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CCA-Seed_98 ◆TSElPlu4zM氏_第24話_後編

Last-modified: 2007-11-10 (土) 18:21:22

νガンダムのモニターには、格納庫のいつもの光景が映っていた。
 そこに映る整備兵達は慌しく動き回り、ストライクやスカイグラスパー、そして、アークエンジェルのスラスターの修理に追われている。
 キラは一人になった後もコックピットに残り、アムロの戦闘データを参考に自分の戦い方を模索していた。
 だが、戦闘と言う物はそう長く行われる物でも無く、データも粗方見終わり、一息吐いている所にコックピットの外から自分の事を呼ぶミリアリアに気付き、キラはコックピットを開放する。

「ねぇ、キラ、いい?」
「なにかあったの?」

 自分の事を呼び掛けるながらコックピットを覗き込むミリアリアに、キラは何事かと聞き返した。
 ミリアリアは一度後ろを振り返り、落ち着かない様子で中に入って来た。
 それは先日、トールがパイロットになった一件の折り、ミリアリア自身が格納庫で問題を起こした為に、多少なりとも整備兵達に対して後ろめたい気持ちがあっての行動だった。
 νガンダムのコックピットに目を丸くしながらも、ミリアリアは本題を告げる為にキラの方へと顔を向けて言い放つ。

「えっとね、私が言うのも何だけど、キラ、男らしくないわよ!」
「えっ!?……な、なにが?僕、ミリアリアに何かしたかな……?」

 キラはミリアリアの言い様に困惑した様子で聞き返した。

「私じゃなくてラクスによ。彼女、キラに避けられてるって、へこんでるわよ」
「あっ……、それは……」

 ミリアリアは少し怒った様子でラクスの事を告げると、自分のした事を思い出して口篭った。
 その様子にミリアリアは呆れた様で、少し冷たい視線を向ける。

「……キラが何したかは聞いてるわ。あのね、キラからしておいて、急に手のひらを返した様に無視されたら、ショック受けるのは誰だって当たり前でしょ。フレイの時はそんな素振り見せなかったから、キラがそう言う風な人だと思わなかったわ」
「な、なんでフレイが出て来るの!?」

 ラクスの話しで手一杯のキラは、更に初恋の女性であったフレイの話しを持ち出され、しかも自分の気持ちがばれていたとは思わず、思い切り慌てふためいた。
 だが、キラに取っては無情な事に、ミリアリアはさも当たり前の様に平然と聞き返す。

「だって、フレイの事、好きだったんでしょ?」
「そ、それは……」
「……キラ、見え見えだったしね。それよりも、今はラクスの事よ!」
「えっ!?え、えっと……、何と言うか……」
「……単純に恥ずかしいとか?」

 顔を赤くして口篭るキラに、ミリアリアは首を傾げて聞き返した。

「……それもあるけど、……それだけじゃなくって……」
「なに?」
「それは……」
「……はぁ。キラ、はっきりしないわねぇ」

 恥ずかしそうに口篭るキラに対して、ミリアリアは思い切り溜息を吐くと呆れた様子で言った。
 キラはどうして、その様に言われなければならないのか、訳も分からずに慌てながらも反射的に言った。

「ご、ゴメン!」
「私に謝られても仕方ないでしょ。謝るのならラクスに謝りなさいよ。それで、キラはラクスが嫌いになった訳じゃないんでしょ?」
「う、うん。それは勿論」

 キラはミリアリアの言葉に顔を赤くしながらも頷いた。
 ミリアリアは納得したのか、その口ぶりは先程よりも柔らかい物へと変化する。

「……そう。それなら、ちゃんと後で謝ってあげて。ラクス、もうすぐプラントに帰っちゃうかもしれないんだから、こんな別れ方、キラだって嫌でしょ?ラクスだって可哀想よ」
「……そう……だよね……」

 ミリアリアの言う通り、ラクスはプラントに戻る事になる。それは変え難い事実で、一生再会する事さえ出来ないかもしれない。
 そう思ったキラは、頷きながらもラクスを避けると言う子供っぽい行動を取った事を恥じた。
 そんな心中に気付く様子も無いミリアリアは、事は万事解決と判断したのか、少し軽い口調で言う。

