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CCA-seed_787◆7fKQwZckPA氏_08

Last-modified: 2010-04-30 (金) 10:25:27

〜共通の憎しみほど人間を団結させるものはない〜
(アントン・パーヴロヴィチ・チェーホフ)

 
 
 

世界中の、街という街の中から、『人間』と呼称される生命体は姿を消していた。
「繰り返しお伝えいたします。
プラント政府は、地球に迫っていたユニウスセブンの破砕は成功したと発表いたしました。
しかしまだ、破片の落下による被害の脅威はいまだ……」
人々の手にするラジオや、人のいない電気街のTVは悉くニュース番組が流され、
アナウンサーは数十分足らずで更新されていく情報を次々と流し、
時間が経つに連れて、番組はまた一つ、また一つと放送は打ち切られる。
制作スタッフやアナウンサーも避難を余儀なくされたということがそれでハッキリと分かる。
街の中にある商店街や住宅街からも人影は消え、生活感の残るその光景は悲しい。
開かれたままの商店、居並ぶ野菜や魚介類。つきっぱなしの電気、扇風機。
ゲームのデモを流し続けているTVや、まさに買う瞬間だったのか袋に入れられたままのゲーム機。
投げ出された文庫本や雑誌。廊下に散乱する中古CD・DVDの山。
キャンキャンといなくなった飼い主を呼び続ける、リードに繋がれたままの犬。
物陰の下で蹲り震える猫たちや、ショップのショーケースに置いてけぼりの子犬たち。
コトコトと音を立てるスープに、まな板の上に横たえられた包丁。
投げ出された誕生日祝いのプレゼントや、床に落ちぐしゃぐしゃとなったケーキ。
散乱したラーメン、踏みつぶされた携帯電話、聞く者がいなくとも寂しく歌うオルゴール。
その一つ一つに、それぞれの人間達の人生が込められており、
その光景こそ、今までの人生が壊された人々、生命の悲しみを表していると言える。
また、あらゆる場所で人間の心にある醜さが集約された地獄絵図も見ることが出来た。

 

ある国では、数少ないシェルターに入るために他の人間を殺した女性がいた。
ある国では、人で溢れる橋から投げ出された妊婦がいた。
ある国では、群がった群衆によって踏みつぶされた子供がいた。
ある国では、他人の子を自分の子だと叫びシェルターに入り込む男性がいた。
ある国では、助けを求める人間の手をはねのける子供がいた。
ある国では、人がいなくなったのを幸いに商店を荒らす人間がいた。
ある国では、騒ぎに乗じ婦女子を強姦して殺害する者がいた。
そんな悲劇も知らずに、前を塞ぐ乗用車に怒号を挙げる父親と、泣きわめく我が子をあやす母親。
乱れる人々の交通整理の職務を全うしようとする警官と、それにすら反感を持ってあたる民衆。
そんな人間達の上を、数多の熱せられ赤色に染まった岩塊が通り過ぎ、それを見上げた民衆は恐怖におののいた。

 

ズガァアアンッ!

 

頭上で、爆音があがり人々は悲鳴を上げた。まだ飛行中だった旅客機に破片がぶち当たり爆発したのだ。
「おっ、おい! こっちに落ちてくるぞぉ!」
男が叫び、女子供は泣きわめく中、ソレは炎と共に逃げられぬほど密集した人々の上に落ちてきた。
それは、飛行機の機首だった物体である。それは地に落ちるとその下にいた人々を押しつぶし、
転がる先にいる人間達をも巻き込んで、
何度も回転し、飛び跳ね、ひねりつぶし、すりつぶし、小高い山に衝突して、その勢いは収まった。
飛行機の残骸の中には、飛行機のボディだった破片に体を貫かれた乗務員に乗客。
爆発の炎に焼かれ黒こげになった人間や、体が引きちぎれ半分しか残っていない人間がいた。
…………頭部のない者も。
機首だった物体の周りには『人間だったもの』がこびりつき、地獄の底からはき出された物体にも見えた。
都市、農村、草原、湖、河、山々、海、熱帯林、砂漠、氷河。
ユニウスセブンの破片は死の天使の如く舞い降り、各地に死をもたらした。
落下した箇所は、一瞬にして火球に呑み込まれ、衝撃は周囲のあらゆる物体を吹き飛ばし、
大地は水さながら軽々とめくり上がり、かき混ぜられる。
恐怖の象徴たるキノコ雲が数多上がり、大気中に塵を巻き上げる。
海の水が、高波となって近場の陸地めがけて押し寄せる。

 
 

