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Canard-meet-kagari_第33話

Last-modified: 2007-11-10 (土) 21:35:37

第33話

 カガリを抱えたアスランは痛む脇腹を押さえつつ、イージスに飛び乗ると逆噴射をかけ機体をアークエンジェルから離れる。
 アスランは直ぐにバッテリー残量をチェックする。
「これでは戻るだけしか……」
 PS装甲を展開し続けていたせいか、バッテリーが大幅に減っている。引き時だと判断したアスランはアークエンジェルに通信をいれる。
「こちらはクルーゼ隊所属のアスラン・ザラだ。
 アークエンジェルに対しラクス・クライン嬢の引渡しを要求する。
 この要求が受けいられない場合、人質の安全は保障しない」
 アスランは気絶したカガリの頭を掴み、顔がアークエンジェルのクルーに良く見えるようにする。
「カガリさん!!」
 マリューの切迫した声を上げる。
 不運にもその声はアスランの要求と合わせて、ザフト兵の進入を知らせる為に開きっぱなしだった
 艦内通信によって艦内中に伝わる事となった。
「良い返答を期待する」
 アスランは一方的に通信を切り、ヴェサリウスへと帰還していった。

「それで君はこの少女を人質に取ったという訳か」
 クルーゼの言葉に、医師により包帯を巻かれているアスランは申し訳なさそうに小さく
「すみません」と答えた。
「別に責めている訳ではないよ」
 クルーゼは口ではそう言ってるが内心穏やかではない。
 ラクスが早期に返還されれば、カナードを引き入れる事が出来なくなってしまうのだ。
(それまでにラクス嬢が洗の……もとい説得してくれれば良いのだが)
と淡い期待を抱きながら、クルーゼはスキャンされているカガリを見ながら憎悪の視線を、仮面の奥から向ける。
「この少女の事が気になりますか?」
 クルーゼの視線に気づいた船医がクルーゼに尋ねる。
「少しな……」
「何者なんでしょう?ナチュラルのようですし、ウイルスなどのキャリアではないようですし……」
 船医が検査結果を報告すると、アスランが口を開く
「自分はこの少女がストライクのパイロット、カナード・パルスと何らかの繋がりがあると思えるのですが……」
「まあ、目覚めたら話を聞く必要がありそうだな」
(見れば見るほど、アノ女にソックリだな)
「彼」以上に、クルーゼの憎悪する人物の一人の面影を持つカガリ
 クルーゼには、カガリが何者であるか既に見当は付いていた。
(しかしアスランがこの少女を連れてくるとは……)
「茨の森に眠れるお姫様を助けに行ったはずの王子様が、白雪姫を連れて帰ったらハッピーエンドになるのかな?」
「ハァ?」
「気にするな。引き続き頼む」
 クルーゼはそう言い残し、部屋を出る。
 彼には、まだアスランがストライクを倒した瞬間に完全覚醒を果たしたという大きな問題が残っているのだ。

「こちらメビウス、ストライクの左腕を回収、これより帰等します」
 トールの乗ったメビウスがモントゴメリの残骸が散らばる宙域の中で、イージスによって引き千切られたストライクの左腕を回収し終える。
「わかった」
「それと……やっぱりモントゴメリの生存者は発見できません」
「そうか……」
 ナタルは暗い顔で先行き不安な今後の事に思いを巡らしているとドアが開き、ジョージが現れる。
「うん?艦長はいないのかね?」
「はい、艦長はストライクの修理の方に……」
 カガリを人質に取られ、今後の対応を議論した時に、マリューはカガリを助ける為にラクスを差し出すべきと主張したのだが、ナタルはストライクが動けない今はラクスの存在だけが、アークエンジェルを守る唯一のものだと主張、両者は真っ向から対立し最終的には、ゼロとストライクの修理を完了させ、防衛手段を整えた上でザフトと交渉するということで結論が付いた。
 そしてマリューは一刻も早く修理を終わらせる為、人手の足りない整備班へ自ら出て行ったのだった。
「そうか。それでやっぱり生存者は……」
「残念ながら……」
「まったく、一緒に飲む酒を楽しみにしてたのにな」
 心底残念そうにジョージは酒ビンを取り出すとモニターの中のモントゴメリに掲げ、自分の艦と運命を共にしたコープマンを弔う。
 事情を知ってるナタルは、ブリッチに酒を持ち込むという本来なら注意するこの行為をあえて何も言わなかった。
「艦長に何か御用ですか?もしよろしければ私がお聞きしますが……」
「なに。MSが壊れて困っているようだから私の呼んだ助っ人の事を話しておこうかなと思ってね」
「助っ人ですか?」
「ああ、凄腕の傭兵だよ。MSも操縦できる」
 気楽に言うジョージの言葉と裏腹にナタルの顔は厳しい。
 いくら凄腕だとしても所詮は傭兵、ザフト崩れがジンに乗ってくるのが関の山だ。

