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CCA-Seed_98 ◆TSElPlu4zM氏_第30話

Last-modified: 2008-05-11 (日) 04:43:06

プラントの空は晴れ渡り、少なくとも今日一日は雨が降る予定は無い。天気予報では、明日は正午過ぎに二時間ほど小雨が降る予定となってる。
 明日降るはずの雨が今この時降っていてくれれば、見事に自分の心を表しているのにと、私服のアスランはアマルフィ邸へと続く門の前で空を見上げていた。

 

「……アスランかい?」

 

 落ち着いた感じの男性の声が、アスランの名を呼んだ。

 

「えっ!? あっ、お、お久しぶりです!」
「そう畏まらないで欲しいな。……久しぶりだね。詳しい事は知らないが、君の父君から任務に就いていたと聞いたよ。大変だったのだろう? ニコルとフレイが心配している」
「ご心配をお掛けして、申し訳ありません……」

 

 振り返ったアスランに、男性――ユーリ・アマルフィは優しげな顔を向けた。当のアスランはニコルの心の内をフレイから聞かされているとは言え、怪我の原因を作ってしまったのは自分である為に、未だ後ろめたさが尾を引いていた。
 ユーリは、目の前で暗い表情を見せる少年の背中を軽く押して『行こう』と促すと、アスランはようやく歩き始めた。
 途中、顔を伏せたままのアスランが、言い難そうに口を開いた。

 

「あの、お話は行っていると思いますが……」
「ああ。フレイの事だね。聞いているよ。明日出発なのだろう」
「はい……」

 

 ユーリが少し寂しそうに聞き返すと、アスランは更に気を落としながら頷く。そうして二人は肩を並べ、玄関まで続く道のりを無言のままで歩いて行った。
 建前上、軍に拘束されていたアスランは、ラクスを迎えると言う任務の為に解放された。
 ラクスが生きていた事は喜ばし事ではあるのだが、その為に友達となったフレイを交換として差し出すのを認めたくはなかった。
 そうして歩いている間に玄関前へと到着する。ユーリは扉を開いてアスランを中に入れると、建物の中に響く様に少し大きめの声を出した。

 

「ただいま。ニコル、フレイ、お客さんだ」
「「アスラン!」」

 

 呼ばれた二人はアスランの顔を見るなり、嬉しそうな声を上げて駆け寄って来ると、それと入れ違う様にユーリは、一人リビングへと入って行く。
 ニコルは一応ではあるが巻いていた包帯が取れ、愛らしい顔に醜い傷を残していた。だが、当の本人はそれを気にする様子も無く、傷の為に少しだけ引き攣らせながらも笑顔を見せた。

 

「アスラン、心配したんですよ! 任務、無事に終わったんですね。良かった」
「あんな事の後に任務だなんて、凄く心配したんだから……」
「二人とも……。心配を掛けて済まない……」
「無事に帰って来たんだから良いですよ」

 

 フレイが目尻に涙を滲ませると、アスランは二人に本当に申し訳無さそうな顔を見せる。だが、それを制する様にニコルが首を横に振った。
 しかし、被害者であるニコルがそうは言っても、アスラン自身が原因を作った事には間違いは無く、その顔を見詰め悲痛な面持ちで言った。

 

「だけど、顔の傷は……」
「今は残ってますけど、手術で消しますから大丈夫ですよ」
「……いや、あれは俺の責任だ。こんな言葉だけで済まされないのは分かっているんだ。でも、どう謝れば良いのか……。ニコル、本当に済まない!」
「……アスランらしいですね。僕は許しますよ」

 
 

 ただただ頭を下げるアスランに、ニコルは少し困りながらも優しく声で語りかけた。
 だが、アスランは一向に頭を上げる気配を見せないでいた。

 

「……ニコルもこう言ってるんだし、顔を上げて。ねっ?」

 

 微かにアスランの肩が震えている事に気付いたフレイは、彼を気遣いながら少し腰を屈めて言った。
 少しだけ潤んだ目のアスランはフレイと視線が合うと、片手で微かに零れた涙を拭ってから顔を上げた。
 やはり多少の気恥ずかしさもあったのか、アスランは誤魔化す様に微かに笑顔見せると、思い出した様に真剣な顔をフレイへと向ける。

 

「……それから、俺はフレイにも謝らなければならない」
「どうして?」
「ラクスの件で、結果的にフレイの事を人質みたいに扱ってしまって……。俺は……こんな事、したくは無いんだ」

 

 納得いかない表情を浮かべて言うアスランは、最後に視線を床へと落とした。
 そんなアスランに向かって、フレイは少し嬉しそうな顔を見せながら首を横に振る。

 

「……アスラン、そんな事無い。私、みんなに良くしてもらったもの。人質だなんて思って無いわ」
「だけど、ラクスの事が無ければこんな事には……」
「私は大丈夫。それにみんなに会えて良かったわ。それにラクスさんが帰って来るんだし、私はパパの所に帰るだけだもの。戦争が終われば、また会えるわよ」
「……っ」
「だから、そんな顔をしないで。お願い……」

 

