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CCA-Seed_98 ◆TSElPlu4zM氏_第38話

Last-modified: 2011-09-15 (木) 22:55:41
 

 通路には誰一人見当たらない。
いや、本来なら誰かがいて然るべきなのだろう。
だが、この船はには初めからそれだけの人員を乗せていないのと、今が戦闘配備中である事が
さらに人の気配を遠ざけている理由だった。
その人気のない味気ない道をミリアリア・ハウはうつむき加減に一人とぼとぼと歩いていた。

 

「……ミリアリア?」
 彼女に一人の少女が声をかけると、ミリアリアは少し驚き気味に顔をあげた。
そこに今まで外を眺めていたのだろう赤味がかった髪の少女――
フレイ・アルスターが西日を浴びながら立っていた。
「フレイ……」
 ミリアリアの声色は弱々しく目の前の女友達の名をつぶやくと、
自分の来た場所が展望デッキである事にようやく気付いた。
彼女の心中を察したように雨でも降っているのであれば、少しは感傷にひたれたのかもしれないが、
外の風景はミリアリアに同情してはくれなかったようだった。

「もう……終わったんでしょう?」

 西日を受けるフレイが数時間前とは見違えるほど緊張を解いた表情でミリアリアにたずねた。
きっとすでに戦闘は終了したものと思っているのだろう。だが、それも仕方ない事だった。
フレイは連合外務次官の令嬢とは言え立場上一民間人であって、
あくまでもこの艦にとっては部外者でしかない。そしてミリアリアのように志願兵でもないのだ。
余程でない限り、現在の状況で情報が下りて来る事は有り得なかった。
ミリアリアは、自分も目の前の女友達と変わらず、現実に対応しきれていないのを悟りながら口を開いた。

「……まだ終わってないよ」
「まだ……なの!?」
「うん……」

 返答を聞いたフレイが唖然と表情で問い返すと、ミリアリアはただ伏目がちに頷いた。

 

 ミリアリアがアークエンジェルで時をともにして来た友人達は、未だブリッジで任務に従事中だ。
だが、彼女はそんな中、我を忘れこんな所まで来ている。それにも理由はあった。
まずは先日のレセップスを旗艦とする大隊規模の戦力を投入して来たザフト軍との戦闘中に、
一悶着起こしてしまった事。
そして今日、今作戦発動直後に恋人であるトールが罰を受ける理由を作ったカガリと共に
出撃させる事を知り、上官達に怒りの矛先を向けた事だ。
もっともその場は彼女の上司であるオペレーター達が事を収める事に成功したのだが、
ミリアリアはつい十数分前に何気ないサイの一言から再び怒りを爆発させてしまい、
彼女はブリッジから退去を言い渡され、今に至っていた。
そのミリアリアがあきらめ混じりの表情で弱々しく呟く。

「今ね、トールとキラが出撃してるの。
 トールが囮になって、その隙にキラが一人でザフト軍の基地に突入するんだって……。
 二人とも本当に死んじゃうかもしれないにね……」
「えっ……!? ……この船の大人達は戦争だからって人をなんだと思っているのよ!」

 ミリアリアの独白にフレイは絶句すると顔を紅くして憤慨する。
何も知らないフレイからすればミリアリアがこぼした言葉は、
少なくともアークエンジェルの大人達が人を人として扱わない行為だ。
たとえそれがただの誤解だとしても、彼らに『死ね』と言っているようなもので、
常規を逸していると感じてもおかしくはなかった。
フレイの心に湧いて来るのは大人、そして地球軍への不信。
だが、その間もミリアリアの独白が続く。

「トールもキラも……サイやカズイだって変わっちゃうし……。
 こんな事になるなら、志願なんてしなければ良かった……」

 自然と溢れる涙を手で拭うミリアリアを哀れむように、フレイはただ黙って聞き続け、
泣きはらす目の前の友達の言葉が止まると、彼女はミリアリアを包み込んだ。

 

「ミリアリアは悪くないわ。
 プラントの事情を知らないで戦争を続けてるこの船の大人達が全部悪いんだから。
 もう辞めちゃえば良いのよ。このまま続けても道具みたいに使われるだけよ」

 フレイの口から出てくるのは、大人への一方的な非難。
その言葉はミリアリアからすれば、自らを擁護してくれる意見であり、
既にそれが正しいかどうかは是が非ではなかった。
戦争にさえ巻き込まれなければ、こんな事にはならなかったのかもしれない。だが既に手遅れなのだ。
嫌応無く戦火に巻き込まれた彼女達にも、確実に傷は及んでいたのだった。

 
 

 ストライクが岩影に身を隠して数分。未だザフト軍基地には何の動きは無かった。
興奮状態にあったキラを、濡れた髪から落ちていく水滴が冷静さを取り戻させていく。
基地の機動兵器と機能はほぼ壊滅させたはずだが、まだ油断をするわけにはいかない。
まだこの場にいる限り脅威は完全に去ってはいないのだ。
考えたくもない事だが、もし生身の人間が兵器を手に自分を追って来たなら――。
PS装甲を持つストライクにはほぼ無効と言っていいが、あり得なくはない。
キラは一応の対応の為に、岩影から基地を伺うような体勢をとると覗き込ませながら銃口を向けた。
そうして再び数分が経ち、スピーカーからノイズ混じりにムウの声が聞こえて来た。

「――ストライク応答しろ。キラ、聞こえているか?」
「あっ……。こ、こちらストライク!」

 ようやくムウが来た事で緊張が切れたのか、一瞬、反応が遅れたキラだが、すぐに応答を返した。

 

「フラガだ。無事に脱出出来たのか?」
「はい。追撃もありません」
「怪我は?」
「大丈夫です。ストライクの損害はエールパックだけです」

 問いに答えるキラは、レーダーでスカイグラスパーの進入位置を確認しながら報告をして行った。
 その一方、ザフト軍基地へと向かうムウはキラからの報告を聞き、安堵の表情を浮かべて口元を緩めた。

「……そうか、無事でなによりだ。それから、キラ。お前にアムロからの伝言だ」
「伝言……ですか?」
「ああ、そうだ」

 キラは少しばかり驚き気味の声で言うと、まるで弟を誉めるような表情でムウが答えて伝言を口にする。

「良くやった……ってさ。まあ、俺もお前に言うなら同じだ。
 これでアークエンジェルはここを突破出来る。お前は本当に良くやったよ」
「あっ、ありがとうございます!」

 作戦の成功。そして自分がそれを成し遂げたのだと実感すると同時に、
やはりなによりも自分の師であるアムロとムウに認めてもらえた喜びにキラは声をうわずらせた。
そんなキラの感情が手に取るかのように理解出来るのか、ムウの声は暖かい。

「いいって。それじゃ俺は爆撃を済ませたらトールの奴を助けに行く。
 恐らく合流は南アフリカに入ってからだ。と言っても半日ってとこだがな。
 キラはアムロと一緒にアークエンジェルを守ってくれ。気を抜くなよ」
「はい、了解です。ムウさん。僕も一緒に基地を攻撃した方が早いんじゃないですか?」

