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CCA-Seed_98 ◆TSElPlu4zM氏_第28話_後編

Last-modified: 2008-05-11 (日) 04:33:29

目の前を縦横無尽にバクゥが走り回り、背後からはスカイグラスパーが襲い掛かる――。
 そんな状況の中、キラはバルドフェルド機とスカイグラスパーからの追撃をなんとか凌いでいた。

「――くっ!」

 キラの口から苦悶する声が僅かに零れた。
 ここまでトールが残るとは思いもしなかった。それもムウの力あって事なのだが、スカイグラスパーが狙われると、すかさずバルドフェルドがフォローに入る為に、一対一の状況に持ち込む事すら叶わない。
 いつもと違う何かに違和感を感じながらも、その確信が見えないキラは、ブラボー隊両機に息を吐く暇すら与えられず追い詰められ、焦りが沸々と大きくなって行く。
 そんなキラを尻目に、痺れを切らしたバルドフェルドがストライクに回線を開いてきた。

「――キラ・ヤマト少尉、いつになったら本気になってくれるんだ?」
「えっ!? なっ、なんなんですか!?」

 突然、届いたバルドフェルドからの通信にキラは戸惑った。だが、そんなキラを余所にバルドフェルドは苛ついた様子で唸った。

「君は俺を舐めているのか!?」
「こんな時にふざけないでください!」
「ふざけているのは君だろう? 演習だと思って舐めてもらっては困るな。こっちは勝負を挑んでいるんだぞっ!」
「舐めてななんていませんよっ!」

 バルドフェルドの怒鳴り声に対し、キラも同様に息を巻いた。
 両者は睨み合いながらも機体を動かし続ける。そこへスカイグラスパーが割り込むが、ストライクは機体を小刻みに揺り動かして回避して行く。

「……ほう。その割には相手を殺そうって気が感じられないんだがな。君は火力と性能を頼りに当て回っているだけだろう? 期待外れだな」
「期待外れとか殺すとかって、演習なんですよ!?」
「……そうだな、キラ・ヤマト君。君は空砲で人が殺せると思うかい?」

 顔を引きつらせて怒鳴り返すキラに向かって、バルドフェルドは少しばかり押し黙ってから聞き返した。

「何を言ってるんですか!?」
「良いから答えろっ!」
「空砲で人が殺せる訳無いでしょう!」
「……フッ。それならば、その答えを俺が教えてやる! 死にたくなければ、死に物狂いで掛かって来い!」

 キラの返答に、バルドフェルドは鼻で笑うと表情を更に険しくさせて操縦桿を押し出した。バクゥがストライクへ突進して行く。
 こうしてストライクが長らえてられるのは、今までの訓練とPS装甲のアドバンテージがあってこそではあるが、この状況ではそうも言ってられなくなって来た。

「それならこっちだって!」

 キラはコンソールパネルのスイッチを押すと、右肩のガンランチャーをパージし、機体重量を軽くする事を選択する。
 それに伴いバッテリーが一つ減った事でエネルギーゲージが激減するが、それに見合うだけの機動性を取り戻し、エールストライクとしての性能を発揮し始める。
 だが、ビームを撃ちすぎた事もあって、そう長くは持たない事は目に見えている。
 ストライクは機動を止める事無く動き回る。右肩から外されたガンランチャーは落ちると同時に砂を舞上げた。

「パーツを外す事で機動性を上げたか! ――ちっ!?」

 バルドフェルドが吐き捨てると同時に、ストライクが左手に構えた三五〇ミリガンランチャーの銃口が瞬く。
 バクゥは機体を跳ね上げ大きく横へと跳ぶが、完全には回避しきれなかった。

「……避けきれなかったか。散弾なんて厄介な物を使われたんじゃ堪らんな」

 コンソールを一瞥したバルドフェルドは愚痴りながら、そのまま回避行動に入った。

「落とせなかった!? ……でもダメージは与えたんだ、もう少し!」

 バクゥを撃墜しきれなかったキラは、自分に喝を入れて追撃に掛かろうとしたが――。

「えっ、またスカイグラスパーがっ!? しつこいよ、トール! ……離れて戦って狙われるなら、離れなければ良いんだろっ!」

 連携しながら襲い掛かるスカイグラスパーに苛立ちを隠そうともせず、キラは操縦桿を前へと押し込むと、ストライクは砂を巻き上げてバルドフェルド機へと突っ込んで行く。
 エネルギーの残りが少ない以上、キラは一気にケリを着ける事で勝負に出る。