 アスランの気持ちが痛いほど伝わったのか、フレイは唇を噛む彼に泣きそうな顔で言った。
 それを横から見ていたニコルは、溜息を吐くと少し拗ねた様子でアスランに言った。

 

「アスラン、僕の妹に心配掛けさせないでくださいよ」
「……妹!? それは一体……?」

 

 思わぬ言葉にアスランが目を剥いて、二人を交互に見詰める。
 それが可笑しかったのか、フレイとニコルが笑顔を見せるて顔を見合わせると事情を話し始めた。
 アマルフィ家の両親の心遣いや病院での遣り取りを、アスランは二人から聞くと納得した表情を浮かべる。

 

「そう言う事か。てっきり養女になったのかと……」
「ね、アスラン。お茶にしよう」

 

 アスランが言い終えるのを待たずに、彼の手を取ったフレイが笑顔を綻ばした。

 

「ああ」

 

 彼女の笑顔に応える様に、アスランも笑顔を見せて頷く。
 この短い交流の中で、アスランはフレイと言う存在が予想以上に大きくなっていた事を自覚し始めていた。

 
 

 砂漠に西日が射す。
 外気は人が外で過ごすには適温と言える所までは落ち、夕景にアークエンジェルとレセップスが船体を並べていた。
 両艦の端には風除けが立てられ、その中央にはキャンプファイヤーと言っても可笑しくは無いほどの炎が揺らめき、周りには両軍の者達が各々陣取り、飲み食いをしている。
 元々、バルトフェルドはこのイベントを予定していたらしく、曰く『君達に持て成しをしていないだろう』と言って、彼らを招待したと言う形だが、実際の所は、自分の部下への慰労も兼ねているらしい。
 だが、マリュー達も警備上そう簡単に受ける訳が行かず、一悶着はあったが、互いに砲塔、モビルスーツなどにはロックを掛け、艦には立ち入らないと言う条件で話をまとめ上げた。両陣営とも丸腰で参加。勿論、争い事は禁止である。
 ちなみにではあるが、艦長であるマリューは主賓代表として挨拶をしたりもしたが、その後は各々好きな様に過ごしている。
 予想した様に、やはりザフト側の兵士達の中には一部、ラクスファンがいるらしく、即席サイン会が始まったりと話題には事欠かなかった。
 その中、ザフト軍パイロットの面々が、ムウを始めとする地球軍側パイロットに握手を求めて来たのは意外な出来事が起こり、あれだけの事をやってのけたアムロに対しては、質問をして来るなど者なども多かった。
 特に同じアルファ隊になった者は、あれやこれやと技量を伸ばす方法を尋ね、アムロがタジタジになるシーンも見受けられたが、そんな質問攻めの時間も終わり、アムロはアークエンジェルの面々と肩を並べ、ビールに口を着けている。
 その中、バルトフェルドは焚き火の傍で町から連れて来た、料理人にオーダーを伝えていると、ダコスタがやって来る。

 

「隊長」
「データは?」
「ばれてません。バックアップ成功です」
「上出来だ」

 

 ダコスタが耳打ちをすると、バルトフェルドがウィンクをして小さく笑う。
 元々、演習データは消す約束をしていたが、今回、得られたデータは余りにも惜しく、これを残せば、少なくとも対アムロ・レイを想定した戦闘訓練が出来るのだから、そこまで馬鹿正直に消すつもりも無かった。
 更に機嫌が良くなったバルトフェルドはアイシャを呼ぶと、酒を料理が乗った皿を携え、アムロ達の方へと歩き始めた。
 そのバルトフェルドの進む先には、キラを除いたアムロの素性を知るアークエンジェルの大人達が輪になり、異邦人であるアムロの昔話に耳を傾けていた。

 

「ブライト・ノア艦長は当時、十九でホワイトベースの指揮を執られたのですか!?」
「ああ。ブライトは当時、少尉だったはずだ」

 

 ナタルと比べ、一年戦争当時は遥かに年下だったブライト・ノアが、新鋭艦ホワイトベース艦長を勤め上げた事に目を丸くすると、アムロは頷き階級を付け加えた。
 何故、艦長であったブライトの事が話題になっていたかと言えば、至極簡単な話しで、今でこそ立ち直ってはいるが、数日前に気落ちしていたマリューを思い出して、糧になればとアムロに話を振った為だった。
 その話を聞いていたマリューは、缶に口を着けてから言う。

 

「……信じられない若さね。でも凄いわ。最後にホワイトベースは沈んだとは言え、ロンド・ベル隊の指揮を執られるくらいですから、御活躍なされたんでしょう?」
「艦長としては折り紙付きと言って良いだろうが、シャトルのキャプテンもやっていた頃もある。言わば苦労人さ」
「私はブライト艦長みたいには無理かな……」
「マリューはマリューだろう? 現状で上手く行っているのであれば、気にする必要は無いさ」
「そう言ってもらえると助かります」

 

 夕景を仰いだマリューに向かってアムロがフォローを入れると、彼女ははにかんだ様に笑顔を見せた。
 そして、アムロの隣に腰を下ろしていたナタルが彼女に続く様に言う。

 

