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CCA-Seed_98 ◆TSElPlu4zM氏_第20話_中編

Last-modified: 2007-11-10 (土) 18:18:39

地球衛星軌道上で地球軍第八艦隊との戦いを終えたユウキ率いるザフト軍艦隊は、アスランの暴走で多数の犠牲者を出しながらも、第八艦隊自体がアークエンジェルの守りに回った事で、難なく離脱する事が出来た。
 実質的な被害も、臨時編成の部隊ながら被害予想こそ下回ってはいたが、中には複座式の機体なども混ざって戦闘に参加していた為、機数に比べると人的被害は以外に多い。
 しかし、クルーゼ率いる艦隊が地球軍プトレマイオス基地への奇襲を成功させた事で、艦隊の各員に悲壮感は見受ける事は無かった。
 その中、問題の命令無視を犯したアスランは、帰艦後、出頭する様に命令が出され、今、正に隊長室に居るユウキの元を訪れようとしていた。

「――アスラン・ザラ、入ります」

 隊長室の扉が開くとアスランは、隊長室へと一歩踏み込むとユウキに敬礼をして、その場で背筋を伸ばした。
 ユウキは椅子に座ったまま、アスランの方に体を向けると、厳しい目付きで口を開いた。

「……アスラン・ザラ、どうして呼ばれたかは分かっているだろうな?」
「……はい。この度は申し訳ありませんでした……」
「分かっているのなら、何故、あの様な行動を取った?」
「……それは……」
「ラクス・クラインの為か?だとしても軍人として許される行為ではないぞ!一つ間違えれば、全滅していてもおかしくはないのだぞ!分かっているか貴様は?」

 命令無視を行った理由を問われ、アスランは友達であるキラが原因だとは言えず、ユウキから目を背けながら言葉を濁した。
 事情を知らないユウキは、その原因は婚約者であるラクス・クラインに有ると勘違いをしていた。しかし、その後に続け出て来る言葉は、軍人として、しては成らぬ一線を越えてしまった事を実感させた。

「――!……はい。私は軍人として、しては成らぬ行動を取りました。……どんな処分も受けるつもりです」
「……ほう、潔い覚悟だな。本来なら、ニコル・アマルフィも貴様の隣に立たせているとこだ」
「――ニコルは……、私を止めようとしただけです」
「……本当か?庇っている訳ではあるまいな?」
「はい。先程言った通り、ニコルは私を止めに来ただけです」

 自分の行動を止めようとしたニコルが、同罪扱いとして見られていたのをアスランは必死に弁明し、自分の単独行動であると主張した。
 ユウキにとって、自らの教え子でもあるニコルの行動を過去と照らし合わせて考えてみれば、確かにアスランの言う様に止めに入ったと思うのが妥当だった。
 納得した様にユウキは頷いて席を立ち、アスランの前に向かう。

「……分かった、信じよう。貴様の独断行動が原因でニコルは負傷したと言う事だな。他にも戦死者まで出している。分かっているのか?」
「……はい」
「なら、歯を食いしばれ。修正してやる」
「――は!」

 アスランは手を後ろ手で組むと歯を食いしばり、両脚を踏ん張る様に力を入れ背筋を伸ばす。
 ユウキは、思い切り腕を振りかぶると、力一杯にアスランを頬を殴った。

「――うっ!……申し訳……ありませんでした……」

 殴られたアスランは、踏ん張っていた為に倒れる事は無かったが、口の中に血の味が広がった。口の端から流れる血を拭うと、すぐに背筋を伸ばす。
 ユウキは、厳しい視線を向けながら命令口調でアスランに怒鳴る。

「二度とこの様な真似をするな!本国に戻るまで貴様は謹慎していろ!処分は本国にて下される事となる。分かったな!」
「――は!アスラン・ザラ、謹慎に入ります!」

 ユウキの言葉にアスランは敬礼をすると、踵を返して隊長室を出て行こうとするが、扉が開いた所で歩を止めた。

「……あっ!」
「……なんだ?」

 席に戻ろうとしていたユウキは振り返ると、アスランに声を掛けた。
 アスランもユウキの方に体を向けると、躊躇いがちに言う。

「あ、申し訳ありません。……ニコルの様態が気になった物で……」
「知りたいのか?」
「……はい。ニコル……いえ、私は隊の全員に迷惑を掛けてしまいましたから……」
「……全員の様態を私が知ってると思うのか?」
「……いいえ」

 当たり前だが、艦隊の司令官が全員の事まで知る訳がない。ユウキはアスランに対して、少し呆れた表情で言った。
 アスランもそれは分かっていたが、自分の行動が原因で怪我を負ったニコルの様態を気にかけていた。
 ユウキは、アスランの表情がいかにも心配している様だったのを見て、息を吐くと腰に手を当てながら答える。

