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CCA-Seed_787◆7fKQwZckPA氏_23

Last-modified: 2011-02-21 (月) 22:14:30
 

一つ、星が光ったように見えた。

 

シャア・アズナブルは、ベルリンの空を見上げて、
またクィン・マンサのメガ粒子砲が天へと放たれるのを見た。
高熱を孕んだ粒子のビームは、収束せずに拡散させている。
これから先、奴と連合のMAに接近するのは至難の業であった。
だが、これ以上放置しておけば町の損害がどんどん増えていくばかりである。
シャアは、ガズウート部隊にこの地点を確保、死守するよう命じ、
バクゥ部隊とレイ・ルナマリアには身を隠しつつ、前進を再開し敵MAの背後に回るよう言った。
そしてシャアはハイネのグフに近づいて、
「シンとアスランの姿がないのが気になる。
 ノエミは空で粘っているようだが、キラ君もいないとなれば心配だ」
「俺に探しに行けってか……」
「頼む……」
シャア個人としては、あの三名がまだ生きているという確信があった。
先程クィン・マンサのビームが走ったあたりで、
爆発的にふくらむプレッシャーを感じ取り、
それがアスランであると直感で認識していた。シンも恐らくそこにいるであろう。
ただ、キラの気力・活力と形容すべきものの存在が朧気で、
安否が危ぶまれる状況にいることに間違いはなかった。
ハイネは少し渋るような様子を見せたが、
忽ち目の前の建物へ飛び乗ると持ち前の機動力で、
みるみるうちに火花の飛び交う空へと消えていく。
シャアはそれを見るや、目線を地上へと戻し、レイとルナマリアの後を追った。
頭上を、ガズウート隊の一斉射したバルカンと対艦ミサイルが通過していく。
その殆どが、混迷を極める連合勢へと吸い込まれて行き、陸戦部隊の道を切り開く。
ブレイズバクゥハウンドが、ブースターで強化された突進力で街道を突き進み、
街道を駆け抜けウィンダム達の目を引きつける。
ガナーを装備したバクゥが地面を滑り、
建物から顔を出しビームキャノンをMS群へ撃ち込み、身を隠す。
シャアはベルリンの建物の上を駆け抜けながら、
上空から向かってくるダガーの攻撃をかわしつつ、
バズーカをがら空きになったボディへ撃ち込む。
彼は一度飛び上がって、ディンと交戦していたダガーの背中を切りつけながら、
其奴が爆散する前に蹴りつけてさらに飛び上がるという空中戦をやってのけ、
一歩一歩着実に黒いMAへと近づいて行く。
レイとルナマリアも、シャアが心配する必要は無いようであった。
レイは極力背中のビームキャノンを使わず、空から落ちてきたディンのアサルトライフルや、
ダガーのバズーカを現地調達で補いつつバクゥ部隊の援護を行い、
時にやられかけた味方を襲うダガーに撃ち込みながら、確実に敵MAへと近づいて行く。
ただ、あのMAに乗っている人物の波動を感じ取ったのか、
怒りに近い感情を持って向かっていることに一抹の不安を感じてしまうが。
ルナマリアはというと、スラッシュのビームガトリングを搭載したバクゥ部隊を連れて、
彼らに牽制のビームを撃たせつつ自ら空中へ飛び上がり、
チームから離れたウィンダムを一機一機葬っていく。
空中で重量のある格闘兵装を用いながら、バランスを修正し体勢を整える見事なAMBAC術は、
ジブラルタルで目覚めた後さらに磨きがかかったように見える。
常時『彼女』が表に出てきたのかとヒヤヒヤしながら見ていたが、その傾向はないようだ。
シャアが加えて気になったのは、空中でディンとバビ部隊をまとめているのがノエミであることだ。
彼女は今現在群がるダガー部隊を退けるので精一杯であり、攻勢に転じる余裕が感じられない。
数の差が圧倒的なので仕方がないと言えば仕方がなかった。
加え、アスランとシンがいない中戦線を維持していることはほめてやって良い。
彼女は目下に地上部隊が到着したことを悟ると、
シャア機を見つけ、器用にもMSで手話を行った。
〈テキノゲタ、ゼンポウ200ニアリ。ロカクノノチエンゴモトム〉
「……『ベースジャバー』か」
手話を読んだシャアは一個先の建物を越えると、
目下にかつてティターンズの用いたSFSが放置されていた。
幸運なことに、クィン・マンサとの戦闘時にパイロットが不要と判断したらしい、
「『ドダイ』の方が使い勝手が良いのだが……、贅沢は言ってられんか!」
シャアはその上に飛び乗り、ベースジャバーが起動したままであることに感謝した。

