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CCA-Seed_787◆7fKQwZckPA氏_22

Last-modified: 2011-02-18 (金) 01:23:18
 

〜旧ドイツ・ブランデンブルク州

 

「艦長、ベルリン市街の最大望遠です!」
「いまはコレで限界、か。仕方ないわね……」
メイリンの報を聞いたタリア・グラディスは、
ブリッジの大型モニタに映る、微かにぼやけた市街の映像を眺めて言った。
距離計がイカレて正確にピントを合わせられず、
画像は鮮明でなく町で何が起こっているかが判別しづらい。
ただ、建物の大半がすでに焼き払われ、巨大な黒影が映っていることだけは確認できる。
ミネルバ、スティーブンズら戦艦二隻は、
敵MAの戦闘能力及び現在の凶悪なまでのジャミングの中、深入りは危険と判断し、
ベルリンとの境界線ギリギリのラインで待機することになっている。
正直、ベルリンの様子が見づらいというのは辛い。
そこへ向かっていったアズナブル隊の安否確認が正確にできないのは大きかった。
「一体原因は何なの? 我が軍のジャミング弾だってここまで強力じゃないわ」
「それが、一向に解らないんです。
 先程まで、NJの反応も微少でしたし……」
ここまで強力な通信妨害など前代未聞であり、
今現在数十m程しか離れていないスティーブンズともまともな交信が出来ていない。
「無事に帰ってきてくれると良いけど」
タリアはブリッジの大窓から、
黒煙と炎によって照らされる夕空を見つめながら、
未知の領域へ足を踏み込んでいったシャア達の帰りを、
じっと待つ事しかできないことに悔しさを滲ませた。

 

※※※※※※※

 

シャア・アズナブルらMS部隊は、
今現在敵MAの攻撃と所属不明機が相対しているという、
フリードリヒスハイン=クロイツベルク区から距離を置いた、
シュパンダウ区の住宅街に身を隠し町の向こう側に立ち上る黒煙を見上げていた。
すでに周辺の住民は西ドイツ方面へ避難を開始しており、
一部地上部隊には民衆の南西避難の護衛を任せている。
シャアはMS各機に、僚機の肩に手を乗せるよう指示した。
MSが伝言ゲームをやっているかのような奇妙な絵面だが、
それ以外に交信する術がないほど、
この一帯のミノフスキー粒子散布濃度は深刻だった。
知らない人間が使う故の過剰な結果と言えよう。
「諸君等も知っての通り、ベルリン一帯の電波状況は著しく悪い。
 よって、これより二手に分けて侵攻する。別れた後は各機部隊長の指示に従うように、いいな?」
手前のインパルス、セイバー始め、奥の方にいるバクゥ、バビ、ディン達が頷く。
シャアはまず始めに、自分を含めたザク三機と、万が一のためにハイネのグフ。
そしてカズウート・バクゥハウンドの砲戦使用機を中心とした、
比較的移動速度の遅い部隊にベルリン中央へ直進する進路を取らせる。
途中のミッテ区はかつての第一区(いわば中央区)であり、
行政府や博物館などの大型建造物がある比較的身を隠しやすい地帯だ。
加えて、このジャミングが酷い状態は相手も同じな事。
先程降下してきた所属不明機(クィン・マンサ)は、
(ハイネの目測が正しければという前提があるが)自分たちとは反対側のリヒテンベルク区にいる事。
連合軍の目が東側に向いている今こそ、敵MAの目下に潜り込むチャンスといえる。
もう一方はインパルス・セイバー・カオス・フリーダム等ガンダムタイプ四機と、
ディン・バビ等で編成した空戦部隊は、一度ライニッケンドルフ区まで一度戻り、
東へ進路を取ってパンコー区へ入ってもらう。
「連合のMSとの戦端を斬るのは君らになるだろうが、
 其方の機動性なら間違いなく、我々の到着まで粘れるはずだ。アスラン、やれるな?」
シャアは、空戦部隊のリーダーにアスランを指名した。
アスランはと言うと、シャアのザクがセイバーの肩を軽く叩き、
自分が後ろを振り向いて皆が此方を見つめているのに気づくまでの一瞬、放心していた。
少し、意外だった。
前大戦時にザラ隊として、ストライク搭乗時代のキラと戦闘したことはあるが、
中隊規模のMS部隊を引き連れての指揮は初めてなのである。
当初、部隊統率経験者のハイネを空戦部隊に盛り込み、
彼に陣頭指揮を執らせた方が良いだろうと判断していただけに。
アスランは、自分の両肩にドッと、重たくのしかかってくる何かを感じる。
‘期待’‘責任’‘疑惑’
様々な人間の感情を一身に背負う立場におかれた事実がそうさせるのか、
本当に後ろにいるシンやキラ達パイロットから、
実際に『アスラン・ザラ』へ向けられるモノを感じているのかは、今の自分には解らない。
しかし、やるしかない。その気持ちと、シャアが自分をこうして認め、
皆の前でそれを示してくれた事実。
そして、いつも間にかシン達からも、信頼に近い感情を抱かれている事を再認識し、
アスランの中で何かが変わった。
「了解しました」
かつて無いほど、重くどっしりとした言葉がアスランの口から紡がれる。
もう手は繋いでいないが、シン・アスカも、キラ・ヤマトも、
自分たちがよく知っているアスランとは別のアスランになったと気配で察し、
セイバーがシールドを振りかざし発進の号令をすると、
真紅のMSの後に続くように、
白と、トリコロール、そして数多の紫色のMS達が舞い上がり、北へと進路を取った。
その後ろ姿を見送ったシャアは、
飛び立っていく仲間を見て勇む部隊に、進軍の号令をかける。
いつもの通信は使えない。シャアは咄嗟に、ライフルの銃床を握って、
ドラクロワの『民衆を導く自由』の女神さながら、天高くライフルを掲げる。
妙にこっ恥ずかしい気分になったが、部隊の皆の士気は高潮していくのが解る。
「アスラン、頼んだぞ……」
次第に姿が小さくなる空中のMS達の背にもう一度だけ目をやり、
シャアは小さく言うと、黒煙の立ち上るベルリン中央部に足を進め始めた。

