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CCA-Seed_98 ◆TSElPlu4zM氏_第24話_前編

Last-modified: 2009-10-09 (金) 19:46:01

ブリッジでレジスタンス達との話し合いの最中、キラがアムロの戦闘データを見たいと申し出た為、アークエンジェルのパイロット達はνガンダムの前へと来ていた。
 そこにストライクの修理作業の指示を出していたマードックが加わり、アムロを先頭に男五人がνガンダムのコックピットへと入って行く。

「キラ、シートに座れ」
「コンソール、いいですか?えっと……」

 アムロはシートの脇に立ち、座る様に言うと、キラは頷いてシートに腰を下ろしコンソールの起動スイッチを探すが、下手に押して大事があってはと躊躇も重なり、その手が宙を彷徨う。

「スイッチはここだ。パネルはコンソールモニターと一体型に成っているから、そこでコントロールを。データはスクリーンモニターに個別にも表示は出来る」
「相変わらず、凄いよな」
「……うわっ、すげー!コックピットの造りがストライクと違うんだ」

 見兼ねたアムロが、一つ一つ丁寧にキラに教え始めていると、前に一度、コックピットに入った事があるムウと、初めて入るトールが声を上げた。
 特にトールは始めて見たνガンダムのコックピット、特に三六〇度全周囲モニターに圧倒され興奮した様子だった。
 レクチャーを受けていたキラは、コンソールパネルを弄くりながらアムロに言う。

「……OSが共有出来るなら一番良いんでしょうけど、やっぱり無理そうですね」
「流石に元が違うからな」
「やろうと思ったら、システム解析とかも必要だろうし、どの位時間が掛かるか分からないですね」

 アムロは頷いて答えると、キラは少し困った様子で頭を掻いた。
 キラの頭の中では泡良くば、νガンダムのデータをストライクへと転送して、プログラムに組み込み機動効率を上げられないかと考えていたのだが、予想通りそれは不可能となった。
 時間と人員があれば、いずれは可能には成るだろうが、今のアークエンジェルでは到底不可能に近い話しだった。
 そうしているとムウが何か思いついたのか、アムロに声を掛けて来た。

「なぁ、アムロ。νガンダムはキラでも動かせるのか?」
「動かすだけなら問題は無いだろうが、サイコミュの調整が俺専用してあるからな、戦闘となる難しいだろう」

 アムロは少し考える素振りを見せるが、すぐにムウに向かって答えた。
 そのアムロの口から出て来た聞いた事も無い単語に、マードックは不思議そうな表情で聞き返す。

「サイコミュ?なんですか、そりゃ?」
「そうだな……、パイロットの脳波を駆動系に直接フィードバックして、ニュータイプの持つ能力を最大限に引き出す素材とでも言えば良いかな。
 バイオセンサーだけでは無く、サイコフレームも搭載した事で、更に機体の運動性、操作性が格段に向上している。後はファンネルの操作もそれに含まれるな」

 アムロは改めて技術の違いを感じ、なるべく噛み砕く様にして説明を始めるが、やはり固有名詞が出て来てしまう為に、マードックには些か分かり難かった様だったが、言っている事はなんとなくだが理解出来た様子だった。
 そのマードックは、自分にも分かるファンネルの事を聞いてみる事にした。

「えっと、ファンネルって……、確か前にあの放熱板みたいのをフィン・ファンネルって言ってましたね?壊れている物を装備しても邪魔だ。とか言ってたじゃないですか、あれも武器なんですか?」
「あの板ぺらみたいのがか?」
「ああ、そうだ。……例えれば、メビウス・ゼロにガンバレルが装備されているだろう。あれの無線式ビーム兵器だと思ってくれれば早い」

 マードックの問い掛けに反応する様に、ムウが格納庫の片隅に置かれているフィン・ファンネルの事を思い出して聞くと、アムロは『板ぺら』と言う言葉に苦笑いを浮かべながら答えた。
 フィン・ファンネルがビーム兵器だと思わなかったムウは、目を丸くしながらも少し羨ましげに言う。

「へぇ、ガンバレルと同じ様に動かせるなら、俺のにも組み込みたいもんだがなぁ」
「……フラガ少佐がモビルスーツに乗るならνガンダムみたいのが良いかもしれねえですね」
「まあ、今の時点で、俺はモビルスーツ動かせないんだから無理だけどな」

