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CCA-Seed_787◆7fKQwZckPA氏_35

Last-modified: 2011-05-23 (月) 02:03:49
 

〜ゼダンの門宙域

 

「ファンネルの概要は先程説明したとおりだ。
 これから実際に稼働させてテストするぞ、キラ」
「了解です、大尉」
アムロ・レイは、νガンダムのコクピット越しに、
後ろを追従するキラ・ヤマトのSフリーダムに告げた。
ドゴス・ギアは現在、ロアノーク隊並びに、
ホアキン隊から移籍してきた三名のパイロットを加えて、
グワダンが来ると予想される地点にほど近い宙域で演習を行っていた。
ちょうど、ロード・ジブリールがラクス・クラインに打診をした翌日のことである。
キラには別件での任務が割り当てられているそうだが、
ラクスがゼダンの門に到着するのは少なく見積もっても明日になる。
アムロは、Sフリーダムに新たに加わった兵装である、オールレンジ兵器『ファンネル』。
そのテストの指南役として、彼を伴い宇宙空間へ機体を踊らせる。
ホアキン隊出向組、新規配属されたジェガンパイロット、そしてアウル達との組合はこの後だ。
『アムロ』として考えれば、久方ぶりの宇宙だった。
アーモリーワンの時は、実感するようなこともなく、今更になって身体と心がそう感じている。
ララァの声も、もう聞こえない。ふと、アムロは寂しく感じた。
自分の知っている人達は、あの後どうなったのだろう?
ゼダンの門、月の近くへ来てから、その事ばかりが気にかかる。
シャア・アズナブルの思惑を阻止するため奴と戦い、アクシズの破砕には成功した。
だが、その時見た虹色の光に飲まれた後は、覚えていない。
ブライトは、ロンド・ベルにまだいるのだろうか?
アストナージは? ハサウェイは? あの時チェーンはどうなった?
地球のセイラさんやミライさん、ベルトーチカは?
己を取りもどしてから後は、その問いの繰り返しだった。
ゼダンの門をバックにして、アムロは地球と、
また遠くに見える‘砂時計’こと、プラント本国のコロニー群を見やる。
彼自身からしてみれば、彼らに恨みなど無かった。
ファブリスとしての人格が生きていた時分は、
あれを排除したくてたまらない気持ちであったが、
一度アムロとしての自分自身を取りもどしてみれば、
自分がかつての『強化人間』と似た境遇であることに気付く。
《 愚民共にその才能を利用されている者の、言うことか! 》
あの時は、才能を利用されているなどと考えたことはなかった。
地球連邦政府が腐りきっている事くらい知っていたが、
組織の腐敗はやはり同じ組織の中でやるべきで、
あの時のシャアのやり方だけは、どうしても許せなかった。
だが今の自分はどうかと聞かれれば、力を利用されているだけの存在に確かに思える。
「シャアの奴、今の俺を笑っていたな。
 いや、笑っていたと言うより、怒っていたか」
ディオキアの街で、シャアに会った時を思い出す。
あの時はまだ自らが曖昧であったときであり、
あの男をシャアであるという認識もまだ持っていなかった頃だ。
C.E.という暦においてもなお彼の前に立ちはだかるから、
シャアは怒っていたのだと最初は思ったが、そうではない。
自分が、自分であることも忘れて利用されていたことを怒ったのだ。
彼なりの、気遣いだったのかも知れない。
違う世界の中に取り残された者同士としての。そう思うと、少し申し訳なくなる。
しかし、あの時も言ったが、
自分が‘ファブリス’であるという自覚も、捨てきってはいない。
一年ほど前からずっと兄弟のように苦楽を共にした、
あの少年少女達を考えればできるわけがなかった。
(俺は帰る場所をもう失いたくないんだ、シャア)
アムロは内心零した。
ジブリールという男が、世界を安定させる男だとは到底思えないし、
このまま進んでいけば、確実にここの勢力は瓦解して滅ぼされるだろう。
だがその時、あの少年達はどうなる?
口は悪いが仲間思いで、隊長としての素質も有望なスティング・オークレー。
生意気すぎるのが玉に瑕だが、天性の明るさに元気づけられることも多いアウル・ニーダ。
今や紅一点になってしまったが、皆の心の支え役をやってくれているセリナ…いや、フレイ・アルスター。
佐官としてどうかと思われる性格も所々あるものの、良き上司であるネオ・ロアノーク。
そして、ヘブンズベースで新たに仲間になった新参ながら、
少々気弱なところや趣味などかつての自分によく似た少年、キラ・ヤマト。
彼らを、死なせるわけにはいかなかった。
今残されている彼らの居場所は、忘れようもないア・バオア・クーだった場所、
血生臭い戦場だけなのだ。それ故ここを離れられない。
離れるとすれば、全てが終わって自分達が不要になった後だ。
たとえ、愚民に利用されていると笑われても、
今を生きる人間を裏切って後悔する生き方だけは、したくない。
「標的はダミーの戦艦だ。キラ、君はそれを敵としてイメージしてみろ。
 後はファンネル達が、君の脳波をたどって判断してくれる」
「僕の脳波で、本当にこの兵器を操れるんですか?」
「先の大戦でファンネル持ちを相手取ったと聞いたぞ?
 君にならやれるはずだ」
キラはフッと意識を沈め、‘射出’という言葉をまず考え、
ウイング部に装着された青い兵器達を頭の中に浮かべる。
ヘルメットの替わりに付けた、大きめのヘッドギアを手で抑える。
技術者陣が、一度付けろと言っていたものだ。