地表が地獄というものをのぞきこんでいる最中、ある都市の地下深くで、
一人の男が、壁天井から響くゴゴゴという音をBGMに、
ワイングラスを傾けその中身をグイッと飲み干した。
男は青ざめた顔をしているが、その目は熱気を込めて、体からは並々ならぬ気に満ちている。
巨大な書棚と、大きなスクリーンに囲まれた部屋は、まさに、男一人のためのシェルターであった。
男の名は、ロード・ジブリール。ブルーコスモスの現盟主である。
「ふん、コーディネイターめ、自ら墓穴を掘るとはな……」
地上の惨禍など気にもかけず、彼は手にした資料をみてほくそえむ。
その資料の中には、幾枚かの報告書と、MSの簡単な資料。そして……何枚かの写真があった。
中には、黒と紫のジン、そして謎のモーターらしきもの。
そして、何故かナスカ級『だけ』を移した写真や、ジンが連合製MSと戦っている映像『だけ』しか、
写真のなかには無かった。
まるで、『ZAFTがこの作戦を仕掛けたのだ』と言わんばかりに……。
「新型の開発情報だけでも良かったが、これでユーラシアや東アジアも釣れる。
ネオも素晴らしいものを送ってよこしたものだ。……クククク」
男の薄気味悪い笑いが、薄暗いシェルターの中に響いていた。

 
 
 

機動戦士ガンダムSEED DESTINY IF
〜Revival of Red Comet〜
第8話

 
 
 

「サトー・エヴァレット。元ZAFT宇宙軍突撃機動隊所属のMSパイロット。
そして過激派の急先鋒、か……」
シャア・アズナブルは、手元の経歴を見、そしてハーフミラー越しに、男の姿を見やる。
拘束衣によって椅子に座らせられている男、サトーは目を閉じ、黙秘したまま動かない。
それにしても、プラントが半分管理社会に近い社会となっていることに、シャアは少々驚いた。
一滴の血液に含まれるDNAデータは確かに膨大だが、
本国とのデータ照会はもはや神業と言っていいほど早い。
いま、ミラーを覗く暗室には、シャア、タリア、アーサーの三人がいる。
デュランダル議長は、大気圏突入前にボルテールへ移ってもらったそうだ。
「名前以外に収穫はあったの?」
タリアがシャアに問い、シャアはため息と共に資料をタリアに手渡す。
ある項目をシャアが指さすと、タリアは顔が青ざめ、
「……何が書いてあるのですか?」
尋常でない様子にアーサーも思わず声を上げ、タリアは黙ったまま彼に資料を廻す。
その項目に目を通したアーサーは、そこに書いてある名前に驚愕した。
その『親族』の欄の中に、二人の少女の名前が書いてあったのである。タリアは内線を繋ぎ、こう言った。

 

「今すぐルナマリアを監房ブロックまで呼び出してちょうだい」

 

「……本当、なんですか!?」
監房ブロックのあるドアの前で、ルナマリアがシャアに問うた。
信じられないとその目は語り、肩は震え、今にも泣き出しそうな顔で。
「本当に…………叔父さん、なんですか?」
「君には会うのを拒否する権利もある。
しかし、この件は伝えなければならなかったからな」
「いえ……隊長は、……気にしないでください」
シャアに彼女はそう帰すと、お願いします、そう言って、暗室の中へ入っていった。
彼女の姿を見たタリア達も、気まずそうに目を背け、
ルナはゆっくりとハーフミラーに近づき、サトーに目をやり、言った。
「…………間違いありません。叔父です」
タリアはグッと拳を握りしめ、アーサーは目を閉じて天井に顔を向ける。
タリアは、絞り出すかのように、
「辛いでしょうけど、話してくれるかしら?」
「……はい」
ルナは力無く答えると、ポツリ、ポツリと、彼がどういう人であったかを語り出した。

 
 

サトー・エヴァレットは、へザー・エヴァレットの弟として生を受け、
厳格なタカ派の父親の下で育った人物であった。
母親、つまり二人の祖母は穏健派の人物で、政略結婚に近い望まぬ結婚をした父親とはそりが合わず、
とうとうへザーを連れて別居状態となってしまった。
仲は良好だったエヴァレット姉弟はしばしば連絡を取り合ったり、時たま遊んだりしたそうだ。
その内、二人は大人になり、姉へザーはローランド・ホークと恋仲になり結婚。
サトーも、クリスティンという女性と恋に落ち、結婚した。
奇跡的に姉弟揃って、遺伝子適正のある人物が伴侶であったため、
お互いに子が出来たことを何より喜んだという。
しかし、姉弟はともかく、家と家の仲はそううまくは無かった。
へザーの夫にして、ルナマリアとメイリンの父親であるローランドは厳格なクライン派の人物であり、
タカ派であるサトーを次第に毛嫌いし始めたのである。
意見の衝突で娘が泣いたりすることもあって、そのうち、姉弟は外で会うようになったが、
プラントを取り巻く状況変わるにつれて、その二人の仲ですら変わってしまった。
地球連合と黄道同盟は緊張状態が続き、今にも戦争に突入しかねない関係となり、
過激派、後にザラ派と呼ばれるようになる者達は軍事活動を活発化させていき、それはサトーも例外ではなかった。
制止するへザーにサトーはナチュラルへの戦闘行為の正当性を語り、とうとう姉弟の仲は断絶した。
それ以降二人は会うこともなく、終戦後彼の消息は途絶えた。
ルナマリア一家は、彼はてっきり大戦中に死んだものと思っていたそうだ。

 

