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CCA-Seed_98 ◆TSElPlu4zM氏_第22話_前編

Last-modified: 2011-09-17 (土) 11:46:04

見渡す限り黄土色の平原が続く砂漠が闇に包まれ、その空には神々しく月が輝いていた。
 砂漠の中に舞い降りた白い大天使――アークエンジェルのブリッジからは昼夜問わず、光が見え人の気配を感じさせていた。
 敵の勢力下にも係わらず、その地域を治めるザフト軍の部隊は姿など見る事は無かった。
かと言って、アークエンジェルの面々が気を抜ける訳では無い。
 ザフト軍の勢力下に有る以上、いつ襲われてもおかしくは無いのだ。
 その中、CICの席に座ったカズイがモニターを見詰めながら、うんざりとした表情で言う。

「ニュートロンジャマーかぁ……。撤去できないんですか?」
「無理無理、出来りゃやってるよ。まぁ、影響被害も大きいけど、それでも核ミサイルがドバドバ飛び交うよりはいいんじゃないの?
あのユニウス・セブンへの核攻撃のあと核で報復されてたら、今頃、地球ないぜ?」

 カズイの隣にはモニターを覗き込みながら、そう言ったチャンドラの姿があった。
 そうしているとブリッジの扉が開き、休憩に出ていたナタルが両手にドリンクボトルを携えて、ブリッジへと戻って来た。

「異常は無いか?」
「はっ……は!異常ありません!」

 チャンドラは背筋を伸ばして敬礼で答えると、前を通り過ぎる上官を目で追った。
 ナタルはそのままチャンドラの側を通り過ぎると、いつもに通り自分の席に座るノイマンに手に持ったドリンクを差し出した。

「……あっ」
「先刻の歪みデータは出たか?」
「はい、簡易測定ですが、応力歪みは許容範囲内に留まっています。詳しくは……うわっ!?」

 ノイマンは差し出されたボトルを少し驚いた様に見詰めると少し慌てながら受け取るが、ナタルは気にした様子も無く声を掛けた。
 聞かれたノイマンはキーボードを叩こうとして、受け取ったボトルを宙に置くかの様に、その場で手を離した。
 無重力の宇宙とは違い重力の有る地球上なのだから、ボトルは宙に浮く事も無く重力に従って床へと落ちて転がる。
 落ちたボトルをナタルは拾って差し出しながら言う。

「少尉……いつまでも無重力気分では困るな」
「す、すみません……」
「重力場に斑があるな。地下の空洞の影響が出ているのか?」

 ノイマンが気まずそうな顔で差し出されたボトルを受け取ると、ナタルはモニターに映る測定結果を覗き込みながら言った。
 気を取り直す様にノイマンは頷いて口を開いた。

「ええ、恐らくですが。戦前のデータで正確な位置は分からないんですが、船体が沈まない事を考えるとアークエンジェルの真下は大丈夫なんだと……思います。
……一応ですが。あの……突然陥没なんて……有ると思いますか?」
「……」
「……」

 この辺りは古くから石油や天然ガス鉱床の廃坑が有った為、坑道が蟻の巣の様に無数に走り、地盤が弱く成っている土地だった。
アークエンジェルの様に重量が有る物体が降りると大変なことに成りかねない場所だった。 
その事を心配したノイマンが笑顔でナタルに聞いたが、当のナタルは答えようともせず、ドリンクに口を付け窓の外に目を向けるばかりで、ノイマンは笑顔を引き攣らせた。
 その時、突然、警告音がブリッジに鳴り響く。

「――!」
「……へ?あ!」
「――本艦、レーザー照射されています!照合!測定照準と確認!」

 その場に居た全員が何事かと息を飲み顔を強張らせると、チャンドラが大きく事の内容を告げた。
 それは、誰かがアークエンジェルを狙っていると言う意味で、確実に敵である事を示していた。

「――第二戦闘配備だ!」
「――了解!――第二戦闘配備発令!繰り返す!第二戦争配備発令!」

 ナタルが声を上げると、チャンドラがアークエンジェル内に非常事態である事を告げる声が響き、寝ている者達全員が目を覚ます事となった。

 アークエンジェル艦内の至る所にアナウンスが流れる。
 突然の敵の来襲に、休息を取っていた者達は慌しく自分の持ち場へと向かって行く姿が多く見受けられた。
 敵の勢力下なのだから、悠長に構えていては瞬く間に艦など落ちてしまう。全員が慌てるのは当たり前の事だった。
 勿論、パイロットルームで控えて居たアムロにも、この事は届いていた。