 

※※※※※※※

 

「ステラ……?」
レイ・ザ・バレルは、
彼にとって理解できない現象のまっただ中にいた。
ほんの短い間、一秒か、それすら立っていなかったであろうが、
はっきりと、あの黒く大きなMSの中に少女が座っているイメージが、
克明に浮かび上がったのである。彼は、愕然となった。
レイは、天にむかって呪詛の言葉をはいてやりたい衝動に駆られる。
なぜ彼女をアレに乗せた!
なぜ彼女を戦場へ引きずり出した!
そしてその彼女は今、上を向いている。
MSの頭部ビームキャノンをディン部隊めがけ横薙ぎに放ち、
地上のバクゥ部隊へ腕部ビーム砲をまき散らし、
まるで大切なモノを目の前で壊された子供のように、
がむしゃらになりつつある攻撃を見、
彼は悔しいのか悲しいのかわからない複雑な心境になる。
ふと、上空にマゼンダのウィンダムが現れ、レイの身体が沸騰したように熱くなる。
「貴様ぁあああ!」
背を向けていた其奴は彼の存在を肌で感じたか、
振り返って彼を視認し、此方へ向かって突撃してきた。
互いの刃を互いのシールドで受け止める形になり、
バチバチとあがる火花に照らされる顔同士をぶつけ、
「何故また彼女を戦いに巻き込んだ!
 彼女は、もう戦いをするべき人では無いはずだ!」
「それが許せんと言うなら間違いだ、白い坊主君。
 戦争が無ければ、ステラは長く生きていられなかった」
マゼンダの機体に乗っている、〈あの時〉の仮面の男の声が聞こえる。
レイへ向けたものに聞こえるが、自分に言い聞かせようとしている風もあった。
「それは理屈だ!」
レイはウィンダムを力任せに突き飛ばすと、腰のラッチに手をかけ、
マゼンダの奴は殺気を感じ取ったかふっと横の街道へ消える。
ソレが狙いだった。
レイはその一瞬を見逃さずに大地を蹴り、建物の上へ飛び出す。
「チィ……フェイクか!」
後手に回ってしまった事を奴は悔やんでいたが、
レイは振り返ることなく黒いMSの下へと駆けて行った。

 
 

機動戦士ガンダムSEED DESTINY IF
〜Revival of Red Comet〜
第23話

 
 

