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CCA-seed_787◆7fKQwZckPA氏_09

Last-modified: 2010-11-11 (木) 13:54:13

「ロンドン、リヴァプール、マンチェスター、フィラデルフィア、ヒューストン、サンディエゴ。
バンクーバーにエドモントン、そしてモントリオール。
大西洋連邦だけでもこれだけの都市が被害に遭っているのです。
にもかかわらず、何故あなたはその腰を上げようとせんのだね」
地下に巨大シェルターを構えた、やたらと豪奢な邸宅の自室で、ロード・ジブリールは、
画面の向こうの顔に向かって厳かに、かつ冷徹に言い放つ。一方向こうの男は額に汗をかき、
「しかし、我らとてすぐには動けんのだ、ジブリール。
プラントは未だに協議をしたいと手を打ってきておるし、国内にも対話を望む声が挙がっておる。
第一、この同盟に乗り気でない国が相当あるのだぞ」
苦しげに言葉を発するのは、大西洋連邦大統領、ジョセフ・コープランド。
本来はプラントに好意的な政策を採っていた人物なのだが、
ロード・ジブリールを初めとする『連中』には大きな顔を出来ない人物でもあった。
「それは被害もろくに受けていない国の事でしょう?
それにそんないざこざなど、宇宙のアレさえ消し去れば全て収まりますよ」
コープランドがぐっと黙り込むのを尻目にジブリールはさらに、
「奴らが滅びた後、一体何処の誰が我々に逆らえるというのです?
あなた方大西洋? ユーラシア? 東アジア? ……なるほど、オーブですか?」
「あの国は……」
ソロモン諸島の島々のみという狭い国土と少ない人口、その変わり絶大な技術力を誇る小国、オーブ。
前大戦時、大西洋連邦はその手の銃を持ってその国土を蹂躙したことがある。
しかし、被った被害も相当なもので、攻め入るのには抵抗のある国なのだ。
「……貴方の国なら干上がらせるのも簡単でしょ、あんな豆粒のような国など」
「簡単に言ってくれる……」
そう言って苦い顔をするコープランドをよそに、
ジブリールは侍従にワインを用意させ、適度に溶かしたチーズを口に含み、一休止おいてからまた口を開く。
「世界は言ってみれば、一つの時計です。荘厳ながらも繊細で、細やかな整備が必要な大きな時計。
時が経てば錆び付き動かなくなるし、歯車が一つ狂うだけで全体が狂い、かみ合わねば動くことすらない。
……大統領。これは『手入れ』なのですよ」
グラスに注いだシャトー・ラトゥールを揺らし、窓から差す光越しにその色を楽しむジブリールの言葉を、
コープランドは黙ったまま聞き入っている。
「歯車の間を掃除して、ゴミは排除して、いびつな歯車は入れ替える。
そうすることで、時計はまた綺麗に回り出す。
それは人々の生活の時間を緩やかにして、また穏やかな日々が訪れるのです。
だからこその開戦、だからこその『核』。……今使わずして、大掃除は出来ませんよ」
喜々として自らの頭脳を廻る構想を語るジブリールにコープランドは内心寒気を覚えるが、何も言い返すことが出来なかった。
そのうち会話は終わり、画面が黒く染まった後に、ジブリールは先程の嬉しそうな顔のまま、
手元のコンソールをいじって、画面に様々な図面を写しだした。
砂に覆われた、『ダガー』に似つつもより高性能・大型の機体。月で極秘裏に発掘が進められている月面都市。
「これをもってすれば、あの『宇宙〈そら〉の化け物』を駆逐できる。
そして、私に逆らえる者も、私を馬鹿にする者もいなくなる……」
不気味に笑うジブリールを咎める者など、この屋敷にはおらず、
ただただ彼はその狂気の思考をばらまくことを考えていた。

 
 
 

機動戦士ガンダムSEED DESTINY IF
〜Revival of Red Comet〜
第9話

 
 
