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CCA-Seed_98 ◆TSElPlu4zM氏_第16話_後編

Last-modified: 2007-11-10 (土) 18:15:57

デブリ帯を無事に抜けたアークエンジェルの食堂は、マリューの命令で戦闘に入る前に、食事を済ませるようにと通達がされた為、異常な程に忙しく、交代要員も駆り出され、戦場と化していた。
 ラクスも同様でスタッフと共に忙しく働いているが、違う事があるとすれば、ラクスにはこれからザフト軍と戦闘に入ると言う事が伝えられていない事だった。
 だが、この忙しさの余り、その事に気付く余裕すら無いようで、額に汗を浮かべながら働いている。
 ラクスは出来た食事をカウンターに出すと、並んで待っていた女性の乗組員に笑顔を向けた。

「はい、お待たせしました!」
「うん、ありがとう」
「はい!――すぐにご用意しますので、お待ちくださいますか?」

 ラクスは女性の言葉に、嬉しそうに笑みを湛え、カウンターに並べた食事が無くなったのを確認して、次に待つ男性に頭を下げると、厨房の中に戻って行く。
 盛り付けを行っている台の前まで来ると、料理の入った寸胴鍋を運んで来た若い男性スタッフが、ラクスが手が空いていると思ったのか、声を掛ける。

「上がったよ!その空の鍋、退かして!」
「――はい!」
「……いや、君じゃ、持ち上げるの大変だろ?俺がやるから、鍋を置いたらトレイに盛り付けてくれ」
「はい!分かりましたわ!」

 ラクスが頷くと、男性スタッフは持っていた寸胴鍋を交換して、空になった鍋洗い場へと運んで行く。
 他のスタッフも並びながら、ラクスは盛り付けを始めた。
 ラクスが厨房内で盛り付けをしている事で、空いてしまったカウンターには、一緒に入っている若い女性スタッフが、いつの間にか入っていた。
 それから、しばしの間、盛り付けに専念した為、どの位時間が経ったのか分からないが、鍋の中身が半分近くが減っていた。
 ラクスは満足そうに、一度息を吐くと、カウンターの方から自分を呼ぶ声に気付き、顔を向けるとカウンターの向こう側から、中を窺うようにミリアリアが顔を覗かせていた。

「ラクス、忙しそうね」
「ミリアリア!すぐにご用意しますから、待っててくださいね」
「うん、ありがとう。今日は一緒に食べられないの?」
「ええ。今日は、いつもに増して皆さんお忙しいですし、私だけ抜けてしまうのは、皆さんにご迷惑を掛けてしましますから」

 ラクスは残念そうな表情を浮かべると、ミリアリアも厨房の忙しさに納得して残念そうに頷いた。

「……うん。がんばってね!」
「はい!」

 ミリアリアの掛けてくれた言葉が嬉しかったのか、満面の笑みで頷くと、再び盛り付けを開始した。

 一方、カウンターの外では、交代で食事をしに来た少年達とマリュー、チャンドラ二世、パルが食事を受け取り、席に着き食事を始めようとしていた。
 いつもなら、ミリアリアはトールの隣に座るのだが、何故だかトールとの間にサイとカズイを挟んで座っている。
 明らかにミリアリアはサイに対して怒っている様子で、見兼ねたサイがトールに声を掛ける。

「それにしてもさ、トール、なんで訓練の事、教えてくれなかったんだよ?」
「ん?ああ……色々と思う処があってさ」

 トールは空いた手で首の辺りを摩りながら答えるとスプーンを動かして食事を口へと運んだ。
 それを見ていたミリアリアが拗ねるような口調で文句を言う。

「だからって、相談くらいしてくれてもいいじゃないの?」
「相談しなかったのは、悪いと思うよ。でも、そんなに怒るなよ」
「「……」」

 トールはミリアリアの態度が不満なのか、言い終わる頃には明らかに怒りが含んだ口調になっていた。
 二人の間に挟まれたサイとカズイは、居心地悪そうな表情をしていた。
 
「おい、お前ら!飯が不味くなるから、やめてくれよ」
「す、すみません」
「……ごめんなさい」

 見兼ねたチャンドラ二世が、トールとミリアリアに文句の声を上げると、二人の怒りが萎んだのか静かになる。
 そんな様子に、マリューは自分の十代だった頃を思い出し、苦笑いを浮かべると、二人を諭すような感じで優しく言った。