「やだ……やだぁ……お姉ちゃ……」
ステラ・ルーシェは、止めなく流れる涙で顔を汚しながら、
自分が慕っていた姉、セリナ・バークレイが、
フリーダムと共に閃光へ呑み込まれて行くのを見、
羽を失った堕天使のように地表へ落ちて行く二つの物体を見て、
とうとう彼女の心は恐怖に染まった。
目の前のもの全てが、自分の大切な人たちを襲うモノに見える。
空を飛び回っているモノ、地上を走り回っているモノ。
それら全てに当たり散らすように、彼女は操縦桿のスイッチを押し続ける。
頭部ビームキャノンの赤い奔流が、ディン数機を巻き込みながら雲を裂く。
胸部ビーム砲三門から発射される光が、地表をなぎ払い、
遠目に見えたガズウート部隊に直撃する。
次に目をやったのは、ネオのウィンダムを押しのけた白いザク。
彼女は、デストロイの腕部を切り離し、白いザクを取り囲むように、前方の建物めがけ飛ばす。
白いザクを囲むトライアングルが完成し、彼女はトリガーを引こうとした。
しかし、予想していなかった事が起きる。デストロイの右腕が、突如爆発したのである。
いや、突如ではない。彼女は、一瞬反応が遅れたのだ。
空中から、右腕に何かが投げつけられたのである。
ザクに標準搭載されている、ビームトマホークであった。
投げつけられた方向にいる奴をモニタに映した彼女は、
それが色違いの赤いザクであることに気が付いた。
ベースジャバーに乗り、味方を次々とサーベルとバズーカの餌食にし、
こちらへトマホークを投げつけた赤い奴。
……あいつも、自分の大切な人を傷つける悪い奴!
そう思った瞬間、白いザクがすでに目の前にまで迫り、
スティングとアウルの攻撃を避けながら、此方に近づいてくる。
ふと、彼女の頭の中で言葉が走った。
〈ステラ!〉
「……!?」
聞いたことのある、声だった。ネオの顔が一瞬頭に浮かぶが、違う。
白く明るい場所で、暖かな感情がこもっていた声。
ネオやにーにーのように、人間としてステラを見てくれた人……。
「待って! スティング! アウル!」
「はぁ? 何言ってんだ! コイツは……」
彼女は恐怖の中から抜け出して、デストロイの左腕を戻し、白いザクに近づく。
「レイ……?」
白いザクの姿や自分を取り囲む計器類が消え、まるで宇宙空間のような、
煌めきに包まれた不思議な光景の中に、金髪の少年の姿が見える。
自分の身体のようにデストロイが動き、
白いザクの動きも、機械としての動きからより一層人間らしい、
ゆっくりとした動きで右腕を差し出した。
「何なんだ、こりゃあ!?」
スティング・オークレーとアウル・ニーダは、
自らに起きた魔何不思議な現象を理解しようと思っても、出来なかった。
もやもやしたような、訳のわからぬ空間に引き出されたかと思えば、
自分たちの十数メートル先で、ステラと、金髪の男が向き合っている。
……ネオにそっくりだと思った。
だが、違うと背丈格好ですぐわかる。ZAFTの赤服だ。
金髪の青年が、叫ぶ。
〈もう、君を作ったような連中の為に戦う必要なんて無いんだ!
 俺たちが、君が戦うことのない、MSに乗る事のない世界を造る! だから……!〉
まるで大きな洞窟の中のように、何度も何度も頭の中を言葉が走る。
スティングは、これが現実に起きているのではなく、
お互いの心と心が、一事的に繋がり合っている状態なのだと勘づいた。
今聞こえたのは、金髪の青年……『レイ』の本音なのだとも。
何時の間にか、あの金髪の名が『レイ』であると知り、
向こうも、ステラだけでなくこちらの名を知ってしまっている。
ステラを介して、名前が伝わったのか、
それとも自分も奴と繋がっているのか……。
「ふざけるな!」
思わず口から言葉が出ていた。
『強化人間』『生体CPU』〜MSに乗りコーディネイターを殺すことを運命付けられ、
生き残りをかけた訓練の中を生き延び、
敵を討つ事でしか己の存在意義を見いだせない。
そんな自分たちがMSに乗らず、どうやって生きる意味を見いだせばいい?
スティングがそう叫んだ瞬間、四人は現実の世界へと引き戻された。
瞬き程度の、一瞬の時間だったようだが、
それが一時間にも感じられるほど、奇妙な時間であった。
スティングは悟った。コイツは俺たちに敵意は持っていない。だが、
「てめぇの言うことの方がよっぽど理想論だ!
 歯の浮く台詞で俺たちを惑わすな!」
スティングはサーベルを抜いて、白いザクののど元に突きつける。
ジリジリと装甲が焼ける音がして、
「スティング!」
「お前もだ、ステラ! 敵と戯れるな!」
ちょっとだけ白いザクから意識を逸らしたとき、その隙を奴はついてきた。
両膝を曲げ、機体のバランスをくずして視界から消えた奴は、
軸足を曲げて屈み、右足をカオスの足めがけ振るった。
足下をすくわれたカオスを見たアウルが、ランスを構えて白いザクへ突貫する。
止めて、止めてと、ステラが叫んでも効果はなかった。
スティングもアウルも、レイをもう自分たちを脅かす者としか思っていない。
強化人間の事情も知らずただわめくだけの気に入らない奴と。

