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Canard-meet-kagari_第26話

Last-modified: 2007-11-10 (土) 21:33:57

第26話

 ラクスは士官室のベッドの上で、悔やんでいた。
 ユニウス7に眠る魂達の平穏一つ守れなかった自分の無力さを悔やみ続けていた。
 これでは自分は、プラントの中で、コーディネーターとナチュラルがお互いに歩み寄る道を示さずに、血のヴァレンタインの悲劇の報復としてエイプリール・フール・クライシスを引き起こした父に鬱屈とした感情を抱きつつも、自分では何一つ行動をしなかった頃と同じではないか。
 せっかく自分は、憎しみを煽り合うような行為しかしない世界を何とか変えようとする仲間を集めたというのに……そんな事をラクスが考えているとドアがノックされる。
「どうぞ」
 とラクスは優しげな声で来訪者に呼びかける。
「入るぞ」
 ドアを開けてカートを押しながらカガリとカナードが部屋に入ってくる。
「ゴメンな、ユニウス7の食料の事…」
 マリュー達とのやり取りをカナードから聞いたカガリがまず謝罪する。
「やはり止める事は出来なかったのですね……」
 ラクスが悲しげな顔で言うと、カガリまで悲しくなってしまう。
「私達には、そうしなければならない理由がある。どんな事を言っても言い訳だよな。許してくれとは言わない……けど、もしもその事を恨むのなら、この私を恨んでくれ」
「私は……恨むつもりはありません。ただアノ場所に眠る人たちが安らかに眠れればそれで良いのです」
「そうか……お腹が減ってるだろ?食事を持ってきたんだ」
「ありがとうございます。後で食べますので机の上に置いといてもらえますか」
「わかった」
 プラスチック製の食器とスプーンを机の上に置いきながらカガリは悲しい顔で言った。
「本当は普通の食器を使いたかったのに、コイツが……」
 カガリが恨みがましくカナードの方を見る。
「当然だ、俺だったらスプーンが一つあれば、この艦を楽に占拠できる」
「お前の基準で考えるな!か弱い女の子なんだぞ」
 カガリとカナードが毎度の口喧嘩をラクスはクスクスと笑っている。
「貴女方のお顔はよく似ていらっしゃいますね。御兄妹ですか?」
「みんなそう言うんだな。」
 カガリが関心したように言う
「残念ながらコイツとオレは赤の他人だ」
「そうなんですか、本当によく似ていらっしゃいますわ……」
 ラクスが、他の誰かの面影を重ねているように言うのをカナードは見逃さなかった。
「それは俺とコイツではなく、他の誰かなんじゃないのか?」
 カナードが唐突に言い出す。
「どういう意味でしょうか?」
「アンタ、俺にソックリな顔の奴を知ってるんじゃないのか?」
「まぁ、なぜそのような事を聞くのです?」
 ラクスが微笑むと、カートから間抜けな声が聞こえてきた。
「ハロ、オコルデシカシ」
 カートの下から、声の主が勢いよく飛び出し、カナードの後頭部を直撃する。耳をパタパタさせている丸い物体を見て、ラクスの顔がほころぶ。
「ハロ!」
「壊しちゃってゴメンな……ほら、お前も謝れよ」
 ハロの奇襲を受け、後頭部を押さえているカナードにカガリが言う。
「このピンクの球体!今度は完全にスクラップにしてやる」
 カナードがハロを掴もうとするとハロはヒラリとかわし、壁に体を打ち付ける反動を使い、超スピードでカナードを翻弄する。その光景を見ていたカガリは深い溜め息をつくと、ラクスに向き直る
「止めろよ、まったく……ところでアレ、ハロって言うのか?」
「ハイ、私の大切なお友達ですわ」
「カワイイな、プラントで売っているのか?」
「いいえ、コレは私のフィアンセが作ってくれた物なんですよ」
「へ〜そんなフィアンセって良いよな……アイツにはそんな事、絶対に出来ないだろうし……」
 カガリは現在、大西洋連合に留学中の自分のフィアンセ(カガリ自身は認めていない)の事を思い出す。
「ええ、私がとても気に入りましたと申し上げましたら、その次もまたハロを……そして会う時には必ずハロをくださいますの」
「そういうのは……ちょっと嫌だな……」
 そんな事を話していると艦内放送でナタルがカガリを呼び出す。
「ああッ!しまった!!ミリアリアの代わりにブリッジ勤務だったんだ!遅れたら副長に、またイヤミ言われるに決まってる!ゴメン、また後で来るよ。カナード、帰るぞ」
「フハハハハハやっと捕まえたぞ!中々の速さだったが動きが……ってもう行くのか」
 カナードがカガリに気を取られている一瞬の隙を逃さず、ハロはカナードの手の中から脱出する。
「アッ!貴様!」
「遊んでないで、さっさと行くぞ。じゃあまた来るからな」
「あの…お名前を教えてもらえますか?」
 ラクスがほわりと言う、カガリはそういえば、まだ自己紹介してなかったなと思い答える。
「カガリ……カガリ・シモンズだ。ほらカナードも」
 カガリがカナードを小突く
「……カナード・パルスだ」
「私はラクス・クラインですわ。では、また……」