「――第二戦闘配備発令!繰り返す!第二戦争配備発令!」
「――!このタイミングで来たか!」

 パイロットルームで長時間の待機に入っていたアムロは、既にパイロットスーツへの着替えを済ませており、暇を潰す為に読んでいた本を手放すと立ち上がって、ヘルメットを持って素早く部屋を出て行った。
 今、待機しているのはアムロ以外に居らず、対応が遅れれば裸同然のアークエンジェルは反撃すら敵わない。
 アムロは格納庫に飛び込むと、近くに居た整備兵に大きく声を掛けて、愛機であるνガンダムの元へと走って行く。

「おい、νガンダムを出すぞ!」
「――了解しました!アグニの準備だ!」

 マードックも休息に入っている為か、アムロの命令を受けた整備兵は周りに居た者達に怒鳴り声を上げると、素早く発進準備に入る。彼らはメカニックと言う立場故、一番、自分達の戦力把握が出来ているのだろう。今まで以上に必死に動いている。
 その間にアムロは、νガンダムのコックピットに体を滑り込ませ、ブリッジへと回線を開いた。

「ブリッジ、状況は!?」
「――はい!現在、詳しい事は全く分かっていません」
「敵影は?」
「まだ捕捉してません」
「敵の戦力が分からないのか!?……とにかく今は後手に回る訳にはいかない!νガンダムを発進させるぞ!」

 アムロの問いに答えるミリアリアの言葉は、アークエンジェルが何の対応も出来て居ない事を現していた。
 不味いとばかりに眉を顰めたアムロは、ミリアリアに出撃を告げると、コックピットを閉じてνガンダムを起動させた。
 そこにミリアリアでは無く、ナタルの声がアムロの耳に届く。

「アムロ大尉、申し訳ありませんがお願いします」
「分かっている。ムウとキラは?」
「フラガ少佐は、そちらに向かっていると思われます。ヤマト少尉は医務室で休んでいるはずですが……詳しい事は分かりません」
「そうか。最もストライクがあの状態では、キラは戦力として計算すべきでは無いな」
「ええ、私も精一杯の援護を致しますのでお願いします」

 ナタルは現状でアムロ以外にアークエンジェルを守る者がおらず、その必死さが読み取れる程の物だった。
 そうしている間にもνガンダムは左手にアグニを携えると、閉じられたエアロックの前へと進んで行く。
 アムロはナタルの口から出た援護の言葉に対して、軽く頷き口を開く。

「当てにさせてもらうぞ。エアロック、開けてくれ」
「はい!νガンダムが出撃する。エアロック開放だ!」
「了解しました!エアロック開放します!」

 ナタルはスピーカーの向こう側で大きく頷くと、ミリアリアに指示を飛ばした。
 ミリアリアの声が響くとエアロックが開いて行く。
 アムロはエアロックが開き切ると、νガンダムをカタパルトデッキへと進め、ハッチが開放されるのを待った。

「続けてカタパルトデッキ開放!νガンダム、どうぞ!」
「――νガンダム、出るぞ!」

 ミリアリアの声と共にハッチが開放され、闇に包まれた砂漠が目の前に広がった。
 アムロはνガンダムを出撃の声と共に砂漠へと出すと、バーニアを噴かしてアークエンジェルの甲板上へと跳び上がらせ、迎撃態勢へと入った。

 アークエンジェルの医務室で体を休めていたキラは、体力こそほぼ回復はしたが念の為、未だにベッドの上に体を置いていた。
 キラの傍らにはラクスが椅子に座り、楽しい話しに花を咲かせて居たのか笑顔を綻ばせている。
 その二人の笑顔を打ち消す様に、突然、スピーカーから声が響く。

「――第二戦闘配備発令!繰り返す!第二戦争配備発令!」
「――えっ、敵!?」
「――えっ!?」

 二人は突然の事に驚きの声を上げると、しばし呆然として互いの顔を見合わせた。
 キラは思い出した様に慌ててベットを下りようとした。

「――い、行かなきゃ!」
「――だ、ダメです!キラは病み上がりなんですよ!」
「で、でも!――うっ!」
「だ、大丈夫ですか!?」

 ラクスは抱き付く様にして止めるが、当のキラは焦りの表情で応えた瞬間、発熱明けの所為で関節に鈍い痛みが走り顔を歪ませた。
 それを見たラクスは慌てて体を離して心配そうな表情でキラの顔を覗き込んだ。

「う、うん……大丈夫。でも、行かなきゃアークエンジェルが!」
「ご自分のお体の事を考えてください!」

 それでも尚、出撃しようとキラはベッドを降りようとするが、ラクスは何所にも行かせまいとキラの手を掴んで、珍しく怒鳴り声を上げた。
 キラはラクスに怒鳴られ、苦しそうな表情で顔を伏せると絞り出す様な声で言った。

