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CCA-Seed_631氏_第7話

Last-modified: 2007-11-10 (土) 18:55:27

「アッシュ?」
「ああ、データでしか知らんがね。あれは最近ロールアウトしたばかりの機種だ」
バルトフェルドが彼独自のルートから仕入れた情報を皆に伝える。
「だが、まだ正規軍にしかないはずだが・・・」
「それがラクスさんを・・・と言う事は・・・」
マリューの言葉に皆が一様に考え込む。
正規軍にしか配備されていない機体。何故ラクスが命を狙われたかは依然として不明だが、そこに何らかの形でザフトが関わっていることは明白だ。プラントに引越しを考えていた矢先の出来事だけに全員の気が重かった。
「なんだかよく分からんが、プラントにお引越しってのも止めておいたほうが良さそうだって感じだな」
「確かにな。正規軍配備の機体まで使って、プラントの上層部が知りませんでしたってことはないだろうし・・・」
アムロもバルトフェルドに同意する。
「しかし、上層部といってもどの当たりまで関わっているかは気になるところだ。本来ならトップも疑ってかかるべきだろうが、議長のギルバート・デュランダルは穏健派で通っている上に、他の者が画策したラクス襲撃を止められない張子の虎でも無さそうだ。
となると、議長には話を付けず下の者が単独で動いたか、それとも穏健派の議長というのは表の顔で、裏で今回の襲撃の指揮を取っていたか・・・」
シャアはブラウン管や本を通してしか会ったことのない、デュランダルの顔を思い浮かべる。
ユニウスセブン落下後の誠実な対応、核を撃たれ開戦を声高に叫ぶ強硬派議員を押さえ込む政治手腕など、シャアはデュランダルを買っていた。
無論、政治の世界において、酸いも甘いも噛み分けたシャアである。単純に議長は白であると結論付けたりはしないが、同じく人の上に立つものとして、ある種のシンパシーは感じていた。
「ですが、何故私を・・・」
不安そうに俯くラクス。
キラはそんなラクスの元に近づき、肩をそっと抱いた。
シーゲル・クラインの娘にして、先の大戦の平和の歌姫と認識されているものの、現在のラクスはオーブの一市民に過ぎない。そんなラクスを狙う意図が掴めなかった。
「無論、狙うからには何か理由があるのだろうが・・・おそらくは『ラクス・クライン』と言う『名』が残っていると不都合な者の仕業だろう」
そんな折、全員の緊張感を削ぐような間延びした声が聞こえてきた。
「まあ、まあまあこれは・・・」
子供たちに手を引かれて、恰幅のいい女性が近づいてきた。マーナである。
破壊された家を見渡して、驚きを隠せない様子だ。
「マーナさん」
「キラ様。このたびは本当に大変な目に合われて。ですが、お怪我も無いようでマーナもお嬢様もホッとしていたところでございます」
マーナが全員を見渡し、安堵の表情を浮かべた。
「それで、ここに何をしに?」
「あっ、そうそう、忘れるところでございました。お嬢様からこれを・・・」
マーナはカガリから受け取った手紙をキラに手渡した。
「カガリから?」
「お嬢様はご自分でもうこちらにお出かけになることすら適わなくなりましたので、マーナが預かってまいりました」

「えっ、来れないって?」
「何かカガリさんにあったの?」
「お怪我でもされたのですか?」
マリューとラクスも、カガリの身を案じ口を挟む。
カガリの性格を知る者からすれば、何を置いても駆けつけてくるであろう彼女がここに来れないというのが、とても気にかかった。
「いいえ、お元気ではいらっしゃいますよ。ただ、もう結婚式の為にセイラン家にお入りになりまして・・・」
「「「「ええっ」」」」
アムロとシャアを除く全員が、寝耳に水の言葉に驚きを隠せなかった。
「結婚って・・・僕たちは何も聞いていない」
