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CCA-Seed_98 ◆TSElPlu4zM氏_第39話

Last-modified: 2011-09-16 (金) 01:50:46
 

 薄暗い執務室に声が響いた。

「これからの予定はどうなっている?」

 

 声の主は言わずと知れたパトリック・ザラだ。
主の正面に立つのは秘書も兼務しているであろうザフト軍の制服に身を包む青年。
彼は慣れた様子でスケジュールに目を通すと、落ち着いた口調で答える。

「今の所、大きな変更はありません。
 ただ、本日帰還予定のラクス・クライン嬢とバルトフェルド隊を乗せたシャトルが遅れている模様です」
「どの程度遅れるのだ?」

 遅延報告に眉を動かす事もないパトリックは淡々と聞き返した。

「いいえ。まだ詳しくは。分かり次第ご報告いたします」
「分かった。……シーゲルは遅れる事を知っているのか?」
「第一報ですので、まだだと思われます」
「……到着時間が分かったら奴に教えてやれ」

 パトリックはわずかに沈黙した後に、かつての親友の事を指して言うと言葉を続ける。

「それからだが、帰国会見の予定があっただろう。それを取り止める事は可能か?」

 青年はパトリックの思わぬ発言に困惑を隠せなかった。
恐らくはシャトルの遅延以外は予定通りスケジュールが進むと思っていたのだろう。

「そ、それは可能ですが発表もしていますし、このタイミングではマスコミが何と言うか……」
「ラクス・クラインに地球での会見の様な発言をされては兵士達の士気にも関わる。
 ラクス・クラインの体調を考慮したとでも理由をつければ良かろう。
 それから報道規制をかけるのを忘れるな。下がれ」

 有無を言わさないパトリックの言い様に、青年将校はただ頷く以外に選択肢は無かった。

 
 
 

 戦いの傷跡を残したままのアークエンジェルがアフリカの大地で翼を休めている。
その上空を連合空海軍主力戦闘機である二機のモビルアーマー――F-7Dスピアヘッドが通り過ぎる。
そしてアークエンジェルの傍に大型のヘリと、その護衛と思われる上空にいる同型機体が二機が並んでいた。
何故この様な状況にあるかと言えば、実に単純なものだ。
南アフリカ領内を航行するアークエンジェルがレーダーに引っかかった。ただそれだけの事。
同じ地球連合軍の属するとは言え、通告も無しに領内を航行していたアークエンジェルの方が
一方的に悪いと言えた。
ただ、南アフリカ軍も突然の事と友軍艦アークエンジェルを発見した場所があまりにも僻地であった為、
そうクラスの高い人物の派遣をして来なかった。しかし、それが彼らに幸運をもたらす。
派遣されて来た白人男性は連合南アフリカ軍の大佐。
辺境の基地指令を務める将官の代理を務める代将だった。
それに対するは、アークエンジェルの責任者を務めるマリューとナタルの二人。

 

「ですから我々は、モビルスーツ量産のために一秒でも早くストライクを
 本部へと届ける事が任務となっております。
 ですから申し訳ありませんが、現在の状況でのご協力はできません」
「大佐殿。今、このアフリカでストライクとνガンダム。そしてアークエンジェルを失えば、
 我々連合はさらに追い込まれる事になるでしょう。しかし、ジョシュアにたどり着き――」
「――量産さえすれば、状況は覆せると言うのか?」

 先ほどまで対ザフト戦の協力要請を求めていた大佐が、目の前の二人に対して低い声で返す。

「はい。数で勝る我々連合が圧されている理由は大佐殿もご存知でしょう」
「……今を耐え、時を待てと言う事か?」
「申し訳ありませんが任務上、そうとしかお答え様がありません」

 マリューは苦い表情を浮かべながらもはっきりと答えた。
 彼女と同様の表情を見せる大佐は、しばしの沈黙の後に口を開いた。

「ならば、大西洋は量産したモビルスーツを南アフリカに供給すると思ってよいのか?」
「そこまでは分かりませんが……一国のみが運用したところで効率が上がる事はありません。
 現状から言って、はぼ間違いなく初期稼働の機体は連合各国に供給されると考える方が妥当だと思います」

 問いに対して、マリューの範疇を超えた内容ではあったが、彼女は予想しうる範囲でそれに答えた。
 二人の目の前で大佐は小さなため息を吐くと、少しばかり疲れた表情で言った。