「……まさか、こんなことをするなんて」
優しい叔父でした。ルナマリアはそこまでひとしきり語ると、
もう限界とばかりに体の力が抜け、タリアが咄嗟に彼女の体を支える。
アーサーは拘束されたサトーを射殺さんばかりの顔で睨みつけていた。
「ルナマリア、もういい。君たちは部屋に戻ってくれ。……すまなかった」
シャアはそう言うと先に外に出で、監房ブロックの入り口付近にやって来ていたシンに、
ルナマリアを部屋まで連れて行くよう命じた。
もとよりそのつもりで来ていた彼は頷くと、彼女の下に駆け寄り、弱々しくうなだれる彼女の手を取った。
「……隊長」
「ん? ……なんだ」
「叔父のことですけど、メイリンには黙っていてくれませんか。
あの子、叔父のことを慕ってましたから……」
「…………わかった」
シャアは力強く頷いて見せ、彼女は安堵の表情を浮かべて、
シンに手を引かれ、トボトボと数十歩歩いた先で、彼女はシンにもたれかかった。
胸元に顔を埋めた彼女は体を震わせており、少年は困りつつも、優しい表情で、彼女の頭を撫でていた。
そんな様子を見ていたシャアは、難しい表情をして、また暗室へと戻る。
「艦長、あの男は……」
「無論、本国で裁判を受けさせることになるでしょうね。
どこか宇宙にシャトルを打ち上げられる施設が必要だけど……」
アーサーにタリアはそう言って、ブリッジのバートに、
「バート、本艦の位置は現在どの辺りになるか」
「はっ。現在、ニューギニア島の東、ソロモン諸島付近になります」
「……それに間違いはないの?」
バートとの通信を切ったタリアは、
「また仕事が増えたわね。……シャア、頼んでいいかしら?」

 
 

※※※※※※

 
 

一人の青年が、軍港に入港する鉄の艦を黙して見上げていた。
オーブ本国、オノゴロ島。
行政府のある本島、ヤラファス島とは大橋と地下トンネルとで繋がれた島であり、
国防本部と国営企業モルゲンレーテ本社、そしてその工廠が存在する『鋼鉄の島』である。
青年はオーブ政界に携わる身であることを示す紫のスーツに身を包み、
短い髪の毛を風に揺らし、戯けた表情を見せていた。しかし、青年の未熟さが、その目に現れていた。
その目は全く笑っていない。彼の眼光は鉄の船の船体についた傷一つ一つに注がれ、
愁いとも取れる感情を目の前の巨体に抱いている。
「カガリを運んできてくれた上、地球を救った船、なんだけどねぇ……」
青年の名は、ユウナ・ロマ・セイラン。
宰相、ウナト・エマ・セイランの嫡子で、若くしてオーブ閣僚を務める男である。
父ウナトを初めとする老人達は、今現在机と膨大な紙の束とにらめっこ中。
救援物資の手配、オーブ国防軍の派遣手続き、自国でまかなえる物資の算出とその報告。
ユウナはそれらを中断できる余裕を無理矢理つくって、首脳陣で唯一向かえにこれたのだ。

 

その結果丸二日寝ていないので、気を抜くと倒れそうであるが…………。

 

「さて、困ったことになった」
この情勢下で、このZAFT戦艦に立ち寄られるというのは、今のオーブからすれば困った事態以外の何物でもない。
(誰だってあんな写真見せられれば、反感の一つや二つ抱くだろうけど……)
つい昨日の事だが、大西洋連邦側から、数枚の画像が送られてきた。
それは、ユウナだけでなくオーブ首脳の全員を動揺させるに足りるものであったのは確かである。
黒と紫のジン。それとユニウスセブンに取り付けられ、赤い光を点滅させ作動しているモーター。
そして、新型と思われるZAFTのMS達と、ナスカ級戦艦の画像。
あんなものを見せられれば、誰もがまずZAFTの犯行を疑うであろう。しかし、
(出来レースにしか見えないね、アレは)
そう思う理由はある。
大西洋連邦があの画像を手に入れたのなら、大西洋連邦の部隊がそこにいたという事。
ならば、その部隊は破砕に参加していてもいかしくはないのに、そのテの報道は一切されていない。
その部隊が隠匿されるような部隊なら納得は行くが…………。
さらに、ZAFT『だけ』という所に、明確な悪意と恐喝がある。
にもかかわらず、老人達はそれを言及すらせず、ホイホイ頭を下げようとしている。
ユウナは拳をグッと握りしめ、奥歯を噛みしめる。
それを否定できるだけの材料がないことも悔しいし、そういう立場にしか立つことの出来ない、
今のこのオーブという国家の現状に、憤りすら覚えた。

 

入港を知らせるアラートが鳴り、ミネルバの船体を固定するアームが伸ばされ、
空気の抜ける音と共に、灰色の巨体はその体を休ませた。
ミネルバから橋がのび、オーブ側の作業員達が簡易タラップを接続する。
ハッチが開かれて、見慣れた金髪の少女と、護衛の少年。
そしてZAFTの人間が三人、ユウナにむかって歩いていく。
ユウナは真っ先に、少女の下へ歩み寄ると、
「お帰りなさい、カガリ。心配してたんだよ? まぁ、いつものことだけども」
「その口が余計なことさえ言わなきゃ、少しは……?
一体どうしたんだ、ユウナ。その隈は……」
「いや何、君が気にするような事じゃないよ」
「ならいいが……。それより、この大事に留守にしてすまなかったな」
君臣というよりも、長年連れ添った間柄のようにも見えて、
シャア、タリア、アーサーらは呆気にとられ、アスランは苦々しい表情を隠さない。

