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CCA-Seed_98 ◆TSElPlu4zM氏_第32話

Last-modified: 2008-03-20 (木) 00:26:25

 アークエンジェルの外では大気が揺らぎ、乗組員の目には蜃気楼が写っていた。それはまるで、この先に彼らが辿り着くべき場所がそこにあるようにも見えた。
 ラクスとフレイ――。二人の少女の身柄交換を終え、バルトフェルド達と別れを済ませた、彼等は十分と経たずブリッジに戻って来ていた。
 他の持ち場にしても既に大方の配置も終え、後は発進を待つばかりの状態となっている。

 

「エンジン異常なし。アークエンジェル全システム、オンライン。発進準備完了!」
「これより本艦はアフリカ大陸を脱出を行います。各員、気を引き締めてお願いします。進路は東へ。紅海を目指して」

 

 旅立ち準備が終わったを事を知らせる声が響くと、息を大きく吐いたマリューが全員に言い聞かせるように指示を出した。

 

「進路設定終了。いつでも行けます」
「アークエンジェル、発進!」

 

 コンソールを叩き、設定を済ましたノイマンが振り向くと、マリューが前を見据えて声を張り上げた。
 この数日の間に埋もれたスラスターは、火が点ると砂を吹き飛ばして、その巨大な白い船体をゆっくりと宙に浮かせた。
 艦が上昇して行く最中、マリューは小さく安堵の表情を浮かべる。そして、思う事があるのかナタルを呼んだ。

 

「……ナタル。いいかしら?」
「なんでしょうか?」
「針路、これで良かったと思う?」

 

 戦闘指揮所にいたナタルが腰を上げて上官の前に立つと、マリューは不安気に聞き返した。
 この数日、マリューは自分なりに脱出経路を思案し、最終的な判断をしたつもりだった。だが、自分の考えが正しいとは限らない。だからこそナタルの意見を聞いたのだった。

 

「ええ。私が艦長ならば、ほぼ同じルートを採りました」
「ほぼ同じ?」

 

 少しのためらいも無くナタルが頷くと、マリューはその言葉が気に掛かり聞き返した。
 ナタルはモニターに映し出されている地図に目を向け、自分の考えたルートを指差しながらそれに答える。

「私が思っていたのは紅海北部ではなく、紅海の中央部付近へ出るルートです。しかし出る場所が若干、上か下かだけで、艦長のお考えと差がある訳ではありません」
「……そう。方角は間違ってなかったのね」

 多少の差異はあれど、ナタルの言葉を聞いたマリューは安堵の表情を浮かべた。
 その一方で、ナタルは障害となる箇所を取り除いた、理想的針路を目で追いながら言った。

「本当ならば紅海南部。インド洋につながる辺りに出れれば理想なのですが……」
「あの辺りは山もあるもの。場所が場所だけに、ザフト軍も容易に攻撃が出来るとは思えないけれど……。でも、アークエンジェルでは山越えは無理だし……難しいわね」
「ええ」

 

 マリューの言う通り、それを理解しているナタルは同意するように頷く。
 もし南下するにしても、失敗すれば南アフリカ戦線とぶつかり兼ねない。最悪、挟み撃ちになる可能性もあるのだ。紅海に出るにしてもまた然りと言った所で、アフリカ大陸はアークエンジェルの障害となる箇所が以外に多かった。
 ふと思い出したマリューは、ポケットの中を弄って記憶媒体らしき小さなプラスチックの板を取り出す。

 

「……そう言えば。これをお願い」
「これは?」
「アンドリュー・バルトフェルド隊長からのラブレターよ。きっと、私達がここから脱出する為のヒントが入っていると思うの」
「……ヒントですか? 至急、この分析を!」

 

 おどけながら答えるマリューの手からチップを受け取り、ナタルは少しばかり顔を顰めた。そして、目線だけでチャンドラに解析及び再生を命じ、モニターへと顔を向けた。
 交流があったとは言え、本来、砂漠の虎は敵であり、その贈り物がいかなる物で、それが吉と出るか凶と出るかは未だ不明なのだ。今は疑って掛かるのは当たり前の事だった。
 この数分後、ブリッジのクルー達はその内容に、少しの間ではあるが開いた口がふさがらなくなるのだが……。
 ちなみにではあるがこの時、アークエンジェルから二キロほど離れた場所に、一台の車両が停まっていたのを彼等は気付かずにいた。

 
 

「天使が東に歩き始めたぞ」

 

 双眼鏡を覗いていた一般人らしき中年男性が、手にした通信機に向かって言った。

 

『そのま――を追え。俺達も出発――。途中で合流――』
「分かった。また後でな」

 

 Nジャマーの影響で通信機からは途切れ途切れの声が返って来る。男性は言いたい事が分かるのだろう。通信機を助手席に放り投げると、キーを回してエンジンを唸らせた。
 車は砂を巻き上げてUターンをすると、アークエンジェルの遥か後方をゆっくりとしたスピードで追い始めた。

 

「サイーブの話が本当なら、お前らは敵じゃねえ。少しは俺達の役に立ってくれよな。大天使さんよ」

 

 ハンドルを握る中年男性は、アークエンジェルの背を見据えながら呟いた。
 彼等の願いは、支配する者達を追い出したいだけなのだ。

 
 

