のある出来事を思い出した」
「7年前?グリプス戦役時のことか」
「7年前、カミーユとエマ・シーンをつれて30番地コロニーに行ったことがある」

30番地。
そう言われてもアムロには、すぐに出てこなかった。当時、宇宙にいなかったので、当事者としての意識が薄いのだ。
しかし、しばらくしてようやく思い当たった。
「30番地コロニーというと、30番地事件のあった・・・」
「そうだ。カミーユとティターンズから寝返ったエマ・シーンに30番地事件の実情を知ってもらおうと思ってな。
そして、そこで私たちは一人の連邦軍兵士に出会った。彼女は自分がOTとは認められないOTだった。歴戦の兵士であった彼女は、カミーユというNTが認められず、そして散っていった」
「その状況がこの世界に似ていると?」
「違うか。NTとコーディネーター、過程は違えど、どちらも人類の進化した姿という意味においては同じだろう。
そして、ナチュラルがコーディネーターを妬むのと、OTであった彼女がカミーユを妬むのは」
「・・・・・・」
「違いを挙げるとするなら、数か。NTは、いかに新人類であろうと数がいない。それで、数の暴利によってあっさり大衆に飲み込まれてしまう。しかし、コーディネーターは違う。
人工的に生み出される彼らは、すでに、宇宙にコーディネーターのみの社会を築いている」
「あなたは、何が言いたい?」
アムロが問いかける。いや、問いかけるまでもなく、アムロもシャアの言わんとしていることは分かっていた。それでも、あえて問いかけた。
「ララァは、所詮、NTによる社会などというものは、幻想に過ぎないと教えたかったのだろうか?」
 それ以上、シャアは何も言わなかった。それは、アムロも同じだった。ただただ、海を眺めていた。
二人は、今まで戦ってきた。それは、形ある敵ではない。NTという概念と戦ってきた。すべての人類をNTにする。これは、二人に共通した命題であった。違いは、手段に過ぎない。
地球に住む人類を滅ぼし、宇宙でNTへの覚醒を推し進めようとするシャア。
一方、時間はかかっても、人の心を信じ、NTへの覚醒を促そうとしたアムロ。
根が同じな二人だけに、ララァの行動が重くのしかかった。

「パラレルワールド?」
アムロが問いかける。
「パラレルワールドというと、もう一つの世界のことか?」
「その通り。まあ、正確に言うなら、多次元宇宙。我々の世界と併存すると考えられる異次元の世界といったところだ」
「それが、何の関係があるんです?」
アムロはバルトフェルドが何を言いたいのか分からなかった。
バルトフェルドは、少し言葉をためる。そして、何かを決意したように吐き出した。
「単刀直入に言おう。君は、この世界の人間ではない」
「・・・・・・」
アムロはしばらくの間、言葉を発することが出来なかった。
パラレルワールド?異世界?この世界の人間ではない?自分は冗談を言われているのだろうか。いや、冗談に決まっている。そんなことが、あるはずがない。
「すまないが、あまり、冗談を聞きたい気分ではないのだが」
真面目な話し合いをしたいときに、冗談を言われ、アムロは憤慨した。
バルトフェルドは、さも当然の反応というように、ラクスと目配せをした。
すると、ラクスは立ち上がり、部屋の隅に行くと、何かを抱えてきた。
ラクスが、アムロの目の前にあるものを置く。
地図だ。
衛星写真を地図にしたものであり、国名や地名、都市名などは載っていない代わりに、山の形や砂漠が克明に写されている。
「これは?」
アムロは怪訝そうに尋ねる。
「見て分からないかね、世界地図だよ」
「それは、見ればわかる」
「いや、君は見ていないよ。よく、その地図を見たまえ」
バルトフェルドが促す。
アムロは、地図を注視する。別段、おかしなところはない普通の世界地図だ。全体をくまなく網羅していくアムロ。しかし、ある位置に差し掛かり、不可解なところがあった。
「これが・・・オーストラリアなのか」