すると、八基搭載されたうちの四つがウイングから勢いよく離れ、
Sフリーダムの脇に控えるように漂う。機動はなめらかだった。
「射出は問題なし。一度しまってみろ」
「了解っ」
忽ち、四つのファンネルがウイングに収納されて、固定される。
アムロは内心感心した。キラは想像以上かも知れない。
飲み込みが早い上、センスも良い。
「出だしは良好だな。よし……今度は攻撃命令。
 一見簡単なようで難しいから、今回は時間が掛かっても良い」
「……わかりました」
アムロの言葉にキラは頷くと、一度深呼吸をする。素直な良い子だ。
アムロは場違いにもそう感じて、キラはそのアムロの好意を感じ取ったらしい、
優しい彼の感情にリラックスしたのか、先程よりスムーズにファンネルを射出した。
今度は、八基全部で試してみるらしい。キラは意識を集中させ、
ドレイク級に見立てたダミーを視覚でなく全身の感覚器官で感じ取ろうとした。
目を閉じ、意識をひろげて行き、電気が走ったような気がした。
自分の掌の上に、明確に戦艦の形が浮かんでくるような、
何があるのかがはっきりと解るそんな感覚である。
その時、キラは直感で悟った。これだ、これに攻撃すればいいのだ。
「10時の方向、幅16……距離は射程内……よし! 行け、ファンネル達!」
キラは叫び、攻撃の意思を標的へと放出させる。
青いファンネル達は宇宙の中へと勢いよく飛んでいった。
キラが心の中で描いたコースをファンネルは丁寧に辿って、
各々がまるで個別の意識を持っているかのように宙を泳いで行き、
130m前後の、戦艦の形をしたダミーの周囲を囲い、捉える。
そして、ファンネル達は一斉にビームを放出した。
光の奔流がダミーに吸い込まれて行き、詰められたガスに引火し火球が生まれる。
「やったっ!」
キラはガッツポーズを取り、アムロは舌を巻いた。
キラはこの機体を、演習も併せてまだ10回程度しか動かしていない。
それに加えて、ファンネルの使用はコレが初めてであり、
サイコ・フレームの助けもあるとは言え、一発で成功するとは……!
(凄いセンスだ……)
通常なら、ファンネルと自らの意識の同化が不十分で、
最初の内は動きが安定しないのだが、動きが鰯の群のように鋭かったのだ。
無論、キラの真面目な性格も影響している可能性は大きいが、
それでも素晴らしいの一言に尽きた。
「……上出来だ、キラ。
 まさか一回で成功するとは予想外だよ」
「へへへ……」
嬉しそうな顔をする。アムロも釣られて微笑むが、すぐに表情を戻して、
「では次のステップだ」
「へ!?」
「へ、じゃない。ただ動かして攻撃の命令を出すだけなら演習なぞしないぞ」
アムロは厳しく言うと、今度はSフリーダムと距離を取り始め、
距離が大方200mあたり離れたあたりで機体を停止させ、正面で向かい合う形を取った。
これから先が本当に難しい領域なのだ。
オールレンジを使う事において常に考えておかねばならず、
相手の脅威となるためには、ファンネルそのものではなく自らを動かさなければならない。
「ファンネルはさっき使って解るように、自分の意思の通りに動き、
 死角から相手を攻撃してくれる便利な兵器だ。だが大きな欠点がある。
 キラ、それはなんだと思う?」
「……欠点? えぇと……!?
 ‘便利すぎる’事ですか?」
「大正解だ。ファンネルは遠くを攻撃できる。
 便利故にそれを使いがちになり、その結果……」
その時アムロはペダルを思いっきり踏み込んで、
νガンダムを加速させながら背中のラックからサーベルを引き抜いた。
同時に、戦闘意識をキラめがけて叩きつけ、
キラは急に浴びせられたアムロの闘気にひるみ、
突発的にファンネルに彼への攻撃命令をだす。しかし、間に合わない。
ビームを発射するものの、ファンネル自身から捉えられないことが戸惑いとして操縦者に伝わり、
νガンダムがSフリーダムのコクピット前までスルリと滑り込む事を許した。
アムロは、サーベルの光をコクピットに一度ちらつかせ、
意地悪い真似をした事をまず詫びた。
「これがファンネルの弱点だ、キラ」
「これが……弱点……」
「そうだ。普通ならこうして接近された時どうする?」
「えっと、サーベルかシールド展開。攻撃回避して、そして反撃……あっ!」
そう言われてみて初めて、キラは察した。
遠くから攻撃できることを幸いに、インファイトで敵に挑む事を失念していたのだ。
シールドとサーベル・ライフルを駆使して中距離から窺い、
ファンネルを放出して相手の意識を乱し、死角から撃てればそれで良し。
それでもダメならファンネルでかき乱しつつ切り込み、自分とファンネルどちらかに集中させる。
攻撃のメインにファンネルを使ってはならず、
アレはあくまで牽制・補助でしかない。そういう事か!
「……気付いたか?」
「……はい!」
合点が言って笑顔で頷くキラを見て、アムロは不思議と充実した気分になる。
こうして誰かにアドバイスして、受け入れられることがこうも嬉しいとは……。
こうした充足を感じられるだけでも、この場所に価値があると思った。
彼奴も、あっちで同じ事を感じているのだろうか?
ふと、アムロはシャアの事を考えた。
彼は、あそこに新たな居場所としての価値を見いだしたのだろうか?
だから、疑問も持たずに戦えるのだと思いながら、
(シャア、俺は何としてでも、この子達を生き延びさせてやる……)
彼奴には負けない。この子達は何としてでも生きさせてやる。
「相手にもファンネル持ちがいないとは限らん。
 パターンを覚えるまで続けるぞ、キラ!」
「……はい、大尉!」