 

そして、運命がどんどん悪い方向へと転がりだした。

 

ステラは見た。此方めがけて突進してくる三機のMSと、
その後ろから追いかけてくる緑色の怪物を。
赤いGと、白いG、そしてオレンジのグフは、
それぞれ損傷を負いながら緑の怪物へ振り向き様攻撃を仕掛けるが、
怪物にビームは通用しない。近づきたくても、奴もサーベルを持っている。
パワーバランスが違いすぎ、ウィップは意味をなしていない。
彼女は知っていた。
あの三機が、何度も自分たちと刃を交えたMSであることを。
彼女は知っていた。
あの緑色の怪物が、自分たち全員を葬り去る力を持っている事を。
最後に、セリナ機の最後を思い出した彼女は、悟った。
あの怪物を葬り去らなければ、みんながどうなるかを。
「……ダメぇええええ!」
彼女はデストロイを前へ踏み出させていた。
左手でレイのザクを壊さぬようビルへ押しつけ、
巨体でカオスとアビスを反対側へ下がらせる。
あの三機が、此方を認知した瞬間彼女は頭部ビーム砲で、
彼らを一度引き離した後、彼女の視界は緑色で埋め尽くされた。

 

※※※※※※※

 

〈〈〈 ステラぁあああ! 〉〉〉
シン・アスカ、そしてアスラン・ザラは、
頭に響くレイ、そしてカオスとアビスのパイロットの叫びを聞いて、
目の前を通過した緑の怪物が突き刺した、黒いMAのパイロットが誰か悟った。
知っている感覚だとは思っていた。
フリーダムを落としたとほざいたパイロットに対する怒りが、
考えさせてくれなかったのである。
考える余裕がなかった、と言っても良い。それは、戦闘に入ってから悟った。
情報より連合軍の数がごっそりと減っていたのは、コイツのせいだと。
時間をかけて、チャンスを見て攻勢に転じるつもりが、こんな結果を招いたのである。
二人は、愕然となった。
ディオキアで出会い、ついこの間までミネルバに収容されていた、
強化人間の少女の名が聞こえたのだから。
「ウソだろ……?」
奴は黒いMAの胸部ビーム砲の砲塔に、深々とサーベルを突き刺していた。
しかしステラから発せられる感覚は、攻撃された事への恐怖ではなく、
「……!? よせ!」
彼女の意図を悟ったハイネが叫んだ。
黒いMAは、レイを押しのけていた左手で、怪物をぐっと抱きしめたのである。
ほんの10m程度の違いであったが、左手を右バインダーを囲うようにし、
バインダーの角を掴んで、
〈みんな離れて!〉
シン、アスラン、レイ、ハイネ、スティング、アウル、そして周囲のMS達に声が聞こえた。
アスランとハイネは一瞬悔しさに唇を噛んだが、冷静さを取りもどすと、
二体の怪物の足下へと飛んで行き、
「…ぁ……ぁあ」
呆然となっているレイのザクを抱え込んで、天高く飛び上がる。
「は、離してくれアスラン! ステラが!」
「もう遅ぇ! 諦めろ! 彼女は……」
レイは我を取りもどすと、彼女を救わんとし、
諫めるハイネのグフとセイバーの手を振り払おうとするが、
二機はなおも空へと上がり、ふとカオスらの方へ目をやる。
彼らも、必死で暴れていたが、『ギャプラン』や『マラサイ』らに抱えられ空域から離脱していく。
緑の怪物は、自分より大きなMSに押さえつけられながらも、なお動く。
「化け物が……」
アスランは、結局奴に決定的なダメージを与えられなかったことを思い出し、
キラになにも報いてやれなかった事を悔やみ、これで全て終わってくれればと願った。
デストロイの身体から一つ、また一つと光が走り、
辺り一面がどんどん明るくなって行く。