「それにしても、キラは大変ねぇ。ラクスってお嬢様だし、プラントって物凄く遠いでしょ。頑張らないとね!」
「えっ!?……あ……、ラクスは……婚約者が居るから……。それに、僕の事、好きとは限らないし……」
「えっ、そうなの!?」

 ラクスに婚約者がいる事を知らなかったミリアリアは、驚いた様子で聞き返して来た。
 それに対してキラは、ただ頷くしかなかった。

「……うん」
「私はラクスが、キラの事を意識してる様に見えたけどなぁ……。でも、婚約者か……。キラ、どうするのよ?」
「どうするって言われても……、僕にはどうしようも無いから……。それにラクスは、プラントに戻った方が良いと思うんだ。このままアークエンジェルに居たら、軍に捕まるだけだし……」
「……そう……よね。それに、もう戻るの決定した様な物ですものね……」
「うん……」

 行き詰った二人の話しはそこで止まり、仕方なくミリアリアはキラにラクスにちゃんと謝る事を約束させると、その場を後にした。
 一人残ったキラは、大きく溜息を吐いてシートに体重を預けた。そうして数分経ち、こうしてても仕方ないと思ったのか、気分転換にコックピットから出て行った。
 キラがνガンダムの足元まで降りた所で、思わぬ事態が待っていた。

「ああっ!」

 ブリッジでの話し合いを終えたレジスタンス達の一人、金色の髪の少女、カガリがキラを見つけ声を上げた。そして、キラの前まで駆け寄って来ると鋭い目付きで睨み付けた。
 その異様な雰囲気に周りにいた者達も気付き、何事かと顔を見合わせる。

「……お前……お前が何故、あんな物に乗っている!?」

 カガリがキラに向かって、そう叫ぶと拳を振り上げた。

「えっ!?」

 キラは咄嗟に拳を片手で受け止めると、何故、目の前の少女が殴り掛かって来たのか分からず、怪訝な表情を浮かべた。
 拳を受け止められたカガリは悔しそうな顔に変わりながらも、再びキラを睨み付ける。
 表情、髪、雰囲気。
 キラはモルゲンレーテで自分がストライクに乗る前にシェルターの中に押し込んだ少女である事を思い出し、目を見開いた。

「あっ!?君……あの時……モルゲンレーテに居た……」

 あれから一月も経っては居ないが、キラには遠い昔の事に思えた。
 キラが感慨に耽っている間にも、カガリは掴まれたままの拳を振り払おうと身を捩る。

「っえぃ……離せこのバカっ!」
「うっ!」

 カガリが身を捩りながら振り払おうとした反対の手がキラの頬へと当たる。
 キラは瞬間的に手を離して後退った。
 そこへ、シミュレーターでトールの指導をしていたムウが、見兼ねた様子でキラとカガリの間に割って入って来た。

「おい、なにやってんだ!」
「うるさい!お前には関係無いだろ!」

 カガリは邪魔するなと言わんばかりに、ムウに対しても鋭い視線と罵声を浴びせた。
 ムウは自分達の状況も分かっていないのかと呆れながら、目の前で凄むレジスタンスの少女に告げる。

「……あのな、お嬢ちゃん。ここは軍艦なんだ。お前達が手を出せば、どうなるか分かってやってるのか?虎にも言われただろう」

 ムウの言う事は停戦調印の折に明記されており、カガリ達がアークエンジェルが手を出した場合は、レジスタンスはザフト・地球両軍から攻撃を受ける事は確実な物となっている。

「くっ……!貴様達はあんな卑怯者と手を組んで、恥ずかしいとは思わないのか!恥を知れ!」

 カガリは親の仇を見るかの様に、憎しみを込めた視線でムウを睨み付けながら叫んだ。
 格納庫に息が詰まる様な緊迫した空気が張り詰める。
 ここで揉め事を起こすのは得策でないと判断したレジスタンスのリーダーであるサイーブが、今にも殴り掛かりそうなカガリに向けて怒鳴りつけた。

「カガリ!」
「サイーブ!?」
「さっきまでの交渉をを無駄にするつもりか?」
「キサカまで!くっ……」

 組織のリーダーであるサイーブの声にカガリは顔を向けると、その隣に立っていたキサカが近付いて来て咎める様に言った。
 カガリは渋々引き下がるが、怒りは消えていない様で、ムウとキラを睨みつけていた。