「どちらにしても連合本部の判断を仰ぐ事になる。一両日中には返事が来るはずだ。
 それまでは我が隊が貴艦の守備に着く。指示が出るまで骨休めでもしておく事だ」

 そう言うと彼は踵を返し部屋を出て行く。マリュー達は少々疲れた表情で天を仰ぐと大きな溜息を吐いた。

 
 

 仕事を終えたサイとカズイは、アークエンジェルの住居ブロック通路を自室へと向かっていた。
二人とも連合南アフリカ軍の事もあって、少しばかり疲れた表情だ。
特にサイの表情は冴えず俯きがちに歩いてる。

「あれ? 二人ともどうしたの?」

 ちょうど曲がり角の所でカズイが声を上げた。それに吊られてサイは顔を向けると、
そこには部屋の入り口で立ち話をしていたのであろうミリアリアとフレイの姿があった。

「カズイに……サイ。……仕事、終わったの?」

 振り向いたミリアリアは命令で仕事を手伝えない事もあってか、
申し訳なさそうにしながらも躊躇いがちに聞いて来た。
勿論、もう一人の少女――フレイの目も彼らに向けられている。
サイは心苦しさからか二人から目を背けると、同様にフレイもサイを直視したくないのか、
ミリアリアの方へと視線を外した。
当たり前だが、その間もカズイとミリアリアの会話は続いていた。

「うん。アフリカの地球軍が守ってくれるから休んで良いって。……ミリアリア。どうしたの?」

 ミリアリアに答えたカズイではあったが、流石に様子のおかしいミリアリアに気付いたようだ。

 

「ううん。何でも無いから」
「何でも無いわけ無いじゃない。この前なんて泣いてたのに。あんた達、何とも思わないの?」

 首を振るミリアリアにフレイは不機嫌そうに言うと、男子二人に厳しい視線を向けた。
 しかし、サイは彼女の視線を無視するように、

「……カズイ。俺、先に行くから」

 と、カズイに告げてその場を離れようと歩き出した。

「えっ!? サ、サイ?」
「待ちなさいよ! あんた達、一体こんな事、いつまで続けるつもりなのよ?」

 取り残されそうになったカズイが慌てて後を追おうとすると、
フレイがあからさまに怒りに満ちた顔で言った。
やはりフレイに対して未練がある様子のサイは、声をかけられた事で足を止めて振り返った。

「……分からないよ。でも俺は少なくともアークエンジェルを降りるまでは、ザフト軍を倒し続ける」
「僕はアラスカに着いたら除隊するつもりでいるけど、今は死にたく無いから」
「あんた達、人殺しやってるのよ。良いと思ってるの?」

 サイに続き、カズイは仕方ないと言った感じで答えると、フレイの目は厳しさを増した。
 しかしサイは自分に向けられた非難を押し返すように、彼女を見据える。

「これは戦争なんだ」
「だからって――」
「――俺達だって、あのキラの友達と同じ事をしてるだけだろう!」

 反論しようとするフレイの言葉を遮り、サイは怒りを爆発させ怒鳴った。
 フレイは思わず体を震わせる。

 

「……もしかしてアスランの事を言ってるの!?」
「そうだよ。さっきの戦いだってみんなが戦ってなかったら、フレイも死んでたかもしれないんだ。
 ザフト軍は敵で、これは戦争だから……やらなきゃやられるんだよ」
「だからって……それとアスラン個人は関係無いじゃない!」
「関係無い? そんなわけ無いじゃないか」

 顔を紅くして怒るフレイに、サイが強い口調で言い切って続けた。

「あいつはザフト軍で、俺達は地球軍なんだから。
 それに俺らだってヘリオポリスであんな事になってなければ、今頃は平和に暮らしていたはずなんだ」
「それはそうかもしれけど、元はと言えば地球軍が――」
「――それでも、あいつらの所為で俺達はこんな事になったんだ。
 フレイはなんであんな奴をかばえるんだよ!」

 捲し立てたサイの言葉に、フレイは一瞬息を飲むと、

「……そんな事、分かってるわよ。それでも……」

 フレイが俯いて呟いて言葉を続けようとしたが、
サイはその言葉の続きを聞きたくないらしく再び遮った。
「そんなにあいつの事が気になるならプラントに行けばいいじゃないか。
 ……そうじゃないなら、いい加減目を覚ましてよ」

