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CCA-Seed_787◆7fKQwZckPA氏_34

Last-modified: 2011-05-27 (金) 16:36:58
 

〜グワダン・ラクスの間

 

口で、そして‘女の筒’の中で、自分は何度果てただろう?
シャア・アズナブルはその正確な数を把握できぬまま、
自らの理性が途中から吹き飛んでいたことを周りの乱れたシーツや、
自分の胸板の上で荒く息を吐きながらもたれかかる、
その若くも熟れた身体を見せつける女の顔を見て悟る。
熱い息をシャアの胸にはきかけて、女、ラクス・クラインはその手を彼の手に絡める。
シャアは、サッと振り払う。その程度の体力は残っていた。
「ぁん……」
「……戯れるな」
「さっきまではただの獣でしたのに……フフ」
口元に笑みを浮かべ彼の胸元をスーッと指で撫でながら、
ラクスは二人を覆うシーツの中の方へと顔を埋めていく。
意識とは反比例するように元気なもう一人の自分に、シャアは正直嫌気が差す。
それよりも、何か盛ったかも知れないという警戒を解いた自分に腹が立つ。
再び室内に水音がし始めて、下腹部にこみ上げてくる快感に顔をゆがめた。
ラクスは中にあるものを全て搾り取るかのように、
眼前にそびえる肉の塔を吸い上げシャアはそれを拒否できぬ程憔悴した我が身を呪う。
緩急付け、速過ぎず遅すぎず、一気に上り詰めさせないよう、
止めては始め、止めては始めを繰り返し、舐め上げてはくわえてしゃぶる。
ジワリジワリと脳髄を支配してくる快楽と、
この女の顔をこのまま掴んでやりたい欲求を、彼は押さえ込んだ。
それを表情から読み取った彼女は、
ふと勢いを緩めたと見せかけ一気にそれを吸い上げる。
「……!? ……ぐぅ」
あまりの不意打ちに、彼の理性の抵抗の壁も打ち崩され、
彼女は口内にあふれ出た彼の衝動を受け止め、身を起こす。
いつの間にか点いていた部屋の明かりをバックに、妖艶な身体が彼の視界に入る。
口の端から喉にかけて一筋の白い線があり、
彼女はごくりという音をたて口の中にあるものを呑み込んだ。
「口では強がって……もう身を委ねたらどうです、シャア」
「…ふ…ざ…けるな」
「……本当に、可愛い人。もっとやってと目は言ってますわ」
彼の言うことを、彼女はまともに聞こうとはしなかった。
お人形遊びをする女の子のように、彼を掌で弄ぼうとする。
ただ一つだけ腑に落ちぬ事がある。
こうして行為に及んだ後、彼女の身体は確かに満足したように見受けられた。
しかし、その中にある彼女の心に於いて、二つの相容れぬ感情がぶつかり合っていた。
‘肉体を魂の牢獄と規定しその殻を脱ぎ捨てて、
 より良い存在へと昇華しようとする、無慈悲な機械の王’
‘肉体という器から生まれるこの男への欲求が、
 本当にただ血から沸き上がるものなのか、
 それとも本当に自分の中に生まれた気持ちなのかと疑っている少女’
彼女が再び彼の上へまたがろうと身を乗り出したとき、
居室に設置された電話のコールが、けたたましく鳴り響く。
ひとしきりの行為が終わったことを察したかのように。
シャアはその時、明かな怒りと殺意を露わに、
居室のデスクに設置してあった機器を、ギッと睨みつける少女の顔を見た。
ラクスは荒々しくベッドから出て、
濡れた身体をタオルで一度包むと電話機の通話ボタンを押す。
『お楽しみの所申し訳ありません、ラクス様』
「……キラツーか、何事だ?」
『先程L1宙域、ゼダンの門より通信がございました。
 ロード・ジブリールめが、ラクス様を呼び出しております』
「ゼダンの門へ、か……。
 大方、こちらの動きがあちらに漏れたのだろうな」
シャアは、聞き逃すまいと思ったが、
彼女が最初から聞かせるつもりであることも薄々感じ取っていた。
ラクスが、ふと振り返ってシャアの顔を見、微笑んだ。
複雑な気持ちである。先日までは敵として認識していたにも関わらず、
こう一度関係を持ってしまうと一概にそうと言い切れなくなる。
男とはつくづくめんどくさい造りをしていると、シャアは思った。
だが、思考がハッキリとしてくる内に、
シャアはだんだん体温が下がってくる感覚を覚える。