「申し訳なかった。無礼を働いた事を詫びさせてもらう。少年、怪我は無いか?」

 キサカはムウとの前に歩み出て、レジスタンスとは思えぬ毅然とした態度で侘びを入れると、キラに声を掛けた。
 大したダメージでも無かったのか、怪訝な顔をしながらもキラは頷いた。

「……ええ、大丈夫です」
「全く、威勢の良いお嬢ちゃんだ……。こっちは虎との停戦が優先されてるからな。繰り返す様だが、下手な事をすれば分かってるだろ?」
「それは心得ている。重ねて詫びさせてもらいたい」

 ムウが呆れた様に言うと、キサカは静かに頷いて頭を下げた。
 例え子供が仕出かした事でも、今のレジスタンスに取っては大事に成り兼ねない出来事であり、最悪の場合、ザフト・地球両軍から攻撃、そして停戦終了後の協力関係すら不意になる可能性もあるのだ。
 キサカの対応に、ムウはキラに向かって顔を向けた。

「だってよ、キラ」
「……僕は気にしてませんから」
「少年、感謝する。……それでは失礼させてもらう。行くぞ、カガリ」

 キラは首を横に振って答えると、キサカは再度、頭を下げて踵を返した。
 カガリは怒りを隠さぬまま、一度キラ達に鋭い視線を浴びせるとキサカと共にサイーブの乗るバギーへと戻り、アークエンジェルを出て行った。
 キラはただ、唖然としながらレジスタンス達を見送った。

 プラントでは朝を向かえ、市民達は自分の生活、そして家族を守る為に、各々の職場へと向かい働き始めている時間となっていた。
 コロニーの中にも関わらず、その光景は地球上とそう大して変わらず、清清しく感じられる。
 だが、そんな光景が信じられない程、つい先程から開始された評議会では、早々に重苦しい空気が支配していた。
 理由は、ザフト軍が地球軍月本部基地の奇襲を成功させたこの機に、地球側との交渉を行うべきだとシーゲルが言い出した為であった。
 確かにシーゲルが言う様に、地球側も立て直す時間は欲しがるだろうが、既にプラントの世論はシルバーウインド号の一件もあり、大方が交戦を支持し、更に作戦を成功させた事で民衆は勢い付き、徹底抗戦を叫ぶ者達も増え始めていた。
 シーゲルの意見を聞き終わり、パトリックは眉間に皺を寄せると議長席へと目を向ける。

「……クライン議長、本気でその様なお考えをなされておいでですか?」
「うむ。先程言った様に、地球側も今回の事で立て直しの時間を欲しがる。交渉に持ち込むのであれば、私は今しか無いと思うが」
「今まで地球側は、どの様な状態であっても、プラントに対しての姿勢を変えた事など無かったでしょう。もし、交渉に失敗すれば民衆は議会に対して不信を抱くでしょう。有利に事を運ぶのであれば、更なる軍の展開を待ってからでも遅くは無いと思いますが?」

 シーゲルが自分の意見を繰り返すと、パトリックは淡々と反対の意見を唱えた。
 パトリックの言う事は、今までの事を振り返れば最もであり、評議会の議員達は判断に苦慮している様子だった。

「他の皆さんは?」
「……私は議長の案に賛成します。今回の作戦成功で、地球側も柔軟な姿勢を見せざるおう無いと思います」

 シーゲルが他の議員達に意見を求めると真っ先に発言したのは、アイリーン・カナーバだった。
 アイリーンとは前日に連絡を取り合った際、既にこの事は話しており、予定通りの行動と言える。

「私は反対です。今までの事を振り返りますと、現状で良い条件を引き出せるとは思えません。時期尚早かと思います」

 シーゲルの思惑を遮る様に、エザリア・ジュールが反対意見を唱えた。
 元々、パトリックに近い事もあるが、今作戦で息子であるイザークが活躍し勲章を授与されるのだから、軍部、そしてパトリックの意見に傾倒するのも当たり前と言えた。

「……他の方々はどうですかな?」

 シーゲルは一瞬、眉を顰めたがすぐに他の議員達へと意見を求めた。
 しかし、誰もが派閥などを考慮しながらも、プラントに取って正しい道はどちらなのかと考えている様子で、意見は出て来る事は無かった。
 一行に議題が進まない事に意味は無い、と言わんばかりの表情をパトリックは見せる。