「安心しろって。レーダーと砲塔を叩くだけだ。お前はアークエンジェルに合流しろ」

「分かりました。それじゃ、また後で」

 やり取りを終え、ストライクの前をムウが乗るスカイグラスパー一号機が通り過ぎて行く。
キラはムウを見送ると踵を返し、ストライクをアークエンジェルへと向けて全速力で移動させ始めた。
そして間もなくしてザフト軍基地から爆撃による爆発音が空気を振るわせ、
炎と煙を立ちのぼらせたのだった。

 
 

 傾く日射しを受け、砂漠を行くアークエンジェル。
 そのブリッジにチャンドラの声が響いた。

「レーダーに反応! 七時の方角に機影、九。距離、約四五〇〇。
 移動速度から内一機は航空機。残りはモビルスーツだと思われます!」
「来たわね」

 報告を受けたマリューは一瞬、顔をゆがめると唇を噛み締めて呟いた。
彼女からすれば、敵に遭遇する事無くこの地を通り過ぎたかったが、
そうは思い通りにはいかない現実が憎らしく思えた。
だが、それが現実。ここを乗り切らなければ北アフリカを脱出することは出来ない。

「各員分かっているな?」
「みんな頼むわよ」
「了解!」

 ナタルとマリューの声に呼応し、全員が頷いた。
勿論その声はνガンダムで守りにつくアムロの耳にも届いていた。

「モビルアーマーが先行しているのか?」
「恐らくは」
「接触まで時間がない。俺は迎撃に入る」

 レーダーを追い続けるチャンドラが簡潔に返すと、
アムロは遠方をその目で確かめながら機体を旋回させた。
射程外の空には未だ豆粒ほどの点が見えるだけだが、恐らくそれが敵なのだろう。

「急ぎ、迎撃体勢に入れ!」

 アムロの言葉を聞いたナタルがCIC内にいる全員に煽るように指示を飛ばすと、
CIC内にいる者たちは鋭い目つきでコンソールを叩き始めた。
一秒の遅れが命取りになるのは誰もが分かっている。
それはこの艦を取り仕切るマリューにとっても重要な事だ。

「艦の速度上げて」
「了解」

 敵機との接触を一秒でも遅らせようとマリューがノイマンに伝えると、
アークエンジェルのスラスターに点る火が一段と強くなった。
徐々に赤くなりつつある空を背景に加速する白い船体と鈍い光を放ちながら空を昇って行く豆粒ほどの点。
アムロがそれを見逃すはずもなかった。

 

「やはりあれか!」
「敵航空機、距離二五〇〇! 高度上げてます!」

 眉を寄せたアムロの呟き。それとほぼ同時にチャンドラの声がブリッジに響くと、
すぐにナタルが指示を出した。

「迎撃を開始しろっ!」
「敵航空機より高速移動する熱源、二! ミサイルです!」
「ちっ! イーゲルシュテルンで叩き落とせ!」

 舌打ちをしたナタルが、すぐさま迎撃命令を飛ばした。
たかが二発。されど二発。戦闘機が積載するミサイルと言えど、この距離。
当たり所が悪ければ戦艦とて一撃でその役目を終えてしまう事もある。
アムロの目が戦闘機を追うが、すでの回避運動に入っていた為に目標を、
並ぶようにして接近する二つのミサイルへと切り替えた。

「直撃まで時間がない! ナタル。俺がミサイルを撃ち落とす!」
「了解!」

 動きの鈍い右肘をフォローするようにして、νガンダムは抱えたアグニを構えながら片膝を着いた。
砲身を膝頭と左腕で固定しながら、音速で接近するミサイルに狙いを定める。

「この程度! 一撃で落としてみせる!」

 着弾までもう数秒も無い距離だが、アムロはミサイルがわずかに跳ねる瞬間を見計らい、
トリガーを押し込むと同時に操縦桿が八の字を描いた。
νガンダムが抱えるアグニが吐き出した光は、まるで円を描くようにしてミサイル二基を喰らい尽くし、
衝撃波のみをアークエンジェルへともたらした。

 
 

 夕景になりつつある空を三つの光が高速で移動していた。
一つはまるで逃げるように。残りの二つはそれを明らかに追っていた。
その逃げる光――スカイグラスパー二号機に乗るトールとカガリの体に横Gが襲いかかる。

「くっ!」
「……っ! くそっ! どんだけしつこいんだよっ!」

 恐らく追って来る敵機どちらかからのバルカン砲による攻撃だろう。
間一髪回避したスカイグラスパー二号機の中でトールが毒づく。
いきなりザフト軍機にロックを捕られたと思えばこれだ。
ハッキリ言って警告もなにもあったものではなかった。
それだけ地球軍とザフト軍の対立は激しいと言う事が容易に想像できる。
あれだけフレンドリーだったアンドリュー・バルトフェルド隊との交流はは何だったのか? 
その甘い幻想はトールの中で早くも崩れ去っていた。

 

「所詮、敵は敵って事か……」
「これじゃ攻撃が当てられない。どうにかならないのかトール?」

 ただ逃げるだけの状況に業を煮やしたカガリが反撃を試みたが、
それも虚しくかわされるのみで彼女は眉を吊り上げていら立ちをあらわにする。
現状からすれば、揺さぶりをかけてくる敵機に対して、
スカイグラスパーの性能のおかげで距離を詰められていないと言った方が正確と言って良かった。
それが分かっているからこそ、操縦桿を握るトールは一瞬、彼女と同様の表情を見せて言葉を返した。

「出来るならなんとかしてるって!」
「このままじゃやられるだけだぞ」
「戦うのが目的じゃねぇよ。高度下げるぞ!」

 カガリの声を尻目にトールは操縦桿を前へと押し倒す。それに従いスカイグラスパーは急降下を始めた。
後ろに続く敵機の一機はスカイグラスパーと同じように機首を下へと向け、
残りのもう一機は高度を維持し続けた。
後続との距離を確かめたトールは、肺を圧迫する痛覚に耐えながらが呟く。

「くっ……。一機落とせば楽にはなるんだけどな」
「それならやるしかないだろう。トール、どうするんだ?」
「後ろに付かれてるんだ。逃げるに決まってるだろ」
「それじゃ意味が無いだろ」

 二人は取り留めもない言い合いをしながらもそれぞれの役目を進めていた。
トールが機体を低空域限界まで下げ、水平飛行を維持。
カガリはそれと同時に降下してきた敵機に向かってキャノン砲を発射。
当然のようにそれはかわされたわけだが、その分、若干の距離を稼ぐ事に成功する。
だがそれはただの気休めでしかないのは理解していたが、
この状況からかトールは思わず本音をこぼしてしまう。

「お前が当ててくればなんとかなるんだ。そうじゃなければ引き離すしかないじゃないか」
「トール、文句ばかり言ってないで少しは考えろ! それに私にはカガリと言う名前があるんだ!
 いつまでもお前ってお前って呼ぶな!」
「だーっ! 分かったから早く攻撃しろってっ!」

 カガリは切れ気味に食ってかかると、トールはうるさいと言わんばかりに切り返した。
この間に追ってくる敵機からバルカン砲による攻撃が襲いかかるが、
後方を確認しながら操縦するトールが上手くさばき攻撃をかわして行った。

 