(今、ゼダンの門と言ったのか!?)
加え、呼び出しと言うことはすでに、
彼女とジブリールは接触を持っているという証。
「了解した。ゼダンの門には、直ちに向かうと通告しろ。
 あちらとて焦っているだろうが、ゆっくりと航海を楽しんでから、な。
 ……少しじらしてやると良い」
『はっ』
キラツーは青年らしい元気な返事をするとモニターの電源を切り、
ラクスは指導者の顔から先程まで見せていた女の顔に戻る。
ベッドからようやく起きあがる程度に体力が戻ってきたシャアは、
身を起こして一度姿勢を直し、彼女は笑みを浮かべたままその様子を眺めていた。
「ジブリールに会うのか?」
「当然でしょう? クラインの娘がアクシズを持って近くにいるのですから」
「……そういう事か」
その段階になって、シャアは合点がいった。
この女は、最初からジブリールの勢力圏に入っていたのだ。
アクシズを、最高のタイミングで表舞台へ引っ張り出すまで、
人の目を離して隠し続けるための隠れ蓑。
今までアクシズを見つけられなかったとし、
かつ彼女がジブリールに近いとなれば、場所は一つだけ。
‘サイド3’がかつて存在していたL2宙域。月の裏側。
ハマーンの血の影響が色濃く出ているならなおさらだと、今更になって彼は後悔した。
ミノフスキー粒子も交えればこのC.E.において、
レーダーを欺いての隠匿は簡単であることも気づけずに。
彼が何を考えているのか察したラクスは彼に一度シャワーを浴びるようすすめ、
身体にまとわりついた互いの体液が混じった液体を、人差し指ですくい取り口でくわえる。
淫靡な、魔性の色香。それ以上見るわけにいかない。
シャアは、素直に彼女のすすめに従った。
このグワダンの中で彼女の意に逆らうのは得策ではなかったし、
いち早くこの身体にこびりつく粘っこいものを取り除きたかった。
重力ブロックのシャワーは、無重力でのシャワーよりはるかに気持ちが良い。
当然の事でありながら、彼自身のと彼女の身体から溢れ出たものを、
温かいお湯で洗い流していると、妙な実感と共にそれを感じさせたのである。
浴室というのは不思議な場所だ。人の心を落ち着かせると同時に、
彼の思考もどんどん眠気から醒めて冷静となって行き、自分が尋常でない状況にあることを再認識する。
脱衣所に出ると、籠の上にインナーが置かれていた。
ZAFTのものではなく、アクシズの、つまりは公国時代のインナー。
懐かしさを感じると共に、それを手にしようとしている自分に違和感を感じていた。
今自分が着るべき軍服はコレではない。そう感じたのである。
自分を形成しているものの中で、
‘ジオンの赤い彗星’であるシャアが小さくなっていて、
‘ミネルバの隊長’であるシャアが今、心の中で生きていることを。
脳裏に、シン、アスラン、レイ、ルナ、ハイネら戦友。
そしてメイリン、デュランダル達プラントの面々の顔が浮かぶ。
インナーを掴む手が、躊躇う。しかし、コレしか着るものはないのだ。
シャアが脱衣所から出てくるのを見たラクスは、
下半身を覆っているタオルを掴み、入れ替わりに浴室へ入っていった。
部屋には、掃除係と思しきマシーンが、
ベッドシーツの取り替えを行っていた。
シャアは、特殊なタイプだという認識を持った。
少々グロテスクであるが、上半身は人型で、
骨格は剥き出しになっており、下半身は安定した四脚タイプ。
古典的と言えば失礼だが、昔ながらの古いイメージ通りなクモ型ロボットの様であった。
だが、シャアはこの段階で気付くべきであった。
死角となって見えない上半身の前、頭に当たる部分には機械の頭が半分、
そして生身の人間の頭が半分存在していたことに気付かぬまま、
シャアは二部屋続きになっている部屋の内戸を開けて、別室へ移動した。
恐らく、自分が移動できるのはこの二部屋の間のみであろう。
軟禁状態の人質という立場は変わっていない以上、そう考えるのが妥当である。
「なら、やれるだけの事はやってやるさ」
こちらの部屋にある机は端末内蔵型である。
彼女の目を盗んである程度でも情報は集めねば。
彼にとっては久しぶりに聞く、ジオン製端末のプゥンという音。
シャアは、見れるところまで見てやろうと言う気になった。
たとえ、その間彼女に弄ばれるとしても、得るものは得て帰ってやる。