「私は将来、艦長になる事があれば、ブライト・ノア艦長を目指してみたいと思います」
「そうなった時には殴るのはよしてくれよ、ナタル」
「大尉を殴るなんて出来ませんよ」

 

 茶化して言うアムロに、ナタルは肩を竦めながら笑顔で答えた。
 どこの軍隊も同じなのだろう。ムウが空にした缶を握りつぶし、新しい缶を持ち上げて栓を抜きながら聞き返す。

 

「やっぱ殴られてたのか?」
「若い頃な」

 

 アムロは軽く頷くと、夕日を見ながら昔を思い返した。

 
 

「しかし、間は空いたが十六の頃からと考えれば、ブライトやシャアとは長い付き合いになったな……」
「十六ねぇ。今が二十九だろう? シャアって奴とは、偉く長い事敵対してたんだな」
「いや、肩を並べてともに戦った時期もあるんだがな」

 

 ビールを流し込みながら指折り数えるムウに向かって、アムロは苦笑いを見せた。
 予想外のアムロの言葉に、全員が驚いた顔を見せた。無理も無い。

 

「僕が幽閉先から脱出し、カラバと合流した……グリプス戦役の話しを思い出してくれ。その頃、シャアはクワトロ・バジーナと名を変え、エゥーゴに身を置いていたのさ。その旗艦となったアーガマの指揮を執っていたのもブライトだ」
「ええ。クワトロ・バジーナって言うと……百式とかって言うモビルスーツに乗っていたパイロットですね」

 

 先ほどまでの話を踏まえて、アムロは再び掻い摘んで話すと、マードックが思い出した様に言う。
 釣られて思い出したのか、ムウが驚いた様子でアムロに顔を向けた。

 

「百式……。ああ、話しの中で金ピカのモビルスーツが出て来たな! あれにシャアが乗ってたのか!?」
「そうだ。シャアは当時、俺達と一緒に反連邦政府の連中と戦ったが、あれで地球に残っている連中の実態が分かって、本当に嫌気がさし、それで全ての決着をつける気になったのさ」
「それで隕石落しか……。女に母親。赤に金。色もやる事も派手な野郎だな……」
「敵だった者が味方になり、そしてまた敵に……。どこで何が切っ掛けになるのか、人の心と言う物は分からないですね」

 

 アムロの言葉にムウはシャアを皮肉ると、ナタルが大真面目な顔で言った。
 そこへバルトフェルドとアイシャが顔を見せた。

 

「お話中悪いが、お仲間に混ぜてもらえるかな?」
「ええ、どうぞ」
「艦長さん、ありがとう」

 

 場所を少しずつずらして、二人が座れるスペースを確保すると、アイシャが礼を言って二人は腰を落ち着けた。
 バルトフェルドが開いた缶を軽く持ち上げると、全員の顔を見回す。

 

「どうだい、楽しんでもらえてるかな?」
「ええ。何から何まで、ありがとうございます」
「いやいや、それは良かった。新しい料理だ。良かったら食べてくれ」

 

 マリューは礼を言うと、バルトフェルドは満足そうな顔を見せた。
 そうしている間にもムウが、料理に手を伸ばして口に放り込む。それに続く様に他の者達も料理を手に取って行った。

 

「それにしても完全に脱帽だ。君は本当にとんでもないパイロットだな」
「ご愁傷様ってとこか?」

 

 肉を一口放り込んだ後にバルトフェルドがアムロに顔を向けて言うと、煽る様に酒を飲み干したムウが横から茶々を出した。
 思わずバルトフェルドは肩を竦めると、苦笑いを浮かべながら切り返す。

 

「フラガ少佐は僕と一緒に撃墜された仲だろう?」
「ご遠慮したい仲だな……。まあ、事実だし、今は別に構わないけれどな」
「そう言ってもられるとありがたい。だが、次は必ず勝って見せるさ」
「俺も遠慮したいんだがな」
「そう釣れない事を言ってくれるなよ」

 
 

 アムロが苦笑を浮かべて答えると、バルトフェルド笑いながら言った。その遣り取りが面白かったのか、思わず全員が苦笑する。
 それから話しは色々と進み、ある時、バルドフェルドがアムロに聞いた。

 

「しかし、これだけの腕を持ちながら、連合で君の名を聞かないのはどうしてだ?」

 

 アムロは肩を竦ませた。明らかに答えるつもり無いのが見て取れた。
 仕方なくバルトフェルドが確信を突く言葉を切り出す。

 

「それではもう一つ質問させてくれ。君はニュータイプと言う存在らしいが、それは一体なんなんだ?」
「……おい」
「演習中にフラガ少佐の呟きが聞こえたのでね」
「……ちっ! ミスったぜ!」

 

 吐き捨てたムウと同じ様に、全員の顔に緊張が走っていた。だが、当のアムロは余り気にしていない様子にも見えなくも無い。
 そんな事もあり、アイシャがアムロに質問をぶつけた。

 