 二人が出て行くと行くと、ラクスは、顔を見上げ机の上にあるトレイを見る。食べるつもりなど毛頭ない、例えユニウス7の食料でなくとも食べないでいる事が、今の力のないラクスに出来る唯一の抵抗だった。
「ラクス、ゲンキ!」
「ハロ、いらっしゃい」
 ラクスはハロを呼び寄せると、ハロの口の中に隠していたアル物を取り出す。ラクスは、船から出撃する直前の彼にソレを渡されたら時のことを思い出した。
『ラクス、僕は昔、コレに命を救われたんだ。だから今度はコレが……
コレに込められたアスランの思いが君を…きっと守ってくれるはずだ。だから持っていてくれ』
 ラクスはソレを握り締め、思い出す。たとえ無力な自分でも、自分にはハロとコレを作ったアスランとコレを託してくれた彼、二人の思いがある。
 ラクスはハロに向き直る。
「祈りましょうねハロ、私達より先に楽園に旅立つ人々の為に……」

 数々の人種が入り混じるコロニーの中を美しい少女の歌声が響いている。
 コロニーの名は、リティリア。老朽化が激しく、無価値となったこのコロニーは、そこに移り住んだ人々の手によって
今、生まれ変わろうとしていた。
「ここに居たのかヴェイア」
 全身に傷を持つ美貌の少年が、ヘッドホンから流れる音楽を心地良さそうに聴いてる青い髪の少年に呼びかける。
「やあ、イライジャ」
 ヘッドホンを離し、ヴェイアと呼ばれた少年が、傷だらけの少年に呼びかける。
「また、ラクス・クラインの歌を聴いてるのか?」
 イライジャと呼ばれた少年があきれた様に言うとヴェイアは微笑みながら答えた。
「うん、彼女は僕に安らぎを与えてくれるんだ。ところで何の用だい?」
「シニストさんが呼んでる。なんでも会わせたい人がいるんだって」
「うん、解った。わざわざ知らせてくれてありがとう」
 そう言うとヴェイアは、このコロニーのリーダーであるシニストのもとへ走っていく。
「まったく、俺は何をしているんだ」
 イライジャは、今の自分の本来の使命を思い出しぼやく。
(なぁ劾、俺は正しいのか?)
 イライジャは、自分の心の中で傭兵仲間に呼びかけるが、彼は黙したまま答えてはくれない。
(自分で答えを見つけろって事か…)
 今、イライジャは傭兵としては間違った事をしている。そのことについて順に追って説明しようと思う。

