Top > CCA-Seed_787◆7fKQwZckPA氏_29
HTML convert time to 0.018 sec.


CCA-Seed_787◆7fKQwZckPA氏_29

Last-modified: 2011-04-29 (金) 07:13:36
 

何で自分は泣いているんだろう?

 

少年と少女が考えていたことはソレであった。
頭の中は至って冷静なのに、身体が言うことを聞いてくれない。
かつてZAFTが造り上げ前大戦で猛威を振るった『フリーダム』に似た機体を駆る少年。
ブラウンに染め上げた機体を駆る、愛しい少年を我が手に取りもどした少女。
二人は今、自分の肉体が泣き叫びながら目の前にある物体に、
幾度もサーベルを突き刺し続けている光景を認識する他になかった。
何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も…………何度も。
炎を上げながら海に沈み行くその船は、『裏切り者の艦』のはずだった。
白きその巨体は本来連合のために働くはずだったのに、抜けだし、
主たる連合に刃を向けなおも英雄扱いされる忌々しい不沈伝説を残す艦。
それを自分は仕留めたのだ。それなのに、何でこうも悲しい?
止めどなく涙が溢れてくるのは何故だ!?
理解できないことへのイライラが募り、さらに艦に刃を突き立て、
またモヤモヤが溜まって、イライラして、ぶつけての繰り返し。
「「誰か教えて……助けてよぉ……何で……こんな……」」
白い艦は、かつては少年と少女を乗せ、少年が守ろうとした船である。
だがその微かに残る懐かしさ、少年が守ってきた人たちの命。
それら全てを手ずからつみ取ってしまったことの認識は、もう少年には出来なかった。

 
 

※※※※※※※

 
 

〜旧アイスランド・ヘブンズベース沖

 

ZAFT軍旗艦・ミネルバ
東アジア共和国軍旗艦・天龍
オーブ軍旗艦・タケミカズチ
そして前大戦の英雄艦・アークエンジェル
四隻の巨艦が巨躯を並べる姿は、ただそこにいるだけで全将兵の士気を鼓舞する効果があった。
シン・アスカは、艦内にコンディション・イエローが発令され、
戦闘が間近であることを知ると、デスティニーのコクピットの中で目を閉じていた。
この作戦が無事に成功すれば、地上における大西洋連邦の大規模な軍事拠点は無くなり、
宇宙の月基地に目標を絞ることが出来る。加えてZAFTの地上駐留軍が、
ベルリンや中東地域での復興作業に集中して取り組む事ができるようになる事も、
シンのモチベーションを上げるに十分であった。
この基地は何としてでも落とし、戦争の早期終結を。
それはシンだけでなく、ZAFT軍人、オーブ軍人全員に存在する願いでもあった。
シンは閉じた目の奥に、今までミネルバがくぐり抜けて来た激戦を思い浮かべ、
同時に、自分たちが味わい、また失ったモノの重みと大きさを噛みしめた。
アカデミーに在籍してミネルバに配属された頃は、
戦争がまたこうして始まるなんて意識していなかったし、
戦争だと理解はしていながら、人間が易々と命を失う事があるという現実を、
何のために自分は軍に入ったのかを再認識しなければならない時は何度もあった。
大国の趨勢に乗ることしか生き延びる術を持たぬ小国の人間の苦しみも、理解できなくはない。
またステラ・ルーシェという少女。レイの人間味溢れる一面を初めて見た事ももちろんだが、
自分は『生身の人間』と戦っているのだと実感したのは再び彼女を見たときであった。
この時初めて、自分が撃ってきたMSの中に人間が乗って、各々の正義を胸に戦ってきた事を悟る。
そしてベルリン戦とスエズ戦。
あの時ああやって魂の最後の叫びが自分の心に叩きつけられて行くのは、
当時は気持ち悪さしか感じなかったが、今思うと別のモノもあったのではないかと感じる。
死んでいった者達の無念と、成し遂げたかった平穏な世界の構築。
それが、そう長くないうちに構築されようとしているのだ。
「期限まであと二時(ry……! 何だ!?」
シンはモニタの端を見て、基地に行った降伏勧告の期限があと2時間を切ろうとしている事に気付き、
同時に、周囲から感じる殺気がふくれあがるように増えて行くのを感じた。
咄嗟に彼はデスティニーのコクピット入り口近くにいた、
整備スタッフ連中に離れるよう怒鳴りつけると、
コクピットハッチを閉め、コンソールをいじって機体に灯を入れた。
シンだけではない、レイ・ザ・バレルも、
アスラン・ザラも、そしてシャア・アズナブルも、同じようにコクピットに飛び込んだ。
コンディションがイエローからレッドへ変わるのは、それからそう時間は掛からなかった。

 

「間諜からの報告は間違いないのだな!」
「間違いありません!
 敵エネルギープラント、並びに基地内部に熱源!
 敵部隊、戦闘配置にすでに着いているとの事です!」
ミネルバの展望ブリッジにおいて、ギルバート・デュランダルは、
国家元首自らが先陣に立つ事で将兵の士気を鼓舞するという、
極めて前時代的な行為に出て、ヘブンズベースに潜ませていた間諜の急報を耳にした。
基地に残された司令部連中はそう出るだろう。
デュランダル始め軍上層部はあらかじめ相手方が勧告を断る前提でいたため、
すぐさまコンディションをレッドへと即座に引き上げ、MS部隊の展開を急がせた。
ベルリンに現れたという連合製の巨大MAの出現も想定し、
第一波はZAFT東アジアの水陸両用MS部隊による海中からの奇襲と、
バビ・ディン、東アジアのウィンダムで構成された空中戦用MS部隊の爆撃。
第二波にZAFT潜水艦所属MS部隊による陸上上陸による追い打ち。
海堡を潰し後顧の憂いを絶ったオーブ軍が別地点から同時に攻撃を敢行する筋書きであった。
「よし、天龍ブリッジのツァオ大統領にもその件を通達しろ。
 彼らにも動いてもらわねばならん」
「了解!」
忌々しい。デュランダルは内心そうぼやいた。
大西洋連邦中心で組み上けられた地球連合内部の組織体制を改正することは、
地球圏の平和を取りもどす事にあたって必ず成し遂げねばならない事の一つ。
にもかかわらず、最も変えねばならない旧態依然とした、
強力な一件集中的権力体勢を持つあの東アジアは、彼にとって味方でありながら最大の障害であった。
戦後の政治家達にソレは任せるとして、彼は必死にその不快感を押し殺し、
東アジア側に要請をするようメイリンに命じた。それと同時に、
「宇宙のジュール隊の動きはどうか」
「順調です。降下予定ポイント到達後の作戦行動に問題は無いかと」
「当面の課題は例の兵器だけか……」
『ニーベルング』〜これがその兵器の名である。
巨大なレーザー砲であり、上空からの敵の来襲を想定して設置された対空掃討砲。
山一つを用いてその姿を隠すという用意周到さであったが、
その点は危険も顧みず潜入任務にあたってくれた間諜に感謝しなければなるまい。
だが破壊するには、ヘブンズベースのMS工廠・演習場区画のど真ん中を突破する以外に無い。
ソレが出来得るパイロットと機体は、デュランダルの思い当たる所は三名しかいなかった。
シン・アスカ、アスラン・ザラ、シャア・アズナブル。
特にこの任に最適と思われるのは、シン・アスカであった。
ローエングリンゲート突破作戦において実績を出していたし、
何よりデスティニーの装備する対艦刀は、施設破壊に適した装備である。
「全ZAFT軍MS部隊に再度通達!
 今回の作戦は、地球上における秩序の回復、並びに、
 二度とこのような大規模な争いの起こることの無い世界を造る要となる作戦である!
 各々、己の役割を忘れず奮起する事を期待するとな!」