「エスパーか何かなの? 何か肉体改造を受けたとか?」
「……いいや、強化人間の類ではないさ。……そうだな。……戦争を必要としない人間の事だと思ってくれれば良い」
「それはまた矛盾するな。戦争を必要としない存在が、なぜ戦争をしている?」
「それが出来れば苦労はしないと言う、悪い見本だと言う事だよ」

 

 当の本人のはぐらかした言い様に、バルトフェルドは眉を寄せて聞き返すが、アムロは教えるつもりは無いと言わんばかりに自嘲気味に答えた。
 それを見たバルトフェルドは、これ以上押した所で今は答えが出て来ないと悟り、諦めた気味の顔を見せた。

 

「……なるほど。生きていれば知る機会もいずれ来るかな? 出来れば、次に会った時にでも教えてもらいたいな」
「機会があればな」
「僕の部下達もやる気になっているからね。それまで一緒に腕を磨きながら待つとするさ」
「さっきは君の部下達から質問攻めにあったぞ」
「それだけ君が凄いと言う事だよ。さて、少しの間だけ真面目な話しをさせて欲しいのだが良いかな?」

 

 バルトフェルドがアムロからマリューへと目線を移した。その為か、全員が息を撫で下ろした様にほっとした表情を浮かべる。

 

「……ええ。どうぞ」
「我々も本国への引き上げの準備に入らなければならない。そこでだ。護衛の数を減らすなりしても構わないかね? なんせ、部下を引き連れて行かなくちゃならないんでね。準備が大変なんだ」
「ええ、別に構いません。それに護衛がいなくとも、身柄の交換もありますから、我々は逃げるつもりはありません」
「そう言ってもらえて助かる。レジスタンスも今の所は大丈夫だろう。連絡をもらえれば、すぐに駆けつけるようにはしておこう」
「分かりました」

 

 元より分かっている事なのだが、再度、二人は残りの数日の態勢を確認し合った。
 そして粗方確認が済むと、バルトフェルドが全員の顔を見渡して、まるで敵に塩を送る様な事を言う。

 

「以前にも言ったが、歌姫がこの土地にいる限りザフトは手が出せん。それでも精々一、二時間が良い所だろう。その間に君達は少しでも遠くに逃げる事だ」
「なに、こっちの心配してくれんのか?」
「また君達とやりたいと言ったはずだ。それまで生き延びてくれなければ楽しみ無くなってしまうからね。率直に聞くが、君達にはレジスタンスの手助けが必要か?」

 

 缶の頭を摘んで手首で振り回す仕草をするムウが聞き返すと、バルトフェルドが切り返して来たが、それに対してアムロが否定的な顔を見せる。

 
 

「あれだけの事をして、彼等が俺達に協力すると思うのか?」
「普通ならばな。だが彼等は、我々ザフト軍を追い出したいだけで、背に腹は変えられない状況だろう」
「私はありえないと思いますが」

 

 バルトフェルドの意見に、ナタルも否定的な意見を述べた。
 だが、バルトフェルドには何かしら気に掛かる所があるのか、その理由を口にする。

 

「……そうだな。彼等が無謀な挑戦をした後からなんだが、定期的に民間車両がこの近くを行き来していてね。しかも二、三時間置きにだ。臭いとは思わないか?」
「その民間車両がレジスタンスだと?」
「ああ。完全非武装の一般車両なんだが、僕は彼らだと睨んでる。まあ、君達は君達で決めるのだろうし、僕の言葉など関係無いか。レジスタンスが攻撃してくるようなら、連絡をくれれば良いさ」
「……分かってます」

 

 マリューはバルトフェルドの言葉に頷いた。
 だがバルトフェルドの言う通り、戦力は多いに越した事は無い。マリューは眉間に皺を寄せて少しばかり頭を悩ませた。

 

「そう言えば、演習の見返りがこれって訳じゃないんでしょう? モビルスーツの一機も回してもらいたいくらいなんですけどねぇ」
「ハハッ、流石にそれは無理だ。僕の首が飛んでしまう。僕個人としては、何としても君達には生き残ってもらいたいが、僕もザフト軍人なんでね。……そうだな、見返りの品は別れの時にでも渡そう。それまで期待して待っていてくれ」

 

 思い出した様にマードックが問うと、バルトフェルドは言葉を途中で区切って、全員を見渡してから再度、言葉を続けた。
 そして、大人達は他愛も無い会話を、再び始めるのだった。
 大人達がそうして過ごす傍ら、子供達にも平等に時間が流れる。
 子供達は大人達から大分離れた場所で、のんびりとくつろいでいた。勿論、酒もあれば料理もたんまりとある。
 丁度、ビール缶を煽ったトールが、向かいに座るキラに愚痴を零していた様だ。

 

「俺なんか、操縦持っていかれたからなぁ……」
「僕だって、二回とも撃墜されてるよ」
「でもキラは一回目はあれだけ活躍してるし、バルトフェルド隊長と互角の戦いをしただろう。二回目は初めて乗った訳だしさぁ」
「うん、そうだけど……。でも、凄く勉強になったよ。地上でのモビルスーツの動きとか、連携とかね」

