Top > CCA-Seed_787◆7fKQwZckPA氏_28
HTML convert time to 0.011 sec.


CCA-Seed_787◆7fKQwZckPA氏_28

Last-modified: 2011-04-29 (金) 07:13:04
 

〜ジブラルタル基地・第5ポート

 

「お久しぶり、カガリさん」
「マリュー・ラミアス、息災そうで何よりだ。ミリアリア・ハゥも、無事だったか……」
カガリ・ユラ・アスハは、知人との久方ぶりの再開に喜びを露わにし、
先程までミネルバクルーやデュランダル達に見せていた、
もはや獅子と敬称すべき峻厳な姿はなりを潜め、以前の素直な少女の顔を見せている。
マリュー達と会ったときに、必ず聞かれるであろうと覚悟していた、
今回の大西洋への離反については事情を察してか、彼女らは何も言わない。
ありがたいと言うべきか心苦しいと言うべきか、複雑な気分である。
ふと、一番今会いたかった顔がここにいないことに彼女は気付く。
「ところで、キラとラクスはどこだ?
 アンディ……バルトフェルドの姿も無いが?」
地雷を踏んだ。彼女がそう気付くのに時間はいらなかった。
先程まで喜色を見せていたのが、実はギリギリの所で作っていた顔だと解る。
見る見るうちに、マリューやミリアリアの顔が暗くなってゆく。
カガリは、温度が忽ち冷え、悲しみと悔しさに満たされ始めた基地の客間の中で、
自分にとって唯一と言って良い肉親と友人達が、どうなったのか察しを付ける。
「そうか……三人とももう……」
「三人じゃないわ……」
二人よ。マリューはカガリが言いかけていたところを止め、そう言った。
「二人? どういう事だ」
「いなくなってしまったのは、キラとバルトフェルド隊長だけ。
 ラクスさんは、多分大西洋連邦だと思う」
「……馬鹿を言うな」
カガリは、マリューの肩を掴む。
顔が先程まで見せていた猛獣の顔に戻り、マリューは、
この顔が彼女が精一杯の力で造り上げた仮面なのだと理解する。
少しでも、自分に降りかかる危難を和らげ、相対する強さを心中に沸き上がらせるための。
なおもカガリは、目を合わせようとしない彼女に苛立ちを感じながら、揺さぶる。
キラとバルトフェルドがもういないのだと全身で語る彼らのその言葉は信じがたく、
そうありつつも、異様なまでの実感を彼女に与えた。
「オーブで襲われたとき、最初はZAFTの特殊部隊では無いかって疑ったわ。
 アッシュ……ZAFTの正規軍に配備され始めだったMSだし。
 あの時は慌てていたから。そして、すぐに出港することにしたわ。
 MSの爆発で国防軍が来る事と、何よりその時の私たちはセイラン家を信用してなかった」
よく考えれば、今のプラント政府にラクスや自分たちを襲うメリットなんて存在しない。
それ故に、その説についての信憑性はすぐに疑われ始めた。
また、ラクス・クラインの行動についても、
マリューはぼそりぼそりと一言ずつ、まるで恐怖談を語るように言う。
アスハ家別邸地下にMS整備工廠を設営しフリーダムを作り直していたこと。
セイラン家を信用するなと真っ先に言い出し、反論を出るのも待たずに出港を急いだこと。
あれだけの騒ぎの後、出港するまでの間近所の人が動く様子が、誰一人として無いこと。
出航後、すぐにスカンジナビアに向かうことをせず、一度旧カナダ領に身を寄せ、
バルトフェルドを連れていずこかへ出かけていったきり帰ってこないこと。
「帰ってこなかった? 何故待たなかった」
「キラ君なのよ、彼女を待たずにスカンジナビアに行くべきだって言ったのは!」
「キラが!?」
カガリの頭は混乱し始めていた。
自分の見知っている人間の中で、ダントツにラクスを信用しているはずのキラが、
その時一番ラクスを信用せず、マリュー達に訴え出たと言うのだ。
「出港して海に潜ってからだけど、停泊していた入江はすぐに襲撃されたそうよ。