 
 

※※※※※※※

 
 

「ニーベルングのエネルギー充填状況はどうか」
「はっ、10分後にチャージ開始の予定であります」
ヘブンズベース基地司令部。ちょうどMS格納庫の存在する、
南アイスランド北部地域とは真逆の、北アイスランド南部に設置された司令本部に於いて、
ロード・ジブリールは陣頭指揮を行っていた。
ゼダンの門から指揮を行うには電波状況が悪かったため万一指揮系統に滞りが出れば、
基地に勤める数千もの職員と兵士達をZAFTと東アジアの砲火の中に放り出すようなもの。
戦力をなるべくここで連中に消耗させ、出来るだけ被害を抑え宇宙へ待避させる事が急務であり、
自分を初めとする『ロゴスメンバー』への大西洋連邦とユーラシアの信頼は断ち切られ、
情報がリークされてしまう可能性もある。それだけは何としても避けなければならなかった。
だからこそ、こうしてトップの人間である自分までもが、
身を危険にさらさなければならなくなったと言うわけだ。
ジブリールは基地司令が立つべき場所に立ち、目下に見える司令部職員達を見下ろす。
「基地に残る全ての者に告げる! この基地の命運は最早長くはない。
 戦略的において最たる愚策である基地放棄を、諸君等に強いらねばならぬ我らの無能をどうか許して欲しい。
 しかし、これはまだ我々の敗北ではない! 諸君等は覚えていよう!
 エイプリルフール・クライシスを! ブレイク・ザ・ワールドを!
 卑劣なコーディネイター共によって、幾千幾万もの同胞達が非業の死を遂げたことを!
 ……目の前を見よ」
ジブリールは広大なスペースを持つ基地司令室の大型モニターを指し示していった。
画面には、基地を取り巻くように布陣するZAFT、そして東アジアとオーブ艦隊が映っている。
彼はその一隻一隻を指し示すように手を動かしながら、
「……地球上で涙を呑み悲しみをこらえ苦痛に耐える同胞達を、
 姑息に裏切り、自分たちだけ生き延びようともくろむ卑劣漢共があそこにはいるのだ!」
彼が特に強調して示したのは『天龍』であった。
かつては連合内において下風に立っていたに過ぎぬ国家。
そして、最悪のタイミングで裏切り、自分たちのみが甘い汁を吸わんとするその狡猾な心底。
煮えたぎる怒りを内包している基地職員に対し、ジブリールは、
「ここで我らの意地を見せつけてやろう!
 自分たちの事しか考えず地球を浸食するだけの裏切り者共へ!
 そして、世界が望みもせぬ中生まれ出でた、宇宙の怪物共へ!」
その言葉に差し掛かった段階で、司令室にいた職員達の戦意はヒートアップし、
各々から発せられる雄叫びは戸をこえて廊下に鳴り響き、基地全体へと反響していく。
そして各所で守備に当たっている兵士達にもそれは感染し、
ヘブンズベース基地将兵の殺気は頂点に達さんばかりであった。
それを煽っておきながら第三者であるかのように冷ややかに見据えたジブリールは、
近くにあった通信機器で現在ニーベルング付近の山岳部に設置された、
高々度射出型のMSカタパルトデッキに繋ぐ。
そこには、ロアノーク隊を配置してある。ニーベルング守護のためではない。
ヘブンズベースを取り囲まれた時点で、
ジブリールはニーベルング発射の成功率が極めて低いことに察しを付けていた。
スエズを陥落させた部隊の中で一番の働きをしたというミネルバ隊、
十中八九、デュランダルは彼らの中でも特に優秀な連中をここにぶつけてくるに相違ない。
ソレを防ぎきるにはロアノーク隊を割く必要があったが、
ホアキン隊と合わせて叩くとすれば南部の首尾が手薄になる。
それに、彼はすでにニーベルングは『撃てれば儲けもの』程度にしか思っていなかった。
すでに、基地守備隊の中でも精鋭と言われる連中はマスドライバー周辺の守備に廻し、
正面へぶつけて目を引かせるのは強化人間や孤児出身者を中心とした、
ロアノーク隊やホアキン隊ほど特別に運用させる価値もない『捨て石』にさせるつもりだ。
(わざわざデストロイを五機も廻したのだ、
 精鋭達と我々を逃がす時間くらいは稼げよう……)
「私だ」
『閣下、何かございましたか?』
「此方は万事問題はないよ、大佐。
 そちらの戦闘準備に抜かりはないだろうな?」
『勿論です。失態は必ずや返上して見せますよ』
「……首尾はすでに部隊に伝えているだろうが、諸君らはミネルバ隊と因縁が深い。
 若い強化人間は特に彼らと戦いたがるだろうが我慢させろ。ベルリンの欠陥品のような失敗はさせるな」
ギリリ……と、拳を握りしめる音が聞こえてくる。
ジブリールは、正直ネオ・ロアノークがなぜあれほど強化人間の子供達に執心するのかが解らなかった。
ゼダンの門で再調整するか?
そんな事を考えながら、最後通告とも言うべき言葉を発する。
極めてシンプルでありながら、もっとも重みを込めた言葉を。
「……わかったな?」
『了解しました』
低い声で向こうは答えると、通信を切った。
ロアノーク隊はデストロイとMS部隊、そしてニーベルングに目が向いている間に、
高々度飛行可能な可変MSと組ませた『ガンダム』二機を、旗艦の上空へと投入する。

 
 

「基地の一つなどくれてやろう、デュランダル。
 だがミネルバも、天龍も、大天使も、その時は道連れよ」

 
 