 

 延々続く初心者トールの愚痴に、少し困った表情を浮かべながらもキラは頷いた。
 事実、この演習ではキラ、トールに取ってはかなりの収穫があった。そう考えれば先行きはかなり明るい。
 サイは缶に口をちびりと着けると、キラに笑顔を見せる。

 

「へえ。それなら良かったんじゃないのか?」
「うん。今回、一番の収穫はアムロさんの動きを見れた事かな。それにデータを反映出来るし、僕がストライクをどう動かせば良いのか分かったよ」
「キラがアムロ大尉並になったら、俺達、絶対無事に帰れるんだけどな」

 

 相変わらずカズイがキツイ事を言うのだが、それに対してキラが苦笑いを浮かべると、隣に座っているラクスが笑顔を向けて見せた。

 

「キラならやれますよ。自信を持ってください。そうでなければ、私が困りますから」
「うん」
「……ラクス、幸せそうでうらやましいなぁ」

 

 目の前で初々しい遣り取りを見せ付けられ、ミリアリアは脇目で隣に座るトールをチラチラと見ながら、しょんぼりと呟いた。
 この所と言うか、トールがパイロットになってからだが、擦れ違いが少しづつ増えている気がしていた。訓練が大変なのは分かるが、振り向いて欲しいと言うのがミリアリアの本音だった。
 そこへ、ザフト軍の制服を身にまとった男性――マーチン・ダコスタがやって来た。

 
 

「あの……ラクス様、よろしいですか?」
「はい、何でしょう?」

 

 アルコールの所為か、ラクスは少し頬を染めたままの顔で、ダコスタに頷いて見せた。
 だが、ダコスタはバツの悪そうな表情を見せつつも、何か言いたげな雰囲気を醸し出していた為、空気を読み取ったサイが尋ね返した。

 

「……僕達、席を外した方が良いですか?」
「いいえ。少し離れた所で話します。出来ればヤマト少尉も、ご同席をお願いしますか?」
「はい、分かりました」

 

 ダコスタは少年達に恐縮しながら首を振ると、真剣な顔をキラへと向ける。そのキラは、少しばかり首を傾げながらも、素直に同意してラクスとともに席を立った。
 既にそれぞれが固まりながら飲み始めていた為、端の方の空いていたベンチにキラとラクスは腰を下ろし、ダコスタは近くにあった椅子を持って来ると彼等の前に陣取った。
 脇にはご丁寧に置き忘れたられた、未開封の缶と瓶がわんさかと置いてあった。それをラクスは三人分取るとそれぞれに手渡して行く。
 キラは封を開けず、ダコスタに要件を尋ねた。

 

「それで話しって?」
「……率直に言います。お二人がお付き合いされている事に関してです。お互いの組織に取って良くない事だとは、お分かりになりますよね?」
「ええ。ですけど……」

 

 真剣な眼差しを向けるダコスタに、キラも誠実な答えを返そうと口を開いたその時――。

 

「ぷはぁ……。組織は関係ありませんっ! 私がキラの事を好きになるのがいけない事なのですか!? この事は、お父様にもアスランにも正直にお話するつもりでいます!」

 

 一気にアルコールを流し込んだラクスは、空になった瓶をベンチの空きに力任せに叩き置くと、物凄い形相と言うには可愛らし過ぎる表情でダコスタを睨んだ。
 ちなみに誰も気付きはしないが、ラクスが置いた瓶がベンチから落ち、砂の上を転がって行った……。
 今までラクスのこんな表情を見た事が無かったのだろう。ダコスタは困惑している様だ。

 

「いや、しかし……」
「私が大切な方と、一緒にいたいと思う事は間違いなのですか? と聞いているんです!」
「そんな事はありませんけど……。しかし、ラクス様は公人ですし……」
「あ、あの、二人とも……」

 

 二人の遣り取りを見て、キラが止めに入ろうとしたのだが――。

 

「二人の将来が掛かっているんです! キラは黙っていてください!」

 

 ラクスの物凄い勢いに簡単に屈してしまうキラだった。
 しかしながら、尚も無い胸を張るラクスと、違いの分からない男ダコスタの攻防は続く。

 

「ですから、その前に私も一人の女性です! 幸せを夢見てはいけないのですか?」
「先程も言いましたが、ラクス様はご婚約者がおられる身で、且つプラント最高評議会議長の御息女なの……」
「どうして、あなたに――」
「ラクス様は――」

 

 そんな無意味とも言える攻防が続けば、嫌でも人目に着く物でもある。
 両軍の野次馬達の生温い視線が自分達に向けられているのを、言い合っていた二人はようやく気付いた様だ。

 
 

「あっ……」
「あらあら……」
「……だから言おうと思ったのに」

 

 ダコスタとラクスがいささか間抜けな声を上げると、ガックリとキラは項垂れたのだった。
 そうしていると野次馬達で構成された人垣が、真ん中から綺麗に割れて行き、アイシャが歩み出て来た。

 