 身柄交換を終えたヘリは四十分ほどで、その本拠地である屋敷に辿り着くと、ヘリを降りたラクス達は、すぐに広い応接室へと通された。
 数分の後にバルトフェルドになり代わって、この地に着任した指揮官が姿を現す。

 

「これはラクス様。ご無事でなによりであります」
「はい。ありがとうございます」

 

 白い制服に身を包む二十代半ばの若い指揮官は敬礼をすると、ラクスは座っていたソファーから腰を上げ、軽く頭を下げた。
 彼がラクスのファンなのか、最高評議会議長の令嬢を前にしてなのかは、全くもって不明ではあるが恐縮しっぱなしのようだ。
 そのやり取りが行われている中、飲み物を口にしていたバルトフェルドが、少しばかり険しい表情を指揮官に向ける。

 

「……挨拶はご苦労だが、君はアークエンジェルを追わなくて良いのか? 部下達は、まだバクゥに慣れていなだろう?」
「今回は副官にレセップスでの指揮を任せてあります。それにパイロット達は、短いながらも本国で機種転換訓練を行っておりますし、自慢の部下達です。ナチュラルの寄せ集めに、我らが負ける訳が有り得ません」
「余程の自信だな。精々、足元をすくわれんようにな」

 

 指揮官は胸を張り、自信に満ち溢れた表情で答えると、バルトフェルドは皮肉るように口の片方を吊り上げてドリンクを含んだ。
 この土地に来たばかりだと言うのに、この指揮官はラクス・クラインにかまけて、自ら戦場に赴かないと言う馬鹿な失態を演じているのだから、バルトフェルドからすれば皮肉りたくなると言う物だった。
 だが、そんな事など気付きもしない指揮官ではあったが、彼も軍人ではある。現状、ラクスがこの土地を離れない限りは、アークエンジェルに攻撃を出来ない事も理解していた。

 

「……ラクス様。既に出立の準備は出来ています。お早いお発ちを」
「待ってください。私、アスランとお話がありますの」
「いや、しかし……」
「お願いします」

 

 予想外の事に指揮官は渋い顔を見せると、ラクスは深々と頭を下げた。
 指揮官は部屋の片隅に立つ赤服の片方――アスランを眉間に皺を寄せながら一瞥すると、バルトフェルドが横から口を出した。

 

「歌姫の願い出だ。その位は良かろう?」
「……分かりました」
「出来れば、二人きりでお願いしたいのですが」
「それでは別室を用意させます」

 

 渋々と言った表情で指揮官は部下に指示を出すと、数分の内に一室が用意され、ラクスとアスランは促されて部屋を後にした。
 そうして二人が出て行くと、指揮官は溜息を吐いてわずかな笑みを見せる。

 

「……ふぅ。……少し緊張しました」
「彼女のファンなのか?」
「……ラクス様は最高評議会議長のご息女ですから」

 

 場繋ぎ程度の会話として聞いて来たバルトフェルドに、指揮官は濁すように答えた。
 だが、やはりそんな事はどうでも良いバルトフェルドは、不敵な笑みを浮かべて興味のある事柄を引っ張り出す。

 

「それにしても、たかが敵艦一隻に、北アフリカ方面軍全体の二割近くも使うとはな。昨日、聞いた時には驚いたさ」
「それには私も同意します。しかし、卑劣にも敵艦はラクス様を人質として使ったのですから、それを許す訳にはいきません」
「……人質ねえ。俺はそんな報告は挙げて無いんだがね」

 

 キッパリ言い切った司令官に、バルトフェルドは顔を歪めて吐き捨てた。
 北アフリカ方面軍と言っても、支配下に置いている範囲をカバーする為、小中規模の基地と部隊はそれなりの数が存在している。その半数以上の戦力は、南アフリカ統一機構に対して向けられてはいるのが実情だった。
 前線を抜かしたとは言え、後方の守り役である駐留軍東方面の隊をほぼ総動員するのだから、かなりの大事であり、それだけラクス・クラインと少女の存在の大きさがうかがい知れる。だが、この事をラクスが知れば、いつも見せている笑顔を消し、激怒するに間違いない。
 しかし、ラクスとアークエンジェルの乗組員達との交流を知らない司令官は、さも当たり前のように告げる。

 

「報告はどうあれ、これは命令ですから。猶予時間など与えなければ、私の隊だけで全てが済んだのですが……。ラクス様はお優し過ぎるのですよ」
「……それで君は、彼等がどこに向かうと思っているんだ?」
「……今までの情報と戦力配置を考慮し、恐らく東方。……紅海を抜けるルートでしょう。北と西は有り得ない。南には戦線があり、必要以上の戦いを強いられる。簡単な消去法です」
「まあ、そうだろうな」

 

 指揮官になるだけあって頭は切れるのだと理解したバルトフェルドは、一応頷いて見せた。

 

「既にレセップスを早朝に向かわせました。待ち伏せて頭を抑え、徐々に包囲しながら叩く形になるかと」
「用意周到だな」
「抜かりはありません。それに、明らかに我々が有利なのですから」

 