「今回のことはご両親のいらっしゃらないアスハ家に代わり、セイラン家が主導で取り仕切っておりまして、何でも先日の痛ましい事件で被害を受けた方々に少しでも希望を持ってもらおうとセイランが急ピッチで事を進めまして、もう1週間後には・・・」
「1週間って・・・そんなに早く・・・」
「アスランはカガリさんの結婚について、何もおっしゃられていないのですか?」
「アレックス様は現在プラントに行かれておりまして、お嬢様のお側にはいらっしゃらないのです」
「プラントに!?」
またもや寝耳に水の言葉がマーナから飛び出した。
「何でもプラントの情勢が気になるとかで。本来なら、アレックス様がお嬢様を守らなければならない立場にあるものを、みすみすセイランに隙を見せるような行動にマーナはとてもじゃありませんが―――――――――」
カガリを会ったときもアスランに対し憤慨していたマーナであったが、ここに来てもそれは収まっていないようだ。
やれアスランの不甲斐なさをトクトクと、セイランのやり口はクドクドとヒートアップしていき、バルトフェルドに詰め寄り鬱憤を吐き散らしていく。
そんなバルトフェルドは「うっ、えっ、ああ」と詰め寄るマーナの迫力にたじろんでいた。
キラはマーナの鬱憤も半ばに、カガリの手紙を開けた。
封筒の中には、いかにも急いで書きましたといったカガリの手紙と、指輪が入っていた。
内容も至ってシンプルだった。
こんな状況に陥ったキラ達の下にいけなくて辛いということ。
結婚の話を自分の口から話せなくて申し訳ないということ。
オーブが世界安全保障条約機構に加盟する今、しっかりした代表が必要な為、結婚を決意したこと。
アスランに貰った指輪を返してほしい、そしてすまないと伝えてほしいということ。
書いているカガリも感情が溢れ出たのか、所々震えて書かれた箇所が見られる。カガリの現在の心情が如実に伝わった。
「キラ、私たちは何もして上げられないのでしょうか?」
一緒に手紙に目を通していたラクスがキラを見上げる。ラクスに目を向けると、そこには悲しさと悔しさを含む表情が見て取れた。
そんなラクスにキラは何も言わず、遠くを見つめながら唇をかみ締めた。

時刻はマーナが来た頃よりおおよそ2時間後、今後の対応を協議していた孤児院の大人達面々の下に、数台の黒塗りの車とワゴンが来訪した。
そのうちの1台の運転手が後部ドアを開けると、初老の男性が車から降りてきた。その周りには、人目で格闘術を持っていますといった黒スーツにサングラスを掛けた男たちが囲んでいる。
キラ達の下に近づき、男は一礼をするとおもむろに切り出した。
「この度は大変な目にあわれましたようで、しかしお怪我がなく何よりでございます」
「あっ、はい、ありがとうございます・・・それであなたは?」
キラが聞き返す。
「申し遅れました、私、ユウナ・ロマに使わされたものでございます」
そう言って男は名詞を渡す。名前と役職の隣にセイラン家の家紋が書かれている。
「ユウナ・ロマって・・・カガリが結婚相手の?」
「はい、ユウナ様もこの度の襲撃に大変心をお痛めになられまして。何しろ、キラ様は代表の弟君〔おとうとぎみ〕で在らせられますし、お二人が結婚した暁にはユウナ様の義弟に成られるわけですので、無事の知らせに一同安堵していたところでございます」
「そうですか。それはそれは・・・」
正直、キラは不快感を隠しきれなかった。
カガリやアスランから聞いていたユウナ像は、3Kを象徴するような政治家であると聞いていた。今回の結婚話も、国民の為などというのは口実で、自分の発言力を増したいがために推し進めたことは火を見るよりも明らかであった。
「つきましては、皆様の今後の処遇についてユウナ様より仰せつかってまいりました。皆様には仮の宿としてホテルをご用意させていただきましたので、そちらに移っていただくようにと」