「……マーチン君」
「はいっ!?」
「もう、こんな野暮な真似して……。後でお仕置きかしらね」
「いやっ、ちょ、ちょっと待ってください! お仕置きって、一体!? それにまだ話しが!」
「しつこい男は嫌われるのよ」

 

 甘ったるいアイシャの声が何時に無く恐ろしく聞こえたのか、ダコスタは思わず顔を青くした。
 争い事は禁止と言われているのに、副官が自らそれを破ってしまったのだから、アイシャが怒るのも無理は無い。

 

「し、しかし!」
「マーチン君、前にも言ったでしょう? 馬に蹴られたいの? でも、砂漠だからラクダの方が良いかしら?」
「いや! ちょっと待ってください!」

 

 必死に弁明をしようとするダコスタだが、アイシャは容赦無かった。

 

「みんな、手伝ってもらえる?」
「「「「了解!」」」」

 

 アイシャが野次馬に声を掛けると、アンドリュー・バルドフェルド隊モビルスーツパイロットの皆さんが、ゾロゾロと湧いて出て来た。そしてダコスタを取り囲むと神輿の様に担ぎ上げ、そのままレセップスへと連行して行ったのだった。
 その指示をしたアイシャはと言えば、何食わぬ顔でバルトフェルドの元へと戻って行った。
 すぐに野次馬達も掃け、残されたキラとラクスは立ち尽くしていると言えば、そうでも無かったりする。

 

「はぁ……。可哀想ですわね……。お馬さんやラクダさんに蹴られたら、とても痛そうですのに……。とにかくこれで愛は守られましたわ!」

 

 他人の助けがあったとは言え、ラクスはこの場限りの勝利に酔いしれていたのだった。
 これには流石に不味いと思ったキラは、遅まきながらラクスをなだめ始めるのだが。

 

「……あの……ラクス。そう言う問題じゃ無いから……。それにお酒も控え目にしないと……」
「キラ……」
「なに、ラクス?」
「もう一本、おかわりをください」
「……」

 

 だが、キラの思惑通りには行かず、ラクスは止まる事が無かった。

 

「ぅんくぅんく……ぷはぁ」

 

 キラが手にしていたアルコールが、ラクスの胃の中に消えて行った。
 このアルコールへの強さがコーディネイター故の物なのかは不明ではあるが、確かに間違い無く彼女は酔っていた。
 上機嫌なラクスは何か思いついたのか、両手を一度叩くと酔いがちの頬を更に染め言う。

 
 

「……キラ、良い事を思いつきましたわ!」
「えっ? な、なに?」
「文句を言わせない為にも既成事実を作ってしまえば良いのですわ!」
「……はぁ?」
「キラ、行きますわよ!」

 

 流石にキラもこの発言には目が点になったが、その間にもラクスの腕は彼をがっちりと固定し、逃げる事など不可能な状態を作り上げた。
 恐らくラクスが瓶を手にした瞬間に、キラの運命は決まっていたのだろう。

 

「えっ!? ちょっ、ラ、ラクス!?」
「キンキンキラキラキラキラポール〜♪」
「なっ、なにその歌!? ラ、ラクス!?」

 

 奇妙な歌と共にアークエンジェルへと続く足跡と、引き摺られた後がその場所には残った。
 薄暗い艦内に入った所で、キラは目一杯に踏ん張り、ラクスを止めた。

 

「はあはあ……。意外に力強かったんだ……」
「……キラ? お嫌……ですか?」
「……そんな事無い」

 

 俯きがちにラクスが頬を染めて尋ねると、キラは首を横に振って答えた。
 アルコールはまだ残っている物の、彼女の頬の朱は恥じらいから来ている物だった。

 

「僕だって……男だし、興味はあるんだ。それにラクスの事、好きだから歯止めが利かなくなると思う……」
「私はキラなら構いません……。他の男性に心を揺らしたくありませんから……」
「……本当に良いの?」
「はい」

 

 真剣にキラが聞き返すと、ラクスは俯いていた顔を上げて真っ直ぐに頷いた。
 この先を越えれば、互いの立場やしがらみを含めて後戻りは出来ない。それを承知でキラはラクスの手を取った。

 

「……ラクス、行こう」
「……はい」

 

 キラは繋いだ手に少しだけ力を込めると、ラクスも同じ様に握り返した。
 二人は寄り添うようにして、暗い通路を歩いて行く。
 砂漠の地平線には太陽が沈み、夜空には月と星空が輝き始めた。外で行われている宴も終わりを迎えつつあった。

 
 

 日付が変わり、プラントのザフト軍用宇宙港口は慌しい動きを見せていた。
 幾つもの物資やモビルスーツが戦艦に積み込まれて行く。また人も然り。
 その中、芳しくない表情を浮かべたアスランが、長い通路を一人、体を浮遊させながらある部屋を目指していたが、その途中、思わぬ人物に出くわした。

 

「よっ!」
「久しぶりだな、アスラン。少しはマシな面になったようだな」
「ディアッカに……イザーク。こんな所で、どうしたんだ?」

 