 だから私たちはその時察したの。バルトフェルド隊長は戻ってこないって」
「ならば、どうしてラクスがそんな動きをしていることを、彼らには言わないのだ」
「カガリさん! その言い方をやめて!」
カガリが怒気をさらに強めたとき、客間のドアが開いた。
「失礼します、ラミアス艦長」
カガリは、今の今まで心の奥底で聞きたいと願っていた男の声が背中でしたことに、
電撃が走ったように振り返り、その男の姿を眼に入れた。
アスラン・ザラ。数ヶ月前まで自分の傍らに立っていた、
どこか頼りなげであっても常に自分を守ってくれていた青年。
それが今、かつての生やさしさが消えた、それこそミネルバで出会った『隊長』のような、
峻厳な軍人の放つ気を纏わせて、開いた戸と部屋の間に立っていた。
カガリは今すぐにでも飛びつきたい衝動に駆られるが、グッと押し殺す。
「もしや聞き耳か?
 デュランダル議長旗下の部隊にしては、
 ずいぶん不躾な真似だな……アスラン・ザラ」
「これはご無礼を。ですが、聞き耳は立てておりません」
カガリはあえて、そうやって突き放すように言うことで、無理矢理自分の心を彼から引き離す。
そうでなければ、自分を抑えられそうになかった。
知り合いしかいない空間においてなお、
その物言いをしたカガリを咎めようとしたマリューを目で制して、
カガリはアスラン・ザラに部屋へ入るよう促した。
アスランは一歩だけ、部屋に踏みいる。彼の後ろで戸が閉まり、部屋の圧迫感が強まる。
「……用件は何だ?」
「アークエンジェルの処遇について、東アジアから回答がありました。
『アークエンジェルについては二年前、条約通り地球連合、
 東アジア共和国に返還されていた艦船であり、
 昨年度オーブへと払い下げられたものである』……と」
「……何ですって!?」
アスランのこの言葉に驚いたのはマリュー達であった。
カガリは眉一つ動かさずに、
「そういう事だ。すまない、艦長。
 私としたことが取り乱して言うのを忘れていたようだ」
ただ、東アジアが一方的に貸しを押しつけてきたような形であったばかりに言い出せなかったのも大きい。
どんどん、東アジアに物言いが出来にくくなりつつある。
あのツァオという男、あらかじめ知っていてオーブに『貸し』という名の楔を打ち込み始めてきた訳だ。
ただ、アークエンジェルがそもそも条約違反の存在であったという大問題が立ち消えになり、
これからは大手を振って前大戦の英雄艦が表舞台の壇上に上がれるようになったというのも事実。
行動に逐一あの国が絡んでくるのを除けば、大天使という強力なカードを切れるようになったのだ。
しかし、その艦にいるべき剣はいない。
「そしてもう一つは、私の私用で。
 ラミアス艦長、これを……」
アスランは、持っていた封筒から一枚の写真をマリューに手渡した。
「今はこの情勢ですから、せめて写真だけでもと思いまして」
「……………!」
マリュー、そしてミリアリアは写真の中のものが何であるのかを察すると、口元を手で抑えた。
嗚咽が、彼女達の手の間から漏れる。押さえつけていた涙が滂沱とあふれ出す。
ソファのマリューは実を屈め、ミリアリアは膝をついた。
「……“カガリ”」
カガリは、アスランから久しぶりに名を呼ばれた事に、
深刻な現実がその中にあるのだと察しを付け、
「大丈夫、ここのモニタとマイクは切ったよ」
彼がそう言うや、カガリはマリューの手にあった写真を取って、覗く。
こんもりと盛られた土の真ん中に、木の十字架が立てられている。その真ん中には……
『Kira・Yamato』
そう刻まれていた。もう、限界だった。彼女は、自分が泣いているのだと気付く。
写真を抱いて、先程までの虚勢も剥がれただ一人のカガリ・ユラ・アスハという人間、
いや、この場合弟を失ったカガリ・ヒビキと言うべきか。
肉親を失った一人の少女が、そこですすり泣き、
その姿を誰にも見せまいと、アスラン・ザラはサッと部屋を出て、鍵をかけた。