キラは全員の顔を見渡した。
ここに居る皆が皆、ユウナという人物に対し何かしら不快感を持っている。そんな人物の言うことを聞いてもいいのかどうかを迷っていた。
そんな雰囲気の中、シャアが皆の気持ちを代弁するように口を開いた。
「それは、ユウナ殿のみの考えなのかね?仮にも代表の弟がこのような目に合われた以上、代表からも何らかのご対応があっていいと思うのだが」
「確かに私どもはユウナ様から仰せつかいましたが、そこにカガリ様の意思が無いわけではありません。むしろ、この指示に関しましてはユウナ様と同じ気持ちで御座いましょう。よろしければ、カガリ様からの指示と訂正させていただきます」
「そうですか、それを聞いて安心しました」
言葉ではそういったものの、完全に疑いを無くしたわけではない。
全員に目配せをし、再びどういった対応を取るかを考え始める。

「それに、ここには大勢の子供も居りますゆえ、住む場所が決まらないというのは子供達にとっても辛いことで御座いましょう」
全員が痛いところをつかれた。
確かに、大人だけなら自分たちでこの状況を打破することも可能だろうが、この大勢の子供達も引き連れてとなると簡単な事ではない。
全員の顔が仕方ないと物語っているのを見るや、ラクスが代弁した。
「それでは、お言葉に甘えてその申し出受けさせていただきますわ。」
「おお、助かります。それでは、車にお乗りください」
ワゴンの運転手が子供達を車の中に押し込んでいく。
子供全員が乗車したのを確認すると「大人の方はこちらへ」と、黒塗りの車に誘導する。
そんな中、初老の男がアムロとシャアに近づいてきた。
「あなた方は、我々の方にお乗りください」
二人は顔を見合わせる。他の者が乗った車は、まだ二人が乗るには十分なスペースがあるように見えたからだ。
「まだ、開いているように見えるが・・・?」
アムロが率直に聞き返す。
「車内で今回の事件についていろいろと聞きたいことが御座いまして。お見受けしたところ、あなた方お二人が一番の年長者のようですし・・・」
男の言葉には、先ほどのようなハキハキした対応が見られず、語気に力が無い。二人をどうしても乗せなければならない理由でもあるのか、アムロの手を引いてくる。
「いや、俺達も今後のことについて協議しなければならないし、その話は後でも・・・」
「アムロ、もう遅いようだ。他の車はすべて出てしまった」
シャアがアムロに言う。
アムロが目をやると、他の車はすべて出発していた。後に残ったのは、一台の車のみだった。
「ふう、仕方ないな」と残しながらアムロは車に乗り込んだ。シャアもそれに続く。
二人をがっちり固めるように、両隣に体格のいいスーツ男が腰を下ろす。何か重罪を犯した犯人のような送迎に、二人の心象はどんどん悪くなっていった。
車内で今回の事件について聞きたいといってきた男は、車中では何も語りかけてこなかった。前を走っていた車もいつの間にか姿を消している。
こうなってくれば、感のいい二人である。おそらくホテルには向かわないであろうことは明白であり、その行き先を男に聞き出した。
しかし男は、「大丈夫で御座います、お静かにしていればもう少しで到着なさいますので」と言うや、口を貝のように閉ざしてしまった。
男の言葉は、暗に静かにしていないと無理やり黙らせるぞと言う意思表示であり、隣に座り込んでいる男たちの拳にも力が入っている。
二人は目を合わせ、おとなしくしていろと互いに意思疎通を図った。
沈黙が支配する車内。そんな車が目的地に着いたのは、それから1時間もした頃であった。

「ようこそ。まあ、楽にくつろいでくれたまえ」
ユウナは部屋に入ってきた二人に、椅子を勧める。
アムロとシャアは少しばかり逡巡しながらも、勧められるままに腰を下ろす。
ユウナは二人を連れてきたSPに合図を送り、部屋から追い出した。現在、部屋には3人を除き誰も居なかった。
