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Canard-meet-kagari_第23話

Last-modified: 2007-11-10 (土) 21:33:14

第23話

 プラント最高評議会、各市より選出した議員達が湾曲したテーブルに座り中央のモニターに映る映像を食い入るように見ていた。その映像はヘリオポリス内におけるクルーゼ隊とアークエンジェルの戦いを映したものだった。
 アークエンジェルの艦砲射撃によりコロニーシャフトが引きちぎられる。ストライクの砲撃がコロニーの外壁に穴を開ける。あまりに強力な威力の兵器の数々に、議員の全員が驚嘆の声をあげる中でアスランは他の事を考えていた。
(あのストライクの映像は何だ?)
 コロニーの外壁を破壊したストライクの映像、アスランはその映像を一度も見たことは無かった。
(クルーゼ隊長はこの映像を隠してたのか?それとも……)
 アスランが横目でクルーゼを見る、彼は敵に装備された兵器の脅威をいつもの芝居が掛った口調で説明している。
「以上の映像で御理解頂けると思いますが。あの崩壊の最大原因はむしろ、コロニー内で強力な兵器を使用した地球軍にあるものと、御報告致します」
 クルーゼの説明が終わると映像を見ていた議員達は口々に連合軍の行動を非難する。
「コロニー内で戦艦の主砲を使うなど……」
「所詮、奴等はコロニーに住む人間の事など考えちゃいないのだよ」
「それよりも問題なのはMSの火器だ!密閉型コロニーの外壁でさえ楽に破壊したんだ。もしこのプラントに撃たれたら……」
 紛糾する議会にパトリックの声が響いた。
「皆さん、さらに問題と成るのは、連合軍の完成させたMSです。それについての説明をクルーゼ隊長にお願いする」
「では、モニターを御覧下さい」
 スクリーンに新しい映像が呼び出される。
「これはヘリオポリス付近の宙域で連合のMS、ストライクとの交戦時の映像です。こちら側の機体は奪った連合側の機体、イージス、デュエル、バスター、ブリッツです。機体性能はストライクと同じ、そしてそれぞれの機体には我が隊のザフトレッドが搭乗しております」
 ザフトレッドという言葉に数名の議員が反応する。無理もない彼等はイザーク、ディアッカ、ニコルの父母でもあるのだ。ある者は誇りを持って、ある者は息子の意思を尊重し、ある者は不安に駆られながら、愛する子供たちを戦場に出したのだった。彼等は、映像の中で息子達の乗ったMSが敵のMSに翻弄される様に一喜一憂し、落ち着かない様子でスクリーンの映像を見ている。
 特にイザークの母であるエザリア・ジュール議員の反応は顕著だった。イザークの乗ったデュエルがストライクに撃墜されかけた映像の時には顔を俯き、ワナワナと体を震わせる。
「クルーゼ隊長、このくらいにしておきましょう。ジュール議員が卒倒しそうだ」
「タッド!!」
 そう言ったのはタッド・エルスマン議員だ、言うまでも無く、彼はディアッカの父親である。
「私はMSの性能はまるで解らないが、どうもこの映像を見る限り、敵のMSの性能はパイロットの腕によるものの様に見えるな。専門家の意見を聞きたいな、アマルフィ議員?」
 タッドはそう言うとMS工学の権威であるニコルの父親、ユーリ・アマルフィ議員に意見を求めた。
「そうだな…単純な機体性能は次期主力機として配備の進んでいるシグー以上だ。さらにPS装甲とビーム兵器も加わりジンやシグーとは比べ物にならない……ただこれはハードウェアの性能でありOSのデータを見る限りは、この性能の大部分はエルスマン議員の言う様にパイロットの腕による所が大きいと思われます」
「なるほど、機体の性能を引き出すパイロットがいなければ真の性能が発揮されない……つまり連合のMSはまだ未完成」
 タッドはそう言うとチラリと黙ったままのパトリックを見る。
(大方、この連合のMSの性能を見せ付ける事で我々を煽って、前々から言ってた軍備増強路線を進め、徹底抗戦を唱えるつもりだろうが、そうはいくか。ビクトリアが陥落したら、マスドライバーが残り一つなのを盾に停戦を結ぶ。それがプラントの未来の為だ)