 マードックは顎を摩りながら言うと、ムウは両手を軽く挙げておどける様に応えた。

 そうしていると、一応、アムロのレクチャーで使い方を大方飲み込んだのか、キラがアムロに声を掛けて来た。

「あの、アムロさん。……これで良いですか?」
「ああ、悪い。今見れるのは、ほとんどが宇宙での戦闘記録だが、それで良いのか?」

 アムロはコンソールを確かめる様に脇からチェックをしながらも、νガンダムの運用が宇宙に限られていたのもあり、キラに聞き返した。
 その最中も、シートに座るキラと言う少年が、νガンダムのプログラムが違う世界で作られたにも関わらず、その全容を把握する早さや能力が高い事にアムロは関心していた。

「ええ、構いません。アムロさんの戦い方は参考になります」
「そうか。それなら好きに見てくれ。俺はそろそろ休ませて貰うが良いか?」

 キラは問いに対して言い切る様に答えると、アムロは軽く頷き、ムウに顔を向けて言った。
 昨日の早い時間からキラやムウの代わりに待機していた為、アムロは満足に休息すら取れていなかった。
 その事を思い出したムウが、頭を掻きながら少しバツが悪そうに応える。

「……そういやアムロ、長時間待機だったもんな。ゆっくり休んでくれ。二人の面倒は俺が見とくわ」
「済まない。二人の事を頼む」

 アムロは頷くと少し疲れた様子で、その場にいた全員に声を掛けてコックピットを後にした。
 νガンダムのコックピットは四人だけになり、しばしの沈黙が支配するが、徐にマードックが口を開いた。

「……νガンダムも完全な状態に出来ると良いんだけどな。まあ、仕方無いか。さて、俺も修理に戻るとすっかな。坊主、壊すなよ!」
「はい!ストライクをお願いします」
「俺も済まんね。おろし立てを被弾させちまって」
「仕方無いですよ。それじゃ!」

 マードックの言葉にキラが頷き、ムウが被弾させたスカイグラスパーの事でやんわりと謝罪をして来る。
 当のマードックは苦笑いを浮かべて答えると、そのままコックピットから出て行った。
 また一人減ったコックピットの中で軽く息を吐いたムウは、キラに向かって声を掛ける。

「……さて、モビルスーツとアーマーじゃ違うが、レクチャーくらいは出来るからな。それに俺もアムロの戦い方を参考にしたい。キラ、始めてくれ」
「はい」
「あの、僕も良いですか?」

 キラは頷き、コックピットを密閉する為にスイッチを押そうとした瞬間、トールがムウに声を掛けて来た。

「あー……お前、やる事あるだろ?」
「ええっ!?あぅ……」

 戦闘記録の方に気が行っていてトールの事を気にしていなかったのか、ムウはシミュレーターをやりに行けと言わんばかりの口調で答えると、トールはあからさまに肩を落としてうな垂れた。
 その様子を見たムウは頭を掻き毟ると、異常とも言える程、真剣な表情で口を開いた。

「……仕方ねえな……。ただし、ここで見た事は一切、他言無用だ。誰にも言うんじゃねえぞ。なんつっても軍事機密よりもヤバイ代物だからな」
「……分かりました。誰にも言いません」
「……それじゃ、始めます」

 トールは喜々とした表情を浮かべながら頷いた。
 その二人の遣り取りを見ていたキラは、スイッチを押してνガンダムのコックピットカバーを下ろすと、コックピットは暗闇に包まれた。

 レジスタンス達との話し合いの中、ラクスとミリアリアはパイロット達を追い掛ける様にブリッジを出て来ていた。
 ラクスはアークエンジェルの中では行動範囲が制限されている為、可能な範囲でキラの事を探しては見たのだが、一向に見つける事が出来ずに途方に暮れていた所だった。
 探し疲れるには些か時間が早過ぎるが、かなりへこんだ様子のラクスの呟きが通路に小さく木霊する。

「キラはどこに行ったのでしょう……」
「……ここを探して居ないとなると、やっぱり格納庫かなぁ?」
「……私は立ち入るのを許されておりませんわ……」

 ミリアリアがぽつりと口にすると、ラクスは肩を落とした。
 出撃前に医務室での出来事があったとは言え、突然、キラに避けられている様な気が仕始めて、ラクスは時間が経つ事に気分が落ち始めていた。
 そんなラクスの姿を見たミリアリアが心配そうな顔を向ける。