機動戦士ガンダムSEED DESTINY IF
〜Revival of Red Comet〜
第29話

 
 

ミネルバのモニタに映っている、ヘブンズベース沿岸守護の艦隊から、
幾条と数えるのも馬鹿らしくなるほど尋常でない数の白い帯が天へと放たれ始める。
アーサー・トラインはそれらを見た瞬間、
それが今の今までミネルバで見慣れてきた物体であることに気付く。
彼だけではなく、戦闘ブリッジにいた誰しもが始まったかと腹をくくり、
バート・ハイムはその数と方角から敵基地のミサイル発射管の数・位置を逆算し始め、
チェン・ジェン・イーはCIWS並びに対地対空ミサイルの安全装置を外して行く。
弧を描いて此方に飛んでくるミサイルに、各艦隊のCIWS並びに対空ミサイルが飛んで行き、
広い範囲にわたって炎の絨毯ができあがる。美ながらも忌々しい光に見えた。
「敵MS部隊の展開状況を知らせ!」
艦長席に座るアーサーはバートに叫ぶ。
本来この席に座るべき人物は、現在上の展望ブリッジで議長の隣にいる。
不思議と声が張る。いつもなら、このように気持ちを澄んだ状態に保っていられることが少なかった。
「水中にフォビドゥンが多数! 30機以上はいます!」
「30…!?」
「狼狽えるな、あそこの規模からすれば、何が出てもおかしくないぞ」
メイリンがあまりの多さに声を上げるが、マリクがそれを諭す。
「水中だけか?」
「いえ、空中にウィンダムとダガー部隊を展開しつつあります。数は……」
言わなくてもモニタを見れば解る話であった。
ユニウス条約によって定められたMS保有数を最初から無視し、
空を埋め尽くすほどのウィンダム、そしてダガー。
その向こう、地表に最後の防衛戦と思しきMS部隊があり、
そこにはスエズで見た敵の新型、マラサイの姿が見える。
厄介すぎると、アーサーはそう思った。彼は自然と口を動かしていた。
「……ブリッジのデュランダル議長に、タンホイザーの使用許可を要請しろ」
「タンホイザーをですか!?」
「こちら側のMS部隊の負担を減らし、そのまま敵の港も潰す!
 早くしろ、間に合わなくなるぞ!」
アーサーは展望ブリッジの返事が来るまでの間、
出撃を開始したMS部隊の背を見送って、自分も彼らと共に立ちたいという気に駆られる。
それが自分自身の闘争本能だと気付いたとき、アーサーはそれを恥じた。
もって当然の気持ちであるが、自分はミネルバという何百の人間が乗る艦の副長なのだ。
(俺はあくまで兵士だ、戦士じゃない!)
「副長! 許可がおりました。一発のみとの事ですが」
「十分だ。バート、タンホイザーを起動させろ。
 メイリンは各MS部隊に斜線軸から離れるよう通達を!
 艦内総員、耐ショック体勢を取れ!」
「了解。プライマリ兵装バンク、コンタクト。チャージ開始」
「ZAFT軍MS部隊各員、これよりタンホイザーを敵基地へ発射します、ミネルバ前方の部隊は……」
ゴウン……とエンジンがうなりを上げているのが、
振動で伝わってきて、ブリッジのクルーはグッと拳を握りしめる。
「エネルギー充填、20……37……46……」
ミネルバの艦首が開き、巨大な砲塔が姿を現す。
砲身に、一つ一つ光が点っていき、照準を基地の最も大きなMSデッキに定める。
(ここなら敵レーダーのレンジ外。うまくいけば……)
配備されているであろうと予測されている、ベルリン戦時の巨大MAをあわよくば殲滅できる。
アーサーは僅かながらの期待が叶うよう祈りつつ、エネルギー充填完了の音がなるや、叫んだ。
「タンホイザー、てぇー!」
一瞬、ミネルバの展望・戦闘ブリッジ双方のモニターと天窓が閃光に包まれる。
轟音を上げながら、凄まじい熱量を内包した光の渦が敵めがけて飛んでゆく。
距離があったがあえて照射角をひろげ、なるべく多くのMSを巻き込むように設定したおかげか、
対応に遅れたウィンダムやダガーがどんどんタンホイザーの光に呑まれ蒸発していった。
海上に展開されていた連合製MA『ユークリッド』。
デストロイやゲルズゲー、ザムザザーと同じビームバリアを搭載していた虎の子のMAであったが、
レンジ外からの射撃にはさすがに対処できず、その大半が欠片ものこさず塵と化した。
ZAFT軍前方に展開されていた機動兵器群の三割は巻き込めたのではないだろうか?
タンホイザーから発せられた光はそのまま、
バートの照準通り基地のMS発進口へと命中し、ハッチが融解。
マラサイも数機巻き込み、貫通したビームはその向こうにあったデストロイを爆発させる。
出撃目前だっただけに周囲の被害は甚大であり、爆発が爆発を呼び、
デストロイだけではなくさらに十数機のウィンダム部隊を炎の中に呑み込んでいった。
「よしっ。ここからだ……」
此方からは敵の被害の程を正確に把握は出来ないが、モニタの向こうで起こった大爆発から見るに、
MSデッキに存在する出撃前だった第二波の連中は殲滅できたに相違ない。
「ミネルバはしばらくの間動けん、各員索敵警戒を怠るなよ。
 この先敵を押し込まなければ意味が無くなるんだからな」
「「「 了解 」」」

 

