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CCA-Seed_98 ◆TSElPlu4zM氏_第27話_前編

Last-modified: 2007-11-10 (土) 18:22:52

人工の夕日が街を赤く染め上げ、まるでこの場所がコロニーの中である事を忘れてしまうかの様な光景が広がっていた。
 ベランダでたたずみ夕景を眺めるフレイは溜息を零すと呟く。

「……本当、アスランどうしちゃんったんだろう」
「分かりません。イザーク達にも聞いてみたんですが、さっぱりで……」
「……あんな事があった後だし、心配だわ」
「……ええ」

 フレイの隣にやって来たニコルはその顔に残る傷を包帯隠してはいたが、病室でアスランに向かって吐いた暴言の事もあって、後ろめたさから声を落としながら頷いた。
 いくら連絡をしてもアスランへは繋がらず、思い立って仲間達に聞いてもその行方を掴む事は出来なかった。
 冷静になってみれば病室で吐いた言葉は正しかったのか、ニコルは自信が持てずにいたが、あの時はああ言う他無かった。
 だが、その後にフレイがアスランを慰めており、例え立ち無くともアスランの性格からして何も言わずに姿を消すとは思えなかった。

「二人ともここにいたのか。お茶にしよう、下に下りておいで」

 後から突然声を掛けられたニコルは、思考を中断してフレイと共に振り返る。
 そこには自分の父であるユーリ・アマルフィが穏やかな表情を湛えて二人が来るのを待っていた。

「あっ、はい。……そうだ父さん、アスランがつかまらないんですけど、何か知りませんか?」

 返事をしたニコルは、評議会議員である父ならば何か知っているかも知れないと思い、アスランの行方を尋ねた。
 息子の言葉を聞いたユーリは、父親らしい表情で真面目に聞き返した。

「アスランがつかまらない?……一体どう言う事だい?」
「えっと、アスランが全然見つからないんです。ニコルがお友達に聞いたりしたんですけれど……、それでも全く駄目で……」
「流石に私にも分からないな……」

 フレイが問いに声を沈ませながら答えると、この事に関して何も知らないユーリはただ首を横に振るだけだった。
 それでも諦められない様子のニコルは、無理を承知の上で言ってみた。

「あの、アスランのお父さんなら何か知ってると思うんですけど……」
「……ザラ国防委員長は厳しいお方だからな。聞いても無駄だと思うぞ」
「父さん、お願いします!僕、アスランに酷い事言ってしまって……」
「あの……、私からもお願いします!アスランが心配なんです!」

 ユーリは困った様な顔を見せて答えると、ニコルは必死に頭を下げて頼み込んだ。それを見たフレイも同じようにユーリに向かって深く頭を下げた。

「二人とも……。待っていなさい」

 頭を下げ続ける二人を見てユーリは、少しでも親らしい事をしてあげたいと思ったのか、ゆっくりと口を開くと踵を返して部屋の中にある電話の元へと歩いて行った。
 派閥が違い忙しい身のパトリックに私用電話など掛けた事など無く、まともに取り次いでもらえるかさえ怪しいが、これも愛する子供達の為なのだと割り切って受話器を手にした。

「……申し訳ありません、プラント最高評議会議員のユーリ・アマルフィです。パトリック・ザラ国防委員長にお繋ぎいただけますか?……はい、お願いします」

 数回のコールの後に電話が繋がり、ユーリは落ち着いた様子で用件を伝えると、受話器の向こう側から待つ様に言われ電話越しに軽く頷いた。

『パトリック・ザラですが、突然どうしましたかな?』

 一分程待つと耳に押し当てた受話器から、落ち着いた低い声が聞こえて来た。

「お忙しい所を突然、申し訳ありません。……ご子息のアスラン・ザラ君の事で少々、お聞きしたい事がございまして」
『……アスランの事で?』
「ええ。うちの息子がご子息の事を心配しておりまして、八方尽くしても見つからないと……」
『うちの馬鹿息子にも心配してくれる友が出来るとは……』
「ニコルはご子息に良くして頂いておりますゆえ、兄の様に慕っておりますから……」
『良いご子息をお持ちで……。ありがとうございます。父として息子に成り代わり感謝致します』

