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Char-Seed_1_第09話

Last-modified: 2007-11-10 (土) 19:28:09

アークエンジェルからの信号弾を確認したシャアは、デュエルの回収を始めた敵を一瞥して帰路に付いた。
おそらく、奪取した機体の消失を回避する為の安全策を採ったのだとシャアは結論付けた。
シャアのデュエルに目を遣ると、原形を留めないシールド、四肢のあちらこちらの焦げ付きが苦戦を物語っていた。

「情けない……」

戦力、地形、状況といった全てに於いて不利な戦闘であったが、劣勢を覆すのがエースパイロットと呼ばれる人種であり、それを成し得なかった自分に対して憤りを感じずにはいられなかった。
一般人ならば自惚れ以外の何物でもないが、こと、シャア・アズナブルにはそれが許された。

「アムロには勝てんな……」

人間として嫉妬を感じる相手は、彼の他には存在しない。
――恋人も、プライドも全て奪い去っていった相手――

《……馬鹿な大佐……》

シャアを見送るかのように宇宙を漂う少女。
ノーマルスーツも身に付けずに佇む姿は異様としか言いようがない。
そして、何処か儚げなその瞳は、ぶれること無くシャアを貫いていた。
==========

アスランがMSデッキに降り立つと、医師団がきびきびと担架を運ぶ姿が目に映った。
無論、そこに横たわるのは戦闘で傷付いたイザークであり、乾き始めた血糊が痛々しかった。

「僕たち……遊ばれたんでしょうか?」

傍らにいたニコルが、仲間を傷つけられた憤怒と無念さが入り混じった声でアスランに問掛けた。

「かもな……」

通常ならば、4対1という戦力差は絶体的である。
にもかかわらず、こちらの猛攻を凌ぎ、一人を戦闘続行不可まで追いやることは容易では無い。
もし、閉鎖的なコロニーではなく、最初から宇宙空間で戦っていたらと思うと、アスランの背筋は凍り付いた。

「これから……どうすんのかねぇ?」

ディアッカも敵に恐怖を抱いているのか、気の進まぬ様子であった。

「デュエルをアサルトシュラウドで補修して、追撃を続行するそうです」

ニコルの言うアサルトシュラウドとは、ジン用に開発された追加兵装である。
勿論、規格は異なるためにメカマンたちの徹夜作業が予想された。

「やっぱり追撃すんのか……自信ねぇなぁ……っていうか、機体を持ち帰らなくていいのか?」
「データは採りましたから、使い潰していいそうです。 早急に部品類も発注されるそうなので、そちらの心配は無いですよ」
「……そっちはな」

ディアッカの言葉に、一同は閉口した。
この先、生き延びられるのかどうか――ただそれだけが気掛かりだった。
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「俺たち、パイロットに志願します!」

帰還したシャアに浴びせられた第一声である。談話室にてコーヒーをすすっていた時のことだった。

「(思ったより『早かった』な……)」

使命感、正義感、はたまた義務感。そういったもので決断したであろう彼等は、おそらく気付いていないのだろう。
――無意識下では、MSで戦場に出たがっていることを。

「分かった。私から艦長に伝えておこう」

打算の的中は本来なら高笑いすべきことだが、シャアは素直に喜ぶことなど出来るはずも無かった。
子供を戦場へ誘ったのだ。
ララァもそうだった。

「(私は……人の命を霞めて生きているのかもな……)」

関わった者は地獄に堕ちる死神――赤い彗星より、赤い死神の方が似つかわしいのではないかとシャアは自らを侮蔑した。
――死神は命を選ばない。敵であろうと、味方であろうと――

「俺たち、これからどうすればいいんです?」

トールの言葉でシャアは我に帰った。

「あ、ああ……暫くはシュミレーションを続けて欲しい」

しどろもどろにシャアは応対した。

「あの、機体はどうなるんですか?」

キラが初めて口を開いた。

「一人はストライク、白いMSに乗って貰おう。もう一人はジンということになるな。

……ん?どうしたね?」

シャアの言葉を聞いて、明らかに顔を青ざめさせた二人を、シャアはいぶかしげに見つめた。

「ああ、そういうことか。
心配は無用だ。ノーマルのジンでは戦力不足だからな。
強化案もしっかり練っている」

不安の原因をジンと見たシャアは、ジン強化の目論見を伝えると、キラとトールの気色は次第に良くなり、微笑まで生まれた。

「よかった……じゃあ、シュミレーション行って来ます!」
「あっ、待って、トール!」

足取りも軽く二人はその場を去って行った。
それとは対照的に、シャアは複雑な心境で見送っていた。

「若者には、生き延びて欲しいものだ……」

願いにも似た呟きをシャアは発した。自分を死神にしないでくれと懇願しているようでもあった。