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CCA-Seed_98 ◆TSElPlu4zM氏_第22話_後編

Last-modified: 2008-05-11 (日) 03:27:53

闇に光が走り、時折、激しく花火の様に光が散って行く。その光景をバルドフェルドは砂丘の頂で聞こえて来る爆音を感じながら眺め続けていた。
 敵である地球連合軍所属艦アークエンジェルは、バルドフェルドの予想を遥かに上回る戦いを見せていた。
 既に開戦当初に投入した攻撃ヘリ部隊を全滅させられ、虎の子のバクゥさえも一機撃墜されていて、圧しているとは言い難い。
 敵とて、ラウ・ル・クルーゼ、レイ・ユウキが指揮する艦隊の追撃を振り切って生き残って来た艦なのだから、バルドフェルド自信、アークエンジェルの事を侮っていた訳では無かった。
 ただ、彼にとって予想外だった事は、果たしてどの様な人間が乗っているのか分からないが、モビルスーツの戦闘能力、そして火器の威力が非常に高い事だった。その所為で、当初は戦力を見るだけのつもりが、予定を変更せざるおうなかった。
 そして、もう一つ、見た事が無いモビルアーマーが、隊の母艦であるレセップスの有る方角に飛び去って行った事だった。もしかするとと言う、有り得なくも無い可能性が頭の中で一層、強まる。
 そうして居ると、後方から聞き慣れた駆動音が聞こえて来て振り返った。そこには派手なオレンジ色をしたバクゥに似た機体、TMF/A−八〇三“ラゴゥ”が近付いて来た。
 ラゴゥは、バクゥの上位機種に当たる指揮官用陸戦型MSであり、基本構造はバクゥと酷似しているが、機体サイズ、出力共に大型化しており、各センサー等も高精度で新型の物に変更されている。

「お、来たか」

 バルドフェルドは目を細めると、ラゴゥが砂を巻き上げて停止する。そしてコックピットが上がり、中から淡いピンク色のパイロットスーツに身を包んだ女性が顔を出した。

「アンディ、お待たせ!」

 顔を出した女性――アイシャはヘルメットをまだ被っておらず、その艶やかな長い黒髪の両サイドに入った金のメッシュが暗闇に一層、際立って見え、その雰囲気は猫を想像させる。
 アイシャは砲手専用の前部シートに身を移してラダーを下ろし、バルドフェルドを引き上げる。

「アイシャ、済まないな。今度の相手は、このところの退屈を吹き飛ばしてそうだ」

 バルドフェルドはアイシャの手を借りてラゴゥの後部シートに身を滑らすと、彼女にキスをして言った。
 二人が乗ったラゴゥのコックピットは前席に砲手、後席にメインパイロットが乗り込む複座式と成っている。
 この機体は役目を分ける事で、バクゥよりも機動力・射撃特性を活かす事ができ、遠距離では装備された二連装ビームキャノンによる砲撃、近距離ではクローと口に咥えられたビームサーベルによる二段構えの攻撃を可能としていた。

「フフッ。アンディ、嬉しそうね」
「ああ、嬉しいさ。ドキドキするねぇ」

 アイシャが艶やかな笑みを零すと、バルドフェルドは満足そうな表情で応えて着ていたコートを下に放り投げた。
 ダコスタは慌てて落ちて来たコートを受け止めると、ラゴゥを見上げながら両手をメガホンの様にして大声でバルドフェルドに呼びかける。

「隊長、本当に出られるんですかー?」
「ああ。後の事は任せるぞ」
「了解しましたー!」

 バルドフェルドは計器のチェックをしながら言うと、ダコスタは大声で答えた。その様子をアイシャはクスクスと楽しそうに笑う。
 ラゴゥは異常も無く、コンディションも上々の状態で計器のチェックを終えたバルドフェルドが、まるでこれからドライブに行くかの様な軽やかな口調で告げる。

「さて、僕らも行こうか、アイシャ」
「ええ、アンディ」

 アイシャは軽く微笑んでヘルメットを被るとシートに座る。
 バルドフェルドはコックピットを閉じて、アイドリング状態のエンジンを唸らせる。その音はまるで飢えた獣が威嚇する唸り声の様に聞こえた。

 闇の砂漠を四肢の獣の影がが縦横無尽に駆け回る。獣は獲物を狩る為に集団で襲い掛かる姿は、まるでハイエナを連想させた。
 取り囲まれたストライクは、四機のバクゥ相手に大苦戦を強いられていた。