 
 

機動戦士ガンダムSEED DESTINY IF
〜Revival of Red Comet〜
第35話

 
 

〜L1宙域・グワダン内部

 

シャア・アズナブルは、
この数日間がまるで数週間であるかのように感じていた。
心身を持て余しているかのような錯覚が、
シャアの中に巣くい始めている。ジッとしていられなかった。
グワダン内部のトレーニングスペースを使う事を、何故かラクス・クラインは許した。
ハッキリ言って彼女の行動・意図は、
もはや彼にとって意味不明すぎて読もうと思っても読めない。
ここにいるシャアの立場は、あくまでも『人質』だ。
外交上そういう言い方をしていないだけであって、『客人』と呼ぶべきではない。
こうして軍艦の中の活動範囲を広げるなどと、あってはならないはずである。
この時を利用してこのグワダンの保有戦力を確認するべきかと思ったが、それはさすがに出来ない
アクシズで開発されたMSやグワダン内部の勝手を知っている故、動き回る必要もほとんど無かった。
だがこうして部屋を出てランニングマシンすら使えるという状況は、
やはり不可思議だとかそういうものを通り越して、不気味であった。
シャアは隣のマシンで走り込んでいる、タンクトップとホットパンツ姿のラクスを見やる。
パッと見はチャーミングで、かつ包容力のある少女に見える。
しかしロドニアで直に会った後、シャアは悟っていた。この女は怪物だ、と。
あの時、彼女からは『ハマーン・カーン』『パプテマス・シロッコ』、
U.C.を生きたシャアが知る人間の中でも、驚異的な能力を有した人間。
アムロ・レイも勿論だったが、彼以上に厄介だったのが、
あの二人はよりオールラウンダーであった事に尽きる。
先日、ラクスは言った。
『自分の中に流れる‘ハマーンの血’が告げている』と。
その意味を、シャアは考え続けていた。
ハマーン・カーンを知る人間は、この世界にはいないと思っていた。
デュランダル、ハイネ達にしか、宇宙世紀の事を打ち明けてはいないのだ。
身体の中の血という事から察するに、ハマーンやシロッコのDNA情報が、
ラクスという一人の人間の中に混在して組み込まれていると考えるのが順当だ。
だが、そう考えた時シャアは引っかかった。
ラクスを生み出した人間はどうやって、あの二人の遺伝子情報を手に入れたのだろうか?
よく考えれば、不自然だ。自分がこうして世界を越えている現実をふまえると、
サイコ・フレームの光に混じってあの二人の魂が彼女に乗り移ったと考えてしまう。
だが、彼自身の冷静な部分はそうは言っていなかった。C.E.に来てからの事を想いだしてみろ、と。
プラントに拾われるとき、自分は‘ザク’を見た。
そして、ガンダムタイプに、ジム系列を彷彿させるダガーとウィンダム。
Z系MSの流れを汲んでいるようなムラサメに、類似点の多すぎるザクとグフ。
そう一つ一つ照らし合わせてみると、一つの仮説が、脳裏をよぎる。
〈 彼らの遺伝子は、気の遠くなる程の長い時を越えて保存されていた!? 〉
まさか、そんな事はあり得ない。シャアはそう内心の自分を叱咤した。
もし、その仮説が正しいとするならば、人類は一度滅びを迎えているという事になる。
そして新たな暦を迎えた時人々の中に残っていた記憶が、宇宙世紀の記憶を取りもどしたのだ、と。
ザクやグフ、ダガーやムラサメがあのように、
シャアの知る機体達と酷似しているのも、これで納得がいく。
そう考えるのが自然だったが、それでもシャアの意識はその仮説を否定した。
宇宙へと希望を求めた人々の心と、スペースノイドの自治独立を唱えた父、
そして最期を看取ることも出来ず悲しみの中で死んでいったであろう母・アストライア。
復讐を誓ってジオン軍に入隊し、開かれるべくして開かれた一年戦争。
ティターンズらアースノイドによるスペースノイドへの、
過激なまでの弾圧増加と、結果として両者が再び鉾を交えたグリプス戦役。
その間戦力を温存していたハマーンの起こした大乱と、自分が地球の人類抹殺を掲げて行ったアクシズ落とし。
アムロ、ララァ、カミーユ、ブライト、ハマーン、クェス……そしてアルテイシア。
シャア・アズナブルという男の34年もの人生を形作っていたもの全てが、
過去という巨大な流れの中に持ち去られた‘虚構’と化していたなどと。
考えたくもない仮説が彼の頭に浮かび、頭を振ってそれを振り払おうとした。
だが、堂々巡りするように、また新たな疑問が彼の頭に浮かび上がる。

