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Char-Seed_1_第07話

Last-modified: 2007-11-10 (土) 19:27:34

『奪取した機体を投入するなんて、隊長もヤキが回ったんじゃないか?』

貴族のように整えられた銀髪を棚引かせながら、イザーク・ジュールはラウの悪態を突いた。
歩行プログラムを作動させ、デュエルをカタパルトに接続しようとしていた時だった。

『運用する自信があるって奴?』

イザークに続くように皮肉を漏らしたのは、浅黒い肌と金髪が特徴的なディアッカ・エルスマン。
彼は鹵獲機体を持ち帰らずに実戦投入する愚かさを指摘しているのだ。

『二人とも!!』

二人を諫めたのは翡翆を思わせる髪と軍には似つかわしく無い中性的な面立ちをしたニコル・アマルフィだった。

『ニコル、構わんよ』

突如としてモニターに広がる仮面の男――
批判に晒されている張本人である。

『『た、隊長!』』
『陰口は聞こえんように話して貰いたいものだ』

よもや本人が聞いているとは思わず、先程まで辣言を吐いていた二人は恐縮した。
しかし、ラウは苛立った風でも無く、至極、冷静沈着であった。

『もっとも、シグーを損傷させられ出ることも叶わん私が、君らに非難されるのも無理はないがな。
しかし、これだけは言わせて貰おうか。

舐めてかかるな。

以上だ』

只、それだけを言い残しラウは回線を切断した。
それを皮切りに、次々とカタパルトから撃ち出される機体群――

『一体……どんな相手なんだ?』

残る一機、イージスに乗り込んだアスランは、恐れと疑問が入り混じった感情に支配されていた。

『イージス、発進どうぞ!』
『りょ、了解!』

射出口付近で蛍光灯を回して、発進を促すクルーに、アスランは我に返った。

『アスラン・ザラ、イージス、出る!』

胃を締め付けるようなGと共に、甲殻類を思わせるような赤い機体が深淵な暗黒空間に躍り出た。
アスランは考えるのを止め、操縦に没頭し始めた。

==========

悪い予感が的中、否、それ以上の状況にシャアは慨嘆しながらアークエンジェルを出た。

「Xナンバーを投入するとは……!」

Xナンバーとは、連合が開発したMSの型番――つまり、強奪された機体のことである。
優秀にも程があると、ある種、辟易にも似た感情がシャアを襲った。
しかし、やらねばならない。ムウのメビウスは修理中、アークエンジェルも出立する準備が完全ではない。
つまり、シャアが戦線を押し上げなければ、アークエンジェルは窮地に立たされるのだ。

『お手並拝見ってね!』

バスターから発せられた山吹色の砲撃――最小限の機動でかわす赤いデュエル。

『かわした!?』
「反応がいい。癖も無い。流石、ラミアス大慰だ」

突貫作業で設定を変えたにも関わらず、打てば響くが如くに仕上げたマリューに対して感服したシャアであった。

『落ちろぉぉ!!』

同型機――イザークのデュエルがサーベルを両の腕に携え、格闘戦を仕掛けてきた。

『うわぁぁぁ!』

しかし、振り上げられた太刀が下ろされるより早く、赤いデュエルの足先がコックピットに突き刺さったのだ。

『イザーク!』

イザークを援護すべく放たれた、イージス、ブリッツ、バスターの十字放火がシャアを襲った。

「ちぃ!」

降り注ぐ光の雨に、シャアはシールドを遮蔽物にして、やりすごすしか無かった。

『イザーク!大丈夫か!』

アスランの叫び声が響いた。

『ぐっ……!』

足蹴にされた上、鼻持ちのならない男に心配される
――これほどの屈辱があるだろうかとイザークの怒りは心頭に達した。

『こいつぅぅぅ!』

その矛先は、赤い機体に向けられた。
ライフルを乱射し、周りの射撃も相俟って、『赤い兄弟』を次第に追い詰めて行く。

「ここで退く訳にはいかん……!」

――シャアにとってこの戦場は狭すぎた。
自慢の機動もアークエンジェルの護衛のために十分に発揮されなかった。
なぜなら、物資の積み上げのために足の止まっている
アークエンジェルから迂濶に離れれば、それは格好の的と化してしまうからだ。
となると、物を言うのは火力であり、数的差が如実に表れてしまう。
そういった背景で、シャアは次第に劣勢を強いられて行くのだった――

==========

アークエンジェルのブリッジでは、ナタルが苦海を彷徨っていた。
今、アークエンジェルを動かせばシャアが戦い易くなる。
しかし、物資の搬入もままならずに戦場という海を航海することは自殺行為に近い。

「同じことか……」

ムウのメビウスは不完全、ストライク、ジンのパイロットは不在。
どのみち、シャアを失えばこの艦に未来は無い。

「アークエンジェル、発進するぞ!ノイマン!」
「了解!」
「バリアント、イーゲルシュテルン起動!コリントス装填!
発進と同時にアンチビーム爆雷発射!大切に使えよ!」

慌ただしく作業に入る面々。
発進シークエンスに入り、アークエンジェルが振動を始めた。

『バジルール艦長!物資の搬入がまだ……』

その時、マリューからの内部通信が入った。

「そんな状況では在りません!」
『補給の目処も立って無いのよ!?』

――アークエンジェルは秘密裏に製造された戦艦であり、友軍コードを所有していない。
よって、受け入れを許可が出る可能性は低く、物資は少しでも多く積んでおきたいというのがマリューの意見だった――

「なら、少佐を見殺しにしろと!?」

ナタルが激昂してマリューに詰め寄ると、マリューは閉口した。

「……俺も出る!」

CIC席に座っていたムウが、厳しい顔付きで立ち上がった。

「気は確かですか!?的になるだけです!!」

メビウスは飛ぶのがやっとという状況にも関わらず発せられたムウの無謀な発言に、ナタルは狼狽した。

「的でも結構だ!
十字放火さえ止めれば……」
「艦長として許せません!」

紛糾した状況が続く。その様子をヘリオポリスの学生達は目の当たりにしていた。

「なぁ、キラ……」
「……?」

トールがふと、小さく溢した。

「俺達……もう偽物の平和には帰れないんだな……」

その言葉に込められた意味をキラは悟った。

「……うん」

戦わなければ生き残れない。
もう戦争から目を反らすことは出来ないのだと、キラはトールの言葉の端から読み取ったのだった。