 そうしてフレイに背を向けたサイは、苛立ちを隠そうともせずに一人その場を立ち去った。
それから十数メートルほど歩き、サイは通路の角で背を預けて俯いているキラの姿を見つける。

 

「あっ……」
「キラ……」
「ごめん……。通りかかったら……偶然……」

 サイに気付いたキラは気まずそうに目を伏せた。

「……良いって。キラ。今は向こうに行かない方が良い。それじゃ俺行くから」
「うん……。あっ、サイ待って。僕に何か出来る事ある?」
「キラ。ありがとう」

 呆然と後ろ姿を見送るキラだったが、思い立ったように呼び止めて尋ねたが、
サイは首を振るでもなく礼だけを口にしてその場を後にした。

 
 
 

 地球連合軍アラスカ基地その中にある地球連合軍統合最高司令部――通称ジョシュアの薄暗い会議室。
同連合南アフリカ軍より連絡を受け、数人の将官と思われる男達と、
その場にそぐわない白いスーツに身を包んだゴールデンブロンドの男性が目の前のモニター見つめていた。

「ほう……。まだ生き残っていたとは」
「もうすでに撃墜されたものと思っておりましたが……」
「やるじゃないですか。あの北アフリカを脱出したのですから」
「いや、しかし……」

 テーブルを囲む将官の一人が忌々しげに答えた。
すると白いスーツの男性――ムルタ・アズラエルが皮肉ったように口の片端を吊り上げた。
それに対し将官達はわずかに眉間に皺を寄せた。
それもそのはずだろう。アークエンジェル隊は派閥の違うデュエイン・ハルバートン准将指揮下の部隊だ。
彼等からすれば拍手など送れるはずもないのだから。
ムルタ・アズラエルという男。
反コーディネイター運動を自らのアズラエル財閥の豊富な資金で支える一方、
反コーディネイター謳う政治団体『ブルーコスモス』の盟主であり、
大西洋連邦政府、そして軍に対しても強い発言力を持つ人物だ。
その様な権力を持つアズラエルに誰が歯向かえるだろうか。
少なくともこの場でそれが出来る者は誰一人としていないのは明白だった。

 

「デュエイン・ハルバートンの部下にも少しは使える人間がいると言う事ですね」
「……それでですが、ハルバートン及びアークエンジェルの処遇は?」

 椅子に背を預けたアズラエルがこの場の全員を見渡しながら皮肉ると、
この話を終わらせたいという感じで将官の一人が切り返した。
実を言えばこの時期、地球連合軍第八艦隊を指揮するデュエイン・ハルバートンの立場は
実に微妙なものとなっていた。
主な理由は、痛み分けと終わった低軌道会戦。
そして第八艦隊が母港する月の地球連合軍プトレマイオス基地が強襲を受け大損害を受けた事でだ。
本来なら基地の強襲など見抜く事すら不可能ではあるが、受けてしまった事は変えようもない事実。
理不尽にも思える批判も受ける以外にはなかった。
そのハルバートンは現在、修復の進まないプトレマイオス基地に居るわけだが、
アズラエルの目の前に居る将官達からすれば、すぐにでも呼び出し今の座から引きずり降ろしたいのが
本音だが、低軌道会戦での戦闘記録を見たアズラエルがそれを押し留めていたのだった。

「ハルバートンは折を見て召喚すれば良いでしょう。
 これだけのミスをしたのですから、どうとでも出来ます」

 アズラエルは鼻にも掛けない様子でハルバートンの事について答えると、そのまま話を続けた。

「アークエンジェルについても現状維持で良いでしょう。
 エンデュミオンの鷹が居ると言う事実を差し引いたとしても、
 ここへ帰還したとなれば彼等は本物かもしれませんし。
 ただし……モビルスーツのパイロットの一人にコーディネイターが居ると言うのはいただけません」
「我々もそれは同感で」
「しかし、私がそれ以上に興味深いと思ったのは、アムロ・レイと言うパイロットの事です」

 

 将官がコーディネイターのパイロット――キラ・ヤマトの事について同意すると、
アズラエルは一枚の紙を手に取ると同時にコンソールパネルを叩き、
低軌道会戦の戦闘記録をモニターに再生させて彼等を見渡した。
すでに彼等も幾度となく見た画像、GATシリーズには似てこそいるが
明らかにGATシリーズではない機体――νガンダムが映し出されていた。
モニターの光が各々の顔を青白く照らす中、彼等の一人がアズラエルに向かって言った。