 

膨大なときの流れの中を越えたと仮定するなら、自分とアムロは何故それができたのだ?

 

「……悩んでいるのですね、シャア」
「人の中を覗くのは恥ではないのか? ラクス・クライン」
走りながらシャアの横顔を見つめていたラクスの視線に気付き、かつ彼女が、
シャアがいま不安な気持ちになっていると読んでいたことに、腹立たしくなる。
いらだたしげにランニングマシンを降りて、シャアは首に巻いたタオルで汗を拭く。
ラクスも、彼の後に続く。正直鬱陶しい。
「これは失礼。ですが、読んでくれと言わんばかりでしたもの。
 貴方は、私のことで悩んでいるのでしょう?」
スポーツ飲料のパックを吸いながら、ラクスはシャアの隣に立ち、
彼女は悪戯心溢れる子供のように、嬉しげな顔で言った。
「その嬉しそうな顔は止めて頂きたいな。
 私は君が未だ理解できないし、敵と認識しかけているんだぞ」
「その分、私を強く意識しているのですわ。
 嬉しいじゃありませんか。殺したいほどに思って貰えるなんて……」
ラクスはフッと先日の淫靡な顔を見せ、微笑んだ。
そして、
「そして貴方は、私が口にした女の事を考えている」
「何故、そうだと思う?」
「貴方が先日言ったではありませんか、‘ハマーン’と。
 私はこの身体に流れている二人の名を知っていて、貴方も知っていた。
 ……そうとしか考えられませんわ」
ラクスの顔が、真剣な面持ちへと替わり、シャアはグッと心を引き締めた。
彼女の顔には、自分への憎悪にも似た感情が表れている。
彼女はシャアの眼前に近寄ると、下から見上げるように彼の目を見る。
そして彼女は、同じトレーニングルームの中にいた、10代の子供達を退出させる。
結局、あの子達が何者なのかシャアが知ることのないまま、彼女は口を開く。
「貴方が想像しているとおり、私は確かに‘コーディネイターの亜種’ですわ」
「‘亜種’……というと?」
「遺伝子調整されているという意味では、私はコーディネイターに違いありません。
 ですが私は、人の中に別人の遺伝子を組み込み、
 遺伝子元の人間を体現、いや‘再現’した存在なのです」
シャアは、嫌な予想が当たった事を呪った。
遺伝子技術が発達したこの世界において、
過去の偉人のDNAを解析し植え付けて、
偉人の‘力’を持った人間……『人工的な英雄』を生み出す研究。
それは、ジョージ・グレンが残した遺産を発見した彼女の父が発案したのだという。
記念すべき第一号が、ラクス・クラインであったのだ。
「幼少時に、私は父に連れられある施設へ行き、見たのです。
 遺伝子の螺旋が渦巻く画面と、数多くの……‘私’……」
ラクスは厳しい表情から、寂しげな顔へと変わる。
やっと、彼女の本当の部分が見えたような気がした。
どの人間の遺伝子が最も良いのかを、
父は‘ラクス達’を用いて確認していたのである。
まだ心の幼い個体に遺伝子培養で再構築した遺伝子を注射し‘発現’させて、
その遺伝子の人間のスペックを確認しどれとどれ、
誰と誰をマッチさせれば最大の効果が見込めるのかを。
その過程の中であまりに不憫に思った職員の一人が、
遺伝子も組み込んでいない個体を、あえて否定的な評価をして逃がした事もあったそうだ。
(あの子か……)
シャアの脳裏に、今プラントにいる方の‘ラクス’が浮かんでくる。
その職員はそれから後姿を消したそうですわ、とラクスは続け、
「結果として、最初の個体だった私だけが残ったのです」
「…………」
「私は父に言われました。お前は、王になるべき人間なのだと」
彼女はトレーニングルームの機材の間を歩きながら、