「ミネルバがやった、か……」
機体を上空に滞空させて、シン・アスカは黒煙が上がる基地の一区画に目をやり言った。
上空のMS部隊は基地に一撃を加えられたことで、一定の空域から前へ出辛くなっている。
そして敵MS部隊と基地職員の目がタンホイザーの放たれた方角、
着弾した箇所の黒煙に向いた瞬間、東アジアの水陸両用MSが水中から敵艦隊に攻撃を敢行した。
敵のフォビドゥン部隊はすでに海の藻屑となったのだろう。水中から彼らに襲いかかる機影はもう無い。
あまりに早い。シンは東アジアの水陸両用MSが内包する戦闘能力に驚嘆した。
ハイネ・ヴェステンフルスが、連中は力に酔っていると称していたことを同時に思い出す。
もしかすれば、後の日には敵になるかも知れない部隊。
彼は背筋に少し寒気を覚えつつ、デスティニーを基地の混乱している場所へと向ける。
前方には、すでにバビが先手を打たれた向こうの連中を分断する為ビームの雨を上空から降り注ぎ、
ディンとウィンダムがミサイルとマシンガンで銃弾のシャワーを作っている。
ミネルバのMS部隊は本来、地上部隊の上陸と同時に出撃する第二波に配置されているのであるが、
シンだけは別の任をデュランダルから直々に下されていた。
ただ、標的は敵MS部隊でも、前方に見える施設でもない。
更に奥、小高い山の向こうにある『兵器』の破壊こそが、彼の任務であった。
戦況を覆しうる大量破壊兵器の存在。
ただそれを聞いただけで、シンの戦闘意欲は高まっていた。
ZAFT宇宙軍の降下部隊が予定している降下時刻はあと一時間と少し。
その時間内に必ず、敵はその兵器を起動させるはずだ。
大型の兵器ならチャージも時間が掛かる故、こちらが行動を起こす前にすでに発射態勢は整え始めているだろう。
「これ以上好きになんかさせるか。
 もう、ブレイク・ザ・ワールドやベルリンの悲劇は繰り返させない、絶対に!」
そう言って彼はデスティニーを、スカフタフェットル国立公園跡へと向かわせる。
上層部によればその機動兵器は『クヴァンナダルス・フニュークル』の、
おおよそであるが周辺に設置されている可能性が高いという。
クヴァンナダルス・フニュークルはアイスランド最高峰であり、基地内において上空を一気に見渡せる箇所だ。
その付近に対空兵器を置いているとすれば、防備は厚いはず。
ただ、上層部の判断は違った。知られたくない物の周りに兵を置くはずがない。
置いたとしても一個から二個小隊までが限度のはずであろうと。
『……ガガ……ベルリ……MA……三機……』
ジャミング弾をばらまいたのだろう。ベルリンであった電波障害とは程遠いが、
通信機の具合が悪くなっている。ただ、聴き取れた単語は……
「あれが……三機も……!」
一瞬、戻りたい衝動に駆られるが、シンは必死にそれを押さえつける。
自分が為すべきなのは戻って敵MAと相対するのではなく、
この後戦局を好転させる味方の増援を守ること。
それに、あっちにはアスランやレイ、ルナマリア。
ハイネにノエミ……そして隊長がいる。大丈夫だ、心配ない。
シンはそう自分に何度も言い聞かせて、デスティニーの『翼』を開く。
ヴォワチュールリュミエールによる圧倒的な加速。これこそ、デスティニーの真骨頂であった。
さっさと敵の秘密兵器なんて潰して、みんなと合流する!
シンは目下に見えるマラサイから放たれる砲火をくぐり抜けながら、
前方にふさがるウィンダム部隊を見やり、
「どけぇっ!」
背の左側に背負ったロングレンジビーム砲を掲げる。
背中のコネクタからジェネレータに繋がっているそれは、通常のライフル数発分の威力を誇っている。
一発、たったの一発を、連中のど真ん中に放つ。
ビームは真っ直ぐシールドを掲げたウィンダムのそれに直撃し易々と融解させた。
〈……た、‘大尉’のと同じ!? うぁあ!〉
ウィンダムのパイロットの『声』が聞こえる。
断末魔の叫びと共にウィンダムが一機光に呑まれた。だが、それだけではない。
ビームが纏っていた細かい雷状の光が数機のウィンダムを掠めた。
ただそれだけで、ウィンダムの胴が熔け誘爆する。
『奴のビームはサーベルを纏っているのか!?』
敵の動揺を感じ取ったシンは、即座にデスティニーを前面へ急加速させると、
方のフラッシュエッジを手に取り、サーベルを出現させて二振りする。
最後に残ったウィンダムも両断され地面へと落ちて行き、シンは振り返ることなく直進した。
やがて、MSの機影がレーダーから消えてゆく。
予定ポイントまで約五卉賄世泙悩垢軍櫃り、シンは一区切りつきそうだと内心思った。
その瞬間、彼の背中をゾッとした何かが駆け抜ける。
殺気だ。それも練りに練り込まれて尖鋭化した、禍々しいまでの。
上空だと気付いたのと、デスティニーを横へ滑らせたのはほぼ同時であった。
じゅうと音を立てて目下の雪と地面が熔けて行く。通常のMSのビームではない。
それは、デスティニーが左腕部に装着していた通常規格のシールドを見ても明らかだった。
先程のウィンダムと同じだ。熱量の高さに耐えきれず表面が焼けただれ、
そんな威力を持つビーム砲を装備した難敵がここに来たのだと悟る。
「……誰だ!」
そう叫び上空を見上げる。
太陽光でよく見えないが、MAらしき影が此方めがけて急降下してくることに気付く。
白いMAであった。印象として、ベルリンでみかけた深緑のMAに似ている。
感じる物も、あのMAのパイロットと同じだ。
あの時、空中MS部隊に多大な損害を与えた奴だという事は覚えている。
『ベルリンの奴』の印象が強すぎたせいで色あせて見えるが、奴も十分脅威と言える存在である。
MAめがけ、権勢がてらバルカンを放つが、
それをスルスルとかいくぐってきたMAはデスティニーの眼前で、
「げぇ!」