「……でも、ここでやられるには行かないんだ」
「フラガ少佐やアムロ大尉が居られるのでしょう?今、その様なお体で出撃されても、満足に戦えるはずもありません!」
「分かっているけど、みんなに迷惑掛けたくないし、それに……負けたくないから……」
「……負けたくない?……それは誰にですか?」

 キラの言葉を聞いたラクスは、不思議そうな表情を浮かべると問いかけた。
 真っ直ぐ見詰めるラクスから逃れる様にキラは顔を背けた。

「それは……」
「……アスラン……さん、ですか?」
「――えっ!?ど、どうして知ってるの!?」
「……譫言で言っておられましたわ。あの……、どの様な方なんですの?良かったらお聞かせください」

 まさか、ラクスの口からアスランの名が出て来るとは思っていなかったキラは、戸惑いながらも顔を向けると、ラクスは心から心配する様な表情を見せ、優しく語りかけた。
 キラは言って良い物かと迷いながらも、自分の手を離そうとしないラクスの顔を見ると、少し体の力を抜いて話し始めた。

「……アスランは……小さな頃から友達だったんだ。……だけど、再会したらアスランはザフトの軍人になってて、ヘリオポリスを襲って来て……、それで僕はストライクに乗っちゃって……」
「……もしかして、そのお友達のお名前は……アスラン・ザラ……ですか?」
「――ど、どうしてアスランの事を!?」

 話を聞いたラクスは、少し視線を彷徨わせると小首を傾げてキラに尋ねると、キラは驚きが隠せない様子で逆に聞き返した。
 ラクスは自分の婚約者であるアスランと目の前に居るキラが、皮肉にも友人で有りながら敵対している事に心を痛めながらも、事実を口にする事にした。

「……アスラン・ザラは……、私がいずれ結婚する方ですわ」
「――!」
「優しいんですけども、とても無口な人。ハロをくださいましたの」
「……」
「私がとても気に入りましたと申し上げましたら、その次もまたハロを」

 ラクスの口から出て来る事実に、淡い想いを抱き始めていたキラは言葉を失う他無かった。
 そして、しばしの沈黙の後、絞り出す様にキラが口を開いた。

「……そう……なんだ……。……トリィもアスランが……」
「まぁ!そうですの?」
「……ぁぁ……でも……今は敵なんだ……。やっぱり、行かなきゃ!」
「――ダメです!」

 ラクスの無邪気な表情を見たキラは、呻く様に首を振ってベッドを下りようとするが、ラクスは握り続けた手を離そうとはしなかった。
 キラはラクスから顔を背けたまま、破れた想いをぶつけるかの様に叫ぶ。

「――アスランがラクスの婚約者でも、今の僕達には敵なんだっ!仕方ないじゃないか!」
「アスランがキラの敵であったとしても、そんな事は関係ありません!……私は戦うな、なんて言いません。でも、今はお体を大事にしてください。お願いですから行かないでください」
「……ありがとう。でもね、僕だって死にたくないし、みんなを守る為にも戦うしか無いから……。もしも、アスランを殺す事になったら……ごめん……。その時は……ラクスに恨まれても……仕方ない……から……」

 必死に止めようとするラクスの優しさにキラは礼を言うが、ヘリオポリスから苦楽を共にしたアークエンジェルに乗る仲間を守る想いが先に立ったのか、悲しげな表情を浮かべていた。
 それを聞いたラクスは、一瞬にして泣きそうな表情へと変化した。

「そんな……」
「……お願いだから……恨んでくれてもいいから……手を離して……」
「――嫌です!離しません!もし、キラが居なくなってしまったら私は……だから、お願いです!」

 余りにも悲しそうな顔つきで言うキラに、ラクスは涙を流すと、首を横に振りながら握った手に力を込めた。
 キラは自分の為に泣いてくれるラクスに出会えた事を嬉しく思いつつも、彼女の優しさに礼を口にする。

「ラクス……ありがとう」
「……いいえ」

 礼の言葉にラクスは、キラを見上げながら応える。瞳からは涙が溢れ流れ落ちて行った。
 ラクスを見詰めるキラは、アスランに対して激しい嫉妬を覚え、目の前の彼女を手に入れたいと思った。