 

※※※※

 

天高く舞い上がらんばかりとは、この気持ちのことを言うのだろうか?
ラクス・クラインは、胸中に湧いてくるこの気持ちが、
押さえつけたくても出来ない程の『喜び』である事を認識し、
自分が今、満ち足りている事を悟った。
一服盛るという下策をとり彼の心情を無視した形だったのが、唯一の心残りといえる。
しかし、‘正攻法で迫っても彼は絶対自分を抱かない’と、
不思議にも彼女は確信していたが為に、仕掛けたのである。
「激しかった……彼……」
シャワーを浴びながら、彼女の目の奥、身体の隅々に、
先程彼に抱かれていたときの感覚がよみがえる。
流れ出るお湯とは別の温かい何かが、彼女の太ももを伝って床へとしたたる。
体温が上昇してきて頬が紅潮する。
(情けない女ですわね、私もつくづく……)
肉体は精神の枷・魂の牢獄と叫び配下の者達を完成へと導きながら、
当の本人が今、肉体から沸き上がる欲求の赴くままに、
血と身体が欲した男を抱き、貪り、色に狂った。
あまつさえ行為に及んだことに喜びを感じ、
それが失われることを、明らかに自分は‘恐れた’。
シャアの顔が脳裏に浮かび上がり、胸が高鳴るのと同時に下腹部がまた熱を帯び始める。
これは『ハマーン』の血が求めるからなのか?
いや、否だ。前夜のような狂おしいほどの欲求ではない。
よりシンプルで、小さく純粋な感情。
彼の手を触っていたい。彼の手を握りたい。
彼の顔を眺めていたい。彼とずぅっと、お話していたい。
少女らしい欲求であった。『池の少年』にしか感じたことのない、ソレ。

 

〜自分は、彼が好き?

 

「……まさか、嘘。あり得ない!」
頑固として、ラクスの冷静な部分は否定する。
肉体の欲求は満たされ、もう彼にそのような感情を抱く必要はない。
ただ部屋の中にいてもらい、自分がプラントへと食い込むまでの人質にしていればいい。
だが、奥底にいる自分が否定する。これは与えられた血が望むところでなく、
自分という精神、魂が求めているのだという事を叫んでいた。
だが、未だなお『機械の王』としてのラクスは認めなかった。
こんなくだらない感情に喜んでいる自分が本当の『ラクス』だとでも言うのか?
それは嘘だ。欲求を満たした肉体の喜びがそう感じさせているに過ぎない。
完成される喜びの前には小さい、脳みその感じる電波に過ぎない。
こうして、大いなる目的を持って世界を完成へと導こうという自分が、
ただ好きな男に認められたい少女の願望の産物などと、認められるわけがない!
壁面のタイルを、殴りつける。
だが、この身体が未だなおあの男を求めているのも確かだ。
しかし、これ以降はどうだ? 彼が自分を見てくれると思うか?
……Noだ。『シャア』は自分のやる事を絶対に認めないだろう。
そう自覚していたとき、ラクスは頬を温かいものが流れ落ちているのを感じる。
涙だ。嘘偽りのものでない、正真正銘、自分が流している涙。
「……私は……私は……」
ラクスはぺたんと浴室に膝を突き、壁にもたれかかる。
流れるものが、止まらなかった。彼女が今ハッキリと言えるのは、
自分の手の中に彼が絶対に入ってこない下策をとった事。
ただ、それだけだった。

 
 

機動戦士ガンダムSEED DESTINY IF
〜Revival of Red Comet〜
第34話

 
 

〜L5宙域・宇宙要塞メサイア

 