 

〜宇宙・L5宙域にて

 

これほどの艦隊が首をそろえて敵を待ち受けるという光景は、前大戦以来の壮観な眺めであり、
新兵や先輩達の士気を鼓舞するのにはそれだけで十分であった。
ハイネ・ヴェステンフルス率いるオレンジショルダー隊は、ジュール隊の面々と共に、
巨大宇宙空母『ゴンドワナ』の中で待機し、鋭気を養っている。
最早宇宙港と言った方が良いほどの広さを持った格納庫の中は、まるで火がついたような喧噪に包まれていた。
整備するMSの多さにパニック状態となる新米整備士や、そんな後輩を叱責する先輩。
中には、機体のそばでガッチガチに緊張しているパイロットの姿もあった。
実戦を始めて経験する新兵までもが数多く駆り出されており、それが現在のZAFTの台所事情を切実に現している。
そんな様子を見ているハイネはというと、格納庫を一望できる控え室のソファに腰かけていた。
彼のザクファントムは戦闘前の最終チェックがもうじき済む頃で、
オレンジの機体の足下でも、整備士がチョロチョロと動き回っていた。
彼は、そんな彼らの様子を見ながら、あの『赤いザク』の動きを頭に思い浮かべる。
「シャア・アズナブル……か」
変な男だと、最初は思った。記憶を失ったわけでもないのに、訳のわからぬ言動を並べる男だったと。
だが、その認識は即座に覆された。それは、あの『謎の機体達』を見て確信したことである。
この間ある場所にその機体を運び込んだ後、機体の判明している部分だけだが、ちょこっと見させてもらった。
ちなみに、コクピットブロックの砂の除去はこの間ようやく終了したところである。
各所の砂が固まっていて、修復作業は予想以上に困難を窮めている。
ハイネが見たものは、どれもこれもが新世界であった。何もかもが、自分の知りうる常識、技術、知識を上回っていた。
圧倒的なパワーと機動性。製造方法すらわからぬ装甲版や、常識はずれの動きを見せる、戦闘記録の中のMS達。

 

『ジェガン』、『ギラ・ドーガ』…………そして、νガンダム。

 

あの白い姿が目に入ったとき感じた恐怖は、今後忘れることはないだろう。
また、その化け物のような白い奴と渡り合う『シャア』という男。
あの男は、この世界の最新鋭機であるザクファントムも、悠々と扱って見せた。

 

〜美しい

 

ハイネは生まれて初めて、他人の操縦を美しいと感じた。しかし、それと同時に心に生まれた、モヤモヤとした感情。
「二十も過ぎたってのに、……俺って奴ぁ」
向こうは実質十何年もMSに乗り続けている大ベテランだとしても、
軍人として生きた自分、そして何より一人の男としての自分が、あの男に対抗心を燃やしている。
それに気づいたのである。

 

自分がコーディネイターで、あの男がナチュラルだから?

 

