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CCA-Seed_787◆7fKQwZckPA氏_37

Last-modified: 2012-08-22 (水) 01:58:45
 
 

機動戦士ガンダムSEED DESTINY IF
〜Revival of Red Comet〜
第37話

 
 

〜宇宙要塞メサイア〜

 

「………………」
沈黙がこれほど重たく、冷たかった事があったろうか?
シン・アスカは、目の前の黒髪の男から発せられるものを感じながら、
今後のプラントの動向に不安を感じざるを得なかった。
〈エリオット・リンドグレンの謀叛〉
現在、ZAFT内部だけで情報を抑え込んではいるものの、
情報屋たるマスコミや、各国首脳が連れてきているエージェント達。
彼らに自分たちの不穏な動向がばれるのも時間の問題であった。
一国の内政事務次官が、それも議長の片腕とすら呼ばれてきた男が、
あろう事か数年前の任官時以来、今日に渡ってテロの主導者と通じていたという事実。
これは、デュランダルの政権を根幹から揺るがしかねない。
そしてまた、彼がかのブレイク・ザ・ワールドの手引きをした一人だという事。
これは地球各国に対し、デュランダル…しいてはシン達ミネルバ隊が、
血と死と、汗と涙を注ぎ込み、地道に積み上げてきた信頼をも打ち砕きかねなかった。
所詮、プラントのイメージアップの為の自作自演。そんな声もあがることとなるだろう。
「諸君等も知っての通り、プラント内で裏切りがあった」
デュランダルが、重い口を開いた。実に30分の、沈黙があっての発言である。
先程まで演説が行われていた大広間内は、ZAFTの人間しか居なかった。
リァン大統領も、カガリ達も、すでに退出している。
十中八九、プラント側で何があったのか、今頃それぞれが情報収集に奔走しているはずだ。
では、かく言うこちらはどんな状況となっているのかというと、古代や中世と似た状況である。
デュランダルが上座、正面にリンドグレンが跪き、それを他者が囲んでいる。
列をなし向かい合い、裏切り者を挟んで見下ろす形となっていた。
アズナブル隊(アスラン、レイ、ルナマリアら)が、射殺す眼で。
ジュール隊(イザーク、ディアッカ、シホら)が、殴殺する眼で。
中央に縛られ座すエリオット唯一人、青い顔をし、焦点の合わぬ眼を方々に向けていた。
デュランダルは、最上部の階段に腰掛け、意外にも落ち着いた声音で言った。
椅子というイメージがあったからだろうか、非情に荒々しい印象すらある。
「実に、周到だった。二年前のあの日から……最初から、裏切っていて、
 今日という日が来るまで、秘密を隠し守り通してきた。称賛に値する」
穏やかな声であった。だが、眼は笑ってはいなかった。
むしろ、この大きな部屋の中に立つ人間の中で、最も煮えたぎった眼をしていた。
シンは場違いにも、面白いと思った。
デュランダルにも、こういう荒い面があるのだと知ったから。
彼はリンドグレンを、睨む。じぃっと、射抜くように、全身を。
「ひっ……」
「何を怯える事がある、エリオット。私は感服しているのだよ?
 二年もの間感づかれる事なく、任を果たし続けたは見事の一言だ」
デュランダルは、ゆっくりと足音高く、跪く裏切り者の廻りを一周する。
それも1分で一回りという遅さで。カツンと、あえて音をさせて歩き回った。
彼が一歩動くたびに、リンドグレンは身体を小刻みに震わせる。
この小男には悪いが、見ていて非情に滑稽であった。
「相手がジブリールならまだ良いとすら思えるよ。
 だが、あの『ラクス・クライン』とは……。言葉が思い浮かばん」
怒りの発散の場を求める心を抑えながら、デュランダルはエリオットの正面に立った。
傍らにいたイザークに目をやって、
「この男を独房へ。一つでも良い、彼女の動向に関するものなら何でも良い。
 何としてでも聞き出す。放り込むだけでよい、尋問官は後で選定する」
「はっ!」
イザーク・ジュールは、ディアッカとシホには命あるまで待機しておくよう命じ、
部下二名にエリオットを両脇から抱え上げさせ、部屋から引きずり出していった。
デュランダルは大扉が閉まるや、先程まで座っていた椅子に、座り直した。
力がない。それも当然であったが、そうも言っていられない状況であった。
「議長、早急に各艦隊司令をここメサイアに集結させるべきでしょう」
と、アスランが口を開いた。
東亜の大統領とオーブの首長、並びにマスコミ関係者までもがあの場に居合わせたのだ。
この事態が全世界に広まるのも時間の問題であり、
まず第一に事が発覚すれば、プラントの世界における外交上の地位が、
一時的に失墜するであろうことは誰の目にも明かであった。
世界を戦渦へと巻き込んで暴利をむさぼるロゴスと、
それを打倒し平和を勝ち取らんとするプラント主導の連合軍。
という、民衆にも浸透しやすいシンプルな勢力構図が瓦解してしまう。
旧世紀で言うなればアメリカ合衆国国務長官が、
国際テロ組織『アルカイダ』のリーダーと通じていたと発覚するようなものである。
アメリカ、現在の大西洋連邦だが、それとて前身は200年ほどの歴史を誇っている。
比べて此方はプラントという、二年前にようやく存在を認められた新参国家。
デュランダルをトップに擁し、新たな梶を切ったはずの、若い国家。
先々代より先の指導者層による迷走から発せられた『怨恨の種』も残り、
世界に対し贖罪も終わってすらいない、
極めて危ういバランスの上に成り立っているコロニー国家なのだ。
ラクスが現在、地球圏で最も不透明で危険な集団の頭領であることは、
まだ世界の殆どが知らないことであるが、相手が誰であれ国務のトップレベルの人間が、
テロの首謀者と通じていた事実にはかわりがない。