「接近戦を仕掛けて来るのか!? ようやくエンジンが掛かった様だな、望む所だ!」

 近付いて来るストライクに、バルドフェルドは少しばかり嬉しそうな顔を浮かべると、バクゥは機体を左右に振りながらストライクへと接近して行った。
 その二機の様子を上空から見ていたムウが、トールに指示を飛ばす。

「接近戦か!? トール、側面から侵入してストライクの動きを止めろ! 虎には当てるなよ!」
「はい!」

 トールは返事をすると同時に操縦桿を倒すと、二〇ミリ機関砲のトリガーに指を掛けた。
 スカイグラスパーがストライクの右側面から低空で侵入して来る。

「横から!?」
「このタイミング、鷹の指示か!? やるな!」

 横から進入して来るスカイグラスパーに、キラは顔を顰め、バルドフェルドは感心した様に口の端を微かに吊り上げた。
 これ以上長引けば、ストライクはいつフェイズシフトダウンしても可笑しくは無い。切羽詰まった状況に、キラの闘志と言う名のエンジンがフル回転する。

「それなら――」

 キラは左右の操縦桿を同時に反対に滑らすと右のフットペダルを踏み込む。ストライクのスラスターが唸り、右脚が砂の大地を蹴った。

「――同時に!」

 ストライクは瞬時に旋回しバクゥの左側へと回り込むと同時に、左手に持たせた三五〇ミリガンランチャーを捨てビームサーベルを握る。
 バルドフェルドはサーベルのスイッチに指を掛け、まるで子供の様に無邪気な表情を見せた。

「その程度で――」

 バクゥの前後左脚で砂地を叩くとスラスターをフルに使い、低い姿勢から機体をねじ曲げる様にして、ストライクがライフルを握る右手側、懐へと飛び込む。
 ストライクが右手に持った、九四ミリ高エネルギー収束火線ライフルは正面に捉えたスカイグラスパーへ、左手のサーベルはバクゥへと向かって行く。

「――いけーっ!」
「――落とせると思うなっ!」

 バクゥとストライクが交錯する――。
 ストライクはサーベルを振り抜いた状態で動きを止め、鮮やかなトリコロール色が抜け落ち灰色へ変色して行く。
 一方、バクゥは両前脚を軸に機体を反転させてストライクの背中にビーム砲とミサイルを向けた状態で停止。その上空をスカイグラスパーが追い越して行った。
 ストライクのコンソールパネルが真っ赤に染まり、バイザーに鈍い光となって反射する。

「あっ……撃墜……され……た!?」
「……なあ、キラ・ヤマト少尉。ここで撃てばどうなると思う?」

 動揺したキラの口から僅かに言葉が零れると、コックピットにバルドフェルドの声が木霊する。
 キラは顔を恐る恐る後ろに向けると、バクゥは既に攻撃出来る体勢になっていた。

「……君は運が良い。今回はミサイルもレーザー照射だったからな。模擬弾を積んでいれば、この距離であれば、どうにかなっていただろうな」
『――演習終了。各機帰艦せよ』

 ストライクは機体をゆっくりとバルドフェルドの乗るバクゥへと向ける。
 スピーカーからはチャンドラが演習の終わりを告げていたが、キラの耳にはバルドフェルド声以外は届いていなかった。
 そんなキラを余所に、バルドフェルドはお構いなしに言葉を続けた。

「まあ、最後のは満足出来る動きだった。それまでは余裕をかまされているのかと思ったんだがね」
「そんな余裕なんてありませんよ!」
「まあ、やられた事で不機嫌なのは分かるが、そう噛みついてくれるな。君は素晴らしいパイロットに――」
「――嫌味ですか?」