「……ラクス……ごめんね」
「――!」

 キラが呟くと顔がラクスに近付き、奪う様に唇を塞いでいた。
 突然のキスにラクスの目は見開かれ、キラを掴んだ手から力が抜ける。やがて唇が離れた。

「――ふぇ!?えっ、えっ!?」
「……ラクス、こんな真似しちゃって……本当にごめんね……」

 ラクスは目を白黒させながら、自分の唇に手を添えると呆然とキラを見詰める。
 その隙にキラはラクスから離れ、素早く扉へと向かう。そして、扉が開くと振り返り、泣かしてしまった事と唇を奪ってしまった罪悪感からか、本当に申し訳無さそうな顔でラクスに謝ると格納庫へと走って行った。

「――キラ!」

 ラクスは走り去ったキラの名前を呼ぶが、戻って来る事は無かった。
 そして、一人残されたラクスは、へたり込んだ様に床へと腰を落として涙を零した。

「……キラ……どうして……うっ……わ、私は……ぅっ……」

 キラを止める事が出来なかったラクスの涙と呟きは、止む事が無かった。

 アークエンジェルのブリッジでは、突然の敵の襲来に各員がそれぞれの役目で対応しつつ、慌しく動いていた。
 時は一刻を争い、対応の遅れは命取りと成る。
 そこへ自室で休息を取っていたマリューが遅ればせながらも駆け込んで来た。

「――状況は?」
「第一波、ミサイル攻撃六発!イーゲルシュテルンにて迎撃!」
「砂丘の影からの攻撃で、発射位置、特定できません!」
「第一戦闘配備発令!機関始動!フラガ少佐は搭乗機にてスタンバイ!アムロ大尉は……出てるのね。ヤマト少尉はどうなの?」

 チャンドラとカズイが素早く答えると、マリューは頷き、指示を出して艦長席へと着いた。そして、窓の外へと目を向けて、νガンダムの姿を確認するとナタルに声を掛けた。
 ナタルはすぐに顔を向けると口早に返答する。

「医務室にいるはずです」
「キラ君は……ストライクもあれだし、早々、無理させられないわね。とにかく今はアムロ大尉に頼る以外は無いわ。フラガ少佐はまだなの?」
「格納庫に確認を取ります。フラガ少佐は出られるか?」

 マリューは眉間に皺を寄せて厳しい表情を見せて、苛立たしげに言うと、ナタルは答えて格納庫へと回線を繋ぐ。
 その間にも数発のミサイルが飛来し、νガンダムのアグニと、アークエンジェルの対空迎撃兵器である七五ミリ、イーゲルシュテルンが撃ち落していった。
 艦内にも爆音が響き渡り、戦闘が開始された事を否が応でも知らせるのだった。

 アークエンジェルの格納庫では、νガンダムの出撃後も慌しく整備兵達が動き回っていた。この様な状況を乗り切り、生き残る為に全ての者達が懸命に自分のやれる事をするのだった。
 その中には、警報で目を覚ましたマードックの姿も有り、パイロットスーツ姿のムウと何やら言い争いをしている様だった。

「とにかく飛べるようにしてくれって言っといただろ!」
「そうは言われましたが、こっちだって全員使ってこれなんだ!調整も済んで無いんだから、無茶だって言ってんでしょうが!弾薬の積み込みも間に合わねぇし……」
「ちっ!」

 ムウの罵声に、マードックは怒りを隠そうともせずに対応を決めかねていると、ムウは舌打ちをして髪を掻き毟り、苛立たしげな表情を見せた。
 実際問題、整備兵達の消耗は激しく、環境の変化とストレスから体調を崩す者も多かった。それも、アークエンジェルに乗り込んでいる人員が少ないのと、第八艦隊から補充要員を受ける事が出来なかった事も突起している。
 その様な中、パイロットスーツに身を包んだトール慌てて駆け込んで来た。

「――遅くなりました!」
「遅いぞ!お前を出すつもりは無いが、万が一って事も有るからな。二号機で待機してろ!」
「――り、了解しました!」

 ムウは苛立ちからか八つ当たり気味に指示を出すと、トールは慌てて敬礼をするとスカイグラスパー二号機の元へと走って行った。
 振り返ったムウは、トールに対して、少々大人気ない態度を取った事で少しは冷静になったのか、マードックに言った。

「とにかく弾薬は今すぐ積めるのだけで構わない。一号機の発進準備をしてくれ」
「……分かりましたよ!どうなっても知りませんよ!」
「文句は後から言うさ!今は手を動かしてくれ!」

 マードックは少し拗ねた態度で応えると、ムウにはそれが気に喰わなかったのか、怒鳴る様に声を荒げてスカイグラスパー一号機へと走って行く。
 それを見送るマードックは腹立たしげな顔をするが、近くに居た整備兵を捉まえると二〇ミリ機関砲弾薬の装填と発進準備を指示した。
 そこへ、今度は医務室で寝ていたはずのキラが駆け込んで来て、ストライクへと向かって行く。