「――くっ!……動きに付いて行けない……どうすれば……」

 持ち前の動体視力ではバクゥの動きを捉え切れているのだが、足場が悪い事でまともに動く事が出来ず、ストライクは半分以下の性能も出し切れてはいなかった。
 体の痛みも有るが既にそんな事を気にしている余裕すら無く、ヘルメットの下のキラの額を汗が流れ落ちる。

「――キラ、動き回るんだ!」

 スピーカーを通して、ストライクのコックピットにはアムロの声が響いた。
 キラにはアムロの言葉が、まともに動く事の出来ないストライクにどうやって動けと言うのか分からず、焦りも有って怒鳴る様に言う。
 
「――でも、どうやって動けって言うんですか!?」
「バーニアを使って跳び上がれ!着地のタイミングに注意しろ!こちらから援護をする、動き回れ!」
「モビルスーツで跳び回るの!?……僕に出来るの!?」

 キラは動き回るバクゥに注意を払いながらも、アムロのアドバイスに困惑した表情を浮かべた。
 その時、レーダーに新しい反応が現れる。

「――増援か!?」

 νガンダムのコックピットでも、その新たな反応を捉えアムロは顔を顰めた。
 その数は一つだが、今のストライクには脅威でしかない。

「――やるしかない!アムロさん、援護、お願いします!」

 キラは歯軋りをすると、そう言ってストライクのバーニアを噴かすと後方へとジャンプさせた。ストライクは高く舞い上がり、バクゥを下に見ながら引き離す事に成功する。
 それは、一機目のバクゥを撃破した時も同じ様な戦法を取ったのをキラは思い出すと、敵の動きが良く見える様に成り、先程まで自分に余裕が無かった事を悟った。

「――これなら狙える!当たれ!」

 キラは空中でバクゥを狙うとトリガーを引いた。が、バクゥは横に跳ぶ様に避ける。
 しかし、狙撃をするアムロに取っては、それが狙い目だった。

「――そこだ!」

 アムロは一気にトリガーを引くと、アグニから発射されたビームがバクゥの横っ腹に直撃し、装甲を溶かすと爆発させた。
 その様子を見たキラは、自分が師事するアムロの凄さを思い知った気がした。

「……凄い!……でも、これなら僕でも戦える!僕も、僕の役目をしなくちゃ!……着地まで……三、二、一、今だ!」

 キラはタイミングを計りながら着地する直前に軽くバーニアを噴かして機体を安定させる。そして、不安定な砂地を蹴って、再びバーニアを噴かしながら前方へと高く跳び上がった。
 再びアムロの声がコックピットに響く。

「キラ、突出し過ぎるな!動きが単調に成らない様に気をつけろ!」
「分かりました!」

 キラは返事をすると着地体勢へと入り、νガンダムからの砲撃がバクゥ達を牽制する。
 バクゥが砲撃を逃れる中、ストライクは着地すると砂丘の形を利用して、今度は敵から離れる様に横へと跳んだ。
 ストライクを逃すまいとバクゥはミサイルを発射するが、キラは空中で機体の向きを変え、追いかけて来るバクゥが放ったミサイルへとイーゲルシュテルンを放ち撃ち落として、着地。そして、また跳び上がった。

「――そこだ!」

 バクゥの群れにνガンダムからの攻撃が襲い掛かると、その中の一機が急旋回をしてビームを回避しようとする。キラはそれを見逃す事無く、ジャンプしながらビームライフルを向けると見事に撃破した。
 その光景を見たバルドフェルドは顔を顰めるが、その口調は悔しさよりも喜びを感じさせる様に聞こえた。

「……何て事に成ってるんだか。戦闘ヘリ、バクゥ、それぞれ三機ずつ撃破されるとはね。敵とは言え、全く良い連携してるねぇ」
「アンディ、嬉しそうね。……それで、どうするの?」
「フフッ。狙撃している方を黙らせんと全滅しかねんな。かと言って、尻尾を巻いて逃げるのもつまらんからね。せめて、楽しむ為にも逃げれん様に足止め位はしとくさ。――ストライクは任せるぞ!やられん程度に動け!」

 アイシャは軽く言うと、バルドフェルドはアークエンジェルの甲板上でアグニを構えるνガンダムへと目を向けて言った。
 命令を聞いた残り二機となったのバクゥのパイロットは、それぞれ「――了解!」と応え、目の前のストライクを落とす事に専念する。

「さあ、楽しませてくれよ!」

 バルドフェルドはνガンダムに向かって挑戦的な笑みを零すと、ラゴゥをアークエンジェルへと向けて疾走させた。
 アムロはストライクの援護をしつつも、ラゴゥが接近して来るのを察知して顔を向ける。