 
 

史上最大の作戦。
旧世紀の時代、ノルマンディー上陸作戦がそう呼ばれていたが、
それらをゆうに超える規模の作戦が、明日決行される。
アスラン・ザラは、カガリ達の部屋が防音である事に感謝しながら、
かつて顔を合わせたことのあるオーブ軍人達の複雑な視線の間を抜けて、オーブの宿舎を出た。
自分の部屋が割り当てられている軍の宿舎まで歩いて行く中で、
今日の天気は、まるで死地に向かう戦士達を祝福するかのように、太陽がその姿を現していることに気付く。
太陽の光と、海から流れてくる涼しい風の心地よさを肌で感じながら、
彼はミネルバの皆が入っている宿舎のロビーに入った。
その時、背後から何者かに突撃され、彼は床に鼻っ面を打ち付ける寸前までになる。
咄嗟に前受け身で顔は守ったものの、肘が痛い。
背中に感じた絶妙なまでの柔らかさからその正体を察し、
「……何をするんです、‘ラクス’」
起きあがって振り返り、公ではそう呼んでいる少女に目をやる。
「だって、せっかく基地に帰ってきたのに、
 アスランってば構ってくれないんだもの……」
頬をふくらませて抗議するミーア・キャンベルに、
アスランはこのような情勢下でこうも明るく振る舞える事に若干うらやましさを感じつつ、
周りの目があるので早々と彼女の手を引いて自らの居室に連れて行く。
「や、やだ。いくら婚約者だからって私にも心の準備が……」
「こんな時に戯れないでくれ!」
はぁ、と彼はため息をついて部屋の一人用ソファに座り込む。
「全く、何で君はいつもそう陽気でいられるんだ?」
アスランはその時顔に腕を当てて目を閉じていたために、ミーアの表情の変化を見ることはなかった。
一抹の寂しさや悲しみを抱えた少女の顔を一瞬見せていたミーアは、またいつもの顔に戻る。
しかし彼は感じた。先程まで陽光の如き明るさを放っていた心の下にある、
ほの暗い水のそこのような、冷たく何も見えないモヤモヤとした部分が現れたのだ。
彼は、ニコニコと笑顔を浮かべたままのミーアの顔をジッと見つめる。
「だって、私は『ラクス』なんだもん。
 みんなの前ではいっつも笑顔でいて、みんなに元気をあげるのが仕事なの」
そう言って、彼女はソファの肘掛けに腰かけて、足をブラブラさせながら天井を見上げる。
しかしその言葉は本意ではない。アスランは直感でそう思う。
さっきのカガリと同じだ。自分の露わになる心を見せるのが怖くて、
そして耐える強さもない本当の部分を覆い隠す仮面。
カガリはああやって峻厳な政治家となる事で本来の素直な少女を覆い隠しているが、
彼女は、ミーア・キャンベルは、皆の前で明るく振る舞う歌姫という、
彼女の今の生き方そのものが仮面なのだ。まるで、現実から逃げるような逃避の念すら感じる。
「…ミーア」
アスランは、前々から言おう言おうと思っても言えずにいたことを、
二人になった今、直に聞きたいと思った。
彼は彼女の手に手を乗せて、眼の奥にある部分を正面からじっと見つめ、
「ずっと前、君は俺に言ったよな?
 『自分はバックアップ』なんだって……」
「……!」
恐怖の色が、目の奥に現れる。きゅっと、彼女の手に力がこもる。
優しく、握り返して、彼はそっと聞いた。
「今聞きたいんだ。君は、何を怖がってる?
 何が君をそうまでして縛ってるんだ。議長にも秘密にしてるんだろ?
 今こうして俺に会いに来ているのも、そうなんだろ?」
あの時、彼女は自分にしか聞こえない声で言ったのだ。
自分に、助けて欲しいと言っていたのではないか?
彼は今になってそう感じ、彼女の唇が震え出すのを見、
「私……私は……」
目の焦点がぼやける。顔だけでなく、手が、足が、全身が、震え出す。
落ち着かせなければ、彼は周囲を見回したが、役立ちそうなものは無い。
とっさに、彼は行動に出た。彼女の唇に自分の唇を押しつけたのだ。
ちゃんとした形でなく二度もというのは、彼としては本意ではなかったが、この際仕方がない。
彼女の荒い鼻息のテンポが、時間と共に落ち着きだし、
全身のふるえが、少しずつ収まってくる。アスランは、そっと顔を放す。
「……これで落ち着いたろ」
「……ぇぅ」
話してくれるか?
そう言って彼はソファを下りて彼女を座らせ、
自分は下から見上げるようにし、彼女の顔をのぞき込む。
彼女はうなだれたまま、心を静めようと必死になっていたが、
やがて、言葉が口から紡がれ始める。衝撃と共に。