 
 

機動戦士ガンダムSEED DESTINY IF
〜Revival of Red Comet〜
第22話

 
 

ネオ・ロアノークは、震え出す自分の手を押さえつけながら、
必死にこみ上げてくる恐怖と戦っていた。
シャアが考えている以上に、連合軍は恐慌状態に陥っていた。
突如天から舞い降りてきた目の前の存在は、
デストロイのあのビームキャノンすら意に介さず、
むしろ子供を相手にしているかのような印象すら見受けられた。
馬鹿にして。そう感じたのかウィンダム部隊が奴の頭上を包囲し、
ビームがダメならとシールドミサイルやバルカンをたたき込むが、
異常に硬い装甲には通じず、傷一つ着けることが出来ない。
PS装甲系特有の跳弾音もしていない故、VPS装甲ではない別の装甲材であろう。
ホアキン隊が操る三機のMSも、手をこまねいているようだった。
ギャプランのシールドライフルやマラサイのビームライフルは、
ウィンダムの持つそれとは一線を画した代物であったにもかかわらず、
奴のビームバリアと思しき兵器には歯が立たないようであった。
射撃で歯が立たないのならと、ウィンダムの小隊がサーベルを抜き、奴へと迫る。
正解だと思った。
奴のフィールドはデストロイと同じで、装甲表面ギリギリに張るタイプでは無く、
肩のバインダー部分のジェネレータを用いるタイプのようだ。
彼らの選択は、正しかった。だが、奴の力を読み切れていなかった。
その図体からデストロイ同様動きも鈍かろうと、パイロットの間では思われていた。
しかし誤算であった。彼らが奴に斬りかかった時、
奴は全身のブースターと両肩のバインダーを用いて、
勢いよく上空へと飛び出したのである。誰もが、度肝を抜かれた。
あの大きさで出せる速度ではない。少なくとも、彼らの間での常識はそうであった。
奴はビームサーベルを抜き放ち、勢いに任せてウィンダムに斬りかかって行く。
彼らは咄嗟に、シールドを構えサーベルを受け止めんと試み、
セリナが彼らが受け止めた瞬間横から切りかかろうと身構えていたが、無駄であった。
奴のサーベルは、易々と新鋭機のシールドを、
厚い耐ビームコーティングが施されたシールドを、機体もろとも両断した。
さらに厄介だったのが、奴はデストロイを無視し、真っ先にボナパルトを潰しにかかって来たことである。
補給の要とも言えるボナパルトを沈められては叶わないため、
ウィンダム部隊やホアキン隊、ロアノーク隊総出で防ぎに当たったと言うわけだ。
ネオは、奴の胸部が淡い光を放ち始めるのに気づく。
ネオの背を守るように従うファブリスは、ネオが気づく前に彼ごと上空へ待避していた。
急に持ち上げられ、何事かと思った矢先の出来事である。
二人は、奴から放たれる暗黒空間とも言うべき不気味な殺気を感じ取る。
「スティング、アウル、セリナ!
 さっきのが来るぞ! 避けろ!」
そう言い終えたとき、辺り一面が閃光に包まれネオは一瞬目を窄めた。
常軌を逸した威力のビームが目下を掠め、
彼らの背をヒヤリとしたものが駆け抜ける。
フリーダムやデストロイの用いるプラズマ系ビーム兵器とは少し違う性質を持っているようで、
段違いの力を持っている事は、ビームが通った先の市街地だったところが、
瓦礫どころかそれすらも消し飛ばされている所を見ても明らかであった。
先程のサーベルも、『フリーダム』『ジャスティス』らのような、
NJC搭載の核動力機ですら出せない出力を実現していると見て良いだろう。
ネオは操縦桿を握りしめ、ギリリと歯を噛みしめる。
彼の前でまた一機、ウィンダムが奴の手に掛かる。
ジェットストライカーは60t近くもあるウィンダムを、
空中へ飛ばすことが可能な推力を誇るユニットのはずであった。
だが、目の前の光景は何だ?
必死に振り払おうとするウィンダムの足を掴み易々と引きずり下ろし、
振り回し傍らに見えたマンションへと投げつけられるそれは、現実のものに見えなかった。
ボナパルトへと、ものの十数分で近づいた奴は、
ブリッジ部を殴りつけ、威容を誇った戦艦を沈黙させる。
「……あの機体、自分自身の力を試している?」
ファブリスは冷静に言い切った。
先程から、あの強大な火力のビーム兵器やビームサーベル、
ビームと実弾・ミサイルの雨をかいくぐる圧倒的な機動性など、
それらをまだあのパイロット自身が把握しきれていないようだった。
「それとも、おもしろがっているのか。
 どっちにしろ、次に狙うのはステラだ……放ってはいられん!」
ファブリスは奴の目がデストロイへ向くのを防がんと、
急降下するべく機体を奴の方向へ向ける。
ゾワリと背中を撫でる感触が彼の気を乱す。
「戦場で遊ぶな!」
すでに、照準システムをオートからマニュアルへ変更している。
不思議と、此方の方が扱いやすい。今更ながら彼はそう感じていた。
ファブリスは瞬く間に奴と150m程の所まで近づいて行くと、
腰にマウントしていたバズーカを手にとって、奴の背中に目測で照準を合わせる。
装甲を突き破ることは出来ないが、PS搭載機を相手にしたときのために弾頭をHESHに変えてある。
「コイツ相手に効くか解らんが……儘よ!」
ファブリスは、奴が回避行動をとるであろう方向へ、
打ち出された砲弾は、攻撃を察知して回避行動に移っていた奴の右肩を捉え、
肩のバインダーに着弾し爆散する。
「やったか? …………!
 ちぃ、この口径では無理か!」
煙が風で流され、奴のバインダーに凹みもないことを確認した彼は思わず舌打ちをした。
化け物のような装甲だ。
素直に、そう思った。
HESHを至近距離で喰らっておきながら、
傷一つ程度しか与えられぬあの驚異的な防御能力。
「大佐に伝えねば……ここは撤退するしかない!」
奴相手にこれ以上損害を増やすわけにはいかない。
そう判断した彼は、反撃とばかりに、
手当たり次第に放ってくる奴の光の束をすんでの所でかわし、
当たってもいないのに装甲が溶け始める事に肝を冷やしながら、
デストロイを守るように囲み始めた味方の下へ向かう。ふと、
「…………!?」
知っている感覚が、此方に近づいてくるのを感じる。
ネオとセリナ、スティング達も勘づいたのか、
一瞬だけ奴から目線をそらし、西と北へ目をやった。
「来たか……『シャア』!」
ファブリスは、思わず叫んでいた。
無意識のうちに、近づいてくる存在の名を叫んでいることにも気づかずに。