 そんなのでは、あのイージスには勝てるわけが無い。だが、いないよりはマシだ
「で、その助っ人はいつ来るのです?」
「いや来る前に呼んだのだが、先約があるらしくてね……今の仕事が片付いたら来るとは言ってたが
 直ぐには難しいだろうな」
「そうですか……」
 ナタルは落胆するが直ぐにミリアリアからの報告が入る。
「MSデッキから通信が入ってます」
「直ぐに繋げ」
 ナタルが言うと直ぐに作業服に身を包んだマリューが画面に映る。
「バジルール中尉、良いニュースよ。ストライクとゼロの修理の目処がついたわ」
「本当ですか」
「二機とも動かせるくらいなら今日中、ストライクの修理が完全に完了するのは三日後よ」
「なら後はカナード・パルスの回復を待つだけですね」
 カナードが回復すれば、もうラクスを囲う必要はなくなり、ラクスと引き換えにカガリを助ける事が出来るのだ。
「そうね。私達も全力で修理を急ぐから、貴女もこの艦を任せたわ」
「了解です」
 ナタルが敬礼をして、通信が終わるとジョージが笑顔で言う
「良かったじゃないか」
「ええ。しかし肝心なパイロットが……」
「例のコーディネイターの傭兵か」
「はい、医師の診断では何時目覚めるか分からないと……」
 ザフト兵に受けた延髄への強打に加え、カナードはイージスの攻撃によって肉体にかなりの深手を負い、今も眠り続けているのだ。
「まあ問題が一つ片付いたんだ。我々は出来る事をしよう」
 ジョージの言葉にナタルも気を取り直す、今がガンバリ所なのだ。
 捕虜になったシモンズ、修理中のストライクとゼロ、倒れたカナード、最強を誇っていたストライクを倒したイージスと問題は山積みだ。しかし、嘆いてばかりでは事態は好転しないのだ。
「はい、そうですね」
 ナタルが微笑みながら言うと、バタバタと数人の足音がし、数人の男女がブリッチに押し寄せる。
 ナタルの頭を悩ませる問題がまた一つ生まれようとしていた。

「オーライ!オーライ!!ストップ!!」
 クレーンが回収したばかりのストライクを吊り上げ、マードックは千切れた部分を見ると渋い顔で指示を出す。
「軍曹、どんな感じ?」
「どうもこうもありませんぜ。やっぱり使えるのは肘から先、二の腕はグチャグチャに潰れてて予備パーツから組上げるしかありませんぜ」
「そう。ひょっとしたらと思ったんだけどね……」
 ストライクの損傷を見て左腕にもかなりのダメージがあるとは覚悟していた。
 それでもマードックに聞いたのは、一刻でも早くストライクが蘇ってほしいという淡い期待があったからだ。
「まあ左腕を一から作り直すより楽なんですけどね。学生達も手伝ってくれますし」
 マードックがそう言ってると左腕を弄ってたカズィがマードックに聞く。
「アレ?マードック軍曹、これってどうやってバラせばいいんです?」
「それくらい分かるだろ!そんなんだから一人だけ彼女が出来ないんだぞ!」
 マードックの怒声が格納庫に響きわたると、マリューの通信機にナタルからの通信が入る。
「何かあったの?」
「非常事態です。私だけではとても……フラガ大尉と一緒に至急ブリッチへ」
 ナタルの切迫した声に只事ではないと察したマリューは、ゼロの調整をしていたムウを呼び、ブリッチに急いだ。