「まさか、このような施設を作っていたとは、驚きました」
「今となってはただの皮肉にしか聞こえんよ、アスラン」
巨大な貝殻。このメサイアを見た人間の第一印象はまさしくそれである。
ギルバート・デュランダルが、今現在はもう諦めた計画を実行に移す際、
その総拠点として使用する予定だった巨大要塞である。
アクシズ同様、自立で移動できる推進装置を搭載しており、
今回彼はこれを、東アジア・オーブ・プラント三国間の結束の象徴、
ゼダンの門攻略の最前線基地として持ち出そうと決め、
今現在内部にはレウルーラ始め、ZAFTの新鋭兵器群が運び込まれている最中だった。
広々とした司令室は、デ○スターの玉座の間のようで、
議長の椅子の後ろにあのはねクジラを設置していた。
こうすることで、新たな時代の到来を、
ジョージ・グレンに見守ってもらうのだという言い訳が、
大衆と各国の人間、そして自国の閣僚達に通せる事になる。
アスラン・ザラ、そしてハイネ・ヴェステンフルス両名は、
運び込まれたこのモニュメントを見上げ、
周囲の事務官や軍人達が慌ただしく動き回る喧噪をBGMに、
何故このような物体を過去の人間は作ったのだろうと考えていた。
「……全てが、木星で始まったんですね」
「これを持ち帰らなければ、と言いたいのかね?」
シン・アスカが提言した通り、この『エヴィデンス01』の中身は、
地球外生命体の化石などではなく、化石に擬態した冷凍装置であった。
数多くのDNAサンプルが保存されており、
もはや大半が破壊され使い物にならない状態で発見された。
ごく一部無事なサンプルもあったにはあったが、
デュランダルは中にあったもの全てを破棄させた。
彼の遺伝子学者としての部分が是が非でも解析したいと、
大いに興味を惹かれたのも事実である。
しかし死者を弄ぶ真似だけは、禁忌に踏み行ってきた科学者でも、
決して立ち入ってはならない領域だと思っていた。
「私が議長として就任した時、カナーバ前議長も言っていた。
 今は無きシーゲル、ザラ前議長より以前の代から、
 指導者層の間ではこれに触れることを禁忌としていたそうだ」
デュランダルが、合点が言ったのはそこであった。
プラントの指導者層に代々伝えられてきた、
『はねクジラへ手を出してはならない』というジョージの訓示。
ため息を漏らすデュランダルの言葉に、ハイネが頷いて、
「今となると、納得です。ジョージ・グレンは、
 コイツの中身が世界に混乱をもたらすと知っていたのでしょう」
「だが持ち帰らずにはいられなかった程の何かが、
木星にあったのだろうが、それは知りたくはないな」
全くですと二人は返答し、視線を後ろへとくれる。
アスランとハイネは、デュランダルに一礼して司令室を退出した。
本来ならば、パイロット全員を集めてシミュレータでなく実機での演習をと思っていたのだが、
今回の声明のため各国の重役がこのメサイアに集まるのだ。
軍事行動での示威行為はなるべく避けたいというデュランダルの意図もあり、
今日の午後いっぱい、彼らはオフであった。
メサイアの中は複雑な構造で、まだ地図を見ないと確実に迷ってしまうため、
ハイネの持っていた電子地図を見ながら進む。
「そういえば、リァン大統領は何時お越しになるんだ?」
「彼が到着するのはあと半日後。
 で、オーブの姫さんはその一時間半くらい前だ。
 今日は秘書官同士の打ち合わせと原稿の総まとめ。正式な声明発表は明日になるな」
先日の会談の後、東アジア大統領ジューガー・リァンから打診があり、
プラント・東アジア・オーブによる共同声明を、
首都・アプリリウスで大々的に行うこととなっていた。
〜『地球圏統一国家構想』の公表
夢のようでいて、実現できる力もありながら、
誰しもが手を出そうとしなかった発想。
そして、今この混沌とした情勢下における新たな希望。
だが同時に、地球圏で平和を渇望する人民の期待を一手に背負い込み、
失敗の許されぬ石橋の上に立つ事でもあった。
「地球圏を一つの国に……か。
 奇天烈な発想をする人間もいたものだな」
「だがよ、歴史を振り返って見りゃあ、
『英雄』には常人離れした発想をする人間も多いだろ?」
「だが、この時期だと、不味いな」
「ま、一か八かの『賭け』にはなるだろ」
アスランとハイネはこの声明が、正直危険な賭けだと思っていた。
確かに声明によって地球圏の人々の目指すところを、
『地球』という国家を形成するという一つの事に絞り、
まとめ上げやすくすると共に、地球上で起こってきた、
民族や国家間のいざこざの大半も解決する可能性が高い。
宗教などの問題はまた別の問題だが、それは今は置いておく。
結果として、地球圏統一国家という巨大かつ強力な組織体は、
人類史上類を見ない民主主義国家となるだろう。
しかし、二人は一つだけ引っかかっていたのである。
かつて旧世紀時代、当時の基準で最も民主的な憲法と言われた、
『ヴァイマル憲法』を彼等は思い出していたのである。