MA形態での加速した状態の中で、MS形態に可変する。
機体と中のパイロットに掛かるGは尋常ではないはずだった。
しかし、平然と奴はデスティニーにつかみかかってくる。
意表を突かれたためシンは避けきれず両肩を奴につかまれる。
Gタイプにも似ていながら、ZAFT系の印象すら与えるモノアイは、シンに不快感を与えた。
だがそれを長く考える間もなく、彼は雪原の上に叩きつけられる。
「ぐぅっ」
『これまでだな、コーディネイター!』
シンはその時になって、コイツがマラサイと同系のエンジンを採用していると改めて再認識する。
デスティニーは従来のMSの追従を許さないパワーを持っているMSである。
通常のMSなら押し合いで負けることはまず無いのだが、コイツのソレは尋常ではない。
「……誰が!」
だがシンは咄嗟にデスティニーの翼を用いて、
生み出された推力でデスティニーをワザと乱機動させる。
白い可変機を振り払ったシンは、一度其奴から距離を置く。
そして機体の全体像を初めて見渡してみた。
以前の深緑の機体の基本シルエットはそのままに、
両肩にサブ・アームを加え、手にはピストルが新たに追加されている。
「何でそんなに殺したいんだ。お前達は!」
『それを貴様等が言うのか!
 地上にユニウスセブンを落としておきながらよく言えたものだ』
「アレは一部の馬鹿な連中の仕業だ。
 自分たちの境遇を受け入れず逃げて、何も考えず暴力に走ったお前等と同じ連中がな!」
『貴様等などと一緒にするな!』
憎んでいる存在と同列に見られたことに激昂したか、
白い可変機はサーベルを抜いて接近戦を挑まんと突進してくる。
しかし……
「お前に構っていられるか!」
シンはとっさに足のスラスターを空ふかしして雪を巻き上げ、
熱で一気に水蒸気へと変化させてその場を白一色で覆い隠す。
相手と真剣に戦ったとして、負ける気はしなかったが短期で勝てる気もしない。
自分が優先すべき事は他にあるのだ。
デスティニーを天高く飛び上がらせると、シンは向かうはずであった場所へ一気に加速させた。
当然、彼の行動を察した奴も飛んで追ってくる。
不思議な感覚だった。後ろから攻撃してくる奴の攻撃の弾道が、読める。
スエズの時も確かに感じていたものだ。この機体の特殊な機能なのか?
そう思いつつ、凄まじい殺気を浴びせてくる奴のビームをかわしながら、
シンはモニタの先で動く物を見つけた。
「……なんだ!? 山が動いている!?」
山そのものを丸ごと発射口のハッチにしていたのか!
シンは悟るとその大規模な施設を造り得る連合の底力に驚嘆し、
同時に、これに掛かった費用が何処に流れ、誰のものになっているのかを考える。
沸々と、彼の心の中で怒りが煮えたぎってくる。怒りを覚えることを悪いことだとは、もう考えていない。
目の前の行為に怒りを覚えたなら、それが戦う理由なのだ。
シンはアロンダイトを抜いて、ヴォワチュールリュミエールの出力を最大にまで上げる。
「させるもんかぁあああああああ!」
シンの頭の中で、何かがはじけた。
白いMAを駆るパイロットは、その一瞬の隙を突いてビームを放った。
パイロット=スウェン・カル・バヤンは、勝ったと心中確信していたが、
それはすぐさま打ち砕かれることとなった。
『……なんだと!』
分身したのである。いや、分身したように見えたと言うのが正しい言い方であろう。
残像を残して、デスティニーが消えたのである。
消えたと思ったその時には、デスティニーは遙か先の箇所にいた。
しかも、レーダーは対象が速すぎるせいか正確な位置表示が出来ず、
まるで、本当に分身したのか、質量をもった残像を残しているようであった。
当の本人は、機体が摩訶不思議な現象を引き起こしている事などに気付くことはなく、
目の前に映っている巨大な砲塔を切り倒す事しか考えていなかった。
もはや反射で後ろからのビーム、そして、
兵器の守備部隊から放たれる砲弾とビームの雨をくぐり抜けている。
すでに、反射板にビームを照射する装置に灯がともっており、光が充満し始めている頃であった。
間に合え! 間に合え! 間に合え!
シンの頭の中でその言葉が連呼し、デスティニーはさらに速度を上げる。
常識はずれのGが身体をシートに押しつけ、
肺がその圧力に悲鳴を上げ始め、身体が動かし辛くなる。
だが、シンは前進を止めなかった。
デスティニーが腕を振りかぶり、機体が反射板で埋め尽くされた広い箇所に出る。
滑るように反射板の上を飛びながら、砲身に真っ直ぐ向かって行く。
すでにMAを大きく引き離し、その場にいるのはシン一人であった。
「おりゃぁああ!」
砲身の根本に、スッとアロンダイトが吸い込まれる。
巨大な砲身にとって蚊に刺された程度にも見えるが内部では、
すでにビームの刀身から放たれる高熱で誘爆が始まっていた。
刺したまま刀身を返し上空へ飛び上がり、円を描くように周りながら、砲身を切り裂いて行く。
目下ではすでに切り傷から爆発の炎が上がり、発射せんとため込んでいたエネルギーが噴きだし始める。
シンは下を見ることなく、上空へどんどんどんどん切り裂いて行き、
頂点まで達すると、先っぽを蹴りつけ、反動で方向転換する。
あっと言う間の出来事だった。
目下で大爆発を起こす巨大兵器を見やりながら荒く息をついていたシンに、
これを自分がやったんだという認識が後からやってくる。
「ハァ…ハァ……」
これで、宇宙から降下してくる味方は円滑に作戦行動を取れるはず。
シンは少しだけ安心したが、まだやることはある。
自分を取り囲み始めたMS部隊を突破し、味方がまだ戦闘を繰り広げている空域に戻らねば、
対MSでは取り回しが悪いアロンダイトを背中のラッチにしまい、
フラッシュエッジを抜きはなって、立ちふさがり始めたウィンダム達に吶喊した。