「トール……敵を引き付けられないか?」

 唇を噛むカガリはわずかに沈黙すると、なにか思いついたようでトールに問いかける。

「無茶言うなって。ただでさえキツいって言うのに」
「これじゃいつまで経ってもキリがないだろう、トール。
 お前、エンデュミオンの鷹に師事しているんだよな?」
「分かりきった事聞くなよ」
「それならやれるな。低空で岩山の間を飛行してくれ」
「無茶言うなっ! どうしてそんな所飛ぶんだよ!?」

 ムウに教えを請っていると言うだけで、無茶難題を吹っかけられたトールは捲し立てるように問い質した。
勿論カガリとてただ無茶を押し付けた訳ではない。
たった一戦だけではあるが、砲火をかい潜りレセップスを沈めた事が強く印象付けられていたのだ。

「敵が私達と高度で同じ場所を通れば動きを制限する事ができる。そこを狙い撃つ。
 トールなら出来る。飛んでくれ!」

 カガリが渋るトールに向かって勇気付けるように言った――その瞬間、敵機のバルカン砲が火を噴いた。

「っぶねぇ!」

 警告音がけたたましく鳴り響く中、トールは操縦桿を押し倒して辛くも逃れる。
もし反応が遅れていれば、今ごろは塵と化していたとしてもおかしくはなかっただろう。
ただでさえ経験不足のトールからすれば、実戦としてのドックファイトは初体験と言っていい。
技術からしても相手はトールよりも操縦にかけては長けているのは確実で、ましてや一機でさえこの状況。
このまま逃げ切れる保証はない。
後ろからのプレッシャーにカガリは頭上を抑える機影をさがそうとした。

「トール。もう一機は?」
「俺達の右後ろ。高度上げてぴったりくっついて来てる」

 トールの報告とほぼ同時にカガリは目を細めて空を見上げた。
 上空の機影は自分たちのほぼ真上を速度を変える事無く飛行していた。
明らかに仕掛けてくる素振りは感じられない。

「連携していないのか? ……遊ばれている?」
「知るかよっ」

 カガリの呟きを耳にしたトールは、後ろから仕掛けてくる敵に手一杯の様子でやけくそ気味に言い放つ。
 その瞬間――、

 

「あっ!? おい、もう一機が動いたぞ!」

 上を見上げたままのカガリが声をあげた。
敵機は頭を完全に抑えるつもりだろう、速度を上げて高度を落とし始めていた。

「二機でこられたらもたないぞ。先に後ろの奴だけでも撃ち落とす。
 もう少し動きを止められるような所を飛んでくれ」
「簡単に言うな。砂漠にそんな場所あるわけないし、俺の腕じゃまだ無理なんだよっ」

 捲くし立てるカガリに対して、自分の実力を知るトールが口惜しそうに答えた。

「お前……レセップス相手に戦った時はあんなに――うわっ!」

 カガリからすればかなり情けない言い訳に聞こえたのだろう。怒りに任せて怒鳴りかけたが、
トールが後続機からの攻撃をかわす為に操縦桿を切った事で口を閉ざす事になった。
逃げるスカイグラスパー。追うザフト軍戦闘機。
このままではこの状況を変えられない以上は、易々と頭上を抑えられるのは目に見えていた。

「くそっ! 俺だって死にたくない。カガリ、お前の案に乗ってやる。必ず撃ち落とせよ!」
「分かった!」

 危機感から表情はさらに険しくしたトールが苦々しく気を吐くと、
カガリは満足そうな表情を一瞬うかべて強気に声を返した。
それとともにスカイグラスパーは、まるで砂の大地に切り込むかのように鋭く高度を下げたのだった。

 
 

 砂漠行く白い船体がのはるか上空。
そこに一本の光が走ると、まるで花火のように炎の花が咲き、そして儚く散り、砂の大地に降り注いだ。
あとに残ったのは、熱で溶かされあえなく爆散した戦闘機だった成れの果て。
それはもはや墓標とも言えぬほどの形状しか留めていなかった。
その敵機を撃墜したアムロは、遠目に見える不自然な砂煙へと目を向けた。

「アムロ大尉。右舷より敵増援――モビルスーツです。数は六!」
「距離があるな。ナタル。ミサイルでの迎撃を開始してくれ。ラミアス艦長、艦の速度上げられるか?」

 チャンドラがもたらす報告を元に、アムロはカメラを望遠へと切り替えて
敵モビルスーツ群を確認すると、それぞれに声をかけた。

「了解しました。ミサイル発射管全門装填――」
「いけるわね? 進路このまま。艦の速度上げて!」

 声をかけられた二人は頷くとすぐに指示を飛ばし始め、ブリッジの緊張感が先ほど以上に張りつめる。
アークエンジェルのスラスターが勢いよく噴き、加速を増して行く。
その頃、薄暗いCICの席でサイはコンソールモニターに映る八つの点を見詰めている。
徐々に点がウォンバットの射程距離を示す円へと近付いて来ていた。

「敵モビルスーツ、射程圏内に入りました。バジルール中尉。ウォンバット発射しますか?」
「任せるが無駄弾は撃つな」
「了解。ウォンバット発射します!」

 サイがナタルに指示を請うと彼女は注意を促す。するとサイは頷き復唱してスイッチを押し込んだ。
アークエンジェルの各発射管から煙の尾を引いてミサイルがザフト軍所属のモビルスーツ群へと向かって
勢いよく飛び出して行った。
一方、前部甲板上のνガンダムは、左腕に抱えるアグニを構え直して狙いを定める。

「距離はあるが当ててみせる」

 アグニの有効射程を超えた距離。長距離からしてビームの威力も落ちるだろうが、
アムロはためらいもせずトリガーを押し込んだ。
砲身から吐き出された一条の光。アークエンジェルから発射されたミサイルに対して
回避行動に入っていた一機――バクゥの横っ腹を襲う。
距離から来る威力減退もあり、胴体を真っ二つにするまではいかったが、
装甲を完全に溶かし脇腹を半分近くまで抉っていた。
爆散こそしなかったが完全に機能停止したバクゥを確認すると、
アムロは次の敵機を倒すためにナタルに告げた。

 

「次、左手を狙う」
「了解しました! ウォンバット、敵両翼前面に向けて続けて発射。
 ゴットフリート一番は右舷モビルスーツ群中央より右を狙え」
「ウォンバット発射」
「ゴットフリート一番、照準」

 ナタルの指示を受けたサイとパルがコンソールを叩く。
再びウォンバットが吐き出され、先の攻撃を切り抜け接近してくるモビルスーツ群へと襲いかかる。
当たり前のように右に左にへと回避行動に入るモビルスーツ群。
 それを狙い済ましたナタルは思い切り声を張り上げた。

「ゴットフリート一番、ってー!」
「あたれっ!」

 左翼モビルスーツを狙っていたアムロもほぼ同時にトリガーを押し込んだ。
するとゴットフリートとアグニから吐き出された光が敵両翼に襲いかかり、
アグニとゴットフリートはそれぞれ一機づつジンオーカーを消し飛ばした。
本来、モビルスーツに戦艦の主砲を狙って当てようということ自体が、とてつもなく困難を極めるものだし、
ましてや目に見えやすい戦艦のビーム砲攻撃を回避するのはモビルスーツからすれば容易だ。
それだけに事、これに関してはナタルの読みも見事ではあるが、
勿論パル達優秀な部下がいるからこそ出来たことでもあった。
しかしそれを差し引いても、この短期間で著しい成長を見せるナタルに、
多大な影響を与えたのはアムロに他ならない。