「……キラに急ぎの用なの?」
「……いいえ。ただ……」
「……ただ?」
「……私、キラに……避けられてる様でして……」

 言葉を止めたラクスを繰り返す様にミリアリアが小首を傾げると、ラクスは言葉にするのに躊躇いがあるのか、弱々しい声で答えた。
 戦闘の後に停戦交渉があったりと忙しかった為に、そう言う事を感じる暇さえ無かったミリアリアは驚きの表情を見せる。

「そうなの!?あんなに仲良さそうだったのに?」
「……はぁ」
「何かあった?」
「ふぇ!?……あ、いえ……その……」

 ミリアリアは大きな溜息を吐くラクスの両肩に手を掛けると、真剣な表情で問い掛けた。
 それに驚いたラクスは、目をぱちくりとさせながら何を言えば良いのか分からず、もごもごと言い淀んだ。

「……吐いちゃいなさい。楽になるわよ……」
「ほぇ!?ミ、ミリアリア!?」

 良くは分からないがミリアリアの顔と声には迫力が感じられ、ラクスは思わず脅えた様に後退った。
 だか、ラクスの両肩にはミリアリアの両手を掛けられている為に逃げる事すら出来ない。その光景は、まるで肉食獣に脅える小動物の様に見えた。
 容赦無いミリアリアの追求がラクスに迫る。

「さあ……言いなさい」
「あうぅぅ……、あの、あのぅ……キラに……えっと……」
「……キラに?」

 ラクスの視界はほぼミリアリアの顔で埋まり、少しでも前に動けば、今度はミリアリアとキスをする事になるくらいの距離になっていた。
 別にミリアリアにその気がある訳では無く、そこまで明るい話題が無い艦内において、久々のゴシップネタなのだから興味も引かれると言う物だ。

「あうぅ……キ、キスを……されて……しまいましたのぉ……」

 頬を朱に染め、おどおどと答えるラクスは、難なくミリアリアの追求に陥落したのだった。

 モニターの下には地球が青い輝いていた。前面には巨大な――アクシズと言う名の隕石。
 回りは宇宙空間中に有りながらも赤く照らされ、大気圏に突入している事が一目で理解出来た。
 それは、νガンダムが実戦に投入されてからの紛れも無い事実が映し出され、キラ、ムウ、トールの三人は、その事実、アムロ達、ロンド・ベルの戦いに息を飲み、誰もが目を離す事すら出来ずにいる。
 何故その様な光景を目にする事になったと言えば、実に単純で、当初はヘリオポリス辺りの記録を見ようとしていたのだが、キラ自身の操作にミスにより、νガンダムが始めて実戦投入時よりの戦闘記録、そして、音声記録までもが再生されてしまったのが原因だった。
 次々と敵を落として行くνガンダム。敵に捕まり犠牲になった女性パイロット。機体を捨ててまでアクシズ内に入っていった、この機体の持ち主、アムロ・レイの記録がそこには記されていた。
 そして、ついにはνガンダムが自ら隕石を押し出そうとしている場面まで進み、どこから現れたのか、νガンダムを支援するかの様に、次々と味方のモビルスーツがアクシズを押し出そうと取り付き始めてた。

『――なんだ!?どう言うんだ!?……やめてくれ、こんな事に付き合う必要は無い!下がれ、来るんじゃない!』
『なんだ!?何が起こっているんだ!?ええい、完全な作戦にはならんとは!』

 モニターにはパイロットであるアムロの姿こそ映ってはいないが、キラ達にも分かる聞き慣れたアムロの叫び声が、他のモビルスーツへと向けられた。
 その直後、先程まで戦っていた赤いモビルスーツに乗っていた男性――シャア・アズナブルの声がキラ達の耳に入って来る。
 アクシズに取り付き、押し返そうとするモビルスーツの数はまだまだ増えて行く。モビルスーツ達は背中のテールノズルから幾重のも光の尾を美しく伸ばしていた。
 その光景にキラは目を大きく見張り、口からは震える声が零れた。