 イライジャは、サーペントテールと呼ばれる凄腕の傭兵部隊の一員で、今はザフトから、ある依頼を受けていた。
 その依頼とは脱走したザフトの英雄、グゥド・ヴェイアの抹殺である。
 リードという仲間の協力でリティリアに居る事を突き止め、見事ヴェイアと接触に成功したイライジャだったが、ヴェイアに接触した理由は彼を倒す事ではなく、ヴェイアにどうしても聞きたい事があったからだ。
「なぜ英雄とまで呼ばれたアンタが、脱走なんてしたんだ」
 イライジャは、元々はザフトの兵士だった、しかしコーディネイターとしては免疫以外に強化されておらず、身体能力はナチュラルと変わりないというコンプレックスがあり、半ば脱走に近い形でザフトを退役した過去があるのだ。だから、『英雄ヴェイア』が脱走したと聞いた時は、どうしても会ってその理由を尋ねたいと考えたのだ。
 ヴェイアはイライジャの目を見ながら、ゆっくりと答えた。
「僕は、このコロニーを守る為に脱走しました」
「どういう事なんだ?このコロニーに何があるって言うんだ!」
「君は信用できそうな人物だから教えよう。実は…」
 ヴェイアがイライジャに語ったのは壮大な夢物語だった。
 戦火から逃れ、このコロニーに移住して来た人々、しかし地球連合とプラントの全面戦争は拡大の一途を辿っており、このリティリアも、いつ戦闘に巻き込まれるか分かったものではなかった。
 地球圏には、彼等の求める争いのない世界は存在出来ない……それならこのリティリアを改造して地球圏を飛び出し、人類の深淵である木星圏へコロニーごと移住し、そしてかつてジョージ・グレンが発見したエヴィデンス01の力を借りて、争いのない理想郷を作り出そうと考えたのだ。
 また木星にはジョージ・グレンの作り出したステーション基地が残されており、そこの施設を使えばなんとか自給自足の生活が出来る目算になっている。
「そんな計画が良く実現できたな」
イライジャが感心したように言う
「プラントに住むある人物の手助けがあって、やっと実行まであと少しとなりました。僕はその人物から出発までの間このコロニーの護衛を頼まれたのです」
「そうだったのか…しかし他の人間がいなかったのか?」
「このコロニーの推進剤として使う核ミサイルは、連合が廃棄した物をコッソリ回収した物なんだ。
 きっと今頃、連合の大部隊が血眼になって探している事だろうけど、その人物はザフトまで動かせる力はないし、もしこのコロニーに部隊を派遣したら、このコロニーで何かが行われている事がバレてしまう。だから、単独でしかも大部隊を相手にしても勝つことが出来る人物が必要になる」
「だから選ばれたのか……万が一にも連合やザフトにこのコロニーを発見された時は、NJを散布されるより早く敵を全滅させる事が出来るアンタが……」
 イライジャが言うとヴェイアは頷き、話を続けた。
「そうだ。本当ならMSを奪って脱走するのではなく、僕が失踪するってシナリオになってたんだけど、その人が用意してくれるハズだったMSが、とある事情で駄目になってね。
 代わりのMSとして自分の機体を奪う事になってしまったんだ」
 ヴェイアは自分が、なぜMSを奪って脱走した訳を申し訳なさそうにイライジャに説明する。
「しかし、良く決心が付いたな。英雄とまで呼ばれた地位を捨ててまでその依頼人の為に働くなんて、普通じゃ出来ないぜ」
 イライジャが言うとヴェイアは複雑な表情を浮かべ語りだした。
「僕は、英雄という名を誇らしいと思った事はないんだ。いや、むしろ嫌悪してすらいるんだ。
 敵を倒し続け、その返り血を浴び続ける生き方に疲れ果て、深い闇に沈みそうになっていた僕を救ってくれたのがその人なんだ。その人のお陰で僕は、僕自身としての生き方を選べるようになったんだ。
 だから、その人の為に成るのだったら僕は、どんな事でもするよ」
 ヴェイアは淀みなく答える。その瞳は透き通っており、一切の迷いも躊躇も感じさせない。
「けどザフトに追われる者となれば、一生追っ手の影に怯える事になる。それでいいのか?」
「僕がこのコロニーで木星まで逃げた事にすれば、誰も追おうとしないはずさ」
「その後はどうする?表の社会から抹殺された人間にロクな生活が出来ると思えないが……」
「実はその人もとで手伝いをする事になってるんだ」
「随分、親切な依頼人だな……信用できるのか?」
 話が上手すぎるのでイライジャはヴェイアが騙されているのではと心配になって訊ねる。
「君だって僕の話を信じてるじゃないか。僕は信じてるんだ僕を救ってくれたアノ人を……そしてアノ人が作る戦争の無い世界を」
 ヴェイアの言葉は淀みがなく、強い信念を持つ者だけに許される力が宿っていた。
「分かったよ。君の言葉を全部、信用した訳じゃないが、オレは見届ける事にする。君をどうするかは、その後だ」
「ありがとう、君のような人間が追っ手として来るなんて、僕は何て幸運なんだ」
 そしてイライジャはヴェイアと同じ時を過ごし、ヴェイアの言葉に嘘がないと確信し、二人で戦う理由、自分自身の生い立ちなど、いろいろな事を語り合った。
 そんな日々を過ごす内にイライジャは、自分の任務を果たせなくなってしまったのだ。
 そしてイライジャは今、自分が傭兵として正しいのかどうか迷ってる。その答えを出す時が間近に迫っていると知らずに……