 薄く笑う砂漠の虎の表情をどう受け取ったのか、指揮官は更に自信を深めたようだった。
 バルトフェルドから見て、この指揮官はアークエンジェルにを甘く見過ぎていた。なにせ、アムロ、キラ、ムウを相手にしなければならないのだ。ましてや時間ばかりを掛けて散漫な攻撃をしていれば、無駄に犠牲が増すばかりだろう。
 この指揮官のおごりで不運な最後を遂げる兵士達は、不幸だとしか言いようがなかった。しかし、もう既にバルトフェルドは口を出せる立場にはなく、見ている以外には何も出来ない。
 それを考えれば、唯一の救いとなる物をマリューに託せただけでもマシだった。誰かが気付いてさえくれれば、両軍共に戦死者を少しは減らす事が出来るはずなのだから。

 

「数だけあっても、簡単に彼等は落とせんぞ。君は甘く見過ぎている。無駄に戦死者を増やしたくないのならば、戦術を練り直せ」
「……あなたほどの方が意外ですね。一応、検討だけはしましょう」

 

 忠告を耳にした指揮官は『臆病者』とでも言いたい表情を浮かべると、バルトフェルドはこの時点でアークエンジェルが逃げ切る事を確信した。

 

「それよりも、あなたの愛機であるラゴゥを、本当に我々が使っても良いのですか?」
「宇宙でラゴゥは使えんだろう。それにシャトルに載せるには重すぎる。どの道、レセップスに残して来ているからな。君達が好きに使えば良い。大事に使ってくれよ」

 

 今まで活躍してくれた愛機に感謝しつつも、そう言ってバルトフェルドは胸糞悪そうに部屋を後にした。

 
 

 アークエンジェルは左手に小高い丘を見ながら砂漠を進んでいた。
 ただ一ついつもと違うのは、モニターから延々とコーヒーのうんちくを語るバルトフェルドの姿が流れている事くらいだろう。
 既に映像が流れて二十分――。戦争をやろうと言うのに、何が悲しくて敵将からコーヒーの講釈を聞かなければならないか。いっその事、『砂漠の虎』を改めて喫茶店でも経営してくれと誰もが思った。
 ちなみにこれを流すように指示したマリューは頭を抱え、ナタルに至ってはこめかみの辺りを振るわせている。

 

『――さて、これで完成な訳だが、最初の一口目は何も入れずにブラックで楽しんで欲しい。まあ、時間も時間だし、この先は次に会った時にでも教える事にしよう。それでは諸君、さらばだ! また会おう!』

 

 モニター内の珈琲博士は、そう言って締めくくった。

 

「……なんなんだ、これ?」
「『砂漠の虎』の正体が、ただのコーヒーおたくだったとはな……」
「なあ。奴の通り名、『砂漠の虎』じゃなくて『マスター』に変えようぜ」

 

 この映像の所為に、既に緊張が途切れていたブリッジ要員達は好き勝手に話し始めた。

 

「――お前達、私語を慎め!」

 

 流石に我慢の限界が来たナタルは当たり前のように爆発した。マリューも含めた全員の背筋が伸びた。アークエンジェルは軍艦なのだから、ナタルの爆発も分からなくもない。
 しばしの沈黙が支配すると、レーダーに何かが映った事にチャンドラが気付いた。

 

「……なんだ!? ……くそっ。Nジャマーの影響で見難い。艦長! 後方、約二五〇〇上空にザフト軍機と思われる機影を複数発見しました。しかし、距離をつめる様子も無いようですから、恐らく偵察機だと思われます」

 

 報告の声とともにブリッジに緊張が走った。

 

「……追尾されてるのね。今、迂闊に撃つ訳にもいかないし、どの道、その距離じゃ当てる事なんて無理ね」

 

 振り返ったマリューは顔を顰めた。だが、下手に撃墜をすれば、せっかくの猶予時間を減らす事になりかねない。しかし、いつまでも付いて来られるのは困るのだ。
 前屈みに外を睨みながら思案するマリューを、ナタルが引き戻した。

 

「……こ、これは!? 艦長!」
「なっ、なに、ナタル? なにか……」
「とにかくモニターを見てください!」

 

 慌てた様子のナタルに促され、先ほどまでバルトフェルドが映っていたモニターに目を向けた。

 

「……これは!? ……アフリカ大陸?」

 

 ノイズ混じりに映し出される縮尺の崩れたアフリカ大陸。
 しかも、コンマ数秒単位で映し出される画像はその都度違い、恐らくアークエンジェル追撃の為だと思われる予想配置図、それから逃れる為の航路、それにまつわる何かを示すであろう点などが代わる代わる表示されていた。

 

「……もしや罠では?」
「でも、罠だとして……今、私達が行こうとしている紅海北部ルートが、一番厳しい配置になってるみたいだわ。理に適っていると思うのだけれど。それにしてもアークエンジェル一隻に数が多過ぎる……。ナタル……。あなたはどう思う?」

 

 ナタルが慎重な表情を向けると、次々と変わる画面を眺めていたマリューは、自らの顎に指先を這わせながら震える声で返した。

 

「……私には判りかねますが、この図が事実ならばザフト軍は、我々に対して少なくとも大隊規模の戦力を向けて来ると言う事です」
「……戦力差が大き過ぎるわ。……この矢印、二つあるけど脱出ルートかしら? 片方はナタルの言っていたのに近いわね」
「私の考えていた物より、更に南に出るルートだと思われます」

 