違う。そんなちっぽけな理由ではなく、黒い感情でもない。なんと言えばよいのかわからないが、気分が高揚し、
『自分もあの男のようになりたい』と、まるで少年の頃描いていた夢を見るような感じ。
子供っぽくても良い。あの男の後を追って、あのように綺麗にMSを動かしたい。もっと、よりあの男の近くに立ちたい。
「…………!?」
物思いにふける彼の思考を中断したのは、艦内に鳴り響く警報の音であった。
それを聞いた彼は跳ね起き、即座に格納庫へと向かう。
予想以上に早い。時間で言えば、他の部屋のTVでちょうど大西洋連邦の宣戦布告が行われているはずだ。
(宣戦布告の数秒後に攻撃開始だぁ? 向こうも焦ってんのか?)
道中合流したイザークらとは無言の会釈を交わし、ロッカールームでパイロットスーツを着込み、ブレイズウィザードを装備したザクに滑り込む。
ゴォン…と、いつもよりも重量感のある音と共に、ゴンドワナのカタパルトが開き、
虚空の彼方に浮かぶ月と、その手前に居並ぶ艦隊が、彼の目に映る。
「こちらハイネ・ヴェステンフルス。ザク、出るぞ!」
ゴンドワナのブリッジ管制にそう言い、グッと体に掛かるGを抜けると、オレンジのザクは宇宙空間に射出された。
それに追従するように、オレンジショルダー隊が次々と出撃し、
別のカタパルトからは、白いザクファントムが発進。方向を目の前の地球軍艦隊に向けた。
「第一派が来るぞ! 全員、安全装置を解除しろ!」
ハイネは部隊の者に叫び、彼のザクを中心に偃月の陣形を取って上方へと回避する。
その数秒後に、彼らの足下を戦艦から放たれたビームがかすめ、
彼らに向かって連合の量産MS『ダガーL』がライフルを放ちながら向かってくる。
所々でライフルやバズーカの弾丸が宙を切り、機体を貫き、微塵に砕く。
ハイネは自らに向けられるその弾丸の間をかいくぐり、迫るダガーの胴をライフルで撃ち貫き、
その勢いのまま、後方に陣取っていたネルソン級の頭上に回り込む。
彼のザクはブリッジの上部に取り付き、ライフルの他に携行していた500丱丱此璽を押しつけ、引き金を引いた。
弾頭はブリッジを貫通、中央部で爆発し、それに伴い戦艦の各所で爆発が起こり始め、
ハイネは戦艦の船体を蹴りつけ、その爆風を利用して加速し、近くにいたドレイク級の横に張り付いた。
ドレイク級の機関部に当たる箇所に何発も、ビームがそこに到達するまで打ち込み、また蹴りつける。
「……二つ!」
彼がザクの顔を向けた先には、背中にキャノンを背負ったダガーが十数機展開していた。
支援砲撃部隊であろう、ここで潰しておかねば味方戦艦の被る被害はいかばかりか知れない。
「俺の後ろに付け、バラバラになるなよ」
ハイネは部隊に叱咤すると同時に、腰のグレネードを一つ手に取り、ダガー部隊のほぼ中央部に向かって投げつける。
まっすぐ飛んでいったグレネードに反応した敵は総じてそのグレネードを意識し、
「今だ、撃て!」
ハイネの言葉と同時に部隊のガナーザクが一斉に高出力ビーム砲をダガーに向けて放った。
数機がそれに対応できずに呑み込まれ、もう何機かが腕や足をもっていかれる。
幸いとハイネは攻撃をくわえようとするが、突如、ゴンドワナの管制から緊急通信が入り、
その内容は彼を驚愕させ、全身の血の気を奪った。

 

《極軌道から連合の核攻撃部隊が接近中。至急迎撃されたし》

 

「此奴等は全部囮か!? ここからで間に合うのか……? くそっ!」
副官に、この空域は任せると告げると、ハイネは方向転換し、全速力で指定された座標の地点へと向かう。
残りの推進剤の事など頭から消えて、彼はペダルを思いっきり踏み込んでいた。
「……間に合え、間に合え、間に合えぇぇ!」
彼の叫びは各攻撃隊の存在を知ったZAFT軍人全ての声であった。
彼のみならず、イザークを始め、各所のZAFTの機体が攻撃隊の方向へ向かっている。
しかし、全員の心の内、半分が絶望で染まっていた。距離が遠すぎる。

 

また、不可解な現象が彼らを襲った。

 