「――済みません、遅れました!」
「――坊主!?大丈夫なのかよ?」
「はい!ストライクで出ます」

 マードックはキラの姿を見て慌てて呼び止めると、キラは真面目な顔で応えた。
 修理も終わっていないストライクを考えて、マードックは呆れ気味に口を開いた。

「修理が終わってねぇんだぞ、無茶言うなよ!」
「でも、やらなきゃ、やられますよ!」
「……はぁ。まったく、どいつもこいつも無茶な事ばかり言いやがって……。ストライクは片手しか無いから、ソードもなぁ……、エールパックもダメージが残ってるか……」

 気迫の篭ったキラの言葉に、マードックは溜息を吐いて愚痴ると少し考え込む。
 現状で使えるストライクの装備と武器の選択肢は多くは無い。片腕のストライクがまともに使え、尚且つ、戦闘に対応し得る物を選ばなければ成らなかった。
 ダメージの残るエール、ランチャーは使用するには心許なく、残ったソードは対艦刀が片腕で振り回すには大きすぎる。例え振れたとしても剣に振り回され、どれだけでまともに戦えるか疑問が残った。
 やがて考えが纏まったのか、マードックはキラに対して問うように口を開いた。

「……無いよりはマシか。ソードストライカーパックにライフル装備でいいか?」
「はい、お願いします!」
「片手しか無いんだ、絶対に接近戦はするんじゃねぇぞ!」
「了解です!」
「――ストライク出すぞ!ソードストライカーパックにライフル装備だ!」

 キラはマードックの言葉に大きく頷くと、ストライクのコックピットへと走って行く。
 マードックはキラを見送ると、すぐに怒鳴り声を上げて整備兵達にストライクの出撃と装備を指示した。
 ストライクのコックピットにキラは体を滑り込ませると、すぐにブリッジへと回線を繋ぐ。

「敵は!?ストライク発進します!」
「キラ?待って、まだ――」
「――早くハッチ開けて!アムロさんは出てるんでしょ!?」

 スピーカーの向こうからはミリアリアの声が聞こえ、ストライクへの命令が出てない為に出撃を止めようとしたが、キラはその言葉を遮る様に言った。
 キラの言葉を聞いたナタルが、ミリアリアに変わって応える。

「そうだが、ストライクは修理中だろう!?まだ敵の位置も勢力も分かってないんだ!」
「ストライクは片腕でもアムロさんのサポートくらいはやれます!出撃させてください!」
「……艦長!」
「……アグニを持ったνガンダムじゃ動き回れないし、艦の方では小回りが効かないわ。出てもらう他ないわね。ストライク、発進させて!」

 ブリッジではキラ言葉に、ナタルは修理の終わっていないストライクを出撃させるべきなのかと、マリューに指示を仰いだ。
 マリューは眉を顰めながらも現状を鑑みて出撃命令を出すと、ナタルは頷いて指示を飛ばす。

「ハッチ開放、ストライク発進!敵戦闘ヘリを排除せよ!重力に気を付けろよ!」
「カタパルト、接続。APU、オンライン。ソードストライカー、スタンバイ。火器……えっ!?……ビームライフル!?」

 ミリアリアはコンソールモニターに表示される、格納庫から送られて来たストライクの武装データを復唱していると、ソード装備であるはずなのに、何故、ライフルを持つのかと驚きの声を上げた。
 ストライクはカタパルトデッキへと移動し、ストライカーパックの装備を待つキラはミリアリアの驚きに答える。
 
「――片腕が無いから、ストライクはライフル装備で出ます!」
「――わ、分かりました!……パワーフロー、正常。進路クリアー。ストライク、発進どうぞ!」
「――キラ・ヤマト、ストライク、行きます!」

 キラの声と同時にストライクに急加速が掛かり、勢い良くカタパルトデッキから夜の砂漠へと飛び出して行った。

「くぅっ……は!うぅ……」

 急激な重力加速度が病み上がりのキラには堪えたのか、口から呻き声が漏れた。
 それでもキラは何とか着地させるが、足場が安定しない砂地の為にストライクは足を取られそうになった。

「――くぅぅっ!」

 キラは操縦桿とペダルを動かして倒れるのを防ごうとする。その所為か、ストライクは片膝を着き何とか倒れるのだけは回避した。
 既に戦場に居るのだから隙を見せれば死に繋がる。キラの額に嫌な汗が滲んだ。