 

『極めて迅速に事を隠蔽し、諸国並びにメディアの関心を他方へ向けさせるべき』

 

デュランダルもそう考えていた。だが問題なのは、先程連れ出させたリンドグレンだ。
つまり、ラクス・クラインの動きがどう出てくるかが非情に気がかりだった。
ヴェステンフルス隊が残り、サザビーの回収を待つ事となっているが、
現在まだその件に関する報告は入っていないし、問題はグワダンの行き先だ。
『ゼダンの門』…U.C.において、ジオン公国最後の防衛戦となり、
ティターンズの一大拠点として存在していたという巨大な軍事要塞。
航行ルートから計算すると、グワダンの行き先は確実にそこに入る。
「我々プラントの内情が他国へ知れ渡るより先に、
 東亜・オーブ宇宙艦隊、並びにZAFT連合艦隊をかの『宇宙要塞』へ向けさせましょう。
 陥落作戦開始の報が流れれば、こちらへの詮索も無くなりはせずとも、多少は緩くなります。
 その際、内々に片づけてしまうのが順当かと思われますが」
「“内々に”?」
ディアッカが、アスランの言葉に首をかしげた。
彼がアスラン視線上に立ち、
「それはどういう事だ、アスラン。
 ここは本国で正式な裁判に則って…」
「考えが甘い、ディアッカ。相手は『ラクス』だぞ?」
「だからと言ってだな…」
ディアッカのみならずジュール隊は、ラクスがすでにかのプラントの歌姫ではなく、
空前絶後の軍事集団を抱える女傑と化していることは、すでに知っている。
だが、直にあっていない以上、まだ割り切れていない部分も確かにあった。
今回の件も、本国へ裏切り者を搬送し裁判にかけその罪を本国内で密かに問うことが、
まっとうな方法だと判断していたし、通常ならデュランダル達もそうしたろう。
だが、アスランは強硬にも、
「……ディアッカ。内政事務次官が通じていたんだ。そこから考えても分かるだろう?
 我らが母国・プラント本土に、どれだけ彼女の『眼』や『耳』がいると思う。
 ましてや、『司法』に手を伸ばしておかない理由が…俺には考えられない」
アスランはディアッカの眼を、睨んだ。
ほんの数ヶ月。一年もしない間に、彼に何があったのだろう?
ディアッカは、そう考えざるを得なかった。彼の目が、今までの彼とは違う。
一瞬だけ、“暴”の臭いがした。そして、すぐに消えた。
文字通り、消えたのだ、アスランの眼から何もかもが。
上向きの感情も下向きの感情も、何もかもなくなった静寂。
それも一瞬だけであり、ディアッカは背筋に寒いものを感じ取った。
(これは、本当にあのアスランか?)
優秀で負けず嫌いなくせに、お人好しで事を荒立てるのが嫌いで、
おおよそ軍人に向いてるとは思えない甘い男だったアスランか?
その当の本人は、デュランダルに向き直って、
「議長、リンドグレン次官への聴取は私がやります」
「いいのかね? 君にはシャアが不在の間、レウルーラを纏める役があろう」
「纏め上げるのはトライン艦長の役目、それにMS隊にも心配は結構」
アスランはシンらに眼をくれて、議長に目線を戻す。
デュランダルは、アスランの尋問を許した。
「存分にやれ、アスラン」
「はっ!
 それではまず一つ、次官秘書並びに、
 本日次官を訪問したメディアの人間悉くを拘束する許可を頂きたい」
このとき、デュランダルは、一瞬だけ自分の判断を後悔した。
デュランダルから見た先には、一欠片の感情もない眼があった。