「私にはハルバートンの作り話に思えますが」
「私も全てを鵜呑みにしているわけじゃありませんが、
 何よりも衛星軌道上での戦いで実績を残している。その事実は?」
「……オーブがそれなりの物を造ったと言う事でしょうか。それ以前に、このアムロ・レイなる男は
 連合の軍籍を有していながら経歴は全くの白紙。おかしいとは――」
「――だとしても、記録上ナチュラルの身でモビルスーツに乗り、初めて戦果を残した人物です」

 アズラエルが手にしていた紙を軽く揺らしながら言葉を遮った。

「確かめろと?」
「いいえ。こちらでも調べましたが、上がって来るのは不明と言う報告ばかりでした。
 これ以上は時間の無駄です。いずれにしろアークエンジェルがここにたどり着けさえすれば分かる事です」
「もし本当にナチュラルであれば取り込めと?」
「本当にナチュラルであれば。ですがね」

 問いに対し、アズラエルは条件付の回答を返した。
彼自身、この報告が第八艦隊からの物と言う事もあって、やはり半信半疑な様だ。

「アークエンジェルは先ほど言った様に現状維持。彼等が帰って来れば真実は分かります。良いですね」

 

 この話はこれで終わりだと言わんばかりに彼等将官達に言い渡し、
アズラエルは一人席を立ち会議室を後にする。
そして彼は、通路で自分を待っていた女性に目を向ける事もなく徒歩を進めながら言った。

「アークエンジェルの位置は?」
「掴んでいます」
「追尾は可能ですか?」
「衛星を使用すれば可能です。ただし、報告に若干の遅れが発生する事が予測されます」
「分かりました。私が許可します。使いなさい」

 淡々と答える女性に、アズラエルは軽く頷くが歩みを止める事はしなかった。
 女性は立ち止まり軽く頭を下げると彼の背を見送るのだった。

 
 
 

 アムロは格納庫の隅に設置されたモニターを見ると、手にしたインカムを耳に当てた。

「これで終了だ」

 一度、νガンダムを見上げた目を再びモニターへと戻した。
はじき出されて来る数字はアムロを基準にすれば到底足元にも及ぶものではなかったが、
着実な進歩が数値として現れていた。

「……ふぅ」

 νガンダムのコックピットハッチが開き、今まで中で訓練をしていたムウが下へと降りて来た。

「前に比べればだいぶ動きも良くなってきている」
「そりゃまあ、なんたって良い教師に教えてもらってるからな。
 だけどシャアに一撃も当てられないってのは悔しいぜ」

 ムウは苦笑いを浮かべながらも、この世界にはいないシャア・アズナブル相手に
負けん気を見せ頭を掻き毟りながら答えた。

 

良くも悪くもムウの今現在の技量で言えば、宇宙世紀の一般パイロット達に比べれば、
未だ足らないと言っても良い状況ではあったが、ムウの希望もあって最後にサザビーと対戦させたのだが、
結果は言わずともと言った所だろう。
元々、この世界のパイロット達はMSに対する熟練度は無いに等しい。
そう言う意味では現在のムウでもMSに乗れば、やはりエースと持て囃される事は間違いないのだが、
如何せん錬度が足らな過ぎた。
良い言い方をしたとしても、宇宙世紀で言えば新人パイロットと言ったレベルでしかない。
シミュレーターのサザビーとは言え、シャア相手に二十秒もっただけでもマシな方だ。

 

「あれはシャアが乗ってた機体だからな」
「知ってる。シミュレーターとは言え、わけも分からん理由で隕石落としたりする野郎なんかに負けたんだ」
「……」

 負けず嫌いのムウが苦々しい表情を見せると、アムロは何とも言いがたい表情を浮かべる。
そして、わずかな沈黙との後に、額に手を当てるムウの姿を見てアムロは声をかけた。