天井を見上げて、自分の父のあの狂気に満ちた目を思い出す。
ナチュラルとの融和だ何だと言っておきながら、
自分の娘の将来をまるで正反対の場所へ持っていこうとした、歪んだ愛情。
「だから君は、こうして跳梁する真似をしているのか?」
シャアは、拳に力を入れる。ソレが彼女への怒りなのか、
彼女の父親への怒りなのか、それとも両方なのかは解らない。
「では、貴方はどうするべきだというのですか?
 敵対する月の残党共が滅んだ後、世界はどうなると思っているのです?」
「ギルバート・デュランダルは聡明な男だよ。
 人類が変わっていく道筋を組む人だと、私は思っている」
「ずいぶんと役者が似合いますわね」
ラクスの顔から寂しげな部分が消え、
初めて‘怒り’を露わにした顔を見せた。
「役者か……私は、世界を誤った方向へ運ばない船頭を彼だと思っているだけだ」
「甘いですわね。あの男の根っこは政治家ではなく革命家。
 インテリな革命家は夢みたいな目標を掲げ過激な手段しか執りません。
 加えて、ちょっとでも理想と違えばすぐに嫌気が差し世を捨てる!」
「……ならば君はそれをしないとでも言うのか!」
「その通りですわ、シャア!」
ラクスは興奮してきたのか、傍らにあったエアロバイクのハンドルを叩くように掴み握りしめる。
一度、肺に溜まった息を一気に吐き出し、深呼吸してから、
「革命家の欠点は、変える意思がありながらその対象が枠組みだけだからなのです。
 ‘世界’だの‘国家’だのと口にしながら、
 誰一人として‘人類’という種そのものを変えようとして来なかった!」
首に巻いたタオルを、煩わしげにはぎ取って捨てる。
シャアは、ラクスの化けの皮が剥がれる音が聞こえた。
ここから先が、彼女の本当の意味での‘発露した心’だと思っていたから。
「今、恐らく人民が求め叫び、気高い革命の心を持つ若い炎が、
 世の中を変えようとスタートラインに並び始めていますわ。
 ですが、彼らの努力も何百年と経てば忘れ去られ、いずれは衆愚政治に立ち返るでしょう。
 それもこれも皆、人類が『脊索動物』『ホモサピエンス』という、
 小さく、脆い。監獄のような一個の枠組みから脱することが出来ないからなのです」
最凶最悪の、発想だった。言葉一つ一つにこもる情熱は暗黒の炎。
輝かしいばかりに光っているその理想はぎらついた油の光。
純粋なまでに夢を追い求める彼女の『革命家としての精神』は、
どんな人間もが避けて通りたくなるほどに歪んでいる。
シャアは、父を憎みながらもその父の思想を確実に受け継いでいるこの女に、初めて恐怖した。
「人類は、監獄から脱しない限りその枠の中で堂々巡りをするだけですわ。
 私と、貴方の存在が、その何よりの証明ではありませんか……」
「……ふざけるな!」
理論的に思考する前に、身体が動いていた。
近くにあった柱を殴りつけ、大きな音が部屋に響く。
何事かと、先程出て行った子供達が、武器を片手に飛び込んできた。
しかし、ラクスは片手でそれを制し、再び部屋の外へ追いやった。
「私と貴様が人類の愚かさの象徴? そんな事あるわけ無かろう!」
「では昨今、ゼダンの門やアクシズ、‘ティターンズ’や‘ジオン’のMSが、
 そして貴方の機体が、こうしてこの世界に存在する事をどう説明するのです!?」
彼女の言葉にも、一理があった。確かに、サザビーがああして五体満足な事。
ゼダンの門とティターンズのMS群、アクシズの艦艇にMS群。
それら全ての説明を、どうすればいいというのだろうか?
……アムロのνガンダムも。
「一つ教えてあげますわ、シャア。
 アクシズもゼダンの門も全て、‘発掘’されたものなのです。