 

カガリは気が付いてないようだが、ユウナに向ける表情は心を許した親友に向けるソレと同じだ。

 

「被害の状況は……?」
カガリの言葉にユウナは先程のヘラヘラしたような顔のまま、カガリに耳打ちした。
「沿岸部の市街地がいくつかやられた。
オノゴロ島と本島には直撃が無かったのは不幸中の幸いだよ。
……詳しいことは行政府で聞いてくれ。ここじゃ話しづらい」
そこまで言うと彼はシャア達に目をやり、それに答えるように、タリアが口を開く。
「ZAFT軍、ミネルバ艦長、タリア・グラディスです。
こちらは、副長のアーサー・トライン。そして……」
「MS隊隊長、シャア・アズナブルであります」
「私はオーブ連合首長国が閣僚、ユウナ・ロマ・セイラン。
代表の帰国に尽力していただいた事、感謝いたします。
……寂しい出迎えで申し訳ない。何せ此度の騒動で皆てんやわんやでしてね」
目の前でそう言って、肩をすくめて良家のバカ息子らしさをアピールするユウナという男。
シャアは彼もまた、政界に入りたての人間なのだと感じた。若者特有の猛々しい気迫、それを隠し通せていない。
「いえ、多忙の中お時間をぬっていたいただけでも。
我々こそ、アスハ代表を巻き込むような形となったことは、大変遺憾に思っております」
「お気遣い痛み入ります。……まぁ、何はともあれ、あなた方とてお疲れでしょう?
この艦……『ミネルバ』でしたっけ。
外装修理の方も、モルゲンレーテのスタッフを呼んでますから、必要なら声をかけてください」
「ですが……」
「それぐらいの事はさせてもらわねば、我らの面目が立ちません」
「そういう……事なら」
デュランダル相手の時然り、今回然り、こんな時の押しに弱いのがタリアの弱点だろう。
シャアはそれが少し残念であったが、無補給のまま二連戦、
しかも岩のシャワーを体験済みというこの艦の損傷を考えると、どうも断り切れないのは彼にもわかる。
ただし、
「しかし、艦内は我々のみで。貴国の人間の立ち入りはご遠慮願いますが……」
「それは当然でしょう。此方としても、貴艦のクルーには市街地以外の立ち入りは認めません。
もし、万が一ソレが破られた場合には……」
ユウナは右手を拳銃に見立て、こめかみにそれを当てると、
人差し指を引くジェスチャーを『わざとらしく』見せた。
「コレ……ですよ?」
「ユウナッ!」
さすがにカガリが彼のその行為を咎め、彼は戯けた表情を崩さない。
「ごめんごめん。……あ、そうだ、カガリ。
父上達からもカガリに報告したいことが山とあるそうだから、
そろそろ君は行政府に行ってもらわないと」
「……わかっている」
彼はカガリの背を押し、近くに待機させていた公用車へと誘った。
彼女の後ろに付き従わんとしたアスランの姿を確認したユウナは、その隣にスッと近づき、
「君もご苦労だったね、アレックス」
「いえ」
それを見たシャアは、
おや? と内心首をかしげる。
ユウナという青年の声には、トゲというか、純粋に怒りに近いものが含まれている。
「報告書は閣議の後で僕の執務室に、……一旦君も休みたまえ」
そう言ったユウナは、シャア達に向き直り、それではこれでと言い残すと、
カガリと共に公用車に乗り込んで、アスランはそれを少し寂しげに見送った。

 
 

「一体何なんです、あの男は!」
アーサーはユウナのあの態度が気に入らないのか、顔を真っ赤にしてタリアに訴える。
彼女も面白くなさそうだ。送り届けた側として、最後の言動はいかがなものかと思っているのだろう。
シャアはと言うと、あのわざとらしく此方を怒らせるような青年の行動に一抹の不安を覚える。
口調ではバカにしているような感じでも、彼からは此方への悪意など微塵も感じず、
むしろ好意すら感じられるのに、何故あんな行動を取ったのだろうか?
これは深読みかも知れないが、彼は、
『オーブ首脳はミネルバに良い感情を抱いていない』
と言いたかったのか? 考えすぎだろうか? それとも……
渦のようにグルグルと頭の中を廻る疑問の答えをくれる人間など、ここにはいなかった。
ふと、シャアはあることを思い出す。この国について、まず第一にやろうと思っていたことを。
「……アス……、アレックス君」
一瞬、アスランと言いかけるも、シャアは公用車をじっと見送る少年の背に声をかけた。
「何です?」
「君に渡すものがあってね。オーブに上陸したら代表に渡そうと思っていたのだが、
……たぶんむこう数日間は無理だろうから、君に預けることにした」
シャアはそう言うと、軍服のポケットからこっそりと、タリア達にばれぬように小さな長方形の物体を取り出す。
幸い、タリアはアーサーと何やら話し込んでおり此方を向いていない。
シャアはそれをそっと、アスランの掌に置き、
「コレは……」