「どうした?」
「いや、頭痛ってほどじゃないんだが……。νガンダムに乗るとなんだか頭が刺激される感じでさ」
「……サイコミュの影響か?」

 口をへの字にしたムウが薄ら笑いを見せると、アムロは考え込んだように呟いた。

「でもさ。あれはニュータイプしか使えないんだろう?」
「ああ。少なくとも適正の低い人間には反応しないシステムになっている。
 ……と言う事はリミッターが外れているのか?」
「ソフトの異常って事?」
「いや。確かめてみなければ分からないが……。
 どの程度のレベルとは言えないが、ムウはニュータイプの素養があると言う事だろう」

 

 νガンダムを見上げるアムロの言葉は正に的を得ていた。
UC.0093当時、サイコミュはを扱えるのはニュータイプや強化人間と呼ばれたパイロットのみ。
適正が無い者や能力が低い者達では、リミッターが作動し操作する事は不可能な代物なのだ。
とは言え、アムロ用に合わせたνガンダムがムウにフィットする訳ではない。
サイコミュがパイロットに与える負荷は大きく、その副作用が頭痛となって現れたのかもしれないと
アムロは考え、深刻な表情を浮かべるが、当のムウはそうは捉えなかったようだ。

「それが本当なら、俺はまだやれる。キラに負けてられないからな」

 下げていた拳に力を込めたムウがνガンダムを見上げながら呟くと、
隣に立つアムロは彼からパイロットのプライドや執念と言ったものを感じ取る。

「俺が言うのもなんだが、あまりニュータイプと言う言葉に囚われ過ぎるな」
「……ああ。だけどさ、自分に可能性があると分かれば少しはな」

 アムロの忠告にムウは頷くと興奮を隠しきれない口調で返す。
頭打ちの状態だった自分自身の更なる可能性を持っていると知れば仕方ない。

「理解出来るだろうが、たかが一人で戦況を変える事は出来ない。それはニュータイプだとしても同じ事だ」
「まあ、分かるけど……。されどニュータイプさ。アムロを見てれいば、そう思うって。
 まあ、俺はまだニュータイプにすらなってもいないけどさ」

 ムウはそう言って笑うと護衛の為に積み込まれるスピアヘッドの為に
手狭になりつつある格納庫を見渡しながらぼやいた。

「それにしても無理矢理詰め込みやがって。
 あれじゃモビルスーツどころか、スカイグラスパーすら出せやしないぜ」
「この辺りは連合の勢力下なのだし、こうして楽をさせてもらっているんだ。文句は言えないさ」
「だけどなアムロ。軍のお偉いさん方は、アフリカを出たら俺達に予定通り
 自力で帰って来いって言ってんだぜ。
 アークエンジェルは新鋭艦でモビルスーツ積んでるって言うのに奴等は何考えてるんだか」

 同じように見渡したアムロもどうやら同意見のようだが、納得づくめのようだ。
 次々と搬入されるスピアヘッドを尻目に整備班の手すきの者達は所狭しと動き回っていた。

 
 

 アークエンジェルの格納庫内にはスカイグラスパーに似たモビルアーマーが詰め込まれ、
連合南アフリカ軍のパイロット達が各々自分の機体の調整をコックピットで行なっている。
問答無用に奥へと押し込められたスカイグラスパー両機は、
ここぞとばかりにメンテナンスが行われている最中だ。
スカイグラスパーの底部に潜り込んだ整備兵が「工具を取ってくれ」と声を上げると、
シミュレーターのそばでトールの訓練を眺めていたカガリがその声に気付く。
見た所、そこにいるはずのもう一人の整備兵は、彼が知らぬ間に生憎と席を外してしまっているようだ。
カガリは仕方ないと言った顔をすると、機体近くにあった腰ほども高さのある工具箱へと駆け寄って行く。

 

「まだか? 早くしろよ」
「これで良いんだな?」

 駆け寄ったカガリは工具箱の中を漁ると、それらしい工具を手に腰を落として手渡そうとした。

「そうだ。待たせんなよ……」

 文句を言いながら機体の下から這い出した整備兵は、カガリを見て思わず苦々しい表情を浮かべ
伸ばしかけた手を止めた。
本来ならば、スカイグラスパー二号機を乗っ取り無断で出撃と言うとんでもない事をしたにも関わらず、
処罰無しで今ではレジスタンスの身でありながらトールの部下として収まっているのだ。
当然、トールが訓練を行なっていればカガリも自然と参加すると言う流れとなり、
トールがいる時に限り格納庫への出入りが許可されたわけだが、彼女からの謝罪があったとは言え、
彼の態度も致し方ない所だろう。