 

「シンがやってくれたか!」
アスラン・ザラは、砲戦仕様のダガーの腹に深々と突き刺したビームサーベルを抜きながら、
山の向こうで起こった大爆発を見やり、シンが見事に任をやり遂げたことを悟った。
第一波の、東アジア水陸両用MS部隊はその戦闘力を遺憾なく発揮した。
従来の水陸両用MSの欠点、特にZAFTのグーンとゾノは、
地上での機動能力がいささか悪く、二年前の大戦でもそれは顕著に目立っていた。
連合のフォビドゥン系MSも似ていて、TP装甲による圧倒的な防御力とは裏腹に、
PS装甲共通の弱点である『重量』が大きく足を引っ張っていた。
だが、目の前のMSはどうだ?
新たに開発された合金製の軽くて丈夫な装甲により、PS程とはいわずとも堅牢な防御力。
そしてその軽さによって実現した機動能力は驚異的で、
新型のバッテリー搭載による機体の大型化も気にすることのないものだった。
彼らの活躍もあって、第二波であるアスラン達ZAFTのMS部隊の上陸も円滑に進んだ。
アスランはシナンジュを有り余る推力で浮かせると地表を滑るように移動し、
AMBACを駆使しながら敵MS小隊の後ろに巧みに回り込んで、
一番後ろのダガーをアックスで両断する。
ふと、モニタの中に、シナンジュと同じ真紅の巨体が映る。
シャアのサザビーであった。鈍重そうな外見からは想像できぬ機敏な動きで、
ウィンダムの横を駆け抜けたと思ったときには、すでに機体は二つ三つに分断され、
ジェネレータにケーブルで繋がれた腹部のビーム砲は、一気に数多のMSをなぎ払って行く。
凄い。素直にそう感じていた。
長年の経験がなければあそこまでなめらかな挙動は出来まい。
そう考えた段階で、ふと思った。……『長年の経験』?
MSが実戦投入されてまだ数年である。
ふと沸き上がった疑念を振り払い、彼はシャアの背後に回り込もうとしたマラサイに突撃する。
建物と建物の間に立っていた奴は、シナンジュの姿を捉えるとサッと後ろに飛び退く。
ゾワッとした感覚が、背中を駆け抜ける。
アスランは咄嗟に機体を急停止させると、目の前をビームの雨が駆け抜けた。
マラサイのビームライフルだと気付いた頃には、両側から伏兵のマラサイが二機現れる。
「……しまった!」
奥歯を噛みしめた。最初からシャアではなく自分狙いだったのである。
シナンジュめがけサーベルを構えて突っ込んでくるマラサイが、
アスランの目にはゆっくりと映っていた。
よく、危険が迫ったときに周りがゆっくり見えると言うが、本当のようだ。
アスランはシナンジュに身をひねらせると、マラサイの内一機の手首を掴み、
脇に抱え込んで身を一回転させながら、もう一機のマラサイに其奴をぶつける。
味方のサーベルに貫かれる様子を見ながら、アスランは前腕のラックからサーベルを取り出し、
掌の上で一回転させると脇に抱えていたマラサイの胸部に突き立てる。
そして、自分を誘い込もうとしていたマラサイに目をやると、
奴もすでに何物かに背後から貫かれていた。
サーベルを引き抜かれ崩れ落ちた向こうには、オレンジのギラ・ドーガが立っている。
「ハイネ……」
「お前らしくもないな、アスラン」
「ほっといてくれ。それより、ノエミ達はいいのか?」
オレンジのギラ・ドーガはマニピュレータで、
器用にクイクイと別の方向を親指で指し示し、彼は其方に目をやった。
サザビーの動きに気を取られていたため気付かなかったが、
ルナマリアとノエミら女性陣の戦いぶりも見事の一言に尽きる。
ザクが用いていたビームアックスを高出力に対応させ、
ザムザザーの足を紙切れのように寸断する赤いギラ・ドーガと、
ランゲ・ブルーノ砲を掲げ、照射モードのビームを使って横一線になぎ払う、黒いギラ・ドーガ。
ノエミの用いるソレはまるでギロチンさながらであり、少し背筋が寒くなった。
その時、基地全体が揺れる。正確には、南側のみが。
「何だ!?」
アスランは、基地の破壊されていないハッチが開いていくのと共に、
凄まじい邪気と殺気を放つ存在が、その巨体を露わにしようとしている事に気付く。
そちらに目をやったアスランとハイネ、そしてルナマリアとノエミは、身を凍らせた。
ベルリンで遭遇した、黒きMA『デストロイ』。
その同型機が三機、表舞台に現れたのである。
場所はちょうど、東アジアMS部隊が攻撃を敢行している地区にあたり、
彼らの動揺を誘うには十分すぎる効果があるように思われた。
しかし、思いの外彼らの対応は冷静だった。その理由も、すぐにわかった。
海上から轟音と共に水の柱が現れ、その中から、赤い巨体が出現する。
「『シャンブロ』……!」
東アジアとオーブが一機ずつ保有している二国の切り札。
決戦兵器同士が相対する中、何故かアスランは一瞬だけ、
某特撮映画シリーズの『南海の大決闘』に搭乗する二匹の生き物を思い出していた。
ただそれは、東アジアの紋章は入っていなかった。
オーブ国軍の紋章と、操るパイロットを示すマークが入っている。
あのマークはに、アスランは見覚えがあった。
「ユウナが乗っているのか!?」
シャンブロは搭載している拡散ビーム砲を用いて、デストロイめがけて攻撃を開始した。
デストロイにビームバリアが搭載されていることは、すでにユウナ・ロマ・セイランも知っている。
だが、奴に設置されたバリアは、頭上のドームを守る大型のものと、
マニピュレータに搭載された小型のみである。彼はそこを突いたのだ。
拡散ビームを本体でなく足に集中させた。
奴は咄嗟にマニピュレータのバリアで防ごうと試みたが、
少し展開が遅れ、足への直撃を避けることが出来なかった。
シャンブロのビームはデストロイの両足を奪い去り、
デストロイのバリアをアテにしていたMS群を巻き込んでいく。
傘にも見えるドームに飛行ユニットを内蔵しているため、
デストロイ本体は倒れることは無かったが、MS形態への変形が不可能になった。
そこを、東アジアのMS達が見逃すわけがなかった。
デストロイは遠距離への火力が高いかわりに、
ベルリンで示したとおり近距離の攻撃に対応するにはMS形態にならねば難しいものがあるのだ。
自らのボディに群がり、啄むようにクローを突き立ててくるアジアのMS達を、
必死に振り払おうと藻掻くデストロイの姿は、あまりに哀れに見え、アスランは思わず目を背けた。
ゾウを引き倒すアリのように、デストロイの巨体を地べたに引きずり下ろし、
上に次々と乗っかって各所をつつき、引き裂き、焼き切って、
嬲るかのような光景が繰り広げられた。
仲間がやられた怒りなのか、それとも忌々しい存在を見つけたからなのか、
別のデストロイがMA形態を解除し、巨大なGタイプの姿に変貌し、
彼らが群がる箇所に向かって胸部のビームキャノンを放とうとする。
だがそれも叶わなかった。ユウナのシャンブロである。
ホバーによる高機動と重装甲により、建築物をなぎ倒してデストロイの懐に滑り込んだシャンブロは、
隠していた巨大なクローをエネルギーの集中していた胸部に突き立てたのである。
膨大なエネルギーが行き場を失い放出し始め、ユウナはそこへ拡散ビームを至近距離からたたき込む。
上半身が吹き飛ばされ崩れ落ちる巨体に見向きもせず、シャンブロは西のクヴェラゲルジに存在する、
基地最大のエネルギープラントを破壊すべく進路を変える。
「……ユウナ」
アスランは、あっと言う間にデストロイを葬り去ったシャンブロに驚きつつ、
その後ろ姿から、ユウナが泣いているようにも、焦っているようにも見えて、
何がそんなに彼を前へ前へと駆り立てているのかが解らなかった。
カガリを守るためとはいえ、暴れすぎだ。アスランはそう感じていた。
だがそう考えている余裕も少ししかない。
シナンジュに追いすがろうとするダガーやウィンダムはまだいるし、
マラサイは未だミネルバ隊以外のMSには優勢な展開を続けている事に変わりはないのである。
シャアがZAFT地上部隊の援護にまわる旨を告げると、
ソレにしたがって各機は宙へ飛び上がって建造物の上をはね回り、
弾丸をかわしながら敵MSのボディにビームや弾丸を撃ち込んで行く。
ハイネの撃ったのシュツルムファウストが、マラサイのボディを捉え爆発する。
ルナの振るったアックスが、盾ごとダガーを唐竹割にする。
ノエミのギロチンビームが、地上にいた砲戦MS達をなぎ払う。
そして上空で空戦MSと戦闘を繰り広げていたレイのレジェンドも駆けつけ、
地上の趨勢はZAFT側に一気に傾いた。

 
 

※※※※※※※

 
 