「……後でゆっくり話すといいわ」
「「……はい」」

 トールとミリアリアは頷くと、サイとカズイは安堵の表情を浮かべた。
 それを見たパルは「やれやれ」と、言ったような表情をすると、マリューの方を向き口を開く。

「それよりも、ザフトが集結してるって、どう事なんですかね?」
「……さあ?分からないわ」
「流石にはっきりとした情報が無いからな……」

 首を横に振るマリューに同調するかのように、チャンドラ二世が料理をスプーンで突付きながら頷いた。
 これから行われる戦闘に関しては、あまりにも情報が少なすぎて予測を立てるのが困難だった。
 サイは、今、分かっている情報を確認するかのように、マリューに聞いてみる。

「でも、地球軍も艦隊を出してるんですよね?」
「ええ。でも、ザフト軍がわざわざ衛星軌道で戦闘を行う理由があると思えないのよ」
「あるとすれば、地球降下……地球の軍施設への攻撃ですかね?」
「……そんな事あるんですか?」

 マリューの言葉に、チャンドラ二世が自分の推測を言うと、カズイが信じられないとばかりに、驚いた表情を見せた。
 少し考えるような素振りをマリューは見せ、口を開く。

「……可能性として捨てきれないけれど、ザフトがそんなに急ぐ理由も無いと思うのよ」
「……ですよね」
「でも、今は何よりも、地球軍艦隊に合流する事が先決ね。食事、早く済ませちゃいましょう」

 チャンドラ二世が頷くと、気を取り直すかのようにマリューが全員を見渡しながら言った。
 その場に居た、全員が頷くと止まってた手を動かし始め、そう時間も掛からず食事を終わらした。
 全員が席を立ち、ブリッジへと向かう為、マリューを先頭に食堂を後にする。

「……ねえ、トール待って!」
「ミリアリア、なに?」

 最後尾を歩くミリアリアは、途中で前を歩くトールの手を掴んで立ち止まった。
 マリューは振り返ると、ミリアリアに声を掛ける。

「どうしたの?」
「あの……少しだけいいですか?」
「分かったわ。でも、急いでね」
「はい。ありがとうございます」

 事情を察して、マリューはトールとミリアリアを残して、先にブリッジに向かう。
 マリュー達が見えなくなると、ミリアリアはトールの手を離し、向かい合うと少し怒り気味に捲くし立てる。

「……トール、どうして訓練なんて受けるのよ。モビルスーツやモビルアーマーに乗りたいから?」
「……それもあるけどさ、キラだけに戦わせてばかりは嫌なんだよ」
「だからって!キラはコーディネイターで、トールはナチュラルなのよ!すぐに上手くなるわけ無いじゃない!」
「うん……フラガ大尉にも言われたよ。だから、一端になるまでは乗せないってさ。体力作りから始まったばっかり出し、まだ先の事だよ」

 トールは、以外にも穏やかに答えた。
 ミリアリアの言いたい事は分かっているかのように、トールは微笑む。
 いつも馬鹿な事をしている時のトールとは違う表情に、ミリアリアは泣きそうな表情になりながらも本心を伝える。

「……そうだとしても……私は、トールに危ない目に遭って欲しくないの……」
「俺は、キラだけにこの状況を背負わせたくないし、助けてやりたい。それに、俺、守りたい人が居るからさ……」

 トールは頷くと、ミリアリアを抱き寄せる。
 ミリアリアはトールの「守りたい人」と言うのが自分だと分かっているからこそ、今はそれ以上、何も言えなくなった。
 ミリアリアは、トールの腕の中で呟き、大切な人が傷つく事の無いように願う他無かった。