 
 

「私は……ラクス様の『替わりの身体』……クローンなの」
「……え!?」

 
 

機動戦士ガンダムSEED DESTINY IF
〜Revival of Red Comet〜
第28話

 
 

〜ヘブンズベース・MS演習場

 

一機のMSが、建築物に見立てた障害物の間をすり抜けながら、
標的にビームや弾丸、砲弾を撃つテストを行っていた。
ガンダムタイプで、以前ここで戦闘を行ったSフリーダムに似た印象を持っている。
『νガンダム』〜ロアノーク隊に与えられた新鋭機である。
放熱板にも見える兵器を両肩のラックに三基ずつ搭載し、
右腕にはバルカンがあり、肘のあたりでマガジンを交換できるようになっていた。
武装は至ってシンプルで、ビームライフル、バズーカ、そしてシールドである。
シンプルと言っても威力はそうではなかった。
月から運ばれてきたこの‘謎の機体’のライフルは、
本来『ビームCAP』という新機軸の技術が使われていたらしい。
だが、それは圧縮した粒子をライフルに溜めておかねばならず、その肝心の粒子が作れないというのだ。
結果として、従来のMSと同じくジェネレータに繋ぐ方式が採られた。
ただそれだけ言われると威力が下がったように聞こえるかも知れない。
しかし、この機体のジェネレータは核融合式であり、
その有り余るエネルギーから生み出されるビームの熱量は尋常ではなかった。
連合MS標準採用の耐ビームコーティングが施されたシールドを易々と融解させ、
ラミネート装甲のサンプルも熱量が高すぎてその意味をなさず、
実際の戦艦ならばともかく、部位によっては遠距離からでも貫通できるとみられる。
個々の武装がシンプルにまとめられている分、その威力の底上げが図られていた。
ワンオフ系MSによく見られる強力で奇抜な固定武装や内蔵武装は、
珍しいことにこの機体にはほぼ無いといっても良かった。
目立った火力、決戦兵器としての面は持っていないと言う言い方もできれば、
そんな火力など必要ないという、“MSとしての”最高の働きが出来るよう作られているとも言える。
ただ一つ目立つ欠点と言えば、スタークジェガンやマラサイ同様、長時間の飛行には適さないという所か。
その点はMAへの変形が可能なデルタプラスやリ・ガズィカスタムと組む事で解消するしかない。
モニタの中でビームの熱で溶け、砲弾の爆発と弾丸の雨に壊れて行く的の姿を見、
機体が自分の操縦、思った方向に吸い付くように動いてくれる感触に、ファブリスは懐かしさを覚えた。