アドルフ・ヒトラーは、その憲法から外れることなく、
‘人民の支持’をもってして第三帝国を造り上げたのだ。
その例を見ても明らかなように、
どんなに素晴らしい案件・構想でも、
出す時期を見誤り民衆から見放されれば、
意図もたやすく独裁体制を作ってしまう可能性だってある。
もし地球圏統一国家の‘元首’にカリスマ性のある人物が就任したとして、
その人間が‘終身大統領’に相当する地位を造りでもしたらどうなる事か。
「その英雄が恐ろしい悪魔でない限りは、という前提付きだがな」
「……‘ラクス’の事か?」
「ご明察。
 婚約者のお前には悪いが、あの女の意図が読めない限り、
 声明を出して後の細かな行動計画も綿密に立てられねぇ」
どこに彼女の目があり耳があるか想像が付かないという恐怖が、
プラントの軍と政府の内部、特にデュランダルに近い人間の間にはあった。
「‘元’婚約者だ、ハイネ。
 二年前父同士のいざかいで立ち消えになったんだ」
「ああ、そうだったそうだった。悪ぃ」
この時、身内の施設だと言うことで少し二人は気を抜いていた。
廊下の角を曲がり、ちょうど十数m程進んだ辺りで、
脇にあった細道の間から、アスランの身に何かがぶつかってくる。
「ぐふぅ……っ!」
「何だっ! 一体誰が……はぁ……」
彼の腹部側面に、硬くて大きな物体が勢いよくぶつかり、
あまりの痛みにアスランの意識は一瞬飛び、無重力故彼は壁へと激突する。
ハイネは咄嗟の出来事に驚いて、アスランにぶつかってきた影に目をやった。
そして、大きくため息をついて、肩を落とす。……彼女の存在を忘れていた。
アスランは意識を取りもどすと、うっすらと目を開けて、
桃色の髪の毛が視界に映るのと、胸に柔らかいものが押しつけられている事に気付き、
「い…きなり……何するんだ、‘ラクス’」
「えへへ」
アスランの胸中にスリスリと頭をこすりつけていたのは、
ラクス本人不在の中で、歌姫として舞台に立つ少女、ミーア・キャンベルであった。
よく考えれば、このメサイアで三国の首脳が揃うのだから、
国を代表するアイドルを呼ばないはずがないではないか。
念頭に彼女が来ると言うことをおいていなかった事を、二人はちょっぴり後悔した。
「だってぇ、本国に帰ってきてからアスランから連絡無いんだもの」
「だからってタックルすることな……痛ぅ……」
ズキズキと痛む脇腹を押さえながら、アスランはスッとミーアを引き離す。
カルガモの子のように、アスランの後ろにぴったりと付いてくる少女を見やり、
やれやれと思って二人は、彼女に何も言うまいと思った。多分、言っても聞くまい。
「リハーサルはもう終わったのか?」
「うん。マネージャーさんが今日はもうオフでいいよって。
 アスランがいるんだって話したらOKくれたの」
所々で歌姫の来訪に興奮していた兵達に手を振り、
ミーアはアスラン達が本国に戻ってきていることを聞き、急遽会いに来たのだという。
同時に、アスランが乗っている戦艦を近くで見たい、とも。
中に入れるわけにはいかないが、外だけならば大目に見てもいいだろう。
明日の声明の後行われる式典のリハーサルはすでに終わらせたそうだ。
戦艦のドックに入るとき通る廊下は狭い故、
向こうに誰もいないことを確認し、ミーアを先に行かせる。
彼女がフリルの付いた衣装であるという事もあって気を遣ったのだ。
「言っておきますが、ここで騒がないでくださいよ?」
「わかってるわよ、ハイネは堅いわね」
メサイア内部の戦艦ドックは、軍部のもの程ではないが、
戦艦十数隻が入ってあまりあるスペースを誇っていた。
ローラシア級やナスカ級などが並ぶ中、一際人の目を引く赤と緑の戦艦。
「あれがレウルーラ!? で、あっちの鳥さんがムサカ? アスラン!」
「まぁ、確かに鳥に見えるけど、そうだよ」
動物園に父親とやって来た子供のように、ただカッコイイという印象だけで、
戦艦を見る事が出来る彼女が羨ましいと、一瞬思った。
レウルーラの赤い船体を見るたびに、アスランの目にはミネルバが浮かんでくる。
ここ最近は悪夢を見ることが多かった。
ミネルバが沈み、かつての親友の変わり果てた姿が脳裏にこびりついて離れない。
ハイネにアイコンタクトで、二人にしてくれと言い、
彼の目を見たハイネは察し、二人に挨拶するとドックを後にした。
これからオレンジショルダー隊再結成を祝するのだと言う。
オレンジの髪の毛が角に消えた後、
ドックを見渡せるこのタラップの手すりに身をもたれ、
アスランはしばらく無言のまま、レウルーラを見下ろした。
ミーアは何も言わず、アスランの横に寄り添った。
アスランから感じる雰囲気に真剣みが混じったからである。
ミーアがこうして隣にいると、不思議と心が安らぐ。改めて、気付いた。
しかし、彼は自らこの一時を壊さなければならなかった。
「ミーア、俺は……」
「何?」
「‘ラクス’に、会ってきたんだ」
「……っ!?」