 出発時に交わした会話を思い出したマリューが呟くと、ナタルは崩れた縮尺を考慮しながら答えた。
 その二人の会話に、芳しくない表情でチャンドラが割り込んで来た。

 

「だけど、艦長。この地図は縮尺がいい加減で紅海に出るにしても、この予想配置は当てに出来ないですよ」
「……ルートが二つ。一つは紅海南部に出るルートで、もう一つはどこに出るんだ? これだと細かい経路までは分からないぞ。どうやってこの戦力を抜けるんだよ」
「所詮、敵からの贈り物を当てには出来ないか……」

 

 ノイマンがモニターを見上げながら眉を顰めると、マリューはいい加減な地図を眺めてうな垂れた。
 一個中隊規模ならまだしも、最低でも大隊規模を動かれては最早、絶望的と言って良い。彼等に焦りの表情が見え隠れする。
 大人達がそう言った話をしている中、戦闘指揮所で地図を見ていたカズイが小さく唸った。

 

「……ん、ぅん?」
「カズイ、どうしたの?」
「ああ。……この地図、いい加減に見えるけどさ――」

 

 ミリアリアが不思議そうに問い掛けると、カズイは気付いた事を口に仕掛けた。
 二人のやり取りを耳にしたナタルは、少しでも脱出の為になるならとカズイを呼び止める。

 

「――バスカーク、どうした? 何か気付いたなら言ってみろ」
「あ、あの……は、はい! えっと、……あの地図と普通の地図を……並べて見せてもらえませんか?」

 

 慌てたカズイは席を離れて大人達の前に立つと緊張気味に言った。

 

「ちょっと待ってろ。……ほら」

 

 チャンドラがコンソールをいじるとモニターに二つの地図が並び、カズイは二つを見比べた。
 地図の端々にカズイは目を向け、形状、歪み、線の幅、図にうっすらと見える継ぎ目を見比べる。

 

「えっと、右端の辺りを拡大してください。……次は真ん中の左上辺り。……そこです。……次は……」

 

 カズイは所々拡大させたりと数回指示を出して行く。そして、細められていたカズイの目が見開くと、珍しく自信あり気に告げた。

 

「……やっぱり! この地図歪んで見えますけれど、きっと部分的に切り取って繋ぎ合わせた物ですよ! 薄いですけれど継ぎ目が見えるでしょう。それを全部抽出して、大陸の天地左右の比率を合わせれば良いんですよ」
「……マジか!? バスカーク、お前も手伝え! トノムラ。少しの間、俺の代わりを頼む!」

 

 大人達は顔を見合わせ合う中、一番最初に反応したチャンドラが慌てて画像を加工し始める。呼ばれたカズイは傍らに立つと、二人はコンソールモニターを眺めながら作業に没頭し始めた。
 他の者達は戸惑いながらも二人に分析を任せ、二十分ほどが経過した頃――。

 

「バスカーク、良くやった! ドンピシャだ!」

 

 突然、チャンドラが叫び、カズイの背中をバンバンと嬉しそうに叩いた。

 

「艦長、モニターに出します!」
「……紅海に出るルートは良いとして、もう一つは……!? ……ビクトリア基地!?」
「高地に沿ってビクトリア基地手前で東に転進。トゥルカナ湖を抜けてインド洋……」

 

 モニターを見たナタルは絶句。マリューは正確な地図に驚きながらも、もう一つのルートを追った。

 

「ビクトリア湖からのトゥルカナ湖までの距離は?」
「およそ三百キロです」
「モビルスーツの足では追い着くのは無理だとしても、航空戦力なら……」

 

 チャンドラが湖間の距離を返すと、マリューは微妙な表情を浮かべた。
 その傍らにいたナタルが、ノイマンへと顔を向ける。

 

「アークエンジェルの飛行高度で抜けて行けるのか?」
「山脈のように急激な高低差が無ければ大丈夫です。……地形を見る限り、トゥルカナ湖周辺は……思ったよりもなだらかな上、高さも無いようなので、恐らくは」
「……艦長。このルートはアフリカ戦線にぶつかる危険性があります。敵を巻く事を前提にしなければ不可能です」

 

 問いに対してノイマンはモニターを見ながら答えると、ナタルは少し考えてからマリューへと進言した。
 事実、ナタルの言う通り、敵だらけの内陸部を通ると言うのはリスクが大きすぎた。そして、何よりも問題なのはザフト軍の手に落ちたビクトリア基地の存在。
 進路を変更し、ビクトリア基地を陥落させるなら別ではあるが、今のアークエンジェル一隻では不可能。この図の通り逃げるにしても、遠方になる為か戦力配置が記されていなかった。ルート以外はほぼ不明と言って良く、無謀な戦いを仕掛ける訳には行かない。

 

「……ナタルなら紅海ルートを選ぶわよね?」
「ええ。そもそも、これに乗る事自体が疑問ですが、この二択しか無いのならば紅海ルート以外はありえません」
「うん。……やはりそうよね」

 

 二人は目線を一切外す事無く確認し合う。そしてマリューは小さく頷き、向かうべき針路を決断した。

 

「フラガ少佐、アムロ大尉。至急、ブリッジへお願いします」

 

 最終確認をする為に、マリューは受話器を上げて二人のパイロットに呼びかけ、手にしたそれを置こうとした瞬間――、

 