 

※※※※※※※

 

「酷いものだな」
アスラン・ザラは、目下で無惨に広がるベルリンの町を見下ろしながら、
セイバーの高度を徐々に下げていった。
目標の距離まで約2000まで近づいている。
彼の目に見えていたのは、漆黒の鎧と言うべき外観を持った巨大なMA。
周囲を取り巻くように囲むウィンダムとダガーL。カオスとアビスの二機。
そして、一際異彩を放つ巨大なMSが一機。
「あれがアンノウンか? 見たところZAFT系だが……」
ZAFTもああいう大型タイプを開発していたのか?
ふと、彼を含め空戦部隊は共通してそんな事を考えた。
「我々が優先すべきは敵MAにある。
 まずは邪魔なMS部隊から掃討する!」
アスランは新型への興味を持ちつつも、
優先するのは地球軍にあると味方に下知した。
幸いなことに、この高度一帯はジャミングが弱く、通信がある程度なら届く。
「アスラン……」
「ん? どうした、キラ」
アスランが号令をかけた後、インパルスとフリーダムが、
セイバーの傍らに寄ってくる。
キラの声音はわずかながらふるえが混じっていた。
この先に待ち受ける何かを察しているかのように。
「攻撃する前に、一つだけ言っておきたいんだ。
 僕は、もしこの先君が行方知れずになったり、負傷しても助けないつもりでいる」
「…………」
「シン君、だっけ。君もだ。
 君達の方でも、もし僕がやられたり、はぐれたとしても、
 僕を助けたりしないと約束できる?」
「キラ、お前!」
「冷酷な発想だけど、僕らはここで全滅する訳にはいかない。
 何としてもあのMAを止めなきゃ、ZAFT側に付いた町がどうなるか……」
シンは無論、これに応じるつもりでいるらしい。
シンは決してシャアやアスラン達に悟られないようにしているが、
キラに対し『怨恨』に近い感情を抱いていることは明らかだった。
何があったかは、聞かない。
大凡見当は付いていたし、追求すれば今後に影響することも両方解っており、
シン自身が表沙汰にしたくないようであったから。
少し戻すが、アスランはキラがこんな事を言うとはと驚きを隠せなかった。
何が彼を変えたのだろう?
そう思いながら、アスランは頷いていた。
そこに突っ込んでいられる状況ではない事は、わかっている。
「ああわかったよ、キラ。
 だが、この作戦が終わったら少しつきあえよ」
「うん」
「…………行くぞ!」

 

「始まったか……」
シャア達陸戦部隊がミッテ区・ティーアガルテンまで差し掛かったとき、
中央部の空で火球がぽつぽつと浮かび上がり、
戦闘が始まったことを彼らは知った。
アスランらのいる空とは違い、ここらへん一帯ではさらにジャミングが強烈で、
この段階で総員武器のオートロックを解除する事になっている。
準備完了の合図として、モノアイカメラを二度点滅させる事にしていたシャアは、
バクゥやザクらが全てそのサインを示すのを確認すると、
手でゴーサインを出し、進軍を再開する。
ティーアガルテンは、かつて広大な公園として有名であった場所であるが、
今はその面影はなく、流れ弾に焼かれたであろう焼け跡が、
各所に見られる悲惨な状況となっていた。
木々の間を抜けブランデンブルク門に近づいた時、
シャアらの目の中に、巨大な黒い機動兵器が入ってくる。
「アレは!」
誰もがその大きさに愕然となっていたが、
シャアだけは、他の者とは違う意味での驚きを感じていた。
「サイコ……ガンダム……」
グリプス戦役時、ムラサメ研究所がティターンズに協力し戦場に投入した、
強化人間、フォウ=ムラサメの操る可変MA。
『デストロイ』は戦闘の中、MA形態から変形し、
より対応力のあるMSの姿に変わっていたのである。
ロドニアのラボで薄々こうなると思ってはいたことだが、
また同じ事が起きているのかと、シャアは一瞬悔しさにも似た感情に襲われた。
「だとすれば、アレに乗っているのは『強化人間』か。
 当たってなければいいが……」
シャアはそう言って、ブランデンブルク門を飛び越え、ウンター・デン・リンデンへと躍り出る。
クィン・マンサの行動も気に掛かる。
ハイネの話に寄れば、奴はZAFT側らしき動きを見せていたらしく、
今回の戦闘でどうでるかはまだわからないとの事だが、
ロドニアで会ったラクス・クラインの顔を思い出し、
彼女の魂胆が全く読めない事にシャアは苛立つ。
奴の攻撃の矛先が此方に向くことがないよう祈りつつ、
彼はベルリン中央部へ向かって、ザクを走らせた。