「……何だ!? レーダーが!」
ザクの索敵機能が突如死んだのである。
レーダーは砂嵐に包まれ、迎撃するためのロックすら働かない。
「管制室! これはどういう事だ……? 応答しろ! ……くそ、通信もイカレてやがる。どうなってんだ!?」
どうやら彼だけではないらしい。彼の後ろにいたザクやゲイツ、ジン達も同じようにオロオロし始め、
先に見える核攻撃隊の動きも止まった。
そして…………ゴウッという轟音と共に、ハイネの視界を閃光が覆った。
「何だ……!?」
核攻撃が成功したのかと一瞬思ったが、この目がおかしくなってなければ、彼らはまだ核ミサイルを発射してはいないはずだった。
照射されたのは、強烈な威力のビームの雨。何物かの発射したそれが、核攻撃隊を襲ったのである。
しかし、ビームの直径やその弾幕、瞬時に大量のMS群をなぎ払うあの威力は、MSにも、MAにも、出すことは出来ない。
新鋭戦艦に搭載される艦首砲クラスでやっとと言えようが、
それを搭載した『ミネルバ』は地球のどこかだ。それに、あのビームの本数は戦艦一機では足りない。
「一体誰が…………あれは!?」
ハイネはレーダーを頼らず、己の目のみでビームが飛んできた宙域に目をこらす。
すると、闇の奥に一つだけ、緑の点があることに気が付いた。よくよく見てみれば、その胴体と手足、そして頭部。
人間をイメージしたその機動兵器は、MSと呼称されるもの以外の何物でもない。
どこのMSなのかは見当も付かないが、少なくともZAFTのものではなかった。
MSの常識から逸脱したその巨躯。
人一倍目を引く両肩のバインダー。
胸に存在する砲門らしき装置。
「何なんだよ、ありゃあ……」
ハイネは、ただ呆然と、怪物のようなMSが生き残った地球軍に襲いかかっていくのを見ることしか出来なかった。

 
 

※※※※※※

 
 

大西洋連邦所属の宇宙空母、アガメムノン級『ネタニヤフ』のブリッジは、
まさに地獄のふたを開けたような騒ぎとなっていた。
半ば成功を確信していた作戦だっただけにクルーの動揺は激しく、
「……静まれ! 被害状況はどうなっておるか!」
「わ、わかりません! 先程から索敵も通信も全て反応がありません!」
「そんな馬鹿なことがあるか! やり直せ!」
謎のジャミングにより通信は阻害され、すぐ近くの戦艦とですら通信が開かない。
レーダーは全く反応せず、先程MS部隊を襲ったビームの発生元が何なのかすら判別不可能だ。
こんな強力なジャミング兵器など聞いたことがない。しかしこの状況下におかれれば、あるのだとしか考えられない。
ネタニヤフ内に待機していたウィンダムと予備機のダガー達は、
その殆どがエールかランチャーを装備して外部の警戒に当たっていた。
「……ん? 何だ?」
その中の一機が、慌てたようにネタニヤフのブリッジに手をかけた。
いわゆる『お肌の触れあい会話』である。ごく普通の通信が可能な状況下では全く使うことのない通信方法だ。
「艦長! 早く迎撃体勢に入ってくれ!」
半ばパニックになっているパイロットに艦長は落ち着くよう諭すと、ブリッジの窓から周りを見渡してみる。
すると、周囲のMS達が総じて頭上を向いてライフルを乱射していた。それも、同一の方向の『何か』に向かって。
「一体何が……」
艦長が口に出しかけたその言葉は、最後まで紡がれることはなかった。
ブリッジは上方から注がれたビームによって焼かれ、艦長の肉体は蒸発し、ネタニヤフは火球に包まれる。
近くにいたウィンダムやダガーがその『何か』に攻撃しようとライフルを構えるが、
構えたと思った瞬間、思わぬ方向から撃ち貫かれ爆散する。

 

オールレンジ攻撃。

 