 何か思う所があるのかパトリックの声が静かに響くと、ユーリは国防委員長も人の親なのだと心を緩めた。
 議長であるシーゲル様に評議会以外で接する機会が多くないパトリックに対して、派閥が違う事もあり色眼鏡を通して見ていた事は事実ではあるが、言動を見る限りパトリック・ザラと言う人物に抱いていた偏見は間違いなのではないかとユーリは思い始めていた。

「いいえ、アスラン君程では……。ああ、それでですが、そのアスラン君は?」
『軍規上の事ゆえ詳しくはお教えする事は出来ませんが、数日中にそちらにお伺いする事になるはずです。ご子息には心配なさる必要は無いとお伝え頂きたい』
「分かりました。息子にはそう伝えておきます。お忙しい所を申し訳ありませんでした」

 パトリックの言葉に納得するとユーリは電話越しに軽く頭を下げて礼を言った。
 そこで会話も終わるかと思ったがそんな事は無く、パトリックの声が再び受話器から聞こえて来る。

『いいえ、構いません。それでですが、プラントの未来を案ずる者として腹を割ってあなたと話してみたいと思っているのですが、いかがですかな?』
「ええ、私はかまいませんよ」
『そうですか、それは有り難い。後ほど秘書官に連絡させますゆえ、都合の良い時間をお伝えいたたきたい』
「分かりました、お電話をお待ちしています。それでは失礼します」

 受話器を置いたユーリは軽く息を吐くと、予想もしなかった展開を良い機会だと思う事にして二人の子供達の元へと歩いて行った。

「二人とも、どうやらアスランは軍務で連絡が取れない様だが、何日かすればここに来るらしい。ザラ委員長が心配する必要は無いと言っていたよ」
「そうですか……」
「良かった……」

 アスランの無事を知ったニコルとフレイは、心底安堵した表情を見せた。
 二人を見てユーリは微笑むと、付け加える様に口を開く。

「それから、アスランの身を案じてくれる友達がいる事を喜んでいたよ」
「アスランのお父さんがですか!?」
「ああ」

 ニコルとてパトリックの厳しさをアスランから聞いている為、予想外の言葉に目を丸くして聞き返すとユーリは楽しそうに答えた。
 この一本の電話が、後にパトリックとユーリの距離を近付ける事になろうとは誰も知る由も無い。

 薄暗い執務室でユーリ・アマルフィとの通話を終えたパトリックは、受話器を置くと呆れた顔を浮かべて背を椅子に預けた。

「……アスランめ、まあ良い。これで上手く行けば、アマルフィを取り込む事も出来よう」

 ここ数日アスランの事で愚痴を零す事が増えた様な気がするが、政敵であるクライン派を切り崩す切っ掛けになるのならば安い物だと割り切った。
 ましてやユーリは先日の議会でシーゲルを裏切り、自分の案に方に票を入れているのだ。自分の派閥の更なる拡大を図る絶好の機会にパトリックは笑みを湛えた。
 そうしていると扉が開き、将校の一人が姿を見せる。

「失礼します」
「どうした?」
「アフリカ方面隊のアンドリュー・バルドフェルド隊長から命令撤回の要請が来ておりまして……」

 地球で戦う兵士達からすれば本国勤務は喜ぶべき事で、ましてや再編で招集されるのだから完全な本来は栄転なのだから、命令撤回の要請が送られて来るとは予想もしていなかった。
 クルーゼから『変わり者』と評されたアンドリュー・バルドフェルドと言う男に、心底呆れながらもパトリックは士官に言い放つ。

「……何を寝ぼけた事を。この命令は再編の一環に則って行われる物だ。今更、覆る事は無い。そう伝えろ」
「はい、了解しました」
「待て」
「はっ!?あ、何でしょうか?」

 踵を返そうとしていた将校は振り返ると、馬鹿丁寧に背筋を伸ばして上官の言葉を待った。
 パトリックは体を起こして鋭い目つきを見せた。

「今は下手に動かぬ様、アンドリュー・バルドフェルドに伝えろ。ラクス・クラインの命が掛かっている。絶対命令だ、いいな?」
「了解しました!」
「それから秘書官に伝言を頼む。ユーリ・アマルフィに連絡して都合の良い時間を聞いて、私の時間を空けておくように伝えておいていくれ」
「分かりました。それでは失礼します!」