 撃墜されたのは明らかに自分のミスであり、行き場の無い怒りに駆られたキラは唇を噛みながら、それをバルドフェルドにぶつける他無かった。
 バルドフェルドは、キラの怒りが自分に向くのは仕方が無いと納得すると、僅かばかりの苦笑いを浮かべて肩を竦ませた。

「……どうとでも取ってくれてかまわんさ。だがな、前にやった時とは明らかに違っていた。大方、君は実戦じゃないばかりに実感を持てずに戦っていたのだろう?」
「っ! ちゃんとやっていたじゃないですか! ……僕は戻ります」
「図星だったかな?まあ、僕の部下ではないんだから好きにすれば良いさ。だが、同じパイロットとして率直に言わせてもらう。そんな気の持ち方では、いずれ死ぬ事になるぞ。歌姫が泣く姿が頭の中に思い浮かぶ」
「あなたは何が言いたいんですか!?」
「どんな戦場であろうと、生きて帰れるなど約束された場所は無い。それは演習場であろうと同じだ。怒りをぶつけるのは構わんが、これから先、死にたくなければ肝に銘じておくといい」

 演習中に渦巻いていた違和感の正体を指摘された事で、更に怒りを募らせたキラだが、バルドフェルドの言葉に頭を殴られた様な思いがした。
 自分はそのつもりは無くとも、人が死なないと心が気を抜いていたのかもしれない。
 そんな安堵感が心を支配していたにしても、やはり撃墜されたのは自分のミスであり、怒りを向ける矛先が違う事を悟った。
 ヘルメットを脱ぎ、首を大きく振ったキラは、息を吐くとバルドフェルドに言った。

「……次は必ず、どんな戦場だろうと勝ってみせます」
「そうか……期待しているぞ。だが負けるつもりなど無いからな」
「僕だって絶対に負けられないんです。暴言を吐いた事は謝ります。済みませんでした」
「いや、別に構わんさ」

 キラの謝罪をバルドフェルドは軽く応じると、二機は背を向け、それぞれの帰るべき場所に向かって歩き始めた。

「あっ!」
「ん?」

 揺らめくモニターを見詰めるキラが、何か思い出した様に声を上げると、バクゥが動きを止めた。
 ストライクがバクゥに背を向けたままの状態で、キラは声を掛ける。

「あの……アンドリュー・バルドフェルド隊長。良いですか?」
「何かな、キラ・ヤマト少尉?」
「さっき言ってましたよね。……本当に空砲で人が殺せるんですか?」
「その事か。物にも因るが、かなりの至近距離ならば、空砲と言えども馬鹿には出来んのだよ。憶えておくと良い」
「はい」

 バルドフェルドの言葉にキラは頷くと、再びストライクをアークエンジェルへと向かわせる。
 演習を終えた安堵感など、キラの心中には全く無い。ただ、悔しさに操縦桿を握る手が震えるだけだった。

 演習の一戦目を無事終え、アークエンジェルのブリッジを安堵の空気が覆う。
 全員が息を吐く中、チャンドラが機体の帰艦を知らせる。

「――ストライク、スカイグラスパー帰艦しました!」
「ブリッジに上がる様に伝えて」
「ストライクのデータは?」
「機体データの抽出は今からなんで、まだ無理です。とりあえず、表示してなかった演習中のストライク、スカイグラスパーのオンラインのデータをスクリーンに出します」

 マリューが指示を出す中、ナタルに声を掛けられたトノムラは、ストライクとバクゥの交錯するシーンが映し出されるメインモニターの片隅にデータを表示させた。
 データを照らし合わせながら、演習のリプレイを眺めるナタルが溜息を吐く。

「ストライク、スカイグラスパーともに撃墜か……」
「でも二人とも良くやったわ」
「ええ」
「コンマ五秒差か。最後の動きは良い物だったが、サーベルを持つ手が右手ならば、少しは結果が違っていたかもしれないな。だが、負けるべくして負けたと言った所だ」

 ナタルとマリューが遣り取りをしていると、アムロは険しい表情を見せながら言った。
 実際、ストライクの攻撃はスカイグラスパーを完璧に撃墜し、バクゥの腰にビームサーベルを突き立てていた。
 だが、その前にバクゥのビームサーベルがストライクのコックピット部分を通過していた。
 本来なら相打ちに等しいが、箇所が箇所だっただけにバクゥの撃破と言う記録には至らなかったと言う訳だ。しかし、負けは負けである。
 モニターに目を向けるアムロに向かって、ナタルは少しばかり驚いた顔で聞き返す。