「なんだ!? 丘の向こうから動く物? ……左舷に所属不明の車両多数! 距離、約一〇〇〇!」

 

 チャンドラの代わりをしていたトノムラが、コンソールモニターを睨みながら叫んだ。

 

「またザフト軍!? 予定よりも動くのが早いわ!」

 

 受話器を叩き付けるように置いたマリューが眉間に皺を寄せる。だが、報告はとも言い難い声はまだ続いていた。

 

「今度は数が多過ぎる! ……ん!? ……モビルスーツや航空戦力も混じってないのか!?」
「報告は正確にしろ!」
「済みません! ……接近する所属不明車両群には、モビルスーツ及び航空戦力の影は認められません!」

 

 不正確な報告にナタルが叱咤すると、トノムラは全てを整理してその内容を伝えた。

 

「……もしやレジスタンスでは!?」
「……一応、ストライクとνガンダムの発進準備を。アムロ大尉には格納庫に向かってもらって! ここは様子を見ましょう。もし攻撃して来るようなら反撃も構わないわ」

 

 ナタルが顔を向けると、マリューは頷いて指示を出して行った。
 数日前に受け取った便箋には、少なくとも敵対意志は示されて折らず、代わりに協力の意志も無かったはずだ。どうして、その彼等が現れたのか?
 レジスタンスが一体、何を考えているのかとマリューは困惑するしかなかった。

 
 

 アークエンジェルの住居区画の一室。そこには一組の男女が言葉を交わす事も無く、ベッドに腰を下ろしたたずんでいた。
 一人はサイ・アーガイル。そして、もう一人はフレイ・アルスター。
 二人は親が決めた婚約者同士ではあるが、ヘリオポリスにいた頃はまだ恋人未満と言ってもおかしくはなかっただろう。それは互いの将来は分かっているだけに、二人とも急いで関係を築くよりも、今だけしか出来ない年相応の時間を過ごしていたかったからだ。
 だが、それも崩れ去り、地球軍の制服に身をくるむ立場となったサイを、フレイは何とも言い難い視線で捉えていた。

 

『――ストライク、νガンダム両機は至急、出撃準備に入れ! ストライク、νガンダム両機は至急、出撃準備に入れ!』

 

 いきなりスピーカーから、サイに取っては聞き覚えのあるトノムラの声が響いた

 

「もうザフト軍が来たのか!? ……まだ時間は経ってないのに!」
「……戦闘が始まるの!?」
「まだ分からないけど、きっと大丈夫だから」

 

 不安気な顔を見せたフレイに、サイは立ち上がってなだめると、コンソールパネルをいじくりブリッジへと回線を繋いだ。
 サイ自身、気付きはしないが繋がるまでの間、焦りから指先がパネルを何回も叩いていた。

 

「アーガイルです。はい。……レジスタンス!? まだ大丈夫なんですね。……はい、分かりました。何かあったら呼んでください」

 

 ブリッジと繋がるとサイは状況を確認し、ホッとした表情を浮かべてスイッチを切った。そして、フレイへと顔を見せると笑顔を作った。

 

「……フレイ。まだ大丈夫みたいだよ」
「……そう」

 

 告げられたフレイは息を吐いて安堵した。
 その間にサイは、コンソールパネルの元を離れ、近くにあった備え付けの椅子に腰を落としていた。表情からは緊張から来る疲労がわずかに読み取れた。
 フレイは顔を上げると、サイの服装を見ながら強張った顔で尋ねた。

 

「……ねえ。どうしてサイは地球軍の制服を着てるの? それにミリアリアや他のみんなも」
「色々あって……それでこの船、人手不足だから……」
「だからって……。だからって、みんな揃って戦争に参加する事無いじゃない!」
「仕方なかったんだ。アークエンジェルに乗せてもらえなかったら、俺達……きっと死んでたと思う」

 

 身柄交換をした際にあのような出来事があっただけに、サイは慎重に言葉を選びながら答えた。
 本音を言えば、キラの友達だったあのザフト兵と何があったのかを尋ねたかった。だが、聞けば何かが崩れる気がして、サイはそれを圧し留めていた。
 だが、サイにはサイなりの事情がある事を知らないフレイは、厳しい言葉を突きつける。

 

「助けられたからって、恩返ししているつもり? ……サイはそんな事で戦争するの!? そんなの軍隊に入る理由にならないわよ!」
「違う、誤解だよ! 俺はアラスカに着いたら除隊するつもりでいるんだから」

 

 突き刺さる厳しい視線に、サイは大きく首を振って否定した。
 サイ自身、いつまでも軍人を続けているつもりは無かった。機会が来れば復学して、将来は自分思う職業に就きたいと思っていた。だが、自分達を必死に守ろうとするキラやトールを見捨て、一人離れてしまうのも気が引ける。
 だから除隊するならみんなでとは思ってはいるのだが、きっとそうはならない事も薄々感じてはいるのだ。
 サイが感じるそれを、まさしくフレイが投げかける。

 

「……みんなもなの?」
「それは……分からない。だけど多分……キラとトールは残ると思う」
「トールも!? どうしてミリアリアは止めないのよ!?」
「ミリアリアは止めたんだよ。……でもトールは、キラやみんなを助ける為にって、自分からモビルアーマーに乗るって言って……。キラもトールも、アークエンジェルの人達と仲が良いからさ」