それだと気づいた者も存在したが、如何せん数が多すぎた。小さな漏斗のような物体に気づいたときは時すでに遅く、
パイロットはビームに焼かれ、周りのMS達はもはや自分のみを守るので精一杯になっていた。
怪物は、肩のバインダーらしき箇所からサーベルを引き抜くと、その巨躯に似合わぬ早さで一機のウィンダムに迫り、サーベルを横に払う。ウィンダムはシールドでサーベルを受け止めようとしたが、無駄だった。
シールドはサーベルに触れるやいなや、みるみるうちに融解し、サーベルはまるで紙を裂くかのように機体を両断する。
そこから先は、その怪物による殺戮ゲームでしかなかった。
数十もの『漏斗』によって機体を貫かれるもの。
そのサーベルに真っ二つにされるもの。
胸の砲門から放たれる光の雨に呑み込まれるもの。
「来るな、来るな、来るな、来るな、来るなぁ!」
最早最後の一機となったランチャー装備のダガーを駆るパイロットは、
泣き叫びながら、自分に迫ってくる緑の怪物に、何発も何発もアグニのビームを浴びせかける。
しかし、圧倒的な高機動でビームは宙を切り、怪物はスルリとダガーの目前で、威圧するように制止する。
怪物の後ろに漂う、MSだったものや、戦艦だったものが、この怪物がどれほど恐ろしい存在かを物語っている。

 

まるで、ジュデッカから抜け出でた魔王のようにも見え、パイロットはその身をすくませる。

 

「……ひっ」
再びアグニを怪物に向けて、最後の一発、残りのエネルギーを使った一撃をみまうが、
それもただの悪あがきでしかなかった。
アグニの高出力ビームは、怪物の装甲に焦げ目を付ける事しか出来ず、
それを見たパイロットは絶望感に包まれ、何も言えなくなった。
バッテリーの切れる音と共に、機体全体の力が抜け、ダガーはぐったりとなる。
怪物は、その両手をひろげ、何をする気なのかダガーをガシッと抱いた。
パイロットは察した。この怪物が自分に何をする気なのか……。
「お、おい…………、冗談だろ?」
ミシミシミシミシミシ……と、辺りから聞こえてくる音。
「……た、助けてくれ!」
「何で? 僕はただ『君らを消せ』って言われただけだ」
「子供の……声?」
それが、パイロットの最後の言葉であった。
ダガーの胴体はひしゃげ、コクピットが押しつぶされ、パイロットは金属と金属に挟まれ、断末魔の叫びと共に事切れた。

 
 

※※※※※※

 
 

「核攻撃隊……壊滅……」
「す、すごい……」
モニター越しに戦況を見ていたプラント最高評議会議長執務室の面々は、
誰もが茫然自失して立ちつくしていた。ほっと息をつく者も、肩の力を抜く者も一人としていない。
ただただ、先程の悪魔の輪舞曲に圧倒され、度肝を抜かれていた。
「あれは一体何処のMSだ?」
「ああ、あの機体がいなければ今頃は……」
恐ろしさを感じつつも、そう言い放つ議員達を、デュランダルは苦い顔で見つめる。
もしもという時のために、ニュートロンスタンピーダーを用意してはいたものの、
これは運用性に難がある装置であり、新たに用意するにはためらわれる値段でもある。
使わなくて済んだのは大きいが、この者達はそれを招いた者が部外者であることを念頭に置いていないのだろうか?
まだザワザワとしている執務室の議員や軍部の人間達を見回して、彼はボソリと呟く。
「……これは国民達も、地球の連中も黙ってはいまい。困ったことになった」
状況は大局的に見れば悪化したと言って良いかも知れない。
核攻撃を行われたという事実は、プラント本国の開戦気運を上昇させるだろうし、
今回出現したアンノウンが、ZAFTの新型であると地球軍が誤認した可能性も高い。
「彼なら、知っているのかな? アレを……」
シャアの顔が脳裏に浮かび、同時に、消え去ったあの小惑星の名が頭をよぎる。
まさかとは思うが、『彼女』が関与している可能性はないだろうか?
あり得なくはないと思う。彼はため息をつくが、周りの人間からはそれが一時の安堵を示すものだと疑わない。
「これで終わるわけがない、か」
デュランダルは天井を仰ぎ、これから先に待っているであろう混乱が、
どれほどのものになるか暗鬱な表情で考えていた。