 歴史学者が古代遺跡を発見し、碑文やミイラを発見したのと同じように」
「…………何っ!?」
シャアの目が、驚愕に見開かれ、
ラクスはなおも続けた。追い打ちをかけるように。
「この事と、貴方と、そして私という存在が示すのは、
 人類が地球という箱庭の住人である事ですわ」
一瞬めまいがするシャアの周囲をゆっくりとラクスは廻る。
「だから私は、人類をより高尚な所へ導きたいのです。
 何時までも同じ事を繰り返してばかりの、愚かな動物である人類から、
 別の次元へと思考を昇華させた、‘完成した人類’をつくりだすために」
ラクスは、最終的にシャアの目の前へ仁王立ちし、
シャアの目を真っ直ぐ見据えた上で、言った。
「私に力を貸しなさい、シャア・アズナブル。
 私の傍らに立ち、世界のことを共に考えましょう……」
「……それは、できない」
シャアは、ラクスがさしのべた手をはねのけた。
彼は目をそらしていたが為に、彼女が一瞬見せた、
沈痛な面持ちを見ることはなかった。見なくて、正解であっただろう。
実際シャアはこのC.E.という暦の中で、初めて強大な不安を抱いたのだ。
自分が今こうして生きている事そのものが、人類は彼がいなくなった後もなお、
愚かな戦いを幾度となく繰り返してきた証拠だと、彼女はそう言ったのである。
「何故……ですか? 貴方は思わないのですか?
 人類全体に新たな道を示し、無駄も痛みも無い正確な完成への道を進むべきだと」
「ああ、思わないな。
 なぜなら君は、ヒトを‘舞台装置’としてしか見ていない。
 人間には無駄があって、痛みがあって、それを克服するために‘進化’する生き物だ」
「人間がただ人間へと進化する事に、何の意味があると言うのです!
 進化した人類が住まうのに、この地球では狭すぎますわ」
「確かに地球は狭いが、宇宙は違う!
 君がこの地球に逼塞しているのは、この世界の人類が未だ、宇宙に希望を持っていないのと同じだ。
 宇宙に生活の道を見いだすことが喜ばしいことだと、地球の人間が知らないだけなんだよ……」
「……ロマンチストなのですね、貴方は」
ラクスはそれ以上、怒りを露わにしてシャアに言うことを止めた。
彼女はそっと、自らの金色の髪留めを外し、シャアに手渡そうとする。
「いいですわ。先日の話、少し乗りましょう。ゼダンの門潰し、一枚噛みますわ。
 私が、そうしてZAFTと組む時期もありましょうが、いずれは……」
敵になる。その時まで、コレを持っていて欲しい。彼女は、シャアにそう心で訴えかけていた。
ダメだろうと思っていても、僅かながら心の中に残っていた一縷の望み。
それが絶たれた女の、最後の我が儘。
「簡単に言ってくれる……」
シャアはそれを手に取った。ラクスが、微笑む。
その表情は、素直に可愛いと思った。
彼女は一度トレーニングルームの壁に設置された端末から、
ブリッジのクルーを呼び出して、数十分後にサザビーが出立するから、
カタパルトの開閉をいつでも出来るようにと命じた。
「……? 私ごとゼダンの門へ行くんじゃなかったのか?」
「意見を違えた者を、何時までも艦に乗せる人間はいませんわ。
 ジブリールを見せて絶望させてやろうと思いましたけど、やめです。
 貴方の服は部屋の箪笥にしまってありますわ。
 ……ムサカが、L5に一隻残っていましたから、打診しておきましょう」
「ムサカ……!? ……ハイネの奴め」
「最後まで、癪に障る男でしたわね、貴方は」
「貴女もだ、ラクス・クライン……」
ふと、アマリリスの花の香りが、彼の鼻腔をくすぐった。
シャアは、口元に笑みを浮かべた。アマリリスの花言葉は『強い虚栄心』