 挨拶をして来る二人に、アスランは多少なりとも驚いた様子だった。
 ディアッカとイザークが、少なくともアスランやフレイを見送りに来るはずも無く、今日、この場所に来る理由がすら思い当たらないのだから、困惑するも仕方が無かった。
 そんなアスランに向かって、イザークが不信気に問い質した。

 

「アスラン、お前は命令を聞いて無いのか?」
「命令? いや、俺はフレイを送り届ける事以外、何も聞いてはいないが……」
「俺とお前で脚付きの追撃。隊長はやる事あって別行動。イザークは勲章もらった後で合流だってよ」
「アスラン。俺は遅れて合流するが、それまで何があってもやられるなよ!」

 

 首を横に振るアスランに、ディアッカが仕方ないと言った顔で命令内容を伝えると、イザークが強めの口調で叱咤した。
 寝耳に水の命令を聞き、アスランは一瞬、我を忘れたが、内容を思い出すと顔を顰めて聞き返した。

 

「……ああ。それは分かったが……追撃って、どう言う事だ? アークエンジェルにフレイを引き渡すんだぞ! その船に攻撃しろと言うのか!?」
「アスラン。あの女を殺したくないのであれば、上手く沈めれば良いだけの事だろう?」
「ゴチャゴチャ言っても命令なんだ。諦めろ。でなけりゃ、イザークの言う様に上手くやれって」

 

 先日の病院での事を知っているイザークは、アドバイスを隠した様な言い方をしたが、ディアッカはある種の割り切りを持ってそれに答えた。
 どちらにしてもこの二人からすれば、フレイはナチュラルであり、未だ信用出来ない人間なのだ。
 だが、アスランからすれば、友達であり、強く引かれ始めた女性でもあるフレイを、自らの手で殺してしまう可能性が出て来てしまったのだから、どうすれば良いのか分からない。
 アスランは険しい表情を浮かべたまま通路を急いだ。

 

「お前、こっち行くんじゃないのか?」
「いや、ニコルが見送りに来ているんだ」

 

 幾つかの角を過ぎた辺りでディアッカが止まって尋ねて来ると、アスランは振り返って答えた。
 病院で顔を会わせて以来と言う事もあって、ニコルに会いに行く気でいるディアッカは、イザークに顔を向けた。

 

「それなら顔出しとくか。イザーク、行くだろう?」
「ああ、勿論だ。アスラン。ニコルの怪我どうなった?」
「傷はまだ残ったままだ」

 

 三人はアスランを先頭に再び移動を始めると、後ろの二人はニコルの具合を色々と聞いて来た。
 二、三分ほど移動をし、アスランは床に足を着けると扉のスイッチを押した。空気の抜ける音とともに扉が横にスライドすると、三人は中へと入って行く。

 
 

「よう、ニコ……ル」

 

 気軽に片手を挙げて、挨拶をしかけたディアッカの表情が固まった。
 長椅子にフレイと並んで座っていたニコルは、醜い傷が残った顔に目一杯の笑顔を作って、数日ぶりに顔を会わせた二人を出迎えた。

 

「ディアッカにイザーク! お久しぶりです!」
「お前、その顔……」
「……ニコル。その傷、大丈夫なのか!?」

 

 ディアッカとイザークは、ニコルの傷がここまで酷いとは思って無かった様で、息を飲み本気で心配している様だった。
 傷を負ったニコルからすれば、医者から傷は消せると太鼓判を押されているだけに、最近は完全に慣れてしまっている様で、みんなと同じ反応を見せる二人に苦笑いを浮かべた。

 

「気にしないでください。僕が復隊する時には傷は消えてますから」
「……いや。アスランから聞いてたんだが驚いたぜ。消せる傷で良かったな」
「ニコル、今は治療に専念しろ。戻ってくるのを待っているからな」
「はい」

 

 二人は傷付いた仲間に激励と労わりを込めて、自分なりの言葉を送る。ニコルは素直に受け取って返事をした。
 そのニコル達の傍では、アスランがフレイに声を掛けていた。

 

「フレイ、平気か?」
「うん、大丈夫よ。……何かあったの?」
「……いや、何でも無い」

 

 フレイはどこか様子が可笑しいのを感じたのか、心配そうな顔を覗かせるが、アスランはただ首を振って答えるのみだった。
 短い付き合いとは言え、アスランの事は少しずつ理解し始めていたフレイは、確信的に何かあったのだろうと思っていると、いきなり誰かの声が自分に向けられているのに驚いた。

 

「おい、女」
「えっ、私!?」
「女は貴様しかいないだろう」
「は、はい!」

 

 びっくり顔でフレイが見上げると、病院の屋上でアスランと大乱闘を演じたイザークが目の前に立っていた。誰が見ても、今のフレイは恐怖に震える子羊の様に見えるに違いない。
 しかし、そのイザークから出て来た言葉は、思わぬ物だった。

 

「その……なんだ……。こ、この前は貴様を巻き込むつもりは無かった。ただ、それだけだ」
「イザーク、お前……」
「うるさいぞ、アスラン!」

 