 将校は敬礼をすると、踵を返して光が覆う扉の向こうへと姿を消して行った。

「……全く、アンドリュー・バルドフェルドめ。何が不服だと言うのだ」

 パトリックは明らかに不機嫌な顔で再び椅子に体重を預けると、しばらく無言のままで過ごし、徐にデスクの引き出しを開けた。
 手にした一枚の写真に目を向けると先程とは違い、息子にも見せた事も無い柔らかい表情を浮かべる。

「なかなか上手く行かんが、いずれは……。待っていてくれ……」

 亡き妻に語り掛けるパトリックは遺影を胸に抱くと、そのまま目を閉じて短い眠りに就いた。

 レジスタンスを退け、一夜明けたアークエンジェルの船体に、陽射しが容赦無く照りつけていた。
 ブリッジのモニターに映るバルドフェルドの顔には、疲れが見て取れた。
 バルドフェルド隊は当初、レジスタンスの本拠地を強襲する予定でいたのだが、プラント本国の命令を不服に思ったバルドフェルドが、レジスタンス掃討よりも命令撤回を優先させ、交渉も自ら行った為に不眠不休になったと言うのが事の顛末だった。
 当たり前の事だが、そんな理由などアークエンジェルのクルー達には皆目見当も付く訳が無い。
 モニターに映るバルドフェルドからの伝達事項を、マリューは頷きながら聞いていた。

『――それでだがラミアス艦長、プラント本国に地球側の人間を保護していると知らせが来た。名前はフレイ・アルスター。そちらの事務次官のお嬢さんだそうだ』
「えっ、フレイが!?」
「知ってるの?」

 スピーカーから伝えられる内容にサイが驚きの声を上げると、マリューは神妙な面持ちで聞き返した。

「はい!」
「……保護して頂いた事を感謝します。身柄の引渡しをお願い出来ますでしょうか?」
『こちらに到着するまでに、早くとも一週間程掛かるらしい。身柄は同時に交換と言う事で良いかね?』
「ええ、よろしくお願いします」

 モニターに映るバルドフェルドが首に手を当てて聞き返すと、マリューは力強く頷いた。
 するとブリッジの扉が開き、トールの指導を終えたムウが姿を現す。

「あー、疲れた疲れた」
『これはフラガ少佐、良く休めたかね』
「ん?ああ、良く寝させてもらったさ。そっちは不景気そうだけど、何かあったの?」
『色々とね。それで彼らは?』
「交代してそう時間が経ってないから、寝てると思うけど」

 バルドフェルドの言う『彼ら』と言うのが、アムロとキラの事だとすぐに見当がついたムウは、艦長席の方へと歩み寄りながら質問に答えた。
 フレイアルスターの件とは別に、何かがあったのだと感じ取ったマリューは、モニターへと顔を向ける。

「……あの、何か?」
『……どの道分かる事だ、教えておこう。不本意ながらプラント本国から我が隊に、ラクス・クラインと共に帰還しろと命令が出てね、ここでの君達との再戦が不可能になった。……はぁ。本当に本国の馬鹿どもは、つまらん事をしてくれるよ』

 バルドフェルドは一度髪を掻き毟ると、本当に不景気そうな表情を見せながら最後に溜息を吐いた。
 砂漠の虎からすれば、停戦終了後の楽しみを奪われたのだから、拗ねたくもなると言う所なのだろう。
 そんなバルドフェルドの気持ちを知ってか、エンデュミオンの鷹は嫌味を込めてニヤケ気味に言う。

「こっちとしては余計な戦闘をしなくて済むんだし有り難いさ。それにプラント詰めならご栄転なんじゃないの?差詰め、おめでとうってとこだろ?」
『フッハハ!……まあ、そうなんだがな。……替わりの隊が来るんだ、君達もそうは言ってられないだろう。僕達は宇宙に上がるが、再戦するまで落とされてくれるなよ』
「へいへい、言われ無くても頑張りますよ」

 言わんとする事を理解したバルドフェルドが額に手を当てて笑みを見せながら言うと、ムウはわざとらしく両手を軽く上げてそれに応えた。
 当たり前ではあるが、ムウは元よりアークエンジェルのクルー全員が落とされるつもりなどは微塵も無い。
 それを感じ取ったバルドフェルドがモニター越しに小さな笑みを零すと、マリューに向かって言う。