 

※※※※※※※

 

〜メサイア・監房区〜

 

バァッ、と暗闇の中に閃光と称すべき明かりが灯され、
エリオット・リンドグレンは目を眩ませ、のけぞった。
狭いわけではないが、光が殆ど差し込まない作りになっている部屋の中で、
金属製の椅子の腕に彼は座らされていた。金属製のテーブルも見受けられる。
その向こうに見える寝台も、薄い毛布一枚の硬そうなものであった。
「これは、いかに囚人とはいえ粗雑すぎやしないかね?」
「そうですか? これから貴方が暮らすことになる部屋だ。
 このぐらいが妥当だと思っておりましたが……」
あざけるように、目の前の青年が彼に言葉を投げかけた。吐き捨てるように。
その言葉をお前が言うのか。エリオットは、アスラン・ザラの顔を見ながらそう思った。
ZAFTのエースとして名を馳せていながら、一度はプラントを、
父親に弓を引いた反逆者でありながらデュランダルに阿り今に至るくせに。
「妥当だと? ではこの私の状況をどう説明する気なのだ!」
「……ごちゃごちゃしゃべるな、鬱陶しい」
アスランは手にしていた警棒を、軽く振るった。
ズドッ、という鈍い痛みと共に、右に脇腹に抉り込まれる。
「か……はぁ……が…」
エリオットは今、椅子に座っていることに間違いない。だが、おかしい。
椅子の背もたれが曲げられており、拘束できるようになっているのだ。
「状況なぞ説明しなくてもすぐに分かりますよ」
おかしい、おかしい、おかしい、おかしい!
コレはどう考えても囚人に獲るべき対応ではない!
そもそも国家反逆の罪が自分にあるであろう事は知っているが、
裁判も無しに事に及ぶなど、近代国家として考えられない!
「この男の手の拘束を解いてやれ」
アスランは傍らの兵に命じた。
エリオットは兵一人に腕を押さえられつつも、拘束を解かれる。
もっとも、想像と違い解放された両手はそのまま、目の前のテーブルの上に押しつけられた。
無理矢理、手を開かされる。鈍い痛みに苦悶の顔を浮かべた。
「……!? 待ってくれ! 何なんだ、これは!」
アスランが、向かいの椅子をひいて、座る。
紙とペンがある。形だけは尋問だった。向こう側だけであるが。
「さて、次官。回りくどい質問は無しにしましょう。
 ……ラクスの確保した“要塞”の場所はどこです?」
やはり、そう来た。自分に聞きたいことはそれくらいだ。
“あの方”の動き次第で戦況が動くのは、プラントとロゴス双方のトップが知っている。
だからこそ、情報を持つ私への対応も、と思っていたのに。
「生憎ですがね、次官。私は議長のようにお優しい人間ではないものでね。
 もったいぶる人間は何より嫌いなんですよ」
アスランという人間をよく知る人間には噴飯ものの台詞を言い放ち、
彼は紙とペンへ手を指しながら、言った。
「今だけです、ここで全てお話下さるなら、何もしません。
 でももし、何も言わぬなら……」