 

 明らかに怒っているフレイを、サイはなだめつつも、矛先となったミリアリアのフォローも怠らなかった。

 

「久しぶりに会ったと思ったら、みんな変わっちゃって……。一体、何なのよ……」

 

 サイの言葉を聞いたフレイは、苛立ちを隠そうともせずに頭を抱える。
 確かにフレイの言うように、それぞれが少しずつ変わって来てはいるのだが、サイからすれば、一番変わったと思うのはフレイだと感じた。
 だが、それを指摘した所で彼女が元に戻る訳ではない。真っ向から否定すれば頑なになるだけで、凝り固まった心は時間を掛けるしかない。
 今、サイに出来る事は、フレイとキラ達の間を少しでも和らげる事くらいだった。

 

「あのさ、二人を責めないであげてよ。……それにキラだって、好きで戦ってる訳じゃないし。みんなを守る為に戦っているんだからさ」
「責めるなって……? 好きで戦ってる訳じゃないって……。なんでそんな事言えるのよ! 見てたでしょう! キラは平気で友達を裏切るような人間なのよっ!」
「……だとしてもさ、キラは俺達を選んだんだ。ザフト軍の彼には悪いけど……。そう言う事だと思うし、……それに俺らが口を出す事じゃないから」

 

 感情の矛先を自分に向けられ、臆したサイは取り繕いの無い言葉を零した。

 

「……アスランに悪いって……口出す事じゃないって! ……何よ、その言い方!」
「えっ!?」
「……ふざけないでよっ! アスランがどんな想いでいたか知らないくせにっ! ニコルの怪我だって、全部キラの所為なのよ! あんたもキラも大ッ嫌いっ!」

 

 自分が零した言葉が、フレイの逆鱗に触れた事を理解し、サイは慌てふためいた。
 ヘリオポリスにいた頃の彼女は、楽しそうに笑う美しい少女で、父親の影響で少なからずコーディネイターに対して偏見も持ち合わせていたはずだった。
 そのフレイが、父親方の敵であるプラント側の人間と友達となり、しかもその相手の為にこうして怒りをぶつけているのだから、何かあったとしか思えない。
 ――原因は全て、あのアスランとか言うザフト軍兵士かっ!?
 嫉妬に駆られたサイは、立ち上がってフレイの腕を強引に掴み掛かった。

 

「ちょ、ちょっと待ってよ、フレイ!」
「痛いッ! 離してよっ!」
「ねえ、フレイ! プラントで何が!? そのアスランって奴と何があったの!?」

 

 腕を掴まれたフレイは顔を歪ませるが、サイは頭に血が上りそれすら気に掛ける事はなかった。
 ジタバタと抵抗するフレイは、空いている片手を挙げて強引に振り解こうとする。

 

「離して! 離してってばっ!」
「フレイっ!」

 

 暴れるフレイに業を煮やしたサイは、強引に抑え付けるとベッドに押し倒した。
 両手を押さえられた為に抵抗も出来ず、覆い被さられたフレイは恐怖から瞳を振るわせた。

 

「……うぅっ……」
「……ご……ごめん!」

 

 泣き声を聞き、自分を取り戻したサイは混乱した様子で後退った。

 

「……出てって! ……出てってよっ!」

 

 解放されたフレイは、体を丸めるようにして上半身を起こすと、サイから逃れる様にベッドの上を後退り、号泣きしながら手に触れた何かを投げつけた。

 

「こ、こんなつもりは無かったんだ! ほ、本当に……ごめん!」
「……来ないでよっ! 近付かないでよっ!」

 

 物を手当たり次第投げつけられたサイは、謝りながら近付こうとしたが、フレイはそれを叫んで拒絶した。
 彼女の瞳から感じ取れるのは、明らかな嫌悪。サイは愕然としながらフラフラと後退った。気付かぬ間に扉の所までに来ていたらしく、背中に金属板の冷たく堅い感触が伝う。そのまま頭の中まで金属の冷たさが伝わっていく気がした。

 

「……本当に、ごめん」

 

 俯いたサイは蚊が鳴くような声で謝ると、扉を開けて背を向けた。

 

「うぅっ……アス……ラン……」

 

 扉が閉まる寸前、フレイの泣き声に入り混じり、あのザフト兵――アスランの名を呟く声が聞こえた。
 きっとフレイは、こらから先、自分に笑いかけてくれる事など無いのだろうなと思った。そしてアスランが憎い。悔しさで涙が溢れる。
 だが、嫉妬に駆られた自らの行動が原因となり、フレイに対する全てを潰してしまった。

 

「俺……最低だな……」

 

 冷静でいられたなら。嫉妬していなければ。こんな事にはならなかった。涙と一緒に呟きが零れた。

 
 

 部屋の中には美術品などが並び、落ち着いた雰囲気を醸し出していた。
 だが、目の前に立つ婚約者――ラクス・クラインの口から知らされる話を聞き、アスランは落ち着く所では無くなっていた。

 

「……ですから婚約を破棄させてください。……私事で本当に申し訳ないと思っています」

 

 深々とラクスは頭を下げるが、アスランは何をどう言って良いのか分からず唖然としていた。

 

「あの……アスラン?」
「あっ……ああ。……選りにも選って……キラなのか」
「はい」

 