 地球連合軍プトレマイオス基地に向かっているザフト軍の艦隊はエンジンを止め、慣性航行でレーダーに掛からないように進んでいた。
 未だ、肉眼では地球軍基地は豆粒のようにしか確認出来ない。エンジンを稼動させ、最大船速で移動すれば、そう時間は掛からない距離にあった。
 奇襲部隊の旗艦であるヴェサリウスの格納庫では、出撃の為にイザークがブリッツに乗り込み、ハッチを閉める処だった。

「ったく、俺が先に出たいくらいだぜ!」
「落ち着け、ディアッカ!」

 ブリッツのコックピットに取り付いて、文句を言うディアッカをイザークが嗜める。
 ディアッカは、まだ言い足りないのか、少し拗ねたように口を開く。

「でも、衛星軌道上じゃ、そろそろ戦闘に入るんだろう?」
「作戦は聞いただろう。ガキじゃあるまいし、もう少しなんだ、我慢しろ!」
「ちぇっ!先に一人で出撃するからってさ……」
「文句なら、隊長に言え!コックピットを閉めるぞ!ディアッカ、いい加減、離れろ!」

 イラつき始めたイザークは、声を荒げて怒鳴った。
 ディアッカは時間を確かめると、「もう時間かよ」と言って、足でブリッツの装甲を軽く蹴り、慣性に任せながら離れる。ブリッツから離れると大声でイザークに声を掛ける。

「イザーク!俺が行くまで、のんびり隠れててくれ。見つかって、やられんじゃねえぞ!」
「当たり前だ!貴様こそ、落ちるなよ!」
「あいよ!」

 イザークの怒鳴り声にディアッカは、手を上げて答えると着地してパイロットルームへと引き上げて行った。
 ブリッツのコックピットを閉じるとモニターに格納庫が映し出される。
 再度、計器類のチェックを行い出撃準備が整うと、クルーゼからの通信が入った。

「イザーク、分かってると思うが失敗は許されん。頼んだぞ」
「――は!必ずや成功させて見せます!」

 頷くイザークにクルーゼは「期待しているぞ」と言って通信切った。
 イザークは、ブリッツをリニアカタパルトへと進ませ、少し経つと発進OKのシグナルが点る。
 
「――イザーク・ジュール!ブリッツ出るぞ!」

 イザークが叫ぶとブリッツは急激に加速し、ヴェサリウスから飛び出して行く。
 一度、バーニアを吹かし、更に加速を駆けると、イザークは隠蔽機構"ミラージュコロイド"を発動させる。
 機体の各所にある噴射口からガスのような物が噴出す。ブリッツは見る見るうちに闇へと溶けて行く。
 やがてブリッツの機体は完全に見えなくなり、肉眼やレーダーでも見つける事が出来なくなった。

 アークエンジェルの格納庫では、出撃を前にして整備兵達が各機動兵器のチェックの為に忙しく動いていた。
 その中、パイロットスーツ姿のキラは、ストライクのコックピットで友人達が組み上げてくれたプログラムをストライクに走らせているところだった。
 キラはモニターを見ながら、物凄い勢いでキーボードを叩いて行く。

「えっと、駆動系、クリア。武装プログラムっと……」

 時間が無い為、全部に目を通す事が出来ないのが不安だが、今はそんな事を言っている場合では無かった。
 キラはガン・ランチャーのテストを行う為、コックピットの中から、大声でマードックを呼ぶ。

「マードック軍曹!ガンランチャー、先に装備させてくれませんか?」
「分かった!待ってろ!」

 ストライクの足元で指示を出していたマードックは大声で答えると、床を蹴ってストライクのコックピットに取り付いた。
 マードックはコックピットを覗き込むと、確認する為にキラに声を掛ける。

「おい、坊主!出る時は、ガンランチャーにエール装備でいいんだな?」
「はい、お願いします!」

 キラはキーボードを叩きながら頷いた。
 一心不乱に作業を続けるキラを見ながら、マードックが真剣な表情を見せる。
 自分が言い出して始まった事なだけに、ストライクやキラの身に何かあれば自分の責任だと思い、心配するかのようにキラに声を掛ける。