 

※※※※

 

〜メサイア内部

 

「メイリン、何か食べた方がいいわ。
 そのままじゃ絶対身体壊すわよ」
「いい、食べたい気分じゃないの」
ルナマリア・ホークは、妹のメイリン両者に割り当てられた部屋の中で、
掛け布団を頭まで被ったベッドの脇に椅子を置き、その上に座っていた。
先のグワダンにおける会談の後、メイリンはこの調子だ。
無論、オペレータの仕事はキッチリとこなしているが、
どことなくくらい表情が見え隠れし、食事の量も明らかに減っている。
アーサーすら心配して、彼女に一度有給を取ったらどうかと進める始末で、
シンやレイも時折顔を見せ彼女を元気づけようとしても、彼女は沈んだ表情のままだった。
ルナマリアはそんなメイリンの様子を見て、少しの間黙した後、口を開いた。
「メイリン、貴女……隊長のこと、好きなんでしょ?」
メイリンは布団をのけて身を起こし、ルナマリアの顔を見る。
目の下に隈があり充血もあった。正直言って痛々しい。
メイリンは、自分があの男の事が好きなのだというハッキリとした自覚がなかったようだ。
「好き……なのかな?」
「きっとそうよ。女の子として当然の事を考えているだけなの、貴女は」
ルナマリアは、妹が純粋に隊長が心配で、
ものが喉を通らないだけだと分かって安心する。
相手があのシャア・アズナブルだというのは一抹の不安を覚えるが。
よく考えれば、彼の年齢はメイリンのほぼ倍、34才である。
16の少女と34の男が並ぶ姿を想像してみるが、
(どう考えても隊長がメイリンをかどかわしたとしか見えないわ……)
姉として妹が着実に成長している証拠であり、
大いに喜んでやりたいが、素直に喜べない。
「まぁ私もまだハッキリとしてないから、
 貴女のことはどうこうと言えないけどね」
「……それって、シンの事?」
「あ、気付いてたの……、そうよ。
 まだ彼のことが好きなのかどうなのか、私も解らない」
本音である。もう一人の、かつて夢に出てきた凶暴な自分。
彼女は多分、シンを好いている。自分は、どうだろう?
たぶん、自分はシンが好きなんだとは思う。
一緒にいれば不思議と心が温かくなって、安心する。
レイも同じように安心感はあるが、それは友達と一緒にいるときと似ている。
素直に好きといえればどれだけ楽だろうか?
だが、自分はそこまで正直で素直な性格をしていないし、
まだ‘好き’という感情に夢を持ちたい年でもあった。
こんな突拍子もなく抱いてしまう感情だと、
思いたくない所もあったのである。面倒くさい女だと自覚していた。
「お互い、面倒くさい性格になったものね」
ルナマリアは、メイリンの手をギュッと握った。
ちょっと、冷たいひんやりとした感覚が伝わる。
「シャア隊長なら、大丈夫よ、メイリン。
 あの人がピンチなったことなんて、無いでしょ?」
「……うん」
「だから、一緒に待とう?
 全部終わった時、二人で告白するの」
「隊長と、シンに?」
「そう。だからそれまで大事にとっておくのよ、ここに」