「……ニコルは呼ぶつもりでいたからな……。いいだろう、教えておく。顔に裂傷を負ったそうだ」
「――ニコルは大丈夫なんですか!?」
「命に別状はない。貴様の独断行動で迷惑を被ったのはニコルだけでは無いのだぞ。肝に銘じておけ」
「……はい。ご迷惑をお掛けしました。失礼します!」

 アスランは神妙な表情で頭を下げると、踵を返して部屋を出て行った。
 ユウキは椅子に腰を下ろすと、背もたれに体を預けて疲れた表情で大きく溜息を吐く。

「ふぅ……全く……。しかし……アスラン・ザラがあの様な行動を取るとはな……。私の兵士教育が甘かった……か、クルーゼに問題が有ったと言う事なのか?何であれ、由々しき事だ……」

 アスランの命令無視の原因が、婚約者であるラクス・クラインにあると思っているユウキは、人間としては分からないでも無いと少しだけ同情をするが、しかし、そんな個人の感情のみで動かれては堪った物では無い。
 自分自身、その様に教育した憶えも無い為、自分が指導が甘かったのかと反省をしながらも、軍のあり方を考えた。
 ユウキはコンピュータの端末を立ち上げると、緊急報告用の書類を作り始めた。

 アークエンジェルの医務室では、アムロとムウが気を失ったキラに出来うる限りの治療を施し終えていた。
 キラは、未だ苦しそうな表情でベッドに体を横たえ、その傍ではラクスが椅子に座り、心配そうな表情で見つめながら、寝ている少年の名を呟いた。

「……キラ……」

 ラクスは、アムロとムウがキラに治療を施している間、何も出来ずにただ見守る事しか出来なかった。
 アムロはタオルで手を拭くと、寝ているキラから、額を拭うムウへと視線を移した。

「――俺達に出来るのは、ここまでか……。後は水分を多く取らせるしかないな」
「――ふぅ。きっと、熱中症みたいなもんだろ?体を冷やすのが一番だしな。あれだけの熱に当てられて、脱水症状と発熱だけで済んだんだ、運が良い方だぜ」
「ああ。恐らく、大気圏突入の操作手順を踏む暇さえ無かったんだろう」
「ちゃんとした医者がいりゃいいんだが、それすら今のアークエンジェルには居ないからな……ったく」

 ムウの吐く言葉は事実で、今のアークエンジェルには軍医すら乗っていない。その為、キラに施せる治療は、熱を下げる為の投薬と医療マニュアルに書いてあった分かりうる限りの対処法でしかなかった。
 アムロはタオルを使用済みを示すダストボックスへと放り込むと、眉を寄せながら口を開く。

「キラはこれだけで済んだがいいが、これから先、怪我人が出れば、とんでも無い事になるぞ」
「だよな……。せめて、軍医くらい補給と一緒に入れろってんだよ!まぁ、済んじまった事言っても仕方ないけどさ」
「……こうしていても仕方がない。俺達は着替えて来るが、ラクス・クライン、キラを任せてしまって構わないか?」

 ムウは頭を掻き毟ると、お手上げだとばかりに両手を上げた。
 アムロも現状を嘆いても仕方ないとばかりに、ムウへと頷くと、ラクスに声を掛けた。

「――あ、はい!」
「お姫さん、ブリッジの方にはキラの事を伝えておいた。あと、禁止区域に入ったのは黙っといたから、安心して構わない。何か聞かれたら、俺が指示したとか言っとけばいいから。んじゃ、キラの事、頼んだぜ」
「はい、ありがとうございます」

 ムウの言葉にラクスは頭を下げると、すぐにキラへと視線を向ける。
 アムロとムウは、寝ているキラと、それを見守るラクスに一度だけ目線を向けると、そのまま医務室を出て行った。
 ラクスは、キラの顔に浮かんだ汗を優しくタオルを当て拭いて行く。

「……ハァ……ハァ……うああぁ…うぅぅ………」
「……もう、戦いは終わったのです……早く良くなってください……」
「……うっぅぅ……ぼ……くじゃ……ア……スラ……ンには……てな……」
「――えっ!?」
「……ハァハァ……」
「……どうして、キラが……?」

 ラクスはキラの口から婚約者であるアスランの名が出て来たのに驚く。しかし、もしかしたら違うアスランと言う人なのかもしれない。
 戸惑いを憶えつつも、キラの看病に集中しようするラクスは、キラの手に自らの手を重ね合わせた。
 無意識なのだろう、寝ているキラは重ね合ったラクスの手を握ると、苦しそうな息を吐きながらも、その表情は譫言を漏らしている時とは比べ様の無いくらい、穏やかな物だった。
 そうしていると、空気の抜ける音と共に医務室の扉が開き、ミリアリアとトールが顔を覗かせた。