 タッドの言葉によって議会の波紋は収まったかと思えた。だがパトリックには真の切り札があった。
 議会にいる議員、いやプラントに住む全てのコーディネーターの恐怖と憎悪を煽るジョーカーが……

「エルスマン議員、私は確かに言ったハズだ……連合はMSを完成させたと」
「これは、またナンセンス。OSが未完成の状態でパイロットの育成が完了したとは思えませんが?」
「その事を御説明する為に、この映像を御覧下さい」
 またスクリーンの映像が切り替わり、改装中の資源衛星が画面全体に広がる。
「この映像は三ヶ月前にボアズで撮影された物です」
 パトリックがそう説明すると画面の一点で爆発が起こる。カメラはその爆発に向けてズームして行き、一機のジンの姿を写した。そのジンの肩には大きく地球連合のマークが塗装されている。
「この機体はザフトの物ではなく、鹵獲された地球軍側の機隊です。この機体はたった一機でボアズ守備隊に奇襲をしかけ多大な被害を出しました」
 敵襲に気づいたザフト軍はMS部隊を向かわせるが、同じジンなのに丸で歯が立たない。遂には『ドクター』の異名を持つ男のジンハイマニューバすらも、あっという間に撃墜される。
 しかし、機体を紫色で塗り、頭部に目のようなペイントが施されたシグーが現れると状況は一転した。機体性能と腕の差で連合のジンを追い詰め、まるで鼠をを痛ぶる猫の様にジワジワと破壊していく。そして最後に重斬刀でコクピットに突き、止めを刺した。
「そして、この機体はボアズに駐留していた特殊防衛部隊の活躍で撃墜する事が出来ましたが、この機体のパイロットの遺体を回収した結果、驚くべき事実が明らかになったのです」
 スクリーン上に回収したパイロットの遺伝子データが表示される。
「データを御覧になれば解るでしょうが、このパイロットは反応速度、運動神経、対G強度などが以上に強化されたコーディネーターです。その戦闘力は、まさに完成された兵器と言って良いでしょう」
「な、何!では……まさか……」
 パトリックの言葉を聞き数人の議員がピクリと反応する。彼等も耳にした事があるのだ。連合が開発を進めているある兵器の噂を…
「察しの良い皆さんの中では気づいてる方もいらしゃる様ですが、彼こそが連合が長きに渡り開発してきた最強の兵士、戦闘用コーディネーターなのです!」
「バカな!!」
 議会が一斉にざわめき出す。

「静粛に!ザラ国防委員長、それは確かな証拠が在って発言しているのでしょうな」
「私も信じたくはなかった。しかし、さらに遺伝子解析を進めた結果、このパイロットは服従遺伝子を利用したマインドコントロールまでも施され、ナチュラルの為なら自己の死をも厭わない事も発見されました……もはやこれ以上、疑う余地はありません!連合は手に入れたのです、自分達の為に命すら投げ出す最高の兵器を!」
 自分達を殺す為に生み出された最強の兵器の存在を知った議員たちは火の付いた様に騒ぎ出した。
「やはり、噂は本当だったのか…」
「ナチュラルめ!どこまで我々を道具にすれば気が済むのだ!!」
「しかし、まだ数が揃ったわけでは…」
「いや、ストライクのパイロットも考えると複数存在する事に成る」
「待て!まだストライクのパイロットまで戦闘用コーディネーターだと決まったわけでは…」
「ザフトレッドが四人がかりでも倒せなかった相手だぞ……戦闘用コーディネーターと考えて間違いないだろう……」
「皆さん、静粛に!静粛に!」
 クライン議長の必死の声も恐怖に駆られた議員達には届きはしない。結局、有耶無耶のまま議会は強引に閉会され議員達は散り散りになり、自分達の治めるコロニーに帰っていったが、全ての議員に植えつけられた恐怖は、彼等の心に深く根付いていた。
(戦闘用コーディネーターか……)
 議場から出たアスランはパトリックが公表した戦闘用コーディネーターについて頭を悩ませていた。
 確かに自分が戦ったストライクのパイロットは並みの相手ではない、父が戦闘用のコーディネーターだと言うのも納得できる。しかし何故、親友とよく似た姿を持ち、親友の命を狙うのか?そして彼の言ったスーパーコーディネーターとは?