 

「やるな、ナタル。このまま押し切るぞ」
「はい!」

 アムロの声にナタルは力強く頷いた。
加速して行くアークエンジェルに対して、ザフト軍モビルスーツは徐々にだが
後方側の位置取りとなり始めていた。
それにともない、ナタルは新たな指示を飛ばす。

「ゴットフリートは角度ギリギリまで発射し続けろ。敵が後方に位置した場合はバリアントで対応だ」
「了解しました」

 パルは指示に従い、カズイとサイに目配せをすると二人が頷く。

「バリアント両舷起動させます」
「ミサイル発射管全門再装填完了。ウォンバットいつでも発射出来ます」
「アムロ大尉の砲撃にタイミングを合わせる。ウォンバットの発射は私の指示を待て」

 二人がそれぞれの役目を実行に移すと、ナタルはレーダーとνガンダムの動向とを
見比べながら時を待った。
そのアムロの乗るνガンダムが前部甲板上から跳ね上がり、
その振動をもって直下のナタル達にブリッジ上へと移動した事を知らせる。
それとほぼ同時にナタルは声を張り上げた。

「ウォンバット、ってー!」

 アークエンジェルから吐き出されたミサイル群が白い尾を引き、モビルスーツへと向かって行く。

「いいタイミングだ」

 着弾までの時間を考えれば、νガンダムにアグニを構え直させて狙いをつけるには十分な時間。
アムロは呟いてνガンダムに膝を着かせた。
残った二機のバクゥは、砂の上を必死に回避し続けている。そのうちの一機に狙いを定める。

「遅いっ」

 回避中のバクゥに対して、アムロは躊躇いもなくビームを横なぎにしながら、
二度、三度と細かいダメージを与えながら最後には跡形も無く吹き飛ばした。
終止レンジ外からの攻撃に圧倒されたザフト軍はなす術もなかった。
残り唯一取り残されたバクゥは完全に戦意を喪失したのか、
遅れて着弾したミサイルを回避した後にアークエンジェルの追撃をやめて後退していく。

 

「後退していく? 戦意を喪失したか」

 ブリッジ上から敵の動向を伺うアムロは納得しつつも、未だ警戒を解かないまま周囲警戒へと入った。
一方、敵を逃すつもりなど毛頭ないナタルはモニターを睨みつつもパルへと顔を向ける。

「撃墜は可能か?」
「ミサイルなら行けますが、当てられる保証はありません」
「ナタル。むこうが逃げる以上、無理に追う必要は無い」

 レーダーを見続けるパルが返答すると、宥めるようなアムロの声が二人の間に割って入って来た。
思わずナタルとパルは装甲で見えることのない、頭上のνガンダムを見上げるように顔を上げると、
一様に納得した表情を見せた。
艦長席ではマリューが安堵の息を吐くと、少しばかり明るい表情を見せる。

「あのバクゥもアークエンジェルを落とすのは無理だと分かったから退いたのよ。
 今は先を急ぐのを優先しましょう」
「了解しました。引き続き周囲の警戒を。特に後方には注意しろ」

 マリューの言葉を受け、ナタルは新たな指示を出してドリンクに口をつけた。
 ブリッジの者達が敵を退けた事で明るい表情を見せる中、マリューが辺りを見回しながら言う。

「恐らくこれ以上の追撃は無いと思っていいわね。大尉、どう思います?」
「ああ。さっきのモビルスーツがついて来たとしても、単機で攻撃は仕掛けて来るとは思えないな。
 正面の敵に関してはキラ次第だろう」
「攻撃を仕掛けて来るなら応援を呼ぶ以外にありません。距離を稼ぐならば今のうちです」

 アムロが答えると、ナタルが続くように言った。
確かにあれだけの力量差を見せ付ければ、ザフト軍は早々仕掛けては来れない。
ましてやアークエンジェルは大隊規模を引き連れたレセップスとやり合った際に、
敗走したとは言え最終的にはレセップスその物を撃沈しているのだ。
その上でザフト軍はアークエンジェルを取り逃がしてしまっている以上、
中途半端な数を差し向ければ無駄に餌食になる事は容易に想像出来るはず。
彼等にも面子はあるだろうが、北アフリカ戦線その物が崩壊してしまっては元も子も無い。
怪我の功名とも言えるが、現時点では手負いの獣であるアークエンジェル側に
分がある事には間違いないのだ。
マリューはすぐに表情を正すとノイマンへと声をかけた。

「まだ速度上げられるわね?」
「それなりにエンジンに負荷が掛かりますから、あの時のようになる可能性もありますよ」
「大丈夫よ。あの時みたいにローエングリンを連続で使用してるわけじゃないもの。
 アークエンジェルがそんなヤワな船じゃないのは分かっているでしょう」

 ノイマンがデブリ帯での一件を引き合いに出すが、地球に降りてからの経験が
マリューの神経を多少なりとも図太くさせたのか自信あり気に答える。
またそのノイマン自身もマリューの言う事に納得できるのだろう、口の端に笑みを讃えていた。

「アークエンジェル最大船速」
「了解」

 ブリッジにマリューの号令が響く。それに合わせてノイマンがスロットルを解放して船を加速させた。
 戦いを終えたアークエンジェルが夕陽を浴びながら南へと加速して行った。

 
 

 オレンジの空を一機の戦闘機が切り裂くように飛び去って行く。
シルエットはこの地域を統治下に置くザフト軍の物とは違っているのは一目で明らかだ。
その戦闘機――スカイグラスパー一号機は、爆撃を終え部下である
トール・ケーニヒの支援に向かう為にひたすら加速し続けていた。

「キラの奴……。あそこまでやるとはな」

 パイロットであるムウは、つい十数分前に空爆を行った夕陽を受け目を細めながら呟いた。
実際、ザフト軍基地を上空から見た感じだったが、岩山をくり貫いて作った規模だけあって
そう大きな物ではなかった。
攻撃を仕掛けた際も反撃と言う反撃はほとんど無いに等しく、実に拍子抜けする程度だった。
しかしそれは、キラがストライク単機で基地の機能をほぼ叩き潰したと言う証拠。
奇跡に等しい仕事ぶりだが、現状であれだけの事が出来る証明だとすれば、
この先、どれだけのパイロットに成り得るのだろうと、ムウは考えていた。
キラのパイロット適性は、実際凄まじいものがある。
模擬戦の際、初めてスカイグラスパーを操った事があったが、一つ間違えば自分が負けていたかもしれない。
そしてすでにモビルスーツと言う分野では自分自身はキラに比べれば後発であると言う事。
ナチュラル・コーディネイターと言う種こそ違えど、モビルスーツでキラに太刀打ち出来ないと言う事は、
これから到来するモビルスーツ時代では自分は前時代的な古いMA乗りでしかないのではないかとさえ感じた。
それから導き出されるのは、現状の操縦技術でザフト軍のエースクラスとモビルスーツでやりあえば、
自分では勝ち目が無いと予測さえ出来た。