 

『アムロ・レイ』〜本当の自分の名前と記憶

 

それは、今はまだ大事にとっておこう。
全てが終わって、皆と平穏に生活できるようになったら、全てを話そう。
そう彼は決めていた。
それまでは、ファブリスという仮面をかぶり続けようと。
今になって、仮面を付け別の名を名乗り続けた『あの男』が少しだけ理解できた気がした。
ステラを失ってからというもの、スティングとアウルの操縦は少しずつ変わってきている。
スティングは以前の無鉄砲なまでに突っ込んでくる癖はなりを潜めてきたし、
アウルの、時折MS本体が無防備になるほど攻撃に集中することは無くなった。
反応速度はさらに上がった気もするし、格闘戦や射撃の能力もさらに向上を見せている。
ただ、危なっかしいのだ。精神的な意味合いの方が強い。
気持ちが死へと傾いて、死者に引っ張られている感じ。
ステラを意識するあまりに、自分を犠牲にしてまで廻りを守った彼女に‘なろう’としている。
そう言う感じがするのだ。ひっきりなしに機体に降りかかる吹雪を見、
耐寒加工を施した関節を眺めながら彼はそう思った。
もしかすれば、自分の身も顧みず敵に吶喊するかも知れない。
それだけは避けなければならなかった。
それこそ、死したステラが最もいやがる事であると、彼は信じていた。
「……俺にも『守るべき人』ができたよ」
彼は曇天の中に少しだけ現れた蒼天を見上げながら、
脳裏に浮かんだ女性の顔を思い浮かべて、そう言った。

 

※※※※※※※

 

〜ジブラルタル基地・第五ポート

 