「議長、このままでは埒が明きますまい。この議題が次回に持ち越しては?」
「待ってください。休憩を取り、考えを纏める時間を頂けませんか?」
「……分かりました。長くは取れませんが、一度、休憩を挟みます」

 アイリーン以外のクライン派の議員の一人が、自分達のリーダーに気を使うかの様に発言すると、シーゲルは頷きしばしの休憩に入った。
 この短い時間の中で自分の意見を出すことが出来なかった者達は、集まり話し合いを始めている。
 クライン派の者達の中でも、プラントの世論を考慮し反対の意見に入れたい者もいる様で、困った様な表情を見せている者も多かった。
 議会が再開されると、すぐにパトリックはシーゲルに向かって言った。

「議長、ここは挙手でどうでしょう?」

 シーゲルは頷くとそのまま採決に入るが、先程よりは手を挙げる者が増えこそすれ、どちらも半数には至らなかった。
 気付かれぬ程小さな溜息を吐いたシーゲルが、どちらにも手を挙げる事の無かった議員に向かって口を開いた。

「挙手をされなかった議員の方は、どの様なお考えですかな?」
「……議長のお考えも分かるのですが、反対票を入れた方々の言う事も最もだと思うのです。しかし、かと言って、このまま軍事行動を強く推し進めれば、互いに引く事も出来なく成る可能性もありますし……」
「あなたは誤解をされている様だ。私とて全面戦争など望んでいる訳では無いのですよ。交渉に持ち込むには早いと言っているのです。ただでさえ物量で圧されている我々が、有利に展開出来る機会なのだ。今は圧して、彼らに不利である事を自覚させなければ成らないのです!」

 議員の一人がどっち付かずの曖昧な返答をするが、内容が軍事方面に対して危惧する内容だった為にパトリックは不満げに反論すると、全ての議員が沈黙し耳を傾けた。
 その中、ニコルの父であるユーリ・アマルフィは、クライン派である為にシーゲルの案に対して、一応賛成と言う態度は見せてはいるが、その全てに対して同意している訳では無かった。
 特に今回はニコルの一件もあり、地球側の予想される対応と今後のプラントの事を思えば、パトリックの方が正しく聞こえ、ユーリの心中は大きく揺らいだ。
 そして、誰もが沈黙する中、ユーリが重苦しい顔つきで口を開いた。

「……議長、私も反対に入れさせて頂きます。今、公にこちらから交渉に入ったとなれば、気運に水を注し、民衆の反発は必至と思います。その様な事態は避けるべきでは無いでしょうか?ザラ国防委員長の言う様に、時期を見てからでも遅くは無いと思います」
「……むぅ」

 シーゲルは先程まで賛成に回っていたユーリが、突然手のひらを返し反対するなど予想もしていなかった為に、苦々しい表情で小さく呻いた。
 そのシーゲルとは対照的に、クライン派の一部が自分に賛同した事で、パトリックは口元に細い笑みを浮かべる。そして、勝ち誇った様子でシーゲルへと顔を向ける。

「他の方々は?このまま纏められないのであれば、意味を成さないと思いますが。議長のご判断は?」
「……どなたか意見は?」

 シーゲルは苦々しい表情のまま、他の議員達へと視線を向けた。
 挙手をする事が無かった議員達の一人、タッド・エルスマンが徐に口を開いた。

「クライン議長、私はどちらにも反対をしている訳ではありません。かと言って、賛成と言う訳でもありません。確かに民意を汲み取るのであれば、ザラ国防委員長の言う様にここは様子を見るべきと思います」

 タッドはどちらでも無い事を告げると、一度言葉を切り、周りの議員達を見回してから再び口を開いた。

「だが、チャンスがあるのであれば、外交チャンネルは開いておいた方が懸命ではあります。民衆を刺激するのが不味いのであれば、あくまでも下交渉と言う形で非公式に行えば良い。公の場に固執する事も無いと思いますが」
「……なるほど。それならば民衆を刺激せずに下準備を進める事も出来ますな。それに選択肢が多いに事に越した事は無い。私も非公式と言う事であれば賛成いたします」

 新たな案が飛び出て来た事で、どっち付かずだった議員達がタッドの案に乗り始めるが、それを牽制する声がパトリックの口からタッドへと向けられた。

「しかし、その場合、軍の動きはどうすれば良いとお考えですかな?我々は遂行中、または予定の作戦が後に控えているのですぞ」
「……非公式で行う以上、軍は今まで通りに動けば良いのでは。あくまで下交渉であって、今、軍を退かせる事は、有効なカードを使わないのと同じです」