「‘ニーベルング’とデストロイが!? そんな簡単にか!」
ネオ・ロアノークは、ZAFT・アジア連合軍の第二波部隊上陸に合わせ、
山岳部カタパルトで高々度空域にまで一気に上昇した後、
基地司令部から入った通信に度肝を抜かれた。
立った一機のMSが、あのギャプランを駆るスウェンを振り切って、
発射寸前だったニーベルングへ刃を突き立てたのだという。
それと同時期に、長距離から放たれたビームを免れたデストロイ三機の内二機も、
オーブが投入してきた新型に葬り去られたとの情報が入り、
ロアノーク隊が集結しているカタパルト付近の将兵の意気消沈ぶりは凄まじかった。
「……やむを得まい、エイマス中尉!」
ネオはこの区画を担当する技術士官を呼び出し、
区画の全将兵を直ちに東区域のマスドライバーに向わせるよう指示した。
このあたりも、自分たちの出撃後ZAFTに狙われるのは時間の問題。
それに、この場所に戻ってくる気はないことも告げた。
『いけません! それでは大佐や大尉……それにあの子達が帰ってくる場所が!』
「俺たちなら心配するな。
 機体の事を俺たちより知ってるはずだろ?」
『り、了解しました』
そして、プツッという音と共に通信は切れる。ネオは、彼らが生きて宇宙に上がれる事を内心祈った。
この戦いは完全に、悲しむ者もいない哀れな『捨て石』達を囮にする無駄な戦だ。
それを思うと、万全な訓練もさせてもらえぬまま、
ウィンダムやダガーに押し込められたエクステンデッドや孤児の少年少女が、
ネオはどうしてもステラ達と重ねてしまい、今頃司令室の皆を煽り、
必要な精鋭達を宇宙に上げる準備を進めているであろう『上司』の顔を浮かべ、怒りに震える。
あの男にそう言う感情を抱く資格は自分にはないことを知りつつも。
「大佐、どうされたのです」
「ファブリスか。いや、エイマスに今の内に逃げおおせろって言ったんだ。
 南で命張ってる連中を見殺しにしてな……」
「彼らの死を無駄にしない為です、大佐。
 ここでためらっては真の意味で彼らを見殺しにすることになる」
マゼンタのデルタプラスに乗っかるようにして、νガンダムも同行していた。
右方70m辺りには、セr……フレイ・アルスター中尉のデルタプラス、
二機搭載型のベースジャバーには、スティングとアウルのスタークジェガン。
そして彼らの機体を守護するかのように追従するのが、キラ・ヤマト中尉のSフリーダムであった。
彼らには、みながすでに脱出用シャトルに移動し始めたという話は聞こえていない。
言うつもりもなかった。いずれ退却時に指定ポイントとして示せばいい話である。
彼らが今現在向かっているのは、包囲している敵大艦隊の南端。
つまり、旗艦が集合している地点を高々度からの強襲をかけるという、
言葉としてはシンプルながら、死地に飛び込むような任であった。
ネオはもう一度、右方の四機を見やる。
誰しもが、敵への殺意を露わにしており、
闘争本能を理性で押さえつける気がないように思えた。
特に、Sフリーダムのキラに対し、ネオは少々哀れさを感じていた。
上層部の保有するデータによれば元々連合のパイロットとして、
アークエンジェルに所属していた少年だった。
これから向かう先に存在する四隻の艦の内一隻は、そのアークエンジェルなのである。
‘調整’でアークエンジェルに所属していたという事は忘れ、
フレイと共に別の部隊で二年前から戦っていたパイロット……という事になっている。
過去の経歴を全て洗われ、あのアスラン・ザラと旧知であることが知れるや、
『上司』=ロード・ジブリールはソレを利用しろと命じたのである。
『信頼していたはずの人間に友人を殺された』という記憶を強調せよ、と。
……これは真実である。
実際、前体戦時トール・ケーニヒという少年兵が、
イージスに殺害されたという記録が残っていた。
そこに手を加えたのだ。
彼とフレイら2名はオーブのカレッジに‘留学’していた時、
トール・ケーニヒ、サイ・アーガイル、ミリアリア・ハゥ、カズイ・バスカーク。
彼らと知り合い友人となってから一年以上経ち、戦端が開かれた。
実際の記録にあるヘリオポリス脱出からオーブに一度寄港した辺りまでは殆ど記憶はいじっていない。
『ある男』に関する記憶は抹消したらしいが、ネオはそれが誰なのかは知ることが出来なかった。
そこをどうしても知りたいという欲求はあったが、時間がなかったのである。
そして、アスランの存在をおおいに利用した箇所とは、その後の部分である。

 

〜オーブを出港したアークエンジェルを襲撃したのは、
 アスラン・ザラ率いるZAFT軍部隊であり、友人達はイージスの一撃により死亡した〜

 

という記憶を刷り込んだのである。
ご丁寧にも、残った焼けこげた遺品を花だけが詰まった棺桶に入れる光景までも用意して。
(同情するよ、坊主。そのMSの腕が無けりゃ、別の人生もあったろうが……)
あの『ヤキンのフリーダム』を縦横無尽に操ることが出来る人材と、
人間の頭の中を都合良くいじることの出来る設備。
その二つが揃っているときに権力者がやることと言えば一つしかない。
内心吐き気すら覚えたとき、目下に広がる雲の間に、
追い続けた戦女神の名を冠する艦の姿が映る。
彼らにとって幸いだったのは、相手方の連中が攻め手は我らであると踏んで、
高々度を飛べるMS部隊も基地の爆撃や低空からの援護に廻したことにあった。
「いいな、我々の目標は四隻の艦船のみ! 他の連中は必要以上に相手をするなよ!」
「「「 了解! 」」」
「へいへい、解ったよ」
「任されて! そぅら!」
真上に差し掛かった段階で、先陣を切ったのはスティングとアウルであった。
ベースジャバーを飛び降りて、天龍の頭上をマークし、
今頃気付いた向こうの連中が放ってくるCIWSをくぐり抜ける。
ロアノーク隊は幸運だった。旗艦ら四隻を囲む艦船はすでに前へ出てしまっており、
もし今彼らの強襲に気付いたとしてもすでに手遅れと言って良い。
天龍に残っていた守備隊のズゴックE二機の攻撃を全てをよけきって、
スティングが、甲板めがけて一発携行していたバズーカを放つ。通常弾ではなく、散弾であった。
途中で細かい金属片に分列すると、ズゴックEのモノアイや関節部にそれらが飛散し、
機体の各所で小さな爆発が起き、機体は甲板に崩れ落ちる。
そして、二人は三連装ミサイルポッドを全段甲板にたたき込む。
オーバーキルと言うに相応しい威力であった。初弾が甲板表面を引き裂いて、
二発目が内部装甲を粉砕し、三発目で追い打ちをかける。天龍は胴の真ん中を完全に破壊される形となった。
両端の甲板を除き殆どが吹き飛び、予備の戦闘ヘリは悉くが海中へと落ちて行き、
生き残っていた護衛MSは、上空からの二人の追い打ちに対応できぬまま胴を上から撃ち貫かれる。
スティングとアウルは、ブリッジに当てなかった。
東アジアのトップと言われている男がどんな奴か、見ておこうと思っていたのである。
だが、拍子抜けした。政治屋と呼ばれる連中が発する威圧感は、彼にとって何の興味もないものでしかない。
戦士としての威圧感のない、彼にとって嫌悪すべき発想しか生み出さない存在にしか見えず、
アウルが、ブリッジに拳をたたき込んだ。