「大変だ、連合の艦隊がコッチに向かってる!」
 ついに連合がこのコロニーを見つけ大部隊を派遣してきたのだ。
 イライジャがヴェイアのもとへ駆け込むと、ヴェイアは真剣な面持ちで答えた
「ついに来るべく時が来たか……彼がいないのが心もとないが、僕だけでやるしかない」
「しかし、あの数を相手になんて無謀だ」
 いくら英雄と呼ばれたヴェイアでもコロニーを守りながら連合の大部隊と戦うのは無謀だとイライジャは思った。
「いや、仲間が一人来る手筈になってるんだ。彼が来るまで持たせれば……何とかなる」
「一人!?腕は確かなのか」
「確かだよ……何せ僕を倒した事があるからね」
「そりゃあ心強いが、居ないのなら意味がない。よし俺も出る」
 イライジャはヴェイアに自分も出撃すると伝えた。
「イライジャ、君の行為は嬉しいが無関係な君を巻き込むわけには…」
「もしも君が地球軍の捕虜になってしまえば、俺の傭兵としての信用は地に落ちることになる……
 俺は俺自身の為に戦う。それだけさ、気にする必要はない」
「ありがとう。イライジャ」
 ヴェイアが満面の笑みで答えると二人は格納庫の方へ走りだした。走りながらヴェイアはヘッドホンを耳につける
「こんな時でもラクス・クラインの歌を聞くのか?本当に好きなんだな彼女が」
 共に格納庫へ向かいながらイライジャが茶化す。彼はヴェイアが密かに彼女の写真を隠し持っている事を知っていた。
 ザフトの兵士で彼女のファンは珍しい事ではないが、ヴェイアが彼女に抱いているのは、もっと特別な感情だった。

「君もザフトを抜けなければ、彼女とお近づきになる機会もあっただろうに」
 イライジャが言うとヴェイアが笑いながら否定する。
「無理だよ、彼女にフィアンセがいる事は知ってるだろう?」
 二人は格納庫の扉を潜り抜け、それぞれの機体へと向かう。
「でも、ソイツが流れ弾にでも当ってくれれば、君にもチャンスは出来る」
 イライジャが自分の機体に乗り込みながら言う。
「彼は強いよ……それに僕は彼女が悲しむ顔は、絶対に見たくないんだ」
 ヴェイアが機体を起動させながら答えると、イライジャは肩をすくめた。
「君ほど彼女を思う人間はいないよ……よし準備完了!じゃあ行こうか」
 イライジャが頭部にバスターソードを取り付けた青いジンを起動させヴェイアのジンに呼びかける。
「ああ、行こう」
 両肩に改造を施された赤いジンを既に起動させていたヴェイアが答える。
「イライジャ・キール出るぞ」
「グウト・ヴェイア、いきます」
 青と赤、二機のジンが連合の先発艦隊に向かっていく。
 先発艦隊は二人のジンに気づくとMAを展開する。
「NJを散布されたら旅立つ事が出来なくなる……絶対に、これ以上コロニーに近づけさせないで、かつ出来るだけ早く全滅させるんだ」
「分かった。……そこだ!」
 イライジャは、早くも一機目のMAを撃墜させると二機目、三機目のMAに向かっていく。
 一方ヴェイアは密集した敵の真ん中に飛び込み、同士討ちを誘いながら次々とMAを撃墜していく
「流石、英雄と呼ばれるだけはあるな」
 イライジャはヴェイアの戦いぶりを見て感心した様に呟く。しかし、ヴェイアが今、本当に戦っているのは自分自身である事をイライジャ知らなかった。

(ホラ、左だ、左。まったく見てられないな)
「黙れ!」
 頭に響く声にヴェイアがMAを撃墜しながら答える。
(早くオレ様に代わるんだな。そうすれば、あのバケモノを待つ事も、あの青二才に頼る必要もなくなる。連合の連中は全員、オレが血祭りに上げてやるよ)
「君によって多くの無益な血が流れるのを黙って見るわけにはいかない」
(随分な言い草だな。あのクソ共に廃棄されかけた時、誰が居たからこうして生きてると思ってる!
 身寄りも学歴も無くプラントで乞食同然の暮らしをしていたオレ達が、誰のお陰で英雄とまで呼ばれる様になったと思ってる!)
「君には感謝している……だけど僕は、もう君なんかを必要としない!僕の行くべき道は彼女が示してくれる」
(何を言ってやがる、あの女に利用されてるのが解らないのか!)
「違う!彼女は僕を利用なんて…」
(あの女にとってオレ達は鉄砲玉さ、あの女は自分の我侭を実現する為にオレ達の力だけを欲してるのさ)
「違う!彼女を侮辱するなら許さないぞ!!」
 ヴェイアがコクピットの中で叫ぶ。
(クッククそう熱くなるなよ。それによそ見をしていると……)
「!!」
 声に気を取られていたヴェイアに戦艦から発射されたミサイルが迫る。避けきれないと悟ったヴェイアはシールドでガードするが凄まじい衝撃が彼を襲う。
 その直後、彼の頭の中に響いていた音楽がブッツリと途切れ代わりに不愉快なノイズが流れる。
「ハッ!し、しまった!!」
 衝撃でヴェイアのヘッドホンが壊れたのだ、声は嬉しそうに不気味な笑いを上げる
(ひゃひゃひゃひゃ、オレはツイてるぜ!お前はオネンネしてな。目覚めた時には全てが終わってるぜ!全てがな……)
(やめろ、やめてくれ)
 ヴェイアは、何とか自分が声の主に乗っ取られるのを逃れようとするが、今まで声の主を封じていた彼女の歌はもう聞こえない。
 ヴェイアの抵抗も空しく、彼の意識はどんどん遠ざかって行く。
(もう……だめだ。彼女の声が……聞こえ……ない…………アイツが……目覚める……逃げ……るん……だ………………イライジャ……)
 ヴェイアは暗闇の中に沈み行く意識の中、イライジャに逃げるよう呼びかけるがその言葉は決して届く事は無かった。