 タッドの口調は、あくまでも慎重でありつつも毅然とした態度で答えた。

「……なるほど、分かりました。議長」

 あくまでもタッドの発言が、軍の動きを抑止する物では無い事を確認したパトリックは小さく頷き、シーゲルへと顔を向けた。
 当初の思惑とは違うが、シーゲルは非公式であったとしても交渉を行えるのならばと言う、安心した顔つきで頷く。

「……それでは、再度、決を採りたいと思います」

 シーゲルが全議員の顔を見回して採決を採る事を告げると、突然、扉が開き、ザフト軍の制服を着た男性がパトリックの所へと駆け寄った。
 その光景に、他の議員達は何事かと小さくざわめいた。
 耳打ちで報告を聞いたパトリックは、確認するかの様に小声で聞き返す。

「……それは本当か?未だ確認は取れて無いのだな?」

 パトリックはメモを受け取り、姿勢を正すと力強い声で全議員に向かって告げる。

「……失礼しました。採決の前に報告があります。未確認ですが、ラクス・クライン嬢らしき人物が地上にて確認されたとの報告が上がってまいりました」
「――そ、それは本当か、パトリック!?」

 パトリックの報告を聞き、ラクスの父親であるシーゲルは思わず席を立って、興奮した顔で聞き返した。

「未だ詳しい事は分かってはおりませんが、どうやら地球軍の新鋭艦に救助された模様で、現在、地上部隊が地球軍艦と一時的に停戦を結び、こちらの時間で今夜、DNA鑑定を行う予定となっております。怪我も無い様で、ほぼラクス・クライン嬢と判断して良いとの報告です」
「……ああ、ラクス」

 続けられるパトリックからの報告に、シーゲルは涙を流して娘の無事を喜んだ。
 死んだと思って諦めていた愛娘が生きていのだから、そのシーゲルの様子に議員達は、それぞれ涙を流したり、シーゲルに歩み寄り声を掛けたりと喜びを表している。

「それから報道ですが未確認の為、身柄の確保が出来次第、発表と考えております。軍としましては、早急に身柄確保の為に全力で対応する所存です」

 それを冷ややかな目で見つつも、パトリックは言葉を続け言い終えると「無事で良かったですな」と事務的にシーゲルへ告げた。
 だが、この興奮状態の中、誰もがそんな素振りに気付く事は無かった。

「……パトリック、娘を……ラクスの事を無事に……よろしく頼む」
「……分かっております」

 シーゲルが頭を深々と下げると、パトリックは事務的ながらも力強く頷いた。
 その後、最高評議会はタッドの案を採択して閉幕すると、再び議員達はシーゲルに喜びの声を一言掛けてから議場を後にして行った。
 他の議員達が出て行った、その場にはパトリックとシーゲル、二人だけが残された。

「……パトリック」
「議長、なんでしょうか?」
「重ね重ね、ラクスの事をよろしく頼む。何としても助けてやって欲しい」

 シーゲルはパトリックに歩み寄ると、手を取って再び深々と頭を下げた。それは評議会議長と言うよりも、娘の無事を願う一父親としての姿であった。
 パトリックは片手でシーゲルの肩を叩くと、古い友人としての一面を見せる。

「……分かっている。アスランの嫁でもあるのだ、私に取っても他人事では無いからな。我々も全力を尽くす、心配するな」
「……済まない」

 シーゲルはパトリックの言葉に目を赤くしながらも頷いた。
 パトリックはそれ以上、馴れ合うつもりは無く、議会で決まった地球側との交渉について口を開いた。

「……それよりも、地球側との交渉はどうするのだ?極秘裏に行うのであれば、マスコミに知られる訳には行くまい」
「ああ、交渉は私が自ら行おうと思う。マスコミには何とでも理由を吐けるさ」

 シーゲルは内容が内容だけに、父親から評議会議長の顔へと表情を一変させた。
 議長の立場にありながら、下交渉に自ら出向くなどと言うシーゲルに、パトリックは呆れながらも、内心で余計な護衛を出さなければならない事に眉を寄せた。