「カガリは今どこに?」
『は。代表は現在、知人の方々と面会中でありますが……』
「なるほど、大天使の面々か。まぁ、少しの間休ませてあげないと辛いよね」
ユウナ・ロマ・セイランは、軍港に身を休めるタケミカズチの脇に浮かべている、
自らが搭乗するMAの調整のためコクピットの中にいるところであった。
本来ならば数人で制御するシステムなのだが、彼は現在自分一人で全てをこなせるよう再調整していた。
水陸両用MSの予備機はすでに何機か用意してあるし、
今オーブのMS部隊編成に穴を開けるわけにはいかない。
そして今、カガリがいないこともあって彼女の代理で報告を聞く事も兼ねていた。
システムをいじりながらでは内容が素通りするので一度手を休め、
事務官の報告を一言一句聞き取ってゆく。
事務官の言うことには、ヘブンズベース基地攻略作戦に於いて、
ZAFT・東アジア・オーブ連合艦隊の侵攻経路が決まったらしい。
「オーブ艦隊の上陸予定地点は?」
『南アイスランドのヴェストマン諸島を制圧し、
 そして最寄りのクヴェラゲルジを制圧して頂きたいとの事で』
「海堡を潰して次は地熱地帯か……」
基地の機能低下から始めるつもりのようだが、
よく考えればあの場所は基地のすぐ向こうが山岳地帯。
そこには火山も多く、開発部や司令部など重要施設は北アイスランド、
そして一番の標的であるマスドライバーは東アイスランドに集中。
南アイスランドは、基地最大規模のMSハンガーや軍事工廠・演習場などが密集した箇所だ。
そこから考えるにあの基地の山岳部には、
司令部以上に何か守るべき施設が設置されているのだろうか?
それが存在するならば、地熱地帯を潰す理由は……!
「なるほど、そういう事か」
『司令官殿?』
「ああ、すまない。報告はソレで終わりかい?」
『……あ、はい。本日はこの一件以外にご報告することは特にございませんが』
「ありがとう。明日は作戦決行だろう? 君も今日は休め」
『了解しました』
ブツッと通信が切れて、少し広めのコクピットの中一人残ったユウナは、
モニタに映る艦隊の風景と、ポートの中を駆け回るオーブ軍人、東アジアの軍人達を見やって、
「彼らや僕ら全員を‘囮’にする気か。デュランダルめ……」
ユウナは確信した。南のMS工廠区に攻撃を敢行するのは何も、
‘基地を陥落させるためにMSを減らす’わけでも、
‘北から回り込んで司令部を落とす’わけでもない。
基地北部からMS部隊を南へ全て引きつけ、その隙を突き宇宙空間から奇襲をかける腹づもりだ。
当然基地の連中もそれは想定済みで、恐らく基地内部に上空を攻撃する兵器が存在すると見て良い。
デュランダル議長は、ZAFTの諜報部ツテでそれを知り、ZAFT側の降下作戦前に兵器を潰す気なのだ。
加えて、そうまでしてMSで守備せんとしているなら、放たれれば戦況が一変する兵器であるに相違あるまい。
「だけど、短時間の内にそこまで突破できるMSは……ミネルバ隊か」
ふと、アスランの顔が頭に浮かび、ユウナは頭を振った。
スエズ陥落後にジブラルタルへ帰港したミネルバの出迎えに、自分は行かなかった。
ZAFTでどんどん存在感を増してきている彼に比べて、自分はどうだ?
今なおオーブ艦隊の司令官という立ち位置に立っているものの、エーゲ海では失態を犯した。
オーブをより強い国へと昇華させんとしているが、
大国の影に収まる事でしかそれを実現できない現実が、目の前にある。
アスランに顔向けできない……そう感じていたのである。
そして今は、先陣を切ってオーブ軍人の犠牲を減らす役割を担っている。
どんどん、自分の思った方向から外れていく。
それが現実なのだと、何度自分に言い聞かせただろう?
「もう何も考えるな、ユウナ・ロマ!」
彼は自分の顔を殴りつける。唇を切った。
口に少しながら流れ始める血をなめ、彼はシステムの書き換え作業を終わらせる。
彼が操縦する巨大MAの名は、『シャンブロ』。
東アジアとの合同開発の新型ながら、以前から知っていたような感覚も存在する。
遺伝子の中の『記憶』というべきモノなのだろうか?
どちらにせよ、
「お前となら、カガリを守れるかな……?」
武装システムのリンク状況を確認しつつ、ユウナはそっと、そのモニタを撫でた。
こうやって力をもってでしか大切な人を守る術がない、
悲しさや虚しさが、彼の心を襲っていた。

 

※※※※※※※

 