「モビルスーツが集まって来る……」
「……モビルスーツで……こんなのを押し出そうって言うのか!?」

 以前にアムロから話は聞いてはいたし、前にも記録の一部を見た事はあったが、その時はここまで見る事は無かった。
 しかし、それが目の前で流れているのだ。その圧倒的な迫力、そして、その行為にムウの声が震えた。
 そうしていると、取り付いて行くモビルスーツの一機から、νガンダムへと通信が入る。

『ロンド・ベルだけにいい思いはさせませんよ!』
『しかし、その機体じゃ!』

 アムロはその味方のモビルスーツに向かって叫ぶが、その機体は離れる気など全く見せる事は無く、光の尾を伸ばして必死に隕石を押し返そうとしている。
 しかし、無情にもアクシズは落下を止める事は無かった。その中、信じられない事に先程まで戦っていた敵のモビルスーツまでもが、隕石に取り付き始めた。

『ギラ・ドーガまで!?無理だよ、みんな下がれ!』
『地球が駄目になるかならないかなんだ!やってみる価値ありますぜ!』
『しかし、爆装している機体だってある!』

 アムロの声が、アクシズに取り付く全てのモビルスーツ達に向かって下がる様に吠えるが、ギラ・ドーガと言われるモビルスーツのパイロットの声は、一縷の望みに掛けるを告げた。
 だが、それを拒み各パイロット達を心配するアムロの声がコックピットに響いた。

「……て、敵まで協力して押し出そうとしてる!?どうして?」

 トールには先程まで隕石を落とそうとしていた敵が、どうして共に阻もうとするのか分からず声を上げた。
 だが、誰もそれに答える事も出来るはずも無く、刻一刻と時間は進んで行く。

『駄目だ!摩擦熱とオーバーロードで自爆するだけだぞ!』

 アムロの叫び声が響くと、摩擦熱に耐える事の出来なかった一機のモビルスーツが爆発を起こして散って行った。

「ああっ!」

 キラはその光景に目を見開いた。
 摩擦熱に耐え切らなくなったモビルスーツが徐々に弾き飛ばされ始めるが、どの機体もアクシズから離れるのを拒み、一部の機体は近くの機体へと必死に手を伸ばし共に押し出そうとしていた。
 三人は奥歯を噛み締め、その場にいたならば共にアクシズを押し出したい気持ちでいた。しかし、それは叶う事は無い。

『もういいんだ、みんな止めろ!』

 アムロの必死の声が周りの無事な機体に向かって大きく響くが、それでもモビルスーツ達は数を減らしながらも必死に食らい付く。
 その時、再びシャアの声がνガンダムのコックピットに木霊した。

『結局、遅かれ早かれ、こんな悲しみだけが広がって地球を押し潰すのだ!ならば人類は自分の手で自分を裁いて、自然に対し、地球に対して贖罪しなければならん。アムロ、なんでこれが分からん!』
『離れろ!……ガンダムの力はっ!』

 しかし、アムロの声はそれを無視し、愛機に想いを込めた言葉が三人の耳に響くと、モニターには緑色とも見れる暖かい光の幕が広がって行く。
 その幻想的な光景は理解し難く、正に奇跡としか言いようがなかった。

『こ、これは、サイコフレームの共振!?人の意思が集中しすぎてオーバーロードしているのか?なのに、恐怖は感じない。むしろ温かくて、安心を感じるとは……』

 シャアの戸惑いの声が響くと、光の幕に弾かれる様に無事なモビルスーツ達が次々と跳ね飛ばされ、コックピットに映し出されていたモビルスーツ達は全てが幕の向こうへと消えて行った。

「な……なんなの!?」
「な、なにが起こったってんだ!?」

 人知とも知れぬ事を目にし、突然の出来事にキラとムウは目を見開く。それは声にせずとも、トールも同じだった。
 そして、その場にはνガンダムと、シャア・アズナブルの脱出ポッドがアクシズに減り込むように残っていた。

『何も出来ないで!おあっ!?』

 アムロの呻き声と共にモニターは大きく揺れ、その衝撃の大きさを三人に知らせていた。
 そして、シャアの悟った様な声がアムロに向けられる。

『そうか!しかし、この温かさを持った人間が地球さえ破壊するんだ。それを分かるんだよ、アムロ!』
『分かってるよ!だから、世界に人の心の光を見せなけりゃならないんだろ!』

