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Char-Seed_1_第06話

Last-modified: 2007-11-10 (土) 19:27:20

MSデッキの一角
――その大半を占める有機的な雑踏から孤立するような電子音が響いていた。

「トール君とキラ君には素質が有りそうだな」

各自が叩き出したデータ表を捲りながら、シャアは小さく呟いた。

「僕たちもMSに乗れってことですか……?」

既にシュミレーションを終え、コンテナに腰を降ろしていたキラは、
シャアに対する不信めいた視線を向けた。

「そうは言わん。ただ、私にも何が起こるか分からんからな。
……まあ、保険のようなものだと思ってくれ」

紳士的な言葉の一方、内心では偽りも甚だしいとシャアは自らの薄汚れた恥部に唾を吐いた。

――ストライクと捕獲したジンを遊ばせておく道理はなく、
このシュミレーションは、シャアが彼等を戦力として期待している表れなのだ。
それにもかかわらず、小綺麗な言葉で本意を隠すのは大人の、軍人の常套手段に他ならない――

「(私はあこぎなことをしている……)」

遅かれ早かれ、彼等はいつか志願するだろう。
なぜなら、MSとは麻薬なのだ。
自分の手足のように扱えた時の充足感、
高尚な詰め将棋を解いたような愉悦、
そして敵を撃破したときの爽快感。
これらに味をしめ、何時までも前線に止まり続ける者もいる。
そして、シュミレーションといえども断片くらいは味わうことが出来るのだ。

――もっとも、さらに悪質なのは、正義感、愛国心、家族愛という『美しい』ものによって、
MSが内包するおどろおどろしいものに対して盲目的になってしまう点であるが――

今回、MSの中毒性に依ったシャアはまさに俗物であり、
それは彼が最も嫌うものでもあった。

――歓声が上がった

今、シュミレーションを行っているトールが、プログラムが作り上げた敵を落としたのだ。

「許されることでは無いな……」

シャアは視線を落とし、自嘲気味になった。

「少佐、どういうことです!?」

振り返ると、そこにはマリューがいた。
語勢を強めて問いつめるその姿から、
学生たちにシュミレーションを施していることに憤りを感じているのは、容易に想像出来た。
当事者である学生たちは、未だモニターに熱中していた。

「彼等には技術的なサポートをお願いした筈です!
決して戦力的なものでは有りません!」
「無論、強制などするつもりはない」
「それは方便です!」

マリューもMSの魔力を知っていた。
それ故、このように強い反発をしているのだった。

「だが、綺麗事を言っている状況では無い。
それは君もよく知っている筈だ」

実質的戦力がシャアとムウしか居ない状況
――両名とも名を馳せたエースに相違ないが、所詮、人間なのだ。
どう足掻こうが、数の暴力には勝てる筈がないと、マリューも理屈では分かっていた。
しかし、感情は許し難かった。
艦の手伝いに志願するだけでも、彼等は十分に貢献している。
その上、死地にまで一人で行けとは誰が言えようか。

「彼等の手を借りずとも済むよう、私も努力するつもりだ。
早速だが、デュエルの設定を変えて欲しい」

論議のすり変えに他ならないが、シャアはマリューにデュエルの調整を依頼した。
マリューも、この言葉を捨て置いてまで、詰問し続けることは出来なかった。

「……了解しました。
どのように?」
「機動力を三割増しにして欲しい」
「ええっ!?」

無茶も甚だしい依頼に、マリューは耳を疑った。
新技術も無く、何かのスペックを三割も上げることは、
違う何かがツケを支払わなければならないのは明確だ。

「スペックでは、あと三割ほど機動力を上げることが出来ると踏んだのだが?」
「無茶です!
確かに、リミッター類を全て外して、フェイズシフトの電圧も極力下げれば可能ですが、
装甲性能の低下とパイロットへの負担が著しくなってしまいます!」
「当たらなければ装甲など重りに過ぎない。
……それに私は『赤い彗星』だ。こなして見せるさ」

赤い彗星の通り名には、マリューは、いや、技術屋はほとほと弱かった。
性能を発揮することが本分の技術屋にとって、これ以上の殺し文句は存在しない。

「どうなっても知りませんよ!

マードック軍曹!デュエルのOSを変えるから、手伝って!」

シャアを一瞥し、マリューはデュエルへと足を運んだ。

「(私も……人の事は言えない……)」

シャアもエースの名に恥じない働きをしている。
それにも関わらず、艦のために無茶をしようとしているシャアを止めずにいるのは、
学生達をMSに引き込んだシャアと一緒ではないかとマリューは思った。