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CCA-Seed_787◆7fKQwZckPA氏_31.5

Last-modified: 2011-05-10 (火) 12:21:48
 
 

機動戦士ガンダムSEED DESTINY IF
〜Revival of Red Comet〜
第31.5話

 
 

〜L1宙域・デブリ帯付近

 

『標本489に関する報告 所見:移植昇華不全 結果:死亡』

 

「……標本490の用意をさせねばな。
 このサンプルの状態は……完成とは言えぬ」
グワダン内部。王家の間の如き装飾の施された居室に於いて、
ラクス・クラインはアクシズの研究施設からFAXで送られてきた資料に目を通し、
ため息を一つついて、傍らの小テーブルに置いた。
クライン派という巨大な情報ネットワークこそあれ、
彼女の有する軍事力は回収したアクシズのMSと戦艦達、
そして各国に潜むシンパを集めたとしても、とうてい物量はZAFTはおろかオーブにも届かない。
だが質では圧倒しているという自負もあり、そちらの心配は彼女はあまりしていなかった。
そんな彼女が現在抱える最大の悩みは、『地上部隊』である。
デュランダル率いるプラントの地上制圧部隊と特殊部隊は、
プラントという国家に対して絶対的忠誠を誓っており、彼女になびく人間を捜すのは一苦労。
そして彼らに対抗できる兵隊など、世界には存在しないと言っても過言ではなかった。
故に、アクシズの内部施設を守りかつ、
敵要塞や敵施設を制圧するに当たって強力な軍隊が必要だったのである。
それも少ない数で大多数を相手に出来、
なおかつ圧倒的で絶対的な恐怖をもたらす軍隊が。
その兵隊達は、ラクスの言う『完成された身体』を持つのが理想的だった。
「失礼いたします、ラクス様」
「入れ、イーダ」
ふと、居室の戸を叩く音が聞こえ、その主が誰かを感じ取ると彼女は入るよう促した。
戸が開き白衣の美女が姿を現す。同乗している研究者チームの一人であった。
顔立ちは美しかったが、どこか生気を感じさせない人間であった。
白衣に隠れた肉体はどこか武骨なものを感じさせ、
その下にある身体がどうなっているかなど、考えたくもない。
「……報告書は読ませてもらった」
「申し訳ありません。さすがに身寄りのない孤児育ちでは、
 我々の祝福に耐えかねるもので……」
「何のために、わざわざコーディネイターの軍人を捕らえていると思っておる。
 あやつらならば私の祝福を喜んで受け入れるだろうに」
「……彼らはラクス様に刃向かった不届き者にございます。
 相応の罰を与え、祝賀の舞台へは立たせるべきではありません」
イーダと呼ばれた女性研究者はラクスの提案に反論した。
確かに、身よりも身元もハッキリしない孤児達を集め、
祝福という名の施術を行い続けて489人。その大半が失敗に終わっている。
体力がないのが一番の原因であるとラクスは言っているのだ。
「それ相応の罰……『死』か。だが、脆い餓鬼共よりはより良い物となると思わんか?」
生き残った30人の孤児達は素晴らしい兵士となった。
たった一滴、ほんの一欠片の悪意と完成されし肉体をもっただけで、
善良な子供達の魂はラクスへの忠誠と共に完成を迎えた。
それを考えるに、鍛え上げ体力のある存在である『兵士』と言う名の『標本』は、
枷となっている肉と皮を剥ぎ取ってやればどれほど素晴らしい完成品が生まれるだろうか?
ウズウズと、その考え一つが彼女の好奇心をつっつく。
やがて地球圏を手にしたときに、成し遂げられるべき終結。
争い続ける人類。生の感情を丸出しにして戦う品性のない人間。
そもそも肉体などという枷を身につけているから、
品性を失い、思考が肉に左右され、一つになることが出来ない。
ラクスは、考える。
『彼』は言った。ラクス・クラインは世界を導くべき存在だと。
世界を統治すべき人間として生まれた自分が、何を目指すべきなのか。
そして絶対的指導者に相応しい存在とはどうあるべきなのか。
一つの考えが、彼女の脳裏に浮かんでくる。

 

 『All Will be one』〜全てを一つに

 

世界の全てを手に入れて、祝福されし最高の生命体で地球圏を満たし、
やがては湖畔の『彼』と会うに相応しい存在となる。
新参者であるルナマリアのように、独立した魂と完成された肉体を手に入れ、
『彼』の隣に立つに相応しい女になり、完成された世界を捧げるのだ。
そのためには、今持つ軍隊を完成させねばならない。
イーダの顔をジッと見つめていたラクスは、痺れを切らしたように立ち上がると、
「そこを退け、イーダ。標本490に子供は使わん」
ラクスは居室の通信機からグワダンの監房ブロックとの回線を開くと、
捕虜No.6を医療ブロックへ搬送するよう通達し、
呆然と突っ立ったイーダの頬を優しく撫でる。
それだけでこの女は舞い上がり、先程意見したことなど頭の中から吹き飛ばした。