「……結果が違っていたかもしれないと言うのは、……それは本当ですか?」
「ああ。結果論ではあるが、始めから普段の動きなら相打ちには出来たはずだ。あえて敗因を上げるなら、サーベルを左手に持った事だろう。経験の差が出たと思えば良い」
「……でも、これって凄い事よね?」
「……はい。アンドリュー・バルドフェルドを相手にですから」
「ここまでやるなんてね……」
「詰めは甘かったが今のキラなら、エースクラスを相手にしない限り、負ける事は無いはずだ」

 アムロの言葉に、マリューとナタルは再び目を丸くした。
 今回は負けたとは言え、ヘリオポリスからこの地に来るまでの短期間で、キラはエース相手に善戦にするまでに成長し、更にアムロのお墨付きが出たのだ。
 二人はどんなに心強く思えただろう。

「ここまで成長しているとは正直、驚きました」
「射撃にしても良い物は持っている。いずれはエースパイロットになるだろうが、しかしあれではな……」
「……アムロ大尉?」
「いや、なんでもない」

 言葉尻を濁したアムロにナタルは顔を向けるが、等の本人は険しい表情のままで首を振るだけだった。
 そこへCICを通じ、格納庫へと指示を飛ばしていたマードックが戻って来た。

「それはそうと、次は敵の数を増やしたいですね」
「どうしてだ?」
「大尉さんは初めて違う系統のストライクを使うっても、同じガンダムなんでしょう? そう簡単に落とされると思えないですから。せっかくならデータを溜める為にも、敵の数を増やしたいんですよ」

 ナタルが聞き返すと、マードックは『違う系統』と言う言い回しを使い、他のクルーにνガンダムが違う世界で造られた事を悟られない様にぼかしながら答えた。
 その事で少しばかり溜息を吐いたアムロが、顔を向けながら言う。

「同じガンダムか……。買い被り過ぎだぞ、マードック」
「そんな事は無いですよ」
「でも、データが必要なのは事実なのよね。後々、ストライクが量産化される事になれば、連合に取ってはアムロ大尉とキラ君のデータは大きな財産になるわ。サンプルは多いに越した事は無いわね」
「ええ、私もそう思いますが……」
「……あの、アムロ大尉。無理を承知でお願い出来ませんか?」

 ナタルがいつもと様子の違うアムロを気にしながらも同意すると、マリューは真面目な顔で頼み込んで来た。
 だが、先日の共同戦線時の様な重苦しい雰囲気は感じられない。
 艦長であるマリューの言う事もアムロには理解出来た。それに何より、今こうしてアークエンジェルに居られるのも、アムロの素性を信じ、八方手を尽くしてくれたマリューやナタル達を始めとする、クルーのお陰でもあるのだ。
 世話になった以上、アムロとしても無下に断る訳にも行かない。

「……分かった。落とされても文句は言わないでくれよ」
「ええ、勿論です」
「みんなには世話になっているからな。借りを返せるならば良い機会だ」
「借りだなんて……。いつも守ってもらっているのに、ご無理を言って済みません」

 アムロの言葉にマリューは恐縮しながらも、自分の頼み事に苦笑いを浮かべて見せた。
 先日、ムウとの遣り取りが引き金となり、深く悩むのを止めたマリューは、頼れる物は頼ると言う姿勢を実行していた。
 その辺りが如実に出て来ているのを、マリュー自身も自覚しているからこそ、逆にこうして苦笑いを浮かべていられるのだ。
 こうした事もあって、周囲とのバランスを取る役目が増えたナタルだが、アムロに対しては本人も気付かぬ感情が入り混じった視線を向ける。

「……私はアムロ大尉なら、ストライクを使いこなせると思います。しかし、ご無理はなさらないでください」
「ああ。俺もやれるだけやってみるさ」

 ナタルの感情に薄々気付いていながらも、その他の事もあってアムロ自身、踏み切れない部分があるのだが、今は力強く頷いて見せた。
 砂漠の太陽は傾きを見せつつも、陽射しは未だに衰える事は無かった。