「いきなりこんなところに呼びだして申し訳なかったね。一応、自己紹介が必要かな。知っていると思うけど、僕はユウナ・ロマ・セイランだ」
「無論、承知しています。この度は代表とのご結婚おめでとうございます」
「おや、知っていたのかい!」
「ええ、と言っても先ほど聞いたばかりですが・・・・・・それで、そろそろ我々をここに呼びつけた理由をお聞かせ願えるとありがたいのですが」
シャアがユウナの目を真っ向から見ながら返す。
そんな毅然としたシャアの態度に感心するかのように、目を細めるユウナ。しかし、すぐにいつものにやけ顔に戻すと、椅子を立ち、戸棚からアルコールとグラスを持ってくる。
「まあ、焦ることはないだろ。君たちも一杯どうだい?年代物でね、そうそうお目にかかれる物じゃないよ」
二人の返事を聞くまでもなく、グラスを置き、アルコールを注いでいく。
しかし、二人は目の前のグラスを取らないでいた。正直、対応に窮していた。
車を降りるや、問答無用でユウナの政務室に案内された二人が、不審に思うのも無理は無かった。
一応、ここに連れてこられるまでいろいろな憶測を立てては見たが、まさかいきなり国の最高権力者の一人の下に連れてこられたことは予想外であった。
「大丈夫、毒なんか入っていないよ」
一向にグラスに取ろうとしない二人に、ユウナは同じビンから注いだグラスを口に付ける。
「ねっ、大丈夫だろう」
「・・・確かに毒などは入っていないでしょうが、今は飲む気にはなれないので遠慮しておきます。この際ですからはっきり申しましょう、今回のやり方が気に入りません」
シャアの言葉にはアムロも同意だった。
二人が連れてこられた背景には、昨夜の事件と関係あるのだろうと考えていた。おそらく目撃者か何かがいて、3人の戦闘を見たものがユウナに情報をもたらしたに違いない。それで、フリーダムにも劣らない戦闘を見せた二人のことが気になって呼びつけたと、アムロは推測した。
しかし、それなら真っ当から出向けばいいだけの話だ。オーブ国内でMS戦になれば、当然調査するのは当たり前であるし、探られたくはないが、アムロたちを尋問するのも不自然なことではない。何も、住居云々にかこつけて強制的にこんなところに連れてくることはないはずだ。
「それについては素直に誤るよ。ただ、こっちにも事情があってね」
「事情?」
「君達二人だけと話がしたかったんだよ。他の連中は入れないでね」
「それならば我々だけを呼べば済むことでは?」
「いや、もしかしたら君達と共にいた者達が許さないのではないかと思ってね」
ユウナはそう言うやグラスに口を付ける。たっぷりと舌に絡ませながら飲み干した後、切り札を切ってきた。
「なんせ君達が異世界から来たということは秘密だろうしね」
ユウナの言葉に二人は唖然とした。
アムロは大きく目を見開き、シャアは軽く口を開けて驚いた。
アムロは、何故この男が知っているという風にシャアの方を向くが、シャアもこの男にしては珍しく狼狽を見せており、分からない様子だった。

二人が異世界から来たということを知っているのは孤児院の大人達以外では、カガリとアスラン、マーナを除いて他にはいないはずだ。それに、この者たちはユウナに対しあまりいい感情を持ってはいない。それ故、ユウナが事情を知っていることがあまりにも不可解だった。
一方ユウナはというと、仕掛けた先制パンチが思いのほか効いたことにとても満足そうであった。二人の驚きを肴に、アルコールをグラスに注ぐと、一気に飲み干した。
ユウナからすれば異世界など未だ半信半疑であったが、効果的な意味合いも含めカマをかけてみたところ、ものの見事に引っかかってくれて、今後の展開も楽になったというものだ。
「ふふっ、その顔を見ると僕が知らなかったとでも思っていたのかい。でも、残念ながら僕はそれほど無能じゃなくてね」