 キラには聞き覚えのある言葉がそこにはあったが、それを口にする者同士の戦いの光景に、キラは息を飲む他無い。
 スピーカーからは、アムロに対して小ばかにする様なシャアの声が響く。

『ふん、そういう男にしてはクェスに冷たかったな、え?』
『俺はマシーンじゃない、クェスの父親代わりなどできない!……だからか。貴様はクェスをマシーンとして扱って!』
『そうか、クェスは父親を求めていたのか……。それで、それを私は迷惑に感じて、クェスをマシーンにしたんだな!?』
『貴様ほどの男が、なんて器量の小さい!』
『ララァ・スンは私の母になってくれるかもしれなかった女性だ!そのララァを殺したお前に言えたことか!』

 シャアの言葉に、キラは一瞬、体が震える。

「――!」

 キラの心の中にアムロが自分に向けて言った言葉が思い出される。
 『ラクス・クラインはハロを持って居た。何かしらの関わりが有っても可笑しくは無い。今は民間人だとしても、この先、敵対する可能性が無い訳では無いだろう』
 『嫌な言い方になるが、全てに可能性が無い訳じゃ無い。戦っている以上、敵である事には間違いないのだからな』
 『考え過ぎかもしれないが、キラに取っては、アスラン・ザラがシャアに当たる人間なのかもしれない。気をつけた方が良い』
 もしかしたら自分を含めたラクスやアスランが、そうなる可能性があるかもしれないと言う事にキラは息を飲み、アムロの『ああ、キラは僕では無いからな。……同じ事になるとは限らないさ』と、自分に言ってくれた言葉に縋り付きたくなった。

『お母さん……ララァが!?うわっ!?』

 アムロから零れる言葉と共に、光と衝撃がコックピットを襲うと、その後はアムロの声は聞こえて来なくなった。
 持ち主であるアムロ自身が、地球がどうなったのかさえ知らないと言っていた事を考えれば、恐らくこの場面で気を失い、それ以降、記録をここまで確認していなかったのだろう。その続きが、そこにはあった。
 光の向こうに見えるのは、徐々に離れて行く地球とアクシズのみ。それも光に因って徐々に輪郭を失って行く。
 恐らくアムロ達は地球を救ったのだろう。と言う確信を持ちながらも、三人はモニターがホワイトアウトして行くのを見ていた。
 そして完全に光に包まれると、キラは思い出した様にスイッチを押して戦闘記録を停止させた。
 コックピットにはアークエンジェルの格納庫の様子が映し出される。
 ムウはしゃがみ込むと、吐き捨てるかの様に口を開いた。

「……なんなんだ……なんなんだよ、この戦いは……」
「……シャアって人は、本当にアムロさんと決着を着ける為に隕石を……」
「地球への贖罪だ!?母親だ!?ふざけるな!こんなんで隕石なんかを落とすのかよ!シャアって奴は何を考えてんだ!」

 呼応するかの様にキラが呟くと、ムウは見た事も無いシャア・アズナブルに対して怒りを顕わにした。
 そして、アムロの事に対して何も知らないトールが悔しそうな顔を見せて呟く。

「……俺達がヘリオポリスで暮らしてる間に……地球じゃこんな事が……こんな事が起こってたのかよ……」
「それは……」

 キラが言いかけるが、事実を告げる訳にも行かず、言葉を止める他無かった。
 事実を言う事が出来ないのはムウも同じで、見せてしまった以上、今は勘違いさせておく以外は無い。
 ムウは立ち上がり、トールに向かって真剣な顔を向けた。

「……トール、いつか本当の事を教えてやる。それまで、この事は絶対に誰にも喋るな」
「……分かりました」
「……しかし、参ったな……。アムロはこんな奴らを相手に戦いを繰り返して来たって言うのかよ……」

 トールが真面目な表情で頷くと、ムウは髪を掻き毟りながら呟いた。
 ムウに取っては、地球にNジャマーを落とされている事を考えれば他人事では無かった。そして、地球を救ったアムロが味方でいる事を心の中で感謝した。
 キラはνガンダムを労る様な手付きで操縦桿に右手を添えると、俯きながらも真剣な表情で言う。