 

〈サヨナラ……〉

 

声が、聞こえた。

 

そしてベルリンの町を閃光が支配した。

 

「あぁあああぁぁぁぁ!」
通信機越しに、レイの悲痛な叫びが聞こえ、
アスランは居たたまれない気持ちになる。
シンも、胸からこみ上げてくるものを必死で押さえつけようとしていた。
ディオキアの海で出会い、一時であれ楽しい時間を過ごし、
衝撃と共に再開し、生まれ育ちの不運に心を痛め、
幸せを願ってレイが向こうへ返した少女を思い浮かべながら。
そして、気持ちを切り替えるべくヘルメットを脱ぎ頬を叩く。
ハイネはと言うと、一人冷静に閃光の走った方向を見つめていた。
ズズ…ンッ
辺りを衝撃波が揺らし、窓が割れ、煙と瓦礫が巻き上げられる。
黒煙が、ステラがいた場所一帯を覆い尽くし、どうなっているかの判別すら付かない状況だった。
ノエミのカオスが、MAの破壊によって混乱し出した連合軍を突破し近づいてきた。
「……ハイネ、レイは!?」
彼女の声にシンは、無言でセイバーが抱える動かぬザクを示し、
ノエミは言葉を失った。状況から見て、あのMAに乗っていたのは、
「ステラちゃんが……」
「ああ。あのアンノウンもろとも……!? 危ねぇ、避けろ!」
ステラの死をノエミに伝えた瞬間、ハイネは、
背中を駆け上がるゾワゾワとした感触に鳥肌が立ち、
直感で、彼女のいる場所に攻撃があると察知して、彼女のカオスを突き飛ばしていた。
そして1秒かそこらで、二人の間を一条の光が駆け抜けていた。
見る見るうちにグフの左腕が、触れてもいないのに熔けて行く。
ハイネはゾッとなった。
下から、斜め上へ撃ち抜かれた。と、言うことは……
ハイネのみならず、シンも、アスランも、レイも、ノエミも、
ここへ来ていたZAFTの部隊皆が、おそるおそる、
立ち上る黒煙へと目をくれ、煙の中から出ている一本の腕を見つけた。
腕の手首当たりには砲塔らしきものが見え、それは此方に向けられていた。
「嘘だ。ステラは、自分を犠牲にしてまで。
 …………何故だ! 何で傷一つ……くそぉ!」
レイが、怒りにまかせて天にほえる。

 

そして黒煙の中から、クィン・マンサがその巨体を露わにした。

 