「……それよりも今はトールだ。……まだか?」

 まだ見ぬ未来を振り払うように頭を振るうと、ムウはスロットルを最大まで解放した。
しかし、未だレーダーにスカイグラスパー二号機の機影は映る事はない。
それから二、三分ほど飛び、ようやくレーダーにそれらしい影を捉えた。
ムウは速度を緩めてその方角に機体を向けながら目を凝らすが、それらしい機影は一つしか見当たらない。

 

「あれか!?」

 再びスロットルを開放して一気に距離を詰め始まると、遠目にしか見えなかった機体が
ザフト軍機である事が見て取れた。

「……どこだ!?」

 ムウの目がスカイグラスパー二号機を探して動き回り、
そして低空を高速飛行するスガイグラスパーと、それを追うもう一機のザフト軍機を捉えた。
見るからに追われているスカイグラスパー二号機の状況は芳しくはない。
このままでは撃墜されるのは時間の問題だ。

「張り付かれてやがる。ガキども落ちんじゃねえぞ!」

 顔を顰めながら吐き捨てたムウは、操縦桿を前へと押し込んで機体を降下させ始めた。
 ちょうどその頃、スカイグラスパー二号機のコックピットではけたたましく警告音が鳴り響いていた。

 

「きゃぁ!」

 いきなり襲って来た振動に、カガリは思わずらしくない声を上げた。
 先ほどから鳴り終わらない警告音が一段と大きくなり、コンソールモニターに赤い表示が現れた。

「くそっ! 当たったのか!?」
「い、今確かめる!」

 モニターすら見る余裕の無いトールに代わってカガリがダメージ箇所を確かめ始めるが、
その間も後方でまとわり着くザフト軍機は、いやらしく突付く様に仕掛け続けて来ていた。

「これ以上はヤバいかな?」

 ここまで何とか踏ん張ってトールだったが、被弾した事でわずかながらあきらめが見え隠れし始めた。
だが、当たり前だが、カガリはそれを良しとしない。彼女は焚きつけるように煽った。

「トール、あきらめるな! お前はレセップスを落としたんだぞ。自信を持て!」
「そんな事言ったってな!」
「攻撃は機体をかすめただけだ。まだやれる!
 お前はこんな情けない奴じゃないだろう。ここで死んだら守りたい者だって守れなくなるんだぞ!」

 カガリの言葉に、トールの脳裏にミリアリアやキラ。そして両親の顔が過ぎった。
 確かにカガリの言うように、ここで死んでしまえばこの先、何も守る事など出来ない。

「……俺はあきらめたなんて言ってない!こんな所で誰が死ねるかよ!カガリ、早くと撃ち落とせよ!」
「うん、分かった。任せろ!」

 奥歯を思い切り噛みしめたトールが、まるで自分自身に文句を言うように怒鳴ると、
カガリは嬉々とした表情で頷いた。
だが、士気が戻りはしても状況は変わらない。相変わらず後ろにぴったりと張り付かれたままなのだ。
一撃、二撃と繰り出される攻撃を辛くも回避し続ける二人だが、このままではいつか撃墜されるのは確実。
どこかで状況を覆さなければ死が待っている。
 そこへ天からの助けとも言える声が、二人の耳へと届く。

 

「――トール。聞こえてるか!? まだもつのか応答しろ!」

 聞き覚えのある厳しい口調に、トールは一瞬、驚きを見せた。

「えっ!? フ……フラガ少佐!?」
「どうなんだ? 答えろ!」
「もち……もたせます!」

 スピーカーの向こうからの詰問に、トールは言い直しながらも力強い口調で返した。
この状況を続けて来て、トールの心がまだ完全には折れてはいないのがムウには分かったのか、
口の端をわずかに吊り上げる。

「良し。俺がお前のケツについてるのを叩き落とす。頭の上にいるはその後だ。
 何があっても撃ち落とされるな。いいな」
「はい!」

 トールにとっては今一番欲しい味方。そして何より信頼する上官が助けに来てくれたのだ。
たった一機の援軍だが、それは何よりも心強い。
その間に二号機を追尾していたザフト軍機も気付いたようで回避運動に入り、
上空にいた機体はムウの後尾につけるために旋回運動へと入った。

「今からケツにつこうなんてな。だが、その前にやらせてもらう!」

 ムウは頭上の機体の動きを確かめると、
二号機を追う機体をロックするとミサイルのスイッチを押し込んだ。
スカイグラスパー一号機底部のベイが開き、勢い良くミサイルが飛び出した。
勿論、前を行くザフト軍機はすでに回避行動に入ってはいたが、
攻撃を完全に回避するほどの腕は無かった。
ものの数秒も経たずにミサイルの餌食となって塵と化した。

 

「た、助かった……」
「トール。もう一機も後方にいるんだぞっ!」

 ムウがさっきまで後ろに付いていたザフト軍機を撃墜した事でトールが息を吐いていると、
慌しくカガリが捲くし立てた。
気がつけばムウの乗るスカイグラスパー一号機は、回避運動に入り上昇を始めていた。
それを追う残り一機となった敵機は、明らかにムウを狙っている様子だ。
証拠に若干コースを外れたトール達を無視するようにパスして行った。

「分かってるって!」

 トールはカガリの言葉に強がりながら答えると、機体を上昇、そして後を追うように加速させた。
スカイグラスパー一号機に肉薄しようとする敵機。
レーダーを確かめたムウは、軽く振り向いて敵機を確認するとその口から呟きをこぼした。

「……結構な腕みたいだけど、アーマー同士なら早々負けはしないって」

 ムウはエアブレーキをかけると同時に、ほぼ全開にしていたスロットルを引き戻し一気に減速させた。
それによって急接近する一号機とザフト軍機――。
あまりにも予想外の事にザフト軍機は慌てたように回避に入った。
そして、辛くも回避に成功したザフト軍機は、コンマ数秒もたたずに一号機をパスして行った。

「おっしゃ!」

 飛び去る敵機を目の前にムウはほくそ笑むとスロットルを開いた。
すると一号機は再加速を始めるが、その横を物凄い勢いで二号機が追い越して行く。
その光景にムウは思わず口笛を吹き、口の端をつり上げながら先を行く二号機に向かって言った。

「トール、よく狙え。そのまま撃墜しろ!」
「了解!」

 威勢良く返したトールは、さらに加速をかける。それと同時にカガリも回転式砲塔を敵機へと向けた。
 目の前には完全に形勢が逆転し、必死に逃げるザフト軍機。

「当たれよっ!」
「落ちろっ!」

 敵機をロックすると、二人は先ほどまでの憂さを晴らすかようにトリガーを引いた。
回転式砲塔が火を噴くと一撃が翼に穴を開け、発射されたミサイルが追い討ちをかけ、
ザフト軍機を派手に爆散させたのだった。
後に二機のスカイグラスパーは南へと針路を取り、命令通りアークエンジェルよりも
一足先に国境を越えて行ったのだった。

 
 

 ザフト軍基地を壊滅に至らしめてから、すでに小一時間が経過していた。
夕陽を受けた灰色のストライクが自らの影を引き連れて砂漠を黙々と進んで行く。
その間、キラは足場の悪い砂の地をひたすら歩み続け、自分の帰るべき船である
アークエンジェルの方角へと向かわせているが、未だその影すら見当たらない。