「何かあったのかな」
 サイが作業の手を休めマリュー達の様子をみていると、ドリンクを片手にトールがやって来る。
「ご苦労さん」
「ああ……」
 トールにいつもの元気がない事をサイが不審に思ってると、トールが口を開く。
「直したって勝てるのかな……ホントに」
「え?」
「あの戦艦もMAもみんなイージス一機で倒したんだぜ。それにザフトには、まだ三機もガンダムがいる」
 トール、いやアークエンジェル全ての乗組員にとってストライクは絶対無敵の存在だったのだ。
 それがイージスの前に敗れた事により、皆ザフトの追撃から逃げ切れるのか不安になってきているのだ。
 しかもトールの場合は間近で壊滅したモントゴメリを見てきたのだから、その反応は顕著だ。
「たぶんアノ人はストライクが直ってなくても戦いに行くと思う
 だからオレ達はオレ達に出来る事をして、アノ人が少しでも楽にイージスに勝てるようにしようよ」
「……サイって変わったな」
「人間そう簡単に変われたら苦労はしないよ」
「そうかな?MAで出撃なんて前のサイからは想像できないって」
「あの時は夢中だったから」
「どっちにしろ俺には無理だな。あんなになるのはゴメンだもんね」
 トールが身震いしながら言ってるとマードックの怒声が飛ぶ
「何やってんだ!そんな事じゃ何時までたっても終わらねえぞ!!」
「「ウィース!!」」

 フレイ、そっちは準備できた?」
「バッチリよ!みんなお腹減ってるわよ。急いで持ってかないと」
 フレイとミリアリアは、格納庫でストライクの修理に励んでいるサイ達を始めとする整備班の人たちの為の食事をカートに詰め込んでいく。
 最後の一個を積み込もうとした所でフレイの手が止まる。
「どうしたの?」
 ミリアリアが不審に思って声をかけると、フレイは沈んだ顔で言った。
「もしもあの娘がいたら、真っ先に持ってくんだろうな……って考えちゃって」
「フレイ……大丈夫よ!カガリさんの事だもん、きっと元気にしてるわ」
「だといいんだけど……」
 その時になってフレイは固まる、食堂の入り口に居る筈の無い人物の姿を見たからだ。
「あの……医務室はどちらでしょうか?」
 穏やかな声色でラクスが訊ねると、フレイは唖然としてラクスを指差す。
「アンタ何で……」
「先程の戦闘でカナード様が怪我をなされたというのでお見舞いに……」
 ラクスの見当違いな答えに、固まってるフレイに変わってミリアリアが言う。
「そうじゃなくて、フレイは何で貴女がここに居るのかって聞いてるのよ。
 部屋には鍵が掛ってたハズでしょ」
「ああ。お部屋の鍵でしたらこの子が開けてしまって……」
「ハローハロー!」
 ミリアリアの質問に、ラクスは足元のハロを見ながら答える。
「それで医務室はどちらですの?
 カナード様にこれ以上戦わないようお願いしませんと……」
「何がお願いよ!ふざけないで!!カガリがさらわれたのよ!!
 早く助けに行かないと……酷い事だってされてるかもしれないのに良くそんな事がいえるわね!!」
「大丈夫です。ラウ・ル・クルーゼは紳士な方です。
 民間人に手荒な真似はいたしません」

「信用できるもんですか!ザフトは数万人のコーディネイターが殺された仕返しに、
 何億人の地球に住む人を殺したのよ!!」
「あの時のプラントは、ジョージグレン暗殺、理事国に課せられた過酷なノルマ、
 ブルーコスモスによる評議会議員暗殺マンデルブロー号事件などの今まで連合側がしてきた数々の暴挙に対する怒りが爆発し、NJの投下をしなければ、今頃地球は核の炎に包めれていた事でしょう」
「被害者ぶらないで!アンタ達は買った才能で好き放題やって宇宙に追い出されてたんでしょう!?
 そしてその腹いせにS2型インフルエンザを作ったりして……あんた達は嫌われても仕方のない事をしてきたのよ!!自分達のした事を棚に上げないでよ!!」
「S2型インフルエンザが大流行した時に、我々はそれまでの軋轢抑え、同じ人類の為と思い懸命にワクチンを開発しました。貴女はそれなのに私達コーディネイターをバイオテロ犯だというのですか!?」 
 ラクスの問いかけにフレイの言葉が詰まる。 
 おそらく今まで、コーディネイターがS2型インフルエンザをばら撒いたというブルーコスモス側の主張をそのまま信じてきたのだろう
 ラクスは、それを見て少し悲しくなった。
 コーディネイターとナチュラル、双方の対立を煽り、その影で私腹を肥やそうとする者達。
 彼等は自分達のしている事を本当に分かっているのだろうか?
(だからこそ、変えなければいけない……この世界を)
 このまま両者が憎み戦い続ければ、この世界は彼等の思惑を越え、憎しみの連鎖に囚われた人々は互いに滅ぼしあい、世界はラクスの見る夢と同じく破滅に向かうしかない。
 ラクスはそんな未来を作り変える為に、仲間を集め、この世界の垣根を壊しナチュラルもコディネイターも人々の欲望によって生まれた悲しい人たちも、みんなが手を取り合う世界に変えようとしているのだ。
 決意を新たにしたラクスはそして再びフレイに向き直る。
「私達は本当は戦いたくない、ただコーディネイターが穏やかに暮らせる場所を求めてしかたがなく戦っている……この艦の人たちと思いは同じです。
 フレイさんと言いましたか?貴女が親しい人を大切に思ってるのは分かります。
 カガリさんの事は私に任せてくれませんか?
 彼女を救うためにはカナード様の協力が必要なのです。ですから彼の居場所を教えてくれませんか?
 決して悪いようにはいたしません」
 カナードを説得し、彼を仲間に加えてストライクと共にヴェサリウスに向かい、クルーゼと合流してカガリを解放する。
 それがラクスの計画だった。
 フレイ達はラクスのオーラに圧倒され、答えに困っていると廊下からバタバタと足音がし
 数名の男女が食堂に入ってくる。
「これは連合の人たちの食事だね」
 フレイにも見覚えがある男女の内の一人が、彼女達に尋ねる。
「そうだけど……」
 恐る恐るフレイが言うと、男は仲間と頷き合う。
「お嬢さん達には悪いけど、ちょっと預からせてもらうよ」
「へ?」
 フレイの間抜けた声が食堂に木霊した。