カガリからそれとなく聞き出したことは二人には言わなかった。あくまで独自に調べた結果を強調し、プレッシャーを掛け続ける。
「言っておくけど、今更何のことですってのは無しだからね」
アムロはどう取り繕うかを考えていたが、先に予防線を張られ、唇をかみ締めた。
「なるほど、知っているなら話は早い。それで、事情を知った上で我々をここに呼んだということは一体どういう訳だ?」
「シャア!!」
アムロはシャアが自分達のことを認めたことに驚愕した。
「アムロ、今更隠し事もあるまい。我々の態度が全てを物語ってしまった。もはやこの男に隠し事をする意味がない」
シャアはもはや止む無しという感じで淡々と答えた。ユウナに対して使っていた敬語も、もう必要ないと捨て去った。
アムロもすでに引き返すことは不可能と悟ったのか、憮然たる面持ちでグラスに手を付けると、勢いよく口に流し込んだ。
「ふふっ、どうやら開き直ったようだね。君達が認めるならこちらも話が早い。なら単刀直入に言おう。どうだい、僕と取引をしないかい?」
「取引だと?」
「そう、取引いかんでは、それなりの厚遇を与えよう。君達の身分の保証に住まい提供、高給優遇、高い地位など望むがままだ」
「なるほど、なかなか魅力的な案件だが、取引条件は何だね?」
「ふふっ、それは君達のオーブ軍入隊とMSの譲渡だ」
「MSの譲渡だと!!それは、νガンダムを渡せということか」
アムロが声を荒げる。
「へえ、νガンダムって言うのかい?情報によれば、白と黒でカラーリングされた機体という話だけど、まあ君のMSというのならそれだね」
「ふざけるな!俺の愛機を渡してたまるか!!」
「まあ待て、アムロ。いくつか聞きたいことがある」
自分の愛機の危機に我を忘れるアムロに対し、シャアは冷静にユウナに問いかける。
「まず、νガンダムをどうするつもりだ。我々がオーブ軍に入隊した場合、修理してアムロに返すのかね?」
「そうだね、返そうと思っているよ。データを取りつくした後でね」
「やはり、データ入手が目的か」
「それはそうだろう。なんせ、あのフリーダムすら軽く凌駕するとあってはね。しかもそれを操縦するのがナチュラルなのだから。ナチュラルでも操縦できる超高性能機、興味を持たないはずがないだろう」

高性能の機体を扱うには、やはりパイロットもそれを引き出せるほどの者でなくては意味がない。そうなると、自然とナチュラルよりコーディネーターに軍配が上がってしまう。無論、ナチュラルにもそんな者がいないでもないが、極一部の者に限られてしまうのが現状だ。
質のコーディネーター、数のナチュラルと言われる所以である。
しかし、そんな状況を打破できるかもしれない機体。ナチュラルでも扱うことのできる高性能機はユウナにかなりの衝撃を与えた。
2年前、キラやアスランといったコーディネーター達が戦況を変えていく様を見て、特化した強さを持つMSとそのパイロットは戦況すらを変えてしまうことを学んだ。
奇しくも、デュランダルも同じコンセプトの元、2ndシリーズの開発に着手していて、ユウナの考えは満更絵空事というわけではない。
量産することは不可能だろう、しかし、数体でも製造できてそれを乗りこなす者がいれば、オーブは今まで以上のアドバンテージを得ることができる。ユウナはそう考えていた。
だが、それはアムロとシャアが並みのパイロットならばの話だ。
UCでおそらく最強のパイロットであり最高のNTの部類に入る二人が乗ってこそ真価を発揮するものであり、並みのパイロットが乗っても機体に振り回されるのが落ちだろう。しかしユウナにそんなことが分かるはずも無かった。
「なるほど、では2つ目だ。我々が断った場合はどうなる?」
「ふうむ、その場合は強行手段に出ちゃうしかないかな。君達は不法入国者な訳だし、νガンダムとやらも接収という形になっちゃうね」
「問答無用だな」
「それもこれも国を思えばこそさ。僕は夢想家ではないからね。使えると思ったものを使わない手はないだろう」