「……まだ……なのかな?」

 ストライクの脚を停め、辺りを見渡したキラの口からは、不安気な言葉がこぼれてきた。
時間的にもそろそろ接触してもおかしくはない時間のはずなのだ。
だが、あれだけの巨大な船体が見晴らしの良いこの砂漠で見つける事すら出来ないのだ。
 ――もしアークエンジェルが敵に襲われ撃沈されているとしたら。
 一瞬、キラの頭の中に恐怖が芽生えるが、頭を左右に振るってそれを打ち消そうとした。
だが、それで頭の中が晴れるわけはない。
今は一秒でも早くアークエンジェルと接触する事が一番の特効薬だ。
キラは再び操縦桿を前に押し込み、ストライクを歩ませ始めた。
スピーカーから聞こえてくるのは、ノイズのような砂漠の風音ばかり。

だが数分の後――。

 

『――ちらアーク――ル。ストラ――聴こえているか? ――えてい――ら応答を――』

 

 風音に混じってスピーカーから途切れ途切れだが、
聞き覚えのある男性――トノムラの声がキラの鼓膜を振るわせた。

「……アークエンジェル!? こちらストライク! キラ・ヤマトです!」

 嬉しさから顔をほころばしたキラは、操縦桿を放すと捲くし立てるながら応答した。

『――無事か? ――を報告し――』

 音声はノイズのために聞こえ難いが、言いたい事は大方理解出来たキラは、
嬉々とした表情で報告を始めた。

「はい! ザフト軍基地への強襲に成功。モビルスーツ、その他の攻撃兵器は無効化してあります。
 ムウさん……フラガ少佐は爆撃が終わった後に、そのままケーニヒ少尉の支援に向かいました」
『作戦はせい――たんだな?』
「はい。成功です」

 トノムラの問いに、キラは自信を込めた声で返した。

『――長、成功で――』
『やっ――』

 見えはしないが、恐らくトノムラが報告を伝えたのだろう。
スピーカーからはブリッジ要員達の歓喜の声が聞こえて来ると、
キラも知らず知らずのうちに声を上擦らせて笑みをこぼした。
そしてすぐにトノムラに代わって女性の声――艦長であるマリューの声が聞こえて来た。

『キ――ん、良くやって――たわ。――マト少尉。スト――ク、帰艦せ――』
「了解! ストライク、帰艦します!」

 満足気なマリューの声を聞き、キラは命令を復唱して再び操縦桿を握り締めた。
 そして十数分後――。
 アークエンジェルへと帰艦したストライクはハンガーへと納まっていた。

 

「終わった……。帰ってこれたんだ……」

 一仕事終え、キラは電源の落ちたコックピットの中で脱力しながらも生きて帰れた事を嬉しそうに呟くと、
自然とラクスの顔が頭の中で思い浮かべた。
だが、アークエンジェルの仲間達はその時間すら与える事は無かったようだ。
強制的にストライクのコックピットを開放したマードックが真っ先に顔を突っ込んで来た。

「坊主っ! 怪我はないか!?」
「うあっ!? ま、マードックさん!?」
「無事……みたいだな。まったく……降りてこねえから心配したじゃねえか」

 驚きを見せたキラに、マードックは無事を確かめて苦笑いを浮かべながら腕時計を見せながら愚痴った。
どうやらマードックの言い分では、帰艦してから既に五分近くが経っていたようだ。
流石にキラも納得した表情を浮かべると、ある事を思い出して、少々申し訳なさそうな声で言う。

「体は大丈夫です。……でも、戦闘中に……エールパックを壊しちゃいました。すみません」
「……なに言ってんだよ。そんな物、また組み立てればいいだけだ。
 お前とストライクが無事ならどうにでもなる。気にするな」
「……はい。ありがとうございます」

 マードックが呆れながら頭を少しばかり乱暴に撫でると、
キラは甘んじてそれを受け入れながら言葉を噛みしめた。
そうしてストライクから降りたキラは、愛機の足元で整備兵達から

「よく戻って来た!」

 と、次々に体を叩かれ、手荒い出迎えを受ける事となった。
当たり前だが彼等も悪気があってやっているわけではないし、
勿論、ナチュラル、コーディネイターと言う種の事など、キラに対して気にもしてはいない。
ただ、キラが作戦を成功させて帰って来たと言う事実に、嬉しさの余り手加減が出来て無いようだった。

 

「ヤマト。お前、本当にスゲェぞ!」
「あはは……。ありがとうございます」

 興奮する整備兵達に囲まれ、キラは苦笑いを浮かべながらも本当に帰って来たのだと感じた。
それを仲間と言える彼等が教え、そして感じさせてくれたのだろうか。
そして何よりも仲間達の役に立てたのが嬉しかった。
揉みくちゃにされたキラは笑顔で和から這い出ると、そこには満足そうな笑みを湛え、
自分を見つめているアムロを見つけ駆け寄った。

「アムロさん」
「キラ。良くやったな」

 ムウの伝言通り、アムロの口から出た言葉は極々シンプルだが、確実に魂が込められた強いものだった。
そして同時にアムロの手がキラに向かって差し出された。
それは一人前のパイロットとして認めてもらえた証――。

「ありがとう……ございます!」

 アムロの手を握り締めたキラは嬉し涙を流し手を取った。
この世界にやって来たアムロに師事していなければ今頃、ストライクとともに散っていたかもしれない。
まだパイロットとしても覚える事は山ほどあるのだ。
キラは帰って来た喜びとともに、師であるアムロ・レイに感謝したのだった。

 
 

 国境を越えたムウ達は低空で南東へと向かい、グレートリフトバレーと呼ばれる
東アフリカ大陸を縦に走る巨大な渓谷の付近で着陸。
この辺りは赤茶けた土と膝丈ほどの草に覆われている。
所々、木も立っており、砂漠とは全く違う景色だ。
その地でマリューとの手はず通り、三人はこの場所でアークエンジェルがやって来るのを待っていた。
辺りはすでに完全な闇へと飲まれ、戦闘から半日以上が経過。
天には幾多の星々が輝き、地平線に沿った東の空がわずかに赤味を帯び始めていた。
スカイグラスパー二号機の中で寝ているトールとカガリを残して、
ムウは一人、大地に腰を下ろして東の空を見ると焚火に木を放り込んだ。
少なくともアークエンジェルを飛び立って以降、今まで何の音沙汰も無い。
無論、Nジャマーの影響もあるだけに、それは百も承知している。
艦の守りにしても、信頼出来るアムロとキラがいる。
少なくともあの後に余程の事が無ければ、撃沈される事はほぼ有り得ない。
時間からすれば、アークエンジェルは南アフリカ領内に進入済みのはずで、
待つ身のムウにとっては何とももどかしい時間帯となっていた。

 

「……ん?」

 愛機であるスカイグラスパー一号機の開放されたコックピットから呼出し音が鳴り、
ムウは大地に根ざしていた腰を上げた。

「ようやく来たか。恋人待たせんなよ」

 余程待ちくたびれたのか、まるで愚痴るように呟いてから歩き出す。
スカイグラスパー両機は、二メートル強ほどある一本の木をはさみ並んでいた。
勿論だが専用ネットでカモフラージュ済みなのは言うまでもない。
ムウはカモフラージュ用ネットの端を捲くり上げると、一号機のコックピットに体を滑り込ます。
そしてすぐにマイクのスイッチを押し込んだのだった。