「――来る!?あの四つ足、直接アークエンジェルを狙うつもりか!?」

 νガンダムとアークエンジェルは、砂を巻き上げながら向かって来るラゴゥに対して迎撃を開始する。
 バルドフェルドは飛んで来るミサイルを攻撃を巧みに回避しながらアークエンジェルに取り付こうとするが、そう簡単に行かず、一気に近付こうとした所をビームが襲い掛かって来た。

「――っ!」

 バルドフェルドは寸での所で機体を捻る様にして回避するが、ラゴゥの装甲には見事に焼き焦げた跡が付いていた。
 コンソールモニターには装甲にダメージを示す表示が出ると、バルドフェルドは汗を浮かべ嬉しそうな表情を浮かべて言う。

「……思った通り、良い腕してるじゃないか!」
「……ラゴゥの装甲を焦がすなんて……アンディ、熱くならないでね!」
「ああ、分かってる!だが、地球に来て、これだけの相手に逢えるとは嬉しい限りだよ!後ろに回り込むぞ!」
 アイシャもνガンダムを脅威に感じ叱る様に言うと、バルドフェルドは一瞬、唸るが、すぐに喜々として答えるとラゴゥをアークエンジェルの後方に着ける為に大きく回避し、回り込む様に加速し始めた。

「――まずい!後ろに回り込むつもりか!?」

 加速するラゴゥに向かって、アムロはアグニを放ちながら叫んだ。
 アークエンジェルの後方は守りが手薄で、取り付かれれば一溜まりも無い。しかも、この位置で後方に向かえばストライクの援護すら出来なく成る。
 今、白い大天使に最大の危機が訪れようとしていた。

 アークエンジェルの居住区には、外で行われている戦闘の爆音が時折響いて来ていた。その中、医務室の開いた扉からは少女の嗚咽が聞こえていた。
 一人取り残されたラクスは、つい先程まで少年が寝ていたベッドに腰を掛け、目を真っ赤にして涙を零していた。

「……うっぅ……うっ――あぅ!」

 ザフト軍の攻撃を受けたのか、室内は激しい揺れに襲われるとラクスはベッドへと倒れ込んだ。やがて揺れが治まると、ラクスは体を起こして涙を拭う。

「……うっ……攻撃……キラは……?」

 ラクスは自分の制止を振り切って出て行ったキラの事が心配で、フラフラと立ち上がると危な気ない足取りで医務室から出て行く。
 アークエンジェルの艦内が時折激しく揺れるとラクスは転び、そしてまた立ち上がって展望デッキへとやって来た。
 展望デッキは突然の来襲で慌てたのか、シャッターは閉じていなかった。

「……キラは?」

 ラクスはフラフラと窓に近付くと、暗闇の中のストライクを捜した。
 暗闇の中を走る光や爆発が辺りを照らし出す。その中、跳び回る片腕が無いモビルスーツのシルエットが目に映った。

「あれは……キラ……」

 ラクスは窓に張り付くと目を凝らした。暗い為に良く見える事は無く、瞬く閃光がストライクのシルエットを見せる。しかし、その様子からも、キラが苦戦している事が手に取る様に分かった。
 医務室で無理やりにでもキラを止めてさえ居ればとラクスの心を痛め、額を窓に押し当てて涙を零した。
 そうして居ると、展望デッキの入口から女性の声が響いた。

「――あなた、ここで何してるの!?」
「あっ……」
「早く部屋に戻りなさい!」

 ラクスはゆっくりと振り返ると、そこには良く見知った厨房の女性スタッフが居た。地球衛星軌道上での戦いの折に、ブリッジに向かおうとしたラクスを部屋に軟禁した女性兵士だった。
 その女性は先日の戦いの事もあってラクスに対して怒鳴り声を上げた。

「……はい……」

 ラクスは迷いながらも頷くと、女性に連れられる形で自分の部屋へと戻り、外から鍵を掛けられ完全に外に出る事が出来ない状態となった。
 部屋の中には何時の間に戻って来たのか、ハロと戯れるトリィの姿があった。そしてラクスに気付いて機械的な声を掛けて来た。

「ハロハロラークス、ハロー!」
「トリィ」
「……私、キラを止められませんでした……」

 扉の傍で立ったままのラクスは、そう言って悔しそうな表情を見せると俯いてベッドに腰を下ろした。
 何も自力で出来ない後悔が波の様に押し寄せて来る。

「トリィ」
「ハロッハロー」

 ハロとトリィは、ラクスの心の中などお構い無しにヘッドの上で戯れていた。
 ラクスは、そんなハロ達に気を留める様子も無く、ただ俯くばかりだった。そうして居ると、遊んでいたハロがラクスの背中にぶつかった。