 様々な疑問に困惑するアスランは不意に呼び止められる。振り返ると巨大なモニュメント、エヴィデンス01の前に初老の紳士が立っている
「クライン議長」
 反射的に敬礼するアスランにシーゲルは苦笑する。
「そう他人行儀な礼をしれくるな」
「スミマセン」
「ようやく君が戻ったと思えば、今度はラクスは仕事で居らん。まったく、君達はいつ会う時間が取れるのかな」
「申し訳ありません」
「まあ、戦争が終われば合う時間など幾らでも作れるか」
 シーゲルは、まだ硬くなったままのアスランに微笑みかける。
「え、はい…ところで議長はスーパーコーディネーターというものご存知でしょうか」
「どうして、そんな事を聞く?」
「知りたいんです。スーパーコーディネーターとは何なのか。父に聞いても答えてくれませんでしたから…」
「パトリックらしいな…良いだろう。スーパーコーディネーターとはSEEDを持つ者の事だ」
「SEEDを持つ者?」
 聞きなれぬ言葉にアスランが聞き返すと、シーゲルは頷き、その存在について熱く語った。
「そうだ、コーディネーターとは本来、いずれ現れる新人類と旧人類との調整者となる者の事の事だ。そして人類を新人類へと導くのがコーディネーターを越えた力、SEEDを持つスーパーコーディネーターなのだ。しかし何故、今そんな事を聞く?」
「い、いえ、何でもありませんので気にしないで下さい」
「そうか。所で例のMSの追撃任務に就くそうだな」
「はい、しかし次は必ず倒して見せます。ザフトの為に……」
「あまり無理をしないでくれよ、ラクスが悲しむ顔を見たくはないからな」
 議場からパトリックと何か話しながら出てきたクルーゼが、アスランに近づいてくる。
「クライン議長閣下、少々アスランと話がしたいのですが宜しいでしょうか?」
「構わん」
「アスラン、ラコーニとポルトの隊が、私の指揮下に入る。出航は72時間後だ。それと……すまないが急用が出来た。ミゲルの見舞いには君一人で行ってくれないか?」
 そう言うと数枚の高額紙幣をアスランに渡す、これで見舞いの品を買えという事だろう。
「では失礼致します。クライン議長閣下」
 クルーゼはシーゲルに敬礼をして、その場を去っていった。
「では、私もこれで失礼します」
 アスランも敬礼をして、その場を去っていった。
 一人残されたシーゲルにパトリックが近寄り、二人は顔を合わせず、エヴィデンス01を見上げている。
「我々は、ただ自分達を守れればそれでいいはず。いたずらに戦火を拡大してどうする?」
「だからこそ、戦わなければいけないのだよ。二度と悲劇を繰り替えさない為にも」

 診察のために部屋の外に追い出されたトールとサイトールは落ち着かない様子で歩き回っている。
 扉が開き白衣の男が出てくる。
「先生!二人の容態は?」
「赤毛の娘の方は唯の風邪だが、もう一人の娘の方は肺炎を起こしかけてるから、かなり辛いだろうな」
「何とか楽に出来ないんですか?」
「無理だ、薬の絶対量が不足しているから、君たち若い人には自力で直ってもらう他ない」
「そんな……」
 サイは唇をかみ締め、拳を握る。
(俺は何やってるんだ、フレイの為に地球軍の手伝いまでしたのに今、オレがいる意味って何なんだ……)
 サイはフレイには、自分が側に居なければいけないと思っていた。彼女の乗ったポッドがアークエンジェルに回収されたのも彼女には自分が必要だったから……そう思っていた。
 しかし今のサイには病に倒れたフレイに対して何もしてやる事が出来ないのだ。