 柔らかい声がアスランを引き戻す。慌てて頷き、呟くように聞き返すと、ラクスは素直に頷いた。
 いきなりの告白に、アスランの頭の中は混乱つつも、何故だか冷静に受け止めている自分がに驚く。ただ、自分が振られた事に変わりはない。

 

「……キラは敵なんだぞ」
「いいえ」

 

 ラクスは首を横に振って言葉を区切った。その姿を見て、アスランはどうして平然としていられるのか、何となく理解出来た気がした。
 ――俺は元々、ラクスの事を女性として見ていなかったのか……。
 思い返せば、ラクスへの接し方も恋人や婚約者のそれと言った感じでなかったのかもしれない。そして何よりも、フレイの存在が自分へのダメージを軽減させているのに気付く。
 そう言った思考をめぐらせていたアスランを、ラクスは真っ直ぐと見詰めながら、穏やかな笑みを湛えて言い切る。

 

「敵ではありませんわ」
「……地球軍にいる以上、敵である事には変わりない。あいつは俺が倒す。……ただ、それだけだ」

 

 彼女の言い様を耳にして、アスランはラクス・クラインの全てから手を引く事を決めると、淡々と言葉を並べ続けた。

 

「本気で言っておられるのですか?」
「君に取っては敵ではないのかもしれないが、あいつは明らかにプラントの敵なんだぞ」
「しかし、戦争が終われば……」
「こうなった以上、元に戻れるはずが無いだろう! 君は……プラントと地球軍、どっちの味方なんだ!?」

 

 悲しそうな表情を浮かべるラクスに、アスランは関係修復など不可能だと言い切ると、プラントを守る者として彼女を問いただした。

 

「……私は、出来るなら両軍が諍い無く手を携え、平和な時代を造って欲しいだけです。短い間でしたが、アークエンジェルの皆さんと過ごして、あの方々なら……キラなら……それが出来ると感じたのです」
「だとしても俺が、キラもアークエンジェルも撃墜してみせる」
「本当に出来るのですか? アークエンジェルには……フレイ・アルスターさんが乗っておられるのですよ。あの方は……アスランの大切な方なのでしょう?」
「俺とフレイは……友達と言うだけで、そんな関係じゃない! 婚約を破棄した君に、俺やフレイの事など関係無いだろう!」

 

 容赦無い言葉にラクスは言葉を返したが、アスランは触れられたくないのか不機嫌に吐き捨てた。
 そして、部屋にしばしの沈黙が流れる――。
 そうして、アスランはおもむろに顔を背けると、はっきりとした口調で決別を告げた。

 

「……婚約破棄の件は分かった。これから先、どんな事があろうが、俺の事に口を出さないでくれ」
「分かりました。それから……ありがとうございます」

 

 再び頭を下げたラクスは、顔を上げると笑顔こそ見せないが落ち着いた口調で言う。

 

「アスランはやっぱりお優しいのですね。……こんな私の事を、殴りも罵りもしないのですから」
「別に俺は……」
「……私は構わないのですよ」
「……もういい。女性を殴るような真似はしたくない。ましてや議長の娘に手を挙げる事など出来る訳がないだろう」

 

 ラクスの言葉に、アスランは神妙な面持ちで首を振った。そのような真似をするのは、どんな事であろうと彼のプライドが許さなかった。
 そしてアスランは、ラクスに背を向けると部屋を後にする為に歩き出した。

 

「アスラン。……私は、あなたとキラがまたお友達に戻れると信じています。いつか必ず」

 

 部屋を出て行こうとする元婚約者の背中に向かって、ラクスは力強くも優しく語り掛けた。
 その言葉に反応したアスランは歩を止める。

 

「――ラクス・クライン! 君は何が言いたいんだ!? これ以上、口を出すなと言ったはずだ!」
「……差し出がましい事を……申し訳ありませんでした」

 

 振り返ったアスランは当たるように怒鳴ると、ラクスはその事で頭を下げた。
 ラクスは、アスランに取って自分がそれだけの存在だったのだと理解した。このまま結婚したとして、きっと満たされる生活は無かっただろうと思った。
 頭を下げた少女を無視するように、アスランはそのまま踵を返して部屋を出て行くと、扉が大きな音を立てて閉じられた――。

 

「キラ……私はいつまでも、あなたの事をお待ちしております……。必ず……生き残ってください……」

 

 頭を上げたラクスは、窓の外へと目を向けると瞳を振るわせて呟いた。
 あの青空の下にキラが、アークエンジェルの人達がいる。彼等が無事に、そして再び会える日が来る事をラクスは祈った。

 
 

 アークエンジェルが乾いた砂漠を行く。
 その後方、約一〇〇〇メートルをレジスタンスの車両群が砂を巻き上げ追走していた。

 

「レジスタンスは一体……? 何故、付いて来る?」

 

 ブリッジ上でアグニを構えるνガンダム。そのコックピットで、アムロは眉を顰めて呟いた。
 レジスタンスは現れたと思えば何をするでもなく、ただアークエンジェルの後ろを追い掛けて来るだけだった。
 彼等にはアークエンジェルを討つ理由があるだけに、その行動の意味が理解出来なかった。

 

「――広域レーダーに機影! 右舷側、約三五〇〇! 機数は……Nジャマーの干渉により不明!」
「来たか!?」

 