「……自ら出向くならば、少数ながらも守りも必要になるな」
「……それは、ユウキ君に頼もうと思う。パトリック、構わないか?」

 シーゲルはシーゲルで、内心、この交渉を足掛かりに停戦、または休戦を結ぶと言う目的があり、自分に取って都合の良い者達を揃えようと考えおり、ユウキを使う事を公言するかの様にパトリックに聞き返した。

「元々、FAITHは議長直属のだろう。先日は力を借りたが、本来は私がどうこうの出来る訳では無いからな。最もユウキが出るのならば、他の隊に出番は無い。私は軍本部に戻る。それではな」

 旗色の良いパトリックに取っては、シーゲルやユウキなどどうでも良く、今はラクス・クラインを救出し、民衆の支持を得て更に勢いに乗る事が議長の椅子への近道だった。
 その為にはシーゲルやユウキよりも、アマルフィ家にいる連合事務次官の娘の方が使えると言う物だ。
 パトリックは口元を歪ませる様に冷たい笑みを湛え、踵を返し議場を後にした。

 砂漠は既に月が昇り、もうすぐ深夜と言われる時間に差し掛かっていた。
 アークエンジェルの一室、キラの部屋では夜中にも関わらず明かりが点り、ベットの上で膝をつき合わせる様に正座で座るキラとラクスの姿があった。
 何故、こんな事になってしまっていると言えば至極簡単な事で、キラがラクスに謝る事をミリアリアと約束をしたにも関わらず、その機会が今の今までやって来なかった為だった。
 結局の所、業を煮やしたラクスが押し掛けて来たと言う訳だ。
 寝ていた所を叩き起こされたキラは、Tシャツ姿で身を小さくしながら俯き気味に言った。

「……えっと、ラクス」
「はい、何ですか?」

 ラクスはニコニコと笑みを浮かべて小首を傾げるが、その視線は決してキラの顔を外す事は無かった。
 常に突き刺さる視線にキラはドギマギしながら、顔を背けながら口を開く。

「……だから……そんな、見詰められても……」
「キラ、お話をする時は目を見て話す物ですよ!」

 ラクスはキラの言い様に笑みが固まると、キラの事をビシッと指差してお説教するかの如く声を上げた。
 迫力は無いのだが笑顔は消え、明らかに不満そうな表情を見せているラクスの変わり様に、キラは思わず姿勢を正した。

「……は、はい。ご、ごめんなさい……」
「それでですね、どうして私を避けていたのですか?」
「いや、だから、それは……」

 ラクスが問い質すと、キラは再び同じ様に顔を逸らした。
 何度言っても同じ事を繰り返すキラに業を煮やしたラクスは、両手をキラの頬に添えると無理矢理、自分の方へと向けさせて言った。

「ですから、目を逸らさないでください!」
「ぅわっ!?ゴ、ゴメン!」

 両手で顔を掴まれ、プリプリと怒るラクスの目の前にして、キラは慌てながらも再び謝った。
 が、怒りは収まらないのか、ラクスはそのままの体勢で静かに自分の想いを口にする。

「……私、少し怒ってますの。キラ、分かりますか?私を避けていた理由を仰ってください」
「は、はい。……ご、ごめんなさい!だ、だから、えっと……」
「むーぅ!謝ってばかりで、誠意が感じられませんわ!どうして理由を教えてくださらないんです!本当は私の事が嫌いなのですか!?」

 窄む様に言葉が出て来なくなるキラに、ラクスはとうとう頬を膨らますと、顔を挟んだままの両手を、まるでイヤイヤするかの様に左右に振りながら叫んだ。
 正座をしている上に、頭を振り回されるキラは堪った物では無く、突然の事に悲鳴を上げる。

「あわっあぁぁ……!ラ、ラクス、お願いだから、嫌いじゃないから!ちゃんと話すから手を離して!」
「……本当ですね?」
「はぁはぁ……う、うん」
「……分かりました。それでは理由を教えてください」

 息も絶え絶えのキラは詰問に頷くと、ラクスは両手を離し背を正してジッとキラを見詰めた。いや、睨んだ。
 キラは一度、深呼吸をするとゆっくりと口を開く。

「……ふぅ。えっとね、ぼ、僕はラクスに……あ、あんな事をし、しちゃって……それで……」
「だから、お顔を逸らさないでください!何度言ったら、分かってくださるんですか!」