「ひゃははははあああ!やった!危うくアノ歌のせいでどうにかなるところだったぜ」
 目覚めたヴェイアは、久しぶりに体を自由に動かせる事に歓喜し、コクピットの中でその感触を確かめる。
「ヴェイア、大丈夫か!おい!」
 ヴェイアは必死に呼びかけるイライジャの声を鬱陶しいと感じながら答える。
「ああ、大丈夫だ」
「そうか、良かった。さっさと残りも片付けようぜ」
 青いジンが敵に向かっていく後ろ姿を眺めつつ、ヴェイアが唇をペロリと舐める。
「そうだな、ゴミはさっさと片付けようか!」
 ヴェイアは、フルスロットルまで操縦桿を押し出す。限界までスラスターを噴きながらヴェイアのジンはあっさりとイライジャのジンを追い抜く
「おい、先行するな!」
 イライジャの助言を無視しつつ、イライジャは猛スピードで敵の密集した場所へ突っ込む。目の前の敵を右腕のマシンガンで蜂の巣にし、擦れ違う敵は左手に持った重斬刀で真っ二つにする。
 加速Gに揺さぶられながらヴェイアの顔には笑みが広がる。
「コレだよ!コレ!さあ、もっと楽しませてくれよ!!!!」
 全てが加速する世界の中でヴェイアは、ただ久しぶりの破壊を楽しんだ。
「見ろよ、コレがオレ達の力だ!オレ達の力は人を殺す為のモノなんだよ!!」
 ヴェイアは心の奥底で眠るもう一人の自分に呼びかけるが、彼は決して答えはしない。
 やがて、この近くで動く物体はヴェイアのジンとイライジャのジンだけになった。

「凄かったぜ!流石、英雄だな」
 目を輝やかせて言うイライジャにヴェイアは静かに答えた。
「まだ安心するのは早い。敵はまだいる」
「そうだな、連合の本隊がもう直ぐ来るだろうからな」
「いいや、違うよ敵は……目の前だ」
 ヴェイアのジンは突如、イライジャのジンに発砲する。
「どういうつもりなんだ!ヴェイア!!」
「馴れ馴れしく呼び捨てにするなよ雑魚が!お前のような落ちこぼれが英雄様に気安く話しかけるな!」
「ど、どうしたんだよ、一体……!!お前は誰だ!!」
モニターに映るヴェイアの顔は、普段の穏やか顔と違い狂気に満ち溢れている。
「ヴェイアだよ。ただしお前とお友達だったヴェイアじゃないがな」
「どういう事だ!」
「う〜ん、ゴミ掃除を手伝ってくれたお前には説明してやってもいいが、生憎、オレはあのバケモノが来る前に退散しないといけないから時間がない。
 天国で考えるんだな」
 ヴェイアが再びマシンガンを構える
「止めろ!!」
「ひゃあはははっははっはは、死ね――――――!!!」
 ヴェイアは不気味な笑いを挙げながら引き金を引くが、それと同時にヴェイアのジンのマシンガンが吹き飛ぶ。
「何だ!」
 何が起こったのか解らないイライジャが目を白黒させる。
「チィ!!もう来たのかバケモノめ!!!」
 ヴェイアが瞳を怒りに燃えさせ太陽を背にしたMSを睨みつける。
 絶体絶命のピンチのイライジャを救ったのは、一機のシグーだった。蒼く塗られたスラスターユニットを広げ、マシンガンを構えながらシグーのパイロットがヴェイアに呼びかける。
「もう止めるんだ!こんな事は!」