「こちらムウ・ラ・フラガ。アークエンジェル、聞こえるか?」
『――ク――ル。フラ――』
 返って来る音はかなり悪く、アークエンジェルとの距離はまだかなりあるようだ。
だが、それでも母艦の無事が確認出来た事で、ムウの声は自然と軽くなった。
その後、数分のやり取りをし終えたムウは、シートに体を預けて安堵の表情を浮かべる。
東の空は先ほどよりも確実に赤味を増やしていた。太陽が顔を出すまで、そう時間はかからないだろう。
見張りにしても、そろそろ交代しても良い時間帯だ。

「トール、起きろ。そろそろ交代の時間だ」

 機体を出たムウは二号機の傍へと行くと、コックピット周辺の装甲を数回叩いてトールを叩き起こした。
 さすがにトールも疲れが出ていたのか、起きるのに少々の時間を費やす事となった。

 

「おはようございます」

 ムウの目の前には背筋を伸ばしたトールが律儀に敬礼なぞしている。
 その傍では腰に手を当て、呆れた様子でトールを見ているカガリ。

「それでアークエンジェルは無事なのか?」

 そのカガリは、視線を隣から正面のムウへと移しながら聞いて来た。

「当たり前だ。そうでなくともアムロとキラが付いてるんだ。
 そう簡単にアークエンジェルが落ちるわけがないだろう」

 質問に対してムウは、さも当たり前のように返す。
そして二人に先ほど連絡があった事、合流予定時刻が昼ごろになる事を告げると、
トールとカガリは闇夜の中で嬉しそうな表情を浮かべた。
だが、心配事が無いわけではない。それは敵味方関係なく通信を傍受されている可能性がある事だ。
友軍とは言え、ユーラシアのような事にも成り兼ねない可能性もある。
Nジャマーの影響もあって杞憂で終わるだろうが、出来るならば見つかりたくはないのが本音だった。
ムウは腰に手を当てると体を伸ばすようにして天を仰ぐ。

「まあ、それよりも交代だ。合流まで頼むぞ」
「了解しました」

 力を抜いたムウが告げるとトールは明るい声で頷いた。そしてすぐにトールが口を開いて、

「腹減りましたね」

 と、いかにもの様子で言った。
昨日はあれだけの戦闘をした上、着陸後はすぐに機体を隠す為に色々と動き回る事となり、
予想以上の重労働もあって、二号機に乗った二人は食うより寝る方が遥かに早かった。
少しの苦笑を見せたムウは、目の前の二人に言った。
「こんな状況でも食欲が湧くのは良い事だ。メシ食うならサバイバルキットの中にあるだろう。
 好きに食って構わないぞ」
「フラガ少佐はどうします?」
「俺はお前達が寝た後食ってるからな。遠慮しとく」

 聞き返して来たトールに、ムウは答えて一号機に向かおうとした――が、
立ち止まって振り返ると顔をカガリへと向けた。

 

「今回の件じゃ良くやってくれた。
 だがな。言っておくが、お前。艦の連中からしたら印象最悪だぞ。
 口のきき方には気をつけろ。それから迷惑かけた奴らに謝っておけ」
「あれは……確かに私が悪かったが……」
「今回の働きは俺も認める。自分の非を認めて頭を下げるなら悪いようにはならないさ。
 それから、あの保護者に感謝しておけ」

 耳の痛い話にカガリは苦い表情を見せるが、ムウの口調自体はそう厳しいと言うほどのものではなかった。
確かにムウの言う通り、先の一件でアークエンジェルのクルー達がカガリへ向ける目は
最悪と言って良いほどだ。しかも謝罪さえしてないのだから尚更だった。
そのカガリとて自分のしでかした事を自覚しているからこそ、特に迷惑をかけたトールの
サポートに付いたのだが、それとてクルーからすれば、当たり前の罪滅ぼしでしかなく、
彼女自身が頭を下げなければ和解すら不可能なのは当たり前の事だろう。
だが、その彼女にもプライドがある。それが顔を覗かせた。

「確かにこの前の事は私が悪いが……。だからこそ今回は、こうして借りを――」
「……そう言う事じゃないって。カガリがいつまでいるか知らないけど、
 そうしないとアークエンジェルで居場所がなくなっちまうぞ。な? 分かるだろう?」
「悪い事は悪い。どういう育ち方したが知らないが、それを認められないんじゃガキと同じだ。
 謝りもしないでまた艦の中で何かあれば、俺はお前をぶち込む事になる。
 恐らくマリューも頷くしかなくなるだろう。あの保護者に迷惑かける事くらいは理解しておくんだな」

 言い訳がましいカガリの言葉をトールがさえぎると諭すように返すと、ムウが更に続けて言った。
今、こうしていられるのもキサカが尽力してくれたからだ。
それを何か起こして無に返してしまう真似はするつもりは毛頭無いが、起こってしまわないとも限らない。
それを回避するならば、起こりうる芽を事前に摘み取る努力をすれば良いのだ。
カガリは唇を噛みしめながら考えた。
――キサカに、そして父にこれ以上の迷惑はかけられない。
見かねたトールは、俯き黙り込んだ彼女に助け舟を出す。
「あのさ。一応、俺もちゃんとみんなに謝ってないしさ。カガリも俺と一緒に謝っとけよ」
「……私だって、みんなに迷惑をかけたのは自覚しているんだ」
「それなら謝れるだろう? なっ?」

 まるで小さな子供諭すように言うトールに、カガリは小さく頷いた。
 その二人の様子にムウは、少なくとも艦内の揉め事一つ減った事を悟った。

 

「ようやく解決したか。まあ、今回は二人とも本当に良く働いてくれたと思ってるよ。
 んじゃ、俺は少し休ませてもらうぜ。お疲れさん」

 二人に背を向けたムウは、手をひらひらと振るとスカイグラスパー一号機の中へと入って行った。
 ムウの姿が消え二人はただ黙っていたが、沈黙に耐え切れなくなったカガリが、

「トール……。あ、あの、あり――」

 と、少しだけ頬を染めて言いかけたその瞬間、トールの腹の虫が盛大に鳴いた。

「わ、悪い。それで、言いかけてたけど、なに?」
「……何でもない。食事にしよう」

 笑いながらその場を取り繕うトールだったが、カガリは言う気が萎えてしまったようで、
ただおかしそうに笑みを浮かべて答えた。
東の空は先ほどよりも明るくなりつつある。
またアフリカの大地に新しい一日が訪れようとしていた。

 
 

 太陽はあと数十分ほどで空の頂に登るだろうと思われる時間。
砂漠を無事に抜けたアークエンジェルは、ムウ達との合流地点である
グレートリフトバレー直前まで来ていた。
既に三人との連絡も着き、無事も確認している。あとは接触して収容するだけとなっていた。