ベルリン市街に流れる長い沈黙を破ったのは、
いずこからか発射された巨大なビーム、そして数多のミサイルであった。
ハイネは煙の中で仁王立ちする‘奴’から目をそらし、そちらへ目をやった。
「ミネルバか!」
空へと舞い上がる幾条もの光の奔流を見、
異常事態であると察したタリアがミネルバを発進させてきたのだと気づく。
艦首砲から発射されたミネルバの切り札は、真っ直ぐ‘奴’めがけて飛んで行く。
これがダメなら…………。
その場にいる誰もがそう感じていた。
‘奴’は動く気配すら見せずジッと飛んでくる光を見つめ、
またフィールドを張ってそれすらはじき返してしまう。
「どうやって勝てってんだよ……」
圧倒的な絶望感が、彼らの心を支配し、もう操縦桿を動かす気力も奪っていた。
そして奴の胸が光り、閃光が辺りを覆い尽くす。…死ぬ。ハイネはそう感じ目を閉じた。
しかし、時が経っても、自分たちに光が襲ってくることはなく、
不思議に思って目をおそるおそる開けてみる。
「…………?」
‘奴’の姿は、消えていた。単なる目くらまし?
だとすればその意図が余計わからない。ここで自分たちを殺さずして、どうしようというのだ?
特にシャアとハイネは、奴のバックにいるであろう『彼女』が、
何を考え、何のために奴を投入しつつも自分たちを殺さないでいるのかが図りかねる。
しかし、悲しみと屈辱にうちひしがれながら、
彼らは向かえに来たミネルバからの帰投命令に聞き入るしか、
もう選択肢は残されていなかった。

 

※※※※※※※

 

「おい、聞こえるか!
 バークレイ中尉! 返事をしろ!」
ファブリスはステラの死を悟りつつも、無く暇を与えられることはなかった。
ネオも同様で、生き残っているウィンダムとダガーをまとめつつ、
ホアキン隊に彼らとカオス、アビスを連れて撤退するよう指示している。
奴の目がZAFTに向けられている間を狙っての、屈辱の退却だった。
ファブリスは、連中とは反対側の建物の瓦礫に埋もれたウィンダムを見つけ、
それがブラウンのカラーである事から、セリナ機であると悟って、
せめて彼女には生きていて欲しいと願いながら瓦礫をどかす。
瓦礫から出てきたウィンダムには、頭と左腕が半分ほど融解し、
左足が完全に焼け落ちていた。
ジェットストライカーも原型がほとんど無く、
よく誘爆しなかったものだと思いながら、抱き起こそうとする。
すると、
「……わたしが……守……る…から…」
通信機越しに、うわごとのようにその言葉を繰り返す彼女の声が聞こえる。
守るとはどういう事だ?
そう思いながらウィンダムのボディを抱きかかえ……
「これは……!」
MSの胴体が、ウィンダムの右腕に抱き抱えられていた。
細いビームであったことが幸いし、この機体にも左腕と頭だけが残っている。

 

ただ、この機体は、『フリーダム』だ。

 

この機体に、誰が乗っているのだろう?
十中八九、ZAFT寄りの人間がパイロットであることは間違いない。
それが誰であるにせよ、彼女がこうして守ろうとした人間である。
ファブリスは、近くに寄ってきたネオ機にむかって手を振り、
セリナの無事と、一つ持ち帰るモノがあることを報告し、セリナとフリーダムの回収を急ぐ。
ステラの敵は、いずれ討つ。そう心へ刻みつけながら。
通信機越しに、ネオの声が聞こえる。
「……すまない、ステラ。 今はまだ仇は討てん。
 だが、いつかきっと墓前で胸を張れるようにする。
 だから、俺たちを導いてくれ、な」
ネオがフリーダムの胴体を抱え、ファブリスは一度地へ下り、
向こうがまだ先頭には入れるような状況でないことに感謝しつつ、
セリナ機から彼女を救出し回収した。
そして空へと飛び上がり、煙と炎にまかれるベルリンの空を去って行くとき、
二人の頬を一筋の涙が流れ落ちた。

 

※※※※※※※

 