「あれ、ラクス?」
「……ミリアリア……」
「どうして、ここに?」
「えーっとですね、フラガ大尉とアムロ大尉にキラ事を看病をするようにと……」

 ミリアリアと共に医務室に入って来たトールが、ラクスに声を掛けた。
 ラクスは、ムウに言われた事を思い出し、空いている手を頬に当てながら答えると、ミリアリアは、キラの手を握るラクスを見ながら頷く。

「……そうなんだ。それで、キラの様子はどうなの?」
「はい……今は、熱を出して寝ています」
「少し苦しそうだな……」
「……脱水症状が酷いらしいです」

 トールはキラの顔を覗き込むと、心配そうな表情を見せる。すると、ラクスは呟く様に病状を口にした。
 ミリアリアはキラを見詰めながらも、眉を顰めて口を開いた。

「……モビルスーツで大気圏突入しちゃって、アークエンジェルが助けなかったら、今頃、死んでたかもしれないんだもんね……」
「……そうだな」
「……あの、どうしてキラはモビルスーツで大気圏突入なんて無理な事を……?」

 ラクスはミリアリアの話を聞き、キラが何故、そこまでしなければならなかったのかと驚きをながら二人を見詰めた。
 トールは少し苦い表情を浮かべると、壁に背中を預け、どうしてそうなったのかをラクスに話し始めた。

「帰艦の時にイージスに絡まれてさ、盾代わりに成ってた補給艦の爆発に巻き込まれて、そのまま大気圏に突入したんだ」
「……キラ……怖かったでしょうね……」

 ラクスはイージスにアスランが乗っている事など知るはずも無い。戦争だから仕方ないとは言え、キラが体験した事を想像すれば恐ろしい目に遭った事を容易に想像出来た。ラクスの握る白い手に少しだけ力が篭る。
 ミリアリアが、躊躇いがちにトールへと顔を向けた。

「……ねえ、トール」
「ミリアリア、なに?」
「……やっぱり、パイロット辞めて……危ないよ……」
「……パイロット?ですの?」
「ああ、俺、正式にモビルアーマーのパイロット要員になったんだ。今はまだ、フラガ少佐の許可が無いから乗れないんだけどさ。だから、こうしてブリッジ追い出されて、ここに来てるのさ」

 ミリアリアからトールへと向けられた言葉を耳にしたラクスが、きょとんとした表情で小首を傾げた。
 トールは少し恥ずかしそうにしながら、頭を掻きながらラクスに答えると、今度は真面目な表情でミリアリアへと顔を向けて言う。

「……ミリアリア、ゴメン。それだけは、ミリィのお願いでも聞けない……」
「……どうしてよ……。……うっ……キラがこんな目に遭ってるのに……トールの馬鹿!」
「ミリアリア!」

 トールの言葉を聞いたミリアリアは俯いて涙を溜め、怒鳴り声を上げると走って医務室を出て行った。
 それを見たトールは、慌ててミリアリアの名を呼ぶが、戻って来る事は無かった。

「……きっと、ミリアリアは不安なんです。だから、追いかけてあげてください。キラは私が見ていますから……」
「……うん、ありがとう。キラの事、頼むよ」

 ただ呆然と立ち尽くすトールに、ラクスはキラの手を握ったまま優しく声を掛けた。

 トールはラクスの声に我を思い出し、頷いてミリアリアを追う為に医務室を飛び出して行った。
 二人だけになった医務室には、寝息が聞こえていた。
 ラクスはキラが握る自分の手に空いていた手を添えて優しく包み込む。そして、優しくも温かな歌声が静かに流れるのだった。

 ナタルは片手に地球軍の身分証明書、IDカード等一式を携え、パイロットルームの扉の前に立っていた。
 未だアークエンジェルは降下中にも関わらず、ブリッジを離れてここまで来なければ成らない理由は、その手に持っている物をアムロに渡す為だった。
 ナタルは扉を開く為にスイッチを押すと、空気が抜ける音と共に扉が横へとスライドする。

「失礼しま――!」

 開いた扉の向こう側には、シャワーを浴びた直後なのか、水滴が体に付いた裸の状態のムウとアムロが着替えをしようとしている所だった。
 男性の裸に免疫が無いのか、ナタルは口をパクパクさせながら顔を赤らめる。それはまるで水面で酸素を吸う金魚の様にも見えた。