『さて、本当なら昨晩にやる事があったんだが、それも出来ず仕舞いだったし、ゴタゴタのおかげで僕は疲れたからね。今日はここまでと言う事で、君達もゆっくりすると良い。何かあったらダコスタに言ってくれ』
「分かりました」

 マリューが頷くとモニターからはバルドフェルドの姿が消え、砂漠に見える蜃気楼を映し出す。
 するとブリッジのクルー達は、今の遣り取りから砂漠の虎と戦わなくて済むと分かり、皆明るい表情を見せて歓声を上げた。
 そんな中、マリュー一人だけが大きく溜息を吐く姿があった。

「……はぁ」
「……おいおい、大丈夫かよ?」
「ええ、大丈夫です」
「そんな風には見えないけどな。疲れてるんだろ?」
「ええ、少しだけ。……気疲れみたいな物ですから」

 顔を覗き込むムウに、マリューは誤魔化す様な小さな笑みを作って見せた。
 だが短い付き合いとは言え、毎日顔を付き合わせているのだから、ムウにもその表情が心から出ていない事は理解出来る。

「心配事あるんだろう?虎の事か?それとも代わりに来る部隊の事か?」

 ムウが問い掛けるとマリューは曖昧に小さく首を振って応える。だが、その表情からは気落ちしている事だけが見て取れた。

「……もしかして昨日の事、気にしてるのか?」

 一つだけ思い当たる節があったムウは再び問い掛けるが、マリューは先程と同様に小さく首を振るだけだった。
 疲れた姿を見せるマリューをムウは見詰め続けると、埒が開かないとばかりに軽く息を吐いてナタルの姿を探した。

「バジルールって、……今は休んでるのか?……おい、少し艦長と出てくるから頼むわ」
「了解しました」
「一緒に来いよ」

 ナタルがいないと分かるとムウは、チャンドラに一言ってマリューの手を掴んだ。

「ええっ、フラガ少佐!?」
「いいから着いて来いって」

 突然の事にマリューが目を剥くと、ムウは彼女を引きずる様にしてブリッジを出て行った。

 洞窟と言うには広すぎる穴倉の中を、キサカは光の差す方へと歩いていた。その褐色の背中は熱を帯び腫れ上がっている。
 昨日の地球・ザフト両軍との戦闘の一件もあり、レジスタンスの本拠地は閑散とし、穴倉の入口は陽と影の境を色濃く分け、誰もが目を細める程だった。
 その中、地面に腰を下ろし、一人膝を抱える少女を見付ける。

「こんな所でどうした、カガリ?」
「……なあ、キサカ。私は……私はみんなの仲間じゃ無いのか?私だって……悔しいのに……」

 昨日、エドルの一件でサイーブに言われた事が堪えている様で、カガリは俯きながら唇を噛んだ。
 キサカにもカガリの言いたい事も理解出来るが甘やかす訳には行かない。キサカは落ち着いた口調で諭すように言う。

「……カガリ、これはサイーブ達、この土地の者達の問題だ。彼らがこうして受け入れているのも、後ろ盾があってこそなのを理解する事だ」
「でも、……私のやっている事は……ザフト軍をここから追い出そうとしている事は間違っているのか?」
「……ヘリオポリスの一件があったとしても、本来ならば地球軍もザフト軍も我々の敵では無い。カガリは深く事に関わり過ぎている。もし、ザフト軍に捕まり身元が判明すれば、今度は母国に被害が出る事になるぞ」
「私は……」

 キサカの言う事は正しく、もし自身が捕まる事があれば母国に迷惑を掛ける事になるのは確実であり、その事に対してカガリは何も言えなくなった。

「カガリはもう少し冷静になって、視野を広く持つ事だ」
「冷静に……視野を広く……?」

 灼熱の砂漠を見詰めながら口を開いたキサカの言葉を、背中を丸めたままカガリは小さく反芻する。

「時には自分の間違いを認める事も必要だ。本当の敵が何なのか見極める目を持て。いずれは人の上に立つ身なのだから心掛けておけ」
「……私に出来るだろうか?」
「まだ時間はある。それまで努力をする事だ」