 コックピットにチャンドラの声が響くと、アムロはアークエンジェルの右舷側の遙か彼方を見詰め、νガンダムの持つアグニの砲口をその方角へ向けさせた。
 現在時間に目をやると、バルトフェルド達と別れてから二時間十五分ほどを過ぎていた。

 

「多少なりともラクス・クラインが時間を稼いでくれたか。ブリッジ、後方の追尾する機体の動きはどうなっている?」
「未だ距離を保ちつつ、本艦を追尾している模様です」

 

 報告を聞いたアムロは、右舷側を睨み付けたまま十秒ほど思案した。そして一度だけレジスタンスの後方に目を向けてからマリューに声を掛けた。

 

「ラミアス艦長、既に期限の時刻は過ぎている。まずは後方の偵察機を叩こう。このまま後ろに付かれたままでは、逃げ切る事も不可能だ」
「そうですね。後方の偵察機はフラガ少佐に出ていただきす。大尉は右翼の敵をお願いします。――ストライクにも出撃準備をさせて! これからが正念場よ! みんな、気合いを入れて!」

 

 艦長席のマリューは頷いて指示を出すと、回線が繋がったままの状態で乗組員達に檄を飛ばした。

 

「――距離二〇〇〇!」

 

 右舷側から近付く敵機の距離をチャンドラが知らせると同時に、アークエンジェルの一番カタパルトデッキのハッチが開き始めた。

 

「アムロ。右から来るのを頼む。俺は後ろのを片付けて来る。艦のお守りを頼むぜ」
「了解した。やられるなよ」

 

 コックピットにムウの声が響くと、アムロは頷き、一応注意を促した。

 

「ここでやられるつもりは無いって。――ムウ・ラ・フラガ。スカイグラスパー出るぞ!」

 

 カタパルトデッキで出撃を待つムウは肩を竦めて答えると、ハッチが上がり切ったのを確認してスロットルを全開にする。
 ムウの体に急激な負荷が襲うと同時に、スカイグラスパーは勢い良く飛び出して行った。そして直後に、ナタルからアムロへ通信が入る。

 

「アムロ大尉。ストライクを後部甲板上に配置しますので、ともに右舷敵機の迎撃をお願いします。状況によっては、ストライクを前面に押し出す事になります。その場合は支援をしてください」
「レジスタンスはどうするつもりだ?」
「艦長のお話ですと、彼らは敵対する意思は無いはずとの事です。それに我々を落とすだけの装備があるとも思えません。余程の事が無い限りは、無視しても構わないでしょう」
「了解した」

 

 確かにナタルの言うようにまともな装備があるとは思えず、彼女の言葉にアムロは同意すると頷いた。

 
 

 後方を走るサイーブは、アークエンジェルに動きがあったのを確認すると、目を細めて呟く。

 

「……モビルアーマーが出て行っただと? ザフトが動いたのか!?」

 

 バギーをアークエンジェルの側面が見える位置まで移動させると、νガンダムの砲口の方角を確認した。

 

「右か!?」

 

 サイーブは顔をアグニの向いている方角を睨むと、

 

「全員、聞こえるか? 野郎ども、右からザフトが来るぞ! 叩き落とせっ!」

 

 と息巻き、大声で指示を飛ばした。

 
 

 その頃、二番カタパルトデッキではストライクの出撃準備が進められていた。
 右肩にガンランチャー、その右手にはバスター用の三五〇mmガンランチャーが。左肩に九四mm高エネルギー収束火線ライフルがぶら下がっている。そして最後は、背中にエールストライカーパックが装着された。
 アークエンジェル内では安直ではあるが、この装備を『バスターストライク』と命名している。

 

「キラ・ヤマト! ストライク、行きます!」

 

 出撃準備が整ったストライクは、キラの声と共にカタパルトデッキの床を蹴って外に飛び出すと、空中でスラスターを噴かして前部甲板上へと着地した。

 

「キラ、やるぞ」
「了解しました。僕は後ろに行きます」

 

 アムロが声を掛けると、キラは頷いてνガンダムと位置を入れ変えて、そのまま後部甲板上に着地した。そして、右手の三五〇mmガンランチャーを近付く敵機へと向けた。
 それと同時にレジスタンスの車両群が敵機の方角へと向かって動きを始めた。その車両群の一台、キサカがハンドルを握る車両にカガリは乗っていた。

 

「ストライク!? ……キサカ。どうして私達が、あの船を守るような真似をしなくちゃならないんだ?」

 

 後部甲板上にストライクを確認したカガリは、キサカに不機嫌な表情を向けた。明らかにカガリは、この行動に納得していないようだった。

 

「サイーブの方針だ。部外者の我々が口を出す事ではなかろう? ……カガリ、行くぞ!」
「……フン。……アフメド、必ず敵は討ってやるからな」

 

 一度だけ目線を向けたキサカは、ハンドルを切りながら低い声で答えアクセルを更に踏み込む。カガリは不満気に鼻を鳴らして呟くと、携帯用のバズーカ砲を細い肩に担いだ。
 逃げるアークエンジェル。それを追うザフト軍。更にその戦いに介入しようとするレジスタンス。
 ここにアフリカ大陸脱出を賭け、火蓋が切って落とされた――。