 レセップスの格納庫は、バルドフェルドが勝利した事で歓喜に溢れかえっていた。
 それも砂漠での初戦で煮え湯を飲まされ、死んで逝った仲間の弔いもこれで出来たと言う意味も含まれての事だ。

「隊長、お見事でしたね」
「一つ間違えれば、こっちがやられていたかもしれん。だが、勝ちは勝ちだ。次も気を引き締めて行くぞ」

 バルドフェルド自身、その空気を押し潰し、士気を下げるつもりは毛頭無い。指揮官らしく整備兵の声に応えて見せると、再び格納庫は歓喜の声で溢れる。
 その中、アイシャがこの演習の立役者であり、パートナーでもあるバルドフェルドを出迎えた。

「お疲れ様、アンディ」
「ああ」
「マーチン君が、あれの準備は大丈夫だって」
「そうか。これでようやく客人に持て成しが出来るな」

 アイシャが屈託の無い笑みを見せると、バルドフェルドは軽く頷いた。
 停戦協定があるとは言え、アークエンジェルはラクス・クラインの命を救った恩人であり、それなりの持て成しをする予定でいたのだが、色々とありここまで出来ずじまいだったのだ。しかし、実際の所は、バルドフェルドの個人的意向が大きいのは言うまでも無い。
 第二戦目までにはまだ時間がある為、二人は格納庫を離れるべく肩を並べて歩き始めた。

「それにしても、少し不満そうに見えるわよ」
「あの少年は前に比べると動きが違ったからな。まあ、最後はヒヤリとさせられたがね」
「フフッ、欲張りね。でも、ああ言う子、好きでしょう?」
「ああ。あの少年は強くなる。先が楽しみだよ」

 楽しげに尋ねるアイシャに、バルドフェルドは薄く微笑んで見せた。
 バルドフェルド自身、キラが気を抜かずに始めから戦っていれば、また違った展開になっていただろうと想いはしたが、アイシャがその思考を打ち切る様に、第二戦目で対戦するパイロットの名を口にした。

「次はアムロ・レイね」
「……だがνガンダムではなく、ストライクなのだろう? コーディネイターが乗っていた機体にナチュラルが乗り換えて、どこまでやれるか疑問が残る所だ。まあ、あれだけのパイロットだ。何とかしてしまうんだろうがな」
「向こうは自信あるみたい。味方の機数減らしても良いから、敵機を増やしてくれって」
「ほう……」

 思わぬ要求にバルドフェルドは目を細めると、足を止めて格納庫を見渡す。
 レセップスの格納庫には、演習を終え整備を受けるバクゥの他に、ハンガーには砂漠仕様のジン・オーカーが収まっている。
 ――あの強さは底が知れんからな……。確かめるには良い機会か。
 相手は初見となった戦いで、自分の隊をあそこまで苦しめたアムロ・レイの、真の能力を、バルドフェルドは純粋に知りたいと思った。

「これはザウートやジンを投入して、頭数を増やす以外に無いかな?」
「ラゴゥがあれば一緒に戦えたのにね」
「修理が間に合わなかったのが残念だ。アイシャの腕があれば百人力なんだがな」
「私も出るわ」

 参戦意思を示すアイシャに、バルドフェルドは一瞬、呆気に取られるが、彼女が使うのに見合うだけの機体が無いのだ。

「……嬉しいが機体がな――」
「――私はガンナーよ。後ろからでもパートナーの援護くらいは出来るわ」

 アイシャはバルドフェルドの言葉を遮り、自信に満ち足りた微笑みを湛えて見せた。
 その有無を言わせぬ彼女の雰囲気に、バルドフェルドは思わず苦笑いを浮かべると頷き、参戦を了承したのだった。

 ムウはブリッジの壁に凭れ掛かりながらドリンクを一口啜ると、隣に立つアムロに小声で囁いた。

「……なあ、アムロ。キラの動き、可笑しくなかったか?」
「……やはりそう見えたか」
「ああ。まあ、最後は良かったけどさ。散漫って言うか、ギアが噛み合ってないみたいな感じに見えたな」