 そんな時だった、カガリが全速力でサイ達の所に走ってきたのは。
「ハァ、ハァ、艦長が…補給の事で…直ぐに集まってくれだって……」
 呼吸の乱れを直さずにカガリがサイ達に言う。おそらく薬の事を艦長に直談判しに言った後に、サイ達を呼ぶように言われ、そのまま走って来たのだろう。
「もしかして、薬があるのか!」
 それを聞いたトールは一目散にブリッチを目指して走り出した。
「艦長たちが?解った直ぐに行くよ。けど…」
「ハァ、ハァ…なんだ?」
「艦内放送を使ったほうが良かったんじゃなのかな?」
「アッ!!!」
 カガリは思わず叫び、その場にへたり込んでしまった。

 アスランは、受付にミゲルの病室を聞くと病院の廊下を歩き出した。手にはお見舞いのフルーツの詰め合わせを持っている。
 ユニウス型コロニーを改装して食料生産を進めているプラントだったが、それらは穀物中心である為に、現在プラントではフルーツは高級品なのだ。すれ違う人々がこちらを振り返る反応に戸惑いながらアスランはミゲルの病室にミゲルの病室に近づいていく。
『今にも 飛び抜ける 駆ける思いは伊達じゃなぁい 究極とか〜』
 病室から漏れる歌声がアスランに笑顔を誘う。歌声にかき消されて、ほとんど聞こえないが一応ノックをして病室に入る。
「おっ!アスラン!」
 入院服でマイクを握り熱唱していたミゲルがアスランに気づき声を掛ける。ミゲルの傍らには赤い軍服を着たオレンジの髪の男が立っている。
「元気そうだな」
「まあ、お前のお陰でな。それにしても聞いたぞ。お前らもアイツには敵わなかったんだってな」
「誰に聞いたんだ?」
「イザークさ」
「イザークが!!」
「ああ、精密検査と怪我の処置が終わった後に、顔を出しに来たから傷の事を根掘り葉掘り聞いてな」
「それで今は?」
「とっくに帰ったよ、マイウスのラボへ行くって言ってたけど?」
「そうか。これ隊長からのお見舞い」
 アスランは、お見舞いのフルーツの詰詰め合わせをミゲルに差し出した。
「へ〜あの隊長も良いとこあるじゃないか。早速、食べようぜ。センパイも一緒に食べましょうよ」
 ミゲルは傍らに立つ赤い軍服の男に向き直り、手に取った果物を勧める。
「すまないな、頂くとしよう」
 アスランは赤い軍服の男の顔をまじまじと見る。
一般的にザフトレッドは二種類に分けられる、一つはアスラン達と同じく士官学校を総合成績の上位10以内で卒業した者、もう一つが戦闘で評価に値する働きをした兵士が昇格した者である。
 ザフト士官学校の一期生のアスランは彼を知らない上、二期生の卒業はまだ先のはずであるから、アスランは後者であると悟り、ミゲルに質問する
「こちらの方は?」
「オレの先輩で」
「ハイネ・ヴェステンフルスだ。よろしく」
 ハイネは、そう言うとアスランに右腕を差し出し、握手を求めた。
「自分は…」
「知ってるよ、アスラン・ザラだろ?色んな意味で有名人だよ、君は」
「ここに来るまで、色んな人たちの注目の的でしたよ」
 アスランは、果物を買った店の主人、病院の受付嬢、廊下で擦れ違った人々の顔を思い出して言う。
「そりゃあ、そうだろう。ザフト士官学校をトップの成績で卒業したザラ国防委員長の息子…これだけでもザフトじゃ有名なのに加えてあのラクス嬢の婚約者となるとな」
 真っ赤なリンゴを皮を剥かずに、そのまま被りつきながらハイネが答えた。
「ハイネさんは、今まで何所に?」
「ハイネでいいよ、俺が今までいたのはビクトリアさ」
「ビクトリア……戦況はどうなんです?」
「そうだな、一周年式典までには落ちるかな」