「クローンって……どういう事だ」
アスランは想定外の回答に一瞬考えることを停止して、ミーアの両肩を掴む。
彼女は、言いたくなかった事を言っただけに、目元にはすでに涙がにじみ出て、
彼はそれに気付くと肩から手を離して、彼女の手の甲を撫でる。
「ごめん……」
アスランは場違いながら、涙目になっている彼女の顔が一時妖艶に見え、
ドキドキと高鳴ってくる心臓の鼓動を聞いて、空気を読まない自分の心の一部を非難した。
「今言ったのは本当よ。私は、ラクス様に何かあった時の‘代替品’なの」
「まさか、そんな事って。第一、人のクローンは……」
「‘禁止されている’?
 ……フツーの人間ならそうなるよね。でも、私は違った」
人間って言っても、ラクス様だったから。
彼女は右の髪の毛をかき上げ、ちょうど後頭骨に当たる部分を露わにする。
彼は彼女のそこに、ある入れ墨を見つけた。
「『トレス(tres)』……これって、君の?」
「うん、『3番目』。
 多分、私は‘あそこ’ではそう呼ばれてたんだと思うわ。
 ミーアって名前、議長がつけてくれたのよ。そんな製品みたいな名前はかわいそうだって」
あの人にそういう面があったのか、とアスランは驚きつつ、
彼女が一体どういう前半生を送ってきたのか、想像するだけで鳥肌が立った。
彼女がうっすら覚えてるのは、液体みたいなものの中にいたこと。
自分以外にも、殆ど同じ外見を持った少女達がいたこと。
自分が失敗作呼ばわりされていた事だけだったそうだ。
‘肉体の成長が本物と違う’ただ、それだけのことで。
「あの白い服の人たちは、直接殺したくなかったんでしょうね。
 私は何も知らぬまま、放り出されたわ。のたれ死ぬかと思ったけど、あそこは研究所が多かったから」
「議長に拾われたのか……!」
「そう……」
ミーアは、本当に幸運だったのだ。
今となっては、あの一帯の研究所は全て閉鎖され、MS開発や兵器工廠と化しているそうだ。
その施設にいた人間を捜し特定するのはほぼ不可能だった。
デュランダルによれば、あそこにあった遺伝子関係の施設は多すぎて、
見つけ出すにせよ数年かかると聞かされたとき、彼女は絶望の淵に立たされた気分だったらしい。
「でも、もういいわ。私は、今あの人の役に立ってる事が嬉しいし、
 この戦争が終わったら、全部打ち明けるつもりよ」
いつの間にか、アスランはミーアの顔を凛とした、
過酷な生まれながらも光明を見つけ出し生きる『ミーア・キャンベル』という、
強くたくましい女性の顔として認識するようになっていた。
ラクスのそっくりさんなどでは無い、別の魅力を持った顔。
アスランは、その先何も言うことはなかった。
黙したまま彼女を抱きしめる。自然と身体が震えていた。
「アスラン……泣いてるの?」

 
 

ヘブンズベース攻略戦まで……あと一日

 
 

※※※※※※※

 
 

〜アクシズ・ラクスの間

 

ラクス・クラインは、夢を見ていた。
久遠の闇とも称すべき暗黒の中に浮かぶ、彼女の知らぬ光景。
それは、夢と言い切るには現実感に溢れ、現実と言うにはあまりに荒唐無稽。
彼女の知っている概念や倫理の通用しない、何物にも交わらぬ純然たる空間。
この空間の向こうには何があるのだろう?
彼女は幼少の頃から見続けてきたこの夢の中で、常にそう思ってきた。
夢は見るたびに違う姿を彼女に見せてくれた。
ある時は、表面積が地球の約6倍ほどの星の中で、多種多様な生命体が活動している光景だった。
ある時は、土地が命を持っているかのようにうごめき、空中には不思議な面晶体が浮かんでいる光景だった。
ある時は、彼女の知る『日本』の古代を見ているかのような光景だった。
ある時は、肥沃な自然と穏やかな夏が終わりを告げない平穏な光景だった。
ある時は、世界そのものが都市でできている信じられない光景だった。
ある時は、世界に存在するモノ何もかもに金属が含まれ、黒き油に浸食されつつある光景だった。

 

そして夢の最後には必ず、池の前に立っている。

 