 

そして、『すばらしく美しい』

 

彼は、ラクスの横を横切って外に出ようとする。
その時、通り過ぎざまに彼女の肩に軽く手を乗せて、
「楽しかったよ。きっと、忘れないと思う」
「…………っ!?」
「さようなら、“ラクス”」
そうして、彼女の横を横切ったシャアは部屋を出で、
ラクスの部屋すぐ隣の部屋まで付き人付きで向かい、中でZAFTの赤い制服に袖を通すと、
MSハンガー端に鎮座するサザビーのコクピットに向かった。
サザビーにいじられた跡は無いが、一応確かめる。
彼女が以前言ったとおり、何処も手を付けられてはいなかった。
周囲の生気のない兵達は、客人を見送るかのように居並び敬礼している。
それに敬礼で返したシャアは、コクピットに滑り込む。
カタパルト射出の手間を取らせず、
シャアは開いたハッチへと機体を数歩歩かせ、外に出て機体を振り返らせる。
グワダンのブリッジがある方向を、みやる。
あの辺りが、先程までいたブロックであろう。
そして、バーニアのノズルを稼働させて、虚空へと飛び上がっていく。
この時、シャアは知らなかった。
それに、知ることは無いであろう。
自分が部屋を後にした後、あの広々とした部屋の真ん中で、
ラクス・クラインが大声をあげて泣き叫んだなどと。
まるで、10年以上ずっとため込んでいたものを全てはき出すように、
周囲の子供達も気にせず泣いていたなどと…………。

 
 

※※※※※※※

 
 

〜メサイア・総司令室

 

本来司令席となる場所に演説台が設置され、はねクジラをバックに、
ギルバート・デュランダル、ジューガー・リァン、カガリ・ユラ・アスハ。
主要な三ヵ国の元首が演説台の左方向に鎮座し、
そして南北アフリカ・赤道連合の官房長官ら高級官僚が下段に並んでいる。
各国から招かれたメディアや来賓達にとって、錚々たる顔ぶれが並ぶ格好の絵面であった。
シン・アスカは、首脳陣を守るように配された軍人達の中に混じり、
ちょうど側面から舞台を一望できるポジションにいた。
世の中が変わる瞬間というのは、こういう場所から生まれるんだろうか?
ふと、この光景を目にしていると思ってしまう。
大勢の人間達の夢や希望、策と欲望とが入り交じり、
不気味ながらも高揚する空間を造り上げていたのである。
この年で、この空間を構成する一部になっている事。
それが、シンにとって嬉しいのかそうでないのかは、まだ判別できなかった。
これから変わっていくことを考えると、複雑でもあったのだ。
自分の知っている世界が、別のものに変質する。
時代の転換期は、いわば巨大な『ふるい』だとシンは考えている。
今まで続いていた時代が変わり、新たな次元へと昇華する。
その瞬間残り『英雄』と後の世に呼ばれる人間もいれば、
当然のように、取り残されて『敗者』の汚名を被る人間だっている。
シンは感じていた。自分は、『白』の中にいると。
その実感があった。世の中の流れは、確実にこちらに流れている。
『白』と『黒』、勧善懲悪といったシンプルなものではない、
時代といううねりの中にある『勝敗』という色分けの中で、
シンは確実に『白』の中にいると確信していた。
そして今、白の頂点に立っている男が、壇上に上がる。
時刻はプラントにおける、12:00ジャスト。
長針・短針・秒針全てが、天めがけて指を差したとき、
ギルバート・デュランダルは、各国官僚、自国の軍人達。
そしてメディアの向こうにいる世界中のありとあらゆる人々に向け、演説を開始した。

 

《地球と宇宙に住まう皆さんに申し上げたい。
 私は、プラント最高評議会議長、ギルバート・デュランダルです。
 プラント、東アジア共和国、オーブ首長国連邦、大洋州連合、汎ムスリム会議、
 アフリカ共同体、南アフリカ統一機構、赤道連合、南アメリカ合衆国……。
 地球と宇宙ほぼ全ての国家の人間が一堂に会するこの場所で、
 皆さんに語りかけられることを、感謝いたします。
 皆さんも知っての通り、先年に我々は巨大な戦争を経験しました。
 そして、こう誓いました、このような悲劇は決して繰り返さない、と。
 ですが、悲しいことにそれは破られました。
 ユニウスセブンは落ち、戦端は開かれ、収束の気配は未だありません。
 戦火は拡大し悲しみ、苦しみ、そして憎しみが、再び世界中の皆さんの心へ植え付けられました。
 何故、このような悲劇が繰り返されなければならないのでしょう。
 我々は、考え続けてきました。
 この愚かとしか言いようのない連鎖を断ち切るには、どうすれば良いのかを!
 人は一人では行けていけない存在です。今、地球圏の危機という課題を前にして、
 今までの我々は、なんら有効な解決策を示せませんでした。
 増えすぎた人口、石油資源の枯渇、環境破壊。
 国家間のしがらみ、宗教同士の対立、民族紛争。
 人種差別、部落差別、階級格差。
 そして……『ナチュラルとコーディネイター』
 決して目を背けてはならぬこの問題を前にして、
 我々がすべきなのは、一人一人の『意識』を改革する事にあります!
 国家、民族などではなく、『人類』という一つの概念に根ざした、
 『新たなる自己』の視点に、我々は立つ必要があるのです。
 それらの壁を越えて手と手を結び合うには、
 これからも数多の困難が立ちはだかるでしょう。
 そこで、私を始めとする各国首脳より、地球の皆さんに提言したい!