ルナマリアはメイリンの胸を人差し指で小突く。
お互い、微笑む。そんなとき、部屋のドアがシュッと開いて、
黒髪の少年が中に入ってきた。
「ルナ、入るぞ!」
シン・アスカ当人であった。何故かピンクのエプロンをして、
鍋掴みを手に嵌め、湯気の立つ鍋を携えていた。
挨拶はしたとはいえほぼ事後承諾の闖入者に、ホーク姉妹は唖然となった。
ルナマリアは、鍋を指さして、
「シン、ソレは何?」
「え、コレ?
 さっきメサイアの厨房を一部借りて、レイと作ったんだ。
 オーブでよく食べてたんだ、『豚汁』っていう汁物!
 元気出すにはこれが一番だと思って……」
ニコニコしながら、メイリンの近くまで寄って行き、
シンはベッド横のテーブルでいそいそと準備を始める。
本人は、疑いようもない善意であったろう。
元気のない同僚を元気づけようと、彼なりに考えて出た行動に違いない。
同じくエプロン姿だったレイが、食器を持って入ってくる。
普通ならお礼を言って皆で食べるところなのだろう。
だが、タイミングが悪かった。
「ねぇ、何でその料理にしたの?」
ルナマリアが、シンの後ろ姿に声をかけていた。
メイリンは、姉の目が笑ってないことに気付いた。
普段は女子に気を遣うことをあまりしないシンが、
こうして女子に優しい行動に出るとき、大概決まっているパターンがある。
「ん? オーブに住んでた頃なんだけど、
‘マユ’が友達に悪口言われた時とか、喧嘩した時とか、
 父さんや母さんに怒られた時に、いっつも俺が作ってたんだよ」
レイが、ルナマリアの表情に気付く。
シンもその段階になって、自分がやってしまった事にようやく気付いた。
「……ふぅん、そう。
‘マユ’ちゃんが好きなものは他の女子も好きだろう……と?」
メイリンは、内心シンはやっぱり馬鹿だと思った。
今自分のことを姉が話していたことを知らなかったとはいえ、
よりにもよって自分の妹を基準にして他の女子をみるとは。
シンの額には冷や汗が浮かんできており、少しかわいそうになる。
「まぁ、良いわ。さっさとそこに鍋置いて」
「お、おう……」
レイが敷いた鍋敷きの上に鍋を置いて、シンはルナのベッドに座らされた。
メイリンの手に、湯気がたち良い香りのする豚汁が入ったお椀が手渡される。
メイリンは、手渡したレイの指に絆創膏が貼ってあるのが見える。
シンは手慣れたような言い方をしたらしいが、きっとレイは慣れてなかったに違いない。
具を切るだのなんだのしているときに、切ってしまったのだろうか?
「ありがとう、レイ」
「気にするな、俺は気にしない」
相も変わらず、不器用な男だと思う。
聞いた話では、あのステラちゃんの時はなりふり構わない姿を見せたという。
この男に愛される女は、きっと幸せなんだろうなと、ふと思った。
いただきますと言ったとき、どことなく下宿の朝のような風景になる。
心が安らぐ。メイリンは、一口、汁をすすった。
「……おいしい」

 
 

※※※※※※※

 
 

〜月面・ダイダロス基地

 