 

アスランの手にあるのは、一個のUSBメモリーであった。

 

「御守りだよ」
「御守り?」
「ああ、君のでもあるし、アスハ代表のでもあるし、
それと、あのセイランという若者のものでもある」
彼の理解し難い物言いに、アスランは怪しみながらもそれをポケットに押し込む。
「部屋に戻ったら解凍してみるといい。その後、それをどうするかは君次第だがね」
「……一応、もらっておきます」
アスランは一礼すると、一人歩いて軍港を後にする。
その後ろ姿は見るには少々忍びなく、シャアはそれを見送った後、タリアらの方を向く。
いつの間にと思えるほどの迅速さで、
モルゲンレーテというオーブ企業の技術員がミネルバの船体周りに集まり、
タリアはそのチーフと思われる女性と話していた。
アナハイムばりの仕事の速さには、正直感心する。
(モルゲンレーテ製のMSも見てみたいものだな)
そう思ったが、その気持ちは胸の深くにしまっておくことにする。
一方アーサーはと言うと、そのチーフのふくよかな胸元に視線が釘付けである。
気持ちはわからないでもないが…………。
シャアは軽くため息をつくと、オーブ市街がある方面の空を眺めて、言った。
「ここに、いつまでいられるかな……」
その不安が的中するだろうなと薄々感じているものの、
艦長等がけっこう乗り気であることが、今の彼を悩ませた。

 
 

※※※※※※

 
 

「……どういう事だ?」
カガリは行政府に着くやいなや閣議へ引っ張り出され、
早々に掲げられた議案に一瞬、言葉を失った。

 

〜大西洋連邦との同盟条約締結

 

カガリの隣席に座ったユウナも、寝耳に水と言わんばかりである。
「この閣議は、被災地救援のため早急に開いたものではなかったか?」
怒気を含ませたカガリの言葉に、老人達を代表するウナトはしれっとした態度で、
「ええ、そうですとも。だからこそ、この条約の締結は避けられないものなのです。。
そして、これは大西洋連邦から発せられたものではありますが、
彼らだけでなく、ユーラシア、東アジアやアフリカなど、地球の国家ほぼ全てが、
この条約に調印する動きを見せております」
もうそこまで話を進めたか……。
二人、特にユウナからすれば、丸二日寝ずにオーブの民衆のために自分が骨を折っている間、
このジジイ共は『こっち』の話を着々と進めていたという事であり、今にもはらわたが煮えくりかえりそうだ。
おそらく彼らはもう連邦との接触をすませ、もうすでに条約締結までカガリの一声あれば可能と言うところまでさしかかっているはずだ。
「無論、約定の中には被災地への救護も盛り込み済みです。
大西洋連邦はこちらへの物資の援助を約束してくれておりまして……」
要するに、向こうがぶら下げたエサに食いついたという訳だ。
カガリは、連合への荷担の正当性を語るウナトに反論しようと立ち上がるが、
彼らの冷静すぎる姿勢にユウナは不安な気持ちになる。
そろそろ来るぞ、と。
カガリの言葉を待たずにウナトは手元のコンソールをいじり、
「宇宙に出ておられた代表にはわからぬかも知れませんが、
地上の被害は想像以上に酷いものです。……ご覧下さい」
パッと画面に映った映像を見たカガリは、絶句し、サーッと青ざめた。
水に飲まれた街に、業火によって焼き払われた山々と森林。
都市の真ん中に、落ちた破片によって地がえぐられつくられたクレーター。
ひっくり返ったタンカーや客船、落下し人々を巻き込んだ旅客機。
「この旅客機は飛行禁止令が発せられる前に飛び立ったもののようです。
太平洋上で進路を変更し、最寄りであった我が国に不時着しようとしたのでしょうが、
間に合わなかったようですな。さらに極めつけは……」
ウナトが次に映し出したのが、あの『ジン』であった。
「メディアの通じる地域の人間は皆、コレを知っております」
ユニウスセブンに取り付けられたモーター、そしてジン達と、ZAFTの新型MS。
「これを……何で。……!?」
カガリはその段階になって、一隻だけ、
こんな映像を世の中に出回らせる理由のある艦がいたことを思い出す。
(ボギーワンか!?)
「この映像については、プラントのデュランダル議長も大筋認めている。
代表もその場にいらっしゃった。そうでしょう?」
「しかし、デュランダル議長も、ミネルバも、
破砕作業に全力を尽くしてくれたのだ! それを、何だと思って……」
「それを……、それを、地球で痛みに耐える何千万という人間に言えますか!」
ウナトがこめかみに筋を浮かべて叫び、カガリはたじろいだ。
「酷い目にあっても、地球は無事だったからいいのですか!
これを見せられて、怒らぬものも、疑わぬものも、一人たりとていはしませんぞ!」
そこまで言い切って、彼は肩で息をしながら、
「幸い、オーブの被害は少ないですけれども、
だからこそ、我らが何をすべきなのか考えたからこその提案であることを、わかって頂きたい」
あまりの剣幕に、少女は何も言うことが出来なくなり、
ユウナも唇を噛みしめて、またも時代に翻弄されるこの国の行く先を案じていた。