 

アスランは、拘束に参加せず、独房の門前に立つ兵から何かを受け取った。
ここで気が付いた。この独房は、普通じゃない。
窓が何もない。壁が異質だ。
まるで、音を漏らさないために作ったかのようだ。
「……!?」
「もし何もおっしゃらないのなら……」
アスランは、テーブルの上に、無骨な物体を置いた。
「その小汚い指を潰します」
3ポンドハンマーである。
(はっ?)と、エリオットは呆気にとられた。
ふざけているのか、この優男は。そんな事をすれば、
「冗談はよしたまえ、そんな事をすれば国際法違は……」
そう、そう言いたかった。被疑者や捕虜への拷問はそれこそ旧世紀。
C.E.という新時代に変わるまでもなく、近代国家が成立した頃すでに廃止されたはずだ。
国際法にしっかりと禁止が明記された行為のはずだ。
ただそれは何もかも、《バレたら》の話である。
だが、このときのアスランは一切の躊躇もなかった。
エリオットがそう口にした瞬間、ハンマーを手に取っていた。
大きく、彼が振りかぶる。嘘だろ、やめろ、やめてくれ。
そう彼が口にしようとした瞬間には、もう何もかもが手遅れになっていた。

 

グシャァッ

 

「qあwせdrftgy……○×▲●▼■!!??」

 