オーストラリア。
一年戦争開戦直前。ブリティッシュ作戦と銘打たれたその、悲劇を知らぬものはいない。
アイランド・イフィッシュがオーストラリアのシドニーを直撃し、巨大なクレーターを作ったことは、常識とされていた。
しかし、この地図を見る限り、そのようなものは見られなかった。
「シャアもそのことに、大層驚いていたよ。まあ、君ほどじゃなかったがね」
アムロは、視線で穴でも開けてやると言わんばかりに、オーストラリアの位置を注視する。
「これは・・・本物の地図なのか?」
「偽者の地図なんてものがあったら、お目にかかってみたいものだ」
バルトフェルドが茶化すように言った。
「いや・・・しかし、これだけでは・・・」
アムロはまだ信じられないというように頭を振る。
「シャアさんも最初はなかなか信じられないようでいた。しかし、納得せざるをえなくなると、『ララァが連れてきてくれたのか』とおっしゃっていましたわ。」
ラクスが横から、口を挟む。
「ララァだって」
アムロが聞き返す。
「はい、お二人の世界での出来事は、すでにシャアさんより聞き及んでいます。アムロさんとシャアさんが、元の世界で戦ったことも。シャアさんがアクシズという小惑星を地球に落とそうとしたことも。そして、それをアムロさんに防がれたことも」
「・・・・・・」
「当事者でない私には分かりませんが、そのアクシズという小惑星は落下の軌道からそれていったそうです。シャアさんは、死を覚悟したその時、ララァという人の手によって、ここに連れてこられたと言っていました」
ラクスの言葉が、さっきの夢を思い出させる。
“アムロ、今からあなたをもう一つの地球に連れて行ってあげる”
夢の中で、確かにララァはそう言った。あれは、こういうことだったのか。
「正直言うと、我々だってこんなファンタジー、信じられるものではなかった。シャアとの見解の違いは、会話の端々で分かったが、それでも異世界から来たなんて一体誰が信じる。せいぜい、いかれた奴の戯言ぐらいにしか思っていなかった」
「では、何故そんな妄言を信じるようになった?それとも、今も、疑っているのか?」
アムロは問いかける。
「信じざるを得まい。あんなMSを見せられればな」
「あんなMS?」
「君の機体だろ。νガンダムというのは」
バルトフェルドの言葉にアムロは、耳を疑った。
「νガンダムがあるのか、ここに!」
アムロは立ち上がる。その拍子に椅子を倒してしまったが、気にもならなかった。
「近くの浜辺に、打ち上げられていた。それと一緒に、シャアが乗っていたというサザビーというMSのコックピットもな」
νガンダムがある。それを聞いたとき、アムロは打ち震えた。異世界というものを信じ始めていたアムロにとって、自分の愛機の存在は、何よりも彼を勇気付けた。
「それで、νガンダムはどこに?」
「ある場所に格納してある。むろん、サザビーのコックピットも一緒にな。それと、君には済まないが、機体や今までの戦闘データは見せてもらったよ。正体不明機をそのままにしておくわけにはいかないのでね」
全然、悪びた様子も見せないで喋るバルトフェルド。
「それを見て、理解したのさ。君たちがこの世界の住人ではないとね。ここでは考えられない高度なMS技術、君たちの神がかり的な戦闘、そして極めつけは、映像に残っていた小惑星落としの事実。こんなものを見せられれば、がちがちの空想否定論者も態度を一変させるさ」

バルトフェルドが、コーヒーを飲んで一息つく。次は、ラクスの番というように目配せした。ラクスが、それを読み取り話始めた。
「1週間前、シャアさんはあなたを気絶したあなたを抱えて、ここに来ました。目が覚めたら、宇宙にいたはずの自分が、何故かMSごと地球にいたことに戸惑っており、事情を知るためにも、危険を承知の上で目に入ったこの家に来たということです。
そこで、アムロさんを寝かせた後、事情を聞きました。彼は、地球の人から見れば大罪人ですから、自分の素性は明かさず説明をしていました。しかし、私たちとの食違いが表面化してくると、彼もおかしいと思い始めたのか、自分のことを少しずつ話すようになりました。
しかし、それは、私たちにとっても始めて聞くお話でした」
「それで、その食違いの過程を経て、異世界という結論に達したと?」
「そういうことになりますわね」
これで合点がいった。ロンデニオンでは、取っ組み合いの末、殺し合いにまで発展しそうになったシャアが、掴みかかるアムロに何もしてこなかった訳が。自分のいる境遇を理解したうえで、例え、敵同士であったとしても一人で異世界に放り出されるよりは、ましと考えたのか。
「さっきは、ずいぶんと大人しいとと思ったが、奴も異世界にきて不安だったと言うことか」
「その発言は、ここが異世界だと認めたうえでの発言かね?」
バルトフェルドが問いかける。
アムロは、バルトフェルドに向き直ると、「認めるしかないだろ」とかぶりを振る。
「この状況から考えて、ここが俺たちのいた地球と違うのは確かだしな。なにより、これがあなたがたの大掛かりな冗談だとしても、あの男はそんな器用ではない。道化師になることを嫌がってるしな」
かつて、アウドムラで酒を飲み交わした時を思い出す。エゥーゴの1パイロットでいたかったそんな彼を、時代は許さなかった。ブレックス亡き後、エゥーゴの代表者として表舞台にたった彼は、自分を道化とあざ笑っていた。
「ですが、確かに不安というのもあるのでしょうが、シャアさんが大人しいというのは、他にも訳があるように思えますわ」
「どういうことだ?」
「シャアさんはここに来て、この世界のさまざまな情報を得ていきました。しかし、知れば知るほど、彼は何かを考え込むようになっていったのです。この2、3日はよく、海を眺めていらっしゃいますわ」
この世界のことを知るにつれて、考え込むシャア。それは、この世界を目の当たりにして、何か自分たちの世界と重ねてしまったのだろうか?
「アンディ、ラクス、教えてくれ、この世界のことを。この世界の情勢を。この世界の人類を。この世界の宇宙を」
二人は、おもむろに話し始めた。