「兎に角、落ち着いてください」
 ジョージが悲痛に叫ぶが目の前の男女は、そんな言葉を聞いていられない
「そんな事言ったって、カガリちゃんがさらわれたんだぞ!!
 落ち着いてなんかいられるか!!」
 老人が言うと、仲間内から「そうだ!そうだ!!」と野次が飛ぶ。
「ちょっとすみません!通して!!」
 ブリッチの入り口を塞いでる男女を掻き分けてマリューがブリッチに入って来る。
「艦長!お待ちしてました!!」
 地獄に仏とばかりにナタルが顔を輝かせて言う。
「バジルール中尉、これは一体どういう事なの?」
「それが、その……」
 ナタルが言葉に詰まると男女の中から一人の老人、あのカガリとエルに昔話を聞かせた老人が前へ出る。
「ワシ等は、すぐにカガリちゃんをザフトから取り戻すよう、アンタ達に直訴しに来たんじゃ
 ザフトの目的はプラントのお姫様なんじゃろう?だったら……」
「お気持ちは良く分かりますがね。人質を帰した後にザフトが攻撃に出られたら今の我々の戦力ではどうにもならない。
 そうなったら皆さんの命まで危なくなるんですよ」
 ムウが穏やかに説明するが老人の言葉から出たのは驚くべき言葉だった。 

「だったら投降すればいいじゃろ」
「なっ!!」
「もうワシ等オーブの人間をアンタ達、地球連合とザフトのいざこざに巻き込まんでくれ」
「おっしゃる通りです。ヘリオポリスを崩壊させ、あなた方を巻き込んだ事は、大変申し訳なく思っております。
 しかし、今は我々を信じてもらえませんか」
 ジョージが説得するが、避難民の態度は変わらない
「それが信用できんから、こうして来たんじゃろうが。
 悪いが食料庫と食堂を仲間内で占拠させてもらった」
「何ですって!アナタ方は自分達がしている事が分かっているのですか!?」
「どう思ってもらってもかまわん
 あの娘は、今まで本当にワシ等に良くしてくれた。
 だから今度はワシ等がカガリちゃんを助ける番なんじゃ
 そうじゃろうみんな」
「そうだ!あの娘は前にオレ達にロールキャベツを作って食わしてくれた」
「ヘリオポリスで別れた息子夫婦を無事だって励ましてくれんじゃ!」
「子供が風邪を引いた時は艦内中を探し回って電気毛布を見つけてきてくれたわ」
 避難民が口々にカガリが自分達にしてくれた事を叫ぶ。
 彼等にあるのは避難生活で自分達を支えてくれたカガリに対する感謝の気持ちだけだった。
「アナタ方のお気持ちは良く分かりました。ですから今は我々に考える時間をください」
 悲痛にマリューが言うと、避難民達はとりあえずは引く事になった。
「いいじゃろうだが、アンタ達がカガリちゃんを取り戻さない限り、
食料は米粒一つとして手に入らんと思ってくれ」
 避難民達が出て行くとマリューがポツリと漏らした
「どうしたらいいのよ……」
 避難民達の不満が爆発し風雲急を告げるアークエンジェル、そんな艦内の一室で目覚めた男がいた。
「待て!この凸!!」