 呆れ声を零すアスランに、言うだけ言ってそっぽを向いたイザークが噛み付く勢いで声を荒げた。
 一瞬、体を震わせたフレイは、また乱闘が始まるのではと心配して、恐る恐る二人をなだめる。

 
 

「あ、あの……、二人とも喧嘩しないで……」
「……俺はそのつもりなど無いぞ」
「ああ。フレイ、心配しなくても大丈夫だ」

 

 目の前の少女の様子に、イザークはバツの悪そうな表情を浮かべるて顔を逸らした。それに続きアスランもイザークの言葉に同意すると微笑んだ。
 ホッとしたのか、フレイは少しだけ肩の力を抜くと、そこにいた全員を見上げた。
 プラントで信頼に足る人達はアスランとニコルを含むアマルフィ家の人達だけだが、思い返すと怖いイザークや、病室で物凄い勘違いをしてくれたディアッカも悪い人間には見えなかった。心の奥底では、もう少しプラントに残っていたいと思っていたのだ。
 そうしていると、イザークがアスランに声を掛けたのに気付いた。

 

「アスラン、話がある。着いて来い」
「……分かった」
「えっ!? あ、あの……」

 

 背中を向け、部屋を出て行こうとする二人に、フレイが再び震える声で呼び止めると、二人がほぼ同時に振り返った。

 

「……女、安心しろ。こいつを殴るつもりは無い」

 

 イザークはぶっきらぼうにではあるが落ち着いた口調で告げると、アスランもフレイに首を軽く縦に振って見せた。
 そうして二人は部屋を後にすると、扉が閉まった所で向かい合った。
 少なくとも扉が開かない限り、向こう側に声が聞こえる事は無い。短い話をするならば、ここで十分だった。
 見透かした様なイザークの視線がアスランを突き刺す。

 

「アスラン。あの女の事をどう思っている?」
「フレイの事か!? 俺は……」
「貴様にはラクス・クラインがいるだろう! ハッキリしろっ!」
「……っ!」

 

 はっきりしない態度に苛立ったイザークは、アスランの胸倉を掴み壁に押し付けた。
 男として気迫に満ちた目でイザークは問う。全ては病院の屋上での出来事を知っているからこその行為だった。

 

「貴様は好きでも無い女を抱きしめるのか?」
「俺は……」
「……迷っているのか? 貴様、女々し過ぎるぞ!」

 

 何も答えらないアスランに対し、イザークは吐き捨てて手を離すと、体ごと背けて再び口を開いた。

 

「今は殴らん。女を泣かすのは性に合わんからな。……俺が合流するまでに答えを出しておけ。それまでに答えが出ない様ならば、俺は貴様を殴るからな!」
「ああ。分かった」

 
 

 イザークがこの様な行動に出るのも、アスランには理解出来た。全ては何時までも煮え切らない自分が悪いのが原因なのだ。アスランは強く頷いた。
 その目に宿った物を確認したイザークは、微かに口の端を吊り上げると、

 

「俺は帰る。みんなによろしく伝えておいてくれ。何があっても死ぬんじゃないぞ! いいな!」

 

 と言って、その場を後にした。
 ここに集まったパイロット達の仲で唯一、イザークだけがこの場所に来る理由が無かったのだ。
 アスランはイザークの言葉の端々を思い出し、ニコルとの約束を遂げる為に、自分を叱咤しに来たのだと理解すると、その背中が見えなくなるまで見送った。
 それから、アスランは服を調えると部屋へと入って行った。
 中で話でもしていたのだろう三人が、再び入って来たアスランを見るとディアッカが尋ねて来た。

 

「おい、アスラン。イザークはどうした?」
「ああ。用事があると言って帰ったが」
「冷たい奴だなぁ」
「ディアッカ。イザークはそんな人じゃ無い事、知ってるでしょう」
「あったりまえだろ」

 

 なだめるニコルに、ディアッカは親指を立てて茶化した様に答えた。
 実際、このクルーゼ隊パイロットの面々が、ここまで仲が良いのも珍しい。それもプトレマイオス基地奇襲を成功させ、余裕のある状況下でマスコット的な役目をニコルが負っているからに過ぎなかった。もしかしたら彼等に取っては、今が一番良い時期なのかもしれない。
 刻一刻と出発時間が近付いて来る。
 ニコルが立ち上がり、アスランとディアッカに向かって頭を下げた。

 

「アスラン。フレイをお願いしますね。あとディアッカも」
「……ああ」
「あの戦艦までだろう? 今度ばっかりは素直に頼まれてやるよ」

 

 アークエンジェル追撃の任が頭にぶり返したアスランは、一瞬、躊躇したが頷いて見せると、続くディアッカは自信あり気に答えた。
 雰囲気から何かを感じ取ったのか、ニコルはアスランの目を見て、再度繰り返す。

 

「アスラン。フレイを無事に送り届けてあげてください。絶対ですよ!」
「……任せてくれ。俺が必ずフレイを無事に送り届ける」

 

 この瞬間、アスランはニコルの言う事を理解すると、力強く頷いた。
 ニコルの目はフレイがアークエンジェルを降りるまで、アスランが必ず守り抜けと告げていたのだった。