「ようやくあの小惑星、動き出すらしいぞ」
「ああ、俺も聞いたよ。
 閣下があちらの親玉と話を付けるらしいな」
月面裏側に極秘裏に建設されたダイダロス基地は、
ジブリールらロゴス側最後の切り札『鎮魂歌』のコントロール、
そしてそれから数十厠イ譴新醋姪垰埓廚亮虍を司る基地である。
決戦兵器を守るという目的の為もあって、哨戒用の小型拠点も各所に設置されており、
L2宙域に浮かぶ不気味な小惑星の警戒に当たっていたものも中にはあった。
大半は、カムフラージュを施した都市跡の守備であるが。
第55拠点配属のフランシス・コールリッジ上等兵は、
淹れたてコーヒー入りのカップ二つを持って、
広大な宇宙空間の見える大窓が設置された監視室へと入った。
「ほれ、砂糖なし」
「お、サンキュ。……そういや今日の報告、
 一応動きアリってことになるのか?」
「司令部も知ってるんだろ?
 なら、ある程度の報告すりゃあいいだろ」
「ある程度じゃマズイだろ。
 嫌だぜ、ヘタこいて給料カットなんざ……」
小惑星『アクシズ』に移動の傾向が現れたぐらいで、
まだ月の裏側であるこの基地に異常が起きる様子はない。
それゆえ、彼らは暇であった。月の表面にある『ゼダンの門』という新拠点は、
おそらくZAFTとの決戦に向けて活気づいていることだろう。
向こうに配属されなかったと言うことが、彼らのモチベーションに大いに影響していた。
『鎮魂歌』の仕様はまだ命令がないため出来ないという悶々とした日々。
「全くよぉ、さっさとアレうっちまえば終わる話じゃねえか」
「お偉いさんにゃお偉いさんの考えってもんがあるんだろうさ。
 俺たち下っ端には関係無……? ん? 何だこりゃ?」
コールリッジはふと、監視レーダーの中で光点が光ったのが見えた。
熱源を感知するセンサーの中に、一瞬だけ小さな点が5、6個光ったのだ。
「人にしちゃ大きいし、MSにしては小さすぎるなぁ……」
無視しろ、どうせ小さなデブリの誤認だ。
同僚の言葉をコールリッジは信用した。
「おっと、悪ぃ俺用足してくるわ。何か動き合ったら呼べよ」
「行ってこい、どうせ無いだろうけどな」
コールリッジは先程用を足すのを忘れたことを思い出し、部屋を退出した。
拠点と言っても、監視用のため施設としては小型で、
ドーム状の二階と、あと下の階で移動用の小型モビル用ドックがある。
嫌になるほど静かな廊下を進み、トイレを目指す中で、
コールリッジは違和感に気付いた。何かがおかしい。異様なまでに、静かだ。
宇宙の施設であり、勤務しているのは二人であるから静かなのが当然なのだが、
不気味までに静か過ぎる。何か、周囲に悪いものが存在する気がする。
「まったく、嫌な日だぜ……」
地球のツレから別れようってメールが来てそれっきりになるわ、
こんな辺鄙な場所の勤務になるわ、最近ついてなさすぎだ。
あの忌々しい砂時計を向こうの仲間達が一掃してくれれば、
この監視拠点もいくつかは不要になるし、その時は地球への転属願いを出そう。
そう考えながら、トイレのある区画へ繋がるドアを開けようとスイッチに手を伸ばした。

 

グシュッ…………

 

「あ……れ……?」
向こうの扉から、黒い何かが突き出ていた。
動物の爪のような鋭い物体が生えたグロテスクな腕が、
分厚い鉄の扉を貫き、自分の腹部を深々と貫いている。
ドアについている丸窓の向こうに、黒い影が映る。
大声で、同僚を呼ぼうとした。化け物だ、本物の化け物だ。
しかし、それは叶わなかった。
腕を引き抜いて扉をゼリーのように爪で切り裂いたソイツは、
大昔、餓鬼の頃見た映画に登場したような記憶がある。
例えようがない恐怖が、彼の心を襲う。人の姿をしていなかった。
人などより遙かに大きいクリーチャーは、吟味するように彼の顔をのぞき込む。
涙が、流れ始める。我慢していたのに、恐怖のあまり漏らしてしまった。
奴の後ろから、何体もの『奴』が現れる。四体ほどだろうか?
二体が、素通りして彼が来た方向へと進んでいく。
きっと、同僚の存在を感じ取っているのだろう。
(ああ、俺ってホント、ついてない……)
彼が最後に見た光景は、自分を切り裂くために腕を振りかぶるソイツ。
そして、ソイツの胸部に刻印された、

 

〜『Negator』〜

 

この文字だけであった。

 
 

第34話〜完〜

 
 

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