「ん、なんだ?……男の裸、覗きに来たのか?」
「――ち、違います!し、失礼しましたっ!」

 ムウが開いた扉に目を向けると、茶化す様な口調でニヤリと笑う。それを見たナタルは、我に返ると慌てながらスイッチを押して、扉を閉じた。
 シャワーを浴びる為に裸を晒す事は当たり前で有る訳で、ましてや軍隊ならば共同生活を強いられるのだから、この様な状況での羞恥心などは無いに等しい。
 そう言う意味では、ナタルの男性への免疫の無さは驚きに値する。
 アムロはムウに向かって苦笑いを浮かべる。

「……ムウ、茶化す事は無いんじゃないか?」
「いやぁ、ハッハハ!それにしても、うちの副長さんは男にえらく免疫が無い様子だな、ありゃ」
「まぁ、だとしても彼女も大人なんだ、男の裸の一つや二つ、見た経験があるだろう」

「だとしても、あの様子だからなぁ?そう言うアムロはどうなのさ?向こうじゃ、エースだったんだろ?かなりモテたんじゃないか?」
「それは、それなりに。としか、答えようが無いな。ムウはどうなんだ?」
「俺か?……んー、俺はこう見えても結構、純情なんだぜ!なーんっつてな!」
「それなら、俺もムウを見習わせてもらおう」

 戦闘も終わり緊張が解けた事で、アムロとムウは冗談も含めながらも、いかにも男性らしい会話に花を咲かせる。
 そうしていると、扉からノックをする音とナタルの声が聞こえた。

「……あ、あのぉ、着替えは終わりましたでしょうか……?」
「おっと!流石に待たせるのは不味いな。ちょっと待っててくれ!何言われるか分からんし、着替えちまおうぜ」
「そうだな」

 ムウが笑いを浮かべながら言うと、アムロは頷き、すぐに二人は着替えを始めた。
 着替え自体は、そう時間が掛かる訳でも無く、二、三分程で終えると、ムウが扉のスイッチを押し、外で待つナタルを中へ入る様にと促す。

「お待たせしました。さあ、どうぞどうぞ!」
「……し、失礼します……。先程は……失礼しました……」
「いや、気にする程の事でも無いさ」

 顔を赤らめ、俯き加減にパイロットルームに足を踏み入れたナタルは、男性二人の顔をチラチラと見ながら見ながら、恥ずかしそうに扉を開けてしまった事を謝ると、アムロは首を横に振って答えた。
 アークエンジェルが地上に向けて降下中にも関わらず、副長がここに赴く事を疑問に思ったムウがナタルに問いかけた。

「それで、一体、こんなとこに何の用だ?」
「あ、はい。アムロ大尉にこれをお渡しする為です」
「もう出来たのか。早いな」

 ナタルは思い出したかの様に手に持っていた、アムロの身分証一式を差し出した。
 アムロはこんなに早く手元に届くとは思わなかったのか、対応の早さに驚きながらも、ナタルから身分証一式を受け取った。
 そして、ナタルはアムロの疑問に答えるかの様に頷く。

「ええ。私とハルバートン閣下の話を耳にした者達がアムロ大尉が何者なのかと言い出しまして……。それで、艦長が早急に作る様にと……。状況が状況と言え、私も迂闊でした……」
「ハルバートン准将との接見前に、そんな事を言ってたな……。済まない、迷惑を掛けた」
「いいえ!そんな事はありません」

 アムロは戦闘の合間を見て行われたナタルとの通信での遣り取りを思い出し、彼女や動いてくれなければ、今、こうして居られる事も無かったかもしれない。
 感謝と苦労を掛けた礼を込めて、アムロはナタルに頭を下げた。
 ナタルは、アムロ自分に頭を下げるのを見て慌てた様に首を振って応えながらも、彼の役に立てた事が嬉しいのか、少し頬を緩ませた。
 その遣り取りを見ていたムウが、アムロの事を疑った者達に呆れたのか、まだ完全に乾き切らない髪をタオルで拭きながら言う。

「しっかし、ここまで一緒にやって来たってのに、何、疑ってんだかな……」
「だが、冷静に考えて見れば、疑問を持っても仕方がないさ。それで乗組員達にはどんな言い訳を?」
「一応、モルゲンレーテから派遣と言う形で、極秘裏な協定により正規の地球連合軍大尉扱いとなっていると言ってあります」
「分かった。ハルバートン准将からも、地球連合の軍人を名乗る事の許可を貰っているから、何とか成るだろう」
「なら、問題無いな。なんか言ったら俺が黙らせるさ。まぁ、階級なんて下に言う事利かせる為に有る様なもんだからな」

 ハルバートン自ら、アムロに許可を与えた事を知ると、ムウは納得しながら頷いて、タオルを籠へと投げた。
 ナタルは投げられたタオルを目で追いながら、話を続ける為に口を開くと、タオルは籠の中へと見事に納まった。