 
 

アスラン・ザラは、プラント本国アプリリウス市内に立つ行政府ビル前に降り立った。
送ってくれたタクシーの運転手に手を振り、そびえ立つビルを見上げて、自分に活を入れるためか頬をパンパンと叩く。
ブリーフケースを一旦地に下ろし、ポケットの中から小箱を取りだして、中にある物に目をやる。
シンプルな装飾の施された、小さな指輪が入っていた。
カガリに渡そうと思って購入していた物だったのだが、渡すのをためらい、機会を逃したのだ。
ユウナの言によれば、カガリは見送ると言って聞かなかったらしいが、
ウナト達の拘束は思いの外長く来ることが出来なかったらしい。
ユウナに指輪をカガリに渡してくれと頼むのは……人としてどうか思ったのでやめた。
彼に失礼極まりないし、第一そう言う渡し方はカガリは嫌うだろう。
だから、自分がプラントに行ったということだけを、彼女に伝えてくれと言い残してきた。
彼とてオーブ男児だ、抜け駆けという真似はすまい。
そして時間は過ぎて、何度目になるかわからないが、アスランは腕時計に目を落としため息をつく。
宇宙港は閉鎖、戒厳令が敷かれ報道にも規制が掛かっており、戦闘状態に入っていたという大まかな見当しか付かない。
案内されて通された客間の一室はどうにも窮屈に感じられて、思わず彼は外の空気を吸おうと部屋を出る。
廊下に出た後、その階の広間でなにか口にしようと思い、廊下の角を曲がったところだった。
「おや? 君は……」
面談を申し入れていた相手であるデュランダル本人が、ヌッと視界に現れ、
アスランは驚きのあまり全身の毛が逆立った。
「……ああ、そうだった。待たせてすまなかったね」
「あ、いえ。問題ありません」
デュランダルはちょうど後処理の仕事に一区切りがついたらしく、
面談の時間も十分取れるとアスランに告げると、執務室まで付いてくるよう言って踵を返す。
アスランはこの場は素直に彼の言にしたがった。

 