その空間は彼女の知る限り彼女の心が最も落ち着き平穏でいられる場所であり、
物心のある時にすでに始まっていた、ナチュラルとコーディネイターの争い。
終わることのない地上の争いなど、嫌なことは全てこの池の前に立っている時だけは忘れていられた。
現実の中で悲しいことがあると、この池の畔に少年が立っている事があった。
黒髪の少年だ。最初会ったときは、自分と多分同じくらいだったと思う。
「戦争は避けられないのですか?」
「……無理だね」
彼女は少年に必ずこう聞いた。思えば、この時の自分はまだ清らかな少女のままだった。
きっと、夢の少年は現実を見据えている自分の心なのかも知れない。
彼女はそう思いながら、会うたびに少年の言葉に聞き入る。
ナチュラルとコーディネイターの対立が深刻化した後に起こるであろう戦争。
その時、コーディネイターは必ず打開策を発案し、長引くであろう事も、
結果として大勢が死に、憎しみを残したまま一端は閉塞するであろう事。
「その後はどうなるんですの?」
「僕には解らないね、きっと、英雄が立ち上がって人々を導くんじゃないかな?」
「英雄……?」
「人間はちっぽけな存在さ。どうしようもなく愚かで脆く凶暴な無味たる生き物。
 だからこそ、それらには導き手が必要なんだ」
「でも、それって差別ですわ」
「悪いことではないよ、ラクス。生まれつき生命体は皆違っているものだ。
 差別と言う言葉は人間が勝手に作った枠組みに過ぎない。
 そして、むやみやたらと感情をむき出しにして生きるのも人間。
 よりよく導く絶対的な存在が必要なんだよ。……例えば、君のような」
「……私が」
「君の中には英雄の血が流れているのを知っているかい?」
少年は彼女の頬に手を添えると、ピッと頬を掻いた。
ラクスは驚いて少し後ずさった。痛かったのだ。
夢なのに何故と考える間もなかった。
少年の鋭い爪の先についていた彼女の血が、姿を変えていく。
一滴程度だった血がふくらんで行き、煮えるようにぶくぶくと泡をたてながら宙へ浮かぶ。
どんどん、それが人の形に見えてくる。朧気で顔はハッキリと見えないが、
たくましい男性と、凛々しい女性だということだけは確認できる。
『しろっこ』『はまーん』と言うらしい。
君は世界を導くべき存在として生まれたんだ。と、少年は言った。
純粋で清らかな瞳に見つめられて、胸の奥底を何かが叩く。
ほおが赤くなる。何故だろうと考えたとき……夢は一度終わった。
ちょうど8才くらいだったろうか?
その日の朝は夢の話を父に言った。
母は普通の母親と同じように、「あらそうなの?」と言っていたが、
父は普通の目をしていなかったのを今でも良く覚えている。
そして普通に幼年学校に行って、帰ってきたとき、自分の人生は変わった。
父は何かを決意した顔をして、出かけると言って自分を連れ出した。
車の中で、当時の自分は遊園地なのかな、公園かなとワクワクしていたものだ。
だが違った。連れて行かれたのは、白く大きな建物……プラント研究地区の施設の一つだった。
中で見たのは、たくさんの『私』だった。
たくさん並んでいたパソコンの画面には、『宇宙クジラ』が映っている。
DNAのらせんが同時に映っており今思うとあれはきっと、『あの二人』を『私』に宿す作業だったのだろう。
「お前は王になるべき人間なんだ、ラクス」
父は私にそう言った。
父の目は尋常でない狂気に支配されているように感じていた。
家やTVではナチュラルとの融和をと主張し、
尊敬していた父が一番ナチュラルを意識していたのだ。
ラクスは悟り、その時から父を父と認識しなくなった。
父は彼女を幼年学校から引き離して、独自に英才教育を受けさせるようになった。
ラクスはそれ以降一層、少年に会いたくなった。
少年の言葉は真実だった。自分に流れるものが世界を導くべきだと。
夢を見、池の畔に立つたびに、少年を捜して廻った。
だが、会えなかった。久遠の闇の向こうに行ってしまったのだろうか?
今日もまた、彼女は池の畔に立っている。
「あの闇の向こうに行くことは出来ないのでしょうか……」
シャアに抱いた思いは、この身体に流れる『ハマーン』という女の血が為すものだと解っている。
だが此方は違う。正真正銘、ラクス・クラインという人間が抱いた思い。
『初恋』……そう呼ぶべきなのかどうかは今となっては解らない。
だが、もう少しで自分がこの世界において絶対的な導き手となるときが近づいていることも確かだ。

 
 

「その時は、向かえに来てくれるのでしょうか……?」
少年の名は、彼女も知らない。

 
 

第28話〜完〜

 
 

第27話 戻る 第29話