「想像以上だったなぁ、コイツ」
ベルリンから北へ百数十卉賄世髻大型輸送機が飛び、
ソレにつり下げられるようにして、NZ-000はその巨体を休めていた。
キラツーは、輸送機内に宛われた自室のベッドにその身を横たえ、
ベルリンで大暴れできた事に満足げであった。加えて、
「まさか『オリジナル』が来るなんて……ク、ク…」
彼奴を排除できた事が、嬉しくて溜まらなかった。
胸部のビーム砲に巻き込まれる形であったが、ラッキーだった。
ウィンダムっぽい影が通った気がするが、あの熱量だ。無事では済むまい。
「それにしても、『ミネルバ隊には手を出すなって』……。
 ラクス様の命とは言ったって、意味わからないな……」
実はフリーダムを見てハイになっていたおかげで、
キラツーの頭から少しの間消えていたが、ラクス直々にそう命じられてもいたのである。
彼女の意図するところは、彼にはわからないし、理解しようとも思わなかった。
自分は彼女の手足になれればソレで良かったし、
今回オリジナルがいなくなったおかげで、
自分が堂々と『キラ・ヤマト』として彼女の隣に立つことが出来る。
「そう、ソレで良いんだ」
キラツーは天井を見上げて、ぼやく。
そう、自分はラクスのためにしか働けないのだから、難しいことは考えなくてよいのだ。
憎み続けたオリジナルが、どんな奴だったのか少し気にしながら、
キラツーは眠りの世界に入っていった。

 

※※※※※※※

 

〜東アジア共和国・南京

 

南京の大街道を進む大統領専用車の中で、ツァオ・フェンは、
すこし強めの風が吹いている中少し車窓を開けた。
「……嫌な風だ」
一言そう呟いた。妙に肌触りの悪い、ゾワゾワとした感触がする。
これから東アジアを巻き込む動乱が起こると予感しているのか、
この地で行っていることの恐ろしさを想像しているのかは、彼自身にもわからなかった。
南京を訪れた『獅子の娘』には、良い返事を返すことを匂わせたまま帰国させておいたが、
それが有効に働く好機が到来した事を、ヨーロッパに忍ばせておいた間諜のもたらした情報で知った。
……自然と、頬が綻んでしまう。
ブレイク・ザ・ワールドで多少の被害が出た時、
大西洋の思惑に乗らず、腰を上げないで、
なるべく犠牲を抑えてきた甲斐があったというものだ。
「大西洋が自ら墓穴を掘ってくれるとは。
 これで、我々が堂々と勝者側に立って動けるというもの。
 短気なジブリール君には感謝しなければいけないな……」
車内に設置された専用のタッチ式モニタをいじりながら、
彼は行政部からあがってきた書類等にザッと目を通し、
間諜からもたらされた新たな情報に付いての機密文書を思い出す。
スーツの懐へ入れておいたそれは、蝋で封をされた跡のある極めて古典的な物であったが、
データ化されてハッキングを受ける危険性を考えれば、此方が明らかに安心できる。
「それにしても、ジブリールは‘いいもの’を拾ったらしい。
 それを教えてくれないとは、つれない奴よ……」
文書には簡潔ではあるが、彼にとって重要な情報がいくつかあった。
・月の連合軍基地、連合と言っても実質的にはファントムペインの巣窟であるが、
 その地下に都市が埋もれていた事が発覚し発掘が進んでいること。
・MSや戦艦が『発掘』され、そのどれもがオーバーテクノロジーを用いた性能を持っている事。
 それらは当地の研究者間では、失われた文明の産物としての見解が濃厚。
失われた文明に関しては、ツァオにとってはどうでもいい話である。
過去の歴史など、現代に生きる自分にとって無縁の長物でしかなく、
自分たちにとって役に立つか立たないか、その一点のみが重要なのだ。
そして、ファントムペインが手にしたと知っても、彼は危機感を覚えてはいなかった。
「欲しければ奪い、こちらも作るまでだ。まぁ、デッドコピー程度にはなろう」
一機奪って、解析して、複製・修復できる部分のみ抽出して、
現代の技術と融合させ量産化を図る。
これまでやって来た事をそのままやってしまえばいい話だ。
すでに、月には細作を放ち奪取する手はずを整えさせ始めている。
今になって、オーブのお姫様と繋がりを持ったことが、これ以上ない幸運としか思えなくなってきた。
彼はほくそ笑み文書の二枚目、三枚目へ目を通し始める。
「天運我にあり。彼らはどう思っているのかな?
 デュランダル、ジブリール、それとあの姫様もな」
二枚目の文書は文面でなく図面が一緒であった。