「これで良いのか?」
「……あ、ああ」

 整備兵は何とも言い難い表情でカガリから工具を受け取った。
そんな彼を見てカガリは未だ溝が埋まっていないのを実感しながらも、
あまり引っ張りすぎない性格もあってか納得した顔を見せた。

「私は訓練に戻る」
「……おい。ここにいた奴はどうした?」
「私が見た時にはいなかったぞ」
「そうか」

 踵を返すカガリに整備兵は答えると礼こそ口にしないが、一応、手にした工具を軽く挙げて、
再びスカイグラスパーの下に潜り込んで行った。

 

スカイグラスパー用シミュレーターの元へと戻って来たカガリは、スコアを見て思わずトールに声をかけた。

「今までで一番のスコアか。トール。やるじゃないか」
「昨日に続いて記録更新だからな。でも流石に疲れた。今日はもう切り上げないか?」
「ああ」

 トール自身も満足そうに答えるとカガリは頷く。
この二日ほど、トールのシミュレーターでの成績が予想以上に伸びていた。
それはまるでスポンジが水を吸い込むように……。
勿論、ムウや一般のパイロットと比べてしまえば大した事は無いが、
新人としての成長率からすれば恐らく群を抜いている数値なのだ。だが、それにも理由はある。
まずは、ヘリオポリス脱出時期のキラと同様、何よりも実戦の場が多かった事が上げられる。
そしてもう一つ。カガリと言う一時的なパートナー得た事だ。
善くも悪くも、彼女の存在がトール自身に多大なる自覚を促したと言う事だろう。
トールの隣を歩くカガリが、ストライクとνガンダムを見上げる。

「おい、やめとけ。営倉にぶちこまれるぞ」
「それくらい分かっている。それに迷惑をかけるつもりはない」

 隣を歩くトールの忠告に、カガリはモビルスーツから目を背けると足早に格納庫を後にした。

 

 そして場所は――食堂。

「トールはこれからどうするんだ?」
「訓練の報告書作り。これが面倒なんだけどな」

 正面に座るカガリの問いに、トールはポテトサラダを飲み込んでから答えた。

「軍人は大変なんだな。私は一度部屋に戻るが、何なら手伝うぞ」
「マジで?」
「私はキサカに要があるから、三十分後くらいに行く」
「分かった」

 腕時計で時間を確かめたカガリが告げるとトールは軽く頷く。
余談ではあるが、トールはパイロットと言う事もあって、友人達と違い、
キラと同様に個人部屋を宛てがわれていた。
現状、アークエンジェルは人員が少ない事もあって、思いの他、部屋が余っていると言う理由もあるが、
マリューやナタル。そしてパイロット達やマードック、ノイマンなどの艦の重要な役目を担う者達には
個人部屋が優先的に割り振られている状況にあった。
食事を終えた二人は席を立ち、ブリッジに通じる通路へと足を向ける。
二人はそこでで別れると、カガリはキサカが居るであろう部屋に向かって通路を一人歩いて行った。

 

「あっ……」
「ん?」

 途中、脇道から姿を現した地球軍の制服に身を包んだ少女――ミリアリアが
少々驚いた様子で立ち止まるが、彼女はカガリの事を認識すると、明らかに敵意を込めた目を向けて来た。
前ほど――と、言ってもほんのここ数日の事だ。
謝罪をしたカガリに対する見る目は大分マシにはなった方なのだが、
やはり目の前の少女のような態度を取る者もいまだ多い。
睨む様な少女の視線にカガリは思わず不満そうな表情を見せるが、
北アフリカ脱出時に自分の仕出かした事を思い出して半ば納得の想いに至った。

 

「……あの時は悪かった」

 通り過ぎる間際にカガリが言うと、ミリアリアは振り返り呟く。

「あんたがいなければ……」

 

 その一言にカガリは振り返るが、ミリアリアの口からは言葉の続きは出て来そうになかった。
多分、少女の口から出て来るであろう言葉はきっと作戦を失敗させた文句だろうと思い、
カガリは再び背を向け歩き始めた。

 

 そして、そのカガリからすればミリアリアは他の者達のように、
名も知らぬその他大勢のクルーと同じ存在だった。
言わばカガリは、目の前の少女――ミリアリアが、未だ自分の相棒の彼女である事を
まだ知らないままと言う状況にあったのだった。