「……アムロさんに言われたんです。この世界を良い方向に導くのは僕達の役目だって……。何をすれば良いのか分からないけれど、アムロさんがそう言うの、なんだか分かった気がします」
「……ああ、そうだな」
「でも、どうすれば良いのか……大き過ぎて、見当も付かなくて……」
「それなら、今は俺達にやれる事をやるしかないだろ」
「……そうですね」

 ムウは腰に手を当て真面目な声で答えると、キラは顔を上げ頷いた。
 二人の遣り取りを黙って聞いていたトールが、何か決意したのかの様に力強い言葉でムウへと告げる。

「……知らない間にこんな事が起こってたなんて……。俺、シミュレーターやってきます」
「……ん?あ、ああ」
「……トール?」

 ムウは呆気に取られた様に応えると、キラがトールの顔を見詰めた。
 トールは少しだけ笑みを零すと、キラに向かって答える。

「フラガ少佐が言ったじゃん、やれる事をやるしかないって。アムロ大尉が地球を守ってくれて、この世界を良い方向に導くのは俺達の役目だって言ったんだろ?
 今はアムロ大尉やフラガ少佐みたいには成れないけどさ、俺だってやれる事があるなら、アムロ大尉の言う事に応えなきゃ」
「……そうだな。トール、行くぞ!」
「お願いします!」

 ムウも少しだけ笑みを湛えると頷き、トールはムウに元気良く頭を下げた。
 キラがスイッチを押してコックピットを開放すると、二人は外へと出て行こうとする。その途中、ムウが振り返ってキラに言った。

「……そうだ。キラ、お前は病み上がりなんだし、あんまり寝て無いだろ?程々にしておけ」
「はい」

 キラが頷くと、二人はνガンダムを離れて行った。
 コックピットを再度閉じると、キラは呟く。

「僕のやれる事か……」

 キラは再びコンソールを操作し始めた。
 自分達の良き未来へと繋げる為に、何をすれば良いのか分からなくとも、考えてやれる事に全力を尽くす。それが、今出来る最大限の事だった。

 格納庫を後にしたアムロは居住区の通路を歩いていた。
 流石にザフト軍の攻撃後である事と、それに付け加えレジスタンスが来訪している事もあって、通路を行き交う乗組員の数は多かった。すれ違う者達は皆、敬礼をしては各々の行くべき先へと向かって行く。
 その中にレジスタンスとの話し合いを終えて、自室へ向かおうとするナタルの姿があった。

「バジルール中尉、レジスタンスとの話しは終わったのか?」
「ア、アムロ大尉!?気付かずに申し訳ありません!」

 アムロに声を掛けられたナタルは疲れの為か、一瞬驚いた様子ではあったが、すぐに駆け寄って来て敬礼をした。
 その姿を見たアムロは気遣う様子で言った。

「いや、気にしないでくれ。疲れているようだな」
「いいえ、その様な事はありません」
「……ナタル、休息に入るのだろう?そこまで気を張る必要は無いさ」
「も、申し訳ありません……」

 アムロは力を抜く様に言うと、ナタルは以前、『君はチャーミングなんだ。その方が、もっと魅力的に見える』と言われた事を思い出し、頬を染めた。
 そんな事をナタルが思い出しているとは思わぬアムロは、少々不思議そうな顔をしながらも、ブリッジでのその後の事を聞いた。

「……それでレジスタンスは?」
「あ、はい!今の所は一先ずと言った所です。一応ですが、停戦終了後にザフト軍による攻撃が当艦に行われた場合、協力すると言う事で概ね合意しています」

 ナタルは慌てて表情を正すと、すぐに事の報告を始めた。
 アムロ達がブリッジを立ち去った後、レジスタンス側に居た大柄な男性――キサカが交渉役として出て来た為、思いの他スムーズに話しは進み、口約束ではあるがザフト軍との停戦が終了するまで、互いに協力は求めないと言う事になった。
 レジスタンス側の代表であるサイーブは、停戦終了後、直ちに協力関係を発動し、ザフト軍を攻める事を要求したがではあったが、マリューはアークエンジェルへの攻撃が来なければ意味を成さないと拒否をした。
 しかし、これをキサカが上手く纏め、停戦終了後、ザフト軍からアークエンジェルへの攻撃があった場合のみ、直ちに協力して共に戦うと言う事にし、一応の決着を見る事となった。
 実際問題、カガリ、サイーブは不満を漏らしこそしたが、両軍を相手にするよりはマシだと言うキサカの説得に屈した形になっている。