「……少しだけ大人しく……あっ!」

 少しだけ怒ったラクスは振り向くと、そこには連絡用コンソールパネルが有る事に気付いて、小さく声を上げた。
 ラクス自信は、このコンソールパネル使った事は無いが、これでブリッジと連絡が取れる事は知っていた。
 小首を傾げてコンソールパネル見詰めるラクスは、ベッドの上に乗ると表情を変えた。

「お願いします、繋がってください!」

 ――後悔はしたく無い。
 ラクスは、そんな一心でコンソールパネルを弄り始めた。

 見えるはずの地平線は暗闇の為に限りなく境目を無くしている。分かる事は夜空には瞬く星が無数に見えている事くらいだった。
 しかし、やるべき事があるムウには、それすら見る時間すら無かった。
 スカイグラスパーに乗り、アークエンジェルを出撃してどのくらい経ったのか、一分か、五分か……。そんな事すら気に掛けていられない。
 南西、二〇キロ――、スロットルを開けばすぐに到達する距離にありながら、そう簡単には見つからなかった。本来なら、今、飛行している辺りに敵艦が有るはずなのだ。

「――くそっ!敵艦はどこだよ!?」

 ムウは苛つきながら敵艦を捜した。ブリッジから零れる光ぐらい見えても良いはずなのだ。
 突然、コックピットに警告音が鳴り響く。

「――!?ロックされたか!?」

 ムウはスロットルを一杯に開くと急上昇を掛ける。
 Gに因る肺を圧し潰される様な感覚、これは正しく大気圏でしか味わう事が出来ない。

「――くっぅぅぅ……はぁぁ!――ご丁寧に二発も撃ちやがって!この糞野郎がっ!」

 ムウは肺から出た酸素を一杯に吸い込むと、機体を捻って後ろを確認して怒鳴り声を上げ、追い掛けて来るミサイルから逃れる様に機体を左右に振り回した。
 後方用モニターに、二発のミサイルが跳ね上がった様に上昇する姿を捉えた。

「――来るか!」

 ムウは顔を顰めると、一気にスロットルを閉じて急減速を掛け、機体を捻る様にロールさせた。
 一発目のミサイルが目標であるスカイグラスパーを捉え切れずに通り過ぎると、そのまま爆発する。
 操縦桿を切り返したムウは、二発目を目の端で捉えた。スロットルを全開に開けると、急上昇を掛け、そのまま宙返りに入った。

「――くっうぉぉぅ……」

 肺から酸素が抜けて行くのを歯を食い縛りながら耐える。
 天地が逆の状態で頭上に捉えたミサイルは一発目同様、通り過ぎるとスカイグラスパーを捉え切れずに爆発を起こした。

「……はぁぁぁ――おっしゃ!」

 ムウは機体を水平に戻して酸素を取り込むと、小さく拳を握り声を上げると、すぐに目を下に向けて辺りを見回し敵艦を捜す。
 アークエンジェルへと向かって発射されるミサイルの炎が見えた。

「おっ、あんな所に居やがったか!あれは……レセップスか!?……砂漠の虎の母艦とはな!少し位は傷を付けさせてもらうぜ!」

 ムウは顔を顰めると吐き捨てる様に言って降下を開始しすると、レセップスはスカイグラスパー目掛けて迎撃ミサイルを発射した。
 苦々しい表情でムウは文句を言う。

「――ミサイル撃つしか能が無いのかよ!」

 スカイグラスパーに対して機銃掃射が始まり、大型のハッチが開き、中からモビルスーツが多数のモビルスーツが姿を現した。
 バクゥ、ディンなどで構成されたモビルスーツ達は、アークエンジェルの方向に移動を開始する。

「あの数!?寄りにも因って、増援かよ!」

 ムウはモビルスーツに気を取られ、ミサイルの事を失念していた。
 コックピットに警告音がうるさいくらいに鳴り響き、毛穴から汗が吹き出る。

「――ヤバイ!……こうなったら!」

 スカイグラスパーは失速域ギリギリの超低空から砂を巻き上げながらミサイルを引き連れて、レセップスに向けて侵入して行く。
 機銃が向けられ、コンソールモニターに被弾を示す表示が出ると警告音が鳴り響く。

「――糞!喰らったか!?だか、この程度で落ちるかよ!――うおりゃあぁぁぁぁ!」

 被弾した箇所は飛行に問題無い場所であるのを確認すると、ムウは巧みにスカイグラスパーを操作し、レセップスに激突しない回避可能距離までミサイルを引き連れて来ると、一気に上昇しながら操縦桿を切った。
 ミサイルはそのままレセップスに激突し、爆発を起こす。

「――おっしゃ!」

 ムウは雄叫びを上げると上昇を続けてレセップスの被害を確認する。
 ミサイルを着弾したレセップスの横っ腹は煌々と燃えてはいたが、高々、ミサイル一、二発で壊せる様な物でも無く、大した損害も与える事は出来なかった。

「これ以上は無理か……。それよりも増援を知らせねぇと!離脱する!」

 まともに使える武器も無い今のスカイグラスパーでは、レセップスを落とす事は不可能とムウは判断すると、敵の増援が向かっている事を知らせる事を急務として空域を離脱して行った。

 アークエンジェルのブリッジでは、突如現れた鮮やかなオレンジ色をしたバクゥに似た機体――ラゴゥが現れた事で、異常に緊迫した雰囲気に包まれていた。
 目の前の甲板ではνガンダムがラゴゥの迎撃を行っているが、アークエンジェルから発射した迎撃ミサイルは、動きの速いラゴゥに傷一つ付ける事さえ敵わない。
 今の所、傷を付ける事が出来る可能性を持つのはνガンダムだけだった。しかし、νガンダムにはストライクの支援と言う役割も有る為に、非常に不味い事態と成っている。
 機種特定を終えたサイが報告の声を上げる。

「――出ました!TMF/A−八〇三ラゴゥです!」
「あの機体……もしかして……」
「……艦長!?」
「……砂漠の虎!?」

 報告を聞いたマリューは、嫌な予感が走り顔を顰める。
 その呟きを耳にしたナタルが顔を向けるが、マリューはその事に気付く事無く呟きを口にした。
 ナタルとて『砂漠の虎』の異名は聞いた事が有り、艦長の口からその名が出た事で、一層険しい表情となった。

「――底部イーゲルシュテルンで対応しろ!」

 ナタルは叫ぶとイーゲルシュテルンが稼動し、ラゴゥを追い始めるが易々と回避されて行き当たる事は無かった。
 何発目かのビームがνガンダムが持つアグニから発射されると直撃すると思われたが、装甲を焼くだけにとどまり、ラゴゥはそのままアークエンジェルの後方へと回り込もうと移動を開始した。
 その時、突然、艦長席のコンソールが点滅する。

「――こんな時に何なの!?今は戦闘中よ、後からにしなさい!」

 マリューは受話器を取り、掛けて来た相手に向かって怒鳴りつけた。
 その間にも戦闘は続いて行く。アムロはラゴゥの迎撃とストライクの支援、ナタルは声を張り上げ、ラゴゥを近付けさせまいと奮戦している。
 そして、チャンドラが大きく声を上げて報告を告げた。

「――第四波、接近!」
「――こんな時にか!?」
「直撃――来ます!」
「――総員、衝撃に備えろ!」

 再びチャンドラが顔を強張らせて叫ぶと、ナタルが怒鳴る様に全員に指示を出した。
 νガンダムが敵艦からのミサイルに向けアグニを発射する。
 発射されたビームはミサイルの半分を消し去るが、残りはアークエンジェルの右舷へと着弾すると爆発を起こし、アークエンジェルを激しい揺れが襲った。
 ブリッジには、誰かの口から漏れた悲鳴が響いた。そして、揺れが治まるとすぐに、元の通りの業務に掛かった。今は戦場に居るのだから、泣き言など言っている暇は無かった。

「ナタル、少しだけ任せるわ!」
「分かりました!」

 マリューは受話器を持ったままナタルに声を掛け、艦の指揮を少しの間預けると、ナタルは大きく頷いた。
 そしてマリューは耳に受話器を押し当てると、誰かと話し始める。
 そうしている間にも次々と報告の声が上がる。

「フラガ少佐より入電!敵母艦を攻撃するも損害は軽微。敵母艦はレセップス!敵増援がこちらに進行中!至急、戦域を離脱せよ!との事です!」
「――ラゴゥに回り込まれました!」

 ミリアリアがムウからの報告を、サイはラゴゥがアークエンジェルの後方に回り込んだ事を告げると、ブリッジのクルー達は顔を青ざめさせた。

 明かりも点けず、爆音が聞こえる部屋でラクスはコンソールパネルを弄くっていた。どれを押せば良いのか良くは分からないが、主要なスイッチを手当たり次第に押してみた。
 モニターが点滅してマリューの顔が映ると、ラクスは嬉しそうな顔をしたが、すぐにマリューの怒鳴り声が響いた。

「――今は戦闘中よ!後からにしなさい!」
「ま、待ってください!私です、ラクス・クラインです!」
「あなた、何を考えてるの!今は戦闘中なのよ、分かってるなら後にしなさい!」
「戦闘中だからこそ、後に出来ないんです!私の話を聞いてください、お願いします!」

 慌てたラクスは、マリューに話を聞いて貰おうと必死に頼み込んだ。
 マリューは怒り狂ったように怒鳴った。

「――こんな時にふざけないで!」
「ふざけてなどいません!私はプラント最高評議会議長シーゲル・クラインの娘、ラクス・クラインです!私は、キラを……皆さんを……この戦いを止めたいだけなんです!」
「あなた一人で、どうにか出来る訳無いでしょう!」
「して見せますから、お願いです!私をブリッジに入れてください!」

 マリューはラクスを助けた時から知っては居るが、『プラント最高評議会議長シーゲル・クラインの娘』と言う言葉を聞いて少し引っ掛かる事があったのか、怒りを抑えると諭すように言った。
 しかし、ラクスはキラの事での後悔もあって、引き下がろうとはしなかった。
 そこへ、今まで以上に激しい揺れが二人を襲う。

「――えっ!?あっぁ……っつ!」
「――きゃっ!?……だ、大丈夫ですか!?」
「……ええ」

 ラクスは揺れが治まると、マリューを心配して声を掛けた。
 顔を顰めながらもマリューは無事だと応えると、しばしの間、モニターから顔が消える。
 しばらくして、再びマリューの顔がモニターへと映ると口を開いた。

「悪いわね」
「いいえ」

 ラクスは首を振ると真面目な顔でモニターに映るマリューを見据える。
 その時、ミリアリアの声がラクスの耳にも届く。

「フラガ少佐より入電!敵母艦を攻撃するも、損害は軽微。敵母艦はレセップス!敵増援がこちらに進行中!至急、戦域を離脱せよ!との事です!」
「――レセップス!?」

 マリューは顔を横に向け、唖然とした表情をしていた。すぐに苦虫を噛み潰した様に顔を歪ませると、考える様な素振りを見せ、ラクスに問いかける。

「……あなたなら……本当に止められるの?」
「はい!必ずお約束します!」
「……許可するわ、早く上がってきなさい!」

 ラクスは大きく頷いて答えると、マリューは眉を顰めながらも急き立てる様に言った。
 その後、閉じられた扉をマリューにブリッジから強制開放して貰い、ラクスは扉の外に見張りとして立っている女性と共にブリッジへと走って行った。

 目の前に居る二匹の鉄の獣――バクゥが、今にもストライクに飛び掛らんとしていた。さっきまであった、アムロからの援護が徐々に減り、今ではビームすら飛んで来る事は無かった。
 アムロ程の腕を持つパイロットが援護出来ない状態と成ると、恐らくアークエンジェルが集中的に狙われているのだろうと、キラには予想はついた。
 今すぐにでもアークエンジェルに戻りたいが、そうするだけの余裕も無くなって来ていた。額を大量の汗が流れ落ちる。

「……ハァハァ……ライフルを使いすぎたか……」

 キラは一瞬だけ、コンソールモニターに目を向けて確認すると、肩で息をしながら呟いた。
 二機のバクゥはゆっくりと、まるで狩りを楽しむかの様にストライクを追い詰める。

「……どうする?――動いた!?」

 キラは目を左右に動かしてバクゥの出方を窺っていると、左側に居たバクゥが動き出した。
 すぐにバーニアを噴かして、キラは後方へとストライクをジャンプさせた。
 こうしていても埒が明かない事は、キラにも分かっている。どうにかしなければと頭を働かす。

「――くっ!……こうなったら!」

 キラは着地と同時にライフルを捨て、キラはストライクの左肩の装備されているビームブーメラン“マイダスメッサー”に右手を掛けさせた。そして、次に左の腰のアーマーシュナイダーを開放する。すると、巨大なナイフが、砂へと落ちて突き刺さった。
 ストライクは一歩引き、左足爪先を砂に突き刺さったアーマーシュナイダーの傍へと置いた。
 バクゥは離された分の距離を一気に詰め、先程と同じ分の距離を保ちつつも、ジリジリと近付いて来る。

「……ハァ……ハァ……早く……来い……」

 キラは二機のバクゥを睨みつけると、相手が大きく動くのを待った。
 どのくらい時間が経ったのか、今度は右側に居たバクゥが一気に距離を詰めて来た。

「――来た!いけーっ!」

 キラは、動いたバクゥをロックすると、マイダスメッサーを投げつけるが、バクゥは避けてストライクへと飛び掛かって来た。
 待ってたとばかりにストライクは、左足でアーマーシュナイダーを蹴り上げると、直ぐに空いている右手にアーマーシュナイダーを装備させると腰溜めに構え、バーニアを噴かして突っ込んだ。
 左足で蹴り上げたアーマーシュナイダーは回転しながら飛び掛って来たバクゥへと飛んで行くと、刺さる事は無かったが、頭部へとぶつかりバランスを崩した。
 ストライクはそのまま、右手に持つアーマーシュナイダーを落ちて来るバクゥの腹部へと突き立てた。
 バクゥはストライクに凭れ掛かる様な体勢に成ると、後ろからブーメランの様に飛んで来たマイダスメッサーが、その背に突き刺さり動きを止めた。
 キラはそのままの体勢を活かし、バクゥを盾にしたまま残りの一機と対峙する。

「残り、一機か……」

 ストライクに残された武器は、イーゲルシュテルンと右手に持ちバクゥに突き立てているアーマーシュナイダー、そして背中に装備された一五・七八メートル対艦刀“シュベルトゲベール”の三つ。
 それをどう駆使するか、キラは再び考え始めた。
 そこへ突然、凛とした少女の声がストライクのコックピットに響いた。

「――そこのモビルスーツのパイロット!死にたくなければ、こちらに指示に従え!そのポイントにトラップがある!やって来る増援をそこまで誘き寄せるんだ!」
「――えっ!?な、なに!?」

 キラは辺りを見回すが少女だどはおらず、変わりに何台ものバギーが走り、ランチャーなどでバクゥを攻撃し始めていた。
 キラは訳も分からず、コンソールモニターに目を向けると、そこには何やら地図らしき物が映り、マーキングが付いてた。

「――おい、聞こえているのか!?下だ!分かったのなら指示に従え!」

 再び少女の声が響き、キラは言われた通り下を見た。
 そこにはバギーの助手席に座る金色の髪の少女の姿が確認出来た。そして、少女が手に持ったワイヤーがストライクと繋がっている。

「――い、一体、何なの!?」

 キラは何が起こったのかと困惑の表情をしながら唸った。
 その直後、キラはアークエンジェルの医務室で唇を奪った少女の声を聞く事と成る――。

 鮮やかなオレンジ色をした四つ足の獣が砂煙を舞わせながら、中に浮かぶ白い大天使の背後へと移動して行く。
 大天使――アークエンジェルの高度はそう高くは無い。オレンジ色をした四つ足の獣――ラゴゥ飛び乗ろうと思えば可能な高さではあった。
 アークエンジェルから迎撃のミサイルと、砲弾が飛んで来る。バルドフェルドは巧みにそれを回避し、確実に近付いて行く。
 バルドフェルドは前のシートに座るアイシャに言う。

「アイシャ、やれ!」
「ええ、まかせて」

 アイシャはそう言って微笑を湛えると、二連装ビームキャノンのトリガーを引いた。
 ラゴゥから発射されたビームは、アークエンジェルのスラスターの一部に当たり、白い巨体を徐々に落とし始めた。
 そこへ、レセップス主砲からの第五波砲撃がアークエンジェルへと向かって飛んで来る。

「――良いタイミングだ!取り付くぞ!」

 バルドフェルドは不敵な笑みを浮かべると、バーニアを噴かしてアークエンジェルの後部甲板上へ跳び上がった。
 その途中、アークエンジェルの向こう側――前部甲板上からのビームが走り、レセップス主砲からの砲撃を全て撃ち落とした。
 その光景を見たアイシャが、νガンダムのパイロット――アムロの事を褒め称えた。

「――!……凄いわね、あのパイロット!」
「ああ、今まで見た中では最高の腕だ。生きてる内に、そう何度も廻り逢える相手じゃない。そんな相手と戦えるんだ、最高じゃないか!」

 アイシャの賞賛にバルドフェルドも頷き、満足そうな表情を浮かべると、ラゴゥは着地態勢はと入る。
 レセップスからの砲撃を撃ち落したアムロは、ラゴゥが来る事を直感的に感じ取る。

「――来る!?この位置では!」

 アムロはνガンダムにアグニを抱えさしたまま、バーニアを噴かしてブリッジ上に飛び上がると、それと同じタイミングで、ラゴゥがアークエンジェル後部甲板上へとに着地した。
 バルドフェルドは、そのままブリッジを狙おうとするが――。

「――やらせるか!」

 ブリッジ上にνガンダムが見下ろす形で現れ、左腕に持ったアグニをラゴゥへと向けた。
 バルドフェルドは、一瞬、呆気に取られながらも、笑みを浮かべて言う。

「――!……あれだけの芸当をやっておいて、本当にナチュラルなのかい、このパイロットは……?この戦い、終わらせたくは無いな……」
「……でも、やるんでしょう?」
「――ああ、勿論だ!」

 アイシャは問いかけると、バルドフェルドは目を輝かせながら答えて、νガンダムに対して通信回線を開き、
「――その位置からでは撃てまい!」

 と言って、ラゴゥの咥えたサーベルを展開させ、νガンダムに向かって飛び掛かった。
 バルドフェルドの言う通り、νガンダムがラゴゥに向かってアグニを撃てば、アークエンジェルの後部甲板に確実に直撃する事になる。

「――ちっ!」

 アムロは舌打ちをすると、νガンダムをラゴゥに正対させたままバーニアを噴かし後方へと跳んだ。
 落下するνガンダムの腰がブリッジ正面に差し掛かった時、アムロは軽くバーニアを軽く噴かして、コンマ数秒間だけ滞空させると、ブリッジの上部とアグニの砲身を水平にしてトリガーを引く。

「――そこか!」

 アグニから発射されたビームは、ブリッジの上部装甲を焦がしながらも、飛び出して来たラゴゥへと向かって走って行く。
 バルドフェルドは飛び出した途端にビームが飛んで来た事に驚き、瞬間的にビームサーベルのスイッチから指が外れ、操縦桿を全力で切りバーニアを噴かして回避しようとしたが、勢いは殺す事は出来ない。

「――なんだと!?――つっ!」
「――きゃっ!」

 ラゴゥは右前後の脚部を失いながらも、アークエンジェルのブリッジ上部に突っ込む様に叩きつけられ行動不能となった。機体の右側面からは所々、火花が散っていた。
 バルドフェルドは額から血を流しながら、呻く様に口を開く。

「……うっぅ……まさか、撃って来るとはね……。しかも、あの状態から艦に当てずにこっちを狙うなんて、何てパイロットだ……」
「……でも、これでチェックメイトよ」
「ああ、つまらない終わり方だが仕方あるまい……」

 アイシャはパイロットスーツを着ている為に怪我はして無いのか、衝撃の割りにはっきりした口調で言った。
 バルドフェルドは不満そうに応えると再び操縦桿を握り、ラゴゥはブリッジの上部装甲にサーベルのノズルを押し当て、いつでの破壊出来る体勢を取った。
 一度、前部甲板上に着地したνガンダムは、再びラゴゥの前に着地しアグニを向けた。

「大人しく投降しろ!」
「おい、見て分からないのか?撃てばどうなるか分かっているだろう?」
「ブリッジをやれば、こちらも撃たせてもらうさ」

 投降勧告にバルドフェルドは、ラゴゥの首を少し動かすと、サーベルで上部装甲を軽く叩いて何時でもビームを発生させて破壊出来るとアピールするが、アムロも引く気が無いのか、アグニを突き付けたまま答えた。
 バルドフェルドは肩を竦めると、傷が痛むのか、顔を顰めながらもアイシャに聞いてみた。

「……なぁ、アイシャ、彼は本気で撃って来ると思うか?」
「きっと本気じゃないかしら?」
「……全く、運が悪かったかったとしか思えん。アイシャ、俺の我が儘に付き合わせてしまって済まないな……」
「フフッ、最後まで付き合うわよ」
「そうか……では付き合ってくれ!――さあ、モビルスーツのパイロット!俺がブリッジを潰すのが先か、君が俺達を殺すのが先か、勝負と行こうじゃないか!」

 アイシャは微笑を湛えて言うと、バルドフェルドはこの女性と死ねるなら良いと思い満足そうに応える。そして、アムロに対して勝負を持ちかける。
 どっちに転んでも死が待っているが、バルドフェルドに取っては、これだけの相手と戦えた上に、愛する女性と共に死ねるなら本望だった。

「――貴様、正気か!?武器はアグニだけじゃない!死にたいのか!?」
「――さあ、どうする?」

 アムロに取ってもアークエンジェルを失う訳には行かない。一人、この世界に放り出され、今では我が家にも等しい場所でもあった。νガンダムの右手にビームサーベルを装備させると、大破したラゴゥへと向ける。
 バルドフェルドは挑発するかの様に言うと、両者は睨み合った。

「――私の名は、ラクス・クラインです!ザフト、連合両軍共に武器を引き、戦いを止めてください!私はラクス・クラインです!」

 突然、アークエンジェルの外部スピーカーを通し、闇夜の砂漠にプラントの歌姫の声が響き渡るのだった。