 
 

モルゲンレーテの技術員達によって外の外装補修が始まっていることは、
外から聞こえるけたたましい音でわかる。
その音を聞きながら、シンは暗鬱な気分でレクルームのベンチに座っていた。
彼は、握りしめたピンク色の携帯電話を見つめ、
この胸の底から沸き上がる『郷愁』と戦っている。
〜オーブなんて信じない
そう決めて、プラントに行き軍人となり、二年間を訓練につぎ込んでも、
やはりここは自分の故郷なのだと思い知らされる。
シンはプラントという第二の故郷も勿論好きである。しかし、
(やっぱり俺、オーブの人間だったんだよな)
そうおもいながら、ふと、先程自分の胸を濡らした少女の涙を思い出す。
「ルナの奴、なんであんなに泣いて……『叔父』って言ったっけ」
このことは、誰にも、勿論レイにもあかしていない。
あの場所は尋問用の部屋の近くだった。
それに、今ミネルバが捕らえている人間と言えば、一人だけ。
正直言って、ショックだった。だが一番落ち込んでいるのは、ルナマリア本人であろう。
そう思うと、シンもどう彼女に言えばいいかわからず、悶々とした気分になる。
そんな時、レクルームのドアが開き、一人の人物が入ってきた。シャアだ。
「シン、探したぞ」
「どうしたんですか、隊長」
「ルナマリアの事だ」
「…………」
シャアの一言にシンは黙り込む。
彼女は今、自室に引きこもってふさぎ込んでおり、メイリンですら声をかけづらい状態なのだ。
「上陸許可がでたのは知っているだろう?
……シン。お前が彼女を外に連れ出してやれ」
「何で俺が……」
「ここは君の故郷だろう? 彼女はこの土地を知らない」
「……隊長だって知ってるでしょ、俺の事」
つい先日、ミネルバの中でオーブの元首の前で己の経緯を暴露した話は艦内に響き渡っており、
シャアがその事を知らぬはずがないのだが、
「ああ、知っている。だからこそ君でなければならん」
彼はそう言った。この人は一体どういうつもりなのだろう?
しかし、ルナマリアのあの姿を思い返すと、あんな思いをしたからこそリラックスは必要なのだとも思う。
シンは、立ち上がってシャアに了承を告げると、足早にレクルームを後にして、ルナマリアの部屋に向かった。
(俺でなきゃダメ? 何でさ)
シンは隊長の言葉の意味を考えながら、部屋にたどり着く。
部屋の前にはメイリンが立ちつくしており、シンの姿を見ると、
「シン……」
「わかってる」
シンは部屋のブザーを鳴らし、
「ルナ? シンだけど……」
返事はない。彼は一度大きく呼吸すると、
「……入るよ」
プシュッという音と共にドアが開き、真っ暗になっている部屋が露わになる。
シンはゆっくりと、しかし大きく部屋に踏み込むと、ベッドに大きく山を造っているルナマリアを見つけた。
彼女は頭からシーツを被っており、
「ルナ……」
「シン? 一体何の用?」
その口調は重い。シンはベッドの横まで行くとしゃがみ、彼女の肩の当たりにポンッと手を置いた。
「上陸許可がでたって。俺も外に出るけど、ルナマリアはどうする」
「行かない。今はベッドから出たくないわ」
あのことを思えばそうだろう。だがそれは口に出さず、
「……だけど、ここでこうして落ち込んでたって、何も良い事なんて無いだろ?」
ルナマリアはモゾモゾとシーツの中から顔を覗かせ、
「シンはどうなのよ。……ここで、あんたの家族も」
一瞬シンは言葉を詰まらせる。そう。この島で自分の家族は死んだ。上陸することに抵抗だって覚える。
しかしこうしていると、チクチクと針でつつかれているような苦痛を伴うのだ。
少しだけ、隊長がなんで自分にも上陸しろと言ったのか、わかったような気がした。
「俺も、少し気が乗らないとこもあるよ。
けど、なんかこう、何もすることもなく後悔しちゃったら、いやだろ?」
スルスルと、よくもまあ言葉が出てくるものだと、自分自身驚いているが、
シンはそれは顔に出さず、スッとルナマリアの前に手をさしのべた。
「……行こう」
「…………ウン」
ルナマリアは弱々しくも頷き、シーツの間から手を差し出してシンの手を掴む。
起きあがる彼女の体を支えて、シンは、
「じゃあ、外で待ってるから」
そう言い残して部屋を後にする。しかし、シンもメイリンも気が付いていなかった。
ルナマリアの瞳の中に『依存』の感情が一瞬だけ、その片鱗をのぞかせていたことに。

 
 