「そうか。上手くは行ったと言う事か」

 事の内容を聞いたアムロは、他の者達の邪魔にならない様、通路の壁に背を預けると頷きながら言った。
 ナタルも同様に、アムロの隣で壁に背を預けながら顔を向ける。

「ですが、所詮はレジスタンスです。ザフトと同様、安易に信用して良い物かどうか」

「少なくとも彼らの敵は我々では無いからな。それに利害が一致していると思ったからこそ、話し合いに来たのだろうし、こちらのモビルスーツを戦力として当てにしていると言う事だろう」
「正直な所、レジスタンスが戦力になると思いますか?」
「無い物強請りは出来ないが、レジスタンスだとしても戦力が多いに越した事は無いさ」

 大した兵装を持たないレジスタンス達の代わりにアークエンジェルが矢面に立つ必要があるのか、と言うのがナタルの実際の本音だった。だが、アムロの言う通り、アフリカ大陸を脱出するには戦力は多いに越した事は無い。

「……そうですね」

 ナタルは少し考えると、アムロに対して頷いた。
 アムロは話しに一応の落ちが着いた事を悟ると、壁に背を預けたままで腕を組み、戦闘中に起こった疑問を口にした。

「それにしても、戦闘中にラクス・クラインが良く申し出たな」
「理由は私には分かりません。それにラミアス艦長も、この様に成るとは予想して無かった様です」

 ナタルはブリッジであった事を踏まえつつも、分かる事だけを言った。
 それを聞いたアムロは、バルドフェルドが再戦を望む事を口にした時に、ラクスが『命の恩人に対して、その様な事、私は許しません』と言っていた事を思い出した。

「あの様子だと恩返しのつもりなのだろうが……。それに助けられたのも事実だからな。それはそうと、艦の被害状況はどうだ?俺があの四つ足に攻撃した時、装甲にダメージが行っただろう」
「ええ、ですが装甲を焦がした程度です」
「……その程度で済んでいるのは分かってはいたが、あの時は、ああするしか無かったからな」

 アムロは戦闘時にブリッジ上でラゴウに対して、アグニを発射した事を憂慮していた。

 勿論、火力を考慮してトリガーを引いたが、一つ間違えれば自らアークエンジェルを落とし兼ねない行為だったのだから、反省もすると言う物だった。
 だが、アムロの表情を見たナタルは、反省する必要は無いと言わんばかりに、少し肩の力を抜きながら言う。

「私も、あそこで撃つとは思いませんでしたけれど、アムロ大尉がああしなければ、きっと我々は落とされていました。お気になさらないでください」
「そう言って貰えると助かるよ。次はもう少し上手くやる様にする」
「はい。ブリッジ要員の何人かは、顔を青くしていましたから」
「それは彼らに悪い事をしたな」

 ナタルは頷いて普段よりも柔らかい笑みを浮かべると、アムロは雰囲気を察して冗談に応えるかの様に肩を竦めながら言った。
 二人の間に少しだけ笑みが零れると、アムロが労うかの様に口を開いた。

「それにしても、お互い長かったな。それで、僕は眠る前に軽く食事でもしておこうと思ったんだが、一緒にどうだ?」
「……寝る前にですか?」
「流石にあれから食事を摂って無かったからな。軽くでも胃の中に入れて置いた方が良く眠れるだろう」
「ですが……」

 ナタルはアムロと同様、長時間に渡りほぼ休み無くブリッジに詰めていた為、かなりの空腹ではあるが、寝る前の食事となると些か迷いが生じた。
 その表情を見過ごす訳も無く、アムロは左手で首の裏辺りを摩りながら口を開いた。

「無理にとは言わないが……。やはり女性は気に……」
「あの、大尉……」
「……あ、いや、デリカシーの無い事を言って済まない」

 ナタルは困った様な目をしながら言い掛けるが、アムロはすぐにそれを遮って自分の失言に対しての謝罪を口にした。
 アムロの見せた意外な一面に、ナタルは困った様な表情を崩し少し微笑む。

「……いいえ。あの……お食事、お付き合いさせてください」

 そう答えたナタルにアムロは軽く頷くと、二人は肩を並べて歩き始めた。