「プログラム、行けそうか?」
「ええ。みんな、頑張ってくれましたから。多分、大丈夫だと思います。後は僕が調整するだけです」
「戦闘までに間に合うのか?」
「大丈夫です!間に合わせます!」

 キラは顔をコンソールの小型モニターに向けたまま答える。
 マードックは、キラから今までとは違う気迫を感じ取り、ニヤリと笑う。

「絶対、やられんじゃねえぞ」
「ええ。必ず帰って来ます」
「おう!頼んだぜ、坊主!」

 キラはモニターから顔を上げると、視線をマードックへと向けて頷いた。
 マードックも頷き、コックピットを離れると、ストライクにガンランチャーを装備させる為に大声で指示を飛ばした。
 その間もキラはキーボードを叩き続けるが、ふと、訓練でアムロからのアドバイスを思い出し、手を止めた。
 ――無駄な動きは命取りになる。今は、狙いも全てオートにしているだろうが、細かい狙いはマニュアルでコントロール出来るようになるのが理想だな。
 ――オートでは避けた相手を追う事しか出来ないが、細かい射撃が出来るようになれば、相手の動きを予測した箇所にピンポイントで撃ち込める。
 キラは、コンソールモニターから視線を外し、メインモニターに写るνガンダムへと視線を向けた。

「射撃か……。プログラムに手を入れてみるか……」

 キラは呟くと、目線をコンソールモニターへと向け、もう一つのプログラムを立ち上げる。
 戦闘で、少しでも自分が有利に立ち回る為に、やれる事はやって起きたかった。
 キラは、再びキーボードを叩き始めた。

 キラがストライクのコックピットでプログラムの調整を行っている頃、アムロも同様にνガンダムのコックピットで、整備のままなら無い愛機の調整を行っていた。
 モニターを見ながら各部の調整を行っていると、ムウのメビウス・ゼロから通信回線が入って来た。

「アムロ大尉!済まないが出る前に伝えておかなきゃいけない事があってさ」
「どうした?」
「艦長からの伝言。これ、秘匿回線だから、コックピット開いてるなら閉じてもらえる」
「分かった」

 アムロは何事かと思いながらコックピットを閉じると、ムウにその事を伝える。
 すると、少し間を置いて、マリューからの伝言の内容を伝える為に、ムウは少し真面目な感じで話し始めた。

「んじゃ、伝えるわ。……もしも、戦況が不利だったり、勝ったとして、軍に捕まると思ったなら離脱してくれて構わないって。これ、俺と艦長以外は知らないからさ」
「……いいのか?」
「ああ。それに俺も艦長と同じ意見だ。アムロには世話になってるしな。俺達だけで庇い切れるもんじゃないのも分かってる。νガンダムが無けりゃ、何とか成るんだろうけどさ。そうも行かないし」

 ムウは、いつも呼ぶようにアムロを「アムロ大尉」とは呼ばなかった。それは、ムウ自身、知り合って短いながらも、共にアークエンジェルを守って来た仲間だと思っている為だった。
 アムロは、いつしか必ず来る問題が来たかと思いながらも、ムウとマリューの気遣いに感謝と申し訳なさが入り混じった。

「……ムウ、済まない」
「いや、いいって!離脱したとしても恨まないさ。出来れば、最後まで一緒に戦って欲しいけどさ」
「ああ。出来る事なら」
「この戦闘が終わって、アークエンジェに戻った時に、アムロが居てくれる事を願うよ」
「……ありがとう。後は地球軍次第だが、期待に応えられるよう努力はするつもりだ」

 ムウの言うように、本当にアークエンジェルに残れればいいのかもしれないが、この世界の地球軍と言う組織が、異世界から来た自分をどう扱うかは分からない。
 アムロは、もしもの時の事も頭の片隅に留めて、軽く頷くと真剣な表情で答えた。