 

※※※※

 

「ん……あ? 何だ?
 何で俺ぁ運ばれてんだ!?」
フィリップ・ベーエは煌々と目に差し込んでくる明かりのまぶしさに、
思わず目をシパシパさせて、今自分が置かれている状況の把握に努めた。
覚えているのは、L1宙域の航行中謎のMSに襲われ、
グフの四肢がたちどころに奪われ捕虜となった所。
それと、先程まで押し込められていた監房に、
ズカズカと入ってきた守衛数名に身体を押しつけられ、腹部に一発喰らったところまでだ。
目がだんだん明かりになれてくる。光源はライトであった。
水色に統一された壁と、円形に並べられた電球。
どこかで、見たことがあると思った。
コーディネイターとして生まれた故、あまり縁の無い場所であったが、
子供の時事故で怪我を負い、こういう部屋に入ったことがある。
……《手術室》だ。
フィリップは背筋が寒くなっていくのを覚えた。
前大戦の時はともかく、最近は怪我など負った覚えはない。
加えて、彼の不安感を増大させているのは周囲の雰囲気であった。
立っている医師達や看護士達から、生気というものがまるで感じられない。
それに、着ている手術着もどこかがおかしい。
全てが機械的なのだ。人間の意識が存在しない、冷淡で不気味。
その言葉でこの空間は埋め尽くされている。
「目が覚めましたわね、フィリップ・ベーエさん」
「……え!?」
聞き覚えのある声が、彼の耳に入ってくる。
信じられない。まず第一に彼が考えたことはそれであった。
この声の主を、彼は知っている。
TVに姿が映るたび、仲間と一緒に舞い上がり、
CDが発売されると効くや、前日から店の前に陣取った。
彼を初めとするプラント国民の心の支え。
「……ラクス……クライン?」
「ええ、その通りですわ。フィリップさん」
TVのようにおしとやかな声で、自分に声をかけてくる。
手術室を一望できる部屋が上に見え、大きなガラスの向こうに彼女は座っていた。
桃色の蓄えられた美しい髪の毛が見える。ずっとあこがれていた美女の顔が、そこにある。
だがどこか変だ。
彼女はここまで底冷えのする感覚を放っていただろうか?
「何故、貴女がこのような所におられるのです!?」
最大の疑問を、口にした。
彼女が、このような場所にいるはずがないのだ。
自分が捕まった状態のままとするならば、
ここはあの巨大な赤い戦艦の中である。
だとすれば、この艦の主は彼女であり、
自分たちを攻撃してきたのは同胞であるプラントの人間という事になる。
フッと、彼女から一抹の穏やかさが消える。
その視線に慈悲の心など欠片もなく、
顔は微笑みを浮かべたままなのに、
ずっと一目会いたいと思っていたアイドルの顔なのに、恐怖しか感じない。
彼の思考はパニックに陥っていた。
彼女はそんな彼の様子を見て表情一つ変えることなく、言った。
「呆れるほど脆いですわね。まぁ、そんな古びた思考など今から捨て去られますわ。
 新たな目的と喜びと快楽をその魂に与えてあげましょう」
彼女は冷酷な目でそう言い放つと、手術を担当する医師に向かって、
「この者の不信心なる皮と肉と臓器を取り除き、信ぜざる者に新たなる心臓を与えよ」
「……!? な、何を言っているんです! 貴女は!」
「……何を?」
フィリップは、感じているものが我が身の危険を知らせる本能であると確信すると、
この場から逃れんと身をよじらせるが、手も、足も、胴も、
手術台にがっちりと金属の板で押さえつけられていた。
ラクス・クラインという絶世の美しさを持った、
恐るべき穢れた心を内包するクリーチャーは、
不思議そうな表情で、恐怖におののくフィリップの顔をのぞき込む。
「何をそんなに恐れているのです、フィリップさん。
 貴方は今から完成し、肉体という弱さから解放され、完璧になるのです」
生まれて初めて、フィリップは泣き叫ぶという行為に及んだ。
心の中には絶望しか残っていなかった。
希望を与えてくれるはずの女神は、恐怖を作り出す悪魔であると、
この時になって確信し、自分がこれから向かう先は地獄だという結論を得た。
「だ、誰か助けてくれ! 何で何も言わないんだよぉ!
 おかしいと思わないのか! ラクスはこんな人じゃない!」
冷静に手術の準備を始める医師達の手を見、目を見、
狂信的にあのラクスの皮を被った悪魔を信じている人間を感じる。
いや、もはや人間という存在からかけ離れ、
ラクスというたった一人の存在と同一の思考を持った『機械』にも見えた。
看護士が、医師の手に器具を渡す。医療用メスではなかった。
武骨で、恐竜のかぎ爪のような刃が何枚もついている金属でできた物体。
「やめろ、止めてくれ!
 来ないでくれぇえええええええええええええええ!」