「随分な自信ですね」
「なんせ敵の主力が壊滅する瞬間を、この目で見た一人だからな」
「なるほど、そういう事ですか」
 流石はミゲルが尊敬するだけの事はあるなとアスランは思った。
「けど、ここに来て連合もMSの開発に成功したそうじゃない?実際の性能を聞きたいな」
「いいですよ、話せる範囲なら」
 その後、アスラン達は、連合のMSの性能とそれに対する戦術の検討、果てには上手な歌の歌い方まで面会時間が終るまで熱く語り合った。

「薬があるってのは本当ですか!」
 ブリッジに飛び込んできたトールに、カナードと何やら話していたマリュー達は慌てて振り返る。
「いや、まあ……まだあるって決まった訳じゃないけど……」
 ムウが曖昧に答えてるとサイ達もブリッチに入ってくる。
「補給は何所から受けるんですか?」
「その事を今から説明するわ」
 サイの質問にマリューが答えると同時にメインスクリーンに宙域図が呼び出される。
「私達は今、デブリベルトに向かっています」
 マリューがそう言うとトールとサイが反応する。
「デブリベルト?あそこは通れないから迂回するんじゃ……」
「ちょっと待って下さいよ!まさか……」
「君は勘がいいね」
 誤魔化すようにムウが、サイの肩を叩いた。
「デブリベルトには、宇宙空間を漂う様々な物が集まっています。そこには無論、戦闘で破壊された戦艦等もあるわけで……」
 マリューが重々しく言うのを聞き、トールも何をするつもりなのかを悟った。
「で?何所で補給するんだ?」
 まだ事情が飲み込めないカガリにカナードに聞く。
「つまり宇宙を漂うゴミの中から食料とかを漁って持っていくって事だ、ジャンク屋の様にな」
「な〜んだ……って、私たちにそんな事をさせるつもりなのか!!」
「仕方ないだろ?そうでもしなきゃ、こっちが保たないんだから……」
 ムウが半ば開き直るように言う。
「けど……」
「やろう」
 まだ何か言いたげなカガリの声を遮り、トールが言う。
「今、苦しんでるミリィの為ならジャンク屋の真似事でも何でもやってやる。そうだろサイ」
「そうだな、俺達には今はそうするしかないんだよな」
 サイもそう言うとマリューは安堵した顔で、これからの予定を説明した。
「あなた達にはその際、ポッドでの船外活動を手伝ってもらいます。カナード君には、その時に邪魔になるデブリを退かすのと護衛をお願いするわ」
「護衛?何で護衛が必要なんです?」
 トールの質問にムウが答える。
「海賊や、海賊まがいのジャンク屋がいるかもしれないだろう?」
この時代、強力な戦艦をジャンク屋から買い取ったり、または軍から軍艦を持って脱走した連中が私利私欲為に略奪を行うのは珍しい事ではない。またジャンク屋の中にも自分で破壊しておいてその残骸の専有権を主張する、海賊まがいの行為を働く連中までいるのだ。
「ああそっか」
 納得したトールの横でカガリは納得いかないまま、メインスクリーンに映るアークエンジェルの航路を見ていた。

「貴方にしては不手際でしたねラウ・ル・クルーゼ」
 モニターに映る黒髪の少女は優雅に紅茶を飲みながら、冷ややかな視線をクルーゼに向けた。だがクルーゼは特に気にした様子はない。
「君が折角、彼等の為に調整までしてくれたのにな……私もまさかアスランが、あのプロテクトを破るとは思っていなかったからな」
「思えば、あの方は彼の親友……彼が考えたアクセスの仕方を知っていても不思議ではないわ」
「そして何より我々が考えもしなかったのが……」
「カナード・パルス」