 
 

※※※※※※※

 
 

東アジア共和国大統領ツァオ・フェンは、
目の前で起こった現象を現実として受け入れることを、脳が本能的に拒絶していた。
先程、大西洋連邦の切り札を我々アジアの秘密兵器が易々と葬ったという報を聞き、
それがオーブ軍側であることに多少の抵抗感はあるものの、
それと同じ兵器を此方も保有しているという事実。それだけで愉悦を感じていた。
なのに何だ……何で私の目の前にMSが立っているのだ?
知らない機体であった。宇宙でジブリールが手に入れたという新型なのだろうか?
そういえば、何者かがジブリールに機体を供与したらしいという噂も聞いていた。
もっとそれらに興味を持って調べさせるべきであったと、今になって彼は後悔した。
レーダーのレンジ外、超高々度からのMSによる奇襲。
まるで、桶狭間の今川義元になった気分であった。
「我々アジアの……私の……地球圏の主の夢は……」
そこまで言って、彼の意識は鋼鉄の塊が迫る光景を最後にとぎれた。

 

「天龍、シグナルロスト! 搭乗者の生存は絶望的です……」
戦闘ブリッジから送られたメイリンの悲鳴に近い報告を、
デュランダルは驚愕と喜びで二分割された感覚で聞いていた。
天龍の索敵装置は前時代の代物だったらしい。
新兵器開発に力を注ぐあまり其方を見落としたとは!
上空の敵を察知し対空体勢と脱出の準備を、
一足先に調え始めていたミネルバにとって、呆れる他無い内容である。
ただ、天龍があっけなく撃沈されたという事は、残った敵の矛先が此方に向くと言うことだ。
MS部隊はすでに十数卆茲隆霖呂農鐺状態に入っており、
メイリンが緊急通信をそちらに送ったらしいが、間に合うまい。
「艦内の総員に脱出命令を出せ!
 戦闘ブリッジの人員も、大半の退去完了次第脱出しろ。
 ……遺憾であるが、ミネルバは放棄する!」
デュランダルは、モニタに映っている、
天から降下してくるGの姿を見て即断した。
濃紺と白、黄色のカラーリングを持つGタイプ。
デュランダルだけが、この場の人間でその名を知る唯一の人間であった。
『νガンダム』……かつてシャアがいた世界に於いて『白い悪魔』と呼ばれた存在
デュランダルは悔しさに歯噛みした。
ありとあらゆる状況を考えなければならないはずなのに、
勝利によって判断を見誤った事を今更になって再認識したのである。
νガンダムはビームライフルの銃口を、
まずミネルバ左右後方のメインブースターに向ける。
ラミネート装甲を打ち抜けるはずがないと、デュランダルを除く人員は考えていたが、
「総員、耐ショック体勢!」
展望ブリッジでデュランダルが天を見上げて叫んでいた。
何故なのか考える間もなく、衝撃が彼らを襲う。
貫かれたのである。そして、現状を確認する暇すら彼らに与えられることは無かった。
一発、二発、三発。
νガンダムはあの高々度から正確に、
メインブースター、ウイング、主砲トリスタン、副砲イゾルデを撃ち貫く。
続いて、メインカタパルト双方も次々と潰され、対空砲であるCIWSも潰されて行く。
勝利しか経験したことのないと言うことが、ここで裏目に出ていた。
初めて経験すると言っても良い決定的な敗北。
その恐怖と、空から降ってくる悪魔に対する絶対的恐怖を前に、
展望ブリッジや艦内のクルーは恐慌状態に陥った。
デュランダルやタリアの周りにいた将兵達も、軍人として守るべき人間の存在すら忘れて、
ブリッジから直接ハンガーに繋がるエレベーターへ駆け込み始め、
ミネルバの各脱出口からは、ランチが次々と海上へ非難し始める。
よせと最初は言おうと思ったが、奴はランチには一切手を出そうとはしなかった。
戦闘ブリッジからの通信も消えた。きっと、アーサーが全員脱出させたに違いない、
その段階になって、デュランダルは立ち上がった。
「タリア、君も脱出しろ」
タリア・グラディスは、彼の目の中にある種の覚悟が出来ている事を悟った。
……彼は、ここで死ぬ気だ。
「脱出用シャフトはあと個人用一つだけだ。
 私の判断が甘かったよ……」
デュランダルはそう言うと、ブリッジの前に行こうと彼女の脇を通り過ぎようとしていた。
ただ、ここで彼はまた一つ判断を誤っていた。
タリアは彼の後ろに立って彼の首筋に手刀を打ち付けたのである。
「タリ……ア……?」
一瞬、彼は何が起きたのか理解できなかった。
消えゆく意識の中で、彼女が自分を担ぎ上げたところまでになって、彼の意識は闇に消える。
「相変わらず馬鹿なまんまなんだから……。
 貴方がここで死んだら、プラントはどうなるの」
彼女は力の抜けた彼を担ぎ上げ、個人用エレベーターに彼の身体を放り込む。
扉の開閉スイッチを、彼女は躊躇せず押した。
下で扉が開けば、きっと自分の役割を忘れていた馬鹿な男共が彼を回収するだろう。
そして彼女は、振り返る。天窓の向こうに、悪魔が立っていた。
圧倒的な存在感を目の前にしても、今の彼女は心穏やかであった。
不思議な感覚だ。これから死ぬのだと解っていても、安心していられる。
それは、悪魔の背の向こうに、彼らが来ていたからだ。
運命の名を冠する希望、再びZAFTに舞い戻った英雄、そして赤い彗星。
「あの人をお願いね、みんな…………」
ミネルバのブリッジを、サーベルが一閃した。

 
 

「来たか、シャア!」
「アムロぉおおおおおおお!」

 
 

歯車が、かみ合う音がした。

 
 

第29話〜完〜

 
 

第28話 戻る 第30話