アスランの目の前で、男が声にならない叫びを上げながら、
ガタガタと椅子が揺れるほどに身体を震わせていた。実に、醜い。
人間の指を一本潰したというのに、意外にも冷静でいられた。
自分なら本来此処で、ハンマーを使って脅すことはおろか、
尋問の場に立つ事すらままならなかったかもしれない。そう考えると、進歩したか?
それをよく考えてみると、否である。自分は、演じているに過ぎない。
“恐怖の尋問官”という役割を自分なりに構築したら、こうなっただけだ。
そもそも、この男の方に日があるではないか。
あの怪物が如き女へと変貌したラクスと通じ、何年もの間、
プラントの国状や軍事機密までもを彼女に流し続けていた“裏切り者”
「素直に話して下されば良かったものを……」
「……か……ぁぁ……」
「ラクスは未だ、本国では“アイドル”であり“救国の歌姫”ですからね。
 議長や私たちがそうしたのですから、当然と言えば当然。
 ……だからなおさら、貴方が重要なのはおわかりでしょう?」
アスランは表情を変えることなく、潰し血がにじみ、破けた皮膚を“つっつく”。
「ああっぐっ!?」
「そんなラクスと懇意だからと言って、本国で裁判にはかけられない。
 テロの首謀者と言えども名を出さねば誰も信じませんから……」
ハンマーをエリオットの眼前に、突きつける。
彼の顔が青くなり、眼が恐怖に染まる。身体が、震え出す。
(驚いたなぁ……)
アスランは内心そう思った。この状況が、心地よい。
極めて前時代的な方法で情報を吐くことを迫る尋問官。
その役に没頭している自分がいる事に気付く。だが悪いとは思わない。
(悪いのは裏切ったこの男だ)
そう割り切って物事を考えられる。何故だろう。
一人間としてのアスラン・ザラを封殺し、
“情報を聞き出すためならどんな手段を用いてでも聞き出す人間”になりきっているから?
それとも、生来こういう事が好きなのに、無理矢理自分をごまかしていたからなのか?
まぁ、どれが本当なのか何てこの際どうでも良い。
「答えて頂きたい、さもなければもう一本潰します」
「……クソ……喰らえ」
男が絞り出したのはその一言だけだった。
アスランは、躊躇無く、ハンマーをもう一度振り下ろした。
さっきのは右手の小指だった。なら、今度は左手だ。
耳をつんざかんばかりの絶叫が、聞こえる。でも、まだ吐かないかもしれない。
だがこの場所でをの問いに対する回答は至極簡単なものだ。続ければよいのだ。
アスランはハンマーを置いて、もだえ苦しむ男の背後に回ると、
「手をもう一度拘束しろ」
と命じ、手錠をまた後ろ手にかけさせると、
髪の毛をひっ掴んで無理矢理後ろにのけぞらせた。
「はぁ…はぁあぁ……か…」
「“まだ指が二本潰れただけ”じゃありませんか、次官。
 艦隊の出向準備が整うまで時間はたっぷりあるんですよ。
 ……ここで終わりにしませんか?」
「だ……誰が言う……ものか……」
「……強情な男だな」
誰の目から見ても、異常な空間のはずだった。
だが、この場にいる兵達も、アスランも“酔っていた”。
【スタンフォード監獄実験】で立証された事象に、少し似ているかもしれない。
ただ、禁止されているはずの拷問を平気で行えるのには、
役割と雰囲気に飲まれているから、とは単純に言い切れないものがある。
アスランにとって、『ラクス・クライン』はすでに婚約者でも、
プラントの歌姫でも、二年前共に闘った同志でもなく、ただの『悪魔』であった。
グワダンで再開した彼女を一目見たとき、悟った。
この女は生かしておいては行けない人間だったのだ、と。
先刻のこの男の告白から聞いたとおりなら、今回の大戦は彼女がお膳立てしたものだ。
もしそれが真実であるならば、父や母が死に、友が大勢死んだ二年間の大戦はどうだった?
ZAFTの軍事機密であるフリーダムとジャスティス、エターナルの所在も把握し、
双方に注目されるべく動いた、あの時のラクス・クラインはどうだった?
我が父・パトリックが、彼女の父・シーゲルを殺害することもすでに計画内だったのか?
そうだ、二年前から彼女はそうだったのだ……と、そう考えると全てに納得がいった。
歌姫の仮面をかぶり、救国の女性として振る舞いながら、
世界を混乱に陥れる手だてを秘密裏に張り巡らせ、国家の中枢にすら食指を伸ばす。
各地に火種をまき散らして寝かせておき、くすぶっていた火種に油を注いで、
各地を跳梁し戦渦を拡大させ混乱の渦にどんどん巻き込んでいく。

 

これを悪魔と呼ばずして何と呼べばよいのか、アスランは知らなかった。

 

だが一つだけ確かなことは、怪物を葬るには、自らも怪物になるべきだという事だ。
その発想が、アスランにはあった。デュランダルやシン、そしてシャア達以上に、
ラクス・クラインという人間を知ってしまっているが故の判断であった。
たとえ戦後指を刺され、残忍な人間との烙印を押されようともかまわない。
彼女を葬り去らなければならない。それは、元婚約者としてのケジメだとも思う。
もっと早い段階で彼女の本性に気付けば良かったのだ、俺が。
二年前もそうだったけど、誰か止める人間が彼女には必要だったのではないだろうか?
キラは、よく考えれば彼女が『取り込んだ』と見るべきで、
それはもしかしたら俺の役割だったのかも知れない。
アスランの頭の中は、先の会談の時からずっとこんな感じである。
常に自らを苛み、もっと俺が俺がと責め続けた結果が、これなのである。
今のアスランの顔は、冷たい笑みを貼り付けた鬼にも見えた。
そんな彼はさらに男の髪を引っ張って、漏斗を用意させた。
「……!? ちょ、ちょっとまっ……ぐむぅ!」
何をする気なのかはすぐに分かった。
アスランはエリオットの口腔内に漏斗をねじ込むと、
水がいっぱいに詰まったガロンボトルを取り出していた。
「話してくれますか? 次官」
エリオットは、首を何度も何度も縦に振る。
もういやだ、話してしまおう。そうすれば少なくとも楽になれる。
後に『あの方』からの仕置きがあろうが、今このときの苦しみよりはまだ良いかも知れない。
アスランの顔が、ほころんだ。先の冷たい顔とは違う、いつもの優しい笑顔。
「そうですか、それはよかった。
 ……でも嘘を話すかも知れないな」