一方シャアはと言うと、レクルームから反転して、自分の部屋に戻っていた。
上陸許可には甘えさせてもらう事にするが、シンとルナマリアは大丈夫かと心配になる。
こう思うこと自体、彼には珍しいことで、
きっとナナイやギュネイ、アムロが見たら逆にシャア自身を心配するだろうが、
今彼はそれに気が付いていない。
彼はアーモリーワンで購入していたオリーブ色のスラックスに白のカッターシャツ。
そして茶色のネクタイを締め、部屋を出る。
「……隊長」
そしてシンとルナマリアの様子を確かめようとシンの部屋に足を向けたとき、
自分を呼ぶ声に気づき振り返った。
「レイか、どうかしたのか?」
レイが、シャアに声をかけたのだ。その後ろには、アーサーもいる。
二人とも外出の準備がすんでおり、二人で出かけるつもりだったのだが、
シャアを見かけたので声をかけたのだという。
レイによれば、シンはルナマリアの手を引いて海岸沿いを歩いていったそうだ。
海からの風を浴びながら話をするのだろうか?
「しかし、お前達は何処へ行くつもりなのだ?」
二人の手には、何やら大きなカバンが握られており、
これから大量のものを買い込みますとそれが主張している。

 

「「……聖地巡礼です!」」

 
 

※※※※※※

 
 

「アレックス・ディノ、入ります」
「ああ、入ってくれ」
アスラン・ザラは、コンコンと目の前の戸を叩き、
部屋の主がそれに答え、彼はドアノブをまわして部屋に入る。
閣議が一度間をおくことになって中断された後も、
カガリはウナト達や官僚達から解放されておらず、会うことはかなわなかった。
今彼が会いに来たのは、ユウナである。
アスランは、ユウナの部屋に入ったのは初めてであり、その光景に驚いた。
彼は、きっとユウナのことだから豪奢ないいとこの息子らしい部屋にしているものと思っていた。
しかし、それは大きく、良い意味で裏切られたと言ってよかった。
部屋の壁は書棚で占められ、なるべく太陽光を多く取り込むよう設計された窓の配置。
冷蔵庫と小さな食器棚があり、簡易ベッドも設置されていた。何日か泊まり込みになってもいいように置いたのだろう。
見栄もあるのか置物は鎧兜と豪華であるが、それは部屋の端に置かれ、それしか豪奢のものはない。
ユウナ本人は、部屋の中央部に置かれた事務用の机の上につまれた書類と向き合っている最中だった。
「……また一からやり直しだよ。大西洋連邦と手を組むことになってね」
山となっている書類を眺めているアスランに答えるように、ユウナは言った。
その言葉に力が無く、いつもの戯けたしぐさすら見せる余裕を無くしているようだった。
それに、彼は何と言った?
「大西洋連邦と手を組む!?」
「ん? ああ、表向きは被災地の救護援助の条約と謳ってはいるけど、
実質同盟以外の何物でもないよ、アレは」
ユウナは先程の閣議の様子を語り、
「まぁ、情勢がそう動いている以上こうなるのも見えてたけどね。
オーブだって軽微とはいえ、被害は被っているわけだし。……予想以上に父上の動きが速かった」
そこまで言うとユウナは大きくため息をつき立ち上がる。
「君は何か飲むかな……、ウイスキーは飲める? 安物だけど……」
ユウナは備え付けの冷蔵庫から『アーリータイムズ・イエローラベル』を取り出すと、
ひらひらとかざして言う。
「ええ、まぁ。しかし、今は仕事中では……」
「いいのいいの。……飲まなきゃどうもね」
彼はタンブラーグラスを棚から取り出してロックアイスを入れ、ウイスキーを注ぎ、
炭酸水の小さなボトルと一緒に机の前に置いてあるテーブルに置く。
ソファに座り、アスランに向かいに座るよう言い、アスランもそれに甘え、
「失礼」
アスランも前に置かれたグラスを手に取ると、クッと一口飲み、
それを見てユウナは、少し間をおいて切り出した。
「ただ報告しに来た訳じゃないんだろ?」
「……はい」
ヘラヘラした顔だが、アスランにもわかるほどその目は険しく、冷や汗が背を伝うのを感じる。
グッと腹に力を込めたアスランに、
「大丈夫、君が入ってくる前にここの回線は全部切ってある」
「ならば……」
アスランはグラスを机に置くと、ズボンのポケットからある物を取り出した。

 

シャアから手渡された、あのUSBメモリーであった。

 