 カガリの小さな問いに、キサカは灼熱の砂漠を見詰めながら答えた。
 余程の事が無い限り人の本質など早々に変わる訳が無い。それはキサカにも分かっている。
 サイーブ達レジスタンスのメンバーには悪いが、昨日の無謀な戦いがカガリにとって自分の立場を理解する切っ掛けになったのならば、小さいながらも収穫はあったと言えた。
 顔を上げたカガリはキサカの方へと目線を投げると、その広い背中がいつもよりも張っている気付き、躊躇いがちに立ち上がる。

「……キサカ、背中は大丈夫か?」
「大した事は無い。それに俺の任務はお前を守る事だ」
「……背中を見せてみろ」
「怪我など無いぞ」

 真剣な表情で見上げるカガリに対して、キサカは無視する様に応えて踵を返そうとした。

「良いから見せてみろ!」

 カガリにはその態度が不満だったらしく、声を大にしてキサカのベルトを掴むと空いた片手でシャツを無理矢理捲り上げた。
 するとそこには褐色の肌が赤黒く腫れ上がり、熱を帯びている事がカガリの目にも見て取れた。

「うっ……」
「……す、済まない」

 シャツを捲り上げた時に指先が背中を擦ったのだろう、キサカが僅かな呻き声を上げたのに気付いたカガリは慌てて手を放した。
 砂とは言え、あれだけの量を女であるカガリが浴びていたら、今頃、人には見せられない姿で体を横たえていたかもしれないのだ。
 それを思えばキサカに感謝しなければならないのは分かっていた。
 キサカがシャツを直していると、伏目がちにカガリが呟く。

「……なあ、キサカ。私はここを離れた方が良いのかな?」
「本来ならばな」
「でも、アフメド達の仇は取ってやりたいんだ」
「既に地球軍まで敵に回しているんだぞ」
「地球軍も憎いけど……。でも、昨日キサカが言ってた事が本当なら、地球軍は停戦が終われば力を貸してくれる可能性もあるんだろう?」
「あれだけの事をしておいて、今更こちらから出向いた所で地球軍が首を縦に振るとは思えないがな」

 必死に訴え掛けるカガリではあるが、キサカからすれば既にその望みは潰えたと言った方が早く、現実を突きつけるかの様に背を向けたまま首を横に振った。

「そうかもしれないけど……!」

 キサカの言葉にカガリは抗議する様に声を上げたが、腫れ上がった背中が再び目に入り言葉を詰まらせた。
 自分のやろうとする事で、再び同じ様に傷付けてしまうかもしれないと言う葛藤が、カガリの中に生まれる。
 しかし自分の持っている性分からか、未だ引く事は出来なかった。

「……でも……もう少しだけで良い……私のわがままに付き合って欲しい。頼む……」

 カガリは俯きながら声を絞り出すと、背中を向けたままのキサカに自らの願いを呟いた。
 たった一度の完全なる敗走がそうさせたのか、カガリが自分のわがままと理解しながらも『頼む』と自ら口にした事にキサカは目を丸くしながら振り返る。
 顔を上げたカガリの瞳は不安に揺れながらも、キサカにはその意思がハッキリと感じ取れた。だが、それの望みを受け入れて再び生きて帰れるとは限らない。
 キサカはどう答えて良いかと口を閉ざして思案していると、突然後ろから声が掛けられた。

「二人ともどうした?」
「……いいや、外を見ていただけだ」

 振り返るとそこには少しばかり疲れた表情を見せるサイーブの姿があり、キサカは軽く首を振って外へと目を向けた。
 昨日の事もあってか、カガリは躊躇いながらサイーブに声を掛ける。

「サイーブ、……エドルは?」
「……カガリが知る必要はねえよ」

 突然の問いにサイーブは顔を顰めると、カガリと目を合わせる事も無く吐き捨てた。
 熱い空気の中にあっても冷たい厳しい雰囲気が広がり、カガリは口惜しげに唇を噛むと、それを払拭する様にキサカがサイーブへと視線を投げる。

「それで、今後はどうするつもりだ?」
「一応、見張りは出すつもりだが……厳しいだろうな……」

 険しい表情を見せていたサイーブは、再び疲れた顔を一瞬だけ見せると腰に手を当てて言葉を零した。
 彼らの見詰める先には、いつまでも手が届かない理想郷を見せるかの様に蜃気楼が揺らいでいた。