 言う事に顔を赤く染めるキラは、やはり言葉が窄んで行き、ラクスは足元のベッドをボフボフと叩いて再び怒った。
 そんな事が数回繰り返され、キラの言いたい事が途切れ途切れではあったがラクスへと伝わり、お説教の様な雰囲気がようやく払拭された。

「……えっと、それは……キラは私の事を好きでいてくれてると言う事ですか?」

 きょとんとした表情で小首を傾げたラクスは、聞いた事を頭の中で整理すると、顔を真っ赤にしたキラに聞き返した。

「う、うん!」
「私、嬉しいですぅ!私もキラの事が大好きですわぁ!」

 キラは顔を真っ赤に染めながらカクカクと頭を動かして頷くと、先程の事が嘘の様に、ラクスは満面の笑みを浮かべて喜んだ。
 ちゃんと自分の気持ちが伝わっているのかキラ心配になりながらも、もう一つの有るべき事実を口にする。

「あ……ぼ、僕もだけれど……、ラクスにはアス……婚約者が……」
「アスランですか?……私、アスランも大好きですけれど、お友達と言った感じで……ちゃんとしたキスは……キラが初めてですわ……」
「そ、そうなの!?」
「はい!」

 頬を赤く染め、恥ずかしそうに答えるラクスの言葉に、キラは目を丸くして驚くと、目の前の少女は屈託の無いはにかんだ笑みを湛えて頷いた。
 事実、プラントに居る時、アスランは挨拶程度のキスばかりで、ラクスに対してそれ以上の事をしなかった。
 どう言う形であれ、キラが直接的な行動を取った為に、ラクスはアスランよりもキラに男性を感じたと言う事と、アークエンジェルに助けられ、意外にも充実した日々を送り、その中の触れ合いでキラの優しさを知ったと言う事も要因ではあるだろう。
 ラクスはキスをされた時の事を思い出しな、再び頬を染めた。

「最初は訳も分からなかったですけれども……キラが私をおいて行ってしまわれた時には……」
「……あの時は本当にごめん。みんなも大切だから……」
「分かっています。……キラ、私、アスランと会いましたら、この事を正直にお話をするつもりでいます」
「ええっ!?ほ、本当に……?」

 予想もしなかったラクスの発言に、キラは思わず狼狽えた。
 まさかキラが、そこまで狼狽えるとは思っていなかったのだろう、ラクスの顔からは笑みが消え、不安そうな表情が浮かんでいた。

「……もしかして、お嫌ですか?」
「……ううん。ごめん、そんな事無いよ。だから、そんな顔しないで」

 自分の態度が目の前の少女から笑顔を消し去ってしまったのを悟ったキラは、精一杯の笑顔を作りながら答えた。
 そして、キラの言葉を聞いたラクスは笑顔を取り戻すと頬を染め、真っ直ぐ見詰めながら頷くと、女性なら一度は夢見る願いを口にする。

「キラ、お願いがあります。あの……戦争が終わりましたら、私を……私を迎えに来てくださいますか?」
「ええっ!?」

 キラは再び狼狽えると、ラスクの顔からは笑顔が消え、その瞳が潤み始めた。
 高々、キスをしただけで、ここまで話しは飛ぶとは思いもキラも思わなかっただけに、狼狽えるのも当たり前ではあったが、今にも泣き出しそうなラクスを見て、そんな事も思っていられなくなった。そして、ラクスの頬を涙が伝うと、何故、あの時キスをしたのかを思い返した。
 確かにアスランに対しての嫉妬と言うのもあったが、自分自身がラクスの事を手に入れたいと思ったのは事実だった。ましてや、目の前の少女に好意を抱いてなければ、あの様な事はしない。

「……あっ!……駄目だ、僕はこんな時に!」

 己の甲斐性の無さに、キラは髪を掻き毟りながら自分の事を責めた。
 キラがそうしている間にも、ラクスの涙は流れ続ける。
 自分の想いに覚悟を決めたのか、キラは突然ラクスを抱きしめると捲くし立てる様に告げた。

「泣かしちゃってごめん!必ず、絶対に迎えに行くから!だから、それまで待ってて!」
「ふぇ!?……ほ、本当ですか!?」
「うん、絶対に迎えに行くから!」
「……はい。お待ちしていますから……必ず生きて……私を迎えに来てください」

 キラの腕の中で、ラクスは声を震わせながら喜びの涙を流した。