 

がしゃんと……手術室の扉が閉まった。

 
 

※※※※※※※

 
 

〜L5・プラント本国

 

プラント最高評議会議長、ギルバート・デュランダルは、
執務室の壁に設けられた大モニタで東アジア共和国大統領就任式の模様をじっと眺めていた。
地球の情勢は、ヘブンズベース戦以降めまぐるしく変わっていった。
大局的に見れば敗北した側である大西洋とユーラシアでは、
今現在本国の各地で現政府に対する抗議運動やクーデター未遂が多発しており、
戦争を続ける余力そのものが無くなって来つつあった。
政府の中でも、すでにプラントと和睦すべきと主張する政治家達が出現しており、
オーブのカガリ・ユラ・アスハとユウナ・ロマ・セイラン、
そしてデュランダルに接触を試みる者がすでに二桁に達している。
そしてまた、大西洋とユーラシア二国以外の国の反応も顕著であった。
赤道連合と南北アフリカが、オーブ支援に動き始めたのである。
象徴的な旗艦を落とされ影響力は少し弱まったとはいえ、
プラントと東アジアの影響力と軍事力は相当残存しており、
そんなプラントと東アジアの一人勝ちにはさせないという考えが露骨に現れている。
デュランダルは内心不快感で一杯だった。
これでは、今回の戦争に勝っても何も変わらない。
唯一救いといえるのは、新たに東アジアのトップに立つ事となった人間が、
『ジューガー・リャン』という人間であった事だ。
親プラント派の筆頭と行って良い政治家であり、ツァオ・フェンよりはある程度信用できる人間だ。
「だが安心はできん、か」
地球のことは勿論頭痛の種であるが、なにより優先すべきは宇宙に逃れ、
月付近の宇宙要塞に立てこもった『ロゴス』残党軍である。
大西洋連邦とユーラシア国軍において、ロゴス絡みでない軍人達はすでに地上で投降しており、
実質ロゴスの私兵といって良いはずである。ZAFT宇宙軍の戦力だけで叩くためには、
何らかの方法で味方を増やすか彼らを内側から切り崩さなければならない。
ただ後者は不可能だ。
彼らは反コーディネイター感情の高い連中で、
デュランダルを初めとするZAFTの言うことは聞こうとしない。
ならばやるべきは味方を増やすことであるが、宇宙で今現在勢力と呼べるのは、
プラント本国と、ロゴス残党。独立勢力アメノミハシラ。
そして……口にするのも忌々しい……

 

「ラクス・クライン……」

 

アメノミハシラは、今更味方にしたところで役に立つとは思えない。
ゼダンの門のMS、つまりティターンズのMSと、
先のヘブンズベース戦で姿を現した『ジェガン』系列。
彼らに対してアソコのMSが太刀打ちできるわけがない。
なら、彼らに対抗できる勢力に接触を図るのが一番だが、
アクシズに接触するなど愚の骨頂としか思えなかった。
やはり、オーブ宇宙軍の再編をカガリに打診し、
東アジア共和国宇宙軍と共に協力してくれるよう要請するか?
デュランダルの頭の中で、グルグルと色々なものが回り出す。
正直言って、頭が痛い。一瞬、何も考えたくなくなる。
彼がそう感じたとき、執務室の戸をノックする者がいた。
「入りたまえ」
「リンドグレン、入ります」
「ああ、君か」
エリオット・リンドグレンであった。
デュランダルは信頼する片腕が来たことに少し安心感を覚え、
机の前に立った、自分より7つ年下の、うら若い内政事務次官の顔を見る。
「何事だね」
「議長、先程政府の外交局を通してこんなものが……」
リンドグレンは、一枚の書類をデュランダルに手渡す。
デュランダルは、リンドグレンの表情に一抹の不安を感じて、
書類に書かれた文面を読み取って行く。
次第に、手が震えてきた。
こちらが考えるより先に、向こうが動いてきたのである。
デュランダルの顔色が青ざめて行くのを見たエリオットは、
「……どうなされますか?」
「一両日待つよう、向こうには言っておけ」
「……了解しました」
彼の目が出て行ってくれと言っていることを悟ったエリオットはそそくさと部屋を退出する。
デュランダルは、彼が部屋を去っていたことを確認すると、
机の通信装置の電源を入れ、ハイネ・ヴェステンフルス、
そしてシャア・アズナブルを呼び出すよう部下に通達した。

 

文面は、ラクス・クラインから送られたものであった。
一言で内容を表すなら『L5宙域にて会談を行いたい』……というものを。

 
 

第31.5話〜完〜

 
 

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