 クルーゼが驚いたように言う
「もう調べたのか……流石というところか」
「貴方こそ、知っているとは驚きだわ」
「何、少しだけな…もう調べてあるのだろう?詳しいデータを頼む」
「しばしお待ちを」
 クルーゼのパソコンにカナードに関するデータが表示される。
(メンデルで廃棄されるのをアノ女に助けられ導師のもとへ、その後、例の機関に売られる前にユーラシアの手が入り保護、遺伝子検査の結果スーパーコーディネーターの失敗作だという事が判明、研究機関に移される。反抗的な態度で一度だけ研究所を脱走した事がある……
 この時か!ヤツに出会ったのは)
 クルーゼは、過去に袂を分かった親友を思いながらデータの続きを読む。
(その後ユーラシアのMS開発計画の為に軍に参加、鹵獲ジンで多数のエースと渡り合う……あの男とヴェステンフルス、彼までいるのか……
 グリマルディ戦線でサイクロプスに巻き込まれてMIA認定を受けるか)
「この男は、彼を倒す事で自分が本物のスーパーコーディネーターに成れると思ってる様ですけど……笑ってしまいますわね」
 モニターの中の少女はクスリと笑う。
「まったくだ。彼を倒したところで彼に成り代わる事など不可能だというのに……」
 だがクルーゼは、カナードに彼の事を教えた人物の本当の目的を知っていた。おそらくその男は、カナードに彼を倒させる為ではなく、生きる意味と希望を与える為に教えたのだろう。
(まったく、余計な事をするのが好きな男だ)

「代わりのMSですが、オーブのMSを……えっ!そんな……」
 少女が報告の途中で驚きの声をあげる。始めはクルーゼは何か新しい情報が入ったのだろうと思ったのだが様子がおかしい。モニターの少女の顔から血の気が失せ、唇がワナワナと震えている。
「どうかしたのかね?」
「………あの御方の船が連合の艦に襲撃され、撃沈しました……」
「何だと!!」
 少女の消え入りそうな報告を聞き、クルーゼの声を荒げる。
「彼女には、まだ彼が付いてたのではなかったのか!!」
 予定では。連合の新型奪取に失敗した彼はリティリアに向かう前に、彼女の船と接触し、まだ機体の調整をしているハズである。
「か、彼は連合の調査部隊の動きが早いので、予定より早くリティリアへ……まさか……こんな事になるなんて……」
「なぜ君が襲撃した連合の船の動きを知れなかったのだ!君なら世界中の情報を手に入れられるのではなかったのか!」
「解りません……何故なのか……まさかオーブのMSと同じくあの男が……」
「今は彼女の安全確認が最優先だ!それが出来るのは世界で君だけだ!」
 彼女が襲撃されたショックで錯乱しかけてる彼女をクルーゼは叱咤し立ち直らせる。
「はい…………脱出ポッドは射出された様です」
 数秒、彼女が懸命に端末を操作し、船のクルーが撃沈直前に発信した通信を解読する。
(少しは冷静さを取り戻したか……流石だな)
 モニターに映る少女も、彼女ほどではないが世界を導く宿命を持つ者だとクルーゼは改めて実感した。
「攻撃した連合艦は?」
「それがジャンク屋のMSの攻撃によって撤退してます」
「では彼女は、そのジャンク屋に収容されたのか?」
「……そうではないみたいです……ともかく今、付近にいるジンを向かわせます」
「そうだ。君らしくなってきたな」
「私は、今からアノ御肩の発見に全力を尽くしますので、続きはまた後日……」
「任せたぞ」
 冷静さを取り戻した彼女の顔がモニターから消える。
「まだ彼女には消えてもらう訳にはいかない……私の目的を成し遂げるまでは……」