「まぁ、俺も、それまでに巧い言い訳でも考えとくさ。お互い、がんばりましょ。それじゃ!」

 ムウも分かってるとばかりに、おどけた感じで答えると、一方的に回線を切った。
 アムロはシートに体重を預けると、どうするのかを考え込む。
 そうしていると、νガンダムのコックピットカバーを叩く音が聞こえて来た。
 何だと思い、モニターのスイッチを入れると、マードックが軍用の小型バッグを片手持って、開いている手でノックしていた。
 アムロがハッチを開けると、マードックはコックピットの中に入って来る。

「いいですか、大尉さん」
「なんだ、マードック?」
「これ、水と食料です。レーションですが、一週間分入れてあります。推進剤も満タンになってます」

 マードックは持っていた軍用の小型バッグをアムロへ差し出した。
 アムロは頷き、バッグを受け取ると、マードックは再び口を開き言葉を続ける。

「後、予備の酸素や推進剤は、フィン・ファンネルにワイヤーで括り付けて、用意しときますから、離脱する場合は忘れないでください」
「……ああ。気を使って貰って、本当に済まない」
「……俺としては、あんたがこのまま居てくれて、これが役に立たない事を願いますよ。無事に会えたら、酒でも一杯やりましょう」

 アムロは感謝の言葉を口にすると、マードックはアムロが受け取ったバッグを指差して笑いながら言った。
 マードックを見据えながらアムロが頷くと、マードックはコックピットを後にした。
 戦闘宙域まで、二、三十分と言った距離まで近づいていた。

 地球衛星軌道に到着した地球連合軍第八艦隊は、集結しているザフト軍を確認し、すぐに警告を発したが、案の定、ザフト軍は警告を無視し、近づくなら攻撃のをすると返答を返して来た。
 それに伴い、地球連合軍第八艦隊、旗艦メネラオスのブリッジでは、ハルバートンの戦闘の号令が、今、まさに発せられる処だった。

「――艦対戦用意!」
「――艦対戦用意!各艦、砲門開け!第一次攻撃部隊のメビウス、出撃せよ!」

 ハルバートンの号令を繰り返すように、ホフマンが指示を出して行く。
 地球連合軍第八艦隊の艦船はタイミングを合わせたかのように動き始めた。
 地球軍艦艇からメビウスが次々に発進して行く。
 
「――敵の動きはどうか?」
「敵艦よりモビルスーツ出てきます!――距離千五百!」
「まだ、相手の砲撃が届かん距離だ。慌てる必要はない!メビウスは両翼にも展開させろ!」
「敵モビルスーツ、識別!ジン、十!」

 ハルバートンは、CICに座るオペレーターに報告のを受けると頷いた。
 ザフト軍艦艇は数こそ、第八艦隊に比べれば若干少ない程度で、出撃して来るであろうモビルスーツの数が、艦の数からも明らかに少なすぎた。
 ホフマンは、ハルバートンの思った事を代弁するかのように、思った事を口にした。

「先鋒で十機……少ないですな」
「これから出てくる!抜かるなよ!」

 ハルバートンは頷くと、第八艦隊の将兵達に気合を入れるかの如く、声を張り上げた。
 今、ここに地球衛星軌道での戦闘が幕を開ける事となった。

 ザフト軍は予定通り、地球軍艦隊の警告を無視した事で外では既に戦闘が始まっていた。
 第二次攻撃部隊に組み込まれたアスランは、イージスの暗いコックピットの中で出撃を待っている。
 その間にも、アスランの頭の中では色々な事が思い出されていた。
 ――アスラン、僕達を追わないで!君と戦いたくないんだ。
 ――辛そうな、お顔ですのね……。
 ――そんなのおかしい……おかしいわよ……。友達なんでしょう……どうして戦わなくちゃいけないのよ!?
 ――でも、同じコーディネイターで……敵になってる人がいるくらいなんですよ……。言って分からない相手なら、倒すしかないじゃないですか!
 