 

〈モルゲンレーテ・大東亜重工業公社による機動兵器合同開発資料〉

 

と上段に書かれ、江蘇州・蘇州市ですでに行われている合同開発の概要が描かれていた。
蘇州は国内の巨大経済と、国際経済の玄関といえる上海とを繋ぐ要所であり、
現在は上海との出入りは厳重な警戒の下でしか出来ないようになっている。
もし、万が一敵の諜報員が進入したとしても、
この計画がばれる頃にはもう趨勢は変わっているはずだ。
この計画の中でとくに重点を置かれているのはMS開発である。
陸・海・空の内、空はすでにムラサメをオーブから購入する段取りを進めており、
当面の課題となったのは陸と海である。
この間の地中海戦で苦汁をのんだとはいえ、相手が相手。
ムラサメがウィンダム以上に空戦に強いMSであるという認識は変わっていない。
実は、東アジア共和国軍にはまだウィンダムが搬入されておらず、
陸ではストライクダガーが今だ主力という、軍備の面では貧弱極まりないものであった。
それも、兵器開発側である大西洋連邦が自軍に優先的に配備させている途中の段階であり、
今現在の動向から見て、此方に手を回すことなどもうあるまい。
そしてアジアとオーブ両者の間で意見が一致したのは、水陸両用MSの新開発という点であった。
もし大西洋やZAFTを敵にする事となった場合に際し、
最も脅威なのは空では無く、海中からの不意打ちにある。
現在、太平洋上の制海権は、
フォビドゥンヴォーテクスやディープフォビドゥンを多数擁する大西洋連邦にあり、
なんとしてもコレを覆さねば、離反したところで本土上陸されるだろう。
ならば、前もって制海権を大西洋からアジア・オーブ二国のものとしてしまえばいい。
その発想の下に開発されることとなった、
新型水陸両用MS・MAの図面が今ツァオが目を通しているそれであった。
「外見がほぼZAFT系ではないか……」
設計部で出た意見の一つに、
水中で人型である必要が無いというものがあり、
ソレに賛成する者が多かったそうだ。
加え、センサーなどの繊細・敏感な機器が頭部に集約するのは望ましくなく、
頭部に設置するにせよもっと装甲で補強してやる必要がある。
結果として、連合系の人型から、ZAFT系の丸い形へと変更されたらしい。
『ズゴックE』・『ハイゴッグ』・『アッガイ』・『カプール』
開発陣によるネーミングも、不思議な事にしっくりとなじんで聞こえる。
まるで、遺伝子の中に記憶されていたかのように。
特に、このアッガイなるMSは女性パイロット陣の受けがよさそうだ。
そんなことを考えながら三枚目へ映り、手が止まった。
今回の計画の目玉にして、両国に一機ずつ作るという、
デストロイに対抗するという特別な意味も込めた巨大MAの図面である。
『シャンブロ』
MHDとゲシュマイディッヒ・パンツァーを組み合わせた無音推進装置と、
併設されたホバーによって陸海双方で尋常ならざる高機動を実現しているという、
ツァオ・フェンは、こらえきれなくなったのか高笑いをし始めた。
これからアジア圏は、とうとう西洋を超え世界の頂点となる。
そんな幻想を抱きながら、彼は宮殿に着くまで笑い続けていた。
そして数日後、クィン・マンサの存在について一切語られることなく、
大西洋を除く各国のメディアが、デストロイの悪行‘のみ’をあげつらい糾弾することとなる。

 

……何者かが敷いたレールの上を走るように。

 
 

第23話〜完〜

 
 

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