 

彼はその笑顔のまま、漏斗に水を注いだ。

 

※※※※※※※

 

〜メサイア・議長執務室〜

 

「「アクシズの場所がわかった!?」」
シャア・アズナブルは、ハイネ・ヴェステンフルスの属するムサカに回収され、
メサイアにたどり着いて後、すぐに此処へとやってきた。
先程から驚くような話ばかりである。国の内政のトップにあたる人物の離反。
それも数年前から続いていたのが発覚するとは、頭が痛くなる話だ。
だが、数年前から裏切っているような相手から、よくすんなりと情報を聞き出せたものだ。
などと感心していると、
「アスランが吐かせたんだ、尋問でね」
「アスランが?」
ハイネは首をかしげる。アスランはMSの操縦技術こそ最高クラスの男だが、
尋問など、やってる側も精神がすり減るような、人対人の作業は苦手な印象があったが……、
「情報を信用できるとは思ってないさ、
 ラクスを心酔していた人間ならなおさらな」
「ならば信用できる情報を吐かせるまでです」
シュンッと、機械の音が聞こえシャアとハイネが振り返ると、アスランがいた。
印象が、変わっている。二人はそう思った。短い間に、変わりすぎだ。
「お前、本当にアスランか?」
「ハイネ、どうかしたのか? 俺は俺じゃないか」
怪訝そうな顔を浮かべる彼の顔はいつも通りのアスラン・ザラだ。
だが、この全身から漂う感覚は何だ!?
「いや、何か…。お前が一瞬空っぽに見えちまってさ」
「空っぽ? 心外だな、お前でも怒るぞ?」
ハイネの見解は正しい。少なくともシャアはそう思った。
情の深さ故に悩み苦しむ、年相応の青年だったアスランでなく、
それこそからっぽの『器』に投影した何かを見ているような錯覚に陥ったのだ。
「ああ、隊長、ご無事で何よりです」
「私の心配はいい、それより、手に入った情報の内容は?」
話を元に戻した。これ以上追求しても、彼は何も言うまい。
アスランはデュランダルに目をやって、彼がうなずくのを見ると、
執務室のモニタの前に進んで、地球圏の映像を映し出した。
「先だって、裏切り者と判明したリンドグレン次官を尋問し、
 ラクス・クラインの本拠地とされている『アクシズ』なる小惑星の所在を聞き出しました。
 まぁ、彼の言葉のみ鵜呑みにするわけにはいきません」
突きの裏側を、レーザーポインターで指し示しながら言った。
L2宙域。シャアの知る宇宙で言えば《ジオン公国の存在した場所》。
シャアにとっては故郷と言えるコロニーが存在していたはずの場所である。
「月面のアルザッヘル基地とはちょうど正反対の、月裏側です。
 もっとも、すでに移動していると見た方が自然でしょう」
と、デュランダルとハイネ、そしてアスラン等が議論する中で、
シャアはアスランの纏っている《モノ》が、変質しつつある気がしていた。
かつて、元々の優しい性格を鉄の仮面で隠したハマーンのような危うさが、
彼からも感じられて成らなかった。それも、彼女よりタチの悪い方向のものを。
(自ら怪物になろうとでもいうのか、アスラン……)
アスランは、盲目になりつつあった。
化け物を駆逐するのは化け物だと、思い始めていた。

 

化け物を最終的に倒すのは、《人間》なのだという事を、見失いつつあった。

 
 

第37話〜完〜

 
 

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