「スカイグラスパー両機の信号を確認。ポイント――」

 カズイが報告とともにスカイグラスパー両機の所在を読み上げ、
それに合わすようにノイマンは舵を切り、船首を目的地へと向けた。
ザフト軍モビルスーツ隊との交戦の後、全く戦闘が無かったわけではない。
だが、レセップス相手に繰り広げた砂漠の戦いに比べれば、
止まっている蚊を叩き落とすほど容易く小規模なものでしかなかった。
とは言え、敵ばかりの北アフリカからの脱出だ。
地球軍からすれば、アークエンジェルのやり遂げた内容は余りにも大きいはず。
この事が軍本部の知る所となれば、正に勲章物だろうが、それを率いた艦長マリュー・ラミアスと、
副長のナタル・バジルールは、一ミクロンほどもそのような事を考えていなかったようだ。

「スカイグラスパーの収容を急がせて。その後は……ナタル。
 友軍領内なのだから通常警戒に下げて構わないわ」
「了解しました」

 マリューからの指示を受け、ナタルが頷いた。
勿論、その指示はブリッジのクルー達の耳へも入り、ようやく通常業務に戻ると言う事もあって、
皆、安堵の顔を見せた。

「接触までどのくらいなの?」
「待ってください。えっと、今の速度で……大体、十五分くらいです」

 艦長席のマリューは後ろを振り返って聞き質すと、カズイは少年らしい軽い口調で返した。
もうすぐこの船の全てのメンバーが集まる。そう思うとマリューの心は軽くなった。
その所為もあってか。彼女の顔からは自然と笑みがこぼれる。
そこへ一通り指示を出し終えたナタルが声をかけた。

「艦長。今は私が責任を持って航行いたします。艦長はお先にお休みください」
「助かるわ。甘えさせてもらうわね」

 マリューは素直に頷くと、腰を上げて席をナタルへと譲る。
そして、脚をCICでストライクの戦闘データを確かめていたアムロとキラの元へと向けた。

「アムロ大尉。キラ君。申し訳ありませんけれど、後をよろしくお願いします」
「ああ、了解した。後は任せてくれ」
「ラミアス艦長。お疲れ様でした」

 

 神妙な面持ちでモニターを見つめていたアムロとキラだが、
顔を上げると彼女をゆっくりと休ませる為か明るい口調で答えた。
この時、何故、アムロとキラが神妙な顔つきでいたのかは理由があった。
そう、理由は余りにも簡単。ザフト軍基地内での戦闘データが
今までのキラの物とは思えないほど向上している為だ。
キラの証言で行くと「何かが弾けたような感覚があった」と言うだけで、
何故ここまで飛躍した理由が見当たらず、二人はデータの洗い出しを始めていたのだ。
それを知らないマリューは二人の元を離れ、扉を開くと振り返る。

「みんな、ご苦労様。先に休ませてもらうわ」

 敬礼をするマリューに対し、その場の全員がまた敬礼で応じ、彼女を送り出した。
ブリッジを後にしたマリューは自室へとは向かわず、軽やかな足取りで格納庫へと向かって行ったのだった。

 
 
 

 アークエンジェルが北アフリカ戦線を突破した三日後――。
ラクス・クライン達を乗せたシャトルがプラント本国へ向かうその日の事だった。
ザフト軍ジブラルタル基地の一室では、モニターを食い入るように見つめる
バルトフェルドとアイシャの姿があった。
彼等が見ているのはストライクが突入したザフト軍基地の監視画像だ。
しかも今朝届いたばかりの物。一切手が加えられていない物だ。
とにかく画面の中のストライクは跳ね、切り、撃つを繰り返し、恐ろしいほどの戦いぶりを見せていた。

 

「……これ、アムロ・レイ?」

 モニターの中のストライクの活躍ぶりに、アイシャは目を細めてバルトフェルドに聞いた。

「いや……違うな。キラ・ヤマトだろう」
「でも、ここまで凄い動きを見せる坊やじゃなかったわ」

 隣に座るバルトフェルドが首を横に振ると、アイシャは彼にもたれかかるようにしながら言った。
確かに彼女の言う通り、キラ・ヤマトはここまでの動きを見せるパイロットではないのは
バルトフェルドも承知だ。思い当たるとすれば、模擬戦で見せた最後の動き。それが一番近いだろう。
それに彼が着目したのは、突入時にストライクが基地内の壁面に機体を擦らせている点だった。
 ――少なくとも自分が知るアムロ・レイはあのようなミスは絶対にしない。
 これをやったのはキラ・ヤマトなのだ。
 と、バルトフェルドにはそんな確信があった。

「……この数日間で何が起こったかは知らないが、僕には確信出来る。
 ストライクに乗っていたのはアムロ・レイじゃない。キラ・ヤマトだ」

 モニターを見続けるバルトフェルドの口が嬉しそうに、そして軽やかに動いていた。
 そしてこの事実はバルトフェルド自らラクスへと届けられる事となった。

 
 

「あら? バルトフェルド隊長? どうされたのですか?」

 突然、部屋を訪れたバルトフェルドに、ラクスは柔らかい表情で聞き返した。
バルトフェルドはラクスがいつも通りなのを確認すると、肩を軽く竦めてからからソファへと腰を下ろした。

「朗報を持って来たのさ」
「朗報……ですか?」
「ああ。アークエンジェルがやってくれたらしいぞ」

 言われた言葉にラクスは小首を傾げると、バルトフェルドは唇の端を攣り上げながら答えた。
マリューに渡したチップの道筋とは少々違うが、彼等は生き残り、見事戦線を突破した。
あの指揮官が馬鹿な行動を取らなければ失う命はもっと少なかったはずだった。
バルトフェルドの思い通りには行かなかったが、皮肉な事にそれがキラ・ヤマトの
パイロットとしての異常な成長を促したのは嬉しい誤算と言っても良かった。
もっとも目の前の少女には、パイロットとしてのキラ・ヤマトではなく、
キラ・ヤマトそのものが大事なようだ。

 

「……本当ですの!? それでキラは?」
「恐らく無事だろう。まったく、君の彼氏は大した化け物だ。
 たった一機のモビルスーツで戦線の基地一つを壊滅させるんだからな」
「……壊滅……ですの!?」
「ああ。キラ・ヤマトとアークエンジェルは大隊規模の兵力半数以上と戦線の基地一つを壊滅させたんだ」
「人が……大勢……死んだのですか?」

 目を輝かせていたラクスだが話を聞き、彼女は何とも言えない表情を浮かべた。
内心、キラが生きて脱出した事は喜んでいるのは分かる。
だが、彼女もプラントの人間。ましてや代表に近い場所にいる存在だ。多くの者が死ねば心が痛むのだろう。

「この事実を知れば、本国はアークエンジェルを……
 いや、地球軍を今以上に血眼になって叩き潰そうとするだろう。戦争は更に激化するだろう」
「悲しい……事です……」

 ラクスは目を伏せて呟くと、バルトフェルドは腰を上げて窓際へと歩いて行く。

「本国に戻れば、恐らく君は利用されるだろう。回りの動きに注意した方がいい」

 窓辺に立ったバルトフェルドは太陽を背に振り返ると、ラクス・クラインへ告げた。

 

 この約三時間後。ラクス・クライン及びアンドリュー・バルトフェルド隊を乗せたシャトルは
プラント本国へと向かって飛び立ったのだった。