「夢想家ではない・・・か。なるほど、だからオーブの理念を捨ててでも、連合と手を組めるというわけか。そんな信念も解さない人間について来いと言うのかね」
シャア自身も、ユウナの立場なら理念などを捨て同盟を結ぶだろうが、ここはあえて理念を押し出しユウナを牽制をする。
「君達も理念に陶酔する人間なのかい?まあ、確かにすばらしいものだと思うよ、オーブの理念は。でもそれは、国や国民を守れて初めて意味を持つものだと思うけどね。
国や国民を守れないくせに、理念だけを守ろうだなんておこがましいにもほどがある。政治に必要なのはロマンチストではなく、広い視野を持ちえるリアリストだと、僕は思うよ。まあ、君達みたいな一般人に言っても仕方がないけどね」
ユウナは少しばかり苛立ちを込めて言い放つ。しかし、その言い方は二人に言ったというより、この場にいない誰かに言っているような気がした。
シャアは、少しばかりユウナを見直した。
初対面でのユウナの印象は、ナヨナヨした頼りない跡継ぎという印象だった。正直、政治家としてのカリスマ性は乏しいものの、資質は捨てたものでは無いらしい。
シャア自身、全人類をNTにし宇宙に上げるという理想を掲げるも、夢半ばに敗れ、地球人類の排除を目論んだ男である。理想の実現の為には、何かを切り捨てなければならないことも重々承知していた。
しかしシャアは、自分をリアリストと評したユウナに対し、一抹の不安が過ぎった。
「では最後の質問だが、我々以外の者達はどうしているのかね?」
「我々意外のって言うと、孤児院の連中のことかい?もちろん、ホテルに送りつけたよ。彼らには用はないしね」

「それはキラやラクスもかね?」
「んっ・・・それはどういう意味だ?」
ユウナが怪訝は顔を見せる。
「率直に聞こう。あそこにいる3人のコーディネーターについて、どういった処分を考えている?」
シャアの言葉にユウナのにやけた顔が凍りつく。
「シャア、それはどういう事だ!?」
シャアの「処分」という不穏当な言葉とユウナの態度を見て、アムロが口を挟む。
アムロは生粋の戦士であり、政治家ではない。シャアの交渉手腕を信じ、口を挟まぬようにしていたが、慣れ親しんだ3人の処遇が問題とあっては口を出さずにはいられなかった。
「この男は自分をリアリストと言い切った。ならば連合の一員になるこの大切な時期に、代表のスキャンダルの種であるキラを放っておくというのは考えにくい。
もしこれが露見すれば、結局オーブはコーディネーターと切り離せないと思われ、連合内での地位も信用も失うことになる。最悪、プラントとの二重条約も疑われかねない」
痛いところを付かれたユウナは、苦々しい顔をシャアに向ける。
これまでユウナのペースで進んでいた交渉が、瓦解した瞬間だった。
「・・・君はなかなか状況が見えているようだね。政治家に向いているんじゃないかな?」
ユウナが皮肉紛れに返す。
これまでユウナはシャアを一パイロットと侮っていた。彼がUCの世界で最高の政治力とカリスマを持つなどとは露と知らず、軽く飴と鞭を使い分ければすんなり事はすむと考えていた。
「ほめ言葉と受け取っておこう。それで、返答を聞きたい。彼らの扱いをどうするのかね?」
「・・・どうやら隠し事は出来ないようだね。分かった、こっちも腹を割ろう。君の言う通り、彼らにこのままオーブに留まっていられることは非常にまずい。そのため彼らにはオーブ国内からの退去を検討している」
「ふっ、やはりそうか。政治家は本心を語らないから始末が悪い」
「だけど、この件と君達の件は関係が無い。これは高度は政治判断だ、部外者の君達にはどうでもいい話のはずだ」
「どうでもいい話ではない。彼らは立場的には亡命者のはずだ。いったん受け入れた以上、オーブは彼らを最後まで保護する義務がある。自国の都合で追い出すというのは如何なものだ?