『繰り返しお伝えいたします。本日早朝、大西洋連邦を初めとした地球連合は、
我々プラントに対して宣戦を布告。戦闘開始から約一時間後に、
核ミサイルによる攻撃を行なわんと極軌道からプラントへ迫りました。
……しかしこれらは全て撃墜され、地球軍は月へ撤退を開始。
戦闘は一時的に停止しておりますが、両軍とも緊張した空気は変わっておりません』
画面に映るのは、プラントに迫らんとした地球軍のMS部隊。そして、それをなぎ払う閃光。
ニュースキャスターはこのビームがZAFT軍最終防衛ラインの部隊が放ったものと報道している。
「やはり、こうなりましたか」
「ああ、私とて未だに信じられんよ。二年も経ったというのに、また開戦などとは」
デュランダルはため息をついてソファに腰かけ、アスランは向き合うようにもう片方のソファに座る。
「これで、このプラントも後には引けぬ場に立たされてしまったよ。
国民の開戦気運は鰻登りと言っていい」
それは当然だろう、とアスランは思う。
しかし、この核を撃たれたプラント国民の怒りは、ユニウスセブン落下の被害に喘ぐ地球の民衆の声と同じだ。
どちらも、『何故? 誰がこんなことを?』と、口をそろえて唱えているだろう。
「議長は……」
「……ん?」
「議長は、これからどうなさるおつもりなのです?
やはり、地球側と……」
アスランの言葉にデュランダルは顔を濁らせ、
「我々がこれに何をもって返すのか……。それは確かに問題だよ。
地球への支援と言っても向こうが承知せぬだろうし、最早そのようなことを言っている状況ではない。
わかっているさ、私も。このまま暴力に暴力で応じれば、再び二年前と同じ轍を踏むことくらい」
デュランダルもアスランも、お互いの目から視線を話さずに言葉を交わす。
「アレックス君……」
「『アスラン・ザラ』です、デュランダル議長」
「……!? ほぅ」
デュランダルが何か言わんとしたのを一旦押しとどめ、彼は何か意外そうな顔をした。
「何があったのだね、君に。
……ユニウスセブンのテロリスト達の話は聞いたよ。シャアからね。
君はむしろその名前を避けるだろうと思っていたんだが」
「最初は、あの父と同じこの名を名乗るのには抵抗がありましたよ。
でも、こんな俺でも頼ってくれる人が、思わぬ所にいて……」
「その人の為に『ザラ』を再び名乗る気になった、と?」
「ええ」
アスランはいま地表で紙の束と格闘しているであろう男の事を思い、頬をフッとゆるませる。
「……良い友を得たようだね、君は」
デュランダルもアスランのその顔を見てほんの少しだけ穏やかな表情を浮かべると、
ゆっくりと立ち上がり、執務室の机へ歩み寄り、
「しかし、君はまだあまり自分の立場というものがわかっていないな」
どういう事だろうか?
自分は、プラント生まれのコーディネイターで、パトリック・ザラの息子で、
このプラントから一度は追い出された男だ。
「……君のその『ザラ』という名前は、君の思う以上に世の中を大きく揺さぶる名前なのだよ」
「どういう、事ですか?」
「ふむ……、これは愚問だが、君は『ラクス・クライン』の事はよく知っているだろう?」
「ええ、よく」
「彼女は地球ではあまり名を知られて無い、ということは?」
「え……?」
アスランは思わず腰を上げた。あのラクスが?
と顔に表れており、デュランダルは冷たい表情へと変わる。
「やはりとは思ったが……。いや、続けよう。地球では彼女は殆どの人間に知られていないのだよ。
彼女の名前と顔が通るのはこのプラントの中でのみだ。……だが君は違う。
君は『ストライク』を落としたパイロットとして、ザラ議長が地球でも大々的に触れ回ったからね、
大西洋、ユーラシア、東アジア、赤道、アラビア、アフリカ。
有名人なんだよ、『アスラン・ザラ』は。アレックスを名乗った時は何故ばれないのか不思議だったくらいだ」
その言葉にアスランは苦笑しつつも、内心は驚愕していた。
自分がどんな存在なのか。そんなこと、一度たりとも考えたことがなかった。
自分が動いて、喋れば、どれほどの数の人間がその言葉の影響を受けるのかも。
「考えたこともなかったのかい?」
「……はい」
「いや、君を責めようとは思ってないさ。ただ、知っておいて欲しかったのだよ。
君がこうしてここに来てくれたということも、少なくとも他人には影響を与えるものさ。
私や、その君の友人や、アスハ嬢とかにね」
彼が執務室のモニターを統括するコンソールに手を伸ばそうとしたとき、
コンソールが鳴った。彼の他に、この部屋に来客が来る予定があったのだろうか?
デュランダルは何か考えるような表情を一瞬浮かべ、
「入りたまえ」
ドアの向こうに立っている人物に告げると、ドアのロックを解除した。
シュッと音を立てドアが開き、その向こうから現れたのは…………。
「ラク……ス……?」
美しい桃色の長髪をたなびかせ、流れるように部屋の中へ入ってきたのは、
今地球で、彼のもう一人の友、キラ・ヤマトと暮らしているはずのラクス・クラインであった。
彼女は、部屋に入りアスランの姿を見るや、
彼が未だかつて見たことのない太陽のような笑顔を彼に向け、軽やかな足取りで飛びついてきた。
「君が……どうしてここに」
「アスランだ! ホンモノのアスラン・ザラ!」
「……へ?」
「嬉しい! ホントに貴方に会えたんだもの」
ギュッと抱きしめてくる彼女の言動が一瞬理解できず、彼は固まった。
そして、彼女に絶大な違和感を感じる。
こんなに彼女は柔らかくて、抱き心地のいい体つきをしていたっけ?
「……コホンッ」
「「…………!!」」
デュランダルが咳払いをし、彼女はそれに気づくとパッと彼から離れる……ことなどなく、
彼に抱きついたまま議長の方向を向いた。
「驚くのも無理はないだろうから、ここで紹介しておくよ。彼女は……」
「ミーア。ミーア・キャンベル! でも『ラクス』って呼んでよね」
「……そう、ミーア君だ。彼女には、今ラクス・クラインの影武者をやってもらっている。聞こえは悪いがね」
少しげんなりした様子でデュランダルが言い、どこか彼女に振り回され気味である印象を受ける。
しかし、影武者とはどういう事だ? ふと、アスランは目の前の男に疑念を抱く。
「笑ってくれても構わんさ。我ながら小賢しいまねをしていると思うよ。
だが、君に言ったはずだ。『ラクス』の名前はプラントの内部では影響があるのだと」
ああ、確かに言った。それを考えれば、この情勢下彼女が必要だと言うこともわかる。
だからといって『ニセモノ』を替わりに立てるなどとは……。
「彼女は私などより遙かにこのプラントを統治しうる存在なのだよ。
であればこそ、少しでも彼女の力を借りねばならなかった。だからアスラン……、君の力も貸してはもらえまいか」
「……?」
デュランダルはコンソールのあるボタンを押して、ある部署と一言二言会話し、
「一緒に来てくれ」
アスランにそう言い残すと執務室を後にし、アスランはそれに追従し、
何故かミーアもその後ろにぴったりと付いてきていた。
「……君は」
「何? アスラン」
デュランダルの背からミーアに視線を移したアスランは、ミーアに話しかけ、
彼女がパァッと明るい表情で此方に顔を向けると、はっとなって顔を背けた。心なしか頬が熱い。
「何で、こんな事をしているんだ、君は」
「そんなこと?」
「あ、いや、その……。君が『ラクス』の格好をしているのは」
「……ああ、その事ね」
ミーアは先程までの明るい表情から一転。悲しみを帯びた女の顔になり、アスランは息を呑んだ。
背を冷たい感触が襲う。そして、また彼女が、口をゆっくりと開いた。