 不機嫌そうなアムロの表情が更に険しくなると、ムウは静かに頷いて喉を潤した。
 そのキラはトールと共に肩を並べ、艦長であるマリューから労いの言葉を頂戴し終わる所だった。

「――次も期待してるわ」
「「はい!」」

 二人は返事と共に敬礼をすると、マリューの元を離れた。
 息を吐いたアムロは、その場からキラを呼び付ける。

「キラ、来い」
「はい」

 駆け寄ったキラは、アムロの表情を見て何事かと思いながらも背筋を伸ばした。
 アムロの隣にいるムウは、ただ淡々と事の成り行きを見守っている。

「ストライクの動きが鈍く見えたが、どう言う事だ?」
「あれは……」
「気を抜いたか?」
「……はい」

 アムロの射抜く様な鋭い視線に、キラは視線を床へと落とした。
 見抜かれた事が悔しいのでは無い。そんな気の緩みを持ちながら戦ってしまったのが情けなかった。

「それは褒められた事では無い。理解しているか?」
「……あの人からも言われました。本当の戦いじゃないって思ったら……。反省してます」
「理解してるんだな。それなら今から修正をする」
「修正……ですか? 一体なにを……?」
「歯を食いしばれ」
「えっ!?」

 今までアムロはキラに対して、一度足りとも手を上げた事は無い。そのアムロが殴ると言うのだから、キラは驚くばかりだった。
 そんなキラに向かって、アムロは厳しくも淡々と言い放つ。

「この先、キラ自身が死んで悔いが無いのなら、俺は修正をしない。だが、キラが今のままでストライクに乗り続けるつもりならば、拒否してでも殴るつもりだ」
 「……ぼ、僕は、ストライクを降りるつもりはありません!」

 キラはアムロの言葉に愕然とする。今まで努力して来た事が無駄になり、守りたいと思っていた物が守れなくなるかもしれないのだ。キラは必死に首を振って見せた。

「そうか。覚悟はいいな?」
「はい。……お願いします」

 静かにアムロが聞き返すと、キラは頷いて奥歯に力を込めた。そして次の瞬間、ブリッジに殴る音が響いた。

「アークエンジェルが生き残れるかどうかは、ストライクの働きが大きく関わっている。生き残るつもりがあるのなら、どんな状況だろうと気を抜くな!」
「済みませんでしたっ!」

 アムロの怒声が飛ぶと、キラは腹の底から声を出して頭を下げた。
 ゆっくりと頭を上げたキラは、再び目をアムロへと向けると、既に顔から険しい物が消えている事に気付いた。
 その顔付きから、殴りたくて殴った訳では無い事が痛いくらい理解出来た。
 そしてもう一つ、ある事に気付く。全員の目が自分に向いていた事だ。
 キラはバツが悪そうに顔を背けるが、アムロがその肩を優しく叩くと、全員に向かって口を開いた。

「騒がせてしまって済まなかった」
「……済みませんでした」
「……次は気をつけてね。みんな、気を引き締めて行きましょう!」

 アムロに続き、謝罪をしたキラにマリューが優しい表情を向けると、そのまま全員に呼び掛けた。
 すると、その声に応じ、クルー達は表情を引き締め「了解」と言って、それぞれの持ち場へと戻って行く。

「キラ、冷やしてこい」
「いいえ。先にストライクの調整をしなくちゃいけないですから、後からでいいです」

 口元を冷やす様にアムロが促すが、修正を受けたばかりのキラは生真面目に自分のするべき事を優先する。
 その二人の遣り取りを見ていたナタルが歩み寄り、ハンカチを差し出した。

「……ヤマト少尉、これを使え」
「えっ!? でも……」
「口元に血を残しておく訳にはいかないからな。気にせずに使うと良い」

 笑みこそ浮かべはしないが、ナタルの口調は姉の様に限りなく優しかった。

「……バジルール中尉、ありがとうございます」

 キラはハンカチを受け取ると口元に当て、ストライクの調整の為に格納庫へと向かって行く。
 少しずつ強く大きくなって行く少年その背中を、大人達は温かく見守るのだった。