「これを、貴方に」
「ただのUSBにしか見えないけど、これがどうかしたわけ?」
「中身をご覧いただければわかるかと」
アスランの言葉は真剣そのもので、ユウナもその雰囲気に押され、
わかったと答えると、それを事務用机のPCに差し込み起動させて、
「これは……『ユニウスセブン』!? これ、どこから……!?」
動画が、PCの画面にデカデカと映し出され、その中の物体が、
あのユニウスセブンであることがわかると、ユウナは食い入るように見つめ、
これが機体のカメラで撮られた戦闘記録であることを察した。
ゆっくりと降下していくユニウスセブンにメテオブレイカーを設置するゲイツやザク。
それを妨害し、同胞を屠っていくテロリストのジン。
その双方に攻撃をくわえる……、
「……『ウィンダム』か」
GAT-04・ウィンダム。
ユニウスセブン落下事件の数週間ほど前に、
地球連合の会議で新たにロールアウトされたことが発表された、『連合製』の新型MSである。
それは、数機のGタイプと共にメテオブレイカーすら破壊しており、どう見ても破砕を妨害しているようにしか見えない。
「これを僕に見せて、君は何が言いたかったんだ?
……閣議でこれを出して同盟をおじゃんにしろと?」
「そういうつもりでは……。
ただ、軍事的な介入だけは何としても避けて頂きたいと」
「まったく、君という人間は……」
そう言いながらユウナは懐に手を伸ばし、
「……何でヒトという生き物をそう簡単に信用するんだ?」
「……な!?」
ユウナはアスランに拳銃を向けていた。アスランは青ざめて立ち上がり、
その様子を見たユウナはクックッと笑うと、
「悪かったね、冗談だよ」
「……悪ふざけは止めてくれませんか!」
「……まじめだねぇ、君は。ま、君のそういうところは好きだけどね」
彼は机の左上の引き出しから一枚の紙切れを取り出すと、
またソファに向かい、それをテーブルに置きながら座った。
一枚のチケットであった。
「……プラント行きのチケット?」
「うん、これが多分最後の便になると思う。
……率直に言おう。君にはプラントに行って欲しい」
「…………」
ユウナの発言にアスランは唖然となって、
「これからオーブはどんどん悪い波の中に飲まれる事になる。
君は、『アレックス』の身で、その後のカガリを守りきる自身はある?」
それは正直に言うと、今のアスランにはなかった。
アーモリーワンでも危険にさらしたし、デブリでの戦闘に出張ったときもそう。
カガリを己一つの身で守ったのかと聞かれると、胸を張って「Yes」とは言えない。
「俺は……」
「自身のない言葉は聞きたくないよ、僕は。
だから、君は『アスラン』になってくれ」
いつしか、ユウナの顔はいつものヘラヘラした顔ではなくなっていた。
「言うのが遅いけど、さっきのアレはありがたく預からせてもらうよ。
提供してくれた人にも礼をいいたいけど、恩を仇で返すことになりそうだ」
アスランは黙って、ユウナの目を見返し、
「私にはZAFTとオーブの橋渡しを?」
「そうとも言えるけど、君に『アスラン』に戻って欲しいっていうのは、カガリのためだ」
「カガリの……?」
「そう、『アレックス・ディノ』には出来なくても、『アスラン・ザラ』に出来ること。
多分、君も大凡察しはついてるはずだ。僕は閣僚として、『中』からオーブを守る。
君にはアスラン・ザラとして『外』からオーブを守れるようになって欲しい。
オーブを守ること、それはそのままカガリを守ることに繋がる。そう思わないか?」
「……」
アスランは考えるように俯き、
「頼む、アスラン。
…………同じ女性を、カガリを愛する男として、どうか、僕の願いを聞いてくれ」
ユウナは出会って初めて、アスランに頭を下げた。アスランは、胸中でユウナに対する対抗心や嫉妬が熔けていくのを感じた。
目の前の、ついさっきまで嫉妬の対象ですらあった青年の言葉に嘘など微塵もなく、
心底カガリとオーブのことを考えての発言だということもハッキリと感じられる。
もし、これが演技だとすれば、ユウナは稀代の役者であろう。
「……わかりました」
アスランは静かにそう告げると、グラスを手にとって、スッとユウナに差し出す。
ユウナは前までのにやけた笑いでなく、心の底から安堵した表情を浮かべて、
グラスをアスランのそれと打ち付けた。

 
 

チンッ……と、部屋に響く小さな音が、とても長く大きな音に、二人は聞こえた。

 
 

※※※※※※

 
 

「お帰りなさいませ、ご主人様!」

 

「何なのだ、ここは?」
オノゴロ島の、ネオ・アキハバラ。
とある趣味の人しか来ることのない、特殊な街。
その数多ある喫茶店の一つで、シャアは目を点にして、
目の前でキャイキャイ動き回る少女達を見ていた。
レイとアーサーに手を引かれ、
ああだこうだと言っている内に連れ込まれてしまったのである。
正直言って、何でこんな喫茶店が存在するのか、何故このような喫茶店に需要があるのか、
シャアには皆目見当も付かなかった。
生まれて初めて、全く理解すら出来ない事象に出会ったような気すらする。
「……板についてますよ、隊長。慣れているんですか?」
レイは傅かれることに慣れすらあるシャアの態度に何故か感心しており、
当然だと言いかけたシャアは言葉を濁らせる。
U.C.では、こうして傅く仕事をする人間が周りにいるのが普通だった頃もあるのだ。

 

アーサーはと言うと、「萌え〜!」などと意味不明な単語を口走っている。

 

「誰か助けてくれ…………」
シャアのつぶやきは、むなしくこの異常な空間の中に呑み込まれていった。

 
 
 

第8話〜完〜

 
 

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