 

その言葉の内容を、彼は理解することが出来なかった。

 

…………私は、ラクス・クラインの『バックアップ』だもの」

 
 

※※※※※※

 
 

「『NZ-000』のテスト終了。乗艦許可を」
L5宙域の外れ。デブリベルトにほど近い場所に潜んでいる二機のナスカ級戦艦。
その間に、ワイヤーであの緑の怪物が固定され、作業員達が機体の周りに群がる。
「三時間後にこの宙域から離脱する。それまでにチェックを済ませるぞ!」
メカニック班のリーダーが周りに檄を飛ばし、熱気のこもるメカニック達の間を、
怪物のパイロットがすり抜け、片方のナスカ級に乗り込む。
パイロットは格納庫を抜けロッカールームへ入ると、パイロットスーツを脱ぎ捨て、
一番奥にある自分のロッカーから取り出したZAFTの緑服を着込む。
パイロットは、少年だった。少し長めの茶髪で、華奢な体躯。よく整った顔立ちに女の子のようにきめ細やかな肌。

 

そして何より、その顔は知るものが見れば驚愕に値するものであった。

 

襟元のボタンをしめるのと同時に、ロッカールームに眼鏡をかけた白衣の女性が入って来た。
胸にある艦内通行許可証と身分証から、軍の者ではなくある種の研究機関の人間だとわかる。
女性は少年に近づき、優しく頭を撫でた。

 

「ご苦労だったわね、『キラツー』」
「うん。僕、頑張ったよ、『姉さん』」

 
 

第9話〜完〜

 
 

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