 

  【地球連邦政府】……地球を一つの国家とする事を!

 

 『スペースコロニー』という生活の場は、
 未来に生きる人類に与えられるはずであったものです。
 皆さんはこの言葉を聞いて真っ先に、『コーディネイター』という言葉を浮かべている事と思います。
 しかし、これは昨今の大戦で招いた悲劇の一つなのです。
 プラントと地球、全てのコーディネイターの皆さんに聞いて頂きたい。
 かつて、ジョージ・グレンはコーディネイターをこう称しました。
 『母なる星と、未知の闇が広がる広大な宇宙との架け橋』
 『人の今と未来の間に立つ者。調整者』と……。
 我々は今この時をもって、彼の言った架け橋となるべきだと確信します!
 宇宙に住むのはコーディネイターなどという歪んだ固定概念を破壊し、
 地球が人の重さで沈んでしまう前に、我々は変わらねばならないのです!
 そしてナチュラルの皆さんにも、垣根を越えて聞いて頂きたい。
 地球という母が揺らす揺りかごから脱し休ませなければ、
 母は強しと言えども必ず倒れましょう。
 揺りかごから出た赤子は成長します。
 ……我々人類は、その赤子になるのです。
 共通の目的を持って一つになれることを、次の世代の子供達に示さなければならない!
 そしてこのメサイアに於いて、新たなスタートを我々は切ります。
 我々の周り、そして皆さんの頭上には、悠久たる宇宙が広がっています。
 その宇宙の中には、我々人類の新たな可能性が広がっている!
 何時、どのような形でその入り口に立ったとしても、
 我々はもう振り返るべきではありません。人間達が背負う罪も宿業もすべて置いて、
 他人に定められた道上を歩かず、自らの可能性が名の下に、未来を目指すのです 》

 

シン・アスカは、ワッと歓声が上がった瞬間我に返り、
自分までもが聞き入ってしまった事に気付き、姿勢を正した。
心が、熱くなっていた。雄叫びを上げて拳を突き上げたい衝動が、
胸をこみ上げてきて、それを必死になって押さえ込む。
それは、シンだけではなく、アスランやレイ。
そして将兵達が皆、目を輝かせその内から突き上げる衝動を抑えていた。
メディアがたくフラッシュの光はいつもより激しく感じたし、
各国の官僚達の顔にも、政治の場で見せるはずのない本音の部分、
熱く高揚している彼らの顔がハッキリと見え、
シンは、今ここで流れが大きく変わったのだと知る。
人の目に見えぬ、時流という巨大なうねりが、方向を変えたのである。
ほんの一時だけ、人間の策謀も欲望も無い、
純粋な希望のみが存在する空間が、このメサイアの中でできあがっているのだ。
今この時の光景を、シンはしっかと眼に焼き付けようとした。
決して忘れてはならない瞬間であると確信していたからである。
デュランダルが演台を降り、リァン大統領やカガリの隣に座る。
その時シンはこの高揚する空間の中で、唯一、心を動かさない人間がいる事に気が付いた。
アスランの、レイの、顔を見る。二人も、気が付いているらしかった。
ZAFTの高級官僚達、彼らの悉くが興奮のあまり席を立っている者もいる中で、
ただ一人だけ冷ややかな目を微動だにしていなかった男の存在が目に入ったのである。
エリオット・リンドグレン……プラントのうら若き内政事務次官は、
デュランダルの先程の演説もさほどに感じていないそぶりを見せていた。
まるで、それよりも信じている存在が心にあるかのように。
そして彼が、席を立った。拍手を送るためでも声援を送るためでもなく、退出するために。
今ここで何処へ行こうというのだ?
シンとアスランとレイは、イザークやルナマリアに議長を頼むと告げると、
反対側の官僚達の裏手にあるドアへ姿を消したリンドグレンを追うため、
ZAFTの軍人の多い場所の裏手から退出した。

 
 

第35話〜完〜

 
 

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