 暗闇の中にその白い船体を晒す大天使の名を持つ船、アークエンジェルの甲板上から、突然、閃光が走り、轟音と共に空中で大きな爆発が起こる。それは、戦闘ヘリが姿を現して一〇秒もしない間に起きた出来事だった。
 砂丘からアークエンジェルを見詰めるバルドフェルドは、迎撃に出て来たモビルスーツ、νガンダムの正確な狙撃と、その手に持つアグニの圧倒的な火力に因って、自分の部下が乗る機体の一つが散った事を悟った。

「あのモビルスーツのパイロットは出て来る位置が分かっているとでも言うのか……!?これは、ヘリなんかじゃ相手にならんぞ……」
「出した方が良いんじゃないですか?」
「そりゃ、出すさ。もしかしたら、万が一と言う事も有り得るかもしれんな……」

 上官であるバルドフェルドと共に戦況を見て居たダコスタは、ナイトスコープを覗きながらも味方が撃墜された事に顔を顰めるとモビルスーツ出撃の進言をする。
 当のバルドフェルドは、眉間に皺を寄せると目を細めて応え、珍しく弱気な言葉を口にした。
 二人が見詰める先では、自軍の戦闘ヘリが砂丘の影に隠れ、再攻撃の機会を窺っている様子が見えた。大抵の敵は姿が見えなくなる事で、一旦は攻撃を止める物だが、アークエンジェルの甲板に立つモビルスーツは違っていた。
 砂丘が戦闘ヘリを遮り、見えないにも関わらず左腕に抱えたビーム砲の火力に物を言わせ、砂丘もろとも戦闘ヘリの一機を再び葬り去る。そして、残りのヘリも同様にビームの餌食となって爆散して消えた。
 その光景を目の当たりにしたバルドフェルドは、半ば唖然としながら口を開いた。

「……なんて奴なんだ。一分と経たずに全滅させるとは……。あの攻撃ぶりは、砂丘の向こう側が見えいるとしか思えんな」
「もう一機、出てきました……。左腕が無いですが、あれがX−一〇五ストライクですね」
「片腕で出して来たのか?余程、自信が有ると見えるな。全く……あのモビルスーツと言い、連合はとんでもない物を造ってくれたな……。ダコスタ、バクゥを出せ!」
「――攻撃開始だ!」

 バルドフェルドは、アークエンジェルのハッチから勢い良く飛び出して来た片腕のモビルスーツ――ストライクに目を向けると、ザフト軍地上用モビルスーツ“バクゥ”による攻撃指示を出した。
 ダコスタはすぐに片手に持った通信機のスイッチを入れると、五機のバクゥへと鋭い声を飛ばした。
 この戦場に間もなく姿を現す事となるバクゥは、ザフト軍が地上作戦用に開発した機体で、四本足の獣の姿をしている。砂漠においては、その脚部で身軽に跳び回り、キャタピラによる高速走行をも可能にした、高い運動性を誇るモビルスーツであった。
 そのバクゥが疾走しながら戦場へと姿を現し、アークエンジェルの前方に立ち塞がる片腕のストライクを追い詰めるかの様に戦闘を始めていた。もう一機のモビルスーツ――νガンダムからの砲撃は止んでいる。
 ストライクと戦闘を行うバクゥが優勢だと見たバルドフェルドは、徐に言う。

「ストライクも確かにいいモビルスーツだ。パイロットの腕もそう悪くはない。が、所詮人型。あの二機がこの砂漠で、組織されたバクゥ相手にどこまでやれるかな?」
「バルドフェルド隊が負ける訳ありませんよ」
「……だと良いんだがな」
「はぁ?」

 バルドフェルドは嫌な予感が過ぎり、呟くと、ダコスタは今の発言が信じられないとばかりに、目を丸くして自らの上官を見詰めた。
 その瞬間、目の端に閃光が走り、すぐにダコスタは目を戦場へと向けた。
 バクゥに取り囲まれたストライクがバーニアを噴かして跳び上がると、νガンダムの持つアグニから眩いばかりのビームが飛んで行く。
 ストライクを追おうとしたバクゥ一機が物の見事にビームの直撃を喰らって爆散した。

「――ああっ!」
「狙撃している方にやられたか!……こりゃ、様子見なんて言ってられんかもな……。最悪の事も想定しておかないと不味いかもしれん……」
「……えっ!?」

 絶句するダコスタを尻目に、バルドフェルドは先程の予感が現実の物と成りそうな状況に顔を顰めながら言うと、ダコスタがその言葉に驚きの声を上げた。
 ダコスタの驚く顔を見たバルドフェルドは不敵な笑みを浮かべると言う。

「ま、その前に、俺自身が出て確かめてみんとな。ダコスタ、アイシャにラゴゥを持って来させてくれ。それからレセップスに打電だ。敵艦を主砲で攻撃させろ!」
「た、隊長自ら出るのですか!?」
「そうでもしなきゃ全滅するかもしれんぞ」