「ラクス……フレイ……俺は……俺達は、本当にこれでいいのか……?」

 アスランは、辛そうな表情で、今では死んでしまったかもしれない婚約者と、初めて友達となったナチュラルの少女の名前を口にした。
 勿論、シルバーウインドを攻撃した地球軍は憎い。しかし、元々、ラクスが聞けば喜ばないであろう、このような戦いに、アスラン自身、意義を見出してはいなかった。
 だが、プラントを守るザフト軍兵士として、戦わなければならない。戦い続けると言う事は、また何れ、キラとも戦わなければならないと言う事だった。
 そして、そのキラは、ラクスを殺した地球軍に組しているが、アスラン自身、キラはそんな奴じゃないと思いながらも、地球軍にいる以上、倒さなければならない敵である事に間違いはなかった。
 複雑に絡み合った想いや事実がアスランを苦しめていた。
 そんな中、イージスのコックピットに通信回線が入る。

「アスラン・ザラ、いるか?」
「……ユウキ隊長!?……どうしたんですか?」
「いや……本来なら、戦闘中に私的な通信使用は禁止なのだが、君の事が心配になってな」
「――あ、ありがとうございます!」

 アスランはスピーカーから聞こえて来る、ユウキの声に驚きを隠せなかった。
 自らの教官であったユウキは、本人の言う通り、生真面目で作戦行動中に私用がで通信を入れて来るような人間ではない。
 裏を返せば、心配しなければならない程、今のアスランの状態は回りからすれば酷いと言う事だった。

「君の婚約者の事を考えれば、精神的にもきつかろう……。本来なら、出撃させるべきではないと思うが、そうも言ってられん状況でな……」
「……いいえ。……私も……ザフトの兵士ですから」
「……そうか。地球軍が憎いだろうが、憎しみだけで戦うな」
「……はい」

 アスランは、ユウキに気に掛けて貰い恐縮しながらも、ラクスやキラの事が頭から離れないのか、あまり元気の無い声で返事をした。
 その様子に業を煮やしたのか、イージスのコックピットにユウキは怒りの声が響く。

「――アスラン・ザラ!そのような府抜けた態度では、貴様も死ぬ事になるぞ!」
「――!も、申し訳ありません!」

 突然の怒鳴り声にアスランは、慌てたように背筋を伸ばす。
 ユウキが声を荒げるような態度に出る事は、訓練校時代ならいざ知らず、余程の事が無い限り有り得ない。
 ユウキは、アスランに対して気合を入れるかのように言葉を続けた。

「戦う意思が有るのなら、そのような顔は二度と見せるな!」
「――はい!」
「分かっているとは思うが、既に先発のモビルスーツ隊は戦闘に入った。必ず生き残り、ラクス・クライン嬢の分まで生きろ!いいな!」
「――は!」

 アスランはユウキに怒られ、自分がいかに弱かったかを実感する。今は軍の作戦行動中なのだ。ユウキが怒るのも無理はない。
 通信が切れるとヘルメットを脱ぎ、両手で気合を入れるように両頬を打った。
 余程、自分が許せなかったのか、両頬をかなり強打したらしく、顔を下に向けた顔を抱えるようにしながら、唸り声を上げる。

「――っ!」
「アスラン、僕達も出撃で――。……唸り声……ですか?アスラン、どうしたんですか?何かあったんですか?」

 丁度、その時、ニコルからの通信が入る。
 ニコルは、アスランの唸り声をまともに聞いてしまったらしく、心配のあまり呼びかけの声を出していた。
 アスランは下を向いたまま「……いや、何でもない」と返事をする。

「……そう、ですか。……アスラン、さっきは言い過ぎました……。ラクスさんが居なくなって、一番辛いのはアスランなのに……」

 ニコルは合流した時に話した事を気にして、申し訳なさそうな声で謝罪をして来た。
 アスランは痛みから復活したのか、ヘルメットを被りながら答える。

「……いや、気にしていない。今は、この作戦に集中しよう」
「……はい。必ず成功させましょう」

 ニコルが頷くと、アスランはイージスをリニア・カタパルトへと移動させる。
 カタパルトの向こうでは、ビームや爆発の光りが見て取れた。
 アスランは、軽く深呼吸をすると、出撃確認の為の声を上げる。

「――アスラン・ザラ、出る!」

 アスランの声と共に、イージスが勢い良く射出され閃光が瞬く戦場へと消えて行った。