そして、それはそのまま我々にも当てはまる。彼らとは状況は違うがオーブに保護されるという意味では変わりはない。νガンダムだけ取られて、我々は用無しと言われない保障がどこにある?」
シャアの言葉に、ユウナは苦虫を噛むような顔でシャアを睨み付ける。
「・・・それは取引には応じないってことかい?」
「別に応じないといっているわけではない。が、この状況ではオーブ政府を信じきれないのもまた現状だ」
「・・・・・・」
ユウナは机に頬杖を付くと、真剣な顔で何かを考え始めた。
数分後、考えがまとまったのか、ユウナが顔を上げる。
「よし、分かった。本当はこの場で決めて欲しかったけど、少し時間がかかりそうだね。君達にしばらく猶予をやろう、よく話し合って考えをまとめてくれ。最善の道を選択してくれると信じているよ」
ユウナは机の上のベルを鳴らす。すると、間を置かず、SPが部屋に入ってきた。
「彼らを客室へ」
ユウナの言葉にSPは「こちらへどうぞ」と二人を促す。二人も素直に客室に付いていった。

二人が連れてこられた部屋はかなりの広さを誇り、右側にあるドアの先にはトイレ、シャワー完備、左側には寝室と生活する為の装備が一通り揃っていた。
二人を部屋に入れると、SPは外からドアの鍵を閉めた。
「我々が取引に応じるまで監禁というわけか」
ドアノブを回し、内からでは開かないことを確認する。
シャアは備えてあったソファーに腰を下ろす。アムロもシャアの向かいのソファーに座った。
「シャア、本当に取引に応じようとしていたのか?」
アムロはシャアの本心を探った。
アムロは、ユウナの拉致めいた連行と愛機の危機とあって、取引など受ける気はさらさら無かった。
「無論、それはお前しだいだ。νガンダムは私の機体ではない。それを、私にどうこうする権利は無い。向こうもサザビーのコックピットだけでは物足りぬだろうしな」
「ではガンダムがお前の機体なら受けていたのか?」
「今後の視野の一つとしては十分考えられるな。今の我々には後ろ盾が無い。そこにオーブという大国が味方に付けば、これほど心強いものはない」
「その割には、随分と否定的なことをまくし立てていたが?」
「お前もそうだろうが、奴のやり口が気に入らなかったのでな。それと・・・」
シャアは口ごもる。アムロに言うか言わないかを迷っているようだ。
「それと・・・なんだ?」
「ユウナ・ロマはキラやラクス、アンディを国外退去させると言ったが、本当にそれだけで済むのかを考えていた」
「どういうことだ?」
「キラの力を知る者が国外退去などさせると思うか?
もし、他国に行ってその国の兵士にでもなられたら、オーブとしてはみすみす庭にトラを放つようなものだ。さらには、他国でキラがオーブ代表の実弟であることを暴露しないと誰が言い切れる」
「た、確かにそれは・・・・・・・・・それじゃ、まさか!!」
アムロは最悪の予想を想像した。そしてそれを、シャアが口にする。
「おそらくユウナ・ロマはキラ達を生かしてはおくまい」
アムロは開いた口が塞がらなかった。
確かにキラを国外に出すというのは、相応の危険を伴う。それならいっその事、始末したほうが早いのは明白だが、あのナヨナヨとしたユウナからはその考えは浮かばなかった。
しかし、自分をリアリストと言ったユウナがわざわざオーブの枷になりかねないキラ達を放出するのは考えにくい話だ。
「私の考えすぎならばいいのだがな」
シャアも厳しい表情を崩さない。
「だが、奴がキラを殺さないという可能性にかけている場合ではない。くそっ、こんなところにいる場合では!!」
アムロはテーブルを両手でガンと打ちつける。その衝撃の余波がシャアにも伝わった。
アムロとは対照的にシャアは冷静に何かを考え込む。そして、おもむろに口を開いた。
「アムロ、ここから出るのに手を貸せ」
「ここから出るだと!だがどうやって?」
先ほどのシャアが回したドアノブを思い出す。開かないのはシャア自身も分かっているはずだった。それに、外にはSPが待機しているはずだ。
「ここの兵士がアクシズ並みならいいのだが・・・」
シャアの言葉がアムロには理解できなかった。

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