 ダコスタは声を上ずらせて聞き返すと、バルドフェルドは険しい表情を戦場に向けたまま応えた。
 目の前で光が走り、自分の部下達が地球軍相手に激しい戦闘を行って光景を見ながら、バルドフェルドは戦う者として、心の奥底にある熱い何かが沸き立っていた。

 戦場はνガンダムが撃墜した戦闘ヘリの燃える火と月明かりが周辺を照らし出し、一時的な静寂が支配していた。
 ストライクが出撃したとほぼ同時に、νガンダムが戦闘ヘリを撃墜した為、ストライクは着地点で周辺警戒に当たっていた。
 キラはストライクを移動させるたびに足元の砂が流れ、思う様に動けずに苦労していると、突然、コックピットに警告音が響き、砂丘の向こうから闇に紛れて黒っぽい何かか疾走しながら飛び出して来た。
 その黒っぽい何かは、砂丘を利用して飛び上がると四本足の鋼鉄の獣へ姿を変形させた。

「――あれって、モビルスーツ!?」

 突然、見た事も無いモビルスーツが現れた事にキラの反応が遅れ、四本足の鋼鉄の獣――バクゥは、その脚で砂地を蹴ると、次々とストライクへと迫って来た。
 その光景はアークエンジェルの甲板上で警戒をしていたアムロにも確認する事が出来ていた。

「――新手か!?四つ足……モビルアーマーか!?」

 明らかにモビルスーツとは違う形状にアムロは声を上げると、νガンダムに持たせたアグニを構え直し、狙撃の体勢へと入り狙いを定める。
 一方、アークエンジェルのブリッジでは、見た事も無い敵が現れた事でマリューが目を見開いた。

「あれは!?」
「敵数五!TMF/A−八〇二、ザフト軍モビルスーツ、バクゥと確認!」
「バクゥだと!?」

 呼応する様に機種特定を終えたサイが声を上げると、ナタルが顔を顰めた。
 ストライクは足場が悪い事も相まって、バクゥに翻弄されていた。その内の一機に蹴り飛ばされ、ストライクは倒れた。

「――くっ!」

 キラはコックピットの中で歯を食い縛りながら体勢を立て直そうとするが、そこにバクゥの背中に装備されたミサイルランチャーがストライクを狙って発射された。
 ストライクを激しい衝撃が襲い、砂丘を滑る様に落ちて行った。

「砂の上であの動きか!?このままでは、砂の上で機動性で劣るストライクはやられるぞ!こちらから敵を狙い撃つ!キラ、回避しろ!」
「――は、速い!」

 アムロは狙いを付けたまま、バクゥの機動性に驚きを見せつつもキラに指示を出すが、翻弄されるキラには届いていなかった。
 体勢を立て直したストライクはライフルで応戦するが、バクゥを捉える事は無かった。

「――ちっ!ストライクが!」

 バクゥがストライクの周りを囲む様に動く為、アムロはアグニのトリガーを引くことが出来ない。しかし、このままでは埒が明かないとばかりに、狙いをずらしてアグニを発射した。
 発射されたビームを避ける為にバクゥは、ストライクを取り囲んだ輪を一気に広げる。
 ビームはストライクの脇を通り過ぎ、キラは後方からの突然の援護に振り返った。

「――!?ア、アムロさん!?」
「――キラ、跳べ!」
「――えっ!?り、了解!」

 ストライクのコックピットにアムロの怒鳴り声が響くと、キラは訳も分からぬままペダルを踏み、スロットルを開けてストライクをジャンプさせた。
 一機のバクゥがすぐに反応し、加速を付けてストライクを追う様に飛び掛かる。

「――当たれ!」

 狙いすましたかの様にアムロはアグニのトリガーを引いた。アグニから発射されたビームは、飛び上がったバクゥを正面から捉え、その装甲を溶かして激しい爆発を起こした。
 バクゥの爆発は瞬間的に辺りを照らし出し、破片は飛び散って砂へと突き刺さった。

「くぅっ……!す、滑る……」

 ストライクは無事に着地こそするが、砂に足を取られストライクは膝を着いた。その間に残り四機のバクゥが、再びストライクを攻撃し始める。
 それを見ていたナタルは唇を噛むと、ストライク支援の為に声を上げる。

「くぅぅ!スレッジハマー、撃て!」
「ストライクに、当たります!」
「ストライクを避けて落とせ!」
「そんなの無理です!」
「命令だ!ストライクに寄せ付けさせるな!」