 

※※※※※※※

 

ネオ・ロアノークは、北方より飛来したZAFTのMS部隊を見、
ダガー部隊に突貫した先頭の三機を確認すると、くわっと目を見開いた。
「‘インパルス’……あの部隊か」
ミネルバに搭載されているGタイプが二機に、フリーダム。
やはり彼らが来たかと納得する一方、あの『白いザクの少年』も来ているのかと、見渡してみる。
だが、まだあの機体はあの群の中にはない。
彼らを、ステラに近づかせるわけにはいかなかった。
すでに作戦は半分失敗しているようなものであったが、
あの三機にまで懐に入られてはこちらの全滅の可能性が深まる。
ボナパルトはあの緑のクリーチャーに沈められているし、
デストロイの足はMS形態になってMAより小回りがきくとはいえ、移動に関してはドンガメ同然。
それだけは、避けねばならなかった。
「ステラに近づけさせはせんよ!」
ファブリス、セリナ両機も同じ発想だったようで、共に迎撃のためにZAFTを迎え撃つ体制に入る。
スティングとアウルは、デストロイの両脇を固め、有りの子一匹通さぬ構えをとっていた。
すると、フリーダムが映像記録に何度も残した『あの体勢』を取り始める。
殺気とはいかぬまでも、完全にどこかを奪う腹づもりであった。
肩のプラズマキャノン、腰のレールガンに、ライフル計五つの砲塔が火を噴き、
咄嗟に、ネオらは回避に映り、一歩遅れた者達だけが巻き込まれる。
「くそっ……」
火力は健在か。奴とデストロイのせいで少し霞んでいるが、
この間まではコイツの火力に苦しめられたことを思い出した。
セリナが、前へ出た。真っ直ぐ向かっていく先にはフリーダムがいる。

 

「何なのよ…、何なのよアンタはぁ!」
セリナ・バークレイはシールドミサイルを放ちつつ、
右手でサーベルを抜くと、ミサイルを撃ち落としたフリーダムに接近し斬りかかる。
フリーダムは一の太刀を交わすと、
彼女の二の太刀が来る前に腰のサーベルを抜いて、
彼女が再び振りかぶって振り下ろした一撃を受け止める。
「答えなさいよ!」
あのエーゲ海の戦いでも、
フリーダムをみると戦意がいつの間にか消えていた。
コイツを見るたびひっきりなしに頭に響く、青年の声。
自分を呼んでいるのだと理解していたが、なんと言っているのかわからない。
青年が自分にとって大切な人のはずなのに、思い出せない自分が憎い。
全てコイツのせいだ。彼女はそう自分に言い聞かせていた。
コイツのせいだ。コイツのせいで自分がこんなに苦しまなければいけない……
「アンタ、一体私の何なのよ!」
火花がウィンダムとフリーダムの顔を照らし、
驚いているのか、フリーダムの押しが少し弱くなる。
しめたと彼女はパワーを上げ、フリーダムを徐々に下へ下へと押し込んでいく。
しばしの間、沈黙が続き……、
「……『フレイ』!?」
「…………!」
セリナの思考が、止まった。
周囲のエンジンの音やビームの飛び交う音、MSの爆発音。
それら一切のノイズが、耳に入らなくなる。
身体全身が心臓になったかのように、
ドクンドクンと、心臓の音が異様に大きく聞こえる。
目の焦点がぼやける。身体全体から、力が抜けていく…………。
《パパの船を撃ったら、この子を殺すって! あいつらに言って! そう言ってぇ!》
《あんた……、自分もコーディネイターだからって、本気で戦ってないんでしょ!?》
《あ、あの子が…、僕は、守れなか……ぅああ…》
《だから…フレイの想いの分もさ……もう逃げない。決めたんだ。
 しょうがないよ。この戦争を終わらせなきゃ…僕達だって》
《もう…誰も死なせない…。死なせるもんか!》
《なによ!同情してんの!?あんたが!…私に…?》
彼女の頭の中に、涙を流し、苦しみ足掻く少年の姿が浮かぶ。
そしてまた、彼を醜い言葉で責め立てるかつての自分。
ごく普通の学生だったのに、生まれのせいで、状況のせいで、
人殺しと言われなければならくなった、ずっと謝りたかった少年……。
「…………『キラ』?」
思わず、フリーダムのコクピットに掌を当て、接触回線を開いていた。
フリーダムも、抵抗する気が無いようで、二機の廻りだけ、
周囲の凄まじい応酬とは別の世界に飛んでしまっていた。
画面に、オーブ製のヘルメットを被った青年の顔が映る。
自分は、この顔を知っている。間違えようが無い。
「……ホントに、キラ?」
画面の彼の頬を撫で、彼女は呟いた。
彼の顔も、最初は信じられない風の顔をしていたが、
次第に顔が喜色に染まって行き、しだいに、彼女と同じように画面に手を伸ばしていた。
「君こそ……何で……」
「わからない。……わからないのよ」
頭の中に、どんどん『フレイ』の記憶が沸き上がってくる。
自分は何者だ? この記憶は本物か? 自分の名前は……?
「私、は……セ…リナ……? フレ…イ…?
 わかんない。訳わかんない!」
気持ちが悪い。彼女はそう感じ、フリーダムを突き飛ばしていた。
キラは思わず、再び手を伸ばしてブラウンのウィンダムの肩を掴む。
彼も、画面の中に映る彼女の顔を見、間違いないという確信を得ていた。
混乱し始めたときの彼女からは、間違いなく『彼女』を感じ取り、
今こうして、自分自身の中にあるモノに混乱している事が何よりの証拠だ。
だが二人は失念していた。
この場に『キラ・ヤマト』が存在することに反応を示すもう一つの存在を。

 

〈『キラ・ヤマト』ぉおおおお!〉

 

「「 …………!? 」」
凶悪なまでの殺意の波動。そして、そのキラと性質は全く違う存在。
キラは背中にヌッと現れた黒い影に、振り向く隙も与えられなかった。
奴はがら空きになっていたフリーダムの背に、
ダブル・スレッジ・ハンマーをたたき込み、ウィンダムごと地べたへと叩きつける。
二機とも錐揉みしながらビルの中へと突っ込み、
「うぅ……ぐっ!」
セリナははっとなって我に返る。
自分の上にずしりとのしかかるフリーダムの向こうに、
あの緑の怪物が、その巨体を此方に向け落下させ始めていることに。
(踏みつぶす気だ!)
そう悟った彼女は、フリーダムの胴体に手を回し、
背中のジェットストライカーと各スラスターが生きてることを願いつつ、
ペダルを思いっきり踏み込んだ。
幸運なことに、ジェットストライカーもまだ無事であった。
わずかに残っていたビルの壁を突き破り、
自分たちがいたところに奴の巨体が轟音と共に落下してきたとき、
彼女は全身の体温が下がる心地だった。
彼女は意識を手放していたキラを、フリーダムを軽く揺さぶることでおこし、
ベルリンの建物の間をすり抜けながら、後ろをそっと振り返る。
奴は、執拗に二人を追いかけて来ており、
援護に廻ろうと追いかけてくるウィンダム、ダガー、ディン、バビらを、
ただの障害物とすら思わず、はじき飛ばし、投げ飛ばし、叩きつけ、切り裂き、吹き飛ばし、消滅させ……
目線は一度たりとも自分たちから離そうとしない。
意識を回復したキラとセリナは、そんな極限の状況の中で、
アスランとシン、そしてネオとファブリスらが見え、
奴めがけ双方の流れ弾が飛んでくるのを見た。
「ダメだ! こっちを見ろぉ!」
「大佐! 大尉! 奴がぁ!」
早く逃げろ…と、そう言いたかった。
奴の狙いは自分(彼)であった。もしこのまま逃げ続けていれば、
もしかすればZAFT・連合双方から引き離せるかも知れない。
奴には実弾は装甲に通用せず、ビームはさきほどのウィンダム・バビへの対応を見て思ったが、
あのフィールド状のバリアを突破しなければならない。
『奴が諦めるか、疲れるまで逃げ続ける』
逃げ続けながらこの怪物への現在の対処法はそれしかないと確信していた。
だが、思惑は外れた。奴はとうとう、自分から目をそらし、彼らにその眼を向けたのである。
……一瞬の出来事であった。
奴の殺意の波動を先に感じ取ったのは、ネオとファブリスであった。
背筋を走る悪寒を頼りに目線をそちらへやると、
あの緑の怪物が、こちらにあの胸の砲塔を向けている事を悟る。
ファブリスは自分めがけて斬りつけてくるセイバーの手首を掴み、
ひねりあげてコクピット部に膝をたたき込んで、突き放した。
ネオはインパルスの直線的な攻撃をかわした瞬間、腰のクナイ型爆弾を取り、
インパルスの左腕に命中させバランスを奪い、回避行動に移った。
「アスラン! シン! 危ない!」
回避行動が遅れたセイバーとインパルスを見て、キラは思わず飛び出していた。
制止するセリナも振り払い、高機動モードで急速に二人へ近づき、
引っ張る間もない事を、後ろから迫る光の雨をみて悟るや、
二人を、アスランとシンが状況把握も出来ぬ間に、突き飛ばしていた。
地表に落ちていくのを見て、彼は光の奔流がもう間に合わないところまで来ているのを確認すると、
「みんな……、先に逝くよ……。
 フレイ、また会えたのに……、ごめん。
 君とはもっと……」
フリーダムを衝撃と高熱が襲い、キラの意識はそこでとぎれた。

 

※※※※※※※

 

ほんの少しの間とぎれた意識が戻り、
シンとアスランは自分が空を見上げている事に気づく。
「あれ…? 何が……」
一瞬すぎて、何が起きていたのか理解できなかった。
アスランは、セイバーの右手首に不調が起きていること、
シンは、インパルスの左腕が無くなっていることに気が付いた時点で、
自分たちが連合のMSにやられかけた事を思い出し、
凶悪なまでの細かいビームが、自分たちのいたところを掠めたことも思い出した。
瓦礫を避けながら立ち上がり、辺りを見回してみる。
そして、シンが、アスランより先に『あるモノ』を見つけてしまった。
シンは、ソレがなんなのか見当を付けると、
震える手で操縦桿を握り、残った右手でセイバーの肩を小突き、
「アスラン……」
「何だ!」
「あ、あれ……」
インパルスが指し示した方角に目をやったアスランは、少しの間考えるのをやめた。
見たことのある、ブルーのウイング。
見たことのある、キャノンの残骸。
見たことのある、腕と足。
身体の中を別の生き物がのたうっているような、苦痛に近い感情が襲ってくる。
セイバーを一歩踏みださせ、アスランは呆然となりながら、
「お…おい、キラ! どこだ?
 な…なんだこ…この腕は……。お……おい!
 キラ! 何処へ行った!?」
「……!? アスラン!」
アスランの後ろ姿を見、そして光の北方向を見たシンは、
はっとなってセイバーを抱え再び瓦礫の方向へ飛び退いた。
ゴウッと音を立てながら、今度は尋常でない規模のビームが二人とあの腕のあった通りを通過する。
「何なんだ! 何なんだ、彼奴は!
 ZAFTの機体じゃなかったのか!?
 キラは何処へ行ったんだ!?」
〈『キラ・ヤマト』は、こなみじんになって死んだ〉
「「 ………!? 」」
二人の頭の中で、言葉が走った。
それも、二人の知っている人間と同じ声でありながら、
印象の全く違う、冷たい感情しか感じられない声で。
〈次は君たちだ……〉
「嘘だ……」
アスランの中で、グラグラとしたものが煮立ってゆくのをシンは感じた。
今までにないほど、アスランから感じる『プレッシャー』がふくらんでいき、
シャアやデュランダルから感じていたモノに近づいていっているのを実感する。
「彼奴の声で……、彼奴を殺したなどと…………」
セイバーが、一歩前に出る。
緑色の怪物が、気圧されたのか一歩後ずさり、
アスランは、地を蹴って飛び出した。

 

「ウソをつくなぁああああああああああ!」

 
 

第22話〜完〜

 
 

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