 無茶難題にトノムラが抗議するが、ナタルは言い放った。
 事実、あのままではストライクは撃墜されても可笑しくは無い。ブリッジの者達は自ら支援出来ず歯痒い思いをしていた。

「……了解、どうなっても知りませんよ!スレッジハマー、撃ちます!」
「キラ!避けて!」

 トノムラは顔を強張らせると、狙いをストライクから少しだけ外してミサイルの発射ボタンを押した。すると、アークエンジェルの後部ミサイル発射管が開き、艦対艦ミサイルが発射された。
 それと同時にミリアリアがキラに叫んだ。

「――ミサイル!?」
「キラ、避けろ!」

 キラはミリアリアの声に振り返ると、数発のミサイルが飛来して来るのが見えた。
 アムロの声がスピーカーを通じてストライクのコックピットに響くが、そう簡単に避けられる物では無い。

「――そんな、無茶な!?うわっ!」

 ストライクの周りにミサイルが着弾し、直撃が無かったのが嘘だと思える程の激しい爆発がストライクを包んだ。
 四機のバクゥは輪を崩して散開し、ミサイルを回避した。
 キラは衝撃が襲う中、ストライクのバーニアを噴かして後方へと大きく後退する。

「くぅぅ!砂が逃げる……。こうなったら、逃げる圧力を合わせるしかない!」

 着地したストライクは再び膝を着き、体勢を崩した。
 キラは、このままでは不味いとばかりにキーボードを引き出すと、ストライクの砂地に対応させる為にプログラムを書き換え始めた。

 まともな支援が出来ないアークエンジェルのブリッジクルーは、歯痒い思いをしながらも、それぞれが何とか状況に対応しようとしていた。
 だが敵地の真ん中に居て、逃げ場など無いに等しい絶望的な状況にも関わらず、全員が懸命に成るのは無理も無い事だった。
 ブリッジのスピーカーからムウの声が響く。

「スカイグラスパー、出るぞ!」

 整備も出来ていない機体に乗り、出撃しようとするムウの声にマリューは顔を上げた。
 その時、チャンドラが慌てた様に声を上げる。

「――南西より熱源接近!砲撃です!」
「――離床!緊急回避!」

 マリューは指示を出すと、ノイマンがすぐにアークエンジェルの舵を動かす。
 アークエンジェルの船体はゆっくりと上昇を始め、イーゲルシュテルンが迎撃を開始する。数発のミサイルが撃ち落され、残りがさっきまで艦が有った場所に着弾し、上昇中の船体を激しく揺らした。

「――どこからだ!?」
「南西、二〇キロの地点と推定!」
「本艦の攻撃装備では対応できません!」

 ナタルが叫ぶと、サイが割り出したポイントを報告し、続く様にトノムラが現状で対応不可能だと事実を告げた。
 レーダーが利かない上、発射ポイントの特定までは不可能な為、闇雲に攻撃もする事が出来ずナタルは唇を噛んだ。

「くっ!」
「俺が行ってレーザーデジネーター照射する。それを目標にミサイルを撃ち込め!」
「今から索敵しても間に合いません」
「やらなきゃならんだろうが!それまでは当たるなよ!」

 ムウの声が響くとナタルは無駄だとばかりに声を上げるが、ムウは怒鳴って反論をすると通信を切った。

「フラガ機スタンバイ。進路クリア。システム、オールグリーン!」

 すぐにミリアリアがスカイグラスパーの発進準備を進める。それが終わるとカタパルトデッキから、青白い尾を引いたモビルアーマーが飛び立って行く。
 まともに調整が終わって無い為に、現状で武器もほどんと使えないスカイグラスパーを見送りマリュー達は見送ると、しばらくしてチャンドラが新たなミサイルの到来を告げる。

「――!第二波、接近!」
「――回避!総員、衝撃に備えて!」
「直撃――来ます!」

 マリューは叫んで指示を出すが、それ以上の術は無く飛来するミサイル群に息を飲むと、上ずった声でチャンドラが無情の報告を告げた。
 全ての者が衝撃に備えると、やがて窓の外が白く光り爆音と衝撃が襲って来る。――が、艦の揺れは予想を遥かに下回る物だった。
 爆発の光が治まり目を向けると、そこにはアグニを構えたνガンダムの姿があった。

「あっ!……敵弾消滅!」

 チャンドラが思い出した様にモニターを確認して歓喜に満ちた声で報告をすると、クルー達は全員が喜々とした表情を浮かべた。

「ふぅ……助かったわね……」

 マリューは大きく息を吐くと背凭れに体重を預けるが、未だ戦闘は継続中で有り、気を抜く事は出来ない